「兄嫁が俺の子を妊娠した。離婚してくれ」——そう言い放った夫を、私はただ呆然と見つめることしかできなかった。3人の子供を置いて、それでも「運命だ」とほほえむ彼の顔が、まるで別人のようだった。腹が立つよりも先に、何かが崩れていく音がした。私は真実を確かめるため、義兄のもとを訪ねた。すると彼は言った。「うちの妻が妊娠してさ、そのお祝いに来てくれたんだよ」——あれ?…

「兄嫁が俺の子を妊娠した。離婚してくれ」——そう言い放った夫を、私はただ呆然と見つめることしかできなかった。3人の子供を置いて、それでも「運命だ」とほほえむ彼の顔が、まるで別人のようだった。腹が立つよりも先に、何かが崩れていく音がした。私は真実を確かめるため、義兄のもとを訪ねた。すると彼は言った。「うちの妻が妊娠してさ、そのお祝いに来てくれたんだよ」——あれ?...

「兄嫁が俺の子供を妊娠したから、離婚してくれ」

夫の言葉に、私は一瞬何を言われたのか理解できなかった。

「……は? 意味がわからない。ちゃんと説明して」

「そのまんまの意味だよ」

「つまり、お兄さんのお姉さんと……できてたってこと?」

「やめろよ。詳しく言うと生々しいだろ」

「それをやったのはあなたでしょ」

「運命だから仕方ない。俺は責任を取る男だしな。放っておけないだろ」

「……じゃあ、仕方ないね」

私がそう言うと、夫は「お、悪いな」と軽く返してきた。

「で、終わる話だと思ってるの?」

「じゃあどうしろって言うんだよ」

「まず、お兄さんは知ってるの?」

「今から話しに行くところだ。ドキドキするな」

「笑い事じゃないでしょ」

「そのくらいの覚悟があるってことじゃん」

さっきから「責任」だの「覚悟」だの格好つけたことばかり言う夫に、私は問い詰めた。

「うちの子供たちはどうなるわけ?」

「それはお前に任せた」

「3人もいるのよ。そこへの責任はないの?」

「だから、それはお前がやってくれ」

「アホなのかな?」

「誰に向かって言ってんだよ。ふざけんな」

「どこで切れてんだよ。とにかく、3人分の養育費は払ってもらうから」

「はあ……1. 5人分にしろ」

「そんなことも考えずに浮気して子供作ったの?」

「お前は人と愛し合う時にそんなこと考えるか?」

「そもそも私はそんなことをしない」

「本物の愛ってものを知らないんだな。哀れなやつだよ」

「勝手に言ってなさい。絶対に逃さないから」

2時間後。

「お兄さん、ご無沙汰してます。夫が伺ったんですけど……」

義兄は何事もなかったかのように、穏やかな顔で私を迎えた。

「大丈夫ですか?」

「ん? 何が?」

「いや、お兄さんが心配で……」

「俺が? なんで?」

「えっと、夫が来たんですよね?」

「弟なら楽しく飲んで、さっき帰ったところだよ」

「え?」

「うちの妻が妊娠してさ、そのお祝いに来てくれたんだよ」

私は耳を疑った。

「……妊娠は本当だったんですか?」

「あ、もう知ってたんだ。まあ、うん」

「はい……」

「あみちゃんは3人も産んでるんだろ? 実は妻がそれで結構焦ってたんだよな。俺は人と比べる必要はないってずっと言ってたんだけど、女性ってのはなかなかそうはいかないらしくて」

「そうだったんですね……」

「不妊治療を頑張ったかいがあって、無事に父親になれそうです」

「それは良かったです。おめでとうございます」

「ありがとう。今日はちょっと飲みすぎちゃったから、また落ち着いたら遊びに来てよ」

「はい。もちろんです。私も先輩ママのよ子さんの話をいろいろ聞きたいと思いますし」

「私でよければ何でもお答えしますよ」

「助かるよ。今後もいろいろよろしくね」

数分後、私は夫へ電話をかけた。

「おい、何がどうなってんのよ」

「は? なんだよ」

「お兄さんと話したら、全然違うこと言ってるんだけど」

「なんで兄貴に連絡するんだよ」

「裏切られた直後だし、声をかけようと思うのは当然でしょ」

「余計なことすんなって。話が噛み合わないから、とりあえず合わせておいた」

「……マジで何も言ってないってこと? なんでお兄さんに本当のこと言ってないの? 私には堂々と言ったくせに」

「俺だって驚いたんだよ。本当のことを言おうと思って行ったのに、兄貴が自分の子が生まれるって喜んでて、適当に話を合わせるしかなかった」

「よ子さんは何を考えてるの?」

「分からないんだ」

「……よ子さんから聞いてくんない?」

「は? なんで私が間に入らないといけないわけ? しかも私を裏切った相手だよね」

「まあ、そうなんだけど……怖いじゃん。俺との子ができたって喜んでたのに、いざ蓋を開けてみたら兄貴との子だってことになってて。私からすれば全員意味不明よ」

「頼む。こっちは慰謝料も払う覚悟はあるんだ。それほど本気なのに、兄貴との離婚が成立しないと話にならないんだよ」

「なんで私があんたの不倫のお手伝いをしないといけないの?」

「お前だって真実が知りたいだろ? よ子さんに文句の一つも言ってやりたいよな」

「……そりゃ当然よ」

「だったら、その勢いで真実を聞き出してくれ」

「別にあんたのために聞くんじゃない。お兄さんと自分のためだからね」

「なんでもいいわ。さっさとしてくれ」

「このバカが。そんなことが怖いなら浮気なんてすんな」

「はいはい。何でもいいから頼んだぞ」

「むかつくわ……」

翌日。

「よ子さん、お久しぶりです」

「あら、あみちゃん。どうしたの?」

「ご懐妊、おめでとうございます」

「ありがとう。やっと授かれたわ」

「……誰の子なんですか?」

よ子さんは一瞬、驚いた顔をした。

「夫に決まってるじゃない。ちょっと、いきなり失礼よ」

「正は自分の子だと言ってます」

「はあ? どうしてそうなるの?」

「運命の人だから責任を取るって、随分張り切ってましたよ」

「ちょっと待ってよ。絶対にありえないわ」

「本当に言ってるんですか?」

「確かに前から正君の視線というか、態度は気になってたの。明らかに私に好意があるなって……」

「すみません。私は気づきませんでした」

「こんなことあみ美ちゃんに言うわけにもいかないし、夫にも当然言えなかったわ」

「まあ、そうですよね」

「義理の妹だから、冷たくすることもできないでしょ。だからと言って気を持たせるようなことを言った覚えもないんだけど」

「じゃあ、全ては正の妄想ってことですか?」

「それしか考えられないわ。私は夫を愛してるし、裏切ることはないもの」

「でも、おかしいと思いませんか? 義理の姉を好きになったとかならまだ分かります。でも『妊娠させた』って言ったんですよ」

「私に言われても困るわ。身に覚えがないのに」

「昨日、正がそちらにお邪魔したのはなぜですか?」

「私には『2人でお兄さんに打ち明けるため』だって言ってましたけど」

「突然来たのよ。夫はすでに妊娠のことを知ってて、ワインを開けてたから結構酔っててね。正君の顔を見るなり『俺もパパになるぞ』って一緒に乾杯し始めたの」

「……どっちかが嘘をついていることになりますね」

「1番怪しいのは私ってことよね」

「いえ、まだ分かりません。ただ、DNA鑑定をすれば全てはっきりします」

「私は他の人に心が向いている人とは一緒にいられないので、離婚することは決めました。あんな……3人を育てていくために養育費も必要です。もう1人、子供がいるのかどうかをはっきりさせたいんです。私の子供たちのためにも」

「そうね。分かったわ。DNA鑑定に応じる」

「お願いいたします」

「でも、夫に心配をかけたくないから、私と正君の鑑定のみで納得してくれるかな?」

「え? お兄さんとの鑑定をしないと意味がなくないですか?」

「どうして? 夫の子であることは間違いないのよ。それを証明するための鑑定じゃないですか」

「でも、正君との父子関係が否定されれば、必然的に夫の子ってことになるでしょう? 他に浮気をしていなければ、ですが」

「するわけがないでしょ。私も大事な時期よ。余計なストレスは避けたいの」

「……分かりました。正だけの鑑定で構いません」

「よかった。あみちゃんの信頼を失いたくないから、やるわ」

「すみません。お願いします」

数週間後。

「結果、出たわ。正君との父子関係は否定された」

夫は呆然とした。

「え? 正君の子じゃなかったの? 本当ですか?」

「うん。一応メールは送っておいたけど、原本が見たいならいつでもうちに来て」

「……そうですか」

私はよ子さんに言った。

「疑ってすみません。ただ、肉体関係がなかったという証明にはなりませんよね」

「まだ疑うの? だって正君があんな熱量でLINEしてきたんですよ。こんなことを言いたくないけど、彼……思い込みが激しいっていうか」

「兄の妻を奪う自分に酔ってるっていうか、そういう妄想に取り憑かれてるだけじゃないかな」

「確かに、思い込みの激しいところはありますし、正を擁護するつもりもありませんが……嘘をつくような人ではありません」

「私だってそうよ。ちゃんと科学的にも証明されたのに。これ以上どうしろって言うの?」

「……そうですね。すみません。私もちょっと興奮しすぎてしまいました」

「うん。3人のお子さんを抱えて離婚するなんて、不安で仕方ないわよね。でも私にとっても大事な命なの」

「はい。すみませんでした。もう一度、正と話し合ってみます」

「お願いね」

数分後、私は夫に電話をした。

「ねえ、本当によ子さんと関係があったの?」

「当たり前だろ」

「よ子さんと話したけど、全否定されたわ」

「なんでなんだよ……」

「DNA鑑定の結果が出たそうよ。どうだった?」

「お前の子じゃなかった」

「そんなはずないって」

「何がどうなってるのよ。よ子さんに連絡してるけど繋がらないんだ」

「私ね、正には当然腹を立ててるけど……嘘をつける人じゃないと思ってるの」

「そうだよ。裏切った人を擁護するのも変だけどさ。よ子さんは何かを隠してる気がする」

「うん。俺は嘘はついてない。何度もホテルに行ったんだ」

「……改めて言われると、やっぱり最低だな」

「本当のことなんだから仕方ないだろ」

「でも、真実を明らかにすることがお兄さんを傷つけることになる」

「兄貴には本当に悪いと思ってるよ。だから俺が話してくる」

「やめた方がいいと思う。ショックが大きいよ」

「お前が言うよりも俺の方が説得力があるだろう」

「まあ、そうだけど……」

「何もかも失っていいのね」

「仕方ない。何かを得ようとすると、必ず何かを失うのさ」

「浮気しただけのあなたが、格好つけんな」

翌日、夫は義兄の会社へ行った。

「兄貴、ちょっといいか?」

「どうした?」

「俺はよ子さんが好きだ」

「は?」

「順番を間違えたことは謝る。でも愛してしまったんだ。俺に譲ってくれ」

「何言ってんだ? 冗談じゃない」

「本気で言ってるんだよ」

義兄は時計を見た。

「18時半か。酔っ払うにはまだ早いか」

「よ子さんが妊娠した時、俺の子だと言われた。でもDNA鑑定をしたら俺の子じゃなかったらしい。兄貴も念のためやってくれ」

「なんで?」

「検査機関が間違えたのかもしれない」

「やだよ。俺はよ子を信じる」

「よ子さんの背中には火傷の跡があるよな」

「え? 子供の頃、風呂上がりにおばあちゃんちのストーブで……」

「なんでお前がそんなこと知ってるんだ」

「縦長の形してるだろう」

「正……冗談もそのくらいにしておけよ。そんなに俺を怒らせたいのか?」

「俺は見た。その状況がどういうことか分かるよな」

義兄は立ち上がった。

「てめえ……本当に手を出したのか?」

「そうだ。兄貴に殴られる覚悟はできてる」

「その程度で済むと思うなよ」

「責任は取る。兄貴とよ子さんの子だと分かれば、俺は潔く身を引くよ」

「待ってくれよ。俺を裏切った女とは一緒にいたくない。でも俺の子だったら、だからこそはっきりさせるべきだよ。俺が言うのもなんだけど……」

「……分かった。ただ、お前だけは許さない。父さんと母さんにも言うからな」

「分かってる。何度も言うけど、その覚悟で彼女を愛したんだ」

義兄は吐き捨てた。

「あんないい奥さんがいるのに、何やってんだよ」

「気持ちってコントロールできないよな」

「子供が3人もいるのに、そんな呑気なことを言ってる場合か」

「いろんな人を傷つけたことは悪いと思ってる。でも、一度きりの人生を後悔したくないんだ」

「綺麗事言ってんじゃねえよ。覚えてろ」

翌日、義兄は妻に話した。

「DNA検査がしたい」

「え? どうして急にそんなこと言うの?」

「弟から連絡があったんだ。君と浮気してたって」

「その件なら、あみちゃんとも話したけど誤解よ。そもそも正君とは何もないの」

「じゃあなんであいつが背中の火傷のことを知ってる?」

「普通に昔話として言ったことがあるからよ」

「正君とのDNA鑑定も終えて、彼の子じゃなかったし。間違いなくあなたの子よ」

「そこまで言うなら、俺の子だという証明が欲しい」

「私を疑うの?」

「弟は確かにアホでクズだが、嘘をつくやつじゃない。むしろアホすぎて嘘がつけないと言ってもいい」

「だからって、俺の子なんだよな?」

「当然よ」

「だったら検査してくれ」

「それは構わないけど、費用がかかるんじゃない? この間も正君との鑑定をしたばかりなのに」

「一生左右することだぞ。金額なんて言ってる場合じゃない」

「分かった。あなたに任せるわ」

「いい結果が出ることを祈るよ」

「私は絶対にあなたを裏切ったりしない。信じて」

1ヶ月後。

「あみちゃん、大変なことになった」

義兄から電話がかかってきた。声は震えていた。

「どうされたんですか?」

「俺もよ子とDNA鑑定をしたんだけど……違ったんだ」

「え?」

「俺の子じゃなかった」

「ちょっと待ってください。夫の子でもなく、お兄さんの子でもないなら、一体誰の子なんですか?」

「それがありえない結果が出たんだよ」

「どういうことでしょう?」

「今回、俺は子供の性別が知りたくてY染色体の検査を一緒に申し込んだんだ」

「高校で習った気もしますけど、それって何でしたっけ?」

「男性から男性に受け継がれる遺伝子だ。だからあみちゃんは持ってない」

「なるほど。で、お腹の赤ちゃんにY染色体があった?」

「つまり男の子だってことだ」

「そうでしたか」

「問題は……そのY染色体の方が俺と一致したことだ」

「……意味が分からないです」

「じいちゃん、親父、俺、正は、Y染色体を持ってるってことなんだ」

「はい。そこは理解できます」

「で、お腹の子は男の子。Y染色体があるからね」

「ですね」

「でも俺と正の父子関係は否定された」

「はい」

「なのに、Y染色体は一致してる」

「はあ……やっと意味が分かりましたけど、結局どういうことですか?」

「俺たちと同じ染色体を持つ誰かが父親ということになる」

「嘘でしょ? こんなことがあるなんて……」

「可能性としては……親父か、おじさん」

「お父さんの弟さんですね」

「うん。でも叔父は北海道に移住してるし、よ子も結婚式で1度会ったきりで面識はほぼない」

「え? と、なると……まさか、お父さん?」

「考えたくないが……そうなるな」

「やだ、無理。信じられない。あんな真面目そうな親父が、息子の嫁に手を出すなんて」

「お兄さん。ごめんなさい。言わせてもらいます。キモいです」

「うん。俺もそう思ってるから大丈夫だよ」

「仮に、お父さんが相手だったとしても、分からないことがあります」

「そうだね。弟にまで手を出したのは意味不明だ」

「お父さんとの関係をごまかすために、正をカモフラージュにしたかったけど、思いのほか本気になられて困ったとか?」

「それはそれでリスクが増えるだけだよね」

「そうですよね。まだ正の妄想説も否定できませんし、こっちには科学的に証明した証拠がある」

「これでよ子を追求するしかないな」

「また何かあったら教えてください」

「うん」

数時間後。

「よ子、いいかな?」

義兄が問い詰めた。

「何?」

「俺との鑑定結果は出たよ。どうだった?」

「俺の子でもなかった」

「え? 前は否定してたけど、俺の弟と浮気してたんだろ?」

「……ごめん」

「認めるんだな」

「強く言い寄られて、断れなかったの。不妊治療の効果もないし、もう無理だと思ってた。でも妊娠しちゃって、驚いたわ」

「正の子だっていうのか」

「うん」

「でも鑑定結果は違ったんだよな」

「あれは……あみちゃんに嘘をついたの。正君の子よ」

「嘘つけ」

「本当だって。あなたの鑑定を出す時に、正君の分も一緒に出したんだ。2度も間違うわけないじゃない」

「あなたが提出したのは簡易的な鑑定だよな。俺のは法的な証拠として使えるものだ。その結果、俺たち兄弟の子ではないという結果になった」

「……ミスじゃないかしら」

「ありえない」

「……すみませんでした。ネットで知り合った人と、1度だけそういう関係になりました」

「まだ嘘をつくのか」

「正直に言ってるじゃない。不妊治療が辛くて、自暴自棄になってた時期だったのよ」

「そのネットで会った人は、うちの親族か?」

「は? そんなわけないでしょ」

「じゃあ、ますますおかしい。何が言いたいのよ」

「子供にはY染色体がある。つまりは男の子だ。そんなことまで分かるの?」

「Y染色体は受け継がれる。親父と俺と正、そしてお腹の中にいる男の子は同じY染色体を持ってることになる」

「え?」

「おかしいだろ? 俺と正は父親じゃない」

「あなた、自分が何言ってるか分かる?」

「分かるよ。だから怒りで震えてるんじゃないか」

「私とお父さんが……って言いたいの?」

「そうじゃないと説明がつかない」

「話にならないわ」

「お前は親父との関係性を隠すため、正を隠れ蓑に使ったんだ」

「違う」

「弟より親父の方がまだ非難が少ないとでも思ったか? どっちも俺の家族なんだぞ」

「勝手な憶測で話をしないでよ」

「じゃあ正直に言えよ」

「……子供が欲しかっただけよ」

「そんなことは分かってるよ。だから頑張ってたんだろう」

「でも全然できなかった。あなたに原因があるのかもしれないと思ったの」

「だからって、弟と親父に手を出すか?」

「3種類、どれか当たると思ったのよ」

「は?」

「まさか枯れる寸前のお父さんだとは思いもしなかったけど」

「お前な……」

「あなたたち3人、顔もよく似てるし、血液型も同じよね。鑑定なんてしなければ、一生分からないと思ったのに」

「恐ろしい女だな。お前のせいで、俺たち家族は崩壊だ」

「どうして? 今まで通りでいいじゃない。夜の相手を断ったお母さんにも責任はあるし。3人の子育てに追われて女を捨てた」

「あみちゃんもいるわ。当然、私の誘惑にまんまと引っかかったお父さんと正君は極悪人ね。俺は……生殖能力がないことくらいかしら」

「笑い事じゃねえぞ」

「あら、怒っちゃった。まあ、いいわ。責任は取ってもらう。離婚は確定ね」

「構わないわ。種さえもらえれば、私の願いは達成したから。あとはあの女の泣き顔が見れたら最高ね」

「誰のことだ?」

「あみよ」

「は? あの子が何をしたって言うんだ?」

「直接話すわ。じゃあ、さようなら」

数時間後、義兄は父に電話をした。

「親父、よ子から全部聞いた」

「何をだ?」

「よくも息子の嫁に手を出せたもんだな」

「え? よ子の腹の中にいる子は……あんたの子だった」

「まさか……俺はもう60過ぎてんだぞ」

「その年になって分別がつかないんですと自白してるようなもんだぞ」

「悪かった。迫られて、誘惑に勝てなかった」

「くそじじい」

「母さんには黙っててくれないか」

「とっくに荷物をまとめて、今頃出て行ってるよ」

「そんな……こんな年で1人になってどうすれば」

「知るか。ちなみによ子は正とも関係があったぞ」

「はあ……」

「だからあみちゃんも離婚して出ていく。あんたはもう孫には会えない」

「そんなの嫌だ。1人は嫌だ」

「あんたの子が生まれるじゃないか。ここから20年、養育費しっかり払えよ」

「俺はもうすぐ定年なんだぞ」

「知るか。今まで偉そうに人生とか常識とか説教してくれたけど、マジで無駄だったわ。2度と連絡してくんな。くそじじい」

「言い過ぎた。許してくれ」

「あの世で会っても話しかけんなよ。ああ、俺は天国でお前は地獄だけどな」

「そんなこと言わないでくれ」

「葬式もないから、今のうちに言っとくわ。ご愁傷様」

数分後。義兄が私に電話をかけてきた。

「ああ、全部バレちゃった」

「謝罪もないんですね」

「ごめんね。お兄さんからスクショが送られてきました」

私はよ子さんにメッセージを送った。

「お父さんの子なんて、正気ですか?」

「あのおじいちゃん、意外と元気なのよ。試してみたら?」

「やめてください。気持ち悪い」

「正君はだめね。テクニックがないわ。よくあんなのと3人も作れたわね。犬みたいに」

「何ですか、その言い方」

「私の目的は2つ。子供を作ることと、あんたの泣き顔を拝むことよ。はい。私への嫌がらせかのように3人も産んだでしょ」

「すみませんが、あんたなんて眼中にありませんでしたけど」

「私にはそう見えたのでしたら、勝手な被害妄想ですね」

「それが暴走して義弟と義父に手を出すなんて、本当にどうかしてます。病院行った方がいいですよ」

「黙りなさい! 私がどんな思いであんたんとこのガキが騒ぐのを耐えてたと思うの?」

「知ったこっちゃありませんよ。バーバーの妊娠なんて気にしてる暇なかったんで」

「旦那を寝取られただけじゃなく、心まで奪われたくせに強がるんじゃないわよ」

「あんなゴミでよければ差し上げますよ。私には3人の宝物がいるので、遠慮なくどうぞ」

「いらないわよ」

「あと、お母さんもゴミを捨てるそうなので、お父さんのお世話も頑張ってくださいね」

「いらないし。私は子供さえできたらそれでいいの。あとは家族が崩壊しようと知らないから」

「3人から慰謝料請求されるのに、余裕ですね」

「は? 私はこれから母親になるのよ。こっちは子供がいるの。払えるわけないでしょ」

「え? これから母親になって子供を教育していこうとしてる人が、基本的な常識もご存知ないんですか?」

「煽ってんの?」

「いえ、生まれてくるお子さんに同情してるんです。無知でアホな母親で、かわいそうだなって」

「ふざけんじゃないわよ」

「お前がふざけんな。はあ。こっちはこれから3人の子を抱えて1人で頑張っていかなきゃならないんだよ。慰謝料数百万とかの問題じゃないくらい金がかかんの」

「浮気される自分が悪いんでしょ」

「いいえ。する方が悪い」

「私は実家でのんびり子育てをするわ。落ち着いたら慰謝料の件も考えておくから」

「今、お兄さんからLINE来たんですけど、ご実家に向かわれてるそうですよ」

「は? なんで?」

「普通の親なら許さないでしょうね。さて、どうなるか楽しみですね」

「親に言うなんて卑怯よ」

「親に言えないことをするんじゃないわよ」

翌日、よ子さんの実家へ、義兄が訪れた。

よ子さんの両親は絶句し、ひたすら土下座をされたという。義兄はよ子さんに復縁を迫ったが、受け入れられるはずもなく、よ子さんの母からは3発のビンタを食らった。

よ子さんは実の母から「恥さらし」と罵られ、挙げ句の果てに勘当された。お金を借りようと知人や親戚を頼るも、すでに噂が出回っていて門前払い。父親である義父もどこかへ逃げて、行方不明になった。

「あなたが1番頭を下げるべきは、お兄さんよ。最後まであんたのことを信じようとしてたんだから」

私は夫に言った。

「一緒に育ててもらえるように頼んでみるわ」

「無理に決まってんだろ。一生1人で苦しめばいい。ただ、子供に罪はないから、幸せにしてやりなさい」

「ゆと……実家から電話が来てるわ」

義兄はよ子さんに伝えた。

「よ子が電話に出ない。実家だけはやめてって伝えて」

「孤独な育児のスタートね。せいぜい頑張りなさい」

そして、よ子さんは出産直前まで水商売で働きながら、なんとか慰謝料の支払いと育児に追われ、地獄のような毎日を送っているという。

全てを知った正も逃げ出した。

「私のところに戻りたい」

と懇願してきたが、私は言ってやった。

「好きな女ができた途端、簡単に家族を捨てて養育費の責任も放棄するような父親はいらない」

それぞれがしっかりと慰謝料を請求した結果、よ子さんは総額500万円、正と義父は300万円となった。

義兄とお母さんが一緒に住むことになり、私は子供たちを連れて実家へ戻った。

このまま4人で生きていくものだと思ってたのに。家庭を壊された怒りはまだ消えない。でも、笑ってるママを子供たちの記憶に刻めるよう、毎日を明るく生きていきたい。

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