「今日から、私たちも一緒に住むから。お姉さんの部屋ももらったし、服も勝手に着てるからね。」…

「今日から、私たちも一緒に住むから。お姉さんの部屋ももらったし、服も勝手に着てるからね。」...

「お姉さん、これからよろしくね。」

出産翌日の病室で、義理の妹・加奈が突然そんなことを言った。頭が回らない。まだ麻酔の残る体で、私はただ呆然と彼女を見つめた。

「よろしくって、どういうこと?」

「あれ? お兄ちゃんから聞いてない? 私たち、今日からそっちで同居するから。」

「え、同居? 誰が誰と? 私たち家族と、お父さんとお母さんも?」

「うちは子供3人と私と夫でしょ。お母さんたちも含めて7人になるってこと。お姉さん、双子出産翌日にごめんね。」

ごめん、じゃない。そんな大決定を、なぜ私は何も聞かされていないのか。蒼太が勝手に決めたのかと問うと、加奈はけろっとしていた。

「お兄ちゃんから、お姉さんはコキ使っていいって言われたよ。うち、子供多くて大変だから。」

は? コキ使っていい? 私が何も言い返せないと思って?

病院から夫・蒼太に電話をかけた。休憩中の彼は、面倒そうに出た。

「さっき加奈ちゃんから連絡があったわ。お母さんたちも含めて、うちで同居するって本当?」

「ああ、加奈のやつ、勝手に言っちまったのか。」

「ってことは、本当なのね? 私、出産したばかりでまだ病院にいるのに。」

「出産翌日のお前にサプライズ。今日から両親と妹一家と同居。文句あるなら離婚な。」

離婚? 何を言っているんだ。私は何も聞かされていない。一言の相談もなく、なぜそんなことを決められる。

「お前に相談する必要ないだろ。お前、俺がないとダメだもんな。俺や母さんたちの言うことをずっと聞いてきたわけだし。」

「私はただ、変に事を荒げたくないだけで。」

「出た出た。平和主義。親の影響だって言ってたよな。うちの親は毎日喧嘩してて、私はいつも部屋の隅で丸まって耳を塞いでた。そういう思いを自分の子供にはさせたくないだけ。」

「つまり離婚したくないんだろう。俺の決定が気に食わないなら出ていけば? 離婚しなくても、俺が考えを変えればいいんでしょ。」

「無理。そんな俺の意見を曲げさせたいなら喧嘩な。生まれたばっかの子供に親の喧嘩を見せる気か? お前の嫌いな親になるけど、いいわけ?」

最低だ。自分が優位なことを分かっていて、それを武器にしている。収入だって、今は育休中で私の稼ぎでは双子を抱えて生きていけない。それを分かっていて、わざとやってる。

「当然だろ。お前は離婚できないし、俺の言うことを聞くしかない。それが分かってないでこんなことするかよ。これからも文句言わずにすみっこでじっとしてろ。俺たちの世話をしてる間は、お前に生活費も出してやるよ。」

翌日、退院して家に帰ると、そこにはもう加奈一家と両親がいた。加奈は新築の家を褒めちぎりながら、とんでもないことを言ってのけた。

「お姉さんのお家、いいわ。私、お姉さんの部屋もらったから。」

「もらったって?」

「私の部屋がなくて困っちゃって。お兄ちゃんに言ったら、お姉さんの部屋をあげるってさ。あと、お姉さんの服も勝手に着てるから。いいよね? 私たち家族なんだし。」

いいわけない。部屋を取られて、無断で服を着られて、それでも笑っていられると思っているのか。

「そういうことじゃないでしょ。いくら家族でも、最低限の尊重くらい。」

「あ、嫌なの? じゃあお兄ちゃんに言っちゃおう。離婚かもね。」

加奈は笑いながら続けた。

「双子ちゃんを抱えて、一人でやっていくんだ。いや、でも離婚しないならお兄ちゃんと喧嘩だね。喧嘩は空気悪いだろうね。お兄ちゃんだけじゃなくて、私たちも敵だし。退院してすぐそれとか、双子ちゃんかわいそう。」

「もういいわ。好きにしてってこと。確かに私が我慢すれば、それで問題ないわけだし。」

「お姉さんはそれでいいんだ。」

「いいわけないでしょ。でも、それで収まるならそうするだけよ。」

加奈は呆れた顔でため息をついた。

「あのさ、ふざけんのも大概にしてくれる? 断れよ。部屋を急に取られるんだよ。服を無断で着られてるんだよ。何の相談もなく同居とか、断って当然でしょ。」

「でも、私が我慢すれば丸く収まるし。」

「収まってないから。ねえ、お姉さん、自分の両親が嫌いって言ってたよね。いつも喧嘩してて嫌だった。部屋の隅で丸まってるのが嫌だった。だから蒼太とは衝突しないようにしてるんでしょ?」

「そうよ。」

「何それ? 受ける。お姉さんが逆らわなかったら平和だからって、バカじゃないの? 子供が大事なら主張しなよ。今のお姉さんって表面上を取り繕ってるだけでしょ。私を考えてるふりして、考えてない。思考放棄してるだけのクソバァ女。母親がこれとか、双子ちゃんがかわいそうなんですけど。」

そこまで言われて、さすがに言葉を失った。

「このままお姉さんが我慢し続けたら、双子ちゃんも同じようになるよ。部屋の隅で丸まって、あんたみたいにお兄ちゃんの顔色を伺って、お母さんたちの顔色を伺って、愛想笑いだけして生きていくんだろうね。おめでとう。根暗な女そっくりの娘たちの出来上がり。」

「そんなこと言われても、じゃあ私が喧嘩すればいいの? 夫婦で怒鳴り合う家庭を作ればいいわけ?」

「いいわけないでしょ。脳みそ腐ってんの。だったら離婚すればいいじゃん。」

「簡単に言うけどね。双子の娘が生まれたばかりなのよ。私の稼ぎだけじゃ、無理よ。」

「大変だろうね。苦労するだろうね。でも、だからってクソみたいな環境で娘に我慢させるよりはマシでしょ。それとも、部屋の隅で丸まってろって言いたいの? 可愛い娘たちに、あんたと同じ思いをさせたいわけ?」

「そんなの、絶対にダメ。」

「なら、やることは決まってるじゃん。あんなゴミみたいな男と結婚し続ける意味、ある?」

加奈は最初から、そう言うつもりだったのかもしれない。朝、夫は私に言った。

「退院日おめでとう。たまってた分の家事、帰ってきたらちゃんとやれよ。」

私は静かに、でもはっきりと答えた。

「その家には、もう帰りません。」

「はあ? なんだよ、反抗期か? くだらないこと言ってないで、さっさと帰ってこい。」

「だから帰りません。子供たちは私が連れて行くので、あとは好きにしてください。」

蒼太は焦りだした。

「つまんねえこと言っていいわけ。言うこと聞かないなら離婚だぞ。」

「じゃあ、離婚で。」

「え、ちょ、お前何言ってんの?」

「だから、離婚です。」

「いや、冗談やめろって。俺と離婚してどうするんだよ。双子の娘をお前一人で無理に決まってんだろ。自分の給料見てから言えよ。」

「確かにギリギリだけど、全くもって無理ではないわ。シングルマザー向けの制度を使えばいけるわ。」

「じゃあ住むとこは? お前、実家には帰れないだろう。家を出てから一切連絡取ってないんだから、向こうも娘と思ってないだろ?」

「あるんで、大丈夫です。」

「ある? どこだよ。新しい家を見つけるまでの間、置いてもらうの。かナちゃんのとこ。」

「はあ? 加奈? なんであいつが?」

「私の荷物は加奈ちゃんが持ってきてくれるから、あなたは触らないでね。離婚届は後日郵送で送りますから。じゃあ、さようなら。」

数分後、蒼太は加奈に詰め寄った。加奈は冷ややかに、でも楽しそうに言い放った。

「お姉さんが離婚とか言い出したぞ。」

「ってことは、色々聞いたんでしょ? お前の家に置いてもらうとか、なんとか。」

「お前、家は引き払ったって言ってたよな。」

「嘘だけど。私が本気でお兄ちゃんたちと同居すると思ってたの? 何それ、受ける。」

「受けねえよ。新築一軒家に住めるって喜んでたじゃん。」

「そりゃ新築一軒家は嬉しいよ。うち、子供3人いるから今は余裕なくて無理だし。でも、マイナス点がでかすぎるって。お兄ちゃんとお母さんたちと一緒に暮らすとか、マジで無理。」

「なんだと?」

「お兄ちゃんは王様気取りのクソわがままバカだし、うちの両親も最悪。お兄ちゃんを無意味に可愛がるだけの老害じゃん。揃いも揃って脳みそスッカスカすぎてビビるわ。」

「お前、実の親に向かって老害って。お前は何様のつもりだ?」

「それ、こっちのセリフだから。大方、私たちを同居に誘ったのも、コキ使ってやろう程度の考えだったんでしょ?」

「そんなわけないだろう。可愛い妹家族と一緒に暮らしたいって思っただけで。」

「可愛い? 笑わせないでよ。お腹痛い。お兄ちゃんが可愛い妹とか、ギャグ超えてバグでしょ。」

「言いがかりはやめろ。」

「言いがかりじゃないでしょ。実際この数日だけで、やれ飯作れ、やれ家事しろって、家のことは全部こっちに丸投げだったじゃん。」

「それは俺は仕事があったし。」

「うちの旦那は仕事しながら手伝ってくれましたけど。お兄ちゃんのお嫁さんは入院してていなかったよね。私はあんたの嫁じゃありませんが。妹ですが。」

「それは慣れてるやつがやった方がいいだろう。」

「じゃあお母さんは? あの人ずっと専業主婦なんだから、一番慣れてる。」

「お前な、親を働かせようっていうのか。」

「親に家事させたくない。自分もしたくない。だから妹夫婦に丸投げって。そりゃお姉さんにも捨てられますわ。」

「お前が、その、抜かしたんだろ。」

「はいはい、そうですね。お前が余計なこと言わなきゃ、さやかが俺に反抗なんてするはずないんだ。双子ちゃんもいて経済的に苦しいし、あいつの性格を考えたら、喧嘩するより我慢する方だろう。」

「そうだよ。俺たちはそうやってうまくやってきたんだ。」

「夫婦じゃないから。それ、ただの支配じゃん。自分の嫁も大事にできないくせに、結婚してんのよ。夫も父親もする気ないなら、妊娠させてんじゃねえや。」

「なんでお前にそこまで言われないといけないんだ。」

「裸の王様がムカついたから、言いたいこと言っただけ。一人でやってなよ、マジで。」

「何とでも言え。よく考えたら、どうせさやかは帰ってくるんだ。」

「はい? なんでそうなるわけ?」

「社会制度を利用しようが、経済的な負担は無視できない。そもそも働きながら育児ってなったら、保育園は見つかってんのか?」

「まだだと思うけど。」

「新しい家に保育園。それが見つかるのにどれだけ時間がかかる? 数ヶ月はかかるんじゃないか? お前はどうか知らないけど、さやかの性格なら、数ヶ月も他人の家にいられるはずない。罪悪感を抱いて、自分から出て行くに決まってる。そうなったらあいつに行く当てなんてないんだ。どっちにしろ、俺んとこに帰ってくるしかねえんだよ。」

「はいはい、そうですか。さやかに言っとけ。土下座して頼むなら、家に入れてやってもいいってな。」

一週間後、蒼太は加奈に愚痴をこぼしていた。

「マジで腹立つな。何なんだよ。」

「急に何? 整理?」

「男だから整理はねえよ。そうじゃなくて、親父とお袋だよ。あいつら、加奈たちが出ていった後から急にわがままになりやがったんだ。」

「わがままね。」

「加奈やさやかがいないんだから、家事はあいつらの仕事だろ。俺は家に住ませてやってるし、外で仕事もしてるのに。なのに、さっさと飯作れとか言い出すんだよ。ありえないだろ。」

「自業自得でしょ。昔から、お母さんたちはそういう人だったよ。自分たちで何かするような人じゃなかった。」

「何言ってんだ。おふも親父も、そんな人たちじゃなかったろ。」

「ああ、お兄ちゃんから見たらね。私から見たら、うちの親って基本多席飛思考だし。お兄ちゃん、昔から可愛がられてたよね。小学校の頃、テストの点で褒められた? 100点取ったらケーキ買ってくれたりとかさ。私は100点のテストを見せたら、ふーんって言われたよ。私が書いた家族の絵なんて、見せたその日に捨てられた。お兄ちゃんのは、実家に飾ってあったのに。」

「そんなこと、あったかもな。」

「お兄ちゃんは生まれた時から大事にされてきたんだよ。だから勘違いクソ野郎に育ったんだね。わがまま放題好き放題。それで許されてきたから、大人になってもガキのまま。私やお姉さんが、お母さんたちとお兄ちゃんの間のフィルターだったんだ。私たちが掃除して、面倒を処理してたから、気にならなかっただけ。フィルターがなかったら、でかいガキは基本うざいよ。」

「分かったよ。じゃあ、さやかに帰ってこいって伝えろ。」

「はあ、なんでそうなるの?」

「さやかのやつ、俺からの連絡を無視してるんだ。言ってることが正しいなら、さやかが戻ればいいんだろう。そしたらうちは平和だ。」

「そそりの間違いでしょ。それに、お姉さんが帰るわけないし。今のお姉さんは、守護がもう子供になってんの。自分じゃなくて、子供のためにどうしたらいいか。それしか考えないわけ。人生の軸が双子ちゃんに変わってるってこと。お兄ちゃんには分かんないだろうけどね。」

「だったらお前が帰ってこい。このままじゃ、自分の家なのに居場所がなくなる。」

「その程度でなくなる居場所に価値なんてないでしょ。それも分からない人を助ける義理は、ありません。」

数日後、蒼太からようやく連絡が来た。

「さやか、ようやく連絡してきたか。なんだ、うちに帰りたくなったのか?」

「いや、違いますけど。離婚届を出してって言ってるの。郵送で送ったでしょ。」

「ああ、そんなのもう捨てた。」

「そうですか。じゃあ、もう一回送りますね。」

「諦めろよ。俺は離婚する気はないからな。」

「変な話ね。先に離婚って言い出したのはそっちじゃない? 離婚する気もないのに言ったら、ダメよ。はい、離婚して。」

「うるさい。お前の方こそ、このままでいいのか? 今は加奈の家に置いてもらってるんだろうけどな。これから問題は山積みだ。保育園を見つけて、新しい家を見つけて、仕事して、双子の育児全部一人で負担。できるのか? 無理だろ、お前には。素直に俺のところに戻ってこい。」

「確かに大変だろうけど、風花とりに加えて、でかいガキ3人追加よりはマシよ。」

「でかいガキ3人って、俺とおふたちのことか。お前、加奈ちゃんに泣きついてたんでしょ? そんな家に戻るくらいなら、一人で頑張った方がいいわ。」

「バカ。お前が帰ってくれば丸く収まるんだよ。お袋たちだって、お前が戻れば元に戻るはずだ。」

「それで戻ったとして、私はどうなるの? そんなの今まで通り。部屋の隅で黙ってるだけでいいんだよ。私はそれを卒業したの。私がそうやって過ごしてると、風花とりのためにもならないって気づいたから。」

「何言い出してんだよ。俺たちは今までそうやって来ただろう。お前は黙って俺の言うことを聞いてればいいんだよ。」

「加奈ちゃんが言ってた通りね。あなたみたいな人と過ごしてたら、きっと私だけじゃなくて子供たちも同じようになる。私は母親です。娘たちにあんな思いをさせたくありません。」

「お前が俺に逆らっていいと思ってるのか?」

「いいに決まってるでしょ。だって、あなたがいなくても問題ないんだから。」

「一人で生きていけるってか? 考えが甘いんだよ。ガキ2人を育てるんだ。そんな簡単に。」

「財産分与と養育費で、いけるわ。」

「え? うちの貯金って、多いとは言えなかったはずよね。その家も、財産分与の対象になるわ。家を手放すなんてできないからね。売却した金額を財産分与に当てましょう。」

「ちょっと待てよ。俺はそんなこと認めないぞ。」

「なら、家の売却金の半額に当たる金銭を、しっかり払ってもらうことになるけど。新築一軒家で3000万で建てたものね。今の状態で売れば2000万にはなるかしら。半額の1000万、用意できる?」

「無理だ。」

「なら、家を売るしかないわね。」

「ふざけんな。俺は離婚しないぞ。」

「裁判でも何でもしますよ。こちらはその覚悟を持ってますから。」

「裁判って、クソ。なんでこんなことに。」

「いつまでも王様気分でいるからよ。いるだけで人から肯定されると思ってた。そんなことあるはずないじゃない。歪んだ価値観を、この機会に直せたらいいわね。」

その後、蒼太は私に捨てられ、加奈にも見捨てられ、両親からも嫌われた。加奈に聞いた話では、蒼太は昔から長男であるというだけで肯定されてきたらしい。だからこそ、自分が何かして人に愛される、肯定されるという考えがない。よく言えば自分に自信があると言えるかもしれない。

私はそんな、私とは違う蒼太に魅力を感じて結婚した。でもこうして見てみると、蒼太の価値観が最初から歪んでいたんだとはっきり分かる。王様気分で生きてきたんだろう。そして、だからこそ蒼太は全てを失うこととなった。財産分与のために家を売り、養育費も毎月請求され、今は両親と一緒にボロアパートで生活しているそうだ。両親とは喧嘩が絶えず、責任の押し付け合いをしているんだとか。それこそ、私の両親と同じように。

一方で私は、加奈たちにも力を借りて無事に家を見つけた。今は小さなアパートで、風花とりの3人で暮らしている。保育園も、加奈の子供が通っているところを紹介してもらった。仕事にも復帰し、社会制度も利用しながら生活している。確かに大変なことも多く、贅沢な生活とは言えない。でも、そんな日々こそが、母親として幸せな日々なんだと常々思っている。

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