結婚式の受付で「あなたの席はありません」と言われた。姉の結婚式なのに。 「印刷ミスだわ。消しておいて」と姉は笑った。招待状には確かに私の名前があった。なのに「私の結婚式に中卒女が来れるわけないじゃん」と、学歴を理由に追い出された。 夫に連絡すると「空気読めよ」と言われた。私は家族じゃなかったらしい。…

結婚式の受付で「あなたの席はありません」と言われた。姉の結婚式なのに。 「印刷ミスだわ。消しておいて」と姉は笑った。招待状には確かに私の名前があった。なのに「私の結婚式に中卒女が来れるわけないじゃん」と、学歴を理由に追い出された。 夫に連絡すると「空気読めよ」と言われた。私は家族じゃなかったらしい。...

式場の受付に着いた瞬間、係の人が私を見て困った顔をした。

「申し訳ありません。お席がご用意できていないんですが」

「何かの間違いだと思うので、確認してもらえますか?」

「間違いじゃないわ」

後ろから声がした。振り向くと、白無垢姿の姉が立っていた。

「え?でもお姉さんから招待状をいただきましたけど」

「送ったわよ。私の名前も書いてあったので来たんです」

「ああ、マジ?印刷ミスだわ。消しておいて」

「いえ、だからもう来ちゃってるわけで……」

「大体さ、考えれば分かるじゃん。私の結婚式に中卒女が来れるわけないじゃん」

私は言葉を失った。そんなシステム、初めて聞いた。学歴によって入場制限がある結婚式なんて。

「お見苦しいものは置いていきなさいよ」

「夫と一緒に参りました」

「あっそ。ならいいわ」

「お言葉ですが、お姉さんも中卒でしたよね」

「はあ?なんであんたが知ってんのよ」

「夫から聞いたんです。高校の時に悪さして退学になったって」

「で、それが何」

「だとしたら、学歴を理由に追い出されるのは違うんじゃないかと思って」

「バカ」

「はい」

「私は結婚に高卒認定を取ったの」

「そうなんですか。それは素晴らしいですね。私は家庭の事情で高校に行けなかったとはいえ、そこまでの努力はできなかったので」

「あんたとは核が違うの。一緒に住んな」

「でもお母さんも中卒ですよね」

「いちいちうるさいわね。昔の人なんだから別に珍しくないでしょ」

「正直に言ってください。私のことが嫌いなだけですよね」

「うん。大嫌い」

「わかりました。夫の姿が見えないんですが、ご存知ですか」

「親族だから控え室にいるでしょ」

「私を放置して」

「なるほど。夫に伝言をお願いできますか?この件についてどう思うか、直ちに連絡してって」

「神父を伝言板に使うな。でも今日は気分がいいから伝えてあげるわ」

「ありがとうございます。では帰ります」

「ねえねえ」

「何ですか?」

「追い返された気分は?」

「はい。なんでそんなこと聞くんですか?」

「勉強頑張っておけばよかったって後悔してる?」

「いえ、別に。むしろ学歴など意味がないのだと改めて実感した次第です」

「強がっちゃって。親族みんなも爆笑してるわよ」

「なぜですか?」

「私が、なみさんは風呂の水を出しっぱなしにしてるから家に帰った、と言ったの」

「嘘じゃないですか?」

「そりゃそうでしょ。中卒だから追い出したなんて言ったら、私が怒られちゃうもん」

「自覚あんのかい?」

「は?」

「では失礼します。夫への伝言だけお願いしますね。バイバイ」

数分後、夫から電話がかかってきた。

「姉貴から連絡しろって言われたんだけど」

「私、追い返されたの。お姉さんから聞いてる?」

「うん」

「ひどいとは思わない?」

「ちょっとは思ったけど、空気読めよ」

「は?」

「主役が嫌だって言ってんだぞ。楽しい式に水を差さなくていいだろう」

「私が何をしたのか自覚がないのよ。学歴のことだけで追い返すなんて、ちょっと短絡的すぎるっていうか」

「多分、顔じゃね」

「どういう意味?」

「いや、前に姉貴から『今後親族の集まりに波を呼ばないように』って言われたんだ」

「なんで?」

「顔合わせの時に、姉貴の婚約者が弟さんの奥さん綺麗な人だねって言ったらしい」

「事実だけど、それは良くないわね」

「否定しろよ。自分の彼女の前で他の人を褒めるのはだめよ。あなたはよくやるけど」

「そうだっけ?町に出れば、あの人可愛くないって聞くよね」

「うん。正直に言ってるだけだけど」

「本気で私の容姿が原因で式への参加を拒否したの?」

「多分そうじゃないかなと俺は思ってる」

「この日のために服も買ったし、美容室まで行ったのに」

「ま、家でゆっくりしてろよ」

「普通さ、俺の妻だぞ。追い返すなんてあんまりだって、怒るところじゃない」

「まあでも、身内の方が大事じゃん」

「今、何とおっしゃいました?」

「家族が大事だろ?」

「……そうだよな」

「あ、そうすか。私は家族じゃなかったんすね。知りませんでした」

「いやいやいや、そうじゃなくてさ、過ごしてきた時間が違うって話。今後誰と一番長く過ごしていくかも分からないんだ」

「あ、そっか。ああ、よくわかった」

「なんだよ。拗ねなくてもいいだろ」

「もういい。帰る」

「まだ帰ってなかったのか。いつまでいる気だ」

「言われなくても帰るわよ」

私は電話を切った。

それから一ヶ月後、突然元義兄の賢介さんから連絡が来た。

「なみさん、突然連絡してすみません」

「どちら様ですか?」

「賢介です。えっと、どちらの……人慧の夫の……」

「ああ、お兄さん」

「なんかまだ慣れないけど。そうです。義兄です」

「どうやって連絡先を?」

「勝手に孝太君に聞きました。ごめんなさい」

「あ、いえいえ。それは構わないんですが。どういったご要件でしょう?」

「結婚式のこと、本当にすみませんでした」

「ああ。いえ、もう済んだことですから」

「親族席の孝太君の隣にいないことに気づいて人慧に問いただしたら、水を出しっぱなしにしたとか意味の分からないことを言ってたんですが、嘘ですよね」

「まあ……」

「僕に対しても、なみさんのことをたまに悪く言うことがあって、気にはなってたんです」

「あの、その件なんですが、お兄さんが私のことを褒めたのがきっかけだと聞いたんですけど」

「ん?何のお話ですか?」

「お姉さんの前で私の容姿を褒めたのが気に入らなくて、私を敵視するようになったって」

「僕もそんなに気遣いのできる男ではないですが、さすがにそこまで無神経じゃありませんよ」

「じゃあ違うんですか?」

「幼い頃、父がテレビの女優さんを見ては母に『お前もこのくらいの顔だったらな』と失礼をぶっこいてたので、自分はやるまいと心に決めていました」

「そうだったんですね。じゃあなんでお姉さんは孝太にそんな嘘をついたんでしょうか?」

「こじつけでしょうね。なんか気に入らないというよりは、自分に同情が集まる理由の方が見え方が違いますから」

「でも嫌われてることは間違いありませんね」

「まあ、あまり気にしない方なんで大丈夫です。気にかけてくださりありがとうございます」

「実は連絡したのはそのことだけじゃないんです」

「え?」

「孝太君と別居してるんですよね」

「はい」

「あの結婚式以来、大喧嘩になって、私を守ってくれない人と一緒にいても幸せになれないかなと思うようになったんです」

「駅の裏手にある、コンビニが入ってるマンションですか?」

「はい。そうですけど。家からも近いのであまり別居してる感じもしないんですが、どちらにお住まいかなと思って」

「人はよく来ますか?」

「はい」

「来るわけないじゃないですか」

「ですよね……」

「なぜ私の家をご存知なんでしょうか?」

「あ、すみません。不気味でしたよね。実は結婚後、人慧の外出が多いのが気になって、一度後をつけたことがあるんです」

「はい」

「そしたら、そのコンビニが入ってるマンションに出入りしてるのが分かったんですね。それで何度か尾行を続けていたら、なみさんも出入りしてることが分かったんです」

「本当ですか?人はあそこに出入りしてるんですか?」

「いえ、うちに来たことなんてありません」

「そうでしたか」

「でもお姉さんはなんで私のマンションを知ってるんでしょうか?孝太にすら言ってないのに」

「これは僕の予想なんですが、人慧はそのマンションに住む誰かに会いに行ってます。それは間違いないです。でも人慧もあなたも、お互いが出入りしてることを知らない」

「誰に会ってるんですか?」

「分からないです。でも僕に言えない人であることは確かだと思います」

「結婚したばかりで秘密を抱えるなんて」

「はい。だから僕も心を開いて、なみさんに頼るしかなかったんです」

「そういうことでしたか」

「幸い私とお姉さんは結婚式以来接点がありません。探るには好都合だと思います。協力させてください」

「いいんですか?」

「式には出られませんでしたが、結婚式をあげた人が幸せじゃないのは私も悲しいので」

「優しいんですね。あんな対応をされたというのに」

「お姉さんというより、お兄さんに対してですよ」

「ありがとうございます。では一度お会いして打ち合わせできないでしょうか?」

「はい。仕事のスケジュールを調整して連絡しますね」

数日後、夫から電話があった。

「お前さ、いい加減機嫌直せよ」

「無理」

「別居生活するなんて金の無駄じゃん」

「私が住んでるマンションは親戚が貸してくれてるから3万しかかかってないし、自分で払える」

「そういう問題じゃないだろう」

「それより、この間忘れ物を取りに行ったらすごい悪臭だった。掃除もできないのね」

「忙しいんだよ。だから私に帰ってきて欲しいだけでしょ」

「違う。俺は姉貴から波を守れなかったことを、海の底より深く後悔してるんだ」

「はい、今ので嘘ってわかった」

「は?」

「『海の底』とか『地球』とか『宇宙』ってやつを信じないようにしてるの」

「単なるたとえじゃんか」

「とにかくまだ怒りが収まらないし、このまま一緒にいていいかもわからない」

「せっかく結婚したんだぞ」

「分かってる。親とか友達とかたくさんの人に祝福された以上、簡単に離婚するのも違うと思うし、冷静に考えなきゃと思ってるよ。そのための冷却期間でしょ」

「分かった。その間に俺変わるよ」

「私がそう感じたら、また戻れるかもしれない」

「そうなるよ。頑張るから」

「もう孝太の気持ちが分からなくなっちゃったよ」

「今どこに住んでるんだ?」

「遠くよ。通勤に時間がかかってしょうがないわ」

「そっか。無理しないようにな」

数日後、賢介さんから連絡が来た。

「なみさん、今ちょっといいですか?」

「お兄さん、どうされました?」

「この間話した時は、孝太君は今住んでるマンション知らないって言ってましたよね」

「はい。押しかけて来られても困るんで言ってません。あえて遠くにいるって嘘をついてます」

「いや、実はあれから人慧に探偵をつけたんですけど、その過程で孝太君も同じマンションに出入りしてることが分かったんです」

「え?一度も見かけたことはないですか?」

「はい。私は出社が10時から19時なのと、元々夫の生活リズムとは少しずれはありました。孝太君が出入りしてるのは23時以降。朝は6時くらいにマンションを出ているようです」

「私が基本家から出ない時間帯です」

「兄弟で同じマンションに出入りするって、何だろう?」

「さあ、意味不明ですね」

「調べたところ、レンタルルームとしての登録もなさそうなんですよ」

「ちょっと不気味ですね」

「ちなみに、それ何号室か分かりますか?」

「そこまではまだ分からないんですが、ただ5階ってことは判明してます」

「うちの2階上か」

「探偵には孝太君の行動も同時に見張ってもらうよう頼んでおきました」

「ありがとうございます。費用は負担させてください」

「いえいえ、ついでなので大丈夫です」

「そんな申し訳ないです」

「私の兄が探偵やってるので、どれだけ負担になるかは分かってるつもりです」

「お気遣いありがとうございます。真実が分からないと僕たちも動きがないですから、一刻も早く突き止めたいと思います」

「はい、私も同じ気持ちです」

「では何か分かり次第また連絡しますので、よろしくお願いいたします」

二週間後、姉から電話がかかってきた。

「ちょっと、あんた何してくれてんのよ」

「さて、どれのことでしょうか」

「招待客全員に余計な写真を送ったわね」

「だって、来てくれた人全員に対する裏切りだし。皆さんが渡した祝儀は無駄ですよって伝えたくて」

「男性と一緒に歩いてただけでしょ。あんな写真送ったら誤解されるじゃない」

「あは。あれは第一弾なので、まだまだ証拠ありますよ」

「え、お姉さん知ってました?何よ?」

「しょっちゅう通ってるマンション、私が住んでるんです」

「は?浮気部屋ですか?随分手の込んだことしますね。確かにホテルなら言い逃れできないけど、マンションなら後から何とでも言えますもんね」

「あそこは友達がしばらく海外に行くって言うから、たまに使わせてもらってるだけで」

「男を連れ込んで浮気していいって言われたんですか?随分心の広いお友達ですね」

「だからそんなことしてないってば」

「さっき言いましたよね。同じマンションだって」

「だから何なのよ」

「せっかく同じマンションにいるんだから、たまには一緒にワインでも飲もうかなと思って、部屋の前に何度か行ったことがあるんです」

「え?」

「そしたら外まで聞こえるような男女の音というか声がすごい聞こえてきて。うん、これは邪魔しちゃいけないなって引き返したんです」

「あんた、まさか録音してるんじゃないでしょうね」

「それはさすがに盗聴だなんだって言われかねないので、してませんよ」

「よかった」

「あ、でもお兄さんと電話しながらだったので、あちらが録音してるかどうかは分からないです」

「は?」

「元々お兄さんが疑って私に連絡をくれたんです。私が同じマンションに出入りしてるものだから、うちに来てるんじゃないかと思ったらしいんですよ」

「適当に話を合わせておいてくれたら良かったのに」

「すみません。結婚式で追い返されて以来ずっとむかついてたんで、お姉さんの味方になるなんて発想が1mmもありませんでした」

「あんたね」

「私、今まで結びつかなかったんですけど、今回真実が分かって点と点が繋がった気がしたんです」

「何がよ」

「両家顔合わせの時は私も一緒にいましたよね」

「そうね」

「その時に何かの流れで私の兄の話になったんです」

「そうだったっけ?」

「兄が探偵してるって言った時にお姉さんの顔が若干曇った気がしたんですよ」

「そんなことないけど」

「お兄さんのご両親は興味深々に質問されてましたけど、お姉さんは話題を変えようと必死だった気がして」

「そんなことないってば」

「今思えば、お姉さんにとっての天敵って探偵ですもんね。やっとしっくり来ました」

「違うって言ってるじゃない」

「でもその探偵に全て暴かれたじゃないですか」

「誤解なの。友達の家で男女で飲むこともあった。あんたが聞いた音声はDVDとかだと思う」

「認めない場合は裁判所に判断してもらうしかないみたいですけど、大丈夫ですか?」

「なんでそんな大げさな話になるの?」

「認めて示談にするか、法廷で争うかの2択なんだって。で、裁判は原則公開されるから、みんなそれを嫌がって示談を選ぶんだって兄が言ってました」

「そんな……」

「顔合わせの時点で私のことを警戒してたなら、結婚前から関係が続いてたってことですよね」

「私は被害者なの。あの男に脅されてたのよ」

「言ってることが違いますね。お相手の高橋さんは『本命はあなた。旦那はATM』と言われたらしいですけど」

「あったの?」

「お兄さんがですけどね」

「なんで?」

「慰謝料請求ですよ。弁護士同士で話し合いしたそうです」

「嘘」

「二度と会わないという約束もしたみたいなんで、もう連絡取れないと思います」

「何てことを」

「あとはお兄さんと話してください。私は孝太と話すことがあるので」

「待って。音声は決して……」

「あ、すみません。もうテンファイルで皆さんに送りました」

「くそ」

三十分後、夫と会った。

「賢介さん」

「もう謝罪とかいいよ」

「本当許してくれるの?」

「そういう意味じゃない。許すつもりはないから、うわべの言葉なんていらないってこと」

「そんなこと言わないで」

「ATMから大したお金引き出す前に終わっちゃって、残念だったね」

「違うの。あなたを愛してた」

「はいはい。で、今後の話なんだけど」

「待ってよ」

「まずは、しなくて良かった結婚式の費用を返してもらうね」

「え?」

「あと普通に浮気したことの慰謝料。それから新居にかかった費用も返してもらうね」

「待って」

「待たない。こっちは手を緩める気はないから」

「違うの?」

「何が違うのか分からないけど、こっちは揃った証拠で淡々と手続きを進めるだけだから。言い訳するんじゃなくて、何もしてない証拠を探しなよ」

「賢介……」

「招待客に申し訳ないよ。祝儀もお返ししたいから、そのお金も請求するね」

「嘘でしょ?いくらになると思ってんのよ」

「じゃあ僕からは以上。さようなら」

「お願い。話を聞いて」

翌日、夫からまた電話があった。

「なんか姉貴たち、離婚することになったらしいよ」

「ええ」

「姉貴が浮気してたんだって」

「何のために結婚したんだって話だよな」

「なみ来なくて正解だったじゃん」

「うん」

「俺らはあんな風に別れたりしないよな。色々あったけど俺も反省してるし、やり直したい。いい加減機嫌直してくれないかな」

「むしろ怒りメーターのメモリは振り切れてるんだけど」

「え、なんで?」

「お姉さん、友達が海外に行ってる間に浮気部屋として使ってたらしいのよ。最低だよな」

「ああ……」

「あなたもその恩恵受けてなかった?」

「は?何言ってんの?」

「私が使わない日は使っていいよとか言われてたんじゃないの?」

「な、わけないだろ。どこかも知らねえよ」

「一階にコンビニが入ってるマンション」

「そんなのどこにでもあるだろう」

「あなたと女性が腕を組んで入っていく写真があるの」

「え?」

「まさか私も同じマンションに住んでるなんて思いもしなかったでしょう」

「嘘だろ」

「私の兄がなぜ探偵をやってるか、話したことがあるよね」

「なんだっけ?」

「うちの父はひどい人だったの。母はたまに帰ってくる父に都合のいいように使われてた。兄や私が『別れなよ』って言っても、『証拠もないし』って笑ってたの」

「ああ、そうだったな」

「お金さえあれば探偵に頼んで慰謝料もらってさっさと離婚できたのに、我慢して耐え続けてたったの40歳で病気に負けて亡くなったわ」

「今その話は関係なくない?」

「私は浮気して家庭を壊す人間が許せない。あんな優しいお兄さんを裏切ったお姉さんも。私が一番嫌うことをやってのけた、あんたもね」

「ごめん。謝る。本気じゃないんだ。発散というか、ほら、ジムに行く感覚と同じだよ」

「は?何のフォローにもなってない」

「本命は波だけってことが言いたかったの」

「結構です。今後は勝手にジムだろうとホテルだろうと好きに発散しまくってください」

「そんなこと言うなって。俺の気持ちはどうなるんだよ」

「ここに来て自分の心配?さすがですね。姉妹そっくりで驚いちゃうわな」

「頼む、もう一度やり直そう。小遣いも2万でいいし、飲み会も行かない。家のことは全部俺がやる。掃除も洗濯も食事も」

「マジで言ってる?」

「え?うん」

「書面にできる?」

「書くって言うなら」

「分かった。じゃあ離婚しないであげる」

「いや、ありがたいけど、さっきのはちょっと大げさに行っただけっていうか」

「ん?どっちなの?離婚したいのか、再構築か」

「そりゃ一緒にいたいよ」

「自分が提示した条件は守れそう?」

「できるだけ頑張るけど」

「じゃあ約束破ったら即離婚で」

「うえ」

「うん。悪くないわ。月2万で家政婦雇ったと思ったら安いもんだし」

「そういう言い方はちょっとどうかな」

「まずは自分が散々人を傷つけておいて被害者ヅラするのやめようか」

「はい」

「じゃあ私がそっちに戻るまでに、部屋を全て掃除して」

「わかりました」

「ほら、さっさと動く。サボんなよ」

数日後、家に戻ってみると、部屋は相変わらずゴミ屋敷だった。何でもやると言った男の住まいとは思えなかった。その後も「仕事が」「姉貴が」「実家が」と言い訳を並べたため、その場で離婚届を書かせ、すぐに提出してきた。

財産分与はなし。お互いの貯金を持って解散となった。慰謝料は孝太と浮気相手の双方に請求。よほど裁判を避けたいのか、いい値の300万円ずつで示談が成立した。

一方、お兄さんたちも離婚が成立。さすがにお兄さんが請求した全ての損害を支払わせることは難しそうだが、慰謝料としては破格の高額請求で決着がついたそうだ。今は出戻り娘として実家に帰省しつつ、朝から晩まで働きながら親に借りたお金を返済する毎日だという。弟も慰謝料の返済で一人暮らしが厳しくなり、いい年の娘と息子が同時に帰ってきて、ご両親は世間体が悪いと頭を抱えているとか。

私と元義兄の賢介さんは、同じ傷を抱えた者同士、飲み友達になった。お互いの結婚式は絶対に呼んでねと約束している。

信じていた相手に裏切られるのは辛いし、傷の回復にも時間はかかるものだ。私だって飲みながら賢介さんの前で何度泣いたか分からない。でも必ずいつか癒えると信じて、その間の時間をどう過ごすかは自分次第なのだと、今はそう思えている。

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