「お前が健太と結婚するなんて許さない。お前みたいな高卒の底辺が、うちの家計に入るなんてありえないわよ」——婚約者の母親からそう言われたのは、レストランでの顔合わせの最中だった。私はただ、彼の家族に認めてもらいたいだけだった。なのに彼女はLINEで「婚約を解消してほしい」と送ってきて、その後には父親から「お前の人生を終わらせるくらいわけない」とまで言われた。私たちの結婚を、会社の利益のための道…

「お前が健太と結婚するなんて許さない。お前みたいな高卒の底辺が、うちの家計に入るなんてありえないわよ」——婚約者の母親からそう言われたのは、レストランでの顔合わせの最中だった。私はただ、彼の家族に認めてもらいたいだけだった。なのに彼女はLINEで「婚約を解消してほしい」と送ってきて、その後には父親から「お前の人生を終わらせるくらいわけない」とまで言われた。私たちの結婚を、会社の利益のための道...

初めまして、りえさん。健太の母のひみです。急に連絡をして悪かったわね。健太から、あなたと婚約したと聞いてね。どんな人なのか、少し気になったのよ。

そうだったんですね。健太から、お母さんに連絡先を教えていいかと聞かれた時は、正直驚きました。

でしょうね。普通の家庭なら、こんなことはないでしょうね。ただ、我が家は他とは違うのよ。それはあなたもよく知っているはずだと思うけど。

もちろんです。スーパーを経営されているんですよね。

うちの夫が社長をしていてね。何もないところから店を大きくしていって、今では県内に六店舗を構えるようになったの。これからもどんどん増やす予定よ。うちはそういう家だってことを、理解してほしいわ。

素晴らしいことだと思っています。

健太はその後継ぎになるのよ。そしてあなたは将来の社長夫人ってわけ。その自覚はあるのかしら?

私は、私で仕事はやるつもりではいます。

別に経営をしてくれなんて言ってないわ。あなたにそんなことが無理だって分かってるから。でもね、社長夫人ともなると、気品が求められるのよ。あなたのせいで健太が周りから白い目で見られるなんて、あってはならないことでしょ。

それはそうだと思います。

だったら、将来の社長夫人としての自覚を持って、今後は行動してもらいたいと思います。

わかりました。

ちなみに、あなたのことを教えてほしいのよ。お仕事は何をしているの?

父が農業をやっているので、そのお手伝いです。

農業?土いじりで生活をしているの?

そういう言い方はやめてください。

そんな生活を送った人が、うちの家計に入るのはちょっと嫌だけどね。

そういうのは関係ないじゃないですか。

ちなみに、最終学歴は何?

高卒ですが。

嘘でしょ?

本当ですが。

そんな人間と健太が結婚しようとしているの?

学歴や生活環境なんて、関係ないと思います。私たちは愛し合ってるから結婚をするんです。

どうやって健太を丸め込んだのかしら。

後ろめたいことは、何もしてないですよ。

ちょっと、あなたとの結婚は考えさせてもらうわ。

それは私たちが決めることであって、お母さんの意見は関係ないですから。

黙りなさい。こっちは会社の将来もかかってるのよ。

三十分後。

りえ、母さんとは話したか?

うん。でも、いい印象は持たれなかったわ。

もしかして、学歴とかそういうことか?

そう。農家の娘ってのも引っかかってたわ。

あの人は本当に変なところを気にするな。別に母さんだって大学を出てるわけじゃないんだよ。それなのに偉そうに学歴がどうとか言うなよな。

コンプレックスが、きっとあるんでしょうね。

だとしても、それを息子の妻に求めるのは変だろう。

そうね。それは変ね。もしかしたら、結婚の挨拶で反対されるかも。

そんなことは俺が絶対に許さないから安心して。俺にとっては、りえしか結婚相手はいないんだよ。

それは私もそうよ。だからこそ、みんなに祝福してほしいわ。

うちの両親は、どっちも変わってるからな。

昔からそういう感じなの?

勉強を頑張れみたいなことは、子供の頃から言われてたよ。でも、会社の業績が上がっていって店舗を増やしていった辺りから、二人ともなんか人を見下すような言葉を頻繁に使うようになったんだ。

父さんは自分が一代で会社を大きくしたっていう自負があるからこその言動だと思うんだけど、母さんもそれに影響されちゃってさ。

なるほどね。高卒の私のことは、下に見て当然か?

そんなことないよ。りえはすごいことをやってるじゃないか。俺は心から、りえのやってることを尊敬してるよ。それに、うちだってその恩恵を受ける予定なんだし。二人にそのことを話したら、手のひらをすぐに返すと思うよ。

いや、そのことはまだ話さないでね。やっぱり嫌なんだ。それで結婚を喜んで認められるのは、少し悲しいわ。私自身のことを受け入れてもらいたいから。

それは分かるけど。

どうにかして、気に入ってもらえないかしら。

りえがそこまで考える必要はないよ。何も考えずに、普通に挨拶をすればいいんだ。俺から二人にもきつく言っておくしさ。

大丈夫なの?あなたと両親の関係が悪くならない?

そんなの気にしてられないよ。俺にとって一番大事なのはりえなんだ。りえと結婚するためなら、何だってする覚悟があるよ。

ありがとう。私も覚悟を決めて、挨拶をしないとね。それに、会ったら意外と受け入れてくれるかもしれないし。

そうそう。前向きに考えていこうぜ。

一ヶ月後。

りえさん、ちょっと相談があるんだけど、いいかしら?

何ですか?

何?不満でもあるの?

いえ、不満ではなく驚いてしまって。どうしてLINEで連絡をしてくるんですか?レストランで食事をしてるのですから、直接話をすればいいんじゃないですか?

ちょっと表だっては話せないことなのよ。

はあ。それは何ですか?

あなたから健太に、婚約を解消すると伝えてくれない?

え?何ですって?

できれば健太を説得したかったんだけど、あの子はあなたに入れ込んでるみたいだから、無理そうなの。だからあなたから婚約を破棄するって言ってほしいのよ。

どうして私がそんなことをしないといけないんですか?

やっぱり、あなたを我が家に迎え入れるのは無理だと判断したわ。できれば、あなた自身から去ってもらいたかった。自分の立場を考えれば、うちに嫁入りなんてできるわけがないと思い知ってほしかったわ。でも、あなたは平然と結婚しようとしている。今でも信じられないのよ。まさか高卒の底辺が、息子の結婚相手として来るなんてね。

そうやって学歴だけで人を判断するのは良くないですよ。私はきっとお母さんたちのお役に立てると思っています。

思い上がりもここまで来ると立派よ。でもね、高卒の人間が私たちの力になることはありえない。まあ、レジ打ちくらいならやれるかもしれないけど、そんな人間は健太の嫁としてふさわしくないわ。だから、あなたには自分の口から別れを伝えてほしいの。

どうしてそんなことをしないといけないんですか?

もうこっちは健太にふさわしい奥さんを見つけているの。夫のお友達の会社の社長さんなんだけどね。そこの娘さんが独身なんだって。それで健太の話をしたら、是非とも娘をもらってほしいって話になったのよ。もしそこの娘さんと結婚したら、会社同士の繋がりも深くなって、我が家は今以上に潤うことができる。そういう人間と結婚した方が、私たちのためだからね。

いつの時代の話をしてるんですか?どうせその話は健太は知らないんでしょ。

そうよ。でも、説得はしてみせるわ。

ふざけないでください。私や健太の気持ちを無視して、勝手に話を進めたりしないでくださいよ。これは健太や私の人生なんです。だから、結婚相手は自分たちで決めさせてください。

そんなに必死にならなくてもいいじゃない。どうせ金目当てで健太に近づいたんでしょ。私が許さないから。お前に健太はやらないから。

私はそんなお金なんて欲しくないですよ。

嘘ばっかり言わないで。そうじゃなかったら、健太と結婚なんてしようと思わないでしょ。真面目だけが取り柄のような子なんだから、許せない。

自分の子供によくそんなことが言えますね。

事実なんだから、しょうがないでしょ。

あなたがどういう人間か、よくわかりましたよ。

じゃあ、私のお願いを聞いてくれる?もちろん謝礼は出すわよ。あなたの大好きなお金をもらえるんだから、やってくれるわよね。

私は健太と別れるつもりはありません。これ以上ごちゃごちゃ言うのなら、こちらとしても強硬手段を取るしかないわよ。

何でもやったらいいでしょう。脅されても、私の意思は変わることはありませんよ。

三分後。

やれやれ。我が儘を言わないでくれるか。

お父さんも、そっち側ですか?

当たり前だ。我が家の繁栄のためには、お前の存在は邪魔だ。

あなたは会社の繁栄のために、息子を利用するおつもりなんですか?

そんなの当然だろ。俺が会社を大きくしたおかげで健太はいい暮らしができているし、うちの会社で働くことだってできている。今時就職するのも難しいのに、あいつはコネで仕事をもらってるんだぞ。

だとしても、健太は仕事を頑張ってますよ。仕事で結果を残して、若くして本部長をやってるんですよ。

そんなのは当然だ。俺の後継者なんだからな。俺たちが優雅な暮らしができるように、やってもらわないと困るんだよ。結婚相手だって、俺たちの言うことを聞いてもらう。俺はもっともっと贅沢な暮らしがしたいんだからな。

あなたは息子のことを何だと思ってるんですか?

お前にわざわざ説明する義理はない。とりあえず、この話は今日で終わらせろ。そして、その後にあいつに別れを切り出せ。もちろん、こちらから命令されたなんてことは言うな。もし俺たちに逆らうようなことをしたら、後悔させてやるからな。俺は色々なところにコネがあるんだ。お前の人生を終わらせるくらい、わけないからな。

そうですか。そちらがそうおっしゃるのなら、仕方ないですね。

はっ、最初からそうやって素直に従えばいいんだよ。

翌日。

母さん、あんたは本当にバカな人だな。

何よ、急に。

りえから話は聞いたよ。りえを脅して、俺と別れさせようとしたみたいだね。

あの子があんたにそう言ったの?

そうだよ。どこまでも俺たちのことを舐めてるみたいね。言っておくが、俺はりえと別れるつもりはないからな。

私たちはあんたの将来や会社のことを考えて言ってあげてるのよ。それなのに、どうして分かってくれないのかしら?

あんたは自分たちの利益しか考えてないだろう。もっともらしく親のふりなんてするんじゃない。あんたは自分たちが金儲けをしていい暮らしをすることしか考えてないだろう。

親に向かって、なんて口の聞き方をするの?

あんたらこそ、りえに対してなんてことを言ってんだ。あんたのせいで、りえはめちゃくちゃ悲しんでたぞ。

はっ、あんな娘が悲しもうが、どうでもいいわ。

やっぱり、彼女が誰なのか知らないみたいだな。りえは気づかれてないのなら黙っておいてほしいって言ってたけど、あんたらには分からせた方がいいらしい。

何を言ってるのか、分からないわね。

「奇跡の桃」って知ってるか?

知ってるに決まってるでしょ。甘くて美味しくて、その味が奇跡と呼ばれるほど人気のある桃でしょ。全国から注文が殺到して、テレビとかでも特集されてるやつよ。基本は通販メインでやってるけど、決まったところだけ店舗でも販売をしてるんだ。うちでも取扱うようになったよな。

うちでも取引をするようになって、これでまたうちのスーパーの名前が全国的にも知られるようになるのよ。その桃を販売してる会社の社長が、りえなんだよ。

は?何それ?あいつは高卒の農家の娘でしょ?

そうだよ。お父さんが桃を作られていて、りえはその手伝いを小さい頃からずっとやってたんだ。お父さんが作る桃は知ってる通りとても美味しくて、地域では有名だったが、それだけで生活が豊かになることはなかった。赤字続きで、農業を続けることも難しくなってたらしい。そんな時に、りえはネットやSNSを駆使して桃のPRをしたり、全国に通販ができるようにしたんだ。おかげで桃は多くの人に知られることになり、りえは販売する会社を設立して、経営するようになったんだ。

だから高卒だったのね。

そうだよ。りえはもうやりたいことを見つけて、それを実現させていた。だからこそ、大学に行く必要がなかったんだよ。

まさか、そんな人だったなんて。

これで、自分が何をしでかしたか分かったか?

急いで、りえさんに謝らないと。

三分後。

りえさん、本当に失礼なことをして、申し訳ないわ。

お母さん、もうそんなことはやめてください。私は、あなたたちのことを許さないと決めたので。

そんなこと言わないでよ。

いえ、もう無理です。桃の販売を許可しようと思っていましたが、その話はなかったことにさせてもらいます。

そんな、どうしてよ。

そもそも、あなたたちのスーパーでの販売を許可したのは、結婚をするということがあったからです。お父さんたちの力になれればと思ってたんですが、あなたたちと仕事をする気はもうありません。

そんなこと言わないで。「奇跡の桃」を取り扱うとなったら、我が家にはとてつもない恩恵があるのよ。スーパーの名前は全国に知れ渡るし、売上だって鰻登りになると夫は言ってたわ。だから、やめるなんて言わないでよ。

おかしいですね。先程の私が、あなたたちの力になるとは限らないとおっしゃっていたはずですが。

いや、それは…

学歴なんて、人を測る上であまり意味はないですよ。もっと大事なものを見た方がいいと思います。あなたが正直に自分の肩書きを言ってくれてたら、そうなったら結婚を受け入れてくれましたか?私はそうなるのが嫌だから、黙ってたんですよ。私のことを散々金目当てだとか言ってましたけど、あなたたちこそそういう人種じゃないですか?

違うわよ。私は会社のために。

会社のことを思うのなら、息子の嫁に口出しなんてせずに、売上を伸ばすために頭をひねらせた方が、よっぽど効果的だと私は思いますけどね。

随分と嫌なことを言ってくるじゃない。

お母さんから言われた嫌味の、百分の一にも満たないですよ。あなたはもっと嫌なことを私に言ってたんですから。私のことを嫌ってもらって構わないわ。でも、桃の販売をすることと、健太との結婚を考え直して。

何を言ってるんですか?健太とは結婚するに決まってるじゃないですか。どうして婚約破棄するって思ったんですか?

え、そうなの?私たちのことを嫌ってるから、てっきり家族ごと縁を切るのかと。

そんなのは関係ありません。私は健太のことを心から愛しています。だから、どんなことがあっても一緒になりますよ。

だったら、桃の販売も考え直してよ。私たちのためじゃなくて、健太のためにさ。

健太のためになることは、色々と考えています。

それは何?

すぐに分かると思いますので、それまで待っていてください。

一ヶ月後。

健太、これはどういうことだ?

父さん、どうかしたのか?

知らばっくれるな。たった今、俺はこの会社から追い出されることが決まった。取締役会と臨時の株主総会が立て続けに行われてな。社長から引きずり下ろされて、取締役からも解任された。話を聞いたら、このクーデターはお前が主導してやっていたらしいな。お前は俺が育てた恩を仇で返したんだぞ。

確かに父さんには色々と感謝をしているよ。父さんのようになりたくて、今の会社に入ったしね。でも、会社でのあんたの立ち振る舞いは暴虐無道そのもので、俺は心底嫌気が差したんだ。あんたは自分の立場を利用して、社員たちに最低の振る舞いをし続けていた。そして誰一人として、あんたに言い返すことができなかった。

俺がこの会社をでかくしたんだぞ。

それは認めるよ。今まではそうだった。でも、正直あんたのやり方ではもう限界が来ていた。店の売上だって、どんどん落ちてる。会社はもう生まれ変わる必要があったんだよ。実際、あんたの傲慢さが原因で「奇跡の桃」を販売することができなくなった。この先もっと大きな問題が起こると、会社にとって致命傷になりかねない。そうなる前に、父さんのことは会社から追い出さないといけないと思ったんだ。そのために、取締役の皆さんや株主の皆さんに今回の件を説明し、皆さんでこの決定を下したんだ。

よくも、そんなことを…

悪いが、決定したことだから受け入れてくれ。これからは俺たちに会社のことは任せてほしい。

お前はどうして、こんな血も涙もないことができるんだ。実の親を裏切るなんて、よくできるな。

あんたのことを実の親だなんて思ってないよ。りえと別れさせようとした時点でね。

俺はお前のことを思って、でかい会社と関係性を作っておいて、なんとか会社の売上をよくしようとしただけだろ。そうやって生き残ろうとしたんだ。全ては後継者であるお前のためだったんだよ。

余計なお世話だよ。そんなことをしなくても、会社は俺が立て直せる。あんたはずっと自分たちの金回りばかり考えて、会社のことに一切目を向けていなかった。経営のことだって、取締役の人たちに投げっぱなしで、あんたは外で人脈作りばかりをやってた。そんなのが本当に会社のためになると思ってたのか。昔のあんたは、汗水垂らして会社を大きくしようとしていたよ。会社が大きくなって、あんたは大事なものを失ったんだ。その付けが、今回の解任だと思ってくれ。

本当に、俺のことを追い出すんだな。

もうこれは決まったことだよ。ゆくゆくは俺が会社の社長になって、社員のみんなを引っ張っていくよ。俺が憧れた、かつての父さんのように立派な社長になろうと思ってる。でも、どれだけ会社を大きくできたとしても、今のあんたみたいにはならないようにするよ。

一ヶ月後。

お父さん、ちょっとお話があるのですが。

なんだ、お前と話すことなんて、もう何もないはずだ。結婚式だって、俺は出席はしないからな。

そうですか。それは仕方ないですね。ですが、今回はその話ではありません。

なんだよ。

実は、私は外部取締役として、お父さんの会社で仕事をするようになったんです。

なんだと?

ネットやSNSを使ったプロモーションや、経営していく上でのノウハウなどを教えてほしいとお願いをされたんですよ。健太のいる会社ですのでね、力になれるならと、引き受けたんです。

それが何だと言うんだ?自慢なら聞かんぞ。

会社の経営を黒字にするためにお金の流れを、健太や他の社員さんと協力をして調査をさせてもらいました。すると、お父さん、あなたが不正に会社のお金を使い込んでいたことが分かったんです。

俺はそんなことはしてないぞ。

いいえ、それはありえません。あなたは色々な取引先と結託して、架空の取引を行ったように見せかけて、自分の懐に全てを入れていましたよね。そうやって会社のお金を私的に使っていたことが分かりました。

お前、余計なことを。

余計なことしてるのは、そっちですよね。会社のお金を流用したり、私たちの結婚を自分の都合のために邪魔したり、余計なことばかりをしてるのはそっちですよ。会社のためにやってるなんて言ってましたけど、結局あなたは自分のことしか考えてなかったんですね。

生意気なことを抜かすな。俺が稼いだ金だぞ。俺が好きに使って、何が悪い?

会社というのは、多くの人の力があって成り立ってるんです。あなただけで稼いだお金なんてものは存在しないんですよ。そんなことも気づかないなんて、あなたは経営者失格です。これから、お父さんには会社から損害賠償請求をさせてもらいます。かなりの額になると思いますので、覚悟しておいてください。

損害賠償だって?ちょっと待ってくれ。俺にそんな金を払えるわけがないだろう。

あなたが不正に使った分を戻してもらうだけです。言い訳なんてできないですよ。

ちょっと待ってくれ。家族を地獄に叩き落とすような真似をするのか。

あなたたちを家族だと思っていません。健太が、そうお伝えしたはずですけどね。もちろん、私も同じ気持ちですよ。私だけならまだしも、健太のことをあなたたちは馬鹿にした。あなたのことを尊敬し、あなたのようになろうと努力している健太のことを、あなたは自分の都合のためだけに利用しようとした。そんな人を家族だと思えるわけがないでしょう。

見捨てるってことか。

請求はさせてもらいます。

ふざけるな。俺はそんな金は一円も払わんぞ。

それはやめた方がいいですよ。損害賠償請求は、裁判を通じてやらせてもらいます。女に逆らわない方がいいですよ。きっと後悔することになりますから。

本気なんだな。

そうだと言ってるでしょ。両家顔合わせの時に「人生終わらせてやる」とかおっしゃってましたけど、あれってご自分のことだったみたいですね。

その後、お父さんは多額の損害賠償請求を受けることになりました。当然支払えるはずもなく、家にあった高価なものは全て差し押さえられ、住んでいた家さえも手放すことになったそうです。その後はお母さんと二人で小さなアパートに移り住み、細々と暮らしていたそうですが、一度贅沢な生活を知ってしまった二人には、その苦労があまりにも大きすぎたのでしょう。やがて関係は悪化し、結局離婚に至りました。お母さんは実家に戻ろうとしたものの、裕福だった頃に実の両親にまで高圧的な態度を取っていたため、受け入れてもらえなかったそうです。今はパートをしながら一人で暮らしているとか。人を見下し、踏みにじってきた人間ほど、いざという時に誰にも手を差し伸べてもらえない。そのことをようやく理解したのかもしれませんね。まあ、もう遅すぎますが。

一方のお父さんは、アパートに残って一人暮らしを続けていたものの、全てを失ったショックから体調を崩し、通院生活になったそうです。見る影もなく痩せて、かつての威圧感や勢いはもう残っていない。横柄に振る舞い、他人を踏み台にしてきた人間の末路としては、あまりにも分かりやすく、そしてふさわしい結末だと思います。

一方で、私は自分の会社も経営しながら、外部取締役としても精力的に活動を続けています。健太も営業部で仕事を頑張っていて、どんどん成果を出し続けています。お父さんがいなくなってから会社の雰囲気がかなり良くなったと、周りの人が言っていて、実際に経営状況もかなり良くなってきました。そして、いつの日か健太が社長になって、私はその健太を支えられるようになれたらいいなと思います。もちろん、お父さんみたいに全部自分の力でやったなんて勘違いをしないように、周りの皆さんへの感謝だけは忘れないようにしたいですね。

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