新居の鍵を受け取った翌日、義母からいきなり電話がかかってきた。
「蒼井さん、新居のことで話があるのだけど。あの家、名義は匠でしょ?」
「なんでそんなことを聞くんですか?」
「確認よ、確認。大事なことじゃない。あの新居は法的には匠の家。嫁に住む権利はないわよ」
「いや、夫婦だからこそ住む権利はあると思うのですが」
「でもあなたは“住ませてもらっている”。だから私も住むことにしたの。老後は息子のそばにいたいから。1人は寂しいし」
「同居ということですか?」
「そうよ。当然でしょ。でも部屋数が足りないわね」
「はい。大人3人が住むとは計算していなかったので」
「私の部屋が必要だから、あなたの部屋をもらうわね」
「それじゃあ私の居場所は…」
「あなたが出ていけばいいだけじゃないの。名義は息子なんだから、嫁に権利はないでしょう。法的にはね」
「私も費用を出しています。頭金も含めて。それでも出ていけということですか?」
「費用? 嫁が家に貢献するのは当然でしょう。それが嫁の役目なんだから。文句あるなら匠に言いなさい。私は決めたから。もう話は終わりよ」
そう言って一方的に電話を切られた。
その日の夜、私は匠に話した。
「匠、お母さんが新居で同居するから、私に出ていけって言ってるの」
「ああ…うん。それなんだけど。母さん、ずっと1人だったからさ。寂しかったんだと思う」
「驚かないのね。もしかして同居するって話、聞いてたの?」
「まあ前から言ってたし。いつかはそうなるかなってくらいで…」
「私には何も言ってくれなかったじゃない」
「だから同居するって話じゃなかったんだ。でもお母さんは住むつもりよ。この家はあなたと一緒に住むために買ったもので、あなたの母親と住むために用意したわけじゃないわ」
「蒼井なら分かってくれると思って。ごめん。母さんも悪気はないんだよ。ただ寂しいだけで」
「悪気があるかどうかじゃなくて、私が出ていくのが当然だって言ったのよ。あなたもそう思ってるの?」
「そういうわけじゃないけど、母さんを傷つけたくないんだ。1人にしておけないし。頼むよ。蒼井なら理解してくれるって信じてる」
「何なのそれ? 匠、ちゃんと答えてほしいんだけど。私の気持ちは少しは考えられないの? さっきから私に我慢を強いて、自分の意見ばっかり。いい加減にして」
「分かった。そうだな…。今は仕事中だから、また今夜話そう。ちゃんと話すから。ごめんね」
匠はいつもそうだった。話し合いを先延ばしにして、結局はお母さんの言い分を通す。
数日後、匠が間取り図を見せた。
「義母から見せてもらったわ。南向きの部屋は日当たりがいいわね。私の部屋にするから、開けといてね」
「その部屋は私が書斎として使う予定です」
「書斎に書斎なんて必要ないでしょう。掃除でもしてなさい。大体、嫁は家事に専念すればいいのよ。部屋を持つなんておこがましいわね」
「静かな場所で本でも読みたいと思って用意した部屋なんです」
「本? 暇なのね。働いてないんだから、もっと家に尽くしたらどう? それと、リビングのカーテン写真送ってもらったけど趣味が悪いわ。センスがないのね。仕方ないから私が選び直す。費用はあなた持ちでね」
「勝手なことをしないでください」
「口答えするの? 嫁が出すのが当然でしょう。それにあの家は息子の家。それなら母親である私にも所有権があるわ。嫁はあくまで他人。文を湧きまえないと息子に捨てられるわよ」
私は匠に電話した。
「匠、家の写真、勝手に送ったの?」
「新居を見たいって言ってたから送ったけど」
「なんでそんなことをしたのよ」
「普通のことじゃね?」
「何、どうしたの?」
「お母さんに何を言っても無駄だと思って、今まで全部飲み込んできたわ。我慢もしてきた。でももう限界。私の書斎を自分の部屋にするって一方的に決めて、自分の家みたいに話してきたのよ。相談もなしに。私が費用を出した家なのに、私の部屋がなくなるっておかしくない?」
「まあ、母さんも1人で寂しいんだよ」
「それ、昨日も聞いたわ。ただの言い訳でしょ」
「そうは言っても、年だし。考えてあげてよ」
「寂しいから私の部屋を奪っていいの? それはおかしいわよね」
「夫婦の部屋があるだろう。2人で使えばいいじゃないか。十分広いし。母さんだってもうそんなに長くないんだ。俺たちが我慢すれば丸く収まるから」
「匠は、私の気持ちよりお母さんの気持ちの方が大事なんだね」
「そういうわけじゃないけど…」
「でも実際そうでしょ」
「頼むよ、蒼井。父さんがいなくなって、母さんも随分元気をなくしてしまってさ。息子としてやれることはやりたいんだ。お前だってそんな冷たい人間じゃないだろ」
その日、友人の愛に相談した。
「愛、ちょっと聞いてもいい?」
「マジ? 本当ありえないんだけど」
「うわ、めっちゃ荒れてる。どうしたの? 母に部屋取られたの?」
「夫はお母さんの味方で、私が我慢すればいいって」
「はあ? え、いい年して母親優先? 何そのマザコン?」
「そうなの。もう本当ありえない」
「てか前から言ってるけど、そこから出た方がいいんじゃないの? 絶対おかしいって」
「でも…まだ迷ってるの。結婚した時は匠のこと信じてたからさ。優しかったし。お母さんが絡まなかったら普通の人なんだよね。まだどこかで変わってくれるんじゃないかって期待してる」
「それ、信じてるんじゃなくて信じたいだけじゃない? 現実見てないよ」
「自分でも分かってるの。頭では分かってる。でも怖い。1人になるのが。離婚したら本当に1人になる。頼れる人もいないし」
「あんた、1人じゃないでしょう。私がいるじゃん。ずっと言ってるし」
「ありがとう」
「つか、限界が来たら動きなよ。すぐ動けるよう準備だけはしとく」
1ヶ月後、ついに新居が完成した。
義母が挨拶もなしに現れた。
「ついに新居完成ね。おめでとう。今日から私も住むから、荷物運んどくわ。もう部屋決めといたから」
「だから、勝手なことをしないでください」
「はあ。何度も言ってるけど、完成した新居は息子の名義。嫁に住む権利なし。私も同居するから、お前の部屋はない。邪魔だから出てけ」
「匠さんに確認しました。私が出ていくことに、彼も同意しています」
「当然じゃないの。息子は私の味方よ。あなたみたいな嫁より私を選んだの。母親を大事にする、いい子だからね」
「じゃあ、出ていきます」
「さっさと消えろ。見たくもないわ。荷物はさっさとまとめなさい。邪魔だから。今日にね」
「分かりました。手続きはきちんと行いますので」
「手続き? 何の手続きよ。さっさと出ればいいだけでしょ。荷物持って消えればいいのよ。そんなことも分からないわけ?」
「いくつかやることがあるので、それが終わってから出ていきます」
半日後、私は愛に電話した。
「愛、新居が完成したんだけど、義母に出ていけって言われた」
「は? 部屋がなくなるだけじゃなくて、出ていくの?」
「そう。何もかも話が違ってたわ。同居だって言ってたくせに、まさか追い出されるとはね」
「しかも新居って、あんたが頭金2000万出した家でしょ? おばあちゃんの遺産、全部使ってさ」
「うん。おばあちゃんが“幸せになるために”って残してくれたの。でも夫は止めてくれなかった。出ていくことに同意してたわ。仕方のないことだって」
「最悪じゃん。人として終わってるね。あんたは出ていくの? どうするの?」
「出ていく。もう決めた。でも、このまま黙って出ていくつもりはない。絶対に」
「お、やっと決断したのね。待ってたよ。早速だけど、登記と契約書、全部確認させて」
「明日持ってくわ。あとローンの契約内容も全部見て」
「オッケー。数字と証拠は嘘つかない。私が一番得意な分野だから、任せて」
翌日、私は書類を愛に渡した。
「蒼井、もらった書類確認したけど、面白いことになってるよ」
「何が分かったの? その書類、自分で持ってきたけど、正直全部は理解できてなくて」
「色々あるけど、まず登記簿の所有者の名前、見てみな」
「私の名前?」
「そう。匠の名前はどこにもない。一切ない」
「そっか。ローンを私の名義で組んだから、登記も私名義になったのね。収入が私の方が多かったから」
「そういうこと。つまり、義母の言った“名義は息子”って、全部嘘」
「嘘というか…夫が義母に本当のことを言ってなかっただけで。黙ってたんだよね。私も名義のことは言わなかったし」
「結果は同じよ。法的にその家はあんたのもの。旦那に権利は一切ない。ていうか、あんたも分かってたなら言えばよかったのに」
「言っても信じないと思ったの。変に喧嘩になるのは避けたかったし」
「聞いた話、なかなか手ごわそうだもんね。じゃ、言葉じゃなくて行動で伝えようか」
「行動で?」
「ローンの返済口座、全部あんたの口座から落ちてるよね。月26万円」
「うん。そういう設定にしてるもの」
「ということは、あんたが入金をやめたら、翌月の引き落としで残高不足になるってわけよ。そうなれば銀行からすぐ通知が来るわね。匠の年収380万だから、月26万の返済は不可能」
「そういうこと。計算したら完全に赤字だよね。生活できない」
「あとはまあ、そこから先は見ててよ」
「え? 見ててってどういうこと?」
「面白いことになるから、楽しみにしててって意味」
3日後、義母から電話がかかってきた。
「もう家を出たのね。早かったじゃない。嫁は従順な方がいいのよ。文を湧きまえないとね」
「お母さん、私は出ていきました。そのため、大事な話があります。ローンのことなんですが」
「何よ、もう用はないでしょ。話すこともないわ」
「ローンの引き落とし口座の件で、来月から変更手続きが入ります」
「だから何だって言うの? そんなの匠が払えばいいでしょ? 息子の家なんだから」
「そうですね。では、匠さんに任せます」
その日のうちに、匠からも連絡があった。
「蒼井、今日、出て行ったんだって? ありがとう。助かったよ。母さんがすごく喜んでた。これで2人で暮らせるって」
「お母さんと2人で、これから頑張ってね。大変だろうから」
「え、どういう意味?」
「そのままの意味よ」
翌日、匠から電話があった。
「蒼井。やっぱり戻ってきてほしい。考え直したんだ。嫁がそばにいないのなんて、やっぱりおかしいよな」
「どうしたの? 急に」
「母さんが家事とか全然やってくれなくてさ。何もしないんだ。俺も仕事あるし、正直きつくて。蒼井がいてくれたら助かるんだよ。料理も掃除も蒼井の方がうまいし。母さんも、蒼井の料理の方がいいって言っててさ」
「私が便利だから戻ってこいってこと? それって嫁としてじゃなくて、家政婦じゃない?」
「そういうわけじゃないけど…」
「でも実際そうでしょ」
「とにかく戻ってきてほしい。頼む。お母さんとは別居で」
「それは難しい。母さん、1人にはできないし。俺が面倒見ないと」
「つまり、私の部屋もない家に戻って、お母さんの世話や家事をしろということ?」
「母さんも年だし、1人にできないからさ。俺たちが支えてあげないと。親孝行だよ」
「うん。分かった」
「本当に? ありがとう。助かるよ」
「何か勘違いしてない? “分かった”のは、我慢しても無駄だなってこと」
「あ、え? 何言ってんだ?」
「それはこっちのセリフよ。親孝行。そっちで勝手にやって。でも、家に住むならお金は払わないとね」
翌月、義母はすっかり新しい生活に満足していた。
「やっぱりあの嫁がいなくなったらすっきりしたわ。気分がいいわね」
「でも母さん、家にずっといるのも暇だろ。掃除くらいしてくれても」
「それくらい、適当にやればいいのよ。2人の方がずっといいじゃないの」
「おお。それと、ローンのことなんだけど。毎月ちゃんと払えてるの? 大丈夫なの?」
「なんでそんなこと聞くんだよ」
「ちょっと気になっただけ。大丈夫?」
「大丈夫だから」
「“大丈夫”って何よ? ちゃんと答えなさい。曖昧にしないで。名義はあんたでしょ?」
「うん。大丈夫だから」
1週間後、義母が怒鳴り込んできた。
「これ、どういうことよ?」
「え、何?」
「銀行から家に電話が来たんだけど、『ご入金口座の残高不足につきご連絡いたします』って。残高不足って何? ローン払えてないの?」
「ちょっと待って。今は確認する」
「確認? この前“大丈夫”って言ったじゃないの? 嘘ついたの? 説明しなさい。今すぐ。匠、返事しなさい。少し時間をくれるから、確認を」
「あんた、何か隠してるんじゃないの?」
同時刻、匠から電話があった。
「蒼井、銀行から連絡が来た。ローンの返済が止まってるって」
「そうね。私が止めたわ」
「止めたってどういうことだよ」
「ローンは私の名義で、私の口座から引き落とされていたわ。だから退去した後に、残高をゼロにしたの。当然のことでしょ」
「ま、待ってくれよ。そんなこと急に言われても、払えないって」
「無理だよね。年収380万で、家のローンだけで月26万の返済。計算すると赤字になるから、生活できないし」
「頼む。また払ってくれ。お願いだから。話し合いで解決しよう。話せば分かる」
「話し合いの余地があるなら、なぜ出ていけと言ったの?」
「それは、母さんが…」
「なら、お母さんに相談して決めたら? 全部、お母さんが決めたことなので」
匠は義母に事実を告げた。
「母さん、その話があるんだ。重要な話でさ」
「何? どうしたの?」
「実は、この家の名義なんだけど…」
「名義? あんたでしょ?」
「蒼井の名義なんだ」
「は? 何言ってるの?」
「俺、ローン審査が通らなかったんだよ。年収が足りなくて。だから蒼井に頼んで…」
「じゃあ頭金も、蒼井のおばあさんの遺産2000万円で全部?」
「法的にはそうなる」
「つまり、この家はあの女の家ってこと?」
「…そうなる」
「なんで言わなかったの? 最初から言いなさいよ」
「だって、母さんに知られたら“男のくせに”ってバカにしてくると思って」
「当たり前よ。情けないわね。男のくせに嫁にローン組ませて、恥ずかしくないの?」
「仕方なかったんだよ。俺の年収じゃ無理で。貯金もなかったんだ」
「だから私に黙ってたの?」
「そうだよ。母さんに“情けない”って言われたくなかった。だから黙ってた。母さんに認められたくて、嘘ついたんだよ」
「その結果がこれじゃないの。嫁を追い出して、嫁名義の家に住んで、ローンが払えない。笑い話にもならないわ。恥ずかしい」
「母さんが“名義は息子だから嫁に権利はない”なんて言い出したから、全部おかしくなったんだ」
「私は事実を言っただけ。当然のことを」
「でも、その事実が嘘だったのは、あんたのせいでしょ。全部、あんたが悪いわ」
翌日、義母が今度は私に泣きついてきた。
「蒼井さん、ローンのことなんだけど、もう少し待ってもらえないかしら。家のことで話し合って、なんとかするから」
「お母さんは、私に“さっさと消えろ”とおっしゃいましたよね」
「それは…」
「私はその言葉通りに動いただけです。言われた通りに、嫁の立場を湧きまえただけです」
「でも、あなたが出ていったら、家は私たちが…」
「名義のことを知らなかったのは分かります。ですが、勘違いしていたとしても、言っていいことと悪いことがありますよね。お母さんは私に“出ていって欲しかった”だけ。名義は後付けの理由に過ぎないでしょ」
「そんな、違うわよ」
「お母さんが追い出したんですよ、私を。それなのに、今更泣きついてこないでください」
翌日、愛が義母のもとを訪れた。
「初めまして。蒼井の友人の愛と申します」
「は? 誰?」
「探偵です。蒼井さんから正式に依頼を受けて、ご連絡しました」
「探偵って…何の話よ」
「あなたがこのまま家に住むというのであれば、蒼井さんは頭金として拠出した2000万円の返還請求と、精神的苦痛への慰謝料請求を進めます。弁護士と相談済みです」
「2000万? ただでさえローンの支払いも危ういのに…」
「驚くのは早いですね。まだありますよ。法的にこの家の所有者は蒼井さんです。なので、弁護士から正式に通知が届きますよ。近日中に」
「そんな…私たちはどうなるの? 住むところが…」
「それはあなたと匠さんで解決してください。蒼井さんの問題ではないので、関係ありません」
数週間後、匠から連絡があった。
「もう一度、話し合いたい。家のことも、俺たちのことも、全部」
「匠、それならあの日、どうして止めてくれなかったの?」
「それは、母さんが…」
「母さんが、じゃなくて。あなたはどうしたかったの?」
「俺は蒼井にいてほしかった。一緒にいたかった。でも、母さんも1人にできないし…」
「結局、どちらでもなかったんでしょ」
「おばあちゃんがね、『蒼井の幸せのために使いなさい』ってお金を残してくれた。その2000万円で立てた家に、私の居場所はなかったの」
「匠、私は3年間ずっと我慢してきた。あなたが1度でも守ってくれると信じて、期待して」
「俺は…」
「でも、1度もなかったわよね。お母さんに部屋を取られても、追い出されても、家政婦として戻れとしか言われなかった。あなたはいつも母さんの味方だったよね」
「それは…」
「私ね、ちゃんと怒ってるんだよ。今まで飲み込んできた分、全部」
「ごめん。本当にごめん」
「もう無理だよ。離婚してください。弁護士から正式に連絡がいくから。慰謝料と、出ていかないなら頭金の返還請求も進める。でも、それは全部書面でね」
「待って。そんな急に…」
「急? あなたが3年かけてしたことの結果だよ。急なんかじゃないわ」
数日後、義母から最後の電話があった。
「蒼井さん、お願い。もう1度だけ話を聞いてちょうだい。私だって息子に騙されていたのよ。知らなかったの。私も被害者なの。同じ被害者よ」
「同じ被害者? 笑わせないでください。3年間、私はお母さんに何をされましたか? お母さんは覚えてないですよね」
「それは…」
「私には家族がいません。親もいなくて、おばあちゃんだけが家族でした。だから匠と結婚した時、やっと家族ができると思ったんです。すごく嬉しかった。お母さんのことも、“お母さん”と呼べる日が来るかもしれないと思っていました」
「あ…」
「それは、ずっと家族になろうとしてきた。3年間ずっと。でも、私はお母さんの家族には1度もなれませんでしたね。おばあちゃんが“幸せになって”と願ってくれたのに、こんな結果になって。おばあちゃんに何て報告すればよかったんですか?」
「これからは大事にするわ。だから、お願いよ」
「大事にする気持ちがあるなら、今すぐその家から出ていってください。あなたの部屋どころか、居場所すらそこにはないんですから」
その後、匠の年収では月26万円の返済は不可能で、義母の遺族年金でも焼け石に水だった。結局ローンも払えなくなり、家を出ていくしかなく、慰謝料の支払いで資産はほぼゼロ。匠は大きな債務を抱えることになり、借金のせいで自己破産。しかし慰謝料の支払いは消えず、給料のほとんどを失う生活をしている。
義母は「息子の家で老後」という夢が崩れ、親族からも「嫁を追い出して自滅した」と呆れられ、孤立した。匠は職場にも借金が知れ渡り、同僚からの信頼を失い、2人は互いを攻め合い、関係は完全に破綻した。
一方、私は家を取り返し、今は愛と2人で暮らしている。最初は断られたのだが、「せっかくなら家族と暮らしたい」と言うと、愛は照れ臭そうにしながら「そこまで言うならいいけど」と承諾してくれた。
今、私はとても幸せだ。認めてもらおうと頑張るのではなく、認め合いながら支え合う。そんな素敵な家族と一緒に暮らしている。



