「今日の夕飯何?すき焼きがいいな」──義妹が毎週末、家族連れでうちに押しかけてくるようになったのは、それからだった。最初は食事だけだったのに、次第に泊まり込み、準備も片付けも一切せず、まるでホテル代わり。夫に相談しても「妹が可愛いんだ」と聞く耳を持たない。義妹は私に言い放った。「子供もいないから暇でしょ?こなしなんだから」。私は耐えていた。夫を困らせたくなかったから。でも、ある日、私は知って…

「今日の夕飯何?すき焼きがいいな」──義妹が毎週末、家族連れでうちに押しかけてくるようになったのは、それからだった。最初は食事だけだったのに、次第に泊まり込み、準備も片付けも一切せず、まるでホテル代わり。夫に相談しても「妹が可愛いんだ」と聞く耳を持たない。義妹は私に言い放った。「子供もいないから暇でしょ?こなしなんだから」。私は耐えていた。夫を困らせたくなかったから。でも、ある日、私は知って...

「お姉さん、今月は生理来た?」

私は一瞬、何を言われたのか分からなかった。義妹のコナちゃんから、いきなりそんな報告を受けるなんて。

「え……どうして私にそんなことを報告しなきゃいけないの?」

「妊娠したかどうか確認してるの。小作り頑張ってるんでしょ?」

「それは私たちのペースでやることだから、できればそっとしておいてほしいな」

「いやいや、妊娠もしてなくて子供がいないってことは、暇人確定ってことだよね」

私は仕事もしてるし、家事もある。忙しいのに。でもコナちゃんは引かなかった。

「仕事してるくらいで自慢しないでよ。私だって働きながら子供3人育ててるし」

その時は、ただ変な義妹だなと思っただけだった。

翌日、今度はコナちゃんから週末に遊びに行きたいと連絡が来た。新築の家に一度も遊びに来ていないから、お祝いも兼ねてだという。夫の秋に相談すると、彼は快く了承してくれた。

「たった1人の妹だもんね。私は1人っ子だから羨ましいよ」

数日後、コナちゃん一家が我が家にやってきた。しかし、彼女は家に上がるなりキョロキョロと辺りを見回して言った。

「せっかくの新築一軒家なのに、インテリアのセンスが壊滅的だね」

そして夕食の焼肉を見て、「肉を焼いただけの手抜きだし」と嘲笑した。それでも私たちは笑ってやり過ごした。次はもっと凝った料理を出してね、と言い残して彼女たちは帰っていった。しかも「また次の週末行くんで」と。

さすがに毎週は困る。そう伝えると、コナちゃんは不機嫌そうな顔をした。さらには自分の子供がカーペットに焼肉のタレをこぼしたことについて、謝罪の一言もなかった。

「その前に言うことはないの?」

「何が?」

「子供のしたこととはいえ、親が謝罪するものじゃないの?」

「へえ。子供を育てたことないから分かんないよね。子供ってこぼすの知ってるよ。わざとじゃないの? それも知ってる。だから仕方ないの」

私は思わず怒りが込み上げた。

「それでも親が一言謝るのが筋だと思うけどな。それはこなしの意見ね」

コナちゃんが初めて私たちに言い放った言葉に、私は凍りついた。子供がいないことを「こなし」と馬鹿にしたのだ。

「その言い方やめてくれる?」

「なんで? 事実じゃん。あなたの大好きなお兄さんもこなしってことになるよ」

「お兄ちゃんは違うでしょ。外で小作りすればできると思うし」

「私に原因があるって言いたいの? 不妊の大半は女にあるもんじゃない?」

まさか義妹にそこまで言われるとは思わなかった。でも私は、この時はまだ我慢していた。夫の妹だし、子供ができればこんな思いもしないのかもしれないと、自分を責める気持ちもあった。

それからというもの、コナちゃん一家は毎週末、我が家に押しかけるようになった。最初は食事だけだったのに、次第に泊まっていくようになり、まるでホテル代わりに使われているようだった。準備も片付けも、彼女は一切手伝わない。

夫の秋は、私の機嫌が悪いことに気づいていた。

「この1ヶ月、私の機嫌が悪いのは気づいてるよね」

「うん。ごめん」

「毎週末、義妹一家が押しかけてきてご飯だけじゃなく泊まっていくようになって、ホテル代わりに使われてるじゃない」

秋は申し訳なさそうに謝った。しかし、彼は言った。

「でもコナがここまでするってことは、よほど俺たちに頼りたい理由があるんじゃないかって」

私は悲しくなった。

「妹が可愛いのは分かる。じゃあ、私は何なの?」

「大事な奥さんだよ」

「そうは思えない」

それでも私は、次は必ず断ると約束した。しかし翌週、またコナちゃんから「今夜も行くのでよろしく」と連絡が来た。私は夫に確認した。

「夫から連絡来てないの?」

「何も」

「なんで毎週来るの?」

コナちゃんは平然と言った。

「毎週末はこなし一家に世話になるって決めてるの」

私は驚いた。

「勝手に決めないで。私にも都合があるの」

「ないでしょ。今日の夕飯何? すき焼きがいいな。先週鍋とか出されてテンション下がったし。子供たちに栄養つくもん食わせてね」

私は全てを悟った。この人は、私の都合なんて考えていない。ただ利用できるものは利用したいだけだ。

「そうだね。確かにコナちゃんの言う通りだわ」

「やっと分かってくれた」

「うん。今夜楽しみにしてて」

数時間後、私は秋に伝えた。

「ごめん。断ったんだけど、コナたちが今日も来るって」

「それは断ったとは言わないよ」

「どうしよう。私は実家に帰るから、秋がもてなしてあげたら」

秋は意味が分からないといった顔をした。

「え、いないの?」

「私、コナちゃんの気持ちがやっと分かったの。1週間働いて、週末くらい休みたくなるよね。主婦って大変だし、子供がいたらなおさらよ」

「分かってくれたのか?」

「うん。だから私も毎週末、実家に帰ることにした」

秋は慌てた。

「え? なんで?」

「いや、逆になんで驚くの? コナちゃんの気持ちを理解したんだよ。私も実家をホテル代わりに使わせてもらおうと思ってるの。料理は作らず、片付けもせずに親を使ってみる」

「それはちょっとどうかと思うな」

「ええ、そう思うんだ。でもあなたの妹が毎週やってることよ」

秋は何も言い返せなかった。やっと彼も事の重大さに気づいたようだった。

「悪かったって。コナちゃん、すき焼きがいいんだって。あの一家、相当食べるから牛肉は1kg以上はいるかもね」

「いくらになるか分からないけど、私には無理よ。じゃあ追い返せばいいわ」

「それは……」

「あなたは優しいんじゃない。人にいい顔してるわけでもない。断ったりすることで自分が避難されるのが嫌なだけ」

秋は黙った。それは図星だったからだ。結局、彼は私の気持ちを大事にすると言いながら、妹の要求を止めようとはしなかった。私は5週連続、あの一家を招き入れてしまった。

翌日、私は実家に帰ると言った。秋は「お互い少し距離を置いて冷静になろう」と言った。私は分かったと答え、家を出た。

翌日、コナちゃんが私の家に来た。私がいなかったので、秋が対応したようだ。その後、コナちゃんは秋に「お姉さんごめん。もう行かないから」と言ったらしい。そして何かを思い詰めたように、「お姉さんは毎週実家に帰る。そういうことでいい?」と言ったという。

どうやらコナちゃんの態度が急変したらしい。秋が言うには、昨日コナちゃんたちが玄関まで来て、私がいないと伝えたら、夫のケ太君の態度が変わって「帰るぞ」と言って帰ったのだという。

私は秋に言った。

「さっきコナちゃんと話したんだけど、様子が変なの。今までの態度と違って、しっかり謝罪もしてくれた」

「反省してくれたってことか。ほら、あいつは根は悪いやつじゃないんだよ」

「私もそう思ってたけど、不妊とかこなしとか散々馬鹿にされたら腹も立つでしょう」

秋は驚いた顔をした。

「そんなこと言ってたのか」

「あなたが傷つくと思って黙ってた。ごめん」

秋は悔しそうに言った。

「うちに子供ができないのは俺のせいだって言っておけばよかったな」

私は首を振った。

「わざわざ人に言うことじゃないよ」

その後、秋と私は改めて話し合った。秋は私に謝り、私もいい顔をしようとして放置してしまったことを謝った。そして、コナちゃんのことが心配だと言い、秋が連絡してみることになった。

秋はコナちゃんに「少しでもいいから会って話を聞かせてくれ」と伝え、翌日会う約束を取り付けた。コナちゃんは「お姉さんにも謝りたい」と言っていた。

しかし、翌日コナちゃんは体調不良で来られないと連絡してきた。熱が出たのだという。

1時間後、秋はコナちゃんの家に行った。ドアを叩いてもなかなか開けてもらえなかったが、コナちゃんは仕方なくドアを開けた。秋はそこで見てしまった。

コナちゃんの顔は、ひどく腫れ上がっていたのだ。

秋から電話がかかってきた。

「ひどい怪我だよ。ここまでやるなんて異常だ。病院に連れて行く」

後日、コナちゃんの話を聞いた。あの穏やかそうに見えたケ太君は、家計にお金を入れてくれず、コナちゃんが料理を工夫すると「もっと上手いもん作れ」と怒鳴り、暴力的になったらしい。コナちゃんは、私に心ない言葉を言い続けた理由も説明した。

「お姉さんに嫌われて、二度と来るなって言われた方が、よっぽどいいと思ったから」

あの子は、自分が犠牲になることで、夫の暴力から子供たちを守ろうとしていたのだ。そして、毎週私たちの家に来ていたのも、ケ太君の命令だった。

詳しく聞けば、ケ太君は家計にほとんどお金を入れず、食費を浮かせるために私たちの家に来るように強要していたらしい。コナちゃんは夫に「無理なら兄貴のとこで飯食わせてもらえるよ。頼んで来い」と脅されていたのだ。

私は怒りで震えた。そしてコナちゃんに言った。

「ケ太さんと話をさせてくれない?」

「やめとけよ」と秋は止めたが、私は譲らなかった。

「あの男のせいで私たちの夫婦関係はピンチになったわ。私が一言言わないと気が済まないの」

私はケ太君に会いに行った。

「週末はごめんなさいね。私が急遽実家に帰ることになって」

「あ、いえいえ。いいんですよ。ちょっぴり残念ではありましたけどね」

「それはそうよね。毎週毎週、人をホテル代わりに使って、飯食って、風呂まで入って、布団まで敷いてもらってるんだもんね」

ケ太君は顔色を変えた。

「なんかトゲがありますね。嫌なら嫌だって言ってくださいよ。じゃあ、もう伺いませんから」

「でも、そうなったら不機嫌になって妻に手をあげるのよね」

ケ太君は凍りついた。

「ちょっと何か誤解してませんか? 僕がそんなことするわけないでしょう」

「じゃあ、どうしてコナちゃんは怪我をしてるの?」

「なんで知ってるんですか?」

私は続けた。

「夫に聞いたのよ。病院にも付き添ったそうね。警察に行く準備はできてるから。食費を浮かせるためにうちに来てたんでしょ? そこまでしてお金がないのはなぜ?」

ケ太君は黙った。

「ひとまず5泊分の食費と宿泊費を請求するわ。結構かかったから、全部で20万でどう?」

「ふざけんなよ。お兄さんまで絡んできて何なんですか? 俺の妹に何をしたんだ?」

背後から秋の怒声が聞こえた。秋は続けた。

「俺は病院に付き添って医者に聞いたよ。人間の暴力による傷かどうか、見分けはつくものかって。医者は言った。まず転んだにしては傷が少なすぎる。いわゆる防御創がないんだ」

ケ太君は半狂乱になった。

「そこまで大事にしますか? 子供たちの親がそんなことになって誰が喜ぶんです?」

秋は静かに、しかし力強く言った。

「そうだな。コナもそれを恐れて黙ってたそうだ。でもな、そんな世間よりも、もっと守るべきものがあるだろうって怒鳴ってやったよ」

秋はさらに続けた。

「今はコナだけかもしれない。でも、その手がいつか子供たちに向かったらどうなる?」

ケ太君は弱々しく「そんなことしませんって」と言ったが、秋は聞かなかった。

「みんなそう言うんだよ。俺の親父もそうだった。うちが母子家庭なのは、母が俺とコナを連れて逃げてくれたおかげだ。コナは小さかったから何も理解できてなくて、『パパいないの』ってよく泣いてたな。だから同じ思いをさせたくなくて、自分さえ我慢すればいいと思って耐えてたんだろう」

ケ太君は話をそらそうとした。

「じゃあ、やっぱり父親がいた方がいいですよ」

「そうだな。再婚して素敵な人が見つかるように、俺らも協力するよ」

「ふざけんな。コナは俺の女だし、子供たちも俺の子だ」

「もう違う。赤の他人になるぞ」

「なんでだよ」

「コナは離婚したがってる。応じないなら裁判だ。名前もお前がやってきたことも、全て公開されるぞ。それでもいいなら戦えばいい」

ケ太君は観念したように言った。

「分かりました。一旦認めますし、もうしません」

「なんだよ、その軽い感じは」

「終わったことをネチネチ言ったところで何もならないでしょう。大事なのは未来ですよね」

秋は吐き捨てた。

「お前に未来なんてねえよ」

ケ太君は最後の悪あがきをした。

「警察はなしでしょ?」

「何言ってんだよ。許さねえって言っただろ」

「慰謝料払うんで」

「大して稼ぎもなくて、人んちで飯食って金を浮かすような奴に払えるのかよ」

「借りる。どうにかする」

「じゃあ、金を払って刑務所に行け」

数日後、コナちゃんが私たちの家に来て深々と頭を下げた。

「お姉さん、色々とすみませんでした」

「私の方こそごめん。何も気づいてあげられなかった」

「私がそう仕向けたんです」

「演技が上手すぎるよ。めっちゃ腹が立ったもん」

コナちゃんは苦笑いした。

「すみません」

「子供たちは大丈夫?」

「はい。バーバと一緒に住めるのが嬉しいみたいで、前よりも笑顔が増えました」

「よかった」

コナちゃんは続けた。

「旦那に怯えていた私に、お姉さんは気づいてたのかもしれません」

「私は何も気づけなかったよ。『こなし』だからかな」

「もうやめてくださいよ。お兄ちゃんから聞きました。子供ができない原因は、自分にあるって。本意じゃなかったとはいえ、本当に無礼なことを言いました。申し訳ありません」

私は微笑んだ。

「そう思ってくれるなら、今度うちに来た時は準備と片付け手伝ってくれない?」

コナちゃんは目を見開いた。

「え? 言っていいんですか?」

「すき焼きのお肉、冷凍してあるの。1人減ったから、お母さんも呼んで食べましょう」

コナちゃんは泣きそうな顔で言った。

「ありがとうございます。でも、抜け出せてよかった。本当に感謝してます。もう痛い思いしなくていいからね。痛いの痛いの、飛んでけ」

あれからケ太君は離婚に応じ、コナちゃんと子供たちから縁を切られることになった。慰謝料と養育費が重くのしかかり、消費者金融から借り入れるはめになった。勤務先にも暴力の件が知られ、懲戒解雇になった。

その全てを失ったタイミングで、コナちゃんは警察に被害届を出した。猶予がつくかと思われた裁判だったが、反省の色が見えず再犯の危険性も高いと判断され、実刑判決となった。

親や親族、友人からも完全に見放され、出所しても孤独な人生が待ち受けていることだろう。

今では、半年に1度くらいのペースで私たちの家に集まって、みんなでご飯を食べている。先日、コナちゃんの子供たちが「いつもありがとう」と書いたお手紙とお花をくれた。私は号泣してしまった。

悪意をぶつけられるのは辛いし痛い。どんな事情があっても、人を傷つけることは許されない。ただ、その人の本質と行動がずれていないか。そういう部分に気づける大人でありたいと思った。

夫の秋は、私の気持ちを無視したことをちゃんと謝ってくれた。今後は小さなことでも相談し、話し合うことを約束した。あの時、黙って我慢しなくてよかった。自分の気持ちを伝えることを諦めなくて、本当によかったと思う。

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