「片親のお母さんには手に入れられない家だから、見せてあげたかったのよね」…

「片親のお母さんには手に入れられない家だから、見せてあげたかったのよね」...

義母が玄関に立っていた。ニコニコと作り笑顔を浮かべて、私たちの新居を眺めている。
「お、お母さん、急にどうしたんですか?」
私は驚きながらも声をかけた。義母は私の質問を無視して、家の中にずかずかと上がり込もうとした。
「急にって?息子の建てた家なんだから、好きに来ていいでしょ。」
その言葉に私は一瞬言葉を失ったが、義母はそんな私を構わず、リビングへと向かっていった。夫は義母の登場にも特に驚くこともなく、「来たのか」と嬉しそうに部屋を案内し始めた。

私は1年前、夫の優子と結婚した。大学時代の同級生だったが、当時は顔見知り程度の関係だった。再会したのは2年前、共通の友人の結婚式だった。久しぶりに話してみると、気が合い、すぐに仲良くなった。「どうして大学時代にもっと早く仲良くなれなかったんだろう」と2人で不思議に思うほどだった。

その後、優子から告白され、私たちは付き合うことになった。

私は元々、早く結婚したいと思っていた。父を幼い頃に交通事故で亡くし、母が女手一つで私を育ててくれたからだ。母は私を不自由させないようにと必死に働き、休日には遊びに連れて行ってくれた。そんな母への1番の親孝行は、結婚して安心させることだと思っていた。
優子はそんな私の家庭環境を理解し、母のことも「すごい」と褒めてくれた。そして付き合って1年が経った頃、プロポーズしてくれた。「これからは2人で母さんを幸せにしよう」という言葉に、私は本当に嬉しかった。

お互いの親への挨拶を済ませ、結婚式も無事に終えた。私たちは最初、私が住んでいたアパートで2人の生活を始めることにした。

しかし義母の対応は、結婚してからも一向に良くならなかった。初めて会った時から、私のことを一切見ようとせず、挨拶をしてもまともに返事をしてくれなかった。過保護なところがあるからだと、あの時は夫に言われて納得したふりをしていたが、実際はそうではなかった。
義母は頻繁に私たちのアパートにやって来るようになった。夫の鉱物を作って持ってきたり、「ここは居心地が悪いわね」「家具の趣味もあんまり良くないみたいだし」と、嫌みばかり言ってくる。しかも、それは決まって夫のいない時だった。

ある日、義母は私の料理を勝手に味見して、こう言った。
「あなたって料理もあんまりうまくないのね。やっぱり片親だから、まともなご飯を食べてこなかったのかしら。」
私は一気に怒りが湧いた。確かに私は片親育ちだが、母はいつも美味しい料理を作ってくれた。食事に困ったことなど一度もない。
「母の悪口を言うのはやめてください。」
真剣にそう言うと、義母はケラケラと笑い出した。
「やっぱりまともな親に育てられないと、こうなるのね。ゆゴも結婚する相手を間違えたようね。かわいそうに。」
それだけ言って、義母は立ち去っていった。私は怒りで震えが止まらず、その場に立ち尽くした。

その夜、夫に相談した。今まで言われたことを全て話すと、夫は驚いていたが、返ってきた言葉は意外なものだった。
「まあ、そのうちに亡くなると思うよ。」
こんなに私が怒っているのに、夫はあけらかんとした口調でそう言ったのだ。頼りにならない夫に、私はもう自分で何とかするしかないと悟った。

そして私は、家を建てようと決意した。義母と夫の関係が変わらないのなら、私が距離を置くしかない。大きい家に引っ越せば、義母に押しかけられても逃げ場がある。それに、家が大きくなれば母も気兼ねなく遊びに来られる。義母が夫に会いに来る時も、家が狭いからと言って、いつも母を連れてこない。母がいれば、義母も好き放題私を悪く言うことはないだろう。

貯金をしつつ、時間をかけて準備を進め、ようやく私たち夫婦は夢だった家を建てることができた。新居での生活が落ち着いた頃、私たちは休日に私の母を家に招待することにした Henrik母に早く自分の家を見せたいと思っていたし、夫も賛成してくれた。
約束の時間より少し早く、インターホンが鳴った。楽しみにしてくれているのかもしれないと思いながら玄関を開けると、そこに立っていたのは義母だった。

義母は家の中を楽しそうに見学している。
「ああ、本当に素敵なお家ね。お母さんもとても嬉しいわ。」
さっきまで私に向けていた嫌みなどはどこへやら、猫撫で声で夫にそう言っている。私がそんな2人の様子に呆れていた時、またインターホンが鳴った。
今度こそ母だろうと、慌ててモニターを確認する。モニター越しの母は、少し緊張した様子でそわそわしていた。
「すぐ開けるね!」
私がそう声をかけた時、横から義母がモニターを覗き込んできた。
「なんでリノさんのお母さんがいるの?」
さっきまでとは全く違う低い声で、私を睨みつけながらそう言ってきた。
「今日はお母さんを招待していたんです。」
それだけ言って、私はすぐに玄関を開けに向かった。母を出迎えると、母は嬉しそうに私を見ている。
「お母さん、来てくれてありがとう。」
家を建てる際、母には色々と相談していたこともあり、この家を見せられることを本当に嬉しく思った。
「夢が叶ってよかったね。」
母が優しくそう言ってくれた時、後ろからドスドスと足音が聞こえてきた。
「あら、お久しぶりね。」
義母は母にそう言って近づくと、上から下までじろじろと値踏みするように見た。
「わざわざ息子の新居祝いに来てくれたのかしら。」
馬鹿にするような口調だった。母は少し戸惑っているようだ。
「でもごめんなさい。中には入れられないの。息子の建てた家だもの。」
義母はわけのわからないことを言い出した。私はすぐに言い返した。
「お母さん、ここは私とゆ子の家です。勝手にそんなこと言わないでください。」
すると義母は、今度は私の方を見て鼻で笑った。
「片親のお母さんには手に入れられない家だから、見せてあげたかったのよね。」
また母の悪口を言い出した。母は顔を俯かせてしまい、表情が分からない。
「いい加減にしてください。母のことは悪く言わないでもらえますか?」
私は黙っていられず、つい大きな声を出してしまった。その声に気づいた夫も、慌てて玄関にやってくる。
「分かったわ。入っていいわよ。でも、ユゴの家なんだから、入場料を払ってから入ってちょうだい。」

その言葉を聞いて、今まで我慢していたものが溢れてきた。
「そうですか。じゃあ、お母さんが払ってください。」
私がそう言うと、義母は鋭い目つきで私を睨みつけた。
「なんで私が払うのよ。ここは私の息子のお金で立てた家なのよ。」
そう言って声を荒げている義母に、私は冷静な口調で本当のことを教えてあげた。
「何言ってるんですか? ここは、私と私の母が建てた家です。」
義母は大きく目を見開いて、驚きの表情を浮かべた。実は、この家は私の貯金と、母が出してくれたお金で建てたものだった。義母には話しておらず、ずっと息子が建てた家だと思い込んでいたのだ。
「そ、そんなはずないじゃないね。ゴ、そんなこと言われていいの?」
義母はそう言って夫に話しかけるが、夫は顔を真っ赤にさせて固まっている。
「この家を建てるのに、ゆ子さんは1円も払ってませんよ。だから、入場料を払うのはお母さんです。」
私がそこまで言っても、義母は信じられないようで、「嘘だ」と言って私を怒鳴りつける。
「何言ってるのよ。優ゴは大手企業の社員なのよ。ユゴがいなきゃ、こんな立派な家、立てられるはずがない。」
私は夫に、きちんと説明するべきだと言葉を促した。
「実は、もう何年も前に退職してるんだ。」
夫のその言葉を聞いた義母は、相当ショックだったのか、一瞬ふらついていた。実は夫は元々大手企業の社員として働いていたが、私と付き合ってから少し経った頃、上司に注意されたことで嫌になり、勢いで退職していたのだ。就職活動をしてもなかなか仕事が決まらず、派遣社員として働き始めたが、どこも契約を更新してもらえず、やめることになった。夫は心配かけたくないからと、義母には黙っていたのだ。
義母は、大手企業に務めているということが誇らしかったのか、真実を聞くと肩を落として落ち込んでしまう。しかしすぐに顔を上げて、また私に怒鳴り始めた。
「ことは分かったわ。でも、あなたとその母親が、そんなお金を持っているはずないわ。」
また私たちを馬鹿にし始める。
「こんな母親に何ができるって言うの? それに、家庭のあなたが、いい給料の貰える仕事につけるはずないわ。」
こんな状況になってもそんなことを言うのかと、怒りを通り越して呆れてしまう。
「母は、ずっと会社を経営しています。あなたに馬鹿にされるような人間じゃありません。」
実は私の両親は、私が小さい頃に会社を立ち上げ、2人で頑張っていた。父がいなくなってからも、母が1人で会社を守り続け、今では大きな会社になっている。
その事実を告げても、義母はまた「嘘だ」と叫んでいる。
そんな時、ある人の声が聞こえてきた。
「いい加減にしろ。もう帰るぞ。」
そう言って義母の腕を引っ張ったのは、義父だった。実は、義母が来た時に、義父に家に来て欲しいと連絡していたのだ。義父は見えないところで話を全て聞いていたようで、険しい顔をしており、とても怒っている様子だった。義母はそのまま、義父に連れられて帰っていった。

あれから、義母は義父に相当怒られたようだ。今までのことも全て話し、義父は何度も私に謝罪してくれた。義母は義父に怒られたことで、家に頻繁に来ることはなくなった。たまに顔を合わせることもあるが、別人のように対応も変わり、大分大人しくなっている。母が社長だと知り、悪口を言われることもなくなった。
そして夫も、あの日をきっかけに変わり始めた。今まで私や母、そして義母に甘えていたことに、ようやく気づけたようだ。見たこともないくらい真剣に就職活動をして、正社員として働けることになった。
私はストレスなく、新居での生活を楽しんでいる。母もよく遊びに来てくれるようになり、幸せな毎日だ。色々と母には悲しい思いをさせてしまったが、母は「気にしていない」と笑ってくれた。そんな母の姿を見て、私は母がお母さんで良かったと感じる。
私のために頑張って来てくれた母にもっと恩返しができるよう、これからも夫と一緒に頑張っていこうと思っている。

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