出張の新幹線の中、娘の見守りカメラを覗いたその瞬間、私は画面に釘付けになった。義母が、卵アレルギーで命に関わるかもしれない娘に、卵焼きを無理やり食べさせようとしているのだ。「アレルギーなんてわがままでしょ。ちょっとずつ慣れれば平気なのよ」という義母の言葉が聞こえた時、私の心臓は凍りついた。娘は泣きそうな顔で首を振り、わたしは新幹線の中で夫に電話をかけながら、震える手でその光景を見つめていた。…

出張の新幹線の中、娘の見守りカメラを覗いたその瞬間、私は画面に釘付けになった。義母が、卵アレルギーで命に関わるかもしれない娘に、卵焼きを無理やり食べさせようとしているのだ。「アレルギーなんてわがままでしょ。ちょっとずつ慣れれば平気なのよ」という義母の言葉が聞こえた時、私の心臓は凍りついた。娘は泣きそうな顔で首を振り、わたしは新幹線の中で夫に電話をかけながら、震える手でその光景を見つめていた。...

新幹線の座席で、私は見守りカメラのアプリを開いた。出張の疲れを癒しながら、久しぶりに娘の顔を見たくなったのだ。画面が切り替わると、リビングに映ったのはソファに座るミキと、その前に立つ義母の姿だった。テーブルの上に何か置き、箸でそれを摘まみ上げている。嫌な予感がして、私は画面を拡大した。そこにあったのは卵焼きだった。

「嘘でしょ……!」

心臓が嫌な音を立てた。ミキは卵アレルギーを持っている。下手をすればアナフィラキシーを起こし、命に関わる。夫の傭兵も徹底してきたし、義母にも何度も説明してきた。なのに、義母は卵焼きをミキの口元に差し出している。ミキは困惑した表情で首を振り、小さな手を膝の上で握りしめていた。

「あら、一口食べてごらん。こんなに美味しいのに」

義母は笑いながら、さらに押し付ける。

「ママがダメって言ってた」

そう言うミキに、義母はまるで気にせず笑った。

「何言ってるのよ。アレルギーなんてわがままでしょ。ちょっとずつ慣れれば平気なのよ」

私は耳を疑った。わがままだと? アレルギーで死ぬこともあるのに。画面の中で、義母は無理やりミキの口元に卵焼きを押し付けた。ミキは必死に体をよじらせ、顔を背けようとしている。私はすぐに傭兵へ電話をかけた。何度コールが鳴っても繋がらない。画面に映るミキは涙目で、もう限界そうだった。その時、スマホが震えた。傭兵からの着信だ。

「早くリビングに行って! ミキを止めて!」

私は叫んだ。傭兵が慌てて電話を切り、リビングに駆け込む様子がカメラに映った。

「母さん、何やってるんだ!」

傭兵の怒鳴り声が響き、義母は驚いて手を引っ込めた。ミキは怯えたように涙目で傭兵を見上げる。傭兵はミキを抱きしめ、義母を睨みつけた。

「ミキは卵アレルギーだって知ってるだろ!」

だが義母は反省するどころか、不満そうに口を尖らせた。

「何よ、大げさね。ちょっとずつ慣れれば治るものなのよ」

「ふざけるな! そんな理屈が通るわけないだろう。もしミキに何かあったらどうするつもりだったんだ?」

「だから大丈夫だって言ってるじゃない。そんな過保護に育てたらミキちゃんがかわいそうよ」

「もういい。すぐに家を出て行ってくれ」

義母は驚いたように口をパクパクさせたが、やがて不満げに家を出て行った。私は画面越しにその様子を見ながら、大きく息を吐いた。ミキが無事で本当に良かった。だが、これは到底許せることではない。私は心の底から怒りが込み上げるのを感じていた。

新幹線が駅に着くと、私はタクシーに飛び乗った。胸は不安でいっぱいだった。家に着くと、ミキが駆け寄ってきた。私はその小さな体を抱きしめる。まだ震えている。不安が消えていないのか、ミキはぎゅっとしがみついてきた。

「ごめんね、ミキ。ママがいない間に怖い思いをさせちゃったね」

ミキは小さく頷くと、私の胸に顔をうずめた。私は背中を優しく撫でながら、改めて決意する。この子を守れるのは私しかいない。

数日が経ったが、義母からの連絡は一切なかった。あの一件で反省したのだろうか。そう思いたかったが、心の奥では違和感が拭えない。義母がこんなに簡単に引き下がるはずがない。何かを企んでいる。そんな不安が頭を離れなかった。傭兵と話し合い、玄関にも隠しカメラを設置することにした。次は侵入の瞬間から記録できるようにと。

その日の夕方、仕事を終えて帰宅すると、マンションのエントランスに義母の姿があった。派手な服をまとい、腕を組みながら苛立った様子で足を鳴らしている。オートロックを抜けて勝手に敷地内に入り込み、玄関ドアに手をかけていた。私はすぐに傭兵へメッセージを送る。

「お母さんが来てる。ドアを開けないで」

送信したタイミングで義母がこちらに気づき、まっすぐ歩み寄ってきた。その表情には怒りと苛立ちが混ざっている。

「傭兵にも散々言ってるんだけど、何よあんたたちの態度。私はミキのおばあちゃんなのよ。家に入れなさいよ」

「帰ってください」

私はできる限り冷静に淡々と返した。義母は一瞬立ちすくんだが、すぐに開き直ったように言った。

「もういい加減機嫌を直しなさいよ。ちょっと卵を食べさせようとしたくらいで、そんなに怒ること?」

卵アレルギーを持つ子供に卵を食べさせることを、大したことないと言う。本当にこの人には何を言っても無駄なんだと痛感した。

「母さん、もう一度言います。ミキは卵アレルギーなんです」

「だからそれが甘えだって言ってるのよ。昔はそんなこと言う子供はいなかった。食べて慣れさせれば体もちゃんと順応するのよ」

義母の言葉を聞けば聞くほど、胸の奥に怒りが募る。あの時、卵を無理やり食べさせようとしたことすら、ちょっとしたこととして片付けようとしている。それどころか、過保護にしすぎているとこちらを責めるような言葉を並べてきた。

「お帰りください。娘を大切にしてくれない人とは、もう二度と関わりたくない」

私は静かに一歩前に出て、まっすぐ義母を見つめた。義母の顔には初めて焦りが浮かんだ。どうにか言い訳しようとする様子が見て取れたが、私の態度が変わらないと分かると、途端に苛立ちをあらわにした。それでも私は揺らがなかった。今まで義母の暴走を止めるために何度も言葉を尽くしてきた。だが、何を言っても聞く耳を持たず、自分の価値観を押し付けるだけだった。ならば、もう関わらないのが一番だ。

「これ以上続けるなら、警察を呼びます」

義母の顔が強張る。さすがに警察沙汰になるのは避けたいのか、わずかに後ずさった。それでも最後に何かを言いたそうだったが、唇を噛みしめ、足早にエントランスを出ていった。その背中を見送りながら、私は静かに息を吐いた。これで終わりにできるのか? いいや。きっとまた何かしてくる。義母の執着心の強さを考えれば、このまま黙っているはずがない。次に何かあれば、もう完全に終わりにする。今度こそ決定的な証拠を掴んで完全に断ち切る。私は強く決意した。

数日が経ち、あの日以来義母からの連絡はない。ようやく平穏な日常が戻ってきたように思えた。しかし、私はまだ警戒を解いていなかった。義母は絶対にこのまま引き下がる人ではない。傭兵とも相談し、さらに監視体制を強化した。玄関カメラだけでなく、ベランダ側にも監視カメラを設置した。そして、万が一のために近所のママ友にも事情を話し、義母を見かけたらすぐに知らせてもらうよう頼んだ。ミキの安全を守るためには、どんな手も惜しまない。

その日は仕事が早く終わり、夕方には家に帰ってきた。キッチンで夕食の準備をしながら、ミキと傭兵がリビングで遊ぶ声を聞いていた。ようやく穏やかな時間を取り戻せた気がする。しかし、その静けさは突然のチャイムの音によって破られた。インターホンの画面を見ると、予想通りの人物が映っていた。義母だった。私はすぐにスマホを手に取り、録画を開始する。

画面越しの義母は、強引にドアを開けようとしていた。しかし、ロックがかかっているため入ることはできない。それでも諦める様子はなく、しつこくチャイムを押し続ける。傭兵と目があった。彼もすぐに状況を察し、ため息をつきながら立ち上がる。しかし、ドアを開けることはしなかった。私が小さく首を振ると、彼も頷いた。玄関カメラが全てを記録している。迂闊に対応するよりも、まずは証拠を残すことが先決だった。

義母はドアの向こうで苛立った様子で何かを叫んでいる。手にはスーパーの袋をぶら下げていた。私はしばらく様子を見守ることにした。義母はドアが開かないと分かると、次にベランダへ回った。ベランダ側のカメラがその様子をしっかり捉える。彼女はなんとか窓を開けようと試みたが、全ての窓はロックされている。それでもしつこくガラスを叩き、こちらの気を引こうとしていた。最初は手で叩くだけだったが、次第に力が強くなり、最後には物干しざおを持ち上げてガラスを打ち続けた。

ピシッとガラスに亀裂が入る。嫌な音が響く。このままだと本当に危険だ。とうとう家族に危険が及ぶと判断した傭兵は、警察に通報した。私はすぐにミキを抱き上げ、鍵のかかるトイレに駆け込んだ。娘の小さな体が震えているのが分かる。

「大丈夫だからね」

背中をさすりながら、ドア越しに外の気配を探る。ガラスを叩く音が止んだかと思うと、今度は玄関ドアがどんどんと叩かれ始めた。

「そんなところに隠れていないで、出てきなさい!」

義母の怒鳴り声と、それを止める傭兵の声が響く。言葉の内容は聞き取れなかったが、義母が何かしらの暴言を吐いているのは間違いない。ミキが怯えたように小さくすすり泣く。

「怖くないよ。大丈夫だよ」

そう言いながら、私自身の手も震えていた。どれほど時間が経っただろうか。遠くからけたたましいサイレンの音が聞こえてきた。警察が到着した頃、義母はまだ玄関前で騒いでいた。しかし、制服姿の警官が視界に入ると、慌てた様子で言い訳を始める。

「ちょっと孫に会いに来ただけなのに、大げさすぎるんじゃない?」

しかし、すでに録画された映像が全てを証明していた。インターホンカメラ、ベランダカメラ、私がスマホで撮影した映像。全てを警察に提出すると、義母の表情が凍りつく。警察官が義母に住居侵入、威力業務妨害、器物破損の疑いがあると説明する。その言葉に義母は青ざめた顔で何かを言い返そうとしたが、警察官の冷静な態度を前に、ついに沈黙した。

傭兵は一歩前に出て、低い声で静かに言い放った。

「もう終わりにしよう。これ以上俺たちに関わらないでくれ」

義母は何かを言おうとしたが、今になって自分の立場の危うさに気づいたのかもしれない。しかし、もう遅い。警察の指示に従い、義母はその場を離れることになった。私はミキを抱いたまま、ようやく大きな息を吐いた。ミキの小さな指が私の服を握っている。もう絶対にミキを危険にさらさない。傭兵と私はその夜、改めて警察に相談し、接近禁止命令を申請することを決めた。このまま放置すれば、また同じことを繰り返す可能性があるからだ。そして、私は転勤願いを出し、家族で地方へ移り住むことを決めた。これでもう二度とミキを危険にさらすようなことはさせない。

数日後、義母が警察署で事情聴取を受けたことが確認された。そして、その後の彼女の様子を近所の知人から耳にすることになった。義母は完全に孤立していた。近所付き合いが好きだった義母だが、今回の件が噂になり、誰も近寄らなくなったらしい。元々昔ながらの考えを押し付ける義母に不満を抱いていた人も多く、事件を知った住民たちは距離を置くようになった。近くに知り合いもおらず、息子の傭兵からも見放されたことで、頼る人がいなくなったのだ。何度か傭兵の携帯に連絡を試みたようだが、すでに着信拒否されていた。義母のわがままだった考えが、完全に自分自身を追い詰めることになったのだ。

義母が孤立し、私たち家族に平穏が戻ってからしばらく経った。ある日の午後、ミキと手をつなぎながら近くの公園へ向かって歩いていた。ミキは少しずつ言葉を覚え、元気に話しかけてくるようになった。最近は食事の時間を楽しめるようになってきた。

「ママ、今日は何して遊ぶの?」

ミキの声を聞きながら、私は柔らかく微笑んだ。

「砂場でお城を作ろうか」

「うん!」

娘の無邪気な笑顔を見ながら、心から安心する。もうあの恐怖に怯える必要はない。家のチャイムが鳴るたびに身構えたり、カメラをチェックして警戒することもなくなった。義母が再び何かをしようとすれば、警察が動く。もう何もできない。それでも、今までのことを完全に忘れることはできない。私たちが義母に対して願っていたのは、孫を愛してくれる家族として支え合える、そんなごく普通の関係だった。そう信じていたのに、義母はその思いを簡単に裏切った。それが何よりも悲しかった。

しかし、私たちは前を向いて生きていかなければならない。ミキには穏やかで幸せな毎日を送ってほしい。アレルギーがあっても美味しくて安全な食事を楽しめることを知ってほしい。何よりも、自分は大切にされていると感じながら成長してほしい。私はミキの手をぎゅっと握りしめる。もう誰にもミキの安全を脅かさせはしない。私たち家族は、ようやく本当の意味での平穏を手に入れたのだ。

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