夫が突然「タワマンに住もう」と言い出したのは、結婚3年目のことだった。嬉しくて夢中で賛成したけど、数日後、私は夫の電話を偶然聞いてしまった。「あいつアホだから、ちょっとおだてたら買おうか。財産分与目当てで離婚するんだよ」。私の貯金3億を狙った、夫と愛人の完璧な計画。私は何も言わず、その場は笑顔でうなずいた。そして3ヶ月後、夫は得意げに離婚を切り出してきた──「財産分与を要求する」。私はゆっく…

夫が突然「タワマンに住もう」と言い出したのは、結婚3年目のことだった。嬉しくて夢中で賛成したけど、数日後、私は夫の電話を偶然聞いてしまった。「あいつアホだから、ちょっとおだてたら買おうか。財産分与目当てで離婚するんだよ」。私の貯金3億を狙った、夫と愛人の完璧な計画。私は何も言わず、その場は笑顔でうなずいた。そして3ヶ月後、夫は得意げに離婚を切り出してきた──「財産分与を要求する」。私はゆっく...

「タワマンに住みたいな」
ミキと結婚して3年。夫が突然、そんなことを言い出した。

「そろそろ俺たちも次のステージに行ってもいいんじゃないかな。それがタワマンに住むことなんだよ」
ミキは社長だ。若い企業だけど、それなりに成功している。
「芸能人でも、無理して高い家賃のところに住むって言うじゃん。そうすることで、さらに売上が上がったりするかもよ」
彼は駅前のタワマンを見つけてきた。予約段階で埋まりそうだけど、地方だから売れ残っているらしい。
「ミキと一緒に夜景見ながらワイン飲んでさ、子供作って2人で育てるのを想像したら、ワクワクが止まらなくなって」

ミキもその気になった。モデルルームを見に行くと言う夫に、名義は夫でいい、支払いだけ手伝うと承諾した。

数分後、夫が戻ってきた。
「タワマン買えそうだよ」
「え、本当?」
彼は電話で誰かと話している。
「あいつアホだからさ。ちょっとおだてたら買おうか。だってちょろすぎて笑い止まらんわ」
「し君ひどい」
「契約したら即婚してやるんな」
「あの銭逃げ場女がごねたら無理じゃない?」
「大丈夫だって。ああいう女はプライドが高いから、泣きついたりすがったりしないもんなんだよ」
「ええ、そうなんだ」

ミキは夫の電話を聞いていた。夫は「リオ」という女と組んで、ミキから金を搾り取る計画を練っていた。
「LINEの履歴は必ず消す。写真もだ」
「タワマンの鍵をもらうまでは会社以外では合わない」
「ここでもし探偵でもつけられてみろ。全部終わるぞ」
「あいつの貯金が3億くらいあるのは分かってるんだ。1億のタワマン買っても懐は痛まない」
「本当、銭逃げ場だよね。し君にあげないで貯め込んでるんでしょ」

ミキは夫の計画をすべて聞いてしまった。でも、彼女は何も言わなかった。その場は夫の計画通りに動くフリをした。

数日後、夫はミキにマンションギャラリーの話をした。
「結構良くない?」
「うん。地方のタワマンって8000万くらいなんだね。1億ちょいじゃなかった」
「それなら最上階しかないだろう」
「でも、忘れ物したら30回まで戻るのだるくない?3階が空いてたから、そこにしようかと思うんだけど」
「はあ。そんなのタワマンでも何でもないだろう」
「2階は駐車場だし、将来子供が走り回っても気を使わなくていいし」
「いやいやいや。なんで勝手に決めるんだよ」
「ごめん。でも1億超えたらさすがに俺の名義でローン通らない」
「8,000万でギリギリだって言われたよ」
「私の名義にしとく?」
「あ、言うな。そんなの男のプライドが許さない」
夫は怒って、考えると言い残して去った。

その夜、夫はリオに電話していた。
「どうしよう。あのアホ女がタワマンの3階とか言い出した」
「はあ。そんなのそこら辺のアパートと変わんないじゃん」
「マジでケちりやがってさ。最上階がいいよ。じゃないとタワマンの意味ないもん」
「でもぶっちゃけ俺の年収だと8000万くらいが限度なのは本当っぽいんだ」
「年収1000万もあるのに?」
「8,000万のローンを組んだら、月々の支払いが25万を超えるんだよね。手取り50万ちょいだから、半分も払うことになる」
「そんなんじゃ生活できないじゃん」
「だからあいつにマンション代を全部払わせるってわけ」
「そんなにうまくいくかな?」
「任せろ。俺には完璧な計画があるんだから」
「3階じゃあ嫌だよね」
「うん。し君と一緒ならどこでもいい。地下でも水中でもついていくよ」
「リオ可愛すぎんだろう」

3週間後、ローンの本審査が通った。ミキが保証人になったからだ。
「ありがとう。夫婦だもん。当然だよ」
夫はミキと一緒に、3階でもいいと思えるふりをしていた。
「会社にタワマン暮らしの先輩がさ、朝忘れ物したらそれだけで10分くらいロスするって。でも3階なら階段も使えるし、結果的に良かったかも」
「よかった。分かってくれて」
「俺は見えを張るためにミキと結婚したんじゃない。最上階の憧れはあったけど、俺が欲しいのはミキとの生活だから」
ミキはその言葉に、ただ「ありがとう」と返すしかなかった。

1ヶ月後、夫はタワマンの鍵をもらってきた。
「引っ越しにしようか。賃貸の家賃もったいないから急がないと」

翌日、夫がミキに言った。
「悪いんだけど、離婚してくれないかな」
「へ?何言ってるの?家買ったばかりだよ」
「分かってる。でもミキとの未来が思い描けなくなったんだ」
「何それ?」
「本当に悪いと思ってる。謝って済む話じゃないと思うけど。タワマンは俺が住むよ」
ミキが何も言えないでいると、夫は続けた。
「その前に大事な話がある。財産分与を要求する」
「は?」
「お前が起業してこの3年、俺は支えてきたよな。最初の1年はうまくいかなくて赤字だっただろう。だったら2年目以降の会計は俺の功績と言っても過言ではないよな。だから半分を要求する」
「ちょっと待ってよ。争うならそれでも構わないけど。基本は折半だし、お前に勝ち目はないぞ」
「だったらそっちの預金も半分だよね」
「俺の口座はすっからかんだ。男には色々と付き合いがあるんだよ」
「それにしても、どうしてこのタイミングなの?」
「家を買うってことは、将来をじっくり考えるよな。だから購入に踏み切ったんだけど、俺も真剣に考えたよ。その時にゾッとしたんだ。なんでミキとこの先ずっと一緒にいるのは無理だと気づいた」
「もっと早く気づいてくれない?」
「悪いな。愛してくれない男と一緒にいるのはお前も嫌だろ」
「そうね。だったら潔く離婚した方がいい。こねるなら調停とか裁判になるけど、どうする?」
「離婚でいいわよ。嫌われてる人と一緒には暮らせないでしょう」
「助かるよ。財産分与の件も問題ないの?」
「分かった。手続きしておく。財産を隠しても無駄だからな。弁護士会紹介という方法を使えば、お前の資産を調べることができるんだ」
「よく知ってるのね」
「友達に弁護士がいるから相談した」
「めんどくさいことにしたくないから、ちゃんと半分振り込むわよ」
「それが懸命だな。じゃあ、元気で」
「待って。色々と現金化しないといけないものもあるから、3ヶ月くらい時間が欲しいの」
「株とかそういうやつ?」
「うん。そんな感じ。いらないなら私は助かるけど」
「いや、綺麗に折半すべきだ。3ヶ月か。まあ仕方ないな」
「ローンの支払い始まるけど大丈夫なの?」
「そのくらいはどうにかするよ」
「分かった。こっちも弁護士通して連絡する。今の家はそのまま住んでくれていい?俺はタワマンに引っ越すから」

数分後、夫はリオに電話していた。
「やっと終わった。あいつと縁が切れたよ」
「本当終わったの?」
「揉めたりしなかった?」
「全然。財産分与ゲット」
「すごい。すぐに引っ越そう」
「鍵は俺しか持ってないし、あいつに妨害することはできない」
「何から何まで完璧じゃん。2人の生活楽しみだな」
「私、お料理頑張るね」
「俺もいっぱい食べるね」

3ヶ月後、ミキからの振り込みが完了した。離婚届も提出済みだった。
「私も来週にはこの家を出ることにしたの。思い出がありすぎて辛いから」
「ごめん。でも、いい思い出になると思う」
「元気でな。会社の成功も影ながら祈ってるよ」
「ありがとう。あなたも元気でね」

夫はリオに報告した。
「1億5000万ゲットしたよ」
「本当に長かったね」
「もう豆腐メンタルで節約しなくてもいいよ。リオが退職して1馬力だったから少し大変だったけど、もう大丈夫」
「こんな素敵なタワマンに住んでるのに、食べ物も生活も質素すぎて泣きそうだった。でもやっと憧れのタワマンキラキラライフがスタートするんだね」
「8,000万を一括返済しても、まだ7,000万も残る。新婚旅行でハワイ行こう」
「行こう、行こう。結婚式もしたい」
「それはもうちょっと落ち着いてからかな。3年しか経ってないと、さすがに親や友達も引くし」
「そうだね。来週、午前中休みを取って銀行に行って、一括返済の手続きしてくるよ」

翌日、夫はミキに電話をかけていた。
「ミキ、元気か?一応、礼を言おうと思ってさ。タワマンのローン一括返済ありがとうな」
「え、何それ?私、1円も払ってないけど」
「そうじゃなくて、結果的にお前のおかげってこと。財産分与してくれたから、一括で返済できるからさ」
「あ、そう」
「で、実はちょっと言えてなかったんだけど、最近運命的な出会いがあって再婚したんだよ。お前と離婚して大正解。もう全部終わったから言うけど、財産分与目当てで離婚したんだよな」
「何それ?」
「そのおかげでタワマンも買えたし、リオもすげえ喜んでる」
「良かったね」
「本当にそう思ってるのか?余裕ぶって惨めにならないように演技してんだろう」
「違うけど」
「社長だかなんだか知らないけどさ、女のくせに起業して俺の年収追い抜いた辺りからずっとむかついてたんだよ」
「言ってくれたらよかったのに」
「情けなくて言えるわけないだろう。1年目にお前が赤字を垂れ流して落ち込んでる頃は、まだ可愛げがあったし俺が優位だと思えた。けど、そこからがマジで気に入らなかったわ」
「そっか。新しい妻はお前と違って控えめだし、従順な専業主婦として俺を支えてくれる。家事を分担しようとかケチ臭いことも言わないし、最高に幸せだわ」
「おめでとう」
「最後までそうやって強がるのか。泣いて悔しがればよかった。そういうお前も見てみたかったよ」
「泣いても戻らないんでしょ?」
「そうだな」
「だったら諦める。幸せになってね」
「かわいそうな女だな。哀れで泣けてくるよ」
「同情するなら、保証人を外す手続きをさせて欲しいの」
「ああ、そっか。お前の保証人のまんまだったな。私、単独ではできない手続きなのよ」
「でも、新しい嫁は収入ないしな。ご両親に頼んだら?」
「そんなに金持ってないと思うけど」
「ご自宅の土地があるでしょ。開発も進んでるし、地価も上がってるはずよ」
「マジか。ありだな」
「別れた夫が新妻と住むマンションの保証人でいるのは、さすがに精神的負担が大きすぎるの」
「だよな。分かった。親に頼んでみる」
「お願いします。一括返済はその後がいいわ。信頼できる保証人があなたには2人もいることになる。その方が銀行の印象がいいそうなの」
「なるほどな。じゃあ父さんに連絡しとくわ」

翌日、夫は父親に電話した。
「実はタワマン買ったんだけど、保証人として名前だけ貸してくんないかな?」
「いいぞ。迷惑はかけないからさ。困った時はお互い様だろ」
「父さんありがとう。そういえば、ちょっと前にミキさんが挨拶に来てくれたぞ。離婚したんだってな?」
「あ、いや、言おうと思ってたんだけど、まあ男女のことだ。色々あるだろう」
「意外と傲慢な女でさ、心が広い俺も我慢の限界を迎えたって感じなんだよ」
「そうか、そうか。後で新しい住所を教えてくれ。色々送りたいものもあるし」
「了解。よろしくね」

翌週、夫は銀行で手続きをしようとして、ミキに呼び出された。
「ああ、お前、ふざけてんの?」
「ふざけてるのそっちね。着信300件って何なのよ。ゼロがいくつか数えられないの?」
「150万しか入ってないじゃんか。お前の貯金は3億あったはずだぞ」
「あったね。どっかに隠しやがったな」
「うーん。正確にはもう使ったと言った方が正しいかも」
「勝手なことすんなよ。夫婦で築いた財産ってのは折半するのが基本なんだよ」
「知ってる。それを隠すのは悪質だと見なされるんだぞ」
「そこまで言うなら折半する」
「当然だろ。本当にいいの?」
「当たり前だ。さっさとよせ」
「いや、だとしたら諦めるのはそっちだから。あれは銀行や投資家から借りたお金なの。要するにマイナスの資産ってこと」
「え、助かった。半分も背負ってくれるの?」
「いや、ちょっと待て。嘘だよな」
「本当だし、証拠もあるよ」
「あれは株の売却に時間がかかるって話だっただろう」
「私、株なんて一切言ってないんだけど。でも売るとか言ってたよな?」
「あれはトレカ。トレーディングカードね。価値が出るかなと思って集めてたんだけど、実際に出したら8万くらいだったから売るのやめたの」
「3ヶ月かからないよな」
「まあ余裕を持って3ヶ月にしておいただけだよ。そんなに怒らなくてもいいじゃん」
「じゃあお前の貯金って300万しかなかったってこと?」
「うん。創業1年目の時に結構借金抱えたから、役員報酬はなるべく減らして事業資金としてプールしてるの。私、貧乏社長なのよ」
「どうしよう」
「何を困ってるの?タワマンのローンに決まってんだろう。なんか一括返済がどうとか言ってたけど、やっぱりそういうことだったんだね」
「お前、絶対に途中で気づいてたよな」
「なんか変だなとは思ってた」
「嘘つけ。保証人を外せって言ったのも、全部分かってたからだろ?」
「そもそも夫婦でない私が保証人なのもおかしいでしょ。でも良かったじゃない?ご両親が力になってくれたんだし」
「そっか。俺が払えなくても、実家の土地を売ればいいのか」
「それは無理じゃないかな。抵当権はついたまま、誰かに貸すって言ってたし」
「意味わからないことを言うなよ。人に貸したら親父たちが住めなくなるだろう」
「だってタワマンに一緒に住むんでしょ?だったら家なんてもういらないじゃない。はい。お2人ともその気だったわよ」
「ちょっとどういうこと?」
「離婚のご挨拶に行った時に、私が保証人を外れたら多分頼んでくると思うって伝えておいたの。それで保証人になるんだから、一緒に住む権利くらいあるんじゃないですかねって言ったら、すっかりお喜びになられて」
「ふざけんな。お前が余計なことを吹き込んだのか?」
「違うわよ。お父さんの土地を守るためにちょっとしたアドバイスをしただけ。人に貸してようが土地は売れるだろう?」
「売れるけど、借りてる人があなたの先輩のたけしって方らしいわ。高校の時にヤンキーに絡まれた時に、命がけで助けてくださった方なんだって」
「ああ、そのおかげでたけしさんは義足になったって聞いた」
「そうだよ。その方がご実家を回収して、子供食堂を開く予定なんですって。そんな素敵な計画を奪うほど、あなたはクズじゃないとみんな信じてると思う」
「くそ。まさかお前、最初から知ってたのか?」
「何よ?」
「俺がリオと一緒になろうとしてた計画だよ」
「知らなかった。途中まではウキウキでタワマン買う予定だったよ。でも、私が1人でモデルームを見に行ったことがあったでしょ?」
「あったな」
「あの時に担当の方に言われたの。『旦那さんといらしてたのは妹さんだったんですね』って。仲のいい兄弟で羨ましいですって。あの女、ペラペラと様子を教えてくれてさ。念のためお母さんにも聞いたわよ。生き分かれた妹さんとかいますかって」
「マジかよ」
「その時に思った。この人は私以外の人とこのマンションに住もうとしてるんだって。3億の口座を見られたのは分からなかったけど、途中でもしかしたらそうかなって思った」
「完璧だと思ったのに」
「LINEこっそり見たこともあったけど、全部消されてたし」
「そうだよ。完璧にやり遂げる計画だったんだ」
「残念ながら、離婚してる時に浮気してたという証拠はない。でも、1かバチかで訴えてみるわ。離婚して暇だし」
「お前アホなの?俺の状況分かってる?給料の半分がローンに消えてる状態なの。これ以上どうしろって言うんだよ。その上、親と同居だと。お前だって知ってるだろ。うちの母親の癖の悪さを」
「うん。リオさんって人とは気が合うといいね。私とは会わなかったから」
「あのババアは誰とも会わねえんだよ」
「後のことは知らないのでご自由に。私も引っ越しの準備で忙しいの」
「遠くにでも逃げる気か」
「おたくのマンションの最上階よ、と言いたいところだけど、そんな定番の落ちじゃないわ」
「じゃあどこだ?」
「言う必要がないから言いません。じゃあさようなら」

数日後、リオが夫に怒り狂って電話してきた。
「何なの、あのジジイとババアは!」
「どうしたんだ?」
「家を見に来ただけかと思ったら、荷物もどんどん運ばれてきてさ。同居するなんて聞いてないんだけど。しかもお母さんが『前の嫁もひどかったけど、今回もポンコツね』とか『顔も頭も容量も悪い女に息子は任せられない』とか、初対面でそんなこと言う人いる?」
「いるんだ。前の嫁もそれで実家には寄りつかなかった」
「お父さんはまだマシだけど、お母さんの言いなりだし、何の役にも立たない」
「でもさ、部屋は4つあるわけだし、1部屋くらい貸しても良くない?」
「は?リオのことは俺が守るから」
「何言ってんの?結局、一括返済もできなかったんでしょ」
「なんで知ってんの?」
「あんたの元嫁がポストに何か手紙入れてて、支払い苦しいと思うけど裁判もするし慰謝料払えとか、むかつくことばっか書いてあったの」
「あいつ……」
「カツカツの生活なんてしたくない。でもさ、リオもパートとかして、親父もまだ元気だし働いてもらえばローンの足しになるじゃん」
「なんで私が働かないといけないの?タワマン3階とか逆に恥ずかしいし、マジで出ていくわ」
「え、ちょっと待ってよ。引っ越す前でよかった。リオを張るために結婚するんじゃないって言ってくれたじゃないか」
「あれ?適当に言っただけだから。1人じゃ払えない。助けてくれ」
「知らねえよ」

数分後、夫はミキに電話していた。
「お前のせいで何もかも失った」
「家族は残ったでしょ?」
「じじーとババーだけじゃねえか」
「あなたの育った家では、地域の子供たちが集まって楽しくご飯を食べてるわ」
「それが何だ?」
「誰かの笑顔が残った。私も裏切りから解放された。浮気は許せないけど、アホな男と結婚せずに済んだ。それぞれが何かをちゃんと得たと思うよ」
「俺の話をしてんだよ」
「自分が自分に残すものは、自分で見つけてください」
「頼む。一緒に住んでローン払ってくれないか?」
「やだ。眺めは微妙だけど、ジムもあるし結構住みやすいよ。全力でお断りします」

その後、ミキは証拠がないため一度は慰謝料請求を諦めかけた。しかし、リオが協力してくれた。夫が消したと言っていたLINEはすべて保存されており、スクリーンショットをもらえたのだ。
2人でミキを欺こうとしたやり取りに怒りが収まらなかったが、冷静に怒りを金額に変え、199万9999円を請求した。ちょっと安くしすぎたかもしれない。
夫は弁護士にかなり切れたようだが、親に借りて払ったそうだ。今は返済に追われている。朝墓な知識で「俺天才」みたいなムーブをかまして、本当になんであんな男と結婚したのか謎だし、とても後悔している。

夫は両親に家賃10万を要求したそうだが、「お前が先に実家に住んだ20年分を払え」と言われ、大人しく引き下がったようだ。食費や光熱費を差し引いて手元に残るのは15万。そこから慰謝料300万の分割支払いと、タワマンへの引っ越し費用、家具・家電の分割払いが重くのしかかり、しばらくは苦しい生活を送ることになりそうだ。

ミキは都心のこぢんまりとした家賃8万円のマンションに引っ越し、ひたすら仕事に打ち込んでいる。裏切られるのは辛いが、せめて自分だけは今後の人生を誠実に、まっすぐに生きていくつもりだ。

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