年末、義実家の大掃除を一人で押し付けられ、くたくたになって夕飯の席に着こうとしたその瞬間、義母がにやりと笑って言った。「あなたの分はないからね。嫁なんだから、家族の分が優先なの。」家族って、私も家族のはずじゃないの?3年間溜め込んだ不満が限界を超えたその時、背後から聞き覚えのある声がした。「おい、今の発言、どういうことだ?」振り返ると、そこには義父が立っていた。普段は穏やかな彼の顔が、怒りで…

年末、義実家の大掃除を一人で押し付けられ、くたくたになって夕飯の席に着こうとしたその瞬間、義母がにやりと笑って言った。「あなたの分はないからね。嫁なんだから、家族の分が優先なの。」家族って、私も家族のはずじゃないの?3年間溜め込んだ不満が限界を超えたその時、背後から聞き覚えのある声がした。「おい、今の発言、どういうことだ?」振り返ると、そこには義父が立っていた。普段は穏やかな彼の顔が、怒りで...

「ねえ、今年もお母さんから連絡来たよ。年末年始はうちで過ごしてほしいって。」

結婚3年目、食卓で夫の啓介にそう伝えると、彼は何の疑いもなく笑った。「そっか。母さんの料理、喜ぶだろうな。」

この人は本当に何も分かっていない。義実家に行けば、私は毎回休む間もなく家事を押し付けられる。掃除に料理、大掃除、おせちの準備まで全部私の担当だ。義母は一切手伝わず、夫の前では「さち子さん、助かるわ」と優しいふりをする。でも啓介がいなくなると、態度が一変する。

「嫁なんだから、これぐらいやって当然でしょ。もっと丁寧に掃除して。」

結婚して初めての年末、私はそのギャップに衝撃を受けた。あれから3年。義母の要求はエスカレートするばかりで、夫に愚痴をこぼしても、彼はいつも同じ答えだった。

「母さんも大変なんだよ。悪気はないんだから。」

悪気がない?本当にそうなら、もっと性質が悪い。善意のふりをした悪意が、私を少しずつ追い詰めていく。

今年も義実家に到着すると、予想通り義母が待ち構えていた。「さち子さん、いらっしゃい。さっそく掃除お願いね。大掃除が一番大事だから。」

玄関に入るなり指示が飛んでくる。私は黙って掃除道具を取りに行った。リビングで掃除機をかけていると、義母は出かける準備をしている。啓介はソファでテレビを見ている。誰も手伝おうとしない。私はまるで使用人だ。

掃除が終わる頃には夕方になっていた。体力は限界だというのに、今度は夕飯の準備が待っている。買い物から帰ってきた義母が言った。「夕飯はすき焼きにしようと思うの。準備お願いね。」

私は台所に立ち、食材を準備して19時を過ぎた。テーブルに料理を並べ、ようやく座ろうとした瞬間——義母の冷たい声が耳に飛び込んできた。

「あ、さち子さん。あなたの分はないからね。嫁なんだから贅沢を言わないで。家族の分が優先なの。」

義母はにやりと笑った。家族?私も家族のはずじゃないの?自分の分がないと言われた瞬間、積もりに積もった不満が限界を超えた。

「……分かりました。」

私はなんとか声を絞り出し、椅子に腰をかけたまま呆然としていた。その時、背後から聞き覚えのある声がした。

「おい、今の発言、どういうことだ?」

振り返ると、義父が立っていた。仕事の関係で今日はいつもより帰宅が早かったのだ。普段は穏やかな義父の顔が、険しく歪んでいた。

義母は少し慌てた様子を見せたが、すぐに笑顔を作った。「何言ってるの?当たり前でしょ。さち子さんは嫁なんだから、家族の世話をするのが役目よ。」

「家族の世話?さち子さんはお前の飯使いじゃないぞ。それにお前は何をしていたんだ?」

「あら、私だって買い物に行って忙しかったんだから。年末の準備って色々あるのよ。」

義母の言い訳に、義父の怒りは収まらない。「買い物で忙しかっただと?それが掃除を押し付ける理由になるのか。昨日は何をしていたんだ?」

義母は口ごもり、言い返せなくなった。私は心の中で初めて、少しだけ溜飲が下がる思いをした。義父が私に向き直り、柔らかい声で言った。

「さち子さん、すまない。こんな目に合わせていたなんて知らなかった。もっと早く気づくべきだった。」

その言葉に、私は目頭が熱くなった。義理の父に初めて正面から向き合ってもらえた気がした。それが夫ではなく義父だったのは複雑だったけど、それでも「大丈夫です」と小さな声で答えた。

義父は義母に向き直り、はっきりと言い放った。「いいか。今後、さち子さん一人に家事を押し付けることは一切許さない。お前が嫁の務めと言うなら、まず俺の嫁であるお前自身が手本を見せろ。」

「何言ってるの?私がやるわけないでしょ!」義母は必死に反論するが、義父は一歩も引かない。

「やらないなら、お前が言う『嫁の務め』なんてものはこの家には存在しないってことだ。それとも、自分の言葉に責任を持てないのか?」

義母の顔が真っ赤に染まり、何も言えずに口をパクパクさせる。義父の怒りはさらに続いた。

「俺はこれまで、専業主婦のお前が家事をしないのを我慢してきたんだ。自分のことを棚に上げてさち子さんを使いこなすなら、俺にも考えがある。お前とは離婚して、家を出ていくつもりだ。」

その一言で、義母の顔色がみるみる青ざめていった。「ちょっと待って!そんなの冗談でしょ?私が悪かったって謝るから!さち子さん、本当にごめんなさいね。私、そんなひどいことをしていたなんて……」

義母は涙ながらに謝る。でもそれが上辺だけの演技のように見えて、私は思わず目を伏せた。義父も同じように感じたのか、義母の手を振り払った。

その場に緊張が張り詰める中、私は胸の奥で小さな決意が芽生えるのを感じていた。このまま謝罪を受け入れるだけでは、また同じことの繰り返しになる。私は反撃を仕掛ける時が来たのだ。

——翌朝。

私は準備していた書類を見直していた。この3年間、私が義実家でやってきた家事をすべて書き出し、それぞれに金額を割り振ったものだ。掃除、料理、大掃除、庭の手入れ……どれも「嫁として当然」と言われてきた仕事。でもプロに頼んだ場合の金額を調べると、想像以上の額になった。

「これが、私がやってきた価値か。」

思わず少し笑ってしまった。義父が一人でリビングにいるタイミングを見計らい、私は話を切り出した。リストを見せながら、これまでの経緯を説明すると、義父はじっと聞き入り、表情には怒りと後悔が混ざっていた。

その夜、義父の提案で家族全員がリビングに集まった。

「さち子さんがこれまで我が家でどれだけのことをしてきたのか、見てもらいたい。これが、彼女がやってきた家事を金額に換算したものだ。」

義父が家事リストをテーブルに広げる。掃除、料理、大掃除、庭の手入れ……すべてにプロの料金が当てはめられ、3年間でこれだけの額になる。義母は最初こそ何のことか分からない様子だったが、金額を見て顔色が変わり、「こんなの冗談でしょ」と引きつった笑いを浮かべた。でも、その笑いはすぐに消えた。啓介は黙ったままだった。

「これでもまだ、嫁として当然だと言えるか?」義父に問われても、義母は答えられない。

私は静かにその様子を見ていた。でも心の中では、夫である啓介が何も言わないことへの苛立ちが膨らんでいた。この3年間、私がどれだけ耐えてきたのか。彼は気づこうともしなかった。

「啓介、何か言うことはないの?あなたはこの3年間、何を見てたの?私が一人で家事を押し付けられて、文句を言われて、休む暇もなく動き回っている間、あなたは一度でも助けようとした?」

啓介は視線をそらし、うつむくばかりだ。「母さんは悪気がないって……私がどれだけ傷ついたか分かる?支え合うんじゃないの?私だけが頑張って、あなたは知らん顔。それが家族なの?」

啓介が小さくなっているのを見て、義父が静かに口を開いた。「さち子さんの言う通りだ。みんなが彼女に負担を強いてきた。俺も気づくのが遅れたが、これからは絶対に迷惑をかけない。」

義母も啓介も、何も言えずに俯いている。私は席を立ち、部屋を出ようとした。すると、背後から啓介の声がした。

「さち子、待ってくれ。俺……気づかなかった。いや、気づこうとしなかったんだと思う。これからは変わる。ちゃんと家族として支えるから。」

「なら、行動で示して。言葉だけじゃ足りないから。」

私はそう告げて、部屋を出た。ドアを閉めた瞬間、深いため息が漏れた。胸の鼓動はまだ速い。あそこまで感情をぶつけたのは初めてだった。でも不思議と後悔はない。むしろ、長年溜め込んでいたものを言えたことで、少しだけ肩の荷が下りた気がした。

しばらくすると、ノックの音がした。「さち子、入ってもいいか?」啓介が申し訳なさそうな顔で立っている。

「さっきは本当にごめん。俺、全然気づいてなかった。母さんがそんなことしてたなんて。」

「気づいてなかったのは事実よ。でもそれだけじゃない。私が何度もサインを送っていたのに、あなたは見ようとしなかった。私の声を聞こうとしなかった。それが一番辛かったの。」

涙がこぼれそうになるのをぐっとこらえる。啓介は深く息をつき、ベッドの端に腰を下ろした。

「言い訳のしようもない。本当にすまなかった。これからはちゃんと聞くよ。お前の言葉を、気持ちを大切にする。だから、もう一度チャンスをくれないか。」

彼の真剣な眼差しに、少しだけ心が揺れた。それでも、簡単に許すつもりはない。「言葉だけじゃなくて、行動で示してほしいの。私だけが頑張るんじゃなくて、お互いに支え合える関係になりたい。それができないなら、一緒にいる意味がないわ。」

啓介は強く頷いた。「一緒に頑張ろう。」

リビングに戻ると、義母がソファに座って俯いていた。義父が隣で何かを話している。私たちが近づくと、義母がゆっくりと立ち上がった。そして床に膝をついた。その目には、これまで見たことのない真剣さがあった。

「さち子さん……本当にごめんなさい。今まであなたに辛い思いをさせていたこと、心から反省しています。私、自分が楽をすることばかり考えていて、あなたの気持ちを全然考えていなかった。これからはちゃんと話し合って、一緒にやっていきたいと思っています。どうか、もう一度チャンスをください。」

その言葉に、形だけではない本心が感じられた。私は少し考えてから、ゆっくりと答えた。

「分かりました。でも、お母さんも私も、無理をしない範囲で協力し合いましょう。お互いに思いやりを持って、家族として接していけたらと思います。」

義母は涙ぐみながら、小さく頷いた。

——あれから、義実家の雰囲気は少しずつ変わっていった。義母は積極的に家事をするようになり、啓介も手伝いを申し出てくれる。ある日、キッチンで一緒に料理をしていると、義母がふと笑顔で言った。

「一緒に料理をするのって、楽しいわね。昔は一人でやるのが当たり前だと思ってたけど、協力するとこんなに楽になるなんて。」

「そうですね。お母さんの得意料理、もっと教えてください。」

こうして、本当の意味での家族の関係が築かれていった。新年の挨拶を交わした後、帰り道で啓介が私の手をそっと握った。

「今年は、いい年になりそうだね。」

私は彼に微笑み返した。「そうね。」

冷たい冬の風が吹く中、私たちの心には、温かい絆が芽生えていた。

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