「裕子、今すぐこの家から出て行け。もう限界だ。離婚だ」――結婚15年、洗濯物をたたんでいる最中に夫がLINEで一方的に告げた言葉が、私の人生を音を立てて壊し始めた。姑は息子をそそのかして私を追い出そうとし、「無収入の女が何を言っても無駄よ」と鼻で笑った。でも、私は知っていた。姑と夫が一緒に家を出て行く日が、姑の友達が孫の中学合格を自慢した日と重なっていたことを。そして、そのレシートは3人分だ…

「裕子、今すぐこの家から出て行け。もう限界だ。離婚だ」――結婚15年、洗濯物をたたんでいる最中に夫がLINEで一方的に告げた言葉が、私の人生を音を立てて壊し始めた。姑は息子をそそのかして私を追い出そうとし、「無収入の女が何を言っても無駄よ」と鼻で笑った。でも、私は知っていた。姑と夫が一緒に家を出て行く日が、姑の友達が孫の中学合格を自慢した日と重なっていたことを。そして、そのレシートは3人分だ...

「裕子、今すぐこの家から出て行け。もう限界だ。離婚だ」

洗濯物をたたんでいた手が止まった。私は夫・大機の顔を見上げ、言葉を失った。いきなりの宣告だった。

「ちょっと待って。何を言い出してるの?どうして私たちが離婚なんてしなくちゃいけないの?」

「お前が俺や母さんの言いつけを守らないからだ。何を言っても言い返してきやがって」

「どうして命令に従わなきゃいけないの?間違ってることがあったら反論する権利はあるでしょ」

その瞬間、夫の目がさらに冷たくなった。私は幼い娘のことを考えた。家庭を守るために、ずっと我慢してきたのに。

「お母さんとの関係が悪いのは私だけのせいじゃない。頭ごなしに否定するようなことをされたら、言い返すのは当然でしょ」

「当たり前だ。息子なんだから、母さんの味方をするのは当然だ」

「あなたは息子かもしれない。でも、私の夫でもあるのよ。そのことを忘れてない?」

「もうお前の夫だなんて意識は、とっくにない」

「……それで離婚ってわけ?」

「そうだ。今すぐこの家から出ていけ。お前の顔はもう見たくない」

LINEで突然告げられた離婚宣告。私は泣きたくなるのをこらえて、もう一度訴えかけた。

「こんな大事なことをLINEで言わないで。ちゃんと話し合わなきゃダメよ」

「話し合いの余地はない。これは俺たち家族の総意だ」

「千明はどうするの?」

「お前のような奴に千明を任せるわけにはいかない。俺たちで育てる」

私は自分がひとりぼっちで追い出されるのだと悟った。母としても妻としても失格だと罵られて。

「どうしてそこまで言われなきゃいけないのよ」

「黙れ。今すぐ新しい家を見つけて出て行け。待ってやるから」

私は確信した。これが姑の指示であることを。姑と話すために、私は姑のもとへ向かった。

「お母さん、大機から出て行けと言われました」

姑は笑みさえ浮かべて言った。「あら、そう。あの子もようやく決断してくれたのね。嫁がいなくなりさえすれば、この家は家族だけで暮らせるわ」

「お母さんが私のことを嫌ってるのは知ってます。でも、息子を利用して追い出すのはひどくないですか?」

「何をわけのわからないことを言ってるの?私は何も言ってないわ。全部、大機が決めたことよ」

「嘘をつかないでください。あなたたちが二人でこそこそと出かけているのを知ってます」

「何がこそこそよ。親子で出かけるのは普通でしょ」

私は昔のことを思い出していた。この家に来たばかりの頃は、姑ともうまくやっていた。従順でいい嫁でいようと努力していた。

「そうね。最初はいい子だと思ったわ。でも、徐々にあなたは本性を出してきた。何かあれば言い返すようになって、特に千明を盾に使って何かと言ってきたわね」

「やっぱり受験のことを怒ってるんですね」

「あれは決定的だったわ。私がために買ってあげたのに」

「どこがためなんですか?私が何も知らないと思ってるんですか?千明は塾なんて行きたがってなかった。無理やり中学受験をさせようとしたんでしょ」

「黙りなさい。ここは私の家よ。だったら素直に受け入れるのがルールよ」

そんなむちゃくちゃなルールは受け入れられなかった。私は母として、娘を守らなくてはならない。

「ルールを守れないのなら、さっさと離婚して出ていきなさい」

「わかりました。そこまで言われて、同居を続けることはできません」

「あら、いいの?もっと粘られると思ったわ。あなた、仕事もしてないし、親も頼れないんでしょ」

「こちらにも我慢の限界があります」

私は義父に電話をかけた。

「お父さん、お仕事中にすみません。さっき大機から離婚を言い渡されました。すぐに家を出ていけと」

義父は激怒した。「あの馬鹿が勝手なことを言うな!その家は私が買ったものだ。知ってたら全力で止めていたよ」

どうやら姑と夫の二人だけで決めたことのようだった。「やはり義母も関わっていたか」

「私と義母の関係が最悪だったのは、私にも原因があるかもしれません」

「違う。一方的にひみ(義母)が嫌っていただけだ。裕子さんは何とかしようと頑張ってくれていたよ」

義父は優しかった。「それで、どうするつもりだ?」

「正直、迷っています。将来のことを考えると、離婚していいのかどうか」

「経済的なことか?」

「いいえ、千明のことです。大機は千明を引き取るつもりです」

「あいつがそんなことを言ったのか?それは許せんな。まずは話し合った方がいいだろう。いざとなったら俺からも出ていくから」

義父はそんなことを言ってくれたが、私は自分たちの問題だと思った。大機が帰ってきたとき、私はもう一度話し合いを求めた。

「ちゃんと話し合いましょう」

「俺たちの離婚はもう確定事項だ」

「離婚のことじゃない。千明の親権よ」

「それはもちろん俺がもらう。経済力がある俺が一緒の方が絶対にいいだろう」

「仕事なら私だってやってみせる。千明は私が引き取る」

「バカを言うな。お前のような甘いやつに親権が渡るわけない。親ってのは、子供に言いつけを守らせるのが役目なんだよ」

「私は子供が間違ったことをすれば注意するわ。でも、自分の気持ちを押し付けるのは違う」

「黙れ!千明にはまず俺たちに逆らわないように教え込まないとダメなんだ。実際、あいつは塾にも行ってないしな」

「待って。千明が塾に行きたいって言ってないでしょ。あの子は今、テニス部に夢中なの。全国大会を目指して頑張ってるのよ」

「お前があいつを甘やかすからそうなったんだ。千明は黙って俺たちが決めた道を進めばいいんだよ」

「本当にそう思ってるの?」

「当たり前だ。母さんがそれを望んでるんだ。息子として、それを叶えるのが俺の役目だ」

私は震える声で言った。「私は何があっても、千明のことだけは守るから」

「うるさい。無収入の女が適当なことを言うな」

「こんな家、すぐにでも出て行ってやるわ」

「そうか。それは助かるぜ。お前さえいなくなったら、俺たち家族は平穏と幸せを手にできる」

―――――

それから私は、必死に家探しをした。仕事のあても見つけた。そして、すべての準備を整えた。

あの家を出る日、私は姑に言った。

「離婚届は私が役所に提出しておきます」

「そう。じゃあお願いね。やっとあんたがいなくなって清々するわ。絶対にうちに近づくんじゃないわよ」

「もちろんです。でも、それはお母さんも同じですからね」

「当たり前でしょ。誰が近づくもんですか」

「そう。それじゃあ、千明にも近づかないでくださいね」

「はあ?なんでそんなことをあなたが言うのよ」

「だって、千明は私と一緒に住むことになりましたから」

「なんですって?」

姑は言葉を失った。私は続けた。「もうみんな、出ていきましたよ。あなたと大機以外は、もうこの家にはいません」

「何を言ってるのよ!」

「千明に事情を説明したんです。中学生ですから、隠し立てせずにすべて話して、どうするか自分で決めさせました。そしたら私と一緒にいたいと言ってくれました。なので、二人で家を出ました」

「何勝手なことを言ってるの!まず私たちに相談するべきでしょ。警察に通報するわよ!」

「千明の意思は確認してますよ」

「だとしても私たちに確認するべきだった!」

「そんなことしても無駄でしょう?どうせぐちぐち文句を言われて、引き止められるだけですから。それに、話し合いの余地なんてもうなかった。千明は、あなたたちのことを心から嫌ってましたよ」

姑の顔が青ざめた。「千明が……」

「そりゃそうでしょ。勝手に中学受験をさせようとしたんですから。千明は望んでもいなかったのに、無理やり塾に行かせたでしょう。あの時から、千明はお母さんに嫌悪感を抱いてたんです」

「私はあの子のためにやったのよ!」

「子供だからわからないって思うかもしれません。でも、お母さんの本当の理由は別にあったはずです。友達の孫が私立中学に入ったと聞いて、張り合おうとしただけですよね?」

姑は口を開けていた。「なんで……そんなことまで……」

「覚えてますよ。お母さんがその話を聞いた時、私も一緒にいたんですから。友達の自慢を聞いて、お母さんは本当に悔しがってましたよね。千明を自慢の種に使おうとした。それが許せなかったんです」

姑は何も言い返せなかった。そして、夫にも電話で報告をした。

「話は聞いたぞ。なんてことをしてくれたんだ」

「娘を守るためには仕方なかったのよ」

「ふざけるな。お前が千明を育てられるのか?」

「当たり前でしょ。むしろ、千明と過ごした時間は私の方が多いわ。休みの日も、あなたはすぐに家を出てたじゃない。友達と遊んだり、義母と出かけたり」

「先々週は千明がテニスの大会に出てたのよ。応援にもあなたは来なかったわね」

「勝手にやってる部活の応援なんて行くわけないだろ」

「自分の子供の気持ちを考えられない人間は、親として失格よ。親権は私が取るつもりだから」

「俺の方が稼いでる!そんなことできるわけないだろう」

「弁護士に相談したわ。稼いでるからって親権を取れるわけじゃないんだって。大事なのは、子供を支えてきたのはどっちかってこと。私はずっと千明の世話をしてきた。学校との連絡だって、私がやってきたわ。そして何よりも大事なのは、子供の意思よ」

「本当にいいんだな」

「当たり前でしょ。こっちは覚悟してる。それに仕事も決まってる。養育費もちゃんと払ってもらうわよ」

「そういうことかよ。結局は俺の金が目当てなんだな」

「そういう言い方をしないで。あなたは親として最低限の役割を果たすべきなのよ」

「千明は納得してるんだな」

「私があの子の意思に反して何かを押し付けるようなことはしない。私はあなたたちと違うの。一番に願ってるのは、千明の幸せなんだから」

「……勝手にしろ。こっちはこっちで、お前らがいなくても幸せになれるからな」

―――――

家を出てしばらくして、義父から連絡があった。

「あの家を、俺も出た」

「え?お父さんまで?」

「ひみにはずっと不満があった。特に、裕子さんに対する当たり方が酷すぎた」

義父は姑との離婚を決めたと言った。「裕子さんは何も間違ってない。千明を守ろうとしてただけだ。それなのに、あいつは目の敵にしてた」

「人間関係は第三者が入ると余計にやこしくなるから、当事者同士で解決するしかないって、裕子さんに言われてたんだ。だが、最終的にあいつらが裕子さんを追い出そうとした。その瞬間、俺の中であいつらへの愛想が尽きた」

義父は財産分与として家を姑に譲り、新しく部屋を借りて一人暮らしを始めた。姑との離婚手続きも進めた。

―――――

そして、私の離婚届の提出を待つ夫は、急かすように連絡をよこしてきた。

「離婚はどうなってるんだ?」

「もう少しだけ待ってくれる?他にもやることがあるから」

「なんだよ。さっさとやってくれよ」

「そんなに急かさなくてもいいじゃない。ゆいさんだって、まだ待ってくれるでしょ?」

「は?なんでゆいのこと……」

「お父さんが家を出る前に、お父さんの寝室を整理してたんだって。そうしたらゴミ箱から、高級レストラン3人分のレシートが出てきたの。日時は、あなたと義母が二人で出かけた日と一緒だった」

夫の顔色が変わった。

「3人分ってのが引っかかってね。お父さんが私に連絡をくれたの。もう一人は女だったんじゃないかって。それで探偵に調査を頼んだのよ。そうしたら、見事に当たった」

「み、見つかったのか……」

「あなたは義母と出かけるのを隠れ蓑にして、不倫相手と楽しんでたみたいね。しかも、再婚の約束までしてたみたいじゃない。そこから調べたら、証拠が次々と出てきたわ。ホテルの領収書も、愛人へのプレゼントの履歴もね」

「そんな……」

「だから、あなたには慰謝料を請求するわ。養育費とは別にね」

「頼む!慰謝料だけは勘弁してください!俺も限界だったんだ。お前と母さんの板挟みで、精神的に追い詰められてたんだ!」

「板挟み?あなたが私の味方をしてくれたことなんて、一度もなかったじゃない。いつもお義母さんの味方してた。でも、それで不倫の言い訳にされるのは認めないわ。どんな理由があっても、不倫はダメ」

「千明には……」

「千明には、不倫のことは言ってないけど、あなたの顔なんてもう見たくないって言ってたわ」

「なんでだよ……」

「おばあちゃんの言いなりになって、私のことなんて全く理解しようとしなかったからだって。あなたが千明を大事にしてたって?それなのに、千明が今一番大事にしてる部活を取り上げようとしたの?」

「お前の意見を聞いて、母さんは中学受験の話は取り下げただろう」

「あの子の気持ちを尊重しなかったっていう事実は変わらないわ。もう言い訳は聞かない。私はこれから一人で千明を育てていくから」

「千明には、もう二度と会えないのか……」

「そうよ。だって、それが私たち家族の総意だから」

―――――

その後、夫は不倫の慰謝料と養育費の請求を受けて、生活がかなり苦しくなったそうだ。再婚の約束をしていたゆいさんにも、私が慰謝料を請求したことで関係が壊れた。夫は「独身だ」と偽ってゆいさんと付き合っていたらしく、それがバレて振られてしまったらしい。今は姑に財布を握られ、言われるがままに暮らしていると聞いた。

養育費の支払いが滞るようになったので、私は強制執行をした。給料を差し押さえられて、さらに生活が苦しくなったと嘆いているらしいが、自分で考えずに義母の言いなりになった結果だ。自業自得である。

姑は義父との離婚が成立したが、そのことは周囲の友人に隠しているらしい。それどころか「千明を私立中学に通わせている」などという嘘までついていたらしい。結局それもすぐにバレて、友人からは嘘つきのレッテルを貼られて、誰も相手にしなくなったそうだ。今は外に出ることもなく、家に引きこもっているらしい。

一方の私は、千明と二人での生活を始めた。仕事も家事も大変だが、千明が手伝ってくれるのでなんとかやっている。義父とも時々会っている。千明は義父に懐いていたので、今はいい話し相手になってくれている。

そして千明は、テニス部で努力を続けた結果、全国大会のシングルス部門への出場を勝ち取った。嬉しそうに喜ぶ千明の顔を見て、やりたいことをやらせて本当に良かったと思った。

私はこれからも、千明の笑顔を守るために頑張っていく。

Thumbnail