「中卒のあなたが桐谷家に嫁げるだけ感謝しなさい。せめてお金くらい出しなさい」——義母のその言葉で、私は八百万円の結婚式費用を全額負担することになった。それだけじゃなかった。婚約者のたヤさんは「後で半分出す」と言い、結局三千五百万円を私から借りていった。そして親族全員欠席の式を強要された時、私はようやく目が覚めた。私は彼らに復讐することを決めた。でも、その時はまだ知らなかった。たヤさんの会社が…

「中卒のあなたが桐谷家に嫁げるだけ感謝しなさい。せめてお金くらい出しなさい」——義母のその言葉で、私は八百万円の結婚式費用を全額負担することになった。それだけじゃなかった。婚約者のたヤさんは「後で半分出す」と言い、結局三千五百万円を私から借りていった。そして親族全員欠席の式を強要された時、私はようやく目が覚めた。私は彼らに復讐することを決めた。でも、その時はまだ知らなかった。たヤさんの会社が...

式場の打ち合わせを全部任されたのは、婚約が決まってからすぐのことだった。

「あ野さん、式のことは全部あなたがやりなさい。私は忙しいから。ただし、谷家の格式に恣ない内容にしなさい」

そう言われた時、私は素直に頷いた。慣れないことは承知の上だった。けれど、次の言葉で固まってしまった。

「費用は全額あなた持ちよ。うちは一円も出さないから。最低八百万は必要ね。桐谷家の名を恣じない式にするなら」

「八百万を全額ですか? さすがに厳しいです」

「文句あるの? 中卒のあなたが桐谷家に嫁げるだけ感謝しなさい。うちは全員大卒。あなたみたいな中卒が入るだけで恥なの。せめてお金くらい出しなさい」

私は十五歳から弁当屋を経営してきた。学歴はないけれど、自分の力で会社を育ててきた自負はあった。でも、義母にとって私は「中卒の弁当屋」でしかなかった。

「お母さん、確かに学歴はありません。でも十五歳から会社を経営しています。『唯一』というのは心外です」

「あの弁当屋のことを経営って呼ぶのね。偉いわ、尊敬しちゃう」

「規模で経営を判断するものではないと思います。小さくてもお店を持っている人は皆経営者です」

「規模は大事よ。うちは都内に二十棟のビルを管理してるの。弁当屋と一緒にしないでちょうだい」

その場ではそれ以上言い返せなかった。帰宅して、婚約者のたヤさんに相談した。

「お母さんから、式の費用八百万を全額私が出すように言われたんだけど」

「ああ、ごめん。嫌な思いをさせて。母さんは学歴のことになると頑固でさ。なんか言ってるくらいに受け流しておいて」

「止めてくれない? 全額はさすがに」

「分かった。俺からも言うよ。でも今会社がバタバタしててすぐには動けないんだ。一旦立て替えてくれないか? 後で半分出すから、約束する」

「本当に?」

「ああ。俺とお前の結婚式だしな。女に全額出させるなんて格好悪いだろ」

その言葉を信じた。結婚したら義母も変わると、たヤさんは言った。「今はまだ法律上は他人だろ。でも家族になったらきっと変わるさ」と。

三週間後、たヤさんから新たな相談が持ちかけられた。

「あ野、悪いんだけど、もう一つ相談があるんだ」

「どうしたの?」

「会社の設備投資で急に資金が必要になった。千二百万ほど融通して欲しくて」

「千二百万? 前に渡した分と合わせたら二千七百万よ」

「分かってる。でも今回の投資がうまくいけば、まとめて返せるんだ」

「会社はビルを二十棟も管理してるんでしょ? その利益で出せないの?」

「ビルの修繕費が重なっててな。一時的な資金繰りの問題だ。一気に建てたから一気にメンテが必要でさ。お前だって店舗の回収で赤字になったこともあるだろ」

「それはあったけど」

「俺たちは規模が違うから、これでもまだマシなんだよ」

「それはそうかもしれないけど」

「俺たちは家族になるんだろ。家族の会社を助けるのは当然じゃないか。十五歳から一人で生きてきたお前に、家族を作ってやりたいんだ。だから今は俺を支えてくれ。頼む」

私は承諾した。そして、経理部長のり子さんに帳簿を頼んだ。

「り子さん、ごめんなんだけど、資金が必要になったの。帳簿をお願いできる?」

「かしこまりました。何の資金でしょうか?」

「たヤさんにお金を出すことになって、合計二千七百万」

「お嬢様、またですか? 入れると三千五百万になります」

「さすがに少々行き過ぎでは」

「でも私もお弁当屋の回収工事で資金繰りに困っていたし。銀行で借りるよりは、身内から借りたい気持ちも分かるの」

「お嬢様、はっきり申し上げます。たヤ様は綾野さんを見ていません。綾野さんのお財布を見ているのです」

「そんなこと言わないでよ。彼だって頑張ってるし」

「私は綾野さんを赤ちゃんの頃から見てきました。ご両親が亡くなったのが十五歳の頃。進学を諦め、ご両親のお弁当屋を守ると、お一人でお弁当を作っていたのを覚えています。あの小さな弁当店を今の規模にしたのはお嬢様自身です。お嬢様が三千五百万を絞り取られている。このまま黙って見ているわけにはいきません」

「でも、たヤさんは私を認めてくれた唯一の男性なの」

「お嬢様。学歴がないことは恥ずかしいことではありませんよ。十五歳で社会に出て、一人で会社を作り上げた。それは大学四年間で得られるものよりはるかに価値があります。それを認められないのは、周りではなくお嬢様自身では?」

「学歴がないことは恥ずかしいこと……そういう偏見は確かにあるわね。でも、今はたヤさんを信じたい。ちゃんと話し合うわ」

「わかりました。ですが、私は私でやるべきことをやらせていただきます」

一週間後、義母から衝撃の言葉を告げられた。

「あ野さん、ちょっといいかしら? 結婚式だけど、桐谷家の親族には全員欠席してもらうことにしたから」

「全員ですか?」

「親族に相談したら、中卒の嫁の身内と同席するのは恥ずかしいと言われてね。まあ、当然の反応よ。仕方ないわ」

「私の身内は、両親が亡くなった時にお世話になった方が数人だけです。たった五人ですよ」

「人数の問題じゃないの。格の問題よ。中卒の身内と大卒の桐谷家の人間が同じ空間に座る。想像するだけで背筋が寒いわ。あなたの亡くなったお母さんも中卒だったんでしょ? その時点で無理ね」

「母のことは関係ないはずです」

「関係あるわよ。環境がそうさせるの。学歴のない家からは学歴のない子しか育たない」

私はたヤさんに助けを求めた。

「お母さんが親族全員欠席にするって。もちろん止めてくれるよね?」

「それなんだけど……母さんの言う通りにした方がいいと思う」

「え?」

「母さんや親族を敵に回すのは得策じゃないんだよ」

「得策って何? 三千五百万出して式の準備も全部やって、それで親族全員欠席なのに我慢しろって?」

「家族ってのは、たまには犠牲も必要なんだよ。結婚したらフォローするから」

「犠牲? 全部私ばかりじゃない」

「大げさだよ。式が終れば全てうまくいくから。俺の家族が仲いいのも、助け合っているのも知ってるだろう」

「たヤさん、俺の家族が君の家族になるって言ったよね」

「ああ、言ったぜ」

「その家族が、私を中卒だからってひどい扱いをしてるんだよ。それでもまだ我慢しろって言うの?」

「今は便にしてくれって頼むからさ」

その夜、私はり子さんに打ち明けた。

「り子さん、ごめんなさい。り子さんの言う通りだった」

「何かありましたか?」

「お母さんが親族全員を式に出さないって。たヤさんも止めてくれなかった。ふざけんなって思った。ショックよりも怒りが大きくて」

「お嬢様、それは当たり前の反応です。むしろ今まで目を背けていたのでしょう」

「三千五百万出して、式の準備を全部やって。それでも中卒だから恥ずかしいって何なの? たヤさんに犠牲も必要だって言われたわ。犠牲って、全部私ばかりなのに」

「お嬢様、怒っていいのですよ。怒って当然です。あなたはずっと我慢しすぎていました」

「お金のことはまだ我慢できた。学歴で見下されるのも慣れてた。でも、母のことまで馬鹿にされて……亡くなった母の学歴まで貶されて。それだけは絶対に許せない」

「お母様は弁当店を誰よりも愛していらっしゃいました。学歴がなくてもお父様と二人で素晴らしいお店を作った。私はそれを見てきました。あの方たちの娘であることを恥じる必要は一切ありません」

「り子さん、お願い。助けて。私、あいつらに復讐したい。このまま馬鹿にされたままなんて嫌」

「もちろんです。実はお話ししたいことがあったのですよ。お嬢様が目を覚ましてくれるのをずっと待っておりました。きっと復讐に使える情報ですから」

三日後、私は式場に最終確認を入れた。

「結婚式について最終確認させてください」

「何よ、もう話すことなんてないでしょ」

「新郎側の参列者がゼロである以上、式の形式が成立しません」

「だから何? 中卒の嫁なんていらないし、親族全員欠席で新郎側の参列者ゼロなら、中止するしかないね」

「本当に中止でいいですか?」

「ええ、もちろんよ。中止になって恥をかくのはあなたの方でしょ。中卒で結婚式も挙げられなかった女って、最高に惨めね」

「わかりました。式の中止と婚約の破棄を進めさせていただきます」

「あら、破棄? いいわね。でもいいの? 中卒で婚約なんて、もう誰にも相手にされないわよ」

「ご心配なく。それでは全ての手続きは私が責任を持ちます。もちろんキャンセル料はあなた持ちよ。自分でキャンセルした式なんだから」

翌日、私は義母に報告した。

「お母さん、きちんとキャンセルしました」

「キャンセルしたのね。ご苦労様」

「結婚式が近かったし、キャンセル料で大損じゃない。中卒らしい無駄ね」

「ええ、八百万はほぼ戻りません。全額私の損です。だって私が出したので。桐谷家は一円も出していませんし、全額中卒の嫁がいましたから」

「分かってるじゃない」

「お母さんは親族の皆さんに、桐谷家の費用で挙げる、と説明されていましたよね?」

「え? 何のこと?」

「調べて知っていますよ。親族の集まりで『中卒はお金がないから費用はこっち持ち。それなのに中卒は態度が大きくて嫌になる』と。だから親族の方の私の印象が悪かったんです。だってお母さんが嘘ばかりしていたから」

「何を言ってるの?」

「中卒の弁当屋に全額負担させていた事実。親族の皆さんはどう思われるでしょうね?」

「余計なことを言うんじゃないわよ」

「余計なこと? お母さんがおっしゃったんですよ、中止にして困るのはあなたの方だと。今のところ、困っているのはどちらでしょうか?」

「とにかく変なことを言うんじゃないわよ。誰も中卒の話なんて聞かないんだから」

たヤさんからも電話がかかってきた。

「あ野、母さんに余計なことを言ったな。今怒りくるって大変なんだよ」

「事実を伝えただけよ。あなたとも結婚しないから」

「いいか? あ野、よく聞けよ。あの金は全部お前が自分から出したものだ。贈与だよ。返す義務はない」

「そうよ。あなたは毎回後で返すと言っていたじゃない」

「口約束なんて証拠にならない。それにな、お前が騒いだらどうなるか教えてやるよ。お前が中卒だって、取引先にばらすぞ。お前の弁当屋、それなりに儲かってるんだろう? 中卒って聞いたら取引先はどう思うかな。信用が落ちるだろ」

「婚約した途端、本性表したわね」

「うっせえよ。家族にならないやつに気を使うわけないだろ。とにかく黙って引き下がれよ。騒ぐなら、お前の会社を終わらせるからな」

一時間後、り子さんがたヤさんの元を訪れた。

「初めまして、たヤ様。私、綾野様の会社で経理部長を務めております。り子と申します」

「はあ。り子って名前、あいつが言ってたな。確か火政府だろ。火政府が何の用だ?」

「火政府ではなく、会計士の資格を持つ経理部長です。綾野様のお金は全て私が管理しております。そのため、いくつかお伝えしたいことがございましてご連絡いたしました」

「俺は話すことねえんだよ」

「では勝手に話しますね。まず、これまでの資金について。あなたは贈与だとおっしゃいました。しかし、綾野様へのLINEで『後で返す』『三ヶ月で返せる』と送信されていることを確認しております。これは貸し付けであることの十分な証拠です。スクリーンショットは全て保存済みです」

「なんだよ、そんなの。いくらでも捏造できるし」

「では、捏造の証拠をお出しください」

「それはその……」

「また、綾野様に対し『中卒をばらす』とおっしゃいましたね。綾野様の取引先は十一年間の実績を見てお付き合づきあってくださっている方々です。学歴で契約を切るような会社はございません。むしろ心配すべきは、たヤさんの方では?」

「はあ? なんでだよ」

「婚約者から三千五百万円を騙し取り、自社の運転資金に流用していた不動会社。こちらの方がよほど信用を失う情報かと思いますが」

「お前、好き勝って言いやがって」

「それにしてもひどいあり様ですね。不動産の負債総額一億五千万円。ビルの売却状況。親族からの出資金五千万円の焦げ付き。こんな状況でよく経営をしていると偉そうに言えたものです」

「会社のことも分かんねえくせに偉そうにすんなよ」

「そうですね。私は経営には関わっていませんが。『お前の会社を終わらせるぞ』というのは、立派な脅迫ということはご理解されていますか? 失礼ながら、大学を出ていらっしゃるのに、この程度の法律もご存知ないのですか?」

「ふざけんな」

「ふざけているのはどちらでしょう? 十五歳から一人で生きてきた女性の孤独につけ込み、家族になると嘘をつき、三千五百万円を騙し取った。これは経営ではなく詐欺と呼ばれるものですよ。お金ではなく、法的な制裁を受ける覚悟を用意しておいた方がよろしいでしょうね」

一週間後、たヤさんから悲痛な電話がかかってきた。

「あ野の親族から電話が鳴りやまないんだ。頼む。なんとかしてくれ。叔父は子供の学費のために出資したんだ。叔父さんは退職金を突っ込んでる。全員の人生がかかってるんだよ」

「それは私ではなく、あなたが説明することでは?」

「頼むよ。三千五百万の返済だけでも待ってくれ。俺一人じゃどうにもならない」

「待てないし、待つ理由がありません。あなたの親族のお金問題は、親族であるあなたが何とかするべきでしょ。私は弁護士を通して、きちんと貸したお金を返してもらうだけなので」

義母からも電話がかかってきた。

「たヤさん、親戚から『式の費用は嫁が全額出してたのか』って問い詰められて。しかも会社の出資金まで消えてるなんて聞いてないわ。たヤが全部隠してたのよ」

「お母さんが知らなかったことには同情します。でも、私を馬鹿にして見下していたのはお母さんの判断ですよね」

「それは中卒だから……」

「中卒だから三千五百万絞り取ってもいい。そういう理屈ですか? そもそも、中卒と見下しながら、それだけのお金を用意できるという時点で矛盾していることに気づけないなんて」

「絞り取ったのはたヤよ。私は知らなかったの」

「でも、『中卒の嫁なんていらない』とおっしゃったのはお母さんですよね。あの一言で、私の中で決断ができました。ありがとうございます。お母さんのおかげで目が覚めましたので」

一時間後、たヤの母が息子を問い詰めていた。

「たヤ、会社が赤字って本当なの? 親戚から聞いたわよ」

「本当だよ。三年前からずっと赤字だ」

「なんで黙ってたの? お父さんが残した会社を」

「俺だって必死だったんだよ。父さんが急に亡なくなって、一億以上の負債を背負わされて」

「だからって婚約者の金を騙し取るなんて」

「母さんだって加担してただろ。あいつに八百万出させたのは誰だよ」

「あれは式の費用で、会社のお金のことなんて知らなかったのよ」

「母さんがあいつを追い出さなきゃ、こうはなってない。俺が必死にあ野をつなぎ止めてたのに」

「中卒は恥だ。親族全員欠席って……あの金がなければ、会社は今日にも潰れるんだよ」

「なら最初からそう言いなさいよ。私に嘘をついて順調だって」

「言えるわけないだろ。母さんは父さんが残した会社を誇りにしてるのに、俺が潰しましたなんて」

「あんたが無能だからこうなったのよ。お父さんに申し訳ないと思わないの?」

「無能は分かってるよ。だから、金のある女を見つけるしかなかったんだ」

「あんた……今、自分で何を言ったか分かってるの? 」

「嫁を金ずるとしか見ていなかった。それを、この母親の前で平気で」

「母さんだって同じだろう。嫁を馬鹿にして、金だけ出させてた。中卒だからって見下たくせに、その中卒の金で暮らしてたんだよ、俺たちは」

数週間後、たヤの会社は潰れ、親族からも絶縁された。たヤは弁護士費用すら払えなくなり、頼み込んでくるだけだった。

義母からも最後の電話がかかってきた。私は、ようやく言いたいことを全部言えた。

「お母さん、この際だから言いますね。私が中卒なのは事実です。両親を亡くして、高校に行けませんでした。偏見を持たれるのも分かるんです。初めて取引先に学歴を聞かれた時のこと。『中学までです』って答えたら、相手の顔が変わりました。『じゃあ結構です』と言われましたから」

「ああ、そうよ。中卒はそういう扱いを受けるのよ」

「悔しかったです。でも泣いたらお弁当が作れないから、我慢して厨房に立ちました。学歴がないから信用してもらうのに、人の三倍の時間がかかりましたよ。何度も『中卒のくせに』って言われて。でも、その中卒の女が作った金で、大学卒のあなたの息子の会社が延命していたんですよ。学歴って何ですか?」

「それは……」

「お母さんも短大卒で、お姑さんから二十年間『学歴のない嫁』と見下されてきたと聞きました。たヤさんが話していたんです。お父さんのご親族が集まるたびに、お母さんだけ席を外すよう言われていたって。だから学歴にはうるさい人だと」

「あの子が、そんなことを……」

「その悔しさを、なぜ私にぶつけたんですか? 同じ苦しみを知っている人が、なぜ同じことを繰り返すんですか?」

「私は……」

「もういいです。私はこれから、中卒だったことを誰にでも話します。隠す必要なんてないと、やっと分かりましたから。お母さん、あなたが私を踏みにじったから、そう決心できた。それだけは本当のことです。もう連絡しないでください」

半年後、り子さんから報告があった。

「お嬢様、一つご報告があります」

「何?」

「実は地元の中学校から、キャリア講演の依頼がありまして。中学校で、『中卒から会社を作った社長の話』を生徒たちに聞かせて欲しいそうですよ」

「私でいいのかな?」

「お嬢様以外に適任者がいると思いますか? 十五歳で社会に出て、一人で会社を作った。その経験は、どんな大学教授の講義より価値がありますよ」

「そっか。うん。そうだよね。分かった。講演の話、受けるよ」

「かしこまりました。ではそのように連絡しますね」

「ねえ、り子さん」

「はい。何でしょうか?」

「ありがとう。十五歳からずっとそばにいてくれて」

「何を今更おっしゃるのですか? 私はお嬢様の家政府ですよ。おそばにいるのは当然のことです」

「もう家政府じゃなくて、今は経理部長でしょ」

「肩書きが何であっても、お嬢様の家族であることに変わりはありません。これからもずっとおそばにいますよ」

「うん。ありがとう、り子さん。私の家族でいてくれて」

その後、たヤの不動産会社は倒産し、親族八家族の出資金五千万円は全額消えた。中卒の嫁に式の費用を全額出させていたことや、三千五百万を騙し取った事実が広まり、二人は親族から完全に孤立した。大卒の自分が受けてきた苦しみを中卒の嫁にぶつけた結果、全てを失った。

たヤは三千五百万円の返済訴訟と脅迫罪で告訴され、大学卒の経歴は「中卒の女性から金を騙し取った男」という評判に塗り替えられた。不動産業界での再就職は絶望的で、借金にまみれた人生を送っている。

一方、私は弁当会社の経営に専念し、翌年には年商五億を突破した。中卒であることにどこか劣等感を抱えていたけれど、今はもう誰にも頭を下げる必要のない場所にたどり着いた。

学歴ではなく、十一年間の努力と、支えてくれたり子さんの愛情が、今の私の背中を押してくれる。学歴だけが全てじゃない。その言葉を今は自分に言い聞かせながら、胸を張って生きていきます。

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