結婚式の真っ最中、私のドレスにケーキが飛んできて式が台無しになった。でも、夫になるはずの人は「わざとじゃない、許してやれ」の一点張り。おかしいと思って彼の元カノを問い詰めたら、彼女が放った一言は「ケーキを倒せって言ったのは、あなたの婚約者よ」だった。しかも二人は私に隠れてずっと付き合っていたらしい。そして最後に気づいたのは、あのケーキを作ったのは大手企業も取引を望む有名パティシエだったこと。…

結婚式の真っ最中、私のドレスにケーキが飛んできて式が台無しになった。でも、夫になるはずの人は「わざとじゃない、許してやれ」の一点張り。おかしいと思って彼の元カノを問い詰めたら、彼女が放った一言は「ケーキを倒せって言ったのは、あなたの婚約者よ」だった。しかも二人は私に隠れてずっと付き合っていたらしい。そして最後に気づいたのは、あのケーキを作ったのは大手企業も取引を望む有名パティシエだったこと。...

式の最中、ケーキが私に向かって倒れてきた。ドレスはクリームだらけ、せっかくの結婚式は一瞬で台無しになった。

「どうしてこんなことになるのよ。おかげでドレスもケーキもめちゃくちゃよ」

私は式場を飛び出し、控え室で必死に汚れを落としていた。すると、夫の鉄平が追いかけてきて言った。

「じこ、怒ってるのは分かるけど仕方ないだろ。前がケーキを倒したのはわざとじゃないって」

「あれがわざとじゃないなんて私には思えないわ。人に体をぶつけるなんて普通ありえないでしょ」

「前は昔から抜けてるところがあるんだよ。すぐに謝ってたじゃないか。許してやれよ。心狭いな。早く結婚式の続きをやろうぜ」

「心狭いですって?どうしてあなたが彼女の味方をするのよ。あなたの招待客なんだから、しっかり注意するべきなんじゃないの?」

鉄平は彼女、前衣をかばい続けた。私がいくら言っても「もう済んだことだ」と流そうとする。あまりにも彼女を守る態度が不自然で、我慢の限界に達した。

「あなたと前衣さんはどういう関係なの?本当にただの友達なの?」

「大学の後輩で仲良くしてたって説明したはずだぞ」

「疑われるような態度を取るからよ。大事な式なんだから、ちゃんとやりなさいよ」

「分かったから、早く式場に戻ってこいよ」

「その前に前衣さんの連絡先を教えて。あいつをこれ以上責めるなって言いたいなら、私が直接話をつけるから」

鉄平は渋々ながら、彼女の連絡先を教えてくれた。

式が終わった後、私は前衣に直接話を聞くことにした。

「前衣さん、どうしてあんなことをしたのか教えてください」

「何が?単なるミスじゃない。理由も何もないわよ」

「あれがミスだとは到底思えません。あなた、わざと私の方にケーキを倒したでしょう」

「そんなことするわけないでしょ。濡れ衣よ」

「あなたが私のことをずっと睨んでるの、気づいてましたよ」

「私、そんな目してた?」

「自覚はなかったんですね。もしかして、鉄平のことを好きだったんですか?」

その言葉に、前衣の態度が一変した。目つきが鋭くなり、声音に憎しみが滲み始めた。

「黙りなさい。あんたのせいで私がどれだけ辛い目にあったか分かる?あんたに幸せを奪われたんだから」

「どういうことですか?」

「私もずっと鉄平と付き合ってたのよ。それなのに、ある時急に別れ話を切り出された。理由を聞いたら『あんたと結婚するから』って言われたわ。それでずっと二股をかけてたって聞かされた」

信じられなかった。鉄平と前衣が付き合っていた?しかも、私たちが交際している間もずっと?

「それで、私に仕返しとしてケーキを倒したんですか?」

「それくらいする権利はあるでしょう」

「待ってください。恨むなら鉄平じゃないんですか?」

「そんなの鉄平が悪いに決まってるわよ。最初はそう思った。でも、次第に『あんたさえいなければ私は幸せになれた』と考えるようになったの」

「そんなの変です。あんたにそんなことを言われる筋合いはないわ」

「それにね、ケーキを倒す提案をしてきたのは鉄平の方よ」

「嘘でしょ?」

「本当だから。写真撮影の時に『倒したら面白い』って言ってきたの」

「どうしてそんなことを……」

「鉄平があんたのことを好きじゃないってことでしょ。どうせ子供ができたとか、そんな理由で脅して結婚してもらったんじゃないの?鉄平は真面目だから断れなかったのよ。でも本心では私と一緒になりたかったんだと思うわ」

「そんなことするわけないでしょ!」

「どうしてそう言いきれるの?鉄平は大手食品メーカーの営業部に務めるエリートよ。そんな鉄平を逃したら、あんたもう二度といい男と結婚できなさそうだもんね」

これ以上話しても無駄だと悟った。私は冷たく言い放った。

「あなたの口を見る限り、反省なんて全くしてないってことでいいですか?」

「当たり前でしょ。悪いのは全部あんたなんだから。これぐらいで済んでよかったって思ってほしいわ」

「分かりました。そういうことなら仕方ないですね。あとは鉄平と話して対応を決めたいと思います」

帰宅後、私は鉄平に問い詰めた。

「前衣さんと連絡をして色々聞いたわ。あれはあなたが指示したことだったのね」

「前衣がそう言ったのか」

「そうよ。どうしてあんなことをしたの?」

「悪かった。ちょっとしたイベントだったんだ」

「イベント?」

「どこかで式の盛り上がりポイントを作る必要があると思ったんだよ。アクシデントってのはそういう意味では大事だろう。みんなの記憶に残る式になるしさ」

私は絶句した。私の人生で最も大切な日を、彼は「イベント」だと言うのか。

「ふざけないで。私のドレスがどれだけ大事なものか分かってるの?あんた、食品メーカーに務めてるんでしょ?食品を粗末にするなんて、どういう神経してるのよ」

「食品ってのは色々な使い方ができるんだよ。食べるだけが全てじゃないんだ。いろんな有効活用方法があるんだ」

「信じられない。そもそも、なぜわざわざ前衣さんを式に呼んだのよ?」

「前衣さんがあんたとの関係を話してくれたわ。あんた、二股をかけてたんでしょ?」

鉄平は黙り込んだ。

「どうしてあんな女を呼んだのよ。私に何か恨みでもあるの?」

「違う。それは断じて違う。俺は心からお前のことを大切だと思ってる。だからじこと結婚したいと思ったんだ。実際に結婚が決まったら、すぐに前衣とは切った。それだけお前のことを大事に思ってるからだよ」

「馬鹿にしないで。そんなに大切なら、なんで二股なんてするのよ。浮気してる時点で、大して好きでもないってことでしょ」

「違うんだ。あいつは本当にしつこかったんだ。病んでるところもあって、断ったらどんなことをされるか怖かったんだよ。だからとりあえず相手をしていただけで……」

「そんなの言い訳にもなってないわ」

「俺があいつのことを何とも思ってないってのは分かってほしい。ただ俺はお前と幸せになりたいだけなんだよ」

私は彼の言葉を遮った。

「とにかく、今は私の相手をしてる暇はないわよ」

「どういうことだ?」

「絶対客がぶち切れよ」

「え?ぶち切れって、お前のご両親?」

「いいえ。このことはまだ親には話してないわ」

「じゃあ、誰なんだよ?」

「怒ってるのはあんたの浮気のことじゃなくて、ケーキに関してよ」

「なんだそりゃ。あのケーキ、実は特注のものなの?」

「そうよ。私が高校生の時からお世話になってるパティシエさんのね」

「誰だよそれ?」

「パティスリークラフトのオーナーの盾野さんよ。今回のことは全て盾野さんに報告したから」

鉄平の顔色が一瞬で変わった。

「はあ?お前、そんな人となんで知り合いなんだよ」

「高校と大学の時にそこでバイトとして働いてたの。すごくよくしてくれて、私が両親以外で一番尊敬している人よ。その人があのケーキを作ったの」

「ふざけるな。なんでそんなことを言ってないんだ?パティスリークラフトって言えば大人気店だぞ。そんなところで働いてたなんて聞いてない」

「軽く話はしてたわよ。パティスリーで働いてたってね。そこで教えてもらった焼き菓子を作ったこともあったわ。でもあんたが大して詳しく聞かなかったのが悪いんでしょう」

「だとしても……」

「それに私が働いてた時は今ほどの人気店って感じじゃなかったから、そんな話をする機会もなかったってだけよ」

「バカかよ。うちは今、盾野さんと仕事をしようとしてる最中なんだぞ」

「そうだから盾野さんはあんたのことを知ってる感じだったのね。一応、式の冒頭で勤めてる会社も紹介されてたからね」

鉄平は焦り始めた。

「盾野さんは本当にぶち切れてるのか?」

「ええ、とっても。今すぐに連絡先を教えてくれ。盾野さんに弁明をさせてもらうから」

「別にいいけど、弁明する余地なんてないと思うわよ。変に言い訳するよりも謝罪した方がいいんじゃない?」

「いいからさっさと教えろ」

私は仕方なく、盾野さんの連絡先を渡した。翌日、鉄平は盾野さんに電話で謝罪した。

「盾野様、この度は私の式に出席いただきありがとうございます。じこの夫の山田です。どうしても今回のことを謝罪させてもらいたくて」

「何のようですか?」

「どうしてもお詫びをしたくて。本当に申し訳ありませんでした」

「そうですか。では、さっさと終わらせてください。ただ、それでこちらの気が済むことはないんですよ。私は今回の式のためにあのケーキを作った。そこにあったのは、お世話になったじ子ちゃんへのお祝いの気持ちです。でも、それをあなたはぶち壊した。そんなことをする人間を、私は許す気持ちにはなれません」

「本当に申し訳ありませんでした。そちらの会社ともお仕事をさせてもらうつもりでしたが、白紙とさせてもらいたいと思います」

「ちょっと待ってください。盾野様が監修したスイーツを販売することは、我が社の長年の願いでもあったんです。ようやく相談を進められるところまで来たのに、それを白紙にするというのは……」

「それはあなたたち側の考えですよね。こちらは白紙に戻すだけなので、何も問題はありません。もし他の企業さんからお話があれば、そちらをお受けすればいいというだけの話です。実際、他にもお話はいただいてましたから」

「盾野様が作られたケーキだと知っていたら、こんなことは絶対にしませんでした」

「それを聞いて私が納得するとでも?パティシエとして、全てのお菓子に私は心から敬意の気持ちを持っています。どれもが多くの苦労や試作の果てに完成したものだと思ってますから。それをぶち壊す人間を、私は信用することはできません」

「でも私は盾野様との案件には関わってないんです」

「それが何ですか?あなたはあの会社の人ですよね。そんな人間を雇うような会社は信用できないですよ」

鉄平の声が震えていた。

「本当に白紙にされるんですか?」

「当たり前です。式には上司の方は来られてなかったので、電話で伝えさせてもらおうと思います」

「いや、少しだけ待ってください。私なりに責任を取りますので」

「責任の取り方は、きっと会社の方が教えてくれますよ。それに従ってもらえればいいので。それと、じ子ちゃんはとても真面目で気立てのいい子です。本当に彼女にはお世話になったと思っています。だからこそ、あの子には幸せになってもらいたいと思ってる。できればこのまま彼女の前から消えてもらいたい。これ以上、彼女の周りをうろつかないで欲しい」

その電話を聞いた後、鉄平は何も言えなくなっていた。

数日後、私は前衣に連絡を取った。

「前衣さん、今時間はある?」

「何よ、あんたのせいでこっちは大変なんだから」

「え?どういうこと?」

「鉄平から連絡があって、すごく怒られたんだから。そのせいで全然連絡が取れなくなったのよ」

「そう。でも、私は話したいことがあるの」

「何よ?」

「あなたのせいで式が台無しにされたのは分かってる。ケーキをめちゃくちゃにして、ドレスも汚されて、式を最悪なものにされた。私たちが時間をかけて準備した一生に一度の舞台をぶち壊したっていう自覚はないの?」

「こっちだって言い分はあるわ」

「ああ、そう。でもそんなの聞くつもりないわ。もし言い分があるのなら、私じゃなくて弁護士の人に行ってくれる?」

「弁護士?」

「あなたにケーキのお金とドレスのクリーニング代を請求させてもらうわ」

「え?何を言ってるの?」

「当たり前でしょ?あなたが全部やったことよ」

「でも、あのケーキはあんたの知り合いに作ってもらったものなんでしょ?それで金を取るなんてありえないわ」

「そこら辺の話は聞いてたのね。じゃあ補足してあげる。ケーキのお金に関してはきっちりと支払いをしてます。盾野さんは『気持ちだから』と言って最初は渋ったわ。でも私は盾野さんのプロとしての仕事ぶりを尊敬してた。今回もプロとしてお願いをしたいと思ったから、絶対に支払いますと伝えたのよ。二つ合わせて30万くらいになるから、きっちりと支払ってもらうわ」

「30万も私が払わないといけないの?」

「あなたがやったことなんだから当然でしょ。でも、私は鉄平の指示でやっただけなのよ。そこら辺はちゃんと弁護士と話し合ってもらうわ。私としてはどっちに支払ってもらっても構わないんだから。もちろんそれだけじゃなく、慰謝料も請求するからね」

「慰謝料?」

「あなたのせいで台無しにされたの。それの罰もちゃんと受けてもらうわ」

「じゃあ、私だって慰謝料を請求するわ」

「は?なんで?」

「私から鉄平を奪ったからよ。その罰はちゃんと受けてもらわないと、こっちの気が晴れないわ」

「だったら弁護士にお願いして書状なんか作ってもらえば?でも、あんたのめちゃくちゃな言い分が通るほど世の中は甘くないから。あんたは私的な感情で私の式を台無しにしたの。それだけは絶対に許さないからね」

一週間後、鉄平から連絡がきた。

「じこ、頼むから話だけさせてくれ。俺は今、最低の状況なんだ。今の俺にはもうじこしかいないんだよ」

「そう。それじゃあ、話し合いをしましょうか」

「本当か?それじゃあうちに帰ってきてくれよ。そこでゆっくりと話をしよう」

「嫌よ。このままLINEで進ませましょう」

「帰ってくるつもりはないのか?」

「あるわけないでしょ。あんたの顔なんて、もう見たくもないわ」

「そんなこと言うなよ」

「話すことっていうのは、あんたとの婚約解消についてよ」

「は?婚約解消?」

「あんた、このまま関係は戻るって本気で思ってたの?どうやら、私が心の狭いバカだったみたいね」

「ちょっと待ってくれ。前の件は本当に悪かったと思ってるよ。もう前衣とは何の関係もない。だから婚約解消なんてやめてくれ」

「そんなことで私が許すわけないでしょ。あんたは私をずっと裏切り続けてたのよ。それなのに結婚なんてできるわけがないでしょ」

「違うんだ。俺は前衣とは遊びだったんだ」

「そんな女を式に呼んで、めちゃくちゃにさせたの。一体何を考えてるのよ?」

「それには理由があるんだよ。前衣が別れるってなって不満を溜めてた。何かやばいことが起こる可能性があったんだ。それで式でちょっと仕返しをさせれば、それがストレス発散になって、お前が危害を加えられるみたいな事態を避けられるとも思ったんだよ。俺はあくまでお前を守るためにやったんだ」

「ふざけないでよ。実際に怪我はしてないわ。でも私の心には、治らないくらいの大きな傷跡が残ってるのよ。しかも、前衣さんだけじゃなく、この傷はあんたからつけられたものでもあるの。私からしたら、あんたも前衣さんと同じ加害者だから」

「そんなこと言わないでくれ。お前のためなら何でもやるつもりでいる。心の傷なら、俺と一緒に直していこう。それがお互いにとって一番いいことだって」

「黙りなさい。あんたの言うことなんて聞いてられないわ。あんたには今回の件で慰謝料を請求させてもらう。反省する気持ちがあるのなら、しっかりと払いなさいよ」

「俺はお前を心の底から愛してるんだ。だから今回のことは許してくれよ」

「無理よ。あんたも知ってるでしょ。私って、とっても心が狭い人間なの」

一週間後、私は盾野さんの店を訪れた。

「盾野さん、今回は色々とご迷惑をおかけしました。なんとか鉄平との関係にも区切りがつきそうです」

「そうか。色々と大変だったね。気持ちが落ち着いたらうちの店に来るといい。うちのミルクレープが好きだっただろ。来たら好きなだけ食べていいよ。スイーツを食べてる時は、嫌なことも忘れられるからさ」

「ありがとうございます。ぜひ、よろしくお願いします」

「もちろん。いつでも待ってるからね」

その後、私は鉄平と婚約を解消し、彼は私への慰謝料を支払うことになった。さらに、盾野さんとの案件を白紙にされた責任を取って、窓際部署へと移動させられたらしい。会社でも白い目で見られるようになり、ストレスを抱えた鉄平は色々な女性と遊ぶようになってしまったそうだ。ただ、遊んでいるところをストーキングしていた前衣に見られてしまい、襲われてしまったのだとか。もみ合いになった結果、足を折ってしまい病院に入院することになったと聞いている。ちなみにそのせいで前衣は警察に逮捕され、さらに接近禁止命令も出されたことで、二度と鉄平に会えなくなってしまったようだ。

一方の私はと言うと、再び一人身の生活を送っている。両親からは気を使われているけど、私としては結婚する前に別れることができたのが良かったと思っている。もちろん傷はまだ残っているけど、そんな時は盾野さんの作ったケーキやお菓子を食べて心を回復している。また時間があったら、盾野さんに美味しい焼き菓子の作り方を教えてもらいたい。

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