「もう限界だ。離婚する。」
夫はスマホから目も上げずに、「離婚な。はいはい」と流した。
「俺は本気だから。バカ言ってないで反省しろよ。誰のせいでこんな時間から飲みに出てると思ってるんだ」
「あなたが勝手に同僚を連れてきたからでしょ」
ため息をついて、私は言った。
「今朝、言ったよね。みんな連れてくるから、飯を用意しとけって」
「私、今日は残業だって言ったでしょ」
「知らん。俺はちゃんとお前と約束したよな」
「約束って、一方的に宣言して出て行っただけじゃない。約束は相互同意があって初めて成立するの。あなたのは約束じゃなくて、ただの押し付け」
「はいはい。そうですか。そもそもこういうこと、1度や2度じゃないよね。お母さんのローンだって、一方的にどうかって言って、ちゃんと払ってるじゃん」
「そりゃ払ってるけど、とにかく約束を破ったお前が悪い。ママがこのこと知ったら、ぶち切れるぞ。約束破るやつは信頼されないって口癖だからな」
「それも無理はないでしょ。あなた、今年で何歳?」
「41。でも関係ないだろ」
「もう限界なの」
「ああ、分かった。俺が悪かったよ。次からは気をつける」
「そう言って、気をつけたことあった? なかったから離婚だって言ってるんだけど。今度は本気だ」
「それでいいだろ。分かった。じゃあ約束ね。守れなかったら次こそ離婚」
「いい。はい。分かった。守りなさいよ。約束破るとか、人として最低だからね」
1週間後、義母から電話がかかってきた。
「あんた、うちで飲んだくれてるわ。邪魔だから持って帰って」
「お母さん、すみません。実は今日は残業で、まだ帰ってなくて」
「仕事? あんた、本当に私のことが嫌いなの?」
「急に言われても…納得できる金額ではないと言いますか…」
「20万」
「え? はい。そうよね。うん。20万だったわ」
「えっと、お母さん、何よ」
「いや、なんか変じゃありませんでした。義母相手に変よ」
「口がすぎるわよ」
「ごめんなさい」
「離婚届にサインさせて、次は離婚だって言ったのよ」
「そう」
「さっきからどうしたんですか? 普段のお母さんはもっと、こう、切れたナイフみたいな人なのに」
「そういう一言が余計だって言うのよ」
「すみません。全く…とにかく、破る方が悪い。どんな言い訳も、破った側はできないからな」
「あ、そうですか。それ、本当に約束って言うのかしら?」
私は受話器を置いた。
翌朝、私は夫に離婚届を突きつけた。彼は何も言わず、サインした。
それから私は、自分の部屋に戻り、荷物をまとめた。



