結婚式の最中、義父になるはずの男性にいきなりビールをかけられた。私は妹の晴れ姿を見るために来たのに、彼は「中卒の底辺が来るな」と吐き捨てた。中卒の私が妹のために進学を諦めて働いてきたことなんて、どうでもいいようだった。それでも私は耐えて帰ろうとした。けれど、数日後、彼が私の父に「娘は体を使って就職した」という嘘をついていたことを知ってしまった。私は彼の本性を暴く決心をした。あの日、彼がかけた…

結婚式の最中、義父になるはずの男性にいきなりビールをかけられた。私は妹の晴れ姿を見るために来たのに、彼は「中卒の底辺が来るな」と吐き捨てた。中卒の私が妹のために進学を諦めて働いてきたことなんて、どうでもいいようだった。それでも私は耐えて帰ろうとした。けれど、数日後、彼が私の父に「娘は体を使って就職した」という嘘をついていたことを知ってしまった。私は彼の本性を暴く決心をした。あの日、彼がかけた...

「太田さん、どうしてこんなことをしたんですか?」

式の最中、いきなりビールを頭からかけられた。白いワンピースはベタベタで、周りの親戚は息をのんでいた。

「おい、どうして俺の連絡先を知ってるんだ?」

「波から聞きました。どうしても確認したいことがあったので」

「確認することなんて何もないだろう」

「あるに決まってるでしょう。いきなりビールをぶっかけられたんですから」

私は妹の結婚式に来ていた。父を早くに亡くし、母も事故で失った私たち姉妹にとって、妹の門出は何よりも大事な日だった。

なのに妹の義父になる男性、太田さんは私の顔を見るなり「エリート一家の結婚式に底辺が来るんじゃねえ」と吐き捨てた。

「私は中卒ですけど、ちゃんと働いています。後ろめたいことは何一つありません」

「嘘をつくな。お前のことはもう聞いてるんだ」

「何の話ですか?」

「こんな場でそんな話をさせるんじゃない。とにかくお前のような人間はこの場にふさわしくない。消えろ」

私はトイレの個室に避難していた。ビールでびしょびしょのまま外には出られない。

そこへ太田さんが追いかけてきて、さらに罵倒を続けた。

「妹のことを思うなら欠席するべきだったんだ」

「どうしても私を排除するつもりなんですね」

「当たり前だ。これは我が家にとっても大事な式だからな」

私は覚悟を決めた。これ以上何を言っても無駄だ。そう思って、引き下がることにした。

「わかりました。帰ります」

「2度と俺の前に姿を見せるな」

私は式場を後にした。振り返らずに。

あれから3時間後、妹・波から電話があった。

「お父さん、どういうこと? お姉ちゃんを式場から追い出したんですって?」

どうやら波の友人が、太田さんが私にビールをかけるところを見ていたらしい。そして私がそのまま戻らなかったことも。

「どうしてこんなことをしたんですか? 私は晴れ姿を姉に見せたかったんです」

「家族を大切にする君の気持ちは素晴らしいと思う。ただ、これから先のことを考えると、姉とは縁を切るべきだ」

太田さんは波にそう言ったらしい。

「君はエリート一家に嫁いだんだ。中卒の姉という存在が、必ず君を苦しめることになる。だから私はそうなる前に彼女を排除したんだ」

「ふざけないでください。お姉ちゃんは私のために進学を諦めて働いてくれたんです。両親が亡くなって、誰かが働かないと私たちは生活できなかった。だからお姉ちゃんが就職して私を養ってくれたの」

「だとしても中卒だということに変わりはない」

波はその場で強く反論した。

「もういいです。あなたとは話になりません。私はあなたと家族になりたくないと言ってるんです」

「本気で言ってるのか?」

「当たり前です。私はあなたとは関わりたくありません。婚約も考え直します」

そう言って波は電話を切った。

翌朝、今度は太田さんから大量の留守電が入っていた。泣き声混じりだった。

「どういうことだ? お前のせいで全部パーになったんだぞ」

太田さんが相談していた取引が、失敗したらしい。原因が完全に太田さんにあると、上層部に伝わってしまった。そのせいで会社で大目玉を食らったという。

「お前は篠塚社長と知り合いなんだろう? 社長が直接うちの社長に連絡してきた。お前が俺のことを全部話したんだろうが!」

私は正直に話した。式で起きたことを。妹には黙っていたけど、社長に話しても影響はないと思った。

「こうなったのも全部お前のせいだ。お前の妹と達也の婚約を破棄すると言ってるんだ。それが嫌なら今すぐ謝りに来い。そして篠塚社長に考え直すよう説得しろ」

「そんなことするつもりはありませんよ」

「お前、妹がどうなってもいいのか」

「その波から、結婚は考え直すと言われてるんでしょ? 昨日波から連絡をもらいました。すごく怒られました。黙って帰ったことが許せなかったみたいです。だからそんな脅しは私に通用しません」

「お前な…」

「どうしてそんなに私を目の敵にするんですか?」

「俺が何も知らないと思ってるのか? お前は篠塚社長の会社で働いてるんだろ? 中卒がそんなところで働けると思ってるのか?」

「事実働いてますよ。何が言いたいんですか?」

「お前のやり口はもう知ってるんだ。体を使ったんだろうが」

「……は?」

「お前の父親が言ってたぜ。お前が今の会社に就職したのは、体を使ったからだってな」

その言葉に、私はすべてを理解した。太田さんは私のことを妹から遠ざけるために、私の父親に嘘の情報を流したのだ。

「最低ね。よくそんな嘘をつけたわね」

「お前が邪魔だったんだよ。波はいつもお前のことを考えてた。口を開けばお前との思い出話ばかり。波にとっては俺が一番であるべきだった。だからお前を波の前から消すしかなかったんだ。お前の肩書きだけじゃ足りないと思って、ちょっとスパイスを足してやっただけだ」

「それだけ波を思う気持ちがあったなら、まっすぐ伝えて愛を育んでいったらよかったのに。あんたのような人間と波の結婚を許すことはできないわ」

「ふざけるな。余計なことをするんじゃねえよ」

「波はもうあんたとの関係を考え直してる。このことも伝えてあげる。そうすればきっと答えが固まるはずよ」

それから1ヶ月後。

「いつまでそうやってるつもり?」

達也君から連絡があった。どうやら波の職場の前で待ち伏せしているらしい。

「俺はまだ諦めたわけじゃない。婚約解消だって、波がいきなり言ってきただけで、俺は認めたつもりはない」

「最初は達也君のお父さんに怒ってたわ。でも最終的にはあんたの本性がわかって、婚約解消になったの。これ以上何をしても関係が戻ることはない」

「お前が俺たちの復縁を邪魔してるんだ。いいからさっさと波と合わせろ」

「言っておくけど、波はもうあの会社を辞めてる。マンションも解約して、今は私のマンションで一緒に暮らしてるの。これ以上波にまとわりつくのはやめなさい」

「俺には波しかいないんだ。あんたこそ邪魔をするな」

「これ以上何かしたら、暴力的な手段でも取るつもりよ。私は波を守り続けるわ。あんたが波に送ってたLINEには、脅迫と取れる内容もあった。警察に被害届を出す。そして接近禁止命令も出してもらうから」

「接近禁止命令…」

「もしこれを破るようなことがあったら、あんたは速攻逮捕されるからね。2度と私たちの前に姿を見せないで」

「俺は波を心から幸せにしようと思ってたのに…」

「あんたは最低な人間よ。そんな人間が波の夫であって欲しくなかった。それだけよ」

あれから、達也君は私たちの前に現れることはなかった。

ただ、波と結婚できなかったことへの怒りを、自分の父親に向けてしまったらしい。家で太田さんに「責任を取れ」と殴りかかり、怪我を負わせた。その後警察沙汰になり、太田さんとは絶縁。家族をすべて失い、仕事にも行かなくなって、今は街中をふらふらと歩いているそうだ。波の名前を呼びながら。

でも、近づいてきたらすぐにでも拾ってもらいたい。私はそう思ってる。

ちなみに太田さんは、あの取引の失敗のせいで出世レースから完全に外されたらしい。代わりに出世したのは、高卒の後輩社員だったという。

肩書きなんて、仕事の出来には関係ない。それを身をもって知っただろうけど、時すでに遅しだった。

私は今、波と2人で暮らしている。波はつらい状況に置かれていたけど、新しい仕事も見つかって頑張っている。どんな時でも前を向く波といると、私も力をもらえる。

私はこれからも波を支えていく。家族を失った時もこうして2人で支え合ってきたから、私たちならどんな困難も乗り越えられる。

そして、いつか波がまた幸せをつかめる日が来ることを、心から願っている。

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