夫が酔った勢いで送ってきたLINEは「お前とは離婚します」から始まり、最後には「浮気相手とハワイに行く」とまで書いてあった。翌朝、すべてを覚えていないとシラを切る夫に、私は義母に相談した。すると義母は笑いながら「私が事故にあったことにすればいい」と言い出し、両親と親族を巻き込んだ壮大な計画が始まった。夫はまんまと帰国し、葬儀場で幽霊を見たと本気で震えていた。私はあの時、ただ黙って謝っていれば…

夫が酔った勢いで送ってきたLINEは「お前とは離婚します」から始まり、最後には「浮気相手とハワイに行く」とまで書いてあった。翌朝、すべてを覚えていないとシラを切る夫に、私は義母に相談した。すると義母は笑いながら「私が事故にあったことにすればいい」と言い出し、両親と親族を巻き込んだ壮大な計画が始まった。夫はまんまと帰国し、葬儀場で幽霊を見たと本気で震えていた。私はあの時、ただ黙って謝っていれば...

「お前とは離婚します。本気だからな」

普段あまり酔わない夫が、深夜に突然そんなLINEを送ってきた。私は最初、冗談だと思った。だけど続けて送られてきた言葉に、心臓が止まるかと思った。

「彼女とハワイでイチャイチャ対決してた」

彼女?浮気?

「マッチングアプリで出会ったゆいちゃん。27歳。半年くらい付き合ってる」

夫は酔うと本音が出るタイプだった。今までの言い訳が全部嘘だったなんて信じたくなかったけど、その言葉は本物だった。

「今日はホテルに泊まるから」

怒りと悲しみで頭が真っ白になった。

翌朝、夫は何事もなかったかのようにLINEしてきた。
「実家にいる。昨日は残業して会社の人と飲んでた」

私は送ってきた写真とLINEの履歴を見せた。それでも夫はしらを切った。
「これは俺じゃない。会社の人のいたずらだ」

酔って語ったことは全部本心。私は追い詰めた。

「浮気してるんでしょ?」
「してない。するわけがない」
「酔ったら本音が出るタイプよね。昨日の言葉は全部ほんとうなんでしょ?」
「……ああ、そうだよ。だったらなんだよ」

開き直った夫は言った。
「お前よりも若くてナイスバディの女なんだよ。お前は負けたんだ」

「勝ち負けは試合が終わるまでわからないよ」

私は言ってやった。
「私は両親に『正しく生きていれば必ず報われる』と教えられて育った。悪どい人間が幸せになることはないともね。だからそれを証明してみせる」

夫は笑った。
「慰謝料か?相場は2人で300万くらいだろ。そのくらいで今後の幸せが買えるなら払ってやるよ」

「では、遠慮なくいただきます」

そして夫は言った。
「来週からの出張は嘘だ。驚くなよ。ハワイ旅行だ」

私は夫の両親に電話した。義母は怒り狂った。
「串焼きにしてやりましょう」
義父が言った。
「竹串じゃ刺さらないだろ。丸焼きだ」

「私なんか国内旅行で十分だって言われたんです」
義母はさらに怒った。
「許せない。海に沈めてやりましょう」
義父は言った。
「海が汚れる」
「じゃあ山ね」
「土壌汚染が心配です」
「だったら木に吊るすわ」
「それでお願いします」

笑い話にしてる場合じゃない。私はハワイ旅行を止めたいと言った。
すると義母は意外な提案をしてきた。

「やっぱり行かせましょう。金をドブに捨てさせるのよ。私が事故にでもあったことにすればいい」

「そんな不謹慎な嘘つきたくありません」
「本人がいいと言ってるんだからいいのよ。両手両足と頭蓋骨折くらいの設定にしましょう」

私は反対したけど、義母はそのまま進めた。
「それで帰ってこなかったら、親子の縁を切るわ」

ハワイ旅行当日。
夫はご機嫌なLINEを送ってきた。
「愛人とハワイ旅行最高。俺ばっか悪いなぁ。来週には帰るから、それまで家のこと頼んだぞ」

「今すぐ帰ってきて」
「ふざけんな。今日着いたばかりだぞ」

「後悔するわよ」
「死ねぇわ」

「明後日はあなたの両親の葬儀よ」

夫は絶句した。
「はあ?何言ってるんだ?」

私は冷静に続けた。
「嘘つくならもっとマシなこと言えよ、でしょ?こんな嘘つきたいわけないでしょ。あなたのお母さんと私が仲良くしてたのは知ってるよね?」

「まあな。気が合うとは思ってたけど」

「大好きだったの。あなたの浮気のことも全部相談してたのよ。そしたらお母さん、『私が事故にでもあったことにしましょう』って冗談言ってて、私はそんな不謹慎な嘘は良くないって言ったのに……本当に事故に遭っちゃうなんて」

「嘘だろ」

「怪我したくらいの嘘なら、私もつけたかもしれない。でも葬儀だなんて、そんな洒落にならないことは言わないよ、ね?」

私は畳みかけた。
「葬儀は明後日。あなたは一人息子よ。親族も友人もたくさん来るのに。息子は浮気相手とハワイだって言っていいの?」

「やめろ。仕事って言っとけ」

「仕事を理由に葬儀に出ない息子なんていないわ」

夫は焦りながら聞いてきた。
「飛行機あるかな?どんな手を使っても戻らないと」

「あなたはお父さんの会社の後継ぎにはなれないよ」
「おじさんにはこのこと言ってないよな?」
「言うわけないでしょ。私だって清司さんは怖いんだから」

夫は震えていた。
「父さんが唯一この世で恐れてるのが清司さんなんだ。俺も何度ビビったことか」

「圭はどうしたんだって言われたから、大事な仕事で出張ってごまかしてある。急がないと知らないわよ」

夫は慌てて帰国を決めた。

数時間後。
夫は葬儀場に着いた。
が、そこには誰もいなかった。

「父さんと母さんが、葬儀場の駐車場に立ってたんだよ。2人とも白い顔して、睨んでた。漏らしちゃったよ」

「そんなわけないでしょ」

夫は実家に戻って着替えた後、再び葬儀場へ向かった。
すると今度は家のインターフォンに両親が映ったと言い出した。

「父さんと母さんが映ってる。そんなの嫌だ。ここから出れない。迎えに来てよ」

私が「お化けなんているわけないでしょ」と言うと、夫は本気で怖がっていた。
「本当なんだって!おじさんがそろそろイライラしてきたのか、口数が減ってきてるの。急いだ方がいいわ」

夫は1時間以内に行くと約束したけど、震えは止まらなかった。

数分後。
私は義母に電話して笑いをこらえながら報告した。
「お母さん、やばすぎますって。嘘みたいに騙されてますよ。笑いをこらえるのが大変でした」

義母は言った。
「お父さんにお化粧を塗るのやめてください。だって血の気のないお化けなんていないじゃない」

「お母さんからこのプラン聞いた時は騙されるわけないと思いましたけど、まんまと信じるなんて」
「清さんや従姉妹たちからの連絡が肝だったわね」

確かに、あの人たちが真面目に連絡してくるから、誰も疑わなかった。

「まだまだ終わらないわよ。次のプランですけど、さすがに無理がありませんか?」
「今の状態なら何でも信じるでしょう。バレたらバレたで、その時よ」

1時間後。
夫から「劇場で間違いないよな」と確認の連絡が来た。
「うん。そうだよ」

なのに夫は言った。
「中に入ったけど誰もいなくて、係の人に聞いたら今日は葬儀の予定はないって」

「そんなわけないじゃない。今私はそこにいるんだし」
「場所間違えてないか?」
「目の前にお蕎麦屋さんがある葬儀場でしょ」
「だよな」

「今どこ?」
「入口の外」
「私もそこにいるんだけど」
「え、でも誰もいない」

私は言った。
「もしかしてハワイから戻ってないんじゃないの?適当なこと言って騙そうとしてない?」

夫は怒った。
「ちゃんと帰国してるよ。俺がどんな思いでチケット変更して、怒る彼女を置いてきたと思ってんだ」

「私が悪いって言いたいの?」
「そうじゃないけど、疑うからだろう」
「とにかく早く来てってば」
「もういるんだよ」

私はシラを切り続けた。
「ふざけないで」
「もしかしてパラレルワールドか?」
夫は真剣に言い出した。
「絶対そうだ。異世界に迷い込んだんだな」
「わけないでしょ。両親の幽霊を見たんだぞ。その衝撃で別の世界に飛ばされたのかも」
「じゃあなんでLINEできてるわけ?」
「分からない」

そうこうしているうちに、清司さんから電話がかかってきた。
「何やらふざけたことを言ってるらしいな」
夫は必死だった。
「おじさん、本当に葬儀にいるんです。信じてください」

「直子に聞いたぞ。何が異世界だ?親の葬儀だっていうのに、ふざけてる場合か?」
「違います。写真も看板温泉にして自撮りして送りましたよ」
「そんなものは届いてない」

夫は観念した。
「これ以上は待たないぞ。昨日の夜にも間に合ってないんだ。葬儀の息子としてちゃんと出ろ」
「行きたいのに行けないんです」

数分後。
義母が腹を抱えて笑っていた。
「我が息子ながらすごいわね。お母さんの異世界設定にまんまとはまってくれてる。2段階で仕掛けたのが功を奏したわね。不謹慎かもしれないけど、奥さんを置いてハワイに行くような奴。このくらいお仕置きしたってバチは当たらないでしょ」

「はい。あんなに悲しかったのに笑っちゃってる自分が不思議です」
「それでいいのよ。笑えるうちはまだ元気な証拠。あんな奴のために涙を流すのはもったいないじゃない」

私は心から感謝した。
「お母さん、ありがとうございます。お父さんやおじさんや従姉妹たちも、私のために。あなたは私たちの家族よ。傷ついたら全力で守る。それがうちのルールなの」

そして夫はついに気づいた。
「そっちの世界に戻りたい。異世界の帰り方で検索して色々やってみたけどダメだった。葬儀にも間に合わなかったらどうしよう」

私は言った。
「いい加減気づきなよ」
「何が?」
「盛大なドッキリだってこと」

「は?全部嘘なの?」
「いやいやいや。おじさんからも連絡来たぞ」
「清さんもグルってこと」
「いこはそれも嘘」

夫はキレた。
「ざけんなよ!じゃあ母さんたちは生きてるってこと?」
「うん」
「じゃあ俺が見たのは何?」
「お父さんとお母さん」
「本物の?」
「そう」

「ありえないだろ。こんな不謹慎な嘘ついて許されると思ってんのか」
「私のせいにされても困るわ。発案者はあなたのお母さんなんだから」

夫は呆然とした。
「母さんは俺がハワイにいたこと知ってるってこと?」
「うん。話したの?」
「もちろん。浮気してて離婚しよって言われたのよ。相談するに決まってるでしょ」
「父さんもおじさんも知ってんのか?」
「当たり前よね。じゃなきゃこんなにノリノリで協力しないでしょ」

夫は絶望の声を上げた。
「最悪だ……」

そこへ清司さんから電話が来た。
「清司さんが話があるって」
「無理」
「連絡しない方がまずいと思うけど」
「マジかよ」

数分後。
夫は清司さんに詰め寄った。
「おじさん、僕を騙しましたね」
「だったらなんだ?」
「ひどいじゃないですか」
「どの口が文句言ってるんだよ。直子が言ってたことは全部嘘です。浮気なんてしてません」
「いや実際言ってたんだろう」
「はい。でも一人旅です」

清司さんは冷たく言った。
「まだ嘘をつくか」
「本当です。僕が女性といた証拠なんてありませんよね」
「あるぞ。お前がそうやって言い逃れすることくらいお見通しだったんだよ。だから現地の知り合いに空港で写真を撮ってもらった」
「嘘ですよね」
「10枚くらいやるぞ。全部送るか。なんなら動画もある。またAIだと騒ぐか?」

夫は黙った。
「ちなみに会社の人事部は俺の直轄だ。お前の入社は今後一切認めない」
「なんでですか?おじさんは相談役で、社長は俺の親父でしょ?」

清司さんは明かした。
「相談役?今の会社は弟と立ち上げたんだが、俺は人付き合いが苦手で、弟の方が人当たりがいいから社長になってもらった。弟もそれは理解してくれてるし、お互い対等に協力して経営してる。特に人事に関しては俺に一任されてるんだ」

「でも親父の希望は俺が後を継ぐことでしょう」
「そうだ。ただし、お前が立派であることが前提だ。別にお前じゃないとダメだってことはないだろう」

「子供は俺しかいませんよ」
「俺にも息子がいるってことを忘れてないか?」
「いや、賢介はまだ大学生じゃないですか?」
「そうだ。それでもお前よりはまともだがな」

夫は食い下がった。
「大体おかしいですよ。不倫の件は俺と直子の問題であって、父さんやおじさんとは関係ないですよね」

「もちろんそうだ。しかし会社ってのは、株主の意向が重要だってことは、アホなお前にも分かるだろう」
「分かりますけど……うちの筆頭株主が誰か知らないのか」
「どっかの富豪とかですか?」
「恵美子ちゃんだよ」

夫は絶句した。
「母さんが?」
「俺と弟が一番信頼できる人物に株を一番多く持ってもらったんだ。俺たち兄弟は20%ずつ。残りは恵美子ちゃんだ」

「そうだったんだ……」
「その株主が怒ってるもんでな。俺たちも逆らえないってわけさ」

夫は最後の望みをかけた。
「母さんは俺に甘いです。話せばきっと分かってくれます」
「好きにしろ」

数分後。
夫は義母に電話した。
「母さん、無理よ」
「まだ何も言ってないだろ」
「お父さんの会社には入れさせない」

夫は驚いた。
「母さんが直子を可愛がってくれたのはありがたいと思ってるよ。でも実の子は俺だろう。高々嫁のためにここまでするか」

「そういう言葉の端々にあんたの本性が出るのよ。あんたのために朝から晩までご飯や掃除をしてくれる人をそんな風に見下してるから痛い目に遭うんだからね」

夫は言い訳を続けた。
「浮気とは別れるつもりだったんだ」
「じゃあ別れてから恋愛しなさい。ルールも順番も守れないような子に育てたつもりはなかったんだけどね」
「悪かったよ。直子にも謝るからさ。将来的に会社に入れないとか、そういうのは勘弁してくれないかな」
「でもあんたはハワイに連れて行ったブスと再婚するんでしょ?」

夫は苦笑した。
「母さん、それはさすがに言いすぎだよ」
「結婚してることを知って人の旦那に手を出す女。ブスでクズでカスでしょ」

義母は容赦なかった。
「で、どうなの?その女と一緒になるの?」
「できればなりたいけど……」
「私はそんな女との結婚は認めないから。どうか日本を出て、世界の端っこでひっそり結婚すればいい」

夫は嘆いた。
「俺が選んだ相手なんだから祝福してくれよ。マンションも出ていきなさい。あそこはお父さんの名義だから」
「え、駅前のタワマンに住めるって彼女も喜んでたのに」
「そんな都合のいい話があるわけないでしょ」

義母は最後に言った。
「あんたなんて、私たちの子じゃないわ」

夫はついに折れた。
「分かった。じゃあ再婚は諦める」
「はぁ。直子とこのまま一緒にいるよ」

義母は呆れた。
「あっさりと手のひらを返すのね。その程度の気持ちで浮気してたの?」
「そりゃ将来の方が大事だし」

「直子が許すなら、母さんたちが怒る必要はないよな」
「まあ、そうだけど」
「誠心誠意、元通りにしてみせるから」

義母は最後に警告した。
「言っておくけど、選択を間違えれば、本当に必ず化けて出てやるから」

数分後。
夫は私に謝ってきた。
「全部なかったことにしろ。ごめんなさい」

私は断った。
「許さない」

夫は逆ギレした。
「ふざけてんの?お前の返事一つで俺は家族も家も仕事も何もかも失うんだよ」

「じゃあ許さない。マジで無理。本当にキモい。消えてほしい」
「本気で言ってんのか?」
「うん。そもそもLINEで謝る時点で終わってる。お前だけは絶対に許さない」

夫は怒り狂った。
「お前が許すと言えば全部丸く収まるのに」
「あんたにとってだけでしょ。俺にはもう失うものなんかない」

「自業自得だよね」
「うるせぇ。俺はお前に親を奪われたようなもんだ。同じ目に合わせてやる」

私は震えた。
「それってどういう意味?」
「親のお化けを見るのはお前だってことだよ」

「うちの親に手出したら警察に捕まって終わりよ」
「構わない。もうどうなってもいい」
「うちの実家まで行く気?」
「北海道なんて飛行機ですぐだ」

私は必死に止めた。
「本当にやめて。後悔してからじゃ遅いのよ」
「知るか。後悔しても遅いからな」

数時間後。
夫は怒り狂って実家に乗り込んだが、両親は留守だった。
「いない。誰が?お前の親だよ。夜になっても帰ってこないんだ」

私は平然と言った。
「本当に言ったのね。ごめん。今ちょっと忙しいんだよね」
「何してるんだよ」
「ハワイにいるの。今からご飯食べに行くんだ」

夫は絶句した。
「は?誰と?」
「あなたのご両親と清司さん」

「いや、おかしくないか?俺は今日の午前中に父さんと母さんを見たんだぞ」
「うん。インターフォンを鳴らしてびっくりさせてから、すぐに空港に向かったからね」

「なんで?」
「あんたが楽しめなかったハワイを満喫してやりましょうって、お母さんが言ってくれたの」

「そんな急に動けるわけないだろ」
「あなたが酔ってLINEしてきた翌日くらいから、お母さんはこの計画のために動いてくれてたもの」

夫は叫んだ。
「あんまりだ。俺に嘘をついて帰国させたくせに、自分らだけハワイ旅行かよ」

私は言った。
「初めて来たけど、素敵なところね」

さらに夫を追い打ちした。
「ハワイからトンボ帰りして北海道に来ても、無駄で終わってるな。何なんだよ」

「そうそう。おじさんがあんたの大事なゆいちゃんを、ハワイの探偵事務所に尾行してもらってるみたい」

夫は慌てた。
「怒ってるのか?全然連絡が取れないんだ」
「いや、かなりご機嫌そうだよ」
「え、会ったのか?」
「うん。写真見せてもらった。現地で知り合った人とラブラブみたい」

夫は叫んだ。
「は?すごいね。切り替え早いね。嘘だ。見たいなら転送するけど」

私は皮肉を込めて言った。
「俺が出した旅費で浮気してやがるのかよ」
「浮気したやつが浮気相手に浮気されるとか草」

夫は怒り狂った。
「ここまでするのかよ。やりすぎだろ」

「素敵なご両親とおじ様のおかげでスカッとしたわ」
「どこがだ?最低な仕打ちだわ」
「あなたが彼らからいいところを一つも学べなかったのは、自分の責任よ」

夫は叫んだ。
「実の息子より嫁の味方をするなんて、裏切りだろ」

私は静かに言った。
「まだわからないの?」
「何がだよ」
「私の味方をしたのは、私が可愛いからじゃない。あなたの人としての愚かさに愛想を尽かしただけ。息子という前に、一人の人間として見放されたのよ」

夫は黙った。
「私だって、このまま一生楽しく一緒にいられると思ってたのに、一瞬で全てが壊れたの。そんな私を面白おかしく励ましてくれた。お母さんたちには感謝してもしきれない」

夫は土下座するように言った。
「やり直そう。反省するから」

私は冷たく言った。
「ゆいちゃんが他の男に取られたからって、復縁要請しないでくれる?」
「そんなんじゃない。本当に直子が大事だって気づいたんだよ」
「あっそう。でも無理だから」

夫は突然、別のことを言い出した。
「あ、お父さんとお母さん、やっぱり家にいたみたいだな」
「え?」
「今、家の裏手から出てきた。こんな時間にどこか出かけるのかな?でも心配すんな。もう何もしないから。挨拶したら帰る。だから俺とのこと、考え直してほしい」

私は言った。
「いや、待ってよ。うちの両親も一緒にハワイに来てるの。その家には誰もいない」

夫は信じなかった。
「もうその手には引っかからないぞ」
「本当よ」
「嘘だよな。ビデオ通話すればすぐに分かる。本当に2人とも私の隣にいるから、助けてくれ」

夫はまた震え出した。
「うちの実家の裏には山しかない。そんなところから人なんて出てくるわけないよ」

「怖すぎてまた漏らした」と夫は言った。
私は言った。
「取り憑かれないよう気をつけて」

その後、夫はビショ濡れのズボンのまま最寄り駅まで走り、近くのホテルにチェックインし、朝までガタガタと震えながら過ごしたそうだ。

私はハワイで別の男性と仲良くしていた浮気相手のゆいに、挨拶がてら話しかけ、帰国したら慰謝料請求の件で話があると言った。最初はごねていたけど、ハワイで捕まえた彼にバレたくなかったのか、応じてくれたのでよかった。

ちなみに、ゆいに接触したお金持ち風の男は、清司さんが仕込んだ現地の友人で、普通の人だ。

帰国後、2人に合わせて400万の慰謝料を請求。圭は一括での支払いに応じた。ゆいも新しい彼氏が払ってくれると思いきや、帰国してから一切連絡が取れず、仕方なく分割での対応となった。

清司さんの息子さんがインターンとして岐阜の会社で働いているそうだが、非常に優秀だそうで、会社の未来は安泰だと清司さんも笑っていた。

圭は元いた会社で地道に働いているそうだが、将来社長になると自慢しまくっていたとかで、その道が閉ざされた噂がなぜか広まり、肩身の狭い思いをしているらしい。また、毎晩うなされたり悲鳴を上げたりするそうで、毎週お払いに通っているせいか金欠だとのこと。

ハワイでの時間や圭へのドッキリは、辛いことを忘れさせてくれた。私が新たに前に進む大事なきっかけとなったのは間違いない。

義母とは今後も友人として仲良くしていくつもりだ。
……しかし、うちの実家にいたあの2人は、本当に誰だったのだろうか。考えると怖いので、さっさと忘れたいと思う。

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