「ねえ、実家がないんだけど」って姉に言ったら、「うん、知ってる。10年前に売り払ったから」って、めっちゃ淡白に返されたんだ。 私が10年かけて払い終えた慰謝料も、姉の嫌がらせも、全部“仕返し”だったって知った時、もう笑うしかなかったよ。だって私、姉の夫を奪って人生を台無しにした張本人だから。…

「ねえ、実家がないんだけど」って姉に言ったら、「うん、知ってる。10年前に売り払ったから」って、めっちゃ淡白に返されたんだ。 私が10年かけて払い終えた慰謝料も、姉の嫌がらせも、全部“仕返し”だったって知った時、もう笑うしかなかったよ。だって私、姉の夫を奪って人生を台無しにした張本人だから。...

「ねえ、実家がないんだけど」
「うん。アパートが建ってるでしょ? あそこに住んでるの」
「は? なんで? 帰ってきていいって言ったじゃん」
「あんたが生まれた土地に帰るのは自由だけど、住む場所はもうないよ」

10年ぶりに姉の電話で聞かされたのは、そんな話だった。私たち姉妹の確執は、姉の夫だったエ太を私が奪ったところから始まった。駆け落ち同然で家を飛び出し、姉からすべてを奪って10年。そして今、私は人生のどん底にいた。

「じゃあ私はどこに住めばいいのよ」
「さあ? 自分で決めたら?」
「お姉ちゃんは何でそんなに冷たいの!?」
「冷たい? あんたが私の人生を壊したんだよ」

姉は淡々と言った。10年前、私がエ太と駆け落ちした夜、姉は泣き崩れた。両親も近所も、姉を「妹に夫を奪われた哀れな女」と噂した。母はショックで外に出られなくなり、父は何も言わずに仕事に逃げた。家族はバラバラになった。

「私はあんたに人生を壊された。1度目の婚約者に何をされたか知ってて、私の夫を奪ったのよ」
「悪気はなかったんだってば!」
「だったら私も同じ“悪気なく”アメリカへ行った。それでいいんでしょ?」

姉はアメリカに移住していた。母の心療のため、環境を変える必要があったのだという。父も早期退職し、姉の友人マイクの実家を引き継いで、向こうでレストランを経営している。そして実家はとっくに売り払われていた。

「あんたのせいで、母さんは病んだ。私は誰も愛せなくなった。それが私の人生よ」
「そんなの私のせいじゃない!」
「なら、あんたのせいじゃないって、あんたが私に言えるの?」

悔しくて、腹が立って、私は叫んだ。
「だったら私は今後もエ太と幸せに生きてやる! あんたの思い通りにはならない!」
「あれ? エ太とは離婚するって言ってなかった?」

図星だった。私はエ太に飽きていた。おじさんになった彼と一緒にいるのが恥ずかしかったのだ。それでも姉に負けたくなかった。
「愛があればどうにかなるわ!」
「そんなに不幸は続かないでしょ? ここから2人であんたたちを見返してやるんだから!」
「あ、そうだ。あんたがこの前言ってたエ太の愚痴、そのままエ太に送っちゃったわ」
「はあ!?」

姉は冷笑を浮かべた。
「姉として、妹の離婚を円満に進めてあげようと思ったの。余計なお世話だったかしら? ごめんね」
「ふざけんな! そんな軽い謝罪で済むと思ってんのか!」
「あら? あんたも私から夫を奪って、10年後に“軽い謝罪”したじゃない」
「私はちゃんと謝った!」
「“10年経ったし忘れてるでしょ”っていうのがスケスケだったけどね」

その数分後、エ太からLINEが来た。
「おい、離婚するんだって?」
「違うの! あれはお姉ちゃんが捏造したLINE!」
「嘘つけ。お前の本性はこの10年で嫌ってほど分かってる」

最後の会話は最悪だった。エ太は私に言った。
「10年前は確かに若くて可愛かったよ。でも今は? ただのババアじゃねえか」
「はあ!?」
「どんどん劣化していくお前を見てずっと思ってた。こんなことなら、しっかり者のアカの方がよっぽどマシだったってな」

私の人生は、その一言で完全に崩れ去った。

数時間後、私は姉に電話した。
「あんたのせいで、エ太は終わりよ。これで満足?」
「うん。大満足」
「性格ゴミだね」
「そうだね。不名誉だけど、姉妹そっくりなのかもね」

悔しくて仕方なかった。もう失うものなんて何もない。なら、道連れにしてやろう。
「お姉ちゃんの会社に挨拶に行こうと思ってるの」
「何をする気?」
「偉い人に取り入って、愛人にでもなるわ。そして、あんたの海外赴任を取り消してやる」

姉は笑った。
「悪いけど、うちは大手よ。あんたみたいな意味不明な女に引っかかるような役員はいないわ。あんたに売れるのは性別だけ? 哀れね」
「うるさい!」
「言っとくけど、慰謝料の支払いが滞ったら、一生両親には会えないと思いなさい」
「は? 払うって約束したでしょ?」
「“払い終えるまで”が条件よ。父さんも母さんも今年で68。長生きしてほしいけど、急ぐに越したことはないわ」

私は姉に言った。
「私、ここまで追い詰められるほど悪いことした? 家族なんだから、もう許してくれても良くない?」
「あのね、相手が妹だから苦しかったのよ。家族だから許せないの」
「なんで?」
「いくらあんたがわがままでも、私にとっては大事な存在だったのよ。でも、自分のしたことの何が悪いのか分からないほど道を外れてるなら、心を鬼にしてでも突き放すしかないんでしょ」
「どういう意味?」
「娘を1人見放すことがどれだけのことか、想像もつかないでしょうね。母さんが自分の子育てを責めて毎日泣いてたなんて、想像もつかないでしょ」
「悪いと思ってるって!」
「あんたの言葉なんか誰も信じない。行動で示しなさい」

姉は最後にこう言った。
「今日から、あんたには毎日小さな小さなストレスが降りかかることになる」
「は? 占いでも始まったの?」
「マイクは手を抜かないわ」
「マイクって誰?」
「“主費義務”よ」
「意味が分かんない」
「母さんに心から謝罪できる人間になったら、アメリカ行きのチケットを取りなさい」
「ちょっと待って! 本当に呼んでくれないつもり?」
「当然でしょ」
「厳しすぎるって! マジで悪いと思ってるから! ごめんなさい! 土下座もする!」
「安い謝罪はいらない。本気を見せて。さようなら」

1ヶ月後、マイクから電話が来た。
「今どこ?」
「ナバ」
「福岡かよ」
「日本全国言葉が違う。方言面白いわ」
「今度の師匠は誰?」
「豚骨ラーメン屋の大将」
「妹は今どんな目に合ってるの?」
「主費義務でしょ? 聞かないよ」
「おお。でも10円ハゲできても真面目に働いとるけん」
「何の仕事してるの?」
「チームの報告によると、スナックでチーママ。敵意イラで売上あげまくり」
「そんなにすぐ慣れるもんなの?」
「ナンバー2みたいなものでしょ? ママ1人の店だからね。自動的にチーママさ」
「なるほど」
「間違えても妹に弟子入りしないでよ」
「ない」

私はマイクに言った。
「マイク、あなたの実家、大切に使わせてもらってるよ」
「うん」
「それでね、この間マイクの同級生だったっていうケントって人が訪ねてきたの」
「ああ。マイクには本当に悪いことをしたって言ってたよ。自分に子供が生まれて、自分の愚かさに気づいたって」
「遅かったけどね。でも、謝れるって素敵だと思う。私には本当の謝罪に見えたよ」
「ケントに会ったら伝えて。ナッスンってさ」
「気にするな、ね。オッケー。今から豚骨の仕入れに行ってくるわ」
「頑張って」

電話を切った後、私は思った。私も止まってた時計を動かしてみようかな、って。

その後、私の妹は、飲み屋に上がるたび靴の中に小石が入り、疲れて電車に乗ると必ず隣に汗だくの大男が座る、そんな地味なストレスに囲まれながら、スナックのママとして働き、月々5万円を私に振り込んでいた。

エ太が払うはずだった3万円を、なぜ妹が負担しているのか。それは、エ太が私の実家を尋ねた時、両親から塩を一袋投げつけられて追い返されたことで心が完全に折れてしまったからだ。彼はその後、持ち前の甘いマスクで女性に結婚を匂わせて金を騙し取る詐欺師になっていた。総額3000万円という金額もあり、彼は服役することになった。熊本時代からあった借金も妹が保証人になっており、その返済にも追われている。慰謝料と合わせて700万。エ太が出所したら、鬼のような取り立てが始まるだろう。

私は両親と永住権を取得し、会社を退職した。父の店を手伝いながら、こちらで出会った彼と楽しくやっている。

裏切りは怖い。でも、それを恐れていたら、前には進めない。いろんな場所でたくさんの出会いを重ねるマイクに、そんなことを教えてもらったような気がする。

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