産婦人科の待合室で、まさか元夫の修二と再会するなんて思ってもみなかった。彼は私に気づくなり、怒鳴りつけてきた。
「なんでお前が産婦人科にいるんだよ」
「修二、なんで連絡してくるの?もう私とは会わないって言ったはずでしょ」
「そうだよ。不妊のお前になんて用はないからな。こっちは会いたくもないのに、なぜかお前がいたんだよ」
彼は私が不妊だから離婚したのに、なぜ産婦人科にいるのかと詰め寄ってきた。私は答えたくなかった。
「あなたに言う必要はないでしょ。もう赤の他人なんだから」
「内容によっては面倒なことになりそうだったんでな。まさか俺の子じゃないよな?俺は再婚して嫁が妊娠したから、認知はしないぞ」
「再婚に?しかも妊娠?まさか嘘をついてるんじゃないの?」
「そんなわけあるか。こっちは離婚してすぐにいい女と一緒になれたんだ。どうせお前はこの先一生独り身だろうけどな」
「そんなのあなたに関係ないでしょ」
「いいから、なんで産婦人科にいるのか答えろよ」
「答えたくないわ。ただ、私はここに来る必要があるから来ているの」
「もし面倒なことになりそうなら、下ろしてもらうことになるぞ」
その言葉に、私は怒りが込み上げてきた。
「私はずっと子供が欲しかった。そのことはあなたにも話してたし、あなたも同じ気持ちでいてくれたはずよ。なのに、よくもそんな言葉が出てくるわね」
「俺のキャリアの邪魔になりそうな障害なら排除するのが当然だろう」
「昔のあなたはもっと真っ直ぐに仕事を頑張って、私のことだって大事にしてくれてたわ。どうしてそこまで変わってしまったの?」
「俺は変わったのか?まあ、だとしたらリカのおかげじゃないか。あいつと一緒になってからは全てが幸せだからな。お前と一緒にいる時は無理してたんだ。今の俺が本当の俺なんだよ」
「そうだったら、離婚しておいてよかったわね。そんな人間と結婚生活なんて無理だから」
「それはこっちのセリフだろうが。俺から捨てられた分際で適当なことを言ってんじゃねえ。女のくせに子供も産めないで、お前の存在価値は何だ?単なるゴミのくせに、俺に言い返してくるなよ」
「誰がゴミですって?」
「社会的に見れば、不妊の女はそういう存在なんだよ」
「そんなわけないでしょ」
「うるせえな。とにかく、俺にこれ以上関わってくるな。俺は常に完璧な人生を歩んできた。受験も就職も全て成功してきた人間なんだ。そんな俺のパートナーが、お前のような血管人間でいいはずがないだろう。だからお前とは離婚したんだ。今後は顔も見せるな。産婦人科にも近づくな。不妊のお前が産婦人科にいるなんて、演技が悪いからな」
「そんなことをあなたに決められる筋合いはないわ」
そう言って、私はその場を離れた。
家に帰ると、夫の幸弘が心配して連絡をくれた。
「裕子、今どこにいる?もし帰るなら迎えに行くよ」
「ごめん、ちょっと前に終わったから、先に家に帰っちゃってたわ」
「そっか。それならいいんだ。営業が早めに終わったから、会社に戻る前に迎えに行こうと思っただけだから」
「わざわざありがとうね」
「いいんだよ」
その夜、私は幸弘に病院で修二と再会したことを話した。
「実は病院で修二と再会したんだ。再会したと言っても、私は気づかなかったんだけどね。向こうは気づいたみたいで、連絡が来たの」
「向こうからよくそんなことできるな。一方的に別れを切り出したくせに」
「すごく嫌なことをたくさん言われたわ。不妊のことを馬鹿にしてきたし、子供ができたのなら下ろせってまで言ってきて」
「なんだよそれ。最低なやつだな」
「昔はあんな人じゃなかったのよ。なんか新しい女ができて変わっちゃったみたい」
「そうなのか。だとしても許せないよ」
「正直、私としてもすごく嫌なことを言われて頭に来たけど、今はちょっと冷静になれて、改めてあんな男と別れてよかったなって思ってるところよ」
「そうだよ。あんなやつとは別れて正解だ」
「そうね。そして今はこうして幸弘と一緒になれたしね」
「昔は再婚禁止期間っていうふざけた法律があったけど、廃止になって本当に良かったと思ってるよ」
「そうね」
「どうしたの?何か引っかかることがあるの?」
「いや、ちょっと修二が言ってたことが気になってね」
「もう忘れた方がいいよ」
「そうなんだけど。今日は残業もないし、早めに家に帰るよ」
「分かったわ」
翌日、突然見知らぬ女性から連絡が来た。
「初めまして。修二の妻のリカです」
「え、何ですか?どうしてこの連絡先を?」
「あいつから、どうしてもあなたに伝えたいことがあったので」
「何ですか?」
「産婦人科で再会したと修二から聞きました。私はあなたのことを知らなかったので、言われるまで気づきませんでしたよ」
「それは私も同じです。本当にわざとタイミングを合わせたんじゃないですか」
「はあ?聞いてますよ。離婚の話し合いの時にかなり粘ったそうじゃないですか?別れたくないって泣きついたって聞いてます」
「それはだいぶ誇張されてますよ。離婚を拒否したのは本当ですけど」
「当たり前でしょ。何の理由もなくいきなり離婚したいって言われたんですから、すんなり受け入れられるわけがありませんよ。正直、半ば強引に離婚させられたと思ってましたよ」
「それで今も修二に執着してるってわけですか?」
「何を言ってるのか意味が分かりません。私はもう修二のことは何とも思ってません」
「嘘つけ。わざわざ産婦人科に来るのが、不妊のあなたらしいですね。子供にも修二にも執着してるのがよくわかりますよ」
「勝手な憶測で決めつけないでもらえますか?私は私で用があって産婦人科に来てただけです。あそこには前からお世話になっていたので」
「そういう言い訳をするんですね。話になりません。どうして欲しいんですか?」
「修二に近づくなと言ってるんですよ。こっちは出産を控えてるんです。大事な時期に夫にちょっかいをかけられるのはすごく迷惑なんですよね」
「安心してください。そんなことはありえません。こちらにも他に愛する人がいますので」
「は?もう男ができたってわけ?」
「そうなりますね」
「嘘ばっかり。修二があんたのことを女としてはでき損ないだって馬鹿にしてたわよ。それなのに男なんてできるわけないでしょ」
「修二がそんなことを?まあいいです。別にどっちでもいいので」
「ちなみに、一つだけ質問してもいいですか?」
「何?」
「出産を控えてるとおっしゃいましたけど、それは真実なのですか?」
「そうよ。決まってるじゃない?」
「そうですか。わかりました」
「それじゃあ、あなたは二度と私たちに近づかないでね」
「もちろん、そうさせてもらいますよ」
電話を切った後、私は修二に連絡した。
「修二、これ以上私に迷惑をかけないでよね」
「何がだよ。こっちは手続き関連のことがあるから、あなたと連絡できるようにしてるだけなの。それなのに、これ以上変なことをするのならブロックするしかなくなるわ」
「変なこと?リカさんに私の連絡先を教えたでしょ。変な疑いをかけられて困ったんだから」
「疑いって何だよ」
「私があんたに付きまとってるみたいなことよ」
「それ、俺も思ってた。俺にまだ執着してるのかなって笑っちゃったぜ」
「誰があんたなんかに」
「俺が離婚を突きつけたことがそんなにむかつくのか」
「当たり前でしょ。こっちがどんな思いであなたと一緒にいたか。あの時は言ってなかったけど、私は不妊なんだよ」
「え?お前と一緒にいても子供ができないだろう。だから別れたんだよ」
「だから、あんなひどい言葉を使ったのね」
「そうだよ。お前は俺にとって、一緒にいるだけの価値のない存在だったんだ」
「それ、本当に思ってる?」
「何がだよ」
「確かに私は子供がずっと欲しかったし、あなたにその気持ちを伝えたことがあった。不妊治療にも二人で協力して取り組んでいたけど、あなたに子供が欲しいっていう熱量は感じなかったわ。どこか面倒くさそうにやってたと思う。妊娠検査だって、あなたは別にそんなのどうでもいいだろうし」
「妊娠検査でお前が不妊だって分かったんだから、俺がわざわざ病院に行く必要もなかった」
「だとしても、不妊が離婚の理由と言われても」
「それに、お前との子供は欲しくなかったから。お前みたいな愛嬌も何もない女の子供なんて、欲しいと思えなかったんだよ。その代わりにリカは俺のことを愛してくれたし、いつも可愛くいてくれた。そんなリカだから、子供が欲しいと思ったんだよ」
「何それ?」
「まあ、そんなの今更お前に言っても無駄だけどな。もうすぐしたら可愛い俺の子供が生まれてくる。その子と幸せに暮らすからな。お前は生涯孤独で惨めな人生を歩め」
「あなたから離婚を突きつけられた時は、悲しみが大きくて何もする気力が湧かなかった。でも今は違うわ。あなたは私が子供を望んで必死だった時間も、あなたに対する思いも全て踏みにじった。私はどんな形でもあなたと幸せになる形を模索し続けていたのに」
「俺はお前のことなんて全く考えてなかったぜ」
「みたいね。それがよくわかったわ。あなたのこと、絶対に許さないから」
「は?許さないって、お前に何ができるんだよ」
二週間後、私は修二に連絡した。
「ちょっと話があるの」
「なんだよ。やっぱり俺に執着してるじゃねえか。やり直そうとか言うんじゃねえぞ」
「そんなこと言うわけないでしょ。あなたに伝えたいことがあるのよ」
「悪いが、こっちにはそんな時間はねえ。これから産婦人科に行かないといけないんだ」
「産婦人科?なんで?」
「リカの検診だよ。お腹が大きくて大変そうだから、付き添いに行くんだ」
「随分と優しいのね」
「当たり前だ。お前とリカじゃ対応は違うんだ」
「でも、あなたが付き添わない方がいいんじゃない?」
「なんでだよ」
「不妊の人間が産婦人科に行くのは演技が悪いんでしょ」
「は?だからなんだよ」
「ん?あなた、種なしじゃん。そんなあなたが産婦人科に行くのは演技が悪いんじゃないの?」
「え?」
「あなたは種なしなのよ」
「ふざけるな。何をわけのわからないこと言ってるんだ」
「不妊検査を私たち二人で受けたのは覚えてる?あなたは泌尿器科で受けたわよね」
「当たり前だろ」
「その時に、あなたは検査結果を聞きに来なかった。私が先に病院で待ってたのに、面倒くさいとか言って来なかったじゃない。その時にあなたが私に聞くように言ったから、妻として私が結果を聞いたのよ」
「問題なかったって言ってただろう」
「それが嘘だったとしたら?この事実を知ったらあなたが落ち込むと思って、私が不妊だってことにしておいたの」
「嘘をつくな。そんなわけがねえだろ。お前、そんな嫌がらせをしてくるのか」
「嫌がらせじゃないわ。これは真実よ。もし信じられないのなら、もう一度検査を受けてみて。そうしたら私の言ったことが真実だって証明できる」
「不妊はお前だろ」
「私は正常だった。実際に私のお腹には新しい命が宿ってるから」
「え?」
「再婚したって言ったでしょ。その人との間に子供ができたのよ。あなたたちと再会した時は、検査薬で陽性が出たから、その確認をしてもらうためだったの」
「嘘だろ?本当に再婚してたのか?」
「そうだって言ってるでしょ」
「だったら、その男の連絡先を教えろ」
「はあ?なんで」
「こんなすぐに再婚して妊娠なんて変だろ。不倫してたに決まってる。その男を問い詰めてやるよ」
「バカなことしないで。今はそれよりもやるべきことがあるはずよ」
「うるさい。俺に指図するな。何をどうするかは俺が決めることなんだ」
「そうやって目を背けるのもいいけど、いつかは向き合わないといけないのよ」
「いいから連絡先を教えろ」
「別にいいわ。何も隠すようなことはないから」
私は幸弘の連絡先を教えた。
数分後、修二が幸弘に電話をかけた。
「おい、不倫してただろ。それを認めろ」
「挨拶もなしにいきなりそれですか?まあ、大体の内容は知ってますけどね」
「だったら、逃げも隠れもせずに慰謝料を払ってもらうからな」
「私たちは不倫なんてしてませんよ。どうしてそんな風に思うんですか?」
「俺たちが離婚したのは半年前だぞ。それなのに、もう子供を妊娠するなんてあり得るか?」
「私たちが再婚したのは二ヶ月前です。それでついこの間妊娠が発覚したというだけです。これは決して珍しいことではないですから。確かに運が良すぎるとは思いますけどね。実際に不妊で悩んでいる夫婦はたくさんいますから。あなたもその気持ちは分かるでしょうし」
「なんだと?」
「ただ、我々にはやましいことは何一つないですよ。色々と調べてもらっても構いません」
「そうなのか」
「正直な話をすると、私は裕子に対して恋心をずっと抱いていましたよ。ですが、裕子とはずっと同僚のままでした。そして彼女が結婚して、諦めようと思ってました。ですが、私はそれから恋愛が全くうまくいかず、ずっと一人だったんですよ。そんな時に裕子がとても落ち込んだ様子だったので、事情を聞いたんです。そうしたら離婚を言い渡されたと話してくれました」
「それで裕子に近づいたってわけか」
「形の上ではそうなるので、反論はできないですね。ただ、最初は純粋に傷ついている裕子のことを支えたいと思い、色々と話を聞いていただけですよ。とにかく、俺は裕子の支えになりたかったんです。俺はいつも笑顔で働いていた裕子を見たかっただけですから」
「じゃあ、本当に不倫の事実はないんだな」
「それは絶対にありえません。俺のことは信じられなくても、裕子のことは信じてあげてください。あいつは子供が好きで、子供ができることを心から願っていたんです。それでもあなたと離婚しなかった理由は分かりますか?それはあなたのことを愛していたからですよ。あなたと一緒にいることを優先してたんです。そんな裕子が不倫なんてするわけがないでしょう」
「そうかよ。じゃあ信じてやる」
「これから俺たちは二人で子供を育てて幸せになるつもりです。お願いですから、それの邪魔だけはしないでください」
「そんなことするつもりはない」
電話を切った後、私はリカさんに連絡した。
「リカさん、修二から連絡はあった?」
「は?何?急に連絡してこないでよ」
「あなたこそ、急に連絡してきたでしょ?それよりも、修二から何か言われた?」
「別に何もないわよ」
「あいつ、何?」
「修二と何かあったの?もしかして修二とよりを戻すなんて、そんなことはないって言ったでしょ」
「じゃあ何よ?あなたのお腹には実際に子供がいるのよね」
「そうよ」
「それは誰の子供なの?」
「は?修二に決まってるでしょ?」
「それはありえないの。修二は種なしだって検査で分かってるから」
「へ?」
「私たちが不妊治療をしても子供ができなかったから、それぞれで検査をして調べていたの。その時に修二が種なしだって分かったから」
「嘘」
「これも本人に伝えたけど、信じられないなら検査をすることをお勧めするわ」
「本人に言ったの?」
「当たり前でしょ。ありえないことが起こってるから、見過ごせないと思ってね」
「ふざけるな。余計なことに首を突っ込まないで」
「いえ、あなたの嘘に子供が巻き込まれるのは絶対にあってはいけないことよ。子供のためにも、はっきりさせないといけないことだわ」
「私はてっきり、あなたが妊娠したと嘘をついて、それを理由に離婚から結婚まで持ち込んだんだと思ってたの。でも、どうやらそういうことじゃなかったみたいね。修二は他人の子供を我が子として育てようとしていた。別にそれ自体が問題だとは思わないわ。実際にそういう家庭だってあると思うし。でも、知らずに育てるのはちょっと問題でしょ。だから真実を伝えて、これからのことを二人で話し合って欲しかったんだけど、あいつは確認してきてないんですね」
「修二はどうするつもりなんだろう?」
「さあ。ちなみに、あいつが連絡をしてこなくなったら、離婚のサインだと思った方がいいわ。私も急にあいつと連絡が取れなくなって、家にも帰ってこなくなったから。走査してたら、急に離婚しようと言われたの。あなたもそうなるかもしれないわね」
「そう、私、離婚されちゃうの?」
「一応、あなたに落ち度があるからね。他の男との間にできた子を二人の子供だって言って騙してたわけだし」
「仕方なかったのよ。付き合ってた彼に妊娠したと伝えたら、結婚は無理って言って逃げられたんだから」
「もしかして、逃げた男が本命で、修二とは遊びくらいの感じだった?」
「そうよ。あいつがしつこく言い寄ってきたから、遊びで相手をしてあげてただけ。でも、私には修二しかもういないの。一人で出産と子育てなんてできるわけないんだから」
「道場は全くできないわね」
「あんたには分からないでしょ。私は常に男に困ってこなかったのよ。男に愛されることが女の全てなのに、あんたはまともに愛されたこともなかったんでしょ。そうやって誰に対しても愛想を振りまくから、肝心な時に誰からも相手にされないのよ」
「なんですって」
「これから色々と大変だと思うけど、まずはお腹の子供の幸せを優先して生きていってね。その子には何の罪もないんだから」
数分後、私は修二に連絡した。
「やっぱりリカさんとは話をしてなかったのね」
「お前、リカと連絡を取ったのか?」
「そうよ。どうなったかは気になってたから」
「お前には関係ないことだろ」
「まずはあなたたちの子供のことで話し合いが終わったら、私も話したいことがあったからね。それまでは待っておこうかと思ったのよ。でも、その話し合いをあなたは避けてるみたいだから、こっちの本題を話させてもらうわ」
「本題?」
「これも話しておきたかったのよ」
「なんだよ」
「あなたって、不妊を理由に私と離婚するって言ったでしょ。でも、実際はそれが理由じゃなかった。リカさんから妊娠したって言われたから、離婚しようとしたんでしょ」
「なんでそんな決めつけになるんだよ」
「それはあなたがよく分かってるじゃない。私が妊娠したって言った時、真っ先に不倫を疑ってきたでしょ。あれって、自分がそうしてたからじゃないの?」
「違う。そんなわけあるか」
「まあ、もちろんそんな理由で決めつけたわけじゃないわ。ちゃんとこっちには証拠があるのよ。探偵を使ってあなたのことを調査してもらったの。リカさんのお腹を写真で見させてもらったわ。お腹がとっても大きいのね。私と別れてすぐに再婚して妊娠したとしても、妊娠半年が限界のはず。でも、リカさんのお腹はとても大きくて、出産をもう間近に控えてる感じだったわ」
「でも、あれは俺の子供じゃあ」
「あなたはその妊娠を嘘だと見抜けなかった。異常に大きくなってたら、自分の子供じゃないって分かるはずだもの。もちろん、他にもあなたが不倫してた証拠は揃ってるけどね」
「だったら、何だって言うんだよ」
「あなたには慰謝料を請求させてもらう」
「慰謝料?俺たちはもう別れてるんだぞ」
「関係ない。ていうか、あなたは慰謝料を払いたくなくて、不倫の事実を隠して離婚したんでしょ?無理やり私に納得させてさ」
「俺たちはもう別れてるんだぞ」
「別れてようが何だろうが、不倫の事実が分かったのなら慰謝料は請求できるのよ。あなたにはきっちりと支払いをしてもらうからね」
「いや、待ってくれよ。俺はこれからリカとも離婚の手続きをしないといけないし、まずはそっちにさせてくれ。それが終わったら、お前への慰謝料の支払いにも応じるからさ。ちょっと俺も色々とあって混乱してるんだよ」
「そんなの関係ないわ。あなたのやったことは許せることじゃないから。私はあなたに離婚を突きつけられて、本当に何もかも失ったと思った。自分には何の価値もないんじゃないかって、毎日そう思ってた」
「それが何だよ」
「そんな壊れかけてた私をそばで支えてくれたのが幸弘だった。どんな時でも私の手を離さないでいてくれた幸弘がいたから、私は今こうして前を向いていられるの。幸弘がいなかったら、どうなってたか分からない。それだけあなたは私を追い込んで壊そうとした。そんなことをしといて、今更被害者面しないで。今すぐあなたに慰謝料を請求するから」
「ふざけるな。どうして俺がこんなことに。今まで何もかも完璧にこなしてきたんだぞ。受験も成功したし、会社でも俺はエリートなんだ。なのに、どうしてこんなことになるんだよ」
「あなたは完璧なんかじゃないわよ」
「なんだと?」
「あなたはただ、自分の失敗から逃げ続けて、目をそらし続けてきただけ。自分が他の女を作ったくせに、私に責任があるように言ってたでしょ。そうやって常にあなたは責任からも逃げ続けてきたのよ。そんなものを完璧だなんて言わないから」
「違う。俺は完璧なんだ。間違いのない人生を送ってきた」
「認められないのならもういい。勝手にしなさい。とにかく、慰謝料の支払いだけはちゃんとやってもらうから。そんなに完璧にこだわるのなら、もちろんきっちりと支払ってくれるわよね」
その後、修二とリカさんは離婚の話し合いを始めたそうです。ただ、リカさんは簡単に離婚を認めることはなく、現在泥沼の裁判を行っているみたいです。ちなみに、リカさんはその裁判の最中に出産をしたそうですが、誰にも見届けられることはなかったそうです。愛に飢えてる感じだったんですけど、多くの人を裏切ったからこうなってるのを理解して、子供だけは見放さないで欲しいですね。
一方の修二は、私への慰謝料の支払いやリカさんとの裁判などの心労が重なってしまい、仕事でミスを連発したとのこと。それまでもミスを人になすりつけたりしていたようで、同僚たちからの信頼はゼロだったので、誰からも助けてもらえず、評価と評判をどんどん落としてしまったのだとか。結果、今は窓際のような扱いを受けて、会社での居場所を失ったみたいです。きちんと自分の行いや失敗と向き合うべきだと思いますが、そんな日は来ないかもしれないですね。
ちなみに、私はお腹の子が大きくなったので産休を取って、子供が生まれてくるのを心待ちにしています。幸弘が仕事を頑張ってくれているので、子供が大きくなるまではできるだけ子育てに力を入れたいと思っています。子育てが大変なのはなんとなく理解していますが、私はこの子を幸せにするために、どんな困難や苦労からも逃げずに、幸弘と協力して育てていきたいと思います。



