あの電話が鳴った瞬間、私は冷たい台所のタイルに立ち尽くしていた。義理の妹・小春からだった。「お姉さん、あたし内定もらって泣いちゃったの。決まったのよ!おめでとうって言って!」その明るい声のあと、彼女はこう続けた。「で、お祝いのプレゼントちょうだい。限定コスメと、あと百万超える冒金のバッグがいいな。だってうちは上流階級の娘だから、安いものは似合わないの」。私は必死に平静を装って答えた。すると彼…

あの電話が鳴った瞬間、私は冷たい台所のタイルに立ち尽くしていた。義理の妹・小春からだった。「お姉さん、あたし内定もらって泣いちゃったの。決まったのよ!おめでとうって言って!」その明るい声のあと、彼女はこう続けた。「で、お祝いのプレゼントちょうだい。限定コスメと、あと百万超える冒金のバッグがいいな。だってうちは上流階級の娘だから、安いものは似合わないの」。私は必死に平静を装って答えた。すると彼...

「お姉さん、あたし内定もらって泣いちゃったの。決まったのよ!おめでとうって言って!」

電話の向こうで、義理の妹・小春がはしゃいでいる。私はスマホを耳に当てたまま、冷たい台所のタイルに視線を落とした。

「そうなの?おめでとう。だから、うちで内祝いやることになってさ。」

「いいね!いつやるの?」

「今週の土曜日。招待してあげるから。のどかさんも来てよ。」

「え?私も行っていいの?」

「うん。で、お祝いのプレゼントちょうだい。」

私は思わず笑ってしまった。図々しいにもほどがある。

「なんなら今日、プレゼント買ってそのまま渡しに来てくれてもいいよ。」

「え、今日は忙しいから厳しいかも。」

「忙しいとか言う割には連絡取れてるんじゃん。」

「いや、今はお昼休みだから。土曜日にプレゼント渡すね。」

「どういうのが欲しいの?化粧品、お洋服、冒金のバッグ。」

「……冗談だよね。冒金って、百万超える高級ブランドでしょ?」

「当たり前でしょ。ほら、うちはお父さんが投資家で資産家だから。つまり上流階級の娘ってわけよ。だから持ち物もそれなりのものじゃないと。」

私はため息をついた。

「言いたいことは分かるけど、下民のあんたと違って、私に安いものは似合わないの。」

「その下民からプレゼントをもらうことに抵抗はないんだ。」

「納税よ、納税。下民は上級国民に、税金っていう名の贈り物を納めなさい。」

「……どこぞの国のお姫様か何かね。」

「お祝いしたい気持ちはあるけど、冒金は買えないです。」

「なんでよ!義理とはいえ、私は妹よ。妹が可愛いと思わないの?」

「なら、年上かつ義理の姉を敬う気持ちはないのかな?」

「あんたのどこに尊敬できる部分があるの?あんたの一族はみんな地味で見すぼらしくて、まさに貧乏人って感じよね。」

その瞬間、私の手が固くなった。

「私だけならまだしも、私の家族や親戚のことまで馬鹿にしないでくれる?すごく嫌な気持ちです。」

「いやいや、嫌な気持ちになったのは私の方ね。」

「本当はあんたたちと身内になりたくなかったけど、お兄ちゃんが連れてきた人だから何も言えなかっただけ。」

「……小春と仲良くなりたいと思ってたけど、そんな風に思ってたんだね。」

「そういうこと言う人の内定祝には、行きたくないかな。」

「は?行かないんだったら、お母さんに言うから。嫁が妹の私にプレゼントくれないって。」

「なんでそこでお母さんが出てくるの?」

「私が泣きついたら、家に怒鳴り込んでくるかもね。」

「分かったよ…………じゃあ、土曜日ね。」

通話が切れた。スマホを置いて、私はしばらくその場に立っていた。

翌朝、私はコスメ売り場の前で商品を眺めていた。すると背後から、夫・はるきの声がした。

「おい、のどか。」

「あ、はるき。」

「小春ちゃんって、何色が好きかな?」

「は?小春のなんで?」

「いや、小春ちゃんの内祝いのプレゼント買いに来ててさ。」

「休みの日の朝から何してるかと思ったら、買い物かよ。」

「寝る前に声かけたじゃない。」

「で、どうかな?限定品のコスメとかがいいかなと思ってるんだけど。」

「いいんじゃね?てかなんで内祝いのこと知ってんの?」

「昨日の昼に、小春ちゃんから連絡あったよ。」

「てことは、お前も来るわけ?」

「そうだけど、行っちゃダメなの?」

「私てっきり、はるきと一緒に行くもんだと思ってたよ。」

「いやいや、妹の内祝いに、嫁のお前も参加とは図々しいわ。」

「何が図々しいの?普通に誘われたから行こうと思っただけなんだけど。」

「お前さ、自分の立場とか身分、分かってんの?」

「嫁であることは分かってるけど、身分って何?」

「うちを何だと思ってんだよ。資産家の富裕層だぞ。」

「お前は運よく俺に気に入られたから結婚できただけ。」

「俺の身内になったからって、勘違いするなよ。」

「……何をどう勘違いするのか分からないけど、そこまで言うなら、はるきがプレゼント渡してくれる?」

「は?なんで俺がお前の言うこと聞かなきゃいけないんだよ。そういうのは自分で渡せよ。」

「男でしかも兄の俺からコスメ渡されたら、気持ち悪いだろう。」

「そんなことないと思うけど。」

「そんなに嫌なら、やっぱり私も行くべきじゃない?」

「…………分かったよ。」

「朝寝坊したら置いてくからな。」

当日、私は玄関の前に立っていた。タクシーを降りて、インターホンを押すと、すぐに内側から鍵が開いた。

「お邪魔しま——」

私は一歩踏み出そうとして、はるきに手で制された。

「おい。」

「なんで、ついた途端はるきだけ入って、私を締め出すの?」

「誰が、家の中まで入っていいって言った?」

「え?」

「うちに来ていいのは玄関前まで。家の中にまで上がるなよ。」

「毛むくじゃらの下民が入ったら空気が汚れるだろうが。」

「俺たちは今、高級寿司を食べてるところなんだ。」

「…………分かった。」

「じゃあ玄関先でいいから、プレゼントだけ小春ちゃんに渡していいかな?」

「開けたら開けたで、空気が汚れるだろうが。そしたらせっかくの高級寿司がまずくなっちまう。」

「ならないでしょ。」

「ああ、ちなみに。お前には高級寿司なしな。」

「母さんたちも同意見だとよ。嫁は玄関で麦茶飲むので十分。」

私は小さく息を吐いた。

「…………じゃあ、帰るね。」

「おお。帰れ帰れ。」

私はスマホを取り出し、小春にメッセージを送った。

「はるきから帰れって言われたから帰るね。だから、プレゼント受け取りに出てきてくれる?」

数分後、小春から返信が来た。

「プレゼントは置いてって。」

「玄関のドアのノブにかけてくれればいいから。」

「いいけど、そこそこいい限定コスメだから、盗まれるかもよ。」

「限定コスメ?ふーん。」

「すぐ取りに行くから、ドアのノブにかけといて。」

「できれば直接渡したいんだけど。」

「今、いとこだから無理。」

「じゃあ、かけてくね。」

私は紙袋をドアノブに引っ掛け、振り返らずに歩き出した。スマホに、もう一通メッセージが届く。

「内定、おめでとう。」

一週間後、小春から電話がかかってきた。

「ちょっと、あのプレゼント何?限定コスメとか言うから、デュオールとかショネルかと思ったのに。」

「……私が選んだコスメも、若い女性に人気のブランドなの。」

「よかったら使ってくれる?きっと使いやすいと思う。」

「そんな誰もが持ってるようなブランド、嫌なんだけど。」

「だったら、自分でお金貯めて買おう。」

「そういう苦労があった方が、達成感もあるし、もっと誇らしくなれると思うよ。」

「私だって苦労して内定取ったんですけど。」

「そうだけど、これからはもっと頑張らなきゃ。」

「これ以上、何を頑張んのよ。」

「じゃあ、いらないなら……返してくれるかな。」

「は?それがお祝いする人の態度?」

「お金を払ってプレゼントを買ったのは私なんだけど。」

「そこまで言うなら、もらってあげるわよ。」

「ああ、ケチ臭い義理だこと。」

「お金ないケチでごめんね。じゃあ、内定祝って。」

私は受話器を置いた。

その夜遅く、スマホが震えた。つと、はるきからだった。

「小春から聞いたぞ。プレゼント買わなかったんだって。」

「その言い方はちょっと語弊が——ていうか、まだ帰らないの?」

「実家で逆盛りしてんだよ。」

「飲まなきゃ、お祝いとは言えねえだろう。」

「え、車で来たのにお酒飲んだの?明日、仕事だよね。」

「休むからいいんだよ。今日は実家に泊まるわ。」

「そう…………くれぐれも、お酒抜けてから帰るんだよ。」

「分かってるわ。」

「で、小春に渡すものはないのか?」

「プレゼントは買ったよ…………でも、小春ちゃんの好みじゃなかったみたいで。」

「義理でも姉のくせに、小春のこと全然分かってねえな。」

「俺は、フラダのクマのキーホルダー買ってやったぞ。十万円ぐらいするやつをな。」

「そうなんだ。太っぱらだね…………でも、そのお金は、私のお金でもあるんじゃない?」

「はあ?なんでだよ。俺が稼いだ金だぞ。」

「私たちは夫婦だから、婚姻中に得たお金は二人のお金だよ。」

「そんな高いお買い物、さすがに一言くらい言って欲しかった。」

「十万円が、相談するうちに入らないだろう。」

「五万とか十万でいちいち相談するお前の方が異常だわ。」

「いや、はるきの実家は太いかもしれないけど、うちの世帯の収入では要相談です。」

「金銭感覚を一緒にしないでくれる?」

「なんだよ。俺の妹が可愛くないのか。」

「お顔は可愛いけど、中身はちょっと難ありかな。」

「は?結婚相手、間違えたかな?」

「どうしたのよ?前はそんなんじゃなかったじゃない。」

「付き合っていた頃は、なるべく自炊したり、古着や中古品買って安く済ませたり、倹約家だったのに。」

「ああ、あれは貧乏ごっこしてみただけ。」

「家賃が払えないって、私に泣きついたこと、あったよね。」

「俺は、本当に助けてくれるかどうか試したんだよ。」

「お前は俺のお眼鏡に叶って、結婚できたってわけ。」

「はるきがそんな感じだったら、私、結婚してないよ。」

「お母さんたちだって、優しく出迎えてくれた。」

「だから結婚したのに、どうしてみんな変わっちゃったの?」

「お前が勘違いしてただけで、元々こんなだよ。」

「勘違いしてるのは、はるきたちの方じゃない。」

「は?なんでだよ。」

「はるきたちがブランド品を好むようになったのは、お父さんが亡くなってからだったよね。」

「悲しみを物で埋めようとしてるんだよ。」

「だからって、高級車を買う。しかも会社の隣に止めるの、すっごい気を使うんだけど。」

「たまたま開会時期だったから、別にいいだろう。」

「お母さんも以前はそんなことなかったのに、宝石のアクセサリーを身につけるようになったし。」

「自分の母親が綺麗なのは、いいことじゃん。」

「小春も、安くてもお洒落はできるとしてたのに、今は高い服やバッグを持つようになったよね。」

「今まで我慢してただけだろ。」

「明らかにお父さんの遺産、使い込んでるよね。」

「それの何が悪いんだよ。」

「お金の使い道は自由だけど、あくまでお父さんが頑張って貯めてきたお金であって、はるきたちが苦労して手に入れたお金ではないでしょ。」

「うるせえな。」

「何なんだよ。偉い父ちゃんのせいで、今まで散々我慢させられてきたんだ。別にいいだろう。」

「それとも何だ?羨ましいのか?」

「違うよ。」

「自分たちの努力で手に入れたわけでもないのに、偉そうにしないでって言ってるの。」

「でも、貧乏人なのは本当のことだろう。」

「確かに私の両親はそんなにお金があるわけではないけど、大学まで通せてくれたし、普通の家庭だと思う。」

「迷わせてくれたって、小学校の金、借りたんだろ?」

「借りたよ…………払うって言ってくれたけど、自分のことだから。返してないよ。」

「いや、身近にこうも分かりやすい対象がいると、ついつい哀れんでしまうわ。」

「はるきたちのは、哀れみじゃなくて見下してるよね。」

「今日だって、お寿司どころか、家に入れてくれなかったし。」

「お前はスーパーのお寿司で十分だろう。」

「美味しいけど、そういう問題じゃないでしょ。」

「下民のくせに口応えすんな。」

「一般家庭で育った下民のお前は、我が家の奴隷だ。」

「そこまで言うなら、離婚する。」

「お、するか?」

「俺の助けなしで生きていけるのかな?」

「私も働いてるから、大丈夫だよ。」

「それもそうか…………じゃあ、世話になったな。」

「離婚届、書いて置いておくから、帰ったら書いてください。」

「オッケーオッケー。今日はもう酒飲んじまったから、明日書くわ。」

「今日は実家に泊まるから。」

「分かりました…………じゃあ、今から荷物まとめるね。」

「離婚届け書いてくれたら、それ持って出ていくから。」

「俺名義で借りてるマンションだから、当然だな。」

「今月分の家賃は半分払うけど、来月からは払わないからね。」

「下民の助けなんていらねえよ。」

「…………じゃあな。」

翌日、実家で、私は義母と対面していた。

「高級なお寿司、美味しかったわね、お母さん。」

「あら、私は食べてないのですが。」

「あ、ごめんなさいね。」

「はるきと小春に送るつもりが、間違えちゃった。」

「そうでしたか…………話は変わりますが、はるきから聞いてると思いますが、離婚することになりました。」

「やっと離婚するのね。」

「すっきりしたわ。」

「…………そんなに嫌でしたか。」

「他人が無理やり私たちの家族になったのよ。」

「嫌だったに決まってるじゃない。」

「結婚挨拶の時や、結婚当初は、心よく歓迎してくれたと思って、嬉しかったのですが。」

「ふりに決まってんでしょ。」

「なぜかお父さんがあなたを気に入ってたから、強く反対することができなかっただけだったのよ。」

「だから、お父さんがいなくなった後に、そんな態度を取るようになったんですか?」

「いつも地味で見すぼらしい見た目のあなたのことだもの。」

「どうせ、お父さんの財産狙いだったんでしょ。」

「ああ、やだ、やだ。」

「なんて嫌らしいのかしら。」

「どこぞの富豪の妻みたいだこ。」

「違います。」

「ちゃんとはるきさんのことが好きで、結婚しました。」

「どうだか。」

「好きなふりなんて、いくらでもできるからね。」

「まあ、別れるならいいわ。」

「もう二度と、うちに上がることもないならね。」

「だから、この間は家に上がらせてくれなかったんですね。」

「あなたには、ローション配合のティッシュ一枚も、三枚重ねトイレットペーパー一センチも、もったいないもの。」

「お金持ちを自慢する割には、ケチ臭いですね。」

「うるさいわね。」

「貧乏人がうちに上がれるだけでも、光栄なことなのよ。」

「あの、勘違いしてるようですが、うちは普通の家庭で、生活に窮したことはないです。」

「そうかしら。」

「だって両家顔合わせの時、すっごく地味な格好で来たわよね。」

「シンプルなデザインで、常識ある服装だと思いますけど。」

「あまりにも地味すぎて、みすぼらしいと思ったわ。」

「やっぱりね、育ちとか賢さって、見た目にも出るのよ。」

「あなたの母親は、さえない妖怪画みたいな顔してるし、父親は、頼りもない腰抜けね。」

「まだおって何ですか?まるでダメな男みたいに。」

「ああ、こんな人たちと身内だったなんて。」

「離婚してくれて、本当に良かったわ。」

「そこだけは感謝するわ。」

「私だけならまだしも、両親のことを悪く言うなんて、いくらお母さんでも許せません。」

「どう許さないって言うのよ。」

「そんな風に人を見下していたら、今は何ともなくても、いつか必ず報いを受けますよ。」

「呪いでもかけるの?おお、怖い怖い。」

「窮地に陥った時、私は絶対に助けませんからね。」

「誰が見るに耐えない貧乏一家に、助けを求めるか。」

「それでは、今までお世話になりました。」

私は頭を下げ、玄関を出た。

一週間後、会社の昼休みに、スマホが震えた。小春からだった。

私は渋々、通話に応じた。

、「ちょっと、のどかさん、どういうことなの?」

「何の用かな?私、今仕事で忙しいんだ。」

「それどころじゃないのよ!」

「昨日内定先の社長から連絡が来て、『お世話になっております』——何だっけ、『規約に違反したので、内定を取り消します』って言われたのよ!」

「ああ…………おじさんね。」

「なんで身内に社長がいるって教えてくれなかったの?結婚挨拶とか、両家顔合わせの時に言ってよ!」

「いや、社長はおじさんであって、私の親が経営してるわけじゃないからね。」

「嫁入りする側だし、わざわざ言う必要ないと思って。」

「ふざけんな!」

「あんたの父親は工場勤務で、母親はスーパーのパートって言うから油断したじゃない!」

「何の油断?とにかく、本当に普通の家庭だから。」

「冗談じゃないわ!」

「あんたに騙されたせいで、こんな目にあったのよ!」

「騙した覚えはないんだけど…………工場って、低賃金なんでしょ?身内に社長もいるのに。」

「新卒の初任給の手取り二十五万、らしいよ。」

「おじさんの会社のグループ会社だから、社員の給料も福利厚生も手厚いし、いい職場だと思うけど。」

「なら、あんたのお父さんから社長に行ってやってよ!」

「内定取り消しを、取り消してって!」

「それかできないなら、ちゃんと理由を教えなさいよ!」

「…………え、私、関係ないのに。」

三十分後、私は小春に折り返しの電話をかけていた。

「理由、聞いてみたよ。」

「何だったの?」

「面接官の顔を勝手に撮って、SNSにあげたらしいね。」

「私のアカウント、勝手に見たの?」

「今はどこの企業も、応募者のSNSはチェックするよ。」

「最低じゃん。」

「最低なのはどっちなの?」

「面接官の顔と服装に点数つけて、批評したものを投稿したらしいじゃない。」

「それの何が悪いの?男の面接官が、批評されるような見た目してる方が悪いんじゃん。」

「別に小春に迷惑かけたわけじゃないでしょ。」

「私の目に迷惑かかってんだよ。」

「本人に直接言ったわけじゃないんだから、別にいいじゃん。」

「全世界にさらしたよね。」

「それは重大だし、『別にいい』で済ませられないよ。」

「みんなやってることじゃん。」

「自分のことならいいけど、人のことでしょ。」

「ましてや本人から投稿の許可も得ないんだから。」

「こんな失礼な行為、内定取り消されて当然だよ。」

「なんで私だけ、こんな目に会わなきゃいけないのよ!」

「悪いことしたっていう自覚がないんだね。」

「悪いことしてないんだから、当たり前でしょ。」

「だからお願い!」

「可愛い妹の頼みよ!」

「義理だとしても、血も繋がってない妹の知り合いの口利きなんて、いくらお金を積まれてもお断りします。」

「自分でどうにかしてね。」

電話を切った。

五分後、また小春から着信があったが、私は無視して仕事に戻った。

その日の夜、今度は春江から電話がかかってきた。

「ねえ、お母さん。どうして教えてくれなかったの?」

「突然どうしたの?何をそんなに怒ってるのよ?」

「私の内定先の社長、あの下流階級の女の親戚だったの!」

「え?嘘でしょ?そんなわけがないわ。」

「社長から直接聞いたから、本当よ。」

「じゃあラッキーじゃない。社長が身内にいるってことでしょ。」

「アンラッキーだわ!内定、取り消されたんだよ。腹立つ!」

「なんでそんなことになってるのよ?」

「面接官の顔をSNSにアップしたからだってさ。」

「今時、普通なのに。」

「まあ、古い社風ってことよね。」

「そんなところ、内定取り消されても良かったんじゃない?」

「何言ってんの!?他のところは全部落ちたから、あの女の親戚の会社しか望みないのよ!」

「ってことは——このままじゃ、私はニート確定ってこと?」

「えっと…………バイトでもいいわよ。」

「遺産、まだ残ってるし。」

「いやいや、世間体に響くぞ。」

「ていうか、お母さんも働いてよ。」

「遺産、あと少しかないんでしょ。」

「あなたたちが、そんなに散財すると思わなかったのよ。」

「お母さんだってそうじゃん。」

「ケチなお父さんが病気で亡くなりやいなや、遣い散らして。」

「いいでしょ。」

「今まであの人に我慢させられたんだから。」

「だからこれは私へのご褒美なの。」

「絶対に働くもんですか。」

「じゃあ、これからどうすんの?」

「いい考えがあるわ。」

「はるきに協力してもらうのよ。」

五分後、今度ははるきに電話をかけていた。

「はるき、あなたは知ってた?」

「何を?」

「あなたの底辺嫁の身内に、社長がいるってことよ。」

「はあ?そんなこと、一言も聞いたことねえよ。」

「どうせ嘘だろ。」

「それが本当らしいのよ。」

「小春の内定先の社長が、叔父だったんですって。」

「またまた、そんな冗談で、内定取り消されたのよ。」

「あ、マジなの?」

「離婚されることに対する嫌がらせよ。」

「そうとしか思えないわよね。」

「本当に性格の悪い嫁だこと。」

「俺が仕返ししてやるわ。」

「待って。」

「むしろ、これはチャンスよ。」

「はるき、その会社に転職しなさい。」

「はあ?なんでだよ。」

「低所得の嫁の身内が社長ってことは、あなたも社長の身内。」

「そこに俺が入れば、身内として優遇されるってことか。」

「その通りよ。」

「それに、仕事で実績を上げれば、時期に社長にもなれるかも。」

「それ、いいな…………やっぱり、あいつと離婚するの、やめるわ。」

「そうしなさい。」

「うまくいった暁には、実家へ仕送りするのよ。」

「もちろん。」

「じゃあちょっと、休職して就活してくるわ。」

「頼んだわよ。」

翌日、仕事から帰って疲れ果てた私のスマホに、はるきから着信が入った。

「悪い話があるんだ。」

「何?」

「この間は済まなかった。」

「頭に血が上って、冷静じゃなかった。」

「離婚は本意じゃない。だから——帰ってきてくれ。」

「もう離婚したけど。」

「はい。」

「そんな嘘だろ!」

「本当に受理されてるよ。」

「受理通知、届いてない?郵便受け、ちゃんと見た?」

「いちいち確認しねえよ……ていうか、勝手に出すなよ!」

「俺、了承してねえぞ。」

「したよ…………ああ、酔ってて覚えてない。」

「LINE、見返してみて。」

「そんなの無効だろ!」

「でも、普通に会話できるくらい意識はしっかりしてたし。」

「酔いが覚めて『やっぱり離婚したくない』ってなったら、もっと早めに言うこともできたよね。」

「それは——忙しかったから言えなかっただけで、離婚したくないんだ!」

「これを打って送信するのに、五秒もかからないでしょ。」

「本当に受理されちまったのか……」

「うん。」

「なんでだよ——せっかく会社やめてきたってのに!」

「え?今勤めてる会社、やめたの?」

「そうだよ。」

「お前の身内が経営してるっていう会社に転職しようと思ってたのに、余計なことしやがって。」

「いや、自分のせいだよね。」

「そもそも、はるきが今やってる業種とは全く異なる業種だから、厳しいと思う。」

「いや、でも小春の内定を取り消したってことは、まだあと一人、採用枠があるんじゃないのか?」

「中途は募集してないし、あの後すぐ別の人見つかったって。」

「じゃあ、俺はどうしたらいいんだよ。」

「就活したら?私はもう知らないよ。」

「待てよ。」

「それなら——再婚しよう。」

「お前にも金持ちの恩恵をもたらしてやるから。」

「結構です。」

「それに、言うほどお金に困ってないから。」

「待ってくれ——せめて就職先の紹介を。」

「おじさんが社長なだけで、私自身は普通の会社員だから、無理です。」

「それじゃあ、もう連絡してこないでください。」

その一週間後、また小春から着信があった।

「のどかさん、ごめんなさい。」

「私が悪かったわ。」

「だから——もう一回,お願い。」

「だから、無理だって言ったよね。」

「あと、仕事中に何回も連絡するのもやめてくれる?」

「ちょっと待って——本当にお願い!」

「今うちはピンチなの!」

「お母さんは働かないし、お兄ちゃんは無職だし!」

「お父さんの遺産があるんでしょ?それも尽きかけて。」

「うちにはもう、お金がないの。」

「じゃあ、どうやって生活してるの?」

「実は——夜の路上でずっと立ってるお仕事してるの。」

「もう嫌だ、こんな生活。」

「それ、犯罪だからやめた方がいいよ。」

「やめたくても、他に即金で高収入の仕事ないんだもん!」

「節約して生活してるよ。」

「普通のティッシュに変えるとか、タクシー移動をやめて徒歩やバスにするとか——生活レベル落とせるわけないじゃん。」

「ねえ、助けてよ。」

「嫌です。」

「犯罪者の身内だなんて思われたくないから。」

「これを最後に、ブロックさせてもらうね。」

「本当にごめんなさい——のどかさんが身内で良かったと思ってるから!」

「だからお願い——助けて——」

通話を切り、ブロックした。

翌日、今度は春江が会社に電話をかけてきた。

「小春を助けなかったんですってね。」

「この薄情者、鬼、悪魔!」

「どうして親子揃って、仕事中に邪魔してくるんですかね。」

「いいから、助けなさいよ!」

「無理です。」

「内定に関しては、私は何の関係もないですし、何よりも離婚したので、そちらとはもう身内でも何でもありません。」

「他人です。」

「困るわよ!」

「うちにはもうお金がないのに!」

「これからどうやって生きていけばいいの?小春の稼ぎだけじゃ、カツカツなのよ!」

「小春ちゃんが今、何をして稼いでるか、知ってるんですか?」

「知ってるわよ。」

「男に媚びる仕事でしょ?それが何?」

「可哀想だと思わないんですか?」

「仕方ないじゃない!それしか方法がないんだから!」

「方法はありますよ。」

「お母さんが働いてください。」

「親なら、子供を養うために働くものです。」

「…………分かった。」

「なら、あなたの親戚の会社の社長に、直接談判しに行くわ。」

「え、どういうことですか?お願いですから、迷惑かけるようなことはしないでください。」

「あなたの指図は聞かないわよ。」

「やめてください、お母さん!」

一週間後、私はニュース配信アプリで、ある動画が拡散されているのを見た。

「どうして、あの時もっとちゃんと止めなかったのよ!」

電話越しに、春江が叫んでいた。

「だから、仕事中だって言ったでしょ。」

「ああ、もういいです!」

「あなたの仕事なんてどうでもいいのよ!」

「そんなことより、大変なの!」

「何がですか?」

「あなたがちゃんと止めてくれなかったせいで、SNSに私が会社に行った様子が拡散されてるの!」

「警察を呼ばれて、説教されてるところ!」

「ああ、私も見ましたよ。」

「『採用しなさい』って叫んで暴れてる動画ですよね。」

「本当に離婚してよかったなって、心から思ってます。」

「馬鹿にして!大体、人の姿を勝手にSNSにあげるなんて、性格悪すぎよ!」

「あなたの娘さんがしたことと同じことですよ。」

「一緒にしないでよ!」

「あ、もう人生終わりよ!どうしたら消せると思う?なんとかして!」

「私は猫型ロボットじゃないので、無理です。」

「前に言いましたよね。」

「今後何があっても、助けないって。」

「では、これから会議なので。」

翌日、また電話が鳴った。今度ははるきだった。

「おい、お前、ふざけんなよ。」

「今度は何?仕事終わりで疲れてるんだけど。」

「今ハローワークから帰ったら、電子レンジとかテレビとか、家のものがまるごとごっそりなくなってたんだけど。」

「ああ、それは私のものだから、業者さんに頼んで私の家に運んでもらいました。」

「いやいや、おかしいだろ!」

「私が結婚前に買ったものだから、何もおかしくないよ。」

「無事なのは冷蔵庫だけ。」

「冷蔵庫だけは、結婚後に買ったものだったからね。」

「これだけでどうやって生きろって言うんだよ!」

「別に、生きていけると思うけど。」

「そうそう、家の鍵は玄関の靴箱の上に返しておきました。」

「家だけあっても意味ねえんだよ!」

「これから買い揃えればいいじゃない。」

「だから——就活中で、仕事も金もないんだよ!」

「だから今月分の光熱費と家賃も払えてないんだ!」

「このままじゃ水も電気も止まって、このマンションからも追い出されちまう!」

「ブランド品を売ればいいじゃない。」

「はるきの車、全部売ったら、それなりのお金になるよ。」

「あれは俺の誇りだから、無理だ!」

「そんな代々伝わってないでしょ。」

「とにかく、お前が勝手に持ってったもん、全部返せよ!」

「返したとて、水も電気も止まるんだから、使えないでしょ。」

「お前に贅沢な生活は似合わないって言ってんの。」

「俺より悪く生きようなんて、絶対に許さないからな!」

「下民は下民らしく生きろ!」

「一つ言わせてもらうね。」

「お金の有無に関係なく、ブランド品が似合う人は似合うの。」

「それはその人が頑張った証だから。」

「何が言いてえんだよ。」

「心が貧しいはるきに、高級品は似合わないってこと。」

「分かったら、車を売って似合う人に譲って、そして堅実に生きるの。」

「なんで俺が、そんな底辺みたいな生き方しなきゃいけないんだよ!」

「はるきには古車で十分。」

「嫌なら、一生懸命働いてね。」

「嫌だよ!頼む——お金貸してください!」

「せめて今月分の光熱費と家賃だけでいいから!」

「懐かしいですね。」

「昔もこうやって頼まれて、貸したことあったっけ?」

「あの時は、はるきも頑張ってたから貸してあげたけど、今のはるきに貸そうとは思わない。」

「何でもするから——」

「じゃあ、自力でなんとかしてもらって。」

「二度と連絡してこないで。」

「さようなら。」

その後、小春は公園で立っていたところ、警察に逮捕された。多くの女性が同時に逮捕され、大きな事件となったため、ニュースで実名報道されるほどの騒ぎになった。

近所からも親戚からも疎遠され、一家は孤立しているようだ。

小春は罰金二十万円の判決を受けたが、二十万円すら払えず、六ヶ月の懲役となった。

春江は意気揚々と就活するが、小春のせいでどこにも受からないらしい。

はるきも家賃を払えずにマンションを追い出され、実家に身を寄せて就活を始めたようだが、春江と同様、小春のせいでどこも受からないらしい。

生活が苦しくなったはるきと春江が取った行動は、高金利の金融会社からお金を借りることだった。

借りたはいいものの、以前の生活を改めず、あっという間にお金は尽き、借金返済ができず、その筋の人たちに仕事を紹介され、今はどこで何をしているかも分からない。

ただ、必要最低限の暮らしはできていることだろう。

私はと言いますと——ついこの間、ボーナスが出たので、回らないお寿司を両親と食べに行きました。

とっても美味しかったです。

お金があるのは、悪いことではありません。

でも、たまに贅沢することでしか得られない幸せがあると思います|

この幸せのために、これからも貯金を頑張ります|

ご視聴ありがとうございました|

動画の評価と、チャンネル登録もよろしくお願いします|

それでは、次回の動画でお会いしましょう|

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