「いつも通りの朝、いつも通りの義母からの電話だった。『今月の仕送りまだ?遅いのよ』。私は中卒だって理由で六年間、見下されても、笑って耐えてきた。毎月25万円、夫の口座から振り込んで。義妹の出産祝いを渡しに行ったら、病院の入り口で追い出された。『中卒が選んだものなんて、赤ちゃんに触れさせたくない』。その数時間後、義母から『反省してるなら仕送りを多めに振り込みなさい』って催促が来た。それで、もう…

「いつも通りの朝、いつも通りの義母からの電話だった。『今月の仕送りまだ?遅いのよ』。私は中卒だって理由で六年間、見下されても、笑って耐えてきた。毎月25万円、夫の口座から振り込んで。義妹の出産祝いを渡しに行ったら、病院の入り口で追い出された。『中卒が選んだものなんて、赤ちゃんに触れさせたくない』。その数時間後、義母から『反省してるなら仕送りを多めに振り込みなさい』って催促が来た。それで、もう...

「仕送り、今月もまだ届いてないわよ。遅いの。毎回ちゃんとしてくれない?」
電話の向こうの義母の声は、いつものように刺々しかった。
「すみません。今月は25日が土曜なので、月曜に振り込みます」
「言い訳しないの?中卒だから振り込みの仕組みも分からないんでしょ。夫の稼ぎを振り込むだけの簡単な作業くらい、さっさとやって欲しいわ」
「…分かりました」

私は、義母に初めて会った日からずっと、中卒だという理由だけで見下されてきた。稼いでいるのは私なのに、それを言えば信じてもらえない。だからずっと、夫の口座から毎月25万円を振り込んでいた。
「それじゃあ今年も。あ、正月は来なくていいから。近所に中卒の嫁がいるのがバレたくないのよ」
「…分かりました」

私は施設で育った。血の繋がった家族にずっと憧れていた。夫と結婚して、やっと家族ができたと思った。義母も、義妹のミユさんも、いつか時間をかければ私を受け入れてくれると信じていた。

数週間後、ミユさんが出産した。私は心を込めてお祝いを用意した。何度もリクエストを聞いて、おくるみを一生懸命選んだ。病院に着いて、受付で名前を書こうとしたとき、義母からLINEが来た。
「本当に来たの?出産祝いに、勝手に中卒夫婦が紛れ込んでるわ」
「お母さん、ケンタさんが招待されたんですけど」
「ケンタは家族だから入っていいわよ。でもあんたはダメ」

私は頭を下げた。
「赤ちゃんのお祝いだけでも渡させてもらえませんか?一目見たら帰りますから」
「いらないって言ってるでしょ。中卒が選んだものなんて、赤ちゃんに触れさせたくないのよ」
「…分かりました。では失礼します」
「さっさと消えろ」

病院を出て、車の中でしばらく涙が止まらなかった。

翌日、義母からまた電話が来た。
「昨日はよくもやってくれたわね。ミユに変なLINE送ったんでしょ?」
「いいえ。招待されたので伺いましたが、会わずに帰りました」
「ケンタを招待したの。あんたは呼んでないって、何度言わせるの?おかげでミユが泣いてたわよ。せっかくのお祝いを台無しにされたって」
「病室にすら入っていないんですけど」
「入ろうとしたでしょ。これだから中卒は。あんたが余計なことしなければ、昨日はミユにとって最高の日だったの。今後はうちにも来ないでちょうだい」
「実家にもですか?」
「他人はこの家から出てけ。それと、今月の仕送りまだよね。反省してるなら、少し多めに振り込みなさい。中卒のせいでこっちは大迷惑だわ」

私は友人で同じ施設出身のアイに電話した。
「産祝の場から追い出されたの。中卒夫婦は他人だって。招待しといて追い出す。何様?ミユの赤ちゃんには、汚い金を移すなって言われたわ。一生懸命選んだお祝いの品は捨てるって」
「ふざけんな。あんたがどれだけ気持ち込めて選んだか、向こうは知ってるんでしょ?」
「うん。何度も聞いてきたし、欲しいのはこれってリクエストまでしてきたのよ。それで迷惑かけたからって、仕送りを増やすよう催促の連絡までしてきたわ」
「どんだけ図々しいのよ。中卒は他人だから出ていけ。でも金はよせ。それ、人間として終わってるよ」

「ねぇ、アイ。聞いてほしいことがあるの。お母さんの生活を調べてほしいの。仕送りがどう使われてるか知りたい」
「本気?」
「本気。もう我慢しない。家族になれないなら、他人として向き合うわ」
「オッケー。そう来なくちゃ。任せなさい。私、探偵の腕の見せどころよ」

一週間後、アイが調査結果を持ってきた。
「結構やばいの出てきたわよ。まず、お母さんは近所に『亡き夫の遺産と年金で優雅に暮らしてます』って言ってるわ」
「遺産?夫のお父さんって、確か借金を残して亡くなったはずだけど」
「そう。遺産なんてゼロ。遺族年金は月8万円。つまり、あんたの仕送り25万がなければ暮らせないのよ。なのに近所では『息子夫婦が中卒同士で結婚した。恥ずかしいから付き合いはない』って言いふらしてるみたい」
「お母さんならやりそうね」

「次。仕送り25万のうち、月10万円をミユさんに横流ししてたわ。ミユさんの出産費用50万円も、全部仕送りから出てる」
「出産費用まで…」
「ミユさんは、お母さんの貯金だと思ってるのよ。お母さんが『お母さんの貯金から出してあげるわ』って言ったんだって。全部あんたの金なのにね」
「つまり、私が稼いだお金で出産して、その産祝の場から私を追い出したってこと?」
「そういうこと。一周回って笑えてきたわ」
「あともう一つ。これが一番やばいの」
「まだあるの?」
「実はね…」

私は翌日、義母に電話をかけた。
「お母さん、仕送りの件でお伝えしたいことがあります」
「何?仕送りのこと?ちゃんと振り込みなさいよ。金額を増やすっていう相談なら、受け付けるけど」
「今月から、仕送りを停止します」
「はあ?何言ってるの、あんた?」
「先日お母さんは、私たちを他人とおっしゃいましたよね。家族だけで祝うから、他人はこの家から出てけと」
「それがどうしたのよ」
「では、他人に仕送りする義務はありませんよね」
「ちょっと待ちなさい。それは話が違うでしょう。これは親子の話よ。嫁がしゃしゃり出てくるな」

「お母さんは勘違いされてますが、仕送りは私の給料から出しています。ケンタさんのお金じゃないんです」
「ケンタの口座から振り込まれてるわよ。大体、根に持ってるようだけど、出産祝いに来るなって言ったのはミユと赤ちゃんのためよ。出産直後で神経質になってるんだから、守っただけ。それの何が悪いって言うの?」
「でも、お母さんは仕送りをもらう立場ですよね。それなのに、あんな態度って」
「子供を守るとそうなるのよ。でも仕送りは生活のこと。家族としての義務でしょう」
「出産祝では他人で、仕送りでは家族の義務ですか?」
「当たり前でしょ。都合がいいとか、そういう話じゃないの。息子が母親を養うのは当然のことよ。それに、あんたの給料から出してるって嘘ばっかり。25万もあんたに出せるわけないじゃない」
「会社の経営者は私ですが」
「え?」
「ああ、以前私が経営をしていると言っても、中卒にそんなことできるわけないって信じてもらえませんでしたっけ?営業も契約も経理も、全部私がやっていますよ。仕送りはトラブル防止のため、夫の口座に毎月私が入金していました。6年間、合計1800万円ですね」
「嘘よ。中卒のあんたにそんな稼ぎがあるわけない」
「宅建もFPも独学で取りました。中卒でも勉強はできるんですよ。信じないなら、振り込み記録をお見せしましょうか。夫の口座の入金履歴は、全部残してますので」

「そんな…」
「お母さんが他人と追い出した人間が、6年間あなたの生活を支えていました。しかし私は他人ですよね。だから、仕送りをやめるんです。夫も同意見です」
「いいわ。なら離婚させる。中卒の嫁なんかと別れさせてやるわ。息子は母親の味方よ。あんたが出て行けば、息子の稼ぎは全部うちに戻ってくるんだから」

「お母さん、随分都合のいい話ですね。そんなお母さんに、夫からの伝言があります」
「何よ?」
「『母さん、前に仕送りはアイが出してるって伝えたよな。あの時信じなかっただろ。今回の件で俺も愛想が尽きた。あとは自分で生きてくれ』だそうです」
「そんな…ケンタ!」
「夫は何度も伝えようとしていました。でも、あなたは聞く耳を持たなかったんです」
「ケンタが私より嫁の味方をするっていうの?」
「離婚はしません。むしろ、母さんとは距離を置くと言っています。分かりましたか?私たちは、本当に他人になるんです」

同時刻、アイはミユさんの元を訪れていた。
「初めまして。アイの友人のアイって言います。探偵やってるものなんですけど」
「は?誰?あの中卒女の友達?」
「いや、仕事っていうか、なんというか。ちょっと質問したくて。ミユさん、お母さんからお金出してもらってますよね」
「そうだけど、母の貯金からだし。何か問題でも?」
「じゃあ、お母さん何で稼いでるか知ってる?年金とか貯金とかでしょ?遺族年金、月8万円だよね。そこから生活して、あんたに月10万円差し出して、出産費を50万も出せる?大卒なのに、計算合わないのは気になりませんか?」
「何が言いたいの?」
「お母さん、あんたに嘘ついてますよ」
「嘘って、何の話?」
「いい?お兄さんの口座から、毎月お母さんに振り込まれてるお金があるの。それがどこから来てるか、お母さんに聞いてみなよ」
「兄が母にお金送ってるなんて、聞いたことないんだけど」
「そりゃそうだよ。お母さんが隠してたんだから。あと、あんたが中卒のバカって追い出した相手が何者か、ちゃんと調べた方がいいですよ。大卒の肩書きが吹き飛ぶから」
「脅してるの?」
「事実を伝えてるだけですよ。私は探偵なんで、嘘は言わないですから。確かめるかどうかは、あんた次第ですけどね」

ミユは義母に問い詰めた。
「お母さん、これどういうこと?出産費用を、兄さんの仕送りから出してたって本当?」
「誰にそんなこと…」
「あの中卒の友達の探偵に言われたんだけど。私への毎月の援助も、全部仕送りだったの」
「あ…あれは…」
「嘘ついてたの?自分の貯金って言ってたのに」
「ミユ、落ち着きなさい。お母さんは、あんたのためにそのお金を…」
「アイさんが稼いだお金なんでしょ?私がバカって言った相手のお金で出産してたってこと?恥ずかしすぎるんだけど!」
「黙りなさい!私だって好きでこんなことしてるわけじゃないわよ。お父さんが借金を残して、遺族年金8万円で暮らせると思う?息子に頭を下げて仕送りをもらうしかなかったのよ。でも近所に『息子の仕送りで生活してます』なんて言えるわけないじゃない」

「大体、あんただってアイさんにあんな態度取ってたじゃない」
「私だってお母さんに二十年間『ブスのくせに』って言われ続けたのよ。せめて中卒の嫁より上でいたかったの。それの何が悪いのよ!」
「知らないわよ、そんなの。お母さんの見栄のために、私まで恥をかいてるじゃん!」
「大体、お母さんが『中卒は家族じゃない』って教えたから、私もそう思ってたのに」
「あんただって、中卒の兄嫁をバカにしてたでしょ。大卒大卒って偉そうに言ってるけど、就職すらできなかったくせに」
「それは!大卒って肩書きしかないって、お母さんに言われたくない。就職できなかったのは…」

「大学の成績が悪かったからでしょ?中卒の兄嫁が会社経営してて、大卒の私は就職もできない。そんなの、認めたくなかっただけよ」

二週間後、義母が突然、私に電話をかけてきた。
「アイさん、お願い。仕送りを再開して」
「どうしてですか?私は他人ですよね」
「言いすぎたわ。認めるから」
「そうやって、いきなり泣きついてきたのは、お母さんにはカードローンがあるからですよね」
「な…なんでそれを…」
「調べてもらったんです。聞いた時は驚きました。カードローンの返済は毎月引き落とされるわけですが、仕送りが止まったら払えないですよね。200万円も借りているんですから」
「でも、あれは生活のためで…」
「審査の時、収入欄に何て書きました?」
「それは…不動産収入って…」
「亡き夫の不動産収入と偽って申告した。なんでそんなことまで?」
「私の親友は、とても優秀な調査探偵なんです。ああ、ちなみに彼女も中卒ですよ。中卒に追い詰められちゃいましたね」
「こんなことって…」
「話を戻しますが、嘘の収入を書いたのなら、それは虚偽申告ですよ。銀行に知られたら、一括返済を求められますね」
「ま…待って、それだけは…」
「お母さんは中卒を馬鹿にしていましたが、その中卒のおかげで生活ができていたんです。それを、よく理解してくださいね」

同時刻、ミユは夫にすべてを話し、離婚を切り出されていた。
「アイさん、あんた、旦那に全部ばらしたわね」
「ええ、スクショを見せました。『このようにとても精神的に不安定ですので、どうぞ支えてください』と言ったまでです」
「あんたが変なこと言ったせいで、離婚を切り出されたんだけど」
「そりゃ、人を平気でバカ扱いする人と家族をやるのは難しいと思いますよ」
「援助があることもバレて…『兄嫁の金で生活してたのに追い出したのか』って呆れられて、もう口も聞いてくれない」
「ご主人さん、まともな方ですね。あとはご夫婦で話し合えば良いのでは。あなたがきちんと反省していれば、旦那さんも許すかもしれません。まあ、無理でしょうけど」

数日後、義母は今度は土下座のような勢いで電話をかけてきた。
「アイさん、お願い。助けて。ローンは一括返済を求められて、ミユは離婚しそうで、近所には嘘がバレて居場所がないの。もう何もない。あんたしか頼れる人がいないの」
「お母さん、中卒の他人に助けを求めないでください」
「それは言いすぎたって、認めてるでしょう」
「逆切れですか?実際、中卒じゃない。学歴がないのは事実でしょ」
「私が中卒だったのは、両親が二人とも病気で亡くなって、施設に行って、頑張って働いてきたからです」
「その努力があるなら、実家を敬うくらいできるんじゃない?」
「ずっと努力してきたんですよ。結婚が決まった時、お母さんに認めてもらいたくて、料理教室に通いました。中卒だからせめて家事くらい、って、毎日お弁当の練習をしていました」
「そうだったの?」
「初めてお母さんの家に行った日だって、好みが分からなかったから、ケンタさんに手土産の好みを何度も聞きました。でも、私が持って行ったものは、包みも開けずに『こんな安物』って言われましたよね。それでも諦めなかった。一度でいいから『ありがとう』って言ってもらえたら、それだけで報われると思ってましたから」
「あ…あれくらい言ったわよ」
「いえ、一度も言われませんでした。施設で育った私には家族がいなかったから、お母さんが初めてのお母さんだったんです。だから、何を言われても耐えられた。嫌われてるんじゃなくて、まだ認めてもらえてないだけだって、自分に言い聞かせてた。でも、出産祝を渡した時に分かりました。赤ちゃんのためにって選んだおくるみを、『あの女が触ったものなんかいらない』と捨てられた。あの瞬間に、全部わかったんです。お母さんは最初から、私を家族にする気なんてなかったって」

「それは…」
「6年間の仕送りも、料理教室も、贈り物も、全部意味がなかった。だから、もう終わりにします。お望み通り、他人として生きていきます」
「お願いよ!それならせめて、今回だけ。今回だけでいいから、仕送りを…」
「夫婦で話し合って決めたことです。そして、夫からの最後の伝言があります。『母さん、仕送りを再開する気はない。でも、学歴で人を見下すのをやめたら、いつか話くらいはする』そう言っていました」
「するわ!もう見下したりしないから!ごめんなさい!」
「その言葉、信じられません。だって、6年間お母さんが変わらなかったのは、見てきたので」
「アイさん…」

「さようなら、お母さん。もう、お母さんじゃありませんけど」

数日後、アイが私に言った。
「いい?今度の休みに施設に顔出さない?」
「施設?どうして?」
「今年中学を卒業する子がさ、進学せずに就職するんだって、不安がってるの。先輩として話してやってよ」
「うん。分かった。行くわ。私たちの話をしてあげたいな」
「でしょ?中卒でもちゃんと生きていけるって、あんたが一番の証拠だもん」
「アイもね。私はまあ、相変わらず地味に探偵やってるだけだけど」
「地味じゃないよ。アイがいなかったら、私はまだ我慢してたと思うから」
「当然でしょ。あんたと私、施設で一緒に育った家族じゃん」
「そうだね。家族って、やっぱり思い合っていくものなのね」

その後、義母はカードローン200万円の一括返済を求められ、虚偽申告の件で銀行からブラックリスト入りした。遺族年金月8万円だけでは家賃も払えず、家賃5万円のワンルームアパートに引っ越したそうだ。近所付き合いは全て途絶え、『遺産で優雅に暮らしている』と嘘をついていた人々からは完全に無視されていると聞く。

ミユは夫から家計の嘘を理由に離婚を突きつけられ、養育費を多く払って別れたそうだ。就職先も見つからず、赤ちゃんを抱えてパートを掛け持ちする生活。義母に頼ろうにも、義母も生活が困窮し、『大卒なのにどうして』と嘆いているのだとか。

一方、私たち夫婦は会社を順調に成長させ、穏やかな日々を送っている。アイとも定期的に交流しており、私たちは姉妹のように接している。家族は血の繋がりだけじゃない。それを、私たち二人が証明していく。

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