妊娠三十五週の私に、義姉は三歳以下の男の子三人を玄関に置き去りにしていった。「彼氏とデートだから」と言って。医者からは切迫早産で絶対安静と言われているのに、夫は「妊娠は病気じゃない」と笑い、パチンコに消えた。ある日、出血して倒れた私。義姉に電話すると、「それじゃ私が迎えに行けないから、あなたがなんとかしてよ」と逆ギレされた。でも私にはもうどうすることもできなかった。そして気づいた。この家族は…

妊娠三十五週の私に、義姉は三歳以下の男の子三人を玄関に置き去りにしていった。「彼氏とデートだから」と言って。医者からは切迫早産で絶対安静と言われているのに、夫は「妊娠は病気じゃない」と笑い、パチンコに消えた。ある日、出血して倒れた私。義姉に電話すると、「それじゃ私が迎えに行けないから、あなたがなんとかしてよ」と逆ギレされた。でも私にはもうどうすることもできなかった。そして気づいた。この家族は...

「本当に無理です。もう子供たちの面倒は見られません」

私はそう言って、義姉のまい花さんからの連絡を断った。妊娠三十五週。医師からは切迫早産の恐れがあるから絶対に安静にするようにと言われている。なのに義姉は、三歳以下の男の子三人を私に押し付けて、自分は彼氏とデートに出かける。

「ちょっと、何よ。私の言うことが聞けないわけ?」

玄関に子供たちを置き去りにされたのは、三回目だった。最初は一時間だけと言われて引き受けた。でも次第に時間は延びて、今では半日以上預かることが当たり前になっている。お気に入りのマグカップは割られ、テレビも壊された。泥だらけで家に上がり込まれて、掃除は大掃除並みの重労働だ。

「妊婦の体調に個人差があるのは分かってます。でも私の場合は本当に危ないんです。子宮収縮抑制剤も飲んでます」

「かすみちゃんが気にしすぎなんじゃない? 神経質な人は座りも重いらしいよ。相性が悪いのもそのせいなんじゃない?」

同じ女性なのに、まったく理解してもらえなかった。

夫のまさきはパチンコばかりに行っている。義姉の子供たちを押し付けられたと連絡しても、「今やっといい台を見つけたところなんだ」と電話を切られる。義母に頼んで説教してもらっても、「当たりが出ちゃったんで弾出し尽くしてから帰りますね」と言って、その日の夜まで帰ってこない。

「お前は専業主婦だろ。俺の稼ぎで生きてるんだから、家事くらいちゃんとやれよ」

「切迫の診断をもらってるの。医者から絶対安静って言われてるの」

「妊娠は生理現象であって病気じゃないんだぞ。俺の母さんも妊娠中は普通に畑仕事してた」

そんな会話を繰り返すうちに、夫はだんだん態度を変えていった。

「あのな、お前は俺の収入で食ってるんだ。出産費用を出すのは俺なんだぞ。あまり俺やみんなを困らせるようなら、金は出せないからな」

ある日、義姉が私の実家に子供たちを置き去りにした。母は高齢で足も悪い。それでもインターホンを連打されて、出てみたら子供たちがいたという。結局、私が実家まで迎えに行って、また面倒を見ることになった。

「この件は児童相談所に相談させてもらいますからね」

そう伝えても、義姉は「あ、彼氏が来たからそろそろ行かなきゃ」と言って、海にドライブデートに出かけた。

三時間後、私は倒れた。

出血があり、病院に行くと子宮が四センチも開いていた。まだ三十五週。切迫早産で即入院となった。義母が病院に来てくれて、義姉のところに子供たちを迎えに行くように夫に電話をしてくれた。しかし夫は「今日はもう無理だ」と断った。義母は児童相談所に連絡すると告げた。

夫は義姉に電話して、自分が行く代わりに義姉が迎えに行けと言った。義姉は「私、夜まで帰るつもりないよ。なんなら彼の家に泊まりたい」と言って、結局誰も子供たちを迎えに行かなかった。

夕方、児童相談所が子供たちを保護した。義母の報告を受けた夫は「姉に伝えておきます」と冷たく言った。

翌日、義姉が病院に来た。

「子供たちを返してくれないのよ。あんたの方から事情を説明してよ」

「説明した結果です。安全確認が終わるまで十日間ほど保護されることになりました」

「冗談じゃないわよ! 実家にも連絡されるって言われたんだからね。うちの親、めっちゃ厳しいのよ」

「それは大変でしたね。十日間は面倒を見なくていいので、私は楽になりましたけど」

そう言うと、義姉は怒り狂って帰っていった。二時間後、義母から連絡があった。

「まい花さん、逮捕されたらしいわよ。児童相談所で暴れて、職員や警官にまで危害を加えたんだって」

その日、夫は病院に見舞いにも来なかった。家に戻ると、夫は私が退院していないことなど気にもせず、家事をしない私を責めた。

「俺の身の回りの世話もできないのか。主婦失格だな。何もしてないのに体調崩して入院とか、いい迷惑だよ」

「そういうまさこそ、妻として私のお腹の子の心配はしてくれないの?」

「稼いでくるのが男の仕事だ。心配なんかしてる暇はない」

「分かった。じゃあ、陣痛が来ても子供が生まれても、もうあなたには何も報告しない」

「そうしてくれ。その方が仕事とパチンコに集中できて助かる」

一週間後、なんとか退院した。義姉も拘置所から出てきたようで、また私の病院に電話をかけてきた。

「まだ子供たちを返してくれないんだけど。このままじゃ手当がもらえないじゃない」

「児童手当や養育費は、まい花さんが面倒を見ないなら不要なお金ですよ」

「何言ってるの! いるに決まってるでしょ。もらえないと彼氏と連絡を取るスマホ代がなくなるのよ!」

「子供のためのお金ですよ。どうして自分のために使えるんですか?」

「ちゃんと育ててる母親へのお小遣いでしょうが! それなのに勝手に実家に連絡して、そっちに引き渡しが決まったって、ひどいと思わない?」

「思いません。むしろ子供たちを見てくれる人が見つかって安心しました。子供たちは『パパなんていらないからママと一緒にいたい』って言ってましたよ。まい花さんに母親を名乗る資格はありません」

「待って! これからは子供たちに向き合うから! だから返してください!」

電話を切ると、夫からの連絡も途絶えた。実家に戻ると、両親が心配そうな顔で出迎えてくれた。数日後、私の母が病院セットを取りに夫の家へ行ったときのこと。そこには見知らぬ女がいた。

「まさきの彼女です」

母はその会話を録音していた。彼女と夫がいつから付き合っていたのか、どこで出会ったのか。そしてトイレやゴミ箱の中に残されていたものも、証拠として持ち帰った。

夫は問い詰められて、あっさり認めた。

「かすみが家を出たのを機に、家事ができない女だったんだよ。かすみには家政婦として帰ってきてほしかった」

「そうなんだ。このことは弁護士に相談してるから、そのつもりでいてね」

「証拠がないと弁護士は動かないぞ」

「大丈夫。お母さんが録音してくれたから。浮気のふりをしてゴミ箱の中も片付けてくれたよ」

「まさか、あれを持って帰ったのか」

「証拠だから回収するに決まってるでしょ。私と彼女に慰謝料請求するから、覚悟して」

「待ってくれ! 本気じゃないんだ! 別れるから許してくれ!」

「体の関係があったのに、許せるわけないでしょ。今まで私に言った言葉についても相談してるよ。精神的苦痛として五十万円は請求できるって弁護士が言ってた」

「俺は何も間違ったこと言ってないじゃん!」

「正論っぽく言ってただけで、内容は十分私の心を傷つけてた。離婚しましょう」

「お腹の子はどうするんだよ!」

「まさきにできることは養育費を払うことだよ」

「最近法律が変わったのを知らないの? 離婚しても共同親権になる時代なんだぞ!」

「勘違いしてるようだから教えてあげるね。たとえ共同親権でも養育費は発生するの。そもそも出産前に離婚したら共同親権はないんだけどね」

夫は黙った。その後、義姉は執行猶予付きの判決を受け、彼氏には振られ、子供たちは実家に引き取られた。義姉は子供たちに会いに行ったが拒否され、収入もなくなり、夜の仕事に就いたという。

夫とは弁護士経由で離婚。慰謝料は夫と不倫相手、それぞれ三百万円。夫は会社での評判を落とし、退職。家賃が払えず、不倫相手の家に転がり込んだが、その家も家事ができない女性の住まいで、やがて破綻。借金をしてパチンコに通い続け、今は借金取りに追われる日々を送っているらしい。

私はというと、三十八週で無事に子供を出産した。長い陣痛に耐えたあとの体はボロボロだった。それでも、この子が生まれてきてくれたことは、何にも代えがたい幸せだった。

夫も義姉もいない。大切なのは、今この腕の中にいる命だけだ。

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