年収1000万円になった夫は笑った――「今日から生活費は完全折半な」私は黙って頷いた。3か月後、義実家の集まりでエプロンを外して家を出た瞬間、夫は顔面蒼白になった――

第2部      

三ヶ月が過ぎた。かず彦の機嫌は絶好調だった。給料日には生活費の半分だけを私に渡し、残りは全て自分の自由に使っていた。高級なゴルフウェアを買い、部下に奢り、週末はゴルフ三昧。義母からも「かず彦のおかげで助かっているわ」と電話がかかってくるが、そのお金は全て私の口座から引き落とされていることに、彼は一度も気づかなかった。

十一月の第三日曜日。吉沢家での親族揃っての食事会だった。私は朝七時から一人で台所に立ち、十人分の料理を作った。親族たちは昼過ぎに集まり、かず彦はソファにふんぞり返って弟とビールを飲んでいる。

「兄貴、すげえよな。年収一千万円超えなんて」

「まあな。要は結果を出すことだよ」

食事が始まると誰も私を手伝おうとしない。私が一人で飲み物を補充し、皿を下げ、子供がこぼしたジュースを拭く。二時間後、親族たちが満足げにソファでくつろいでいる中、私は台所で山のような食器を洗っていた。

その時、義母の声が聞こえてきた。

「やっぱり嫁がいると楽でいいわね。かず彦が稼いできてくれるから、くみ子さんもこんな風に私たちに尽くせるのよ。かず彦様々ねえ」

親族全員がどっと笑った。私は洗っていた皿をそっとシンクに置き、蛇口の水を止めた。エプロンを外して綺麗に畳み、今へ向かった。そしてかず彦の正面の空いた椅子に静かに座った。

部屋が水を打ったように静まり返った。

「今日で終わりにします」

かず彦が困惑した声を出した。

「終わり? 何がだ」

私は黒い鞄から分厚い茶封筒を取り出し、テーブルのど真ん中にドンと置いた。

「開けてみて」

かず彦が戸惑いながら封筒を開けると、黒田税理士が作成した分厚い資料の束が出てきた。一番上の紙には「過去十年間 吉沢家援助総額計算書」と大きく書かれ、右下には約五千二百万円という数字が印されていた。

かず彦の顔から一瞬で血の気が引いた。

「五千二百万……」

義母が心配そうに覗き込む。かず彦は紙を握りしめ、顔を真っ赤にして怒鳴った。

「ふざけるな! 俺が実家に五千二百万円も払ったっていうのか? 嘘に決まってるだろう!」

私は静かに言った。

「よく見て。支払い名義人のところ」

そこには全て「くみ子」と書かれていた。かず彦の声が裏返る。

「お前が払った五千二百万円を……?」

義母がお腹を抱えて笑い出した。

「あはは! パートのあなたがそんな大金持っているわけないじゃない。嘘をつくならもっとマシな嘘をつきなさいよ」

弟夫婦も同調して笑う。かず彦も得意げに私を指差した。

「そういうことか。お前、俺の稼ぎを勝手に自分の口座に移してたんだな。税理士の印なんてどうせ自分で押したんだろう」

私は黙って彼らの言葉を聞いていた。怒鳴ることも泣くこともしない。ただ、彼らの顔を一つ一つ目に焼きつけていた。

かず彦はテーブルの上の書類を乱暴に掴み、私の顔の前に突きつけた。

「こんなゴミみたいな紙、今すぐ捨てろ。今日から生活費は完全折半だ。文句があるなら今すぐこの家から出ていけ」

私は静かに息を吐いた。

「そう、それがあなたの答えなのね」

そして茶封筒の底に残っていた本当の証拠に手を伸ばした。赤い付箋が貼られた一枚の紙を抜き出し、かず彦の目の前に置いた。

「よく見て。それは黒田先生が計算した、あなたの過去十年間の収入の全てよ」

かず彦がしぶしぶ目を落とす。そこには十年間の手取り合計「約四千八百万円」と書かれていた。

「あなたはさっき、私があなたの金を盗んで五千二百万円を疑実家に払ったと言ったわね。じゃあ教えて。手取り四千八百万円の収入から、どうやって五千二百万円を盗むことができるの?」

部屋の空気が完全に止まった。かず彦の思考が停止しているのが分かった。

私は古い通帳を取り出し、テーブルに置いた。

「これは私の父の生命保険金と、両親が残してくれた実家を売ったお金よ。結婚して三年目に両親が事故で亡くなった時、私に入った大切なもの。私はそれを将来のために取っておくつもりだった。でもあなたは『俺の親を見捨てるのか』と言って、全てを私に丸投げした」

義母が息を飲む。かず彦は通帳の数字を食い入るように見つめている。

「お義母さん、あなたが屋根が壊れた、お父さんの入院費が足りないと泣きついてくるたびに、夫は『なんとかしろ』と私に全て押し付けました。夫の給料は私たちの生活費と住宅ローンでギリギリでした。だから私は両親の遺産を切り崩して送金し続けたんです」

義母が膝から崩れ落ちた。かず彦は慌てて私を指差す。

「お前が勝手に親の金を使ったんだろ! 俺はそんなこと頼んでないぞ!」

私は一歩近づいた。

「頼んでない? あなたが『長男の嫁だろう』と怒鳴ったから、私はお金を出したのよ。あなたは通帳を見ようともせず、ただ親の前で『俺が払っている』と良い顔をしたかっただけじゃない」

さらに義弟夫婦にも通帳を見せた。義弟の車検代、義妹の子供の学費。全て私が夜勤を増やして振り込んだものだった。

かず彦は後ずりをした。

「俺は何とかしろと言っただけだ。お前が自分の金を使ったのはお前の勝手な判断だろうが」

義弟がぽつりと言った。

「兄貴、それ本気で言ってるのか? 奥さんに全部押し付けて、自分は親の前で良い顔をしてたってことかよ」

かず彦は狂ったように怒鳴りつけたが、もう誰も彼を信じようとしなかった。

私は静かに言った。

「あなたは自分のためだけに生きてきたのよ。一千万円プレイヤーになったから完全折半にする。自分の金は自分のもの——いいわよ。私も同じようにさせてもらう」

そして離婚を切り出した。かず彦は膝から崩れ落ちそうになった。義母がすがりついてくるが、私はその手を避けた。

すでに荷物を詰めた二つのスーツケースを持ち、玄関を出る。呼んでおいたタクシーが待っていた。

かず彦が裸足のまま飛び出してきて叫ぶ。

「ふざけるな! 俺は絶対に認めないからな! 絶対に弁護士を呼んでお前を地獄に落としてやる!」

タクシーは静かに走り出した。窓越しに見えるかず彦の姿がどんどん小さくなっていく。

その後のかず彦の生活は、あっという間に荒れ果てた。朝食はなく、アイロンのかかったシャツもなく、靴も磨かれていない。給料日に四十万円が入っても、車のローンやクレジットカードの請求、義母への仕送りで一瞬にして消えた。残高四百三十二円になった時、彼はようやく現実を理解した。

義母は息子を責め立て、息子は母親を罵った。お金というメッキが剥がれた瞬間、二人の間に残ったのは見苦しい欲望だけだった。

一方、私は駅から少し離れた小さなマンションで、自分のためにステーキを焼き、紅茶を飲んでいる。五年ぶりに美容院で髪を整え、新しいセーターを着た。新しい職場では「ありがとう」と素直に言ってもらえる。

十九年間、私はずっと家族の残り物を食べ、自分の人生を後回しにしてきた。でも今は違う。この小さなテーブルには、私一人のための料理がある。

誰かのために生きるのではなく、自分の幸せのために生きる。それがやっと始まったのだ。