ある朝の午前5時、夫の直登が帰ってきました。
「ただいま」
「どこに行ってたの?」
「仕事だよ」
でも、彼の服からは私の知らない香水の匂いがしました。仕事で朝帰りするのに、香水なんてつける?
「うるさいな。私たち夫婦でしょ」
そう言って直登は私の肩を乱暴に押しのけました。
「もう限界だ。お前とは離婚する」
そのまま寝室へ歩いていきました。あまりにも突然すぎて、私は呆然と立ち尽くしていました。でもその日は地方への日帰り出張が入っていました。話し合う時間もなく、私は家を出ました。
翌日、出張から帰ると、リビングのテーブルに一枚の紙が置かれていました。記入済みの離婚届です。私はしばらくその紙を眺めました。
「本気だったのね」
そして、小さく笑いました。「本当にいいのね」
私はその日のうちに署名し、役所へ提出しました。
私は紗耶、40歳。一級建築士として設計事務所で働いています。夫の直登は42歳で、大手住宅メーカーに勤めています。私たちは仕事を通じて出会いました。共同で手掛けた建築案件がきっかけで話すようになり、お互いが登山と建築巡りが趣味だと分かって、交際が始まりました。
結婚したばかりの頃は、本当に楽しかった。休日には2人で古い建物を見に行ったり、旅行先では「観光はいいから、まずあの建物を見たいな」なんて言い合っていました。
結婚して購入したのは、築年数の経った中古住宅。「2人で少しずつ手を入れていこう」と話していました。私は仕事柄、内装を考えるのが好きです。ソファーや照明、ダイニングテーブル、カーテンの色は特に重要。一つずつ選びながら、少しずつだけど、私たちらしい家になっていきました。
でも、結婚して4年、今では2人で出かけることもほとんどありません。そしてあの朝、直登は離婚届を持って帰ってきたのです。
私はいったい、何を間違えたのでしょうか。



