「あの紫の車、また止まってる…」旅行から帰ってきた私の駐車場に、義姉の車があった。ダッシュボードのファーと後部座席のぬいぐるみの山。2年前から何度も繰り返される迷惑行為に、ずっと我慢してきた。それなのに、こちらから注意すると、義姉は「身内なんだから私が優先されて当然でしょ?」と開き直る。しおりさんにまで迷惑をかけ、ついに限界を迎えた私は、義弟に助けを求めた。すると義弟は「姉は5代目早朝だ」と…

「あの紫の車、また止まってる…」旅行から帰ってきた私の駐車場に、義姉の車があった。ダッシュボードのファーと後部座席のぬいぐるみの山。2年前から何度も繰り返される迷惑行為に、ずっと我慢してきた。それなのに、こちらから注意すると、義姉は「身内なんだから私が優先されて当然でしょ?」と開き直る。しおりさんにまで迷惑をかけ、ついに限界を迎えた私は、義弟に助けを求めた。すると義弟は「姉は5代目早朝だ」と...

「あの紫の車、まだ止まってるんだけど」

ママ友のしおりさんが貸してくれた駐車場に、義姉の車が止められている。紫のボディにダッシュボードのファー、後部座席にはUFOキャッチャーのぬいぐるみの山。この令和の時代に、そんな車に乗っているのは義姉以外にいない。

2日間は我慢した。3日目に張り紙をしたら、破り捨てられていた。さすがに連絡した。

「ごめん、すぐ移動させるから」
「お願いね。止められなかった分は保証してくれる?」

しおりさんは快く頷いてくれた。こんなに良いママ友を持って、私は本当にラッキーだと思った。でも、その数秒後、すべてがひっくり返った。

「お姉さん、うちの駐車場に車止めてますよね」

しおりさんの声が、急に冷たくなった。

「はあ?何を根拠に言ってるのよ」
「証拠もあります。契約したお客さんから、止まっている車の写真をもらいました」

紫で、ファーで、ぬいぐるみ。その特徴を兼ね備えた車は、お姉さんしか乗っていない。証拠写真を見せられて、私は何も言えなくなった。

「車をどかしてください」
「無理よ。身内なんだから、私が優先されて当然でしょ?」
「話が通じませんね。お兄さんに言いますよ」
「どうぞ。あの人ならもういないわ。3日前に離婚したから」

義兄はマンションから義姉を追い出し、義姉は行く当てもなく、ここに車を止めたのだと言う。

「事情は分かりましたけど、無理です。私のママ友だって困ってるんですよ」
「身内優先とでも言っといて」

何度言っても、義姉は聞く耳を持たない。しまいには「警察呼んでいいですか?」と言った私に、こう返してきた。

「呼べば?民事不介入ってやつで取り合わないらしいよ」

「民事不介入です。どう変換したらそんな意味不明な単語になるんですか?」
「うるさいわね。中卒だからって、すぐそうやって見下す」

私は車を移動してくださいと頼んでいるだけなのに、なぜこんなことになっているのか。話が通じない相手に、もう何を言っても無駄だと思った。

「レッカーします。レッカー代も請求しますからね」
「は、やめてよ」
「期限は今日中です。それ以上は待ちません」

ようやく義姉は車を動かす気になった。その日は、それで終わった。

——

半年後、また同じことが起きた。今度は1週間旅行で家を空けていた間に、また義姉の車が駐車場に止まっていた。

「しおりさんがそんなことする必要ない。これは貸した私の責任だから」

しおりさんはそう言ってくれたけど、私はもう我慢の限界だった。実はこの半年の間に、何度も同じことがあったのだ。義姉が車を止めているのを見つけては、夫の弟が駐車場で待ち伏せして、戻ってきたところを捕まえて追い出していた。

「夫が言ってくれたんだけど、義姉は『仲間を呼んでくるぞ』とか『家族どうなってもいいのか』とか言って脅してくるんだって。怖くて言えなかった」

義姉の行動は、もう単なる非常識を通り越していた。私はしおりさんに、今度こそレッカーを呼ぶと伝えた。そして、義姉の夫である義弟に連絡をした。

——

数分後、義弟がやってきた。

「おい、非常識すぎるだろ、元ヤンばばあ」

義姉は不機嫌そうに応対する。

「あんた誰に向かって口聞いてるか分かってんの?」
「さっき言ったよな。非常識すぎる元ヤンばばあだよ」
「その言い方やめなさい」
「あんなクソダサい車、捨ててしまえ」

義姉は激昂した。しかし、義弟は構わず続けた。

「駐車場に看板があるだろ。目玉ついてるのかよ。レッカーと違約金3万って、しっかり明記してあるからな」
「たかが身内から金取るの?」
「身内だったら何でもやっていいと思うなよ。こっちにも我慢の限度ってもんがあるんだよ」

そして、義弟は言った。

「もしかしてあんたも元ヤンだったら、なんだよ」
「どこに所属してたの?」
「姉も…5代目早朝」

その瞬間、義姉の顔色が変わった。

「は?あの伝説の?」
「らしいな。私は5代目早朝だけど」

義姉は急に態度を変えた。

「すごい!私、憧れてたんだ!早く教えてよ!もっと仲良くなれたのに!」

「黙れ。今すぐ車動かせ」
「はい!すぐにやります!」
「2度と止めんなよ」
「分かりました!」

義姉は、まるで別人のように素直に従った。私はこっそり、義弟に耳打ちした。

「姉モって名前を出した瞬間に、態度が変わったよ」
「だろ?姉貴のヤンキーへの憧れは異常だからな。俗に入ってないのに特攻服作るとか相当だよね。俺の貯金箱から金盗んでまで作ったからな。あの恨みは今でも忘れてない」

義姉はかつて、雑誌で見た「姉モ」というレディースに強く憧れていた。初代早朝のリーダーだった人の切り抜きを壁に貼るほどだったらしい。義弟は、その知識を利用して、姉が「5代目早朝」だと嘘をついたのだ。

「ヤンキーっぽくできてたかは謎だけど、役に立ててよかった」

義弟は、亡くなった父親から駐車場経営を引き継いでいる。父は毎日駐車場のゴミを拾っていたけど、自分はそこまでできていないと反省していた。

「これで大人しくなってくれるといいんだけど」

その言葉は、皮肉にも1週間後に裏切られることになる。

——

1週間後、しおりさんから電話が来た。

「はなさん、何度もごめんなさい。やっぱり駐車場、解約させてもらうね」

理由を聞いて、私は絶句した。義姉の車は止まっていないのに、毎日ボンネットにゴミが置かれているらしい。風で飛んできたのかと思ったけど、他の車にはなく、明らかにうちの車だけに置かれている。夫が毎朝出勤するたびにゴミを捨てなければならず、もう限界だと言う。

「申し訳なさすぎる。お姉さんとは話がついたって聞いてたのに…」
「23日は平穏だったから安心してたんだけど、2日くらい前からまたゴミが置かれるようになってて」

義姉は、車を止める代わりに、今度は嫌がらせを始めたのだ。私は、新しい駐車場の初期費用と半年分の料金を負担すると申し出た。しおりさんは遠慮したけど、私は引かなかった。

「これだけは飲んでもらわないと私の気が済まない。トラブルが長引いたのも、義姉の暴走を止められなかったのも、全て私の責任だから」

電話を切った後、私は義弟に連絡した。

「約束はどうなったんだよ」
「何がだよ」
「嫌がらせでゴミを置いただろ」
「知らねえよ。防犯カメラを見れば分かるからな」

そして義弟は、私に信じられないことを言った。

「てか、お前が嘘をつくからいけないんだろ。何が姉の5代目だよ。昔の雑誌を引っ張り出してみたら、5代目早朝はお前に似ても似つかない人だったんだよ」

嘘がバレた。義姉は、弟から聞いて、私が偽物だと気づいてしまったのだ。

「すみません。そうでもしないと、お姉さんは私の話なんて聞こうともしないじゃないですか」

義弟はため息をついた。

「親や弟からもずっと煙たがられて、やっと結婚した旦那にも『昭和の化石みたいで痛々しい』って捨てられて。それだけじゃなくて、旦那の髪を寝てる間に金髪にしようとして、ぶち切れさせちゃったんだ」

義姉は離婚した後、消費者金融や友人から借金を重ねていた。社中生活をしていて、行くところも頼れる人もいないと言う。

「大変そうですね」
「え。そこは良かったらうちに来ませんかっていうところじゃないの」
「それは無理です」

私ははっきりと言った。

「今の話だって、道場引きしようとしてるの見え見えだし。うちの子の髪の毛まで染めちゃいそうだし」
「そんなことしない。どうして信じてくれないの?」
「人の信頼は積み重ねだからです。お姉さんは、人の信頼を裏切り続けたという実績しかないんですよ」

義姉は「うるさい!このまま駐車場は借りるから!」と怒鳴った。しかし、翌日、私の口座には、半年分の使用料と新しい駐車場の初期費用、そして迷惑料として少しのお金が振り込まれていた。

私はしおりさんに伝えた。

「本当に義姉は話が通じないのよ。あれ以上止めてたら何をするか分からないし、悪いけど新しい場所に移ってよかったかも」

——

数週間後、私は義弟に呼び出された。

「お前がしおりってやつか」

待っていたのは、見知らぬ女性だった。どうやら、義姉がまた何かやらかしたらしい。その女性は、私の顔を見て、驚いたような表情を浮かべた。

「お前がよ子ってやつか」
「誰だ、てめえ」

女性は名乗った。

「姉モ、5代目早朝のしおりだ」

私は言葉を失った。その名前は、義姉が崇拝していた伝説のレディースの名前だ。しかし、義弟はまた嘘をついたのかと思った。

「またうちのアホ義姉が成りすましてんだろ?」
「アイコンを見てみろ」

彼女はスマホを見せた。そこには、若い頃の写真があった。彼女が初代早朝のリーダー、霊下さんと一緒に写っている写真だ。

「これで分かったか?」

確かに、彼女はしおりさんに似ている。いや、本人だ。

「私の大事な友達がはなさんだ」
「え、うちのケチケチ義姉とお知り合いなんですか?」
「そうだよ。でも、この写真って18年前で、義姉まだ…」

私は計算した。その女性は36歳。私の2つ上だ。当時彼女は17歳で、私は中学生だった。

「彼女の言うことを、真面目に聞いてほしい」

本物のしおりさんは、義姉に言った。

「私もある程度、はなさんから話は聞いた。どうひいき目に見ても、あんたが間違ってる」

義姉は反論しようとしたが、しおりさんは続けた。

「そんなうちらだって、あの頃は人様にいっぱい迷惑かけたよ。爆音鳴らして道路走って、夜中まで騒いでさ。あの時代は伝説であり、伝統でした。ただ、後悔はしてないけど、反省はしてるんだ」

そして、しおりさんは言った。

「霊下さんに合わせてやろうか」

義姉の目が輝いた。

「本当ですか?」
「はなさんの許しを得たらな。霊下さんは今、独立して会社をやってる。なんなら、働かせてもらえるよう頼んでやってもいい」

「マジですか?行きたいです!会いたいです!」

私はあきれるばかりだった。しかし、しおりさんの提案は、単なる温情ではなかった。

「じゃあ、まずはてめえのケツを吹いてからだ」

義姉は「吹きます!」と即答した。

——

数日後、義姉から連絡があった。

「しおりさんから連絡が来た。あんた、知り合いなの?マジすげえじゃん」

私は淡々と伝えた。

「とにかく、あんたの言うことを全部聞く」
「助かります。では、損害賠償を送りますね」

私は、義姉が邪魔した半年分の駐車場代、ママ友が新しく借りた駐車場の初期費用、ゴミを置かれたことでついた車の傷の修理代、そして諸々の迷惑料で100万円を請求した。

「高すぎるでしょう!」
「駐車場だけだったら十数万で済みましたよ。でも、修理費用が結構かかったみたいで。何の物をガンガン投げつけて、車の窓にも傷がついてるし、やってることめちゃくちゃすぎますって」

義姉は「無理!払わない!」と拒否した。

「しおりさんに言っていいですか?あと、霊下さんとも繋いでもらえるんですよね?」
「そうなんだけど」
「憧れの人に根性を叩き直してもらって、生まれ変わりましょう。このままじゃダメだって、自分が1番分かってますよね」

義姉はしぶしぶ了承した。

「では、賠償の方はしおりさんを経由して、霊下さんの方にも送らせていただきます」
「なんでそんなことすんの?」
「給与天引きにしてもらおうかと思って」

義姉は「このどケチ!」と叫んだが、もう遅い。

「じゃあ、お支払いお待ちしてます」

——

1ヶ月後、私はしおりさんに義姉の様子を尋ねた。

「うちの義姉、どうなったか知ってる?」
「すでに2度、逃げ出そうとしたらしいよ。霊下さんって、大した人なんだね」
「そうなの。当時の彼と起業して、今じゃ従業員50人を抱える建築会社なんだって。親と旦那さんのすねをかじってきたような義姉が肉体労働なんてできるのか心配だったけど、案の定、逃亡を図ったか」
「でも、寮はあるし、車を止める駐車場もついてるんだよ。贅沢言ってらんないよね」

それから約1年かけて、義姉は損害賠償を完済した。しかし、完済後も、会社を辞めることはできなかった。霊下さんが調べたところ、義姉には他にも複数の借金があったことが判明したからだ。離婚後に頼った消費者金融や友人への借金の総額は300万円を超えていた。

「ここで働けば確実に返せると霊下さんに諭された義姉は、結局1年以上経った今でも現場仕事を続けているそうです」

あの紫の車は、車検代も払えないため、寮の駐車場でナンバーを外されたまま放置され、最終的に廃車になったそうだ。義両親には借金の存在が知られ、実家への出入りも禁じられている。霊下さんを筆頭に厳しい上下関係の世界にいるせいか、少しずつ人間らしくなってきているとか。

私はしおりさんと、変わらず仲良くさせてもらっている。亡き父の駐車場は、おかげさまで経営が続いている。掃除と管理を怠らず、大事に守っていく。

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