夕食の席で、夫が突然「出ていけ」とLINEで離婚を告げてきた。姑に言われるまま私を追い出そうとしているのは明白だった。「お前は母としても妻としても失格だ」と言われ、荷物をまとめるしかなかった。でも、私は黙って出ていくつもりはなかった。私は中学生の娘に全てを話し、「どっちと暮らしたい?」と聞いたの。娘は迷わず私の方を選んだ。それから私は、夫のゴミ箱から見つけた一枚のレシートのことを思い出してい…

夕食の席で、夫が突然「出ていけ」とLINEで離婚を告げてきた。姑に言われるまま私を追い出そうとしているのは明白だった。「お前は母としても妻としても失格だ」と言われ、荷物をまとめるしかなかった。でも、私は黙って出ていくつもりはなかった。私は中学生の娘に全てを話し、「どっちと暮らしたい?」と聞いたの。娘は迷わず私の方を選んだ。それから私は、夫のゴミ箱から見つけた一枚のレシートのことを思い出してい...

「裕子、今すぐこの家から出ていけ」

夕食の席で、夫の大輝が突然そう言い放った。箸を持つ手が止まった。

「はい? いきなり何を言ってるの?」

「もう限界だ。お前とは一緒にいられない。離婚だ」

「ちょっと待って。どうしてそんなことになるのよ。理由を教えて」

「お前が俺や母さんの言いつけを守らないからだ。何を言っても言い返してきやがって」

「間違っていると思ったら反論する権利はあるでしょう。それにお母さんとの仲が悪いのは、私だけが原因じゃない」

「そのせいで母さんとの仲が最悪だ。当たり前だろ、息子なんだから母親の味方をするのは」

「あなたは息子かもしれないけど、私の夫でもあるのよ。それを忘れないで」

「そんな意識はとっくにない」

「離婚するっていうの?」

「そうだ。今すぐこの家を出ていけ。お前の顔なんて見たくもない」

「そんな大事なことをLINEで言わないで。ちゃんと話し合いをしましょう」

「話し合う余地なんてない。これが俺たち家族の総意だ」

「千明はどうするの?」

「お前のような奴に千明は任せられない。俺たちで育てる」

「私を一人で追い出すのね」

「当たり前だ。お前は母としても妻としても失格だ」

「どうしてそこまで言われなきゃいけないの?」

「黙れ。今すぐ新しい家を見つけて出ていけ。見つかるまでは置いてやる」

……どうせこれはお母さんの命令よね。私は思い当たるまま、義母・ひろみに直接話をつけに行くことにした。

「お母さん、大輝から出ていけと言われました」

「あら、そう。あの子もようやく決断してくれたのね。息子に捨てられてざまあみなさい。これで嫁以外の家族だけで暮らせるわ」

「お母さんが私を嫌ってるのは知ってます。ですが、息子を利用して追い出すのはひどくないですか?」

「何をわけのわからないことを言ってるの? 私は何も言ってないわよ。全部大輝が決めたことだから」

「嘘をつかないでください。あなたたちが二人でこそこそ出かけているの、知ってますから」

「何がこそこそよ。親子で出かけるのは普通でしょ」

「私はお母さんと仲良くなれるよう、ずっと努力してきました。最初はちゃんとやれていたでしょう?」

「そうね。従順でいい子だと思ったわ。でも徐々にお前は本性を出してきた。何かあったら言い返すようになった。特に千明を盾に使って」

「やっぱり受験のことを怒ってるんですね」

「あれは決定的だったわ。私のためにやってあげたのに」

「どこが為なんですか? 私が何も知らないと思ってるんですか? 千明が望んでもいない中学受験を、無理やりさせようとしたこと。友達の孫が私立中学に入ったと聞いて、張り合おうとしただけでしょう?」

「黙りなさい。ここは私の家よ。素直に受け入れるのがルールよ」

「そんな無茶苦茶なルール、受け入れられません。私は母として千明を守らないといけないんです」

「ルールを守れないなら、さっさと離婚して出ていけ」

「わかりました」

「あら、いいの? もっと粘られると思ったわ。仕事もしてないし、追い出されたら路頭に迷うわよ。頼れる親だってお前にいないんだから」

「ここまでされたら、同居は続けられませんから」

その後、私は数少ない頼れる相手に連絡を入れた。

「お父さん、お仕事中にすみません」

「珍しいね。どうかしたのか?」

「さっき大輝から離婚を言い渡されました」

「は? 離婚?」

「もう限界だと言われて、すぐにでも家を出ていけと」

「あのバカが勝手なことを言うな。あの家は私が買ったものだぞ」

「お父さんはこのこと、知らなかったんですね」

「当たり前だ。知ってたら全力で止めていたよ」

「どうやらお母さんと二人で決めたみたいです」

「やはりひろみも関わっていたか……。裕子さんは何も間違ったことはしてないよ」

「お父さんにもご心配をかけてしまいました」

「いや、いいんだ。それで、どうするつもりだ?」

「正直迷っています。将来のことを考えると……離婚していいのかどうか」

「経済的なことかな?」

「いえ、千明のことです。どうやら大輝は千明を引き取るつもりのようです」

「あいつがそんなことを言ったのか。それは許せないな。まずは話し合った方がいい。お互いの将来に関わることだから、慎重にな」

「大輝が応じてくれるかどうか」

「いざとなったら私から出向くよ」

「いえ、これは私たちの問題ですから、自分でやってみます。お父さんは準備をしていてください」

「そうか。わかった」

家に帰って、大輝が戻ってきたところで話し合いを持ちかけた。

「ちゃんと話し合いをしましょう」

「離婚はもう確定事項だって言ってるだろ」

「離婚のことじゃない。一番気になってるのは千明のことよ」

「それはもちろん俺がもらう。経済力がある俺が一緒にいる方が絶対いい」

「仕事なら私だってやってみせる。千明は私が引き取るわ」

「バカを言うな。お前のような甘い奴に育てられるか。親ってのは子供に言いつけを守らせるのが役目なんだ。お前にそんなことはできない」

「そんなこと、できないしやりたくもない。子供が間違ったことをすれば注意する。でも今回のはあなたたちが間違ってる」

「黙れ。千明にはまず俺たちに逆らわないように教え込まないとダメなんだ。あいつは塾にも行ってないし」

「千明は塾に行きたいなんて言ってない。今は部活のテニスに夢中なの」

「お前が甘やかすからそうなるんだ。千明は黙って俺たちが決めた道を進めばいい」

「本当にそう思ってるの? 私だって千明が行きたいと言えば応援する。でも今はテニスに打ち込みたいって夢中なのよ。それを邪魔するのは絶対に許さない」

「勝手なことを言うな。母さんの指示を聞けないお前は俺の妻じゃない」

「あんた、めちゃくちゃよ」

「もういい。さっさと出ていけ」

「私は何があっても千明のことだけは守るからね」

「うるさい。無収入の女が適当なことを言うな」

「こんな家、すぐにでも出ていってやるわ」

「そうか。それは助かる。お前さえいなくなったら、俺たち家族は幸福を手にできる」

それから二週間後。

私は新しい家を見つけ、荷物をまとめ終えた。義母に最後の挨拶をしに行く。

「やっと出ていってくれたみたいね」

「ええ、ようやく家が見つかりました。離婚届は私が役所に提出しておきますよ」

「そう。それじゃあお願いね。やっと孫とうちの家族だけで暮らせるわ。あんたは一人で寂しく暮らすのね。絶対にうちに近づくんじゃないわよ」

「もちろんです。でもそれはお母さんも同じですからね」

「当たり前でしょ。誰が近づくもんですか」

「そう。じゃあ、千明にも近づかないでくださいね」

「はあ? なんでそんなことをあなたが言うの?」

「だって千明は私と一緒に住むことになりましたから」

「なに?」

「あら、知らなかったんですか? もうみんな出ていきましたよ」

「なにを言ってるのよ」

「千明に事情を全部話したんです。あの子も中学生ですから。そうしたら、私と一緒にいたいと言ってくれました。で、二人で家を出ました」

「何勝手なことを言ってるの! 相談するべきでしょ! 誘拐と一緒よ。警察に通報するわ!」

「千明の意思は確認してますよ」

「だとしても私たちに確認するべきだったわ!」

「そんなことしても、どうせ文句を言われて止められるだけですから。千明はあなたたちのことを心から嫌ってましたよ」

「え……千明が?」

「そりゃそうでしょ。勝手に中学受験をさせようとしたんですから。千明が望んでもいないのに、無理やり塾に行かせて受験しろと。あの時から千明はあなたに嫌悪感を抱いてたんです」

「だって……私はあの子のために……」

「まず本人の意思を尊重しましょう。子供だからわからないって言うけど、お母さんはそれが理由じゃないですよね。友達の孫が私立中学に入ったって聞いて、張り合おうとしただけでしょう?」

「あんた、そんな風に思ってたの?」

「ええ。だってお母さんがその話を聞いた時の嫌な顔、忘れられませんから。あなたは千明を自慢の道具にしたかっただけ」

「どういう理由でも、いい中学に行った方が幸せになるでしょう!」

「あなたは千明の気持ちを考えたこと、一度もないんですね。私はこれから、あの子の笑顔を守ります。おかしなことはしないでください。これは千明の意思なんですから」

義母は唖然とした様子で、すぐに大輝に電話をかけていた。

五分後、大輝からの電話が鳴った。

「話は聞いたぞ。なんてことをしてくれたんだ」

「娘を守るために仕方なかったの」

「ふざけるな。お前が千明を育てられるのか?」

「もちろん。むしろ千明と過ごした時間は私の方が多い。休みの日だってあなたはすぐに家を出てったでしょ。最近はお母さんとどこかに出かけてばかりで、先々週の大会も応援に行かなかった」

「勝手にやってる部活の応援なんてするわけないだろ」

「千明の気持ちを考えられない人は親資格なしよ。親権は私が取る」

「俺の方が稼いでるのに、そんなことできるわけないだろ」

「弁護士に相談したわ。稼いでいるからって親権が取れるわけじゃないって。大事なのは、子供を支えてきたのはどっちかってこと。私はずっと千明の世話をしてきた。それに、何より娘の意思よ。千明がどちらと暮らしたいか、答えはもう出てる」

「本当にいいんだな」

「当たり前でしょ。仕事も決まってるし、あんたには養育費を払ってもらうからね」

「そういうことかよ。結局は俺の金が目当てなんだな」

「そういう言い方はやめて。あなたは親として最低限の役割を果たせばいいの。私は千明の幸せが一番。あなただって、千明があなたを拒絶した理由を考えた方がいい」

「……わかった。じゃあ勝手にしろ。こっちはこっちで、お前らがいなくても幸せになれるからな」

「そう。じゃあ、さようなら」

電話を切った直後、また着信があった。今度は舅からだ。

「あのバカどもが。俺もあの家を出ることにした。お前たちとはもう一緒に住めない」

「お父さんまで……?」

「裕子さん、謝らせてくれ。俺はずっとお前の味方をするべきだった。あいつらの言いなりになって、何も言えなかった」

「お父さんは何度も間に入ろうとしてくれたじゃないですか」

「いや、それも裕子さんが止めてくれたんだ。『第三者が入ると余計複雑になるから、当事者同士で解決するしかない』って。お前はいつもそうやって、一人で抱え込んでいた」

「そうでしたね……」

「これで俺も自由になれる。離婚届は書いてある。久々の一人暮らしを楽しもうと思う」

その一ヶ月後。大輝から連絡が来た。

「離婚はどうなってるんだ」

「もう少し待って。他にもやらないといけないことがあるから」

「なんだよ。さっさとやってくれ。催促するのはやめてくれ」

「そんなに急いでるのは、ゆいさんと再婚したいからでしょ?」

沈黙が流れた。

「なんでゆいのこと……?」

「お父さんが家を出る前に寝室を整理してた時、ゴミ箱から高級レストラン三人分のコース料理のレシートが出てきたの。日時を確認したら、あなたとお母さんが二人で外出した日だった。三人分っておかしいでしょ。お父さんが私に教えてくれたの。そこから探偵をつけて調べてもらったのよ。そしたら、あなたがお母さんと出かけるふりをして不倫相手と会ってたってことがわかった」

「それで……だからって」

「ゆいさんとの約束も証拠も、全部押さえてる。あなたに慰謝料を請求する」

「慰謝料!? 俺は養育費を払うって言ってるんだぞ!」

「それとは別よ。どちらもきっちり払ってもらうからね」

「そんな金、ない。俺はこれから母さんやゆいを養わないといけないんだ」

「大事な家族でしょ。頑張りなさいよ」

「頼むよ、勘弁してくれ。俺はお前と母さんの板挟みで、精神的に追い詰められてたんだ。それが原因だったんだよ」

「板挟み? あんたが私の味方をしたことなんて一度もなかった。いつもお母さんの味方ばっかりだったでしょ。不倫の言い訳に使わないで。どんな理由があっても不倫はダメよ。やっぱりあなたは父親失格ね。千明には二度と会わせないから」

「千明に……それは言ったのか?」

「言ってないけど、千明はあんたの顔を見たくもないって言ってたわ。おばあちゃんの言いなりになって、自分のことを全然理解しようとしてくれなかったからって」

「それでも俺は千明を大切にしてた」

「大切にしてたから、千明が夢中になってる部活を取り上げようとしたの? あんたには子供の気持ちを考えるっていう考えがないのよ。私はこれから一人で千明を育てていくわ」

「千明に二度と会えないのか……」

「そうよ。だってそれは、私たち家族の総意だから」

その後、大輝は不倫の慰謝料と養育費を請求され、生活はかなり苦しくなったと聞いた。ゆいさんとの再婚話も、私がゆいさんに慰謝料を請求したことで破談になった。どうやら大輝は、既婚者だと隠してゆいさんと付き合っていたらしい。知られたゆいさんにも振られ、今は義母に財布を握られて言われるままに暮らしているという。

養育費の振り込みが滞り始めたので、私は強制執行をした。給料を差し押さえられた大輝は、さらに生活が苦しくなったと嘆いていたが、自分の決断の結果だ。自分で考えずに母の言いなりになった報いだと思う。

義母は舅との離婚が成立したものの、それを周囲には隠しているらしい。千明が私立中学に通っているなどと嘘まで広めていたが、それもバレて友人たちからは嘘つきのレッテルを貼られ、誰も相手にしなくなった。今は外に出ることもなく、家にこもっているそうだ。

私は千明と二人での生活を始めた。仕事も家事も大変だけど、千明も手伝ってくれる。お父さんとは今もときどき会っている。千明はおじいちゃんに懐いていて、いい話し相手になっている。

そして千明は、テニス部での努力の結果、全国大会のシングルス部門で出場を勝ち取った。嬉しそうにはしゃぐ姿を見て、やりたいことをやらせて本当によかったと思った。

これからも私は、千明の笑顔を守るために頑張っていく。

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