「今度の法事、あのブス嫁も連れてくるの?」義母のその一言で、私はもう嫌な予感がしていた。初めての義実家の法事、挨拶をしようとすれば「人前に出せる顔ですか?」と笑われ、買い出しを命じられ、夜になれば廊下に薄い布団を敷かれて「そこで寝なさい」と言われた。バスタオル1枚で震えながら、私は思った。このまま黙って耐えるのか?翌朝、始発の電車に乗りながら、私は1本の電話をかけていた。「マイク、助けて」義…

「今度の法事、あのブス嫁も連れてくるの?」義母のその一言で、私はもう嫌な予感がしていた。初めての義実家の法事、挨拶をしようとすれば「人前に出せる顔ですか?」と笑われ、買い出しを命じられ、夜になれば廊下に薄い布団を敷かれて「そこで寝なさい」と言われた。バスタオル1枚で震えながら、私は思った。このまま黙って耐えるのか?翌朝、始発の電車に乗りながら、私は1本の電話をかけていた。「マイク、助けて」義...

「今度の法事、あのブス嫁も連れてくるの?」

母のその言葉に、俺は思わず箸を置いた。

「母さん、いい加減にしてくれ。俺が選んだ人なんだ。そんな風に言わないでくれ」

「だって嫌いなんだもん」

「なみの何がそんなに気に入らないんだ?」

「気が強そう。料理下手そう。昔遊んでそう」

「全部想像じゃん」

「私の勘って当たるのよ。近所でもあそこ離婚するなって夫婦は分かっちゃうし」

「何の自慢にもならないから。なみも母さんと距離があるって気にしてたぞ。話しかけてもそっけないって」

「だってまともに話したらケちょんケちょんに言いたくなっちゃうでしょ。そしたらかずが悲しむと思って」

「その気遣いをなみに向けてくれないかな。母さんが悲しいと俺も悲しいんだよ」

「あなただってずっとピーマン嫌いでしょ。嫌なものはどうしたって嫌じゃない?」

「もう食べられるよ」

「え、そうなの?大人になったのね」

「子供扱いしないでくれ。……歩み寄ってくれてありがとう」

「私もピーマン嫌い克服してみるわ」

「なんかピーマンと同列にしないで欲しいけど」

数日後、法事の当日。

「なみさん、何時頃到着する予定?」

「今母さんの運転で向かってるので、あと1時間くらいだと思います」

「亭主に運転させて、隣で口開けて寝てるの?楽で羨ましいわ」

「起きてますが」

「冗談よ。今日は親族の集まりだし、ゆっくりしてってね」

「母さんのおじい様の13回忌ですよね。何か手伝えることがあれば、私もお手伝いします」

「あら、結構よ。お皿運ぶだけならファミレスのロボットに頼んだ方がまだましだもの。冗談よ。今回は初めての法事参加でしょ。あなたには奥の和室を用意してあるから、そこで映画でも見て時間潰してくれたらいいわ」

「いえ、結婚式以来ですし、親戚の皆様にもご挨拶をさせていただきたいのですが」

「人前に出せる顔ですか?」

「はい。冗談よ」

「母さん、冗談にすれば何でも言っていいと思ってませんか?」

「何が?」

「私は母さんの妻として恥ずかしくない働きをしたいと思っています。親戚付き合いも妻の勤めだと思っていますので」

「まあご立派でびっくりだわ。猿と思ってたらチンパンジーだったくらい驚いちゃった。あれ、冗談」

「とにかく一泊ですが、お世話になります」

数分後、なみのスマホが鳴った。

「マイク、久しぶり」

「なみ久しぶりだね。今沖縄なんだね」

「そう。広島のお好み焼き屋で修行してるんだって?間違ってマヨネーズ画面にかけてごめんね」

「別にいいよ。夫も爆笑してたし」

「かずま、いいやつだね。前に飲んだ時、あの後何件も奢ってくれたんだよ。翌日二日酔いで新幹線乗ったのもいい思い出だよ。また飲みたいね」

「ところでマイク、広島で会った時さ、なんかストレス与えるとかそんな話してなかったっけ?」

「もう追い詰められたら、ブランチみたいなもんさ。今義家に向かってるんだけど、義母から早速先制パンチ食らっててさ」

「ああ、ジャパニーズ義母は本当にそこら中にいるよ。中にはいい人もいると思うけどね。僕の友達も義母に苦しめられたやつたくさんいる。息子が可愛いが故の行動なんだろうけどね。でも、その息子が愛した女だ」

「うちの夫もそう言ってくれてる。いい男捕まえたな」

「ありがとう。で、僕は何をすればいい?」

「今のところ何も起きてないけど、もし今回の件で何かあれば依頼したい。お金ならちゃんと払うから」

「ノー。JSAに関してはお金もらわない」

「え、何の略?」

「地味に。ストレス与えちゃう。で、JSA」

「ああ」

「毎回めんどくさいから名前つけた。周りからの評判は結構悪い」

「分かりやすくていいと思うよ」

「なみ優しいね」

「でもマイクと話せて安心した。今夫に言うと引き返しちゃうかもしれないし、ちょっと愚痴りたかったんだ」

「何かあったら任せろ」

「これで安心して義実家行けそうだよ。何も起こらないかもしれないしね」

「そうだね。忙しいのにごめん」

「大丈夫。今は琉球ガラスの師匠と昼から飲んでるところだから」

「へえ。飲食店ばかりだって聞いてたから意外」

「沖縄そばの師匠とは喧嘩したんだ」

「なんで?」

「話すと長くなる」

「大丈夫なの?」

「なんくるないさ」

「またゆっくり話聞かせて」

「またな」

数時間後、なみは買い出しに行っていた。

「母さん、買い出しすぎるわよ」

「さすがにウイスキー5本、焼酎5本は持てないので、タクシーを待っているところです」

「まあセレブね」

「車で行きたかったんですが、お父さんにお酒を勧められて飲んでしまったので」

「あ、今うちの夫、終わるものにした」

「そうじゃなくて、飲んでしまったのは自分ですし、誰のことも攻めていません」

「まあ、奥の和室をせっかく用意したのに、この子が出てくるから飲まされるはめになったんでしょ。せっかく来たのに奥に引っ込んでる方が不自然だと思うんですが。あの女、お父さんがすぐに呼びに来られましたし」

「あなた、うちの夫に色目使ったわね」

「そんなことしません。する意味がありません」

「まあ、夫には男の魅力がないって言いたいの?」

「その揚げ足取りやめてくれませんか?会話が成立しないので」

「私をバカ扱いするなんてひどいわ。これでも一生懸命生きてるのに」

「すみません。私が悪かったです」

「かずも久しぶりにいとこたちと飲んで、よっぽど楽しかったんでしょうね。飲み疲れて寝ちゃったわよ」

「そうですか。あまり強くないから無理しないよう言っておいたんですけどね」

「うちの酒が悪酔いするって言いたいの?」

「違います。今日は何人か泊まっていくって言ってるの?」

「そうなんですか」

「それであなたの寝る部屋がないのよ」

「いや、かずさんと一緒でいいですけど」

「だから親戚を私の部屋に寝かせて、私はかずと一緒に寝ることになるでしょ。嫁の布団は廊下の床に敷いた。そこで寝なさい」

「はい」

「みんなほとんど寝ちゃったから、音立てないでね」

「はい、わかりました」

「あの飲み物はもういらないわ。さっさと戻ってきなさい。早く帰ってこないからこうなるのよ。ざまあ見さらせ」

翌朝、なみは始発の電車で家に帰った。

「マイク、もう無理」

「どうした?どうした?」

「必要のないお酒を大量に買いに行かされて。挙げ句の果てに廊下に薄い布団敷かれてさ。まだ夜は冷えるのに、バスタオル1枚で寝かされたの」

「えぐいな。嫁いびりって話には聞いてたけど、実際に食らうと結構ダメージ来るね。大丈夫?」

「腰は痛いし頭も痛い。まだ義実家にいるのか?」

「うん。始発で帰ろうと思って、今駅まで歩いてきたところ」

「夫はどうしたの?」

「昨日飲みすぎたから寝かせてあげたい。一応LINEはしておいた。母よ、許すまじ」

「すごい言葉知ってるね」

「好きな日本語さ」

「不思議だね。マイクと話してるとなんか笑っちゃうし元気が出るよ」

「なみの本当のスマイルを取り戻す」

「何をどうするつもり?」

「内容は知らなくていいってことさ」

「分かった。全部マイクに任せる」

「イエス」

「夫の弟さんが来年くらいに結婚を予定してるの。その奥さんが私と同じ目に会わないようにしてあげたいんだ」

「任せろ。沖縄そばの具にしてやるさ」

数時間後、夫のカズマから電話がかかってきた。

「なんで黙って帰ったの?」

「よく寝てたから起こさなかった。ごめんね。先に出て。昨日結構飲んでたみたいだけど大丈夫?」

「頭痛い。3連休だし、もう1泊してきたらいいよ」

「でも、私はもう家に着いたから」

「電車で帰ったの?」

「うん」

「何かあったんだな。俺が酔い潰れてしまったばかりにすまない」

「かずは悪くないよ。親戚と楽しそうに飲んでるの見れて私も嬉しかったし」

「何があったか教えてくれないかな」

「それを言ったら、お母さんに言うでしょう」

「もちろんだ。あなたが自分の母親と距離ができたり、最悪嫌いになったりしたらどうしようかなって迷いもあるの」

「それは俺が決める」

「私も公務員になれっていう親に反発して家を出たまま、しばらく会ってないでしょ。結婚式にも来てくれなかったもんな。すごく頑固な父親なの。母はそれの言いなり。それでも親に会えないのは辛いよ。あなたにはそうなって欲しくない」

「でも親か妻かという2択しかないなら、俺は迷わず君を選ぶ」

「ありがとう。かっこよすぎて好きすぎる」

「そう言われると思って言った。それでも嬉しい。俺も今日帰るよ。すぐに会いたい」

「かず、1つだけ許可が欲しい」

「何?」

「お母さん、ここからしばらく小さなストレスを抱えることになると思うの」

「あ、もしかしてマイク?」

「そう。2人で広島行った時に会ったマイク」

「あれ本当にやってたんだ?」

「どうなるかわからないけどお願いしたの。廊下に寝かされて黙ってるほど私も人間じゃないから」

「そんなことしたのか。我が親とはいえ許すまじ。すぐに帰る」

「マイクと同じこと言ってる」

翌日、なみは義母のもとを訪れた。

「翌日黙って帰るなんて無作法ね」

「廊下が硬くて寒くて眠れなかったので、始発で帰らせていただきました」

「嫌み?」

「いえ、正式なクレームです。冗談では済まされないLINEとか、昭和の嫁いびりにこれ以上耐えるつもりはありません」

「生きてりゃ人に嫌なこと言われたりとかよくある話でしょ。気にしすぎじゃないの?」

「そうでしょうか。私、あなたが近寄らなくなるのはどうでもいいのよ。かずだけでももう1泊すると思ったのにがっかり。どうせあなたが何か言ったんでしょう」

「はい。廊下で寝かされたことを伝えました」

「はあ。なんで言っちゃうの?」

「だめでしたか?」

「だめでしょ」

「事実なのに」

「事実だからよ。うちは隠し事しない夫婦なんです。お母さんみたいに」

「何よ」

「お父さんや親戚の前ではいい姑を演じてますよね」

「当然よ。正直に言うアホがいるもんですか」

「まあいいです。とにかくここからしばらくは色々と大変なこともあるかと思いますが、事業自得だと思って堪えて飲んでください」

「どういう意味?」

「ドラマも映画も予告で終わるからドキドキできると思いませんか?」

「はあ?」

「マイクとエージェンツの本気をどうぞお楽しみに」

「日本語で喋りなさい。意味が分かんないのよ」

2週間後。

「助けて」

「どうかされました?」

「あなたの仕業かと思ったけど、どう考えても無理なことばかりだし。何が一体どうなってるのやら」

「何があったんです?」

「必ずスマホを充電器にさして寝るのに、朝起きたら必ず抜けてて。毎朝5%なのよ。他には洗濯物を干して取り込むと、必ず私の服にだけ亀虫がくっついてる」

「それだけですか?」

「ランチに行くと私のコップだけ臭いし、自転車のサドルが毎回一番上まで上げられてるし、どのスーパーに行っても同じインド人の男が私を見てニヤニヤ笑うの。もう耐えられない」

「気にしすぎじゃないですか?生きてたらそれくらいあると思いますけど」

「ひどい。私はこんなに苦しんでるのに」

「私に同じこと言ったの忘れたんですか?私もくだらない夢に苦しんでいました。そんな時に寄り添ってくれましたっけ?」

「それは無理ですよね。当事者でしたもんね」

「これ、あなたの仕業じゃないわよね」

「私には充電器をいじったり亀虫を操ったりすることはできません」

「じゃあどうして」

「因果応報って言葉ありますよね。それじゃないですか?」

「え?」

「やったことは帰ってくるって言うじゃないですか」

「だとしても、なんであんたにやったことをインド人が返しに来るのよ」

「確かに。もう嫌だ。本当に辛い」

「このくらいで終わるといいですね」

「何?まだ続くの?」

「さあ、わかりません。では失礼します」

数分後、なみはマイクに電話をかけていた。

「ねえ、マイク、一体何がどうなってるの?」

「仕込みさ」

「分かってるけど、充電器とか家に入らないとできないことは説明がつかないよね。まさか不法侵入とかしてないよね」

「ノー。じゃあどうして。1つだけ教えてやろう。義父もエージェントなのさ」

「え?まあ新入りだけどね」

「どういうこと?」

「なみがいびられてることを耳に入れたのさ」

「耳に入れたのね」

「そうとも言う。そしたら是非協力させてくれと言ったんだ」

「じゃあ、お父さんが毎日充電器を抜いてるの?」

「イエス」

「最高すぎるんだけど」

「実は義母の周りをうろちょろしてるインド人から報告が入ったんだけどさ、ちょっと笑えない事実が分かった」

「え、何?」

「あいつは病気だ」

「何?何?何?」

「翻訳した報告書をメールしておく。それを見て夫と話し合った方がいい」

「分かった。お願いね。マイクありがとう」

翌日、カズマは実家に帰った。

「母さん、大事な話がある」

「あら、かず、また近いうちに帰ってきてよ」

「それはもうないと思う」

「え?なんでそんなこと言うの?」

「絶望したよ」

「何の話?あ、もしかしてなみさんのこと?それだったら、色々やり合ったりはしてるけど、喧嘩するほど仲がいいって感じだから」

「それもあるけど別のことだ」

「なんだろう。心当たりがないわね」

「実家に帰るたびに、近所の誰々さんが離婚したとか嫁が出ていったとか、そういうゴシップを毎回楽しそうに話してたよね」

「別に楽しくはないけど。ワイドショーみたいなものよ」

「俺もそう思ってた。最初は他人のことだし話題にするくらいは別に何とも思ってなかったよ」

「でしょ」

「でもそれが母さんの仕業だったとしたら話は別だ」

「え?何のこと?」

「山本さんの家は奥さんの不倫がバレて離婚だったよね」

「そうよ」

「でも実際は不倫なんてしてなかったらしい。証拠もないのに離婚になるなんて変だと思うけど、世間の好奇の目とかひそひそ話に追い詰められることもあるんだろうな」

「私に言われても困るわよ」

「母さんが噂の出所で、そこから尾ひれがついて山本さんの奥さんを追い込んだんだよな」

「やだわ。私のせいにしないでよ」

「田中さんの家の件もそうだろ。お嫁さんが懸命に義父の介護をしてるのは、遺産をもらって浮気相手と逃げるためだというデマを母さんが流したんだよな」

「信じられない。何を根拠に言ってるの?」

「ターゲットを決めてどんなデマを流すか。それを詳細に書いたノートがあるのは分かってる」

「え?」

「父さんが押入れの収納の中から見つけた」

「嘘」

「最初は街中に広まった噂の出所を、ある人が突き止めたら母さんだということが分かった。それを知った父さんが、何かないかと家の中を探してくれたんだよ」

「なんであの人がそんなことするのよ」

「そんなことはどうでもいい。人を不幸に落とし入れて、それを見て笑ってたのか」

「違う」

「最低だな。こんな親から自分が生まれたなんて信じたくもないよ」

「かず、私じゃないわ」

「じゃあ、あれは何なんだよ。あれは近所のゴシップを書き留めてるだけだと? だったら書き方がおかしいよな。田中家の嫁、浮気プラス遺産狙いということにする。いや、『ということにする』ってのがありえないんだよ」

「分かった。ごめんなさい。でもこれって犯罪じゃないでしょ。ちょっとした遊びっていうか、子供だってよくやるじゃない」

「あんたは子供か。60年近く生きてる大人じゃないの?」

「ごめんなさい」

「なみに対してもそうだ。冗談の範疇だと思って好き放題言ってたな。あれでなみの心が壊れていたらどうしてくれるんだよ」

「あの女は大丈夫よ」

「全く反省してないんだな」

「いや、してるわ」

「俺の決意は変わらない。もう母さんと会わないから。結婚する弟夫婦にも関わらないでやってくれ」

「かず、待ってよ」

数日後、義母はカズマの弟からも絶縁を宣告された。

「お前のせいだ。息子2人に絶縁されたじゃないの」

「懸命な判断だと思います」

「さすが私の夫」

「ここまでする必要あった?ちょっとだけ意地が悪くて、ちょっとだけやんちゃな姑だっただけでしょ」

「自己評価が高すぎます」

「だってこの世にはもっとひどい姑がいるわ」

「だから何ですか?卵を万引きするのと宝石を盗むのは違うでしょ?」

「何が言いたいのか分かりませんが、盗むという行為は同じですよ」

「そこが分かってないから絶縁されたんじゃないですか」

「あんたの不気味な予告から変なことばかり起きるし。充電器が抜かれるなんておかしいわ」

「周辺ゲームなので詳細は言えませんが、真っ当に生きていたら、あんなにストレスがかかることも、息子たちやご主人から絶縁されることもないんですよ」

「夫がどうしたの?絶縁は息子だけじゃないの?」

「離婚するそうです」

「なんで?」

「恥ずかしくて町を歩けないからですよ」

「やったのは私よ」

「そうですね。でも加害者の家族も生き地獄を味わうことになるんですよ。田中さんや山本さんのお嫁さんが世間から好奇の目で見られてしまったように、お父さんやかずもそういう風に見られるんです。そこまでは考えていなかったの?」

「それがダメなんですよ。普通のまともな人ならその予測ができるんです」

「偉そうに」

「私の言葉なんて響かないのは分かっています。でも今のあなたに、苦言であろうと説教であろうと言葉をかけてくれるのは私で最後ですよ」

「本当にみんな離れていくの?」

「そのようです」

「あなたと田中さんと山本さんに謝って、全員が許してくれたらどうかしら?」

「やってみたらどうですか?確実に1名は許さないと思いますけど」

「あんたでしょ?」

「いいえ、違います。田中さんです」

「なんで?」

「出ていった奥様のその後、知らないんですか?」

「知るわけないじゃない」

「精神を患って入院してるんです。今も」

「え?」

「ほんのずる賢さだったかもしれません。でもそれが誰かを追い込むこともあります。私だってあのまま続いていたらどうなっていたかわかりません」

「あんたは大丈夫でしょう」

「夫に伝えておきますね。全く反省もしてなければ謝罪の言葉もなかったって」

「いや、待って、ごめんね」

「受け取りません」

「なんでよ」

「それと、田中さん、山本さんには詳細が共有されました。今後民事で慰謝料請求などされると思いますので、就職先を見つけておいた方がいいと思います」

「無理に決まってんでしょ」

「逃げるんですか?」

「そうだ。財産分与があるわね。でも慰謝料に消えるのはもったいないわ」

「お父さんはすでに息子2人に生前贈与しています。よって、与する財産はないそうですよ」

「嘘でしょ?そんなのあんまりよ。ちょっと本当にやばい気がしてきたわ。どうしましょう?なみさん、お願い、助けて。生まれ変わるし何でもするわ」

「もう母さんったら、またいつもの冗談ですか?もう信じませんからね」

「本当なの?信じて」

翌日、なみはマイクに連絡を取った。

「マイク、色々ありがとう。真実突きつけて、言いたいこと言ってすっきりしたよ」

「そうかい。そうかい」

「なんでインド人の方は義母が噂の根源だって分かったの?」

「調査費」

「そうでした。亀虫は効いたよ」

「それはいいか。洗濯物にくっつけただけだよね。私にもできそう」

「今年は亀虫大量発生。なみも気をつけろ」

「もう我慢するな」

「え?」

「夫のママだからとか、誰かが傷つくかなとか、そういうのなし。自分がどうしたら笑っていられるかを考えろ」

「ありがとう。発言がイケメンすぎてキュンとした」

「かずまに言ってやろうか」

「別にいいよ。うちら2人ともマイク好きだし」

「照れるじゃん。てかなんで沖縄そばの師匠と喧嘩したの?」

「言いたくない」

「教えてよ」

「ピンクレディのケイちゃん派かミーちゃん派かで揉めた。僕は絶対にケイちゃんなんだ。でも師匠がミーちゃんだって譲らなかった。それで大喧嘩さ」

「あ、ほら、心配して損した」

「なんでだ。大事なことだろう。ジャパニーズアイドルの原点であり頂点だ」

「そうかもしれないけどさ。師匠と仲直りしてね」

「もうしてる。今からカラオケ行ってピンクレディメドレーを歌うのさ。男2人で」

「そうだよ。なんか悪いか?」

「楽しんできて。マイクありがとう」

「なんくるないさ」

その後、義母は田中さんと山本さんの両家から慰謝料請求をされた。田中さんに至っては入院までしているので、相当長期になるのではないだろうか。義父は早々に離婚して町を出ていった。別れ方も徹底していたので、義母の手元には1円玉1つ残らなかった。引っ越すお金もないため元の家にそのまま住んでいるそうだが、今度は自分が好奇の目を向けられる側になったようだ。嘘つき、虚言女、老害など、ひどい言葉を投げかけられる毎日だとか。おそらくそんなことをするのは、田中さんや山本さんを攻撃していた人たちと同じなのだろう。義母も確かに悪かったとは思うが、調子して拡散に協力する人も同罪なのかもしれない。

夫の弟の結婚式で久しぶりに再会した義父は元気だった。可愛いお嫁さんが義母の悪意に触れず、幸せな結婚生活を送って欲しいと思う。

なみは近々マイクに会いに沖縄へ行く予定だ。美味しい沖縄そばを食べて、朝まで飲んで、赤い琉球ガラスのコップを買って帰る。

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