会議室に朝の光が差し込む。机の上に置かれたバリカンが、低い振動音を立てて静かに唸っていた。人事部長の富田裕介が、若い女性社員を見下ろして笑う。
「おい、お前。土下座しろよ。額を床に擦りつけて、『お願いします』って言えよ」
彼女の名前は田中美咲。入社3年目、派遣社員として経理部で働いてきた。だが今日、彼女はこの場に呼び出され、髪を剃るよう命じられていた。
「どうした? できないのか? 」
富田はバリカンを彼女に押し付けた。周りの社員たちは誰一人として止めようとしない。彼らはただ、冷たい目で見つめるだけだった。
「まだ足りないな。本気の覚悟ってのは、これで丸刈りになって見せるもんだろうが」
その時、会議室の隅で掃除をしていた老人が、静かに立ち上がった。彼はくたびれたジャンパーを着た、目立たない雑用係だった。
「なんだ、老いぼれ。雑用係が俺に何か用か? 」
老人は富田を無視して、ゆっくりと言った。
「お前ら全員、首だ」
「はあ?

」
富田は笑った。だが、その笑顔はすぐに消えた。老人は胸ポケットから名刺を取り出した。そこには『テトコーポレーション 代表取締役 山田義男』と書かれていた。
「俺はこの会社のオーナーだ。3ヶ月前から、ここで何が行われているかを知るために、雑用係として潜入していたんだ」
富田の顔色が変わった。周りの社員たちも、息をのんだ。
「そんなはずない……お前はただの老いぼれだ」
「試してみるか? 」
山田は携帯電話を取り出し、一つの番号に電話をかけた。数秒後、会議室のドアが開き、警備員たちが入ってきた。
「富田裕介。お前は社員へのパワーハラスメント、経費の不正流用、そして今回の行為で、解雇だ。他の者も、同様だ」
富田は机に手をつき、震えながら言った。
「私、20年間、この会社に尽くしてきたんです! 」
「岩崎さんも、この会社に尽くしていた。お前が彼を追い詰めたんだろう?
」
山田の目は冷たかった。
「彼はお前のパワハラで自殺したんだ。俺はそれを知っている」
富田は言葉を失った。山田は続けた。
「俺は今日から、社長に復帰する。ここにいる全員、一からやり直しだ。覚悟があるなら、残れ。ないなら、出て行け」
山田は振り返らずに会議室を出て行った。残された社員たちは、何も言えずに立ち尽くしていた。
数週間後、山田は田中美咲をオフィスに呼んだ。
「君には、経理部の主任になってもらう。君が受けた屈辱を、君がこの会社を変える力に変えてほしい」
美咲は涙をこらえながら、深く頭を下げた。
「ありがとうございます。必ず、この会社を、皆が働きやすい場所にします」
山田は微笑んだ。彼の視線の先には、新しく生まれ変わろうとしているオフィスがあった。


