今日で首だ。その言葉が吐き捨てられた瞬間、会議室の空気が凍りついた。罵倒された派遣社員のひまりは、唇を震わせながらも何も言い返せなかった。
「聞こえなかったか?契約は更新しない」
「何か私に不があったのでしょうか?」
隣に立つ白崎が薄い笑みを浮かべた。
「仕方ないわよ。派遣ってそういうものだから」
もう決定事項です。明日から来なくていい。引き継ぎの準備を。
20ヶ月間、誰よりも早く出社し、誰よりも遅くまで残った女性が、たった一言で職を追われようとしている。だが、この時誰もが見落としていた。直後、会議室の扉が開き、一人の老人が現れた。
「今の話、全部聞かせてもらった」
この二人はまだ知らなかった。自分たちがしたことの代償が、どれほど重いものになるのかを。
—
十月の昼下がり。劇場エンタープライズが入居するオフィスビルの一階には、ラウンジ形式の食堂がある。テナント各社の社員や客が自由に使えるその場所に、一人の老人がいた。薄いカーディガンに地味なスラックス、くたびれた帽子。来客用のバッジを胸に下げているが、それ以外にこれといった特徴はない。どこにでもいるごく普通の老人に見えた。
「いつもありがとうございます。今日もコーヒーでよろしいですか?」
「ああ、頼むよ。今日は少し肌寒いね」
「本当ですね。もうすっかり秋ですね。お体に気をつけてください」
「ありがとう。お嬢さんもね」
食堂スタッフは小さく笑ってカウンターに戻っていった。この老人が食堂に来るようになって、もう三ヶ月になる。受付で来客バッジを受け取り、窓際の席でコーヒーを飲む。それだけのことだったが、スタッフには顔を覚えられ、今では自然な常連になっていた。
昼休みの時間になると、食堂に社員たちが流れ込んできた。笑い声、食器を運ぶ音。賑やかになった食堂の中で、老人は静かにコーヒーカップを両手で包み、行き交う人々をただ穏やかに眺めていた。古い革の手帳を開き、日付を書き入れる。それが今日の観察を始めるための、いつもの儀式だった。
—
昼休みが始まって十分が過ぎた頃、一人の女性が食堂に入ってきた。飾り気のないブラウスにグレーのスカート、手には小さな弁当箱を持っている。周囲の社員たちがグループで昼食をとる中、彼女は一人で隅のテーブルに腰を下ろした。弁当箱を開けようとしたその瞬間、スマートフォンが鳴った。
「はい、ひまりです。今すぐですか?分かりました」
彼女は弁当箱を閉じ、立ち上がった。まだ何も食べていない。老人はその背中を目で追った。廊下に出た彼女に向かって、高い声が飛んだ。
「ひまり、電話ワンコールで出ろ」
「すみません」
声の主は総務部課長の黒沢正尾。パリッとしたスーツに磨き上げた靴。いかにもやり手の管理職といった風貌だが、その声には部下への敬意が微塵もなかった。
「備品庫の整理は終わったのか。午後一で報告書が必要だと言っただろう」
「申し訳ございません。昼休み中に仕上げます」
「当たり前だ。それと会議室の準備も頼んだぞ。三時からだ」
「承知しました」
その声は食堂まで筒抜けに聞こえていた。老人はコーヒーカップをソーサーに戻し、手帳を開いた。
三十分後、ひまりが食堂に戻ってきた。温めてあった弁当箱を開き、急いで箸を動かし始める。その手が少し震えていた。老人はそっと声をかけた。
「冷めてしまったね」
「あ、はい。少し」
「毎日こんな感じかね」
「今日はたまたまです」
「そうか。それにしても、呼ばれた時の顔が少しも驚いていなかったね」
「そ、そうですか」
ひまりは少し驚いたように老人を見た。それから小さく笑った。
「よくここにいらっしゃいますよね」
「知人がこのビルに勤めていてね。たまに顔を出しているだけだよ」
「そうなんですね。私もここのビルで働いています。総務部で派遣でもうすぐ一年になります」
「仕事は大変かね」
「楽しいです。働けることがありがたいので」
「そうか」
「はい。母が施設でお世話になっていて、その費用のために働いているんです。だから仕事があるだけで、本当にありがたくて」
老人は静かに目を細めた。
その時、食堂の入り口に白崎が現れた。有名私立大学卒を鼻にかける総務部の正社員、白崎ルリ。華やかな笑顔で周囲に愛想を振りまくその女性が、ひまりを見つけると表情が一変した。
「ひまりさん、まだいたの?黒沢課長がまた呼んでるわよ」
「はい。すぐ行きます」
ひまりは弁当箱を慌てて閉じ、老人に小さく会釈して立ち上がった。弁当はまだ半分以上残っていた。白崎はひまりの後ろ姿を見送りながら、老人をちらりと一瞥した。興味なさそうに視線を外し、そのまま去っていく。老人は手帳に静かにペンを走らせた。日付、時刻、黒沢の言葉。ひまりの弁当が二度中断されたこと。白崎の態度。一つ一つ丁寧に書き留めた。
—
数日後、老人が食堂でコーヒーを飲んでいると、ひまりが弁当を持って入ってきた。席に着いたひまりのところに、白崎が近づいてきた。
「ひまりさん、あのレポート、課長にすごく褒めてもらったわ。ありがとうね」
「はい。良かったです」
「ああ、でも最後に調整したのは私だから、私が作成したってことで変わりないわね。データまとめるの大変だったでしょう。じゃ、お疲れ様」
笑顔のまま言い放ち、白崎は去っていった。
老人はため息をつくひまりに声をかけた。
「知り合いかね」
「同じ部署の方です」
「あのレポートと言っていたね。君の作ったものだろう。あんな風に言わせておいていいのかね」
ひまりは少し間を置いた。
「私は派遣ですので、よくあることです」
「派遣なんて関係ないだろう。君が正当に評価されないのは」
「気にしていません。私にできることは、次も同じように丁寧に仕事をするだけですから」
そう言いながらひまりは弁当箱を開けた。その手が微かに震えていた。
「そうか」
老人は何も言わず手帳にペンを走らせた。それからしばらくして静かに口を開いた。
「お嬢さん」
「はい」
「人は見られていないと思う時にこそ、本性が出る。お嬢さんの誠実さはちゃんと誰かに届いているよ」
ひまりはしばらく黙っていた。
「そうだといいんですが」
「そうだよ。私が保証する」
ひまりは驚いて老人を見た。それから顔の緊張が少しだけほぐれて、小さく笑った。
「ありがとうございます」
ひまりは弁当箱を鞄にしまい、食堂を出た。廊下に出たところでスマートフォンを取り出した。
「もしもし。お母さん。今日ね、食堂で優しいおじいさんに声をかけてもらって、なんか久しぶりに温かい気持ちになったよ」
「そう、よかったね、さゆみ」
「うん。お母さんこそ体の具合はどう?」
「大丈夫よ。施設の方がよくしてくれてるから。さゆみ、無理しすぎてない?」
「してないよ。ちゃんと食べてるし」
「あなたの声を聞いていたら安心した」
「私もだよ。じゃあまた来週ね」
電話を切ったひまりは、廊下の隅でしばらく立ったまま小さく笑った。それから深く息を吸って、オフィスへと戻っていった。
—
その週の終わり、総務部では部会議が開かれていた。
「備品のコスト削減について、何かアイデアはあるか」
しばらく沈黙が続いた。黒沢が白崎に視線を向けたその時、ひまりが静かに手を上げた。
「発注先を見直して、月に三万円ほど削減できる可能性があります。先月、データをまとめてみたのですが」
「はあ」
「現在の発注先より単価が安く、品質も同等のメーカーが二社あります。こちらが比較資料です」
黒沢は資料に目を通した。数字は明確で、根拠もしっかりしていた。
「悪くないな。検討しよう」
会議が終わった後、廊下で黒沢と白崎が二人になった。
「課長、ひまりさん、ああいうの通るんですか?」
「通常じゃ悪くない。通るだろうな」
「派遣があんな提案して、評価されちゃうんですね」
黒沢は少しわざとらしい口調で言った。
「白崎さん、あの資料は誰が作ったんだったかな?」
「そうですね。あ、私がまとめたものでしたわね、課長」
「うん。そうだね」
二人の間に静かな間が生まれた。余韻を残すように黒沢が口を開いた。
「先月の備品コスト削減、上の方から評価を頂いた。白崎さんの提案が会社の役に立った」
「ありがとうございます」
ひまりは何も言わなかった。ただ静かに前を向いていた。だが、その手が膝の上で微かに握りしめられていた。
「あいつ、何も言わないな」
「言えないんですよ。派遣ですから」
「そうだな。だが、そろそろ潮時じゃないか」
「ええ、課長」
—
その日の昼休み、給湯室でひまりがお茶を入れていると、白崎が入ってきた。
「あ、ひまりさん、ちょうど良かった」
「はい」
「本当すごいよね。ひまりさんって派遣なのに、あんなに一生懸命で。私には真似できないです」
「ありがとうございます」
「だって派遣って責任ないじゃないですか。何かあっても会社を辞めればいいだけだし。そう考えたら気楽でいいですよね。正社員だったら私みたいにプレッシャーもあるし、色々大変で。ひまりさんが羨ましいですよ」
「ある意味、そうですね。でも、私は派遣でも正社員でも、同じように仕事をするつもりでいます」
「そう。まあ、それはそれで大変ですね」
笑顔のまま言い放ち、白崎は給湯室を出ていった。ひまりはしばらくその場に立ったまま、お茶の入った湯のみを両手で包んでいた。
—
その日の午後、窓の外が急に暗くなった。ひまりが外回りから戻る途中、雨が降り始めた。ビルまであと二ブロック。ひまりが足を早めようとした時、軒下に一人の人物が立っているのが目に入った。ああ、食堂でよく会うあのおじいさんだった。傘を持っていないのか。
雨足が強まる中、じっと軒下に立っている。
「よければ、これを使ってください」
「いや、すぐやむだろう。お嬢さんが濡れてしまう」
「大丈夫です。ビルまですぐそこなので、走れますから」
「しかし」
「年配の方が濡れたまま歩く方が心配です。どうぞ」
老人はしばらくひまりを見つめた。それから静かに笑った。
「それなら、二人で入ろう。駅の方角はどっちかね」
二人は一本の小さな折り畳み傘に肩を寄せ、駅に向かって歩いた。傘の端からしたたる雨が老人の肩を濡らしたが、不思議と足取りは明るかった。
「お嬢さん、さっきの外回りは遠かったのかね?」
「あ、いいえ。四谷の取引先でした。でも、帰りが少し遅くなってしまって」
「それは仕方ない。この激しい雨だ」
「課長には何か言われるかもしれませんが」
「遅くなった理由が雨なら、怒られることはないだろう」
ひまりは少し笑った。
「そうですね。でも、理由があるかどうかは関係ないことも多くて」
「そうか」
しばらく二人は黙って歩いた。雨の匂いが漂い、傘を叩く雨音だけが続く。
「お嬢さん、ここの会社は長いのかね?」
「八ヶ月です。実は前の職場が倒産してしまって」
「それは大変だったね」
「三十五歳での転職活動は、思っていたより厳しくて。正社員の口はどこも経験者優遇か年齢制限があって。何十社も受けて、何度も断られて」
「そうか」
「母がいましたから、諦める理由がなかったんです。だからここに拾ってもらえた時は本当に嬉しくて。派遣でも何でも、働けるだけありがたかった」
老人は黙ってひまりの横顔を見た。雨に濡れた髪を手で抑えながら、それでもまっすぐ前を向いて歩いている。
「お嬢さんは強いね」
「そんなことないです。ただ、やるしかなかっただけで」
「やるしかないと思える人間が、一番強いんだよ」
ひまりはしばらく黙っていた。それから小さく笑った。
「おじいさん、不思議ですね」
「何がかね」
「他の人にはあまり話さないようなことも、おじいさんの前では何でも話してしまいます」
老人は何も言わず、ただ静かに笑った。
「お母さんの具合はどうかね」
「先週会いに行ったら、顔色が良くて安心しました。施設の方がよくしてくださって」
「それは良かった」
「だから頑張れるんです。母が元気でいてくれる間は、私も頑張らないといけないので」
「立派だよ、お嬢さんは」
「そんな大げさです。ただ働いてるだけです」
「ただ働いているだけと言える人間が、どれだけいるかね。それだけのことが、なかなかできないんだよ」
駅に着くと、ひまりは丁寧に頭を下げた。
「私の行き先のビルもすぐ近くです。傘が届くまで使ってください。今度お返しいただければ大丈夫ですから」
「ありがとう。必ず返すよ」
ひまりは小さく手を振り、小走りでビルの方へ消えていった。老人の手には、ひまりの折り畳み傘が残されている。雨に濡れた傘の柄をしっかりと握りながら、老人は空を見上げた。
—
その翌朝、黒沢がひまりを呼びつけた。
「昨日の外回り、帰りが遅かったな。業務時間内に戻れないなら、外回りは任せられない」
「申し訳ありません。雨で足止めされてしまい」
「そういう段取りの悪さが問題だと言っているんだ。お客様のところで時間を取りすぎたんじゃないですか」
「申し訳ございませんでした」
ひまりが部屋を出た後、黒沢と白崎が二人になった。
「ひまり、最近使えんな」
「本当ですよね。外回りの段取りも悪いですし」
「そろそろ動くか」
「ええ、課長。ちょうどいい機会じゃないですか?」
—
それからの二週間、老人は週に二回ほどのペースでビルの食堂に姿を表した。コーヒーを飲みながら手帳に記録をつける。いつもと変わらない様子だったが、その目は以前より鋭くなっていた。ある昼、ひまりが食堂に来た。その日は珍しく、弁当を最後まで食べられそうだった。老人は声をかけた。
「お嬢さん、傘をまだ返せていなくて申し訳ない」
「いいんです。古いものですから、気にしないでください」
「いや、必ず返すよ。大事な傘だろう」
ひまりは小さく笑った。
「今日は呼ばれないのかね」
「課長が外出中なので」
「なるほど。それは良かった」
しばらく二人は黙って過ごした。やがて老人が口を開いた。
「お嬢さん。一つ聞いていいかね?この職場に来て、理不尽だと思ったことはあるかね?」
ひまりはしばらく黙っていた。
「あります。でも、どこの職場でもそういうものだと思っていますので」
「そうか。それでも、誰かに見てもらえていたら、少しは違うかね」
ひまりは少し驚いたように老人を見た。それから静かに目を伏せた。
「そうですね。それだけで、だいぶ違うと思います」
「そうか」
老人は何も言わず、ただ静かに頷いた。
—
その日の夜、老人は小さな喫茶店で携帯電話を取り出した。
「私と少し調べて欲しいことがある。総務部の課長と派遣社員の状況だ。筋書きだけでいい」
電話を切った後、老人はコーヒーを一口すった。鞄の中には、まだ返せていない折り畳み傘が入っている。窓の外に目をやると、雨上がりの空にうっすらと虹がかかっていた。その虹を見ながら、老人は四十年前のことを思い出していた。
東京の下町にあった小さな部品工場。従業員は自分を含めて三人。先方に一社ずつ回り、頭を下げ、信頼を積み重ねてきた日々。誰も振り向いてくれなかった頃、それでも朝、工場の扉を開け続けた。諦めなかったのは、一緒に働く人間たちの顔があったからだ。あの頃の自分と、ひまりが重なった。誰にも見てもらえなくても手を抜かない。理不尽な扱いを受けても、仕事への誠実さを失わない。それは四十年前の自分が、誰よりも大切にしてきたことだった。
「あの子は本物だ」
コーヒーカップをソーサーに戻す音が、静かな喫茶店に響いた。
数日後、報告が届いた。過去一年で四名。全員、同じ上司の元で辞めていた。
「四人も。誰も気づかなかったのか」
手帳を閉じ、老人は席を立った。鞄の中の折り畳み傘が、小さな重みを肩に伝えていた。
—
その週の月曜日、ひまりは朝から胸騒ぎがしていた。黒沢がいつもと違う。白崎も、何かを知っているような顔をしている。だが、ひまりには確かめる術がなく、いつも通り仕事をこなすことしかできなかった。午前十時を回った頃、黒沢がひまりを呼んだ。
「ひまりさん、少し時間をもらえるか。会議室に来てくれ」
会議室に入ると、白崎がすでに座っていた。ひまりは二人の向かいに座った。黒沢が書類を一枚、テーブルに置いた。
「単刀直入に言う。今日で首だ」
「え?」
「契約はもう更新しない」
ひまりは一瞬息が止まった。
「理由を教えていただけますか?」
「業務上のミスが複数ある。外回りの段取りの悪さ、報告の遅れ。それから、同僚からの報告も上がっている」
「同僚からの報告というのは、具体的にどのような内容でしょうか?」
「詳細はお伝えできない。複数名から上がっているということだけ言っておく」
白崎が静かに手を膝に置き、澄ました顔をしていた。
「外回りの件は、雨で帰りが遅くなったためです。ミスの具体的な内容と日時を教えていただかなければ、私には納得できません」
「納得する必要はない。こちらが決めたことだ」
「ひまりさん、あなたの仕事への姿勢は認めています。ただ、うちにはうちの基準があって。具体的なミスの内容を確認させてください。業務記録を見れば」
「もういい。明日から来なくていい」
その言葉が、ひまりの耳の中でゆっくりと広がっていった。明日から来なくていい。頭の中で母親の顔が浮かんだ。先週会いに行った時の、あの笑顔。施設の費用。来月の支払い、再来月の支払い。三十五歳で転職活動をした時の、あの日々。何十社も断られて、それでもここに拾ってもらえた時の、あの安堵感。ここを失ったら。
ひまりは唇を強く噛んだ。膝の上で手が小さく震えていた。それでも、顔を上げた。泣いてはいけない。感情的になってはいけない。今できることは、ただ事実を伝えることだけだ。
「お願いします。記録を確認させてください。私にはここで働き続けなければならない理由があります」
「それは関係ない。次の準備を」
その時、会議室のドアがノックされた。三人が一斉にドアを見た。ゆっくりとドアが開く。そこに立っていたのは、薄いカーディガンに地味なスラックス姿の男だった。
「どなたですか?ここは関係者以外」
「あなた、食堂でよく見かける人じゃないですか?ここに何の用ですか?」
老人はそれには答えず、静かに会議室の中に入った。背筋がすっと伸び、その一歩一歩から、ただの老人とは明らかに異なる何かが滲み出ていた。
「今の話、全部聞かせてもらった。確認させてもらいたいことがある」
「部外者には関係ない話です。出ていってください。警備を呼びますよ」
「課長、さっさと警備を呼びましょうよ。誰ですか、審者じゃないですか?」
「ひまりさんの業務上のミスが複数あると言ったな。具体的にどの案件で、どのようなミスがあったのか、聞かせてもらえるか」
「だから、社外の人間に答えられない」
「社内、社外ではなく、答えられないのかね。それとも、そんなものは存在しないのか」
「当たり前だ。社内の部外者に話す義務はない」
老人は懐から名刺入れを取り出した。古びた革の名刺入れから一枚を丁寧に引き抜いて、テーブルの上に静かに置いた。黒沢がその名刺に目を落とした瞬間、顔色が変わった。
『劇場エンタープライズ 名誉会長 三戸誠一』
「め、名誉会長…」
声が完全に裏返った。白崎が肩越しに覗き込んだ。その瞬間、白崎の顔がみるみる青ざめていった。
「な、そんな。そんなはずは…」
「め、名誉会長が、なぜ…なぜここに」
額にみるみる汗が浮かび、黒沢の膝が小刻みに震え始めた。椅子の背もたれにすがるように手をついている。
「あの食堂にいた人が、まさかそんな」
白崎の手から資料がテーブルに滑り落ちた。それを拾う余裕すらない。口が半開きのまま、言葉が出てこなかった。ひまりもまた、信じられないという表情で老人を見つめていた。食堂のおじいさんが、名誉会長?
「君たちが入社する前になるかな。私は社長を退いた後、名誉会長となってからは、社内向けの掲載も断ってきた。現場を自分の目で見るためには、顔を知られていては困る。だから、写真も一切残していない。知らなくても無理はないがね」
そう言ってから、老人は黒沢と白崎に向き直った。
「部外者ではないことは分かったがね。なあ、改めて聞こう。ひまりさんのミスとは、具体的に何だ?」
「そ、それは…総合的な判断で」
「総合的とは便利な言葉だな。具体性がないということの言い換えだ」
「現場には現場の事情がありまして」
「現場の事情とは何かね」
黒沢は口を開いたが、言葉が出てこなかった。答えられないのも無理はない。ミスなど存在しないからだ。老人は内ポケットから手帳を取り出した。黒沢と白崎は、その古びた革を見て顔を強張らせた。
「この数週間、私はこの会社で何が起きているか、全てこの目で見てきた。食堂から、どうかこの目で見て、この手で記録した」
老人は手帳を開き、淡々と読み上げ始めた。
「ひまりさんが昼休みに食堂で弁当を食べようとするたびに、呼び出された記録が七回。いずれも緊急性のない要件だった」
「そ、それは業務上の必要が…」
「七回、全てが必要だったと言えるかね。日時と理由を答えてみなさい。答えられないな」
老人はページをゆっくりとめくった。
「ひまりさんが作成した業務改善レポートを、自分の名前で提出した。白崎さんが食堂でひまりさんに声をかけた時のこと、私はしっかりと見ていた」
「それは私が取りまとめたもので」
「取りまとめた?データを集め、資料を作ったのは誰かね。君は最後に調整しただけなのだろう」
「そ、それは」
「答えられないな。では次だ」
白崎の膝が崩れた。ガクガク震えながら、テーブルの端を掴んでかろうじて立っている。
「外回りの件。ひまりさんが雨で帰りが遅くなったことを、あの日、君は『段取りの悪さ』と言ったな」
「ええ、そんな…」
「ひまりさんが遅くなった理由を知っているかね?」
「雨で足止めされたと…」
「足止めされた理由だ。君には分からないか。ならば、教えてあげよう。傘を持っていない人間に、自分の傘を差し出したからだ」
会議室が静まり返った。
「その相手が誰だったか、今なら分かるかね」
黒沢と白崎は、老人の顔を見た。そして理解した。傘を貸した相手が、この会社の名誉会長だったということ。
「そ、そんな…まさか、あの雨の日…」
黒沢の声が震えた。脂汗が顎を伝って落ちた。
「ひまりさんは、私が誰かも知らずに傘を差し出してくれた。見返りを求めず、ただ目の前の人間を気遣っただけだ。その寛容さが、解雇の口実にされた」
「会長、それは…」
「黒沢課長。あなたの元で、過去一年間に四名の派遣社員が辞めている。全員、理由は『一身上の都合』だ。だが、今の私には、その裏に何があったか想像がつく」
「そ、それは…彼女たちが自分で…」
「本当にそう思っているかね?」
黒沢は何も言えなかった。
「白崎さん」
老人が静かに名前を読んだ。白崎の体が小さく震えた。
「あなたがひまりさんの資料を自分の名前で出したのは、何回あったかね?これは君の直属だった、辞めていった派遣社員にも、同様のことをしている可能性がある。調べさせてもらうよ」
「それは…たまたま」
「たまたまが、何度も続いたのかね?」
白崎は唇を噛んだ。視線が泳ぎ、言い返す言葉が見つからない。老人は手帳を閉じ、二人をまっすぐに見据えて言い放った。
「私がこの会社を作った時、一つだけ決めたことがある。誠実に働く人間が、正当に評価される場所にする。それだけだ。肩書きで人間の価値を図り、立場の弱い者を踏みにじる。そんなことのために、この会社を作ったわけじゃない」
四十年分の重みを込めた言葉が、会議室に静かに響いた。
「名誉会長…申し訳ございませんでした」
絞り出すような声だった。
「私も…申し訳ありませんでした」
二人が頭を下げたが、その表情には、反省よりも自分の立場が崩壊したことへの恐怖が色濃く浮かんでいた。老人はポケットから携帯電話を取り出した。
「今から来てくれ。七階の会議室だ。すぐに」
電話を切った老人の瞳には、鋼のような意思が光っていた。黒沢は椅子に崩れ落ちるように座り込み、白崎は窓際で俯いたまま微動だにしなかった。
—
十分後、会議室のドアが開いた。入ってきたのは五十代の男性だった。老人の姿を認めた瞬間、深々と頭を下げた。
「三戸名誉会長、ご連絡いただいた件、承知しております」
黒沢と白崎は、自社の社長が老人に対して直立不動で礼をする姿を目の当たりにし、事態の深刻さを完全に理解した。黒沢の顔は蒼白を通り越して、土色になっている。老人は手帳に基づき、明らかになった事実を簡潔に伝えた。社長の表情が険しくなっていく。
「私どもの管理不行き届きで、大変申し訳ございません。直ちに対応いたします。まず、ひまりさんの契約解除を撤回してもらいたい。根拠のない解雇だ。もちろんです」
社長はひまりに向き直り、深く頭を下げた。
「ひまりさん、この度は大変なご迷惑をおかけしました。心よりお詫び申し上げます」
ひまりは驚いたように目を見開いた。何と答えて良いか分からず立ち尽くしていたが、やがて静かに頷いた。
「ありがとうございます」
社長は黒沢に向き直った。
「黒沢課長。管理職としての適正を著しく欠いていると判断せざるを得ません。人事部で調査の上、処分を決定します」
「社長、私は長年この部署を…」
「長年勤めたからこそ、こうした行為の重大さを理解してください」
黒沢はそれ以上何も言えず、肩を落として俯いた。社長は白崎にも厳しい目を向けた。
「白崎さんにも、同様の処分を検討します。他者の成果を横取りする行為は、この会社の理念に完全に反しています」
「申し訳ございません」
かろうじてそれだけ絞り出した白崎の声は、先ほどまでの高飛車なそれとは、まるで別人のものだった。
ひまりは会議室の隅で立ち尽くしていた。誰にも見てもらえないと思っていた自分の仕事が、この人に全て見えていた。そのことが、ひまりの胸の奥から温かいものを込み上げさせていた。目から涙がこぼれた。それを拭おうとして、ひまりは気づいた。隣に、老人が静かに立っていることに。あの雨の日、傘を差し出してくれた。私が誰かも知らずに、ただ目の前の人間を気遣ってくれた。その誠実さを踏みにじることだけは、この会社の創業者として絶対に許せなかった。
ひまりはしばらく声が出なかった。目から涙が止まらない。それでも、絞り出すように口を開いた。
「ずっと…見てくださったんですね」
「ああ。ずっと見てたよ」
「ありがとうございます」
ひまりは深く頭を下げた。その肩が微かに震えていた。
—
翌日、劇場エンタープライズの役員会議が招集された。議題は総務部の人事案件と、内部マネジメントの問題についてだった。老人の手帳に記された記録は動かしがたく、会議は短時間で結論が出た。
黒沢正尾。管理職として不適格。総務部から経理部の担当への異動。さらに、ひまりへの不当な扱いについて、本人への直接謝罪が人事部から命じられた。
白崎ルリ。厳重注意の上、総務部から別部署への配置転換。他者の成果の横取りについて、始末書の提出を命じられた。
黒沢が経理部に移動してきた初日、人事部の担当者が黒沢をひまりのデスクに連れてきた。
「黒沢さん、こちらで。ひまりさん、この度は大変な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」
周囲の社員たちの視線が集まった。つい先日まで「派遣のくせに」と威張り散らしていた男が、その派遣社員の前で頭を下げている。ひまりは静かに頷いた。
「分かりました」
それだけだった。攻めなかった。追い打ちもかけなかった。その静けさが、黒沢には逆に効いた。
経理部に着くと、そこには見知った顔があった。かつて総務部で自分の指示を黙々とこなしていた、若手社員だった。
「黒沢さん、お待ちしていました。こちらが担当の説明資料です。分からないことがあれば、何でも聞いてください」
「君が…私の上司になるのか?」
「はい。よろしくお願いします」
黒沢は黙って資料を受け取った。かつて自分が怒鳴りつけていた人間に、今は業務を教わらなければならない。パリッとしたスーツも、磨き上げた靴も、この部屋では何の意味も持たなかった。
社内では噂が広まっていた。「派遣をいじめて飛ばされた課長」として、黒沢の名前は社内のあちこちで囁かれるようになっていた。取引先への同行も外され、重要な会議にも呼ばれない。窓際に追いやられた黒沢には、やることすら与えられない日が続いた。退職も考えた。だが、この年齢で、この経緯で雇ってくれる会社があるだろうか。黒沢はただ毎日、若手社員に業務報告書を提出する日々を送ることになった。
白崎が配置転換先の部署に出社したのは、黒沢の移動から三日後のことだった。
「皆さん、初めまして。白崎ルリです。総務部から移動してきました。どうぞよろしくお願いします」
愛想よく挨拶した。総務部でも、新しい人間が来た時はこれで乗り切ってきた。だが、新しい部署の社員たちの反応は薄かった。
「ああ、はい。よろしくどうぞ」
それだけだった。白崎の移動の経緯はすでに社内に広まっていた。「他人の成果を横取りして飛ばされた人」として、白崎の名前は知れ渡っていた。
「前の部署では比較的、庶務的な業務も担当していたので、こちらでも何かお役に立てることがあれば…」
「そうですか。とりあえず、このマニュアルを読んでおいてください」
そう言って渡されたのは、業務マニュアルだった。白崎はそれを開いて、息が止まった。マニュアルの作成者欄に、見慣れた名前があった。
『ひまりさゆみ』
「これ、作ったの…ひまりさんですか?」
「ああ、知ってるんですか?すごく丁寧で分かりやすいんですよ。すぐ作ってくれて、うちの部署でも使わせてもらってるんです」
「そう…ですか」
白崎が散々見下してきた派遣社員が作ったマニュアルを、白崎は最初から最後まで読まなければならなかった。しかも、そのマニュアルは驚くほど丁寧で分かりやすかった。
—
昼休み。白崎は一人で食堂のトレーを持って、席を探した。
「あの、ここ座ってもいいですか?」
「あ、すみません。ちょっと今、人が来る予定で」
「そうですか」
どこに座ろうか迷った末に、隅の空席に腰を下ろした。その時、食堂の入り口から笑い声が聞こえた。ひまりが同僚たちと一緒に食堂に入ってきた。同じ部署の社員たちがひまりに声をかけ、ひまりは笑顔で応えている。かつて一人で隅のテーブルに座って弁当を食べていた女性が、今は自然に輪の中心にいた。賑やかな食堂の中で、白崎は一人だった。かつて自分がひまりに敷いていた孤独が、今は自分の上に覆いかかっていた。トレーの上の料理に箸をつけながら、白崎はふと思った。ひまりはいつも、こんな気持ちで弁当を食べていたのだろうか。
数日後、ひまりのデスクに人事部から一通の封筒が届いた。封筒を開けると、そこには正社員登用の通知書が入っていた。ひまりはしばらく、その紙を見つめた。母親の顔が浮かんだ。倒産した前の職場のことが浮かんだ。転職活動で何度も断られた日々が浮かんだ。そして、雨の日に傘を持っていない老人に傘を差し出した、あの午後が浮かんだ。
ひまりは通知を静かに胸に抱いた。泣くまいと思ったが、目から涙がこぼれた。周囲の社員が気づいて声をかけようとしたが、ひまりは小さく首を振った。「大丈夫です」と口を動かした。
—
昼休み。ひまりが食堂に降りると、老人がいつものカウンター席に座っていた。
「会長」
「おじいさんでいいよ。その方が落ち着く」
ひまりは少し笑った。
「正社員の通知をいただきました」
「そうか」
老人は静かに笑った。それだけだった。それ以上の言葉は必要なかった。
「おじいさんが見ていてくださらなかったら、私はもうここにいなかったです」
「あの雨の日、傘を貸してくれたのはお嬢さんだ。礼を言うのはこちらの方だよ」
ひまりはしばらく黙っていた。それから静かに口を開いた。
「おじいさんが以前、言ってくれた言葉、ずっと覚えています」
「何を言ったかね」
「『人は見られていないと思う時にこそ、本当の姿が出る』って」
「覚えていてくれたか」
「あの言葉があったから、ここまで来られた気がします」
老人は何も言わず、静かにコーヒーカップを両手で包んだ。
「それは良かった」
「母に報告してきます。喜ぶと思うので」
「それはいい。喜ばせてあげなさい」
老人は鞄から折り畳み傘を取り出した。丁寧に拭かれ、小さなリボンが結ばれている。
「大事な傘だからな。返すのが遅くなった」
「ずっと…持っていてくださったんですね」
「この傘がなければ、あの日の出会いはなかった。それだけのことだよ」
ひまりは傘を受け取り、両手でしっかりと握りしめた。その目に、また涙が滲んだ。
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その日の夕方、ひまりは会社を出て電車に乗った。向かったのは、母親の入居する施設だった。面会室に通されると、母親が車椅子で待っていた。ひまりの顔を見た瞬間、母親の目が細くなった。
「さゆみ、どうしたの?今日は来る日じゃないでしょう」
「聞いてほしいことがあって」
「声が明るいね」
「うん。…社員になったんだ」
しばらく沈黙があった。母親の目に、じわりと涙が滲んだ。
「そうなの?」
「うん。来月から」
「良かった…本当に良かった」
ひまりも涙をこらえながら、母親の手をそっと握った。
「お母さんは喜んでくれると思ってたよ」
「当たり前でしょ。さゆみ、ありがとうね。頑張ってくれて」
「私こそ。お母さんがいたから、頑張れたんだよ」
母親の手が、ひまりの手をぎゅっと握り返した。その手は細くなっていたが、温かかった。二人はしばらく、そのまま黙って座っていた。面会室の窓から、夕日が差し込んでいた。
「さゆみ、体に気をつけてね」
「うん。お母さんもね」
施設を出たひまりは、夕日に染まった空を見上げた。目から涙がこぼれた。それを拭って、深く息を吸った。
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正社員として働き始めた最初の月、ひまりは総務部の業務を一から作り直した。引き継ぎの抜けをなくすため、誰が担当しても同じ品質を保てるように。そして何より、次に来る派遣社員が同じ思いをしなくていいように。マニュアルには、ひまりが八ヶ月間で身につけた全てが詰まっていた。備品の発注先と注意点、来客対応の流れ、会議室の予約ルール、郵便物の仕分け方。どれも地味だった。だが、どれも誰かがきちんとやらなければ会社が回らない仕事だった。
完成したマニュアルを見た上司が、人事部に報告した。
「ひまりさんのマニュアル、他の部署にも展開したいんですが」
それが社内で広まるのに、時間はかからなかった。総務部だけでなく、営業部、経理部。新しく移動してきた社員たちがこぞってそのマニュアルを手に取った。ひまりは誰かに褒められるたびに、決まって同じことを言った。
「次に来る人が同じ思いをしなくていいように作っただけです」
それから毎月、老人は食堂に顔を出した。いつものカウンター席でコーヒーを飲み、古い革の手帳を開く。食堂を行き交う社員たちを眺めながら、静かに観察を続ける。それは、美が四十年間続けてきた習慣だった。
ある日、老人が食堂に入ると、ひまりが新しく配属された派遣社員に話しかけているのが見えた。
「分からないことがあれば、何でも聞いてくださいね。最初は覚えることが多くて大変ですけど、一緒にやっていきましょう」
「ありがとうございます」
その派遣社員の顔に、緊張がほぐれていくのが見えた。老人はその光景を見ながら、コーヒーを一口すった。
「そうだよ。それでいいんだ」
誰に言うでもなく、小さく呟いた。やがてひまりが老人に気づいて、笑顔で近づいてきた。
「おじいさん、今日も来てくれたんですね」
「またふらりと来てしまったよ。邪魔だったかね」
「邪魔なわけないじゃないですか」
「そうか。それは良かった」
二人はしばらく並んで座った。食堂に差し込む午後の日差しが、カウンターの上を温かく照らしていた。
「先週、施設に行きました。正社員になったことを伝えたら、とても喜んでくれました」
「それは良かった」
「はい。おじいさんのことも話しました。『お礼を言いたい』って」
「私は何もしていないよ。君が誠実に働いてきた。それだけのことだ」
「おじいさんなら、そう言うと思ってました」
二人は顔を見合わせて笑った。老人が食堂に来るたびに、すれ違う社員たちが自然に挨拶をするようになった。名誉会長の顔を知る者も、知らない者も、皆、穏やかな笑顔を向けてくれる。それが老人にとっては何より嬉しいことだった。
「この会社も、変わったな」
誰に言うでもなく呟いた言葉は、もう重みではなかった。目の前にいる人の誠実さが、正当に報われる場所を守り続けること。それが三戸誠一の見つけた、本当の使命だった。食堂の窓から差し込む午後の光が、コーヒーカップの横に置かれた古い革の手帳を温かく照らしていた。老人はその手帳を手に取り、今日の日付を静かに書き入れた。
肩書きは偽物だ。だが、誠実さだけは誰にも奪えない。そして、その誠実さは必ず誰かの目に届く。今日でなくても、必ずいつか、届く。さて、まだまだやれることはある。誰に言うでもなく、小さく笑った。
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