「大事な話がある。俺たちも終わりにしよう」
ある朝、スマホに届いた夫からのライン。私は思わず画面を二度見した。
「終わりって、どういうこと?」
「60歳を迎えた。いい区切りだと思ったんだ」
「まさか……離婚するって言ってるの?」
「そうだ。俺たちは別々の道を歩むべきだ」
私は混乱した。結婚して40年。支え合ってきたつもりだった。なのに、なぜ今になってそんなことを言うのか。
「ふざけないで。第2の人生を歩むなら、私はあなたと一緒がいいの」
「やっぱりすんなりとは受け入れてくれないか」
「当たり前でしょ」
すると夫は、これまで見せたことのない冷たい顔で言い放った。
「なら言い方を変える。医者の嫁として甘い汁は十分吸っただろう。これからは俺に頼らず、自分の力で生きてくれ」
「私はあなたに頼っているつもりなんてないわ。二人で助け合ってここまでやってきたんでしょ」
「俺の稼ぎで暮らしてきたくせに、よく言えるな。どれだけ楽をしてきたか分かっているのか?」
確かに、彼の収入のおかげで不自由のない暮らしができた。それは認める。けれど、私だって家庭を守ってきた。家事もして、親族の付き合いもして、彼の帰りを待つ日々を40年も重ねてきたのだ。
「あなたがいなければ私は生活していけたわ。でも、家のことは全部私がやってきた。それなのに、どうしてそんなことを言うの?」
「別にお前じゃなくても良かったんだよ。こっちには金がある。家政婦でも何でも雇えばお前なんて必要なかった」
私は声を震わせた。
「だったら、どうしてもっと早く言わなかったの? なぜ今なの?」
「色々と世間体があるだろう。お前は病院の連中とも仲良くやってたし、離婚したら俺の顔が立たない可能性があった。だから我慢してきたんだ」
「つまり、定年を迎えたからようやく離婚できるってわけね」
「そうだ。もう病院の連中と顔を合わせることもない。というわけで、離婚してくれ。財産分与にはきちんと応じるから」
「私はまだ離婚すると言っていないわ」
「やめてくれよ。ババアに執着されるのは迷惑なんだ」
私は胸が締め付けられる思いだった。40年連れ添った夫の口から、こんな言葉を聞くことになるなんて。
「財産分与で、あの家はお前にくれてやる。広い家をもらえたんだから文句を言うな。本当ならお前には何ひとつもらう資格はないんだ。こっちの優しさでやってるんだから受け取れ」
「顔を合わせて、ちゃんと話をしましょう」
「嫌だね。お前の顔なんてもう二度と見たくない。離婚が成立するまでホテルで生活する」
「話し合いすらする気持ちはないの?」
「ないね。俺が離婚するって言ってるんだ。お前はそれに従えばいい。俺の命令を聞くことだけがお前の長所だったろ」
そう言い残して、夫は通話を切った。
二日後。
「ゆみさん、早く離婚に応じてくれませんか?」
見知らぬ番号から届いたライン。私は不信感を覚えながら返信した。
「え? あなた誰? どうしてこの連絡先を知っているの?」
「優さんの携帯からあなたの番号を拝借しました。それでラインをさせてもらいました」
「ゆうと、の携帯? あなた、ゆうととどういう関係なの?」
「私は優さんと長年お付き合いさせてもらっていました。そしてこの度、結婚することになりました」
言葉を失った。夫に、若い女がいる。それも、かなり長い間。
「つまり、不倫相手ってこと?」
「今はまだそうですね。でも、すぐに妻になりますよ。そのためにはあなたに早く離婚に応じてもらう必要があります」
「ちょっと待って……頭が混乱しているわ」
「はあ。偉そうに優さんの妻面をしていたのに、まさかこんなことになるなんてね。あなたが悔しそうにしている顔が目に浮かびますよ」
「私と面識があるの?」
「ええ。何度かお家に行かせてもらったことがあります」
「家に?」
「そう。当時は優さんと同じ病院で働く看護師として伺っていましたが」
「看護師……」
「レイ子です。覚えていませんか?」
「名前くらいは……聞いたことがある気がするけど」
「まあ、どうでもいいです。とにかく早く優さんと別れてください。これからは私が妻として支えていきますから」
「どうして私があなたたちの都合に合わせないといけないの? 私はまだゆうとと別れると決めていないわ」
「しつこい人ですね。今まで優さんの妻でいられたのは、すべて優さんのおかげでしょう。最後くらい、恩返しをしたいとは思わないのですか? こんな恩知らずだとは思いませんでしたよ」
私は必死で言葉を返した。
「私はゆうとと老後をどう暮らしていくかを、ずっと考えてきたのよ」
「勝手なことをしないでください。優さんの老後に、あなたは必要ありません。あなたのような家事しかできない無能は、優さんのそばにいても邪魔なだけです。さっさと目の前から消えてください」
電話を切った後、私はしばらく動けなかった。夫に裏切られた。しかも相手は、私の家にも足を踏み入れたことがある女。あの家で、私が暮らしている家で、夫はこの女と関係を持っていたのか。
そして、私は夫に電話をかけた。
「あなた、不倫をしていたのね」
「何? どういうことだ?」
「さっきレイ子さんって人から連絡があったの。さっさと別れてくださいって」
「……レイ子が、お前に連絡をしたのか」
「あなた、今の病院の看護師さんと不倫していたんでしょ。だから定年を待ってたのね。病院の人の目を気にしながら、離婚のタイミングをずっと計っていたんでしょ」
「……そうだよ。だから定年して、あいつと一緒になろうと思っていたんだ」
「私に不倫のことを隠して、離婚しようとしていたのね」
「ごちゃごちゃ揉めるのが嫌だったんだ。俺たちの離婚はもう確定事項だ。だったら不倫をしていたかどうかなんて、大した問題じゃない」
「ずっと私を裏切っていたのね」
「裏切っていたつもりはない。俺の気持ちはとっくに冷めていたんだ。ただお前が家事をそれなりにやってくれて便利だったから、家に置いていただけのことだ。俺の中でお前は、ずっと前から妻じゃなかった」
「そうやって、私と40年も一緒にいたのね」
「そうなるな。こっちだって辛かったんだぞ」
「……もういいわ。離婚してあげる」
「ようやく分かったか」
「あんたに対して、愛想が尽きたわ。もうあんたの妻でいることもない。好きにすればいい」
「そんなのこっちも同じ気持ちだ。老後はレイ子と暮らすから、早く離婚してくれ」
「それじゃあ、色々と手続きが必要になるわね。財産分与もあるから」
「お前には家をやるって言ってるだろう」
「家だけってこと?」
「お前には一銭もやらない。一人で頑張って生きろ」
「私はもう60歳を超えているのよ。これから一人で暮らすには、それなりのお金が必要よ」
「知るか。60歳を過ぎても働いている人はいくらでもいる。バイトでも何でもして生活すればいいだろう。俺に頼って生きてきたお前には厳しいかもしれないがな」
「それが分かっているくせに、一銭も渡さないって言うのね」
「家があるだろう。それでなんとかしろ。ここがお前の棺になると思え。いつあの世に行ったって構わないが、できるだけ周りに迷惑をかけるなよ。当たり前だが、葬式には俺は行かないからな」
「そんなことは望んでいないわ」
「じゃあ、財産分与の件もそれで決まりだ」
「それじゃあ、先に家の名義を私に変えておいてくれる?」
「は? なぜだ?」
「いざ財産分与をする時、面倒にならないようによ。あなたも手続きに時間をかけたくないでしょ」
「……まあ、確かにな。別にいいぜ。先に名義変更だけやっておくか」
「そうしてくれる?」
「ああ。じゃあこれで、さようならだ。せいぜい頑張れよ」
「そちらこそ、頑張ってね」
「俺は幸せな毎日を過ごすだけだ。お前と違ってな」
「私だって、第2の人生を楽しむつもりよ」
「強がるなよ。ババア」
翌日、私は弁護士事務所を訪れていた。
「はあ、先生。お久しぶりです。東田ゆみです。両親の遺産相続の時に、お世話になりました」
「お久しぶりです。どうかなさいましたか?」
「実は、夫と離婚することになりまして。手続きについて相談させていただきたくて、連絡しました」
「そうでしたか。もちろん協力させていただきます。特に何かお困りのことは?」
「財産分与について、色々とお聞きしたいことがあるんです」
「分かりました。では一度事務所へお越しください。詳しい話を伺いましょう」
二週間後。
「東田ゆみ様ですね。はじめまして。山本弁護士事務所のものです」
「ああ、あなたがゆみから話を聞いている弁護士か。こちらこそよろしく頼む」
「かしこまりました。では早速ですが、財産分与について話をさせていただきます。ご自宅については、東田ゆみ様に譲渡するということでよろしかったでしょうか?」
「ああ、そうだ。残りの財産は全部俺のものだ」
「実は、それができないんですよ」
「はあ? どういうことだ?」
「東田様が引き継がれるご自宅ですが、査定価格はほぼゼロということになっております」
「ゼロ? あんな大きな家が、そんなわけあるか」
「購入されてから30年以上経過しています。建物もかなり老朽化しており、立地も良いとは言えません。間取りも特殊で、不動産価値はほぼ発生しないという評価になりました」
「何を言っているんだ。俺が建てた家だぞ」
「土地自体には一定の価値がありますが、売却するには解体費用がかかります。そのため、手元にほぼお金が残らない状態です。これでは財産分与として成立しません」
「じゃあ、金を渡さないといけないのか」
「そうです。婚姻中に築いた財産は原則として半分ずつ分けることになります。ご夫婦の共有財産は、公平に分配していただくことになります」
「ふざけるな。俺の金だぞ。どうしてあいつに渡さないといけないんだ」
「法律でそう定められています。共有財産は夫婦で分け合うものです。ここに関して争う余地はありません」
「チッ……」
「そして、それとは別に、慰謝料も請求させていただきます」
「慰謝料? 何でだ!」
「夫が不貞行為をされていたためです。そちらもお支払いいただくことになります。こちらについては、あなたも当然ご存じでしたよね。だから隠したまま離婚をしようとしていたのでしょう」
「この……!」
「では、正式な手続きは直接お会いして話を進めます。スケジュールを調整しますので、ご都合の良い日をお知らせください」
夫は怒り狂いながら、電話を切った。
直後、私のスマホが鳴った。
「お前、俺の金をもらう権利があると思っているのか?」
「何よ、急に」
「今すぐ財産分与を放棄しろ。それで俺との話はすべてなかったことにしてやる」
「悪いけど、そんなことをするつもりはないわ。私だって妻としてあなたを支えてきたんだもの。それなりの自負はあるわ」
「お前なんて必要なかったと言ったはずだ」
「だとしても、私があなたを40年支えてきたという事実は変わらない。だから財産分与してもらう資格はあるわ。もちろん慰謝料だって払ってもらうからね」
「こっちは貯めた金でレイ子と優雅な生活を送るつもりだったのに」
「別に送ればいいじゃない。あなたの収入で」
「お前に持っていかれるのが我慢ならないんだよ。どうせ金を分けるなら、せめてあの家は俺がもらうぞ」
「何を言っているの? そんなのダメよ。あの家はもう私のものなんだから」
「ふざけるな! まだ財産分与はしてない。その前に俺の家だ!」
「あら、言い忘れていたけど……あの家の名義は、もう私に変更してあるわよ」
「なに?」
「あなたが先に名義変更を承諾してくれたでしょう。だからもう、あの家にあなたが住む資格はないの」
「お前……最初からこうなることを企んで、わざと名義変更させたな?」
「もちろんよ。私はあなたと離婚した後のことを、ずっと考えていたの」
「この……!」
「この古い家に住み続けるのは嫌だと思ってね。自然豊かなところでゆっくり過ごしたいなと思って、不動産屋さんに売却の相談をしていたのよ。そしたら、この家には資産価値がないって言われて。それで、これはうまく使えると思ったの」
「……よくも、こんなことを」
「あなたに私を裏切る権利があったなら、私にあなたを貶める権利だってあるはずよ。その怒りを、私に向けることはできないの?」
「……もういい。俺にはレイ子がいる。レイ子さえいてくれれば、何もいらない。お前はこの家で孤独に暮らせばいい」
「そうさせてもらうわ。あなたから慰謝料がもらえるから、好きなことをして暮らすことができるもの」
「勝手にしろ!」
三日後、私はレイ子に電話をかけた。
「レイ子さん、ゆうとから話は聞いている?」
「あなたがゆうとの金や家を奪ったって話? それなら聞いたわよ。まあ、あなたも法律のルールに乗ってやっただけなんでしょ?」
「そうよ。文句があるなら法的手続きを取れば?」
「そんなのどうでもいいわ。あんたのせいで、こっちの生活レベルがガタ落ちしたんだから」
「そうなの?」
「そうよ。二人でタワーマンションに引っ越そうって言ってたのに、無理になったから別の場所を探すことになったのよ。しかも新婚旅行で海外に行くって計画も全部なくなったわ」
「でも、ゆうとはあなたがいてくれたらそれで十分だって言っていたわよ。あなたもそう思わない?」
「何よそれ。私はそんなに純粋じゃないわよ」
「え?」
「だってそうでしょ。30も歳上の男と結婚するのに、資産を当てにしないわけがないでしょ。私はね、ゆうとと一緒になるのは、それなりの金があると思ったからよ」
「つまり、金目当てだったのね」
「あんただって一緒でしょ。私のことを悪く言うのはやめてよ」
「そう……ちなみに、ゆうとは昔から今の総合病院に勤めていたわけじゃないのよ。昔は小さな診療所で働いていたの。その頃は正直、生活は楽じゃなかったわね」
「はあ? それは知らなかったわ」
「私はその頃のゆうとが大好きだったの。真面目で、誠実に患者さんと向き合ってくれたから。それからしばらくして、先輩医師の紹介で今の総合病院で働けるようになったの。生活は楽になったし、幸せだったわ。でも、別にお金があったからってわけじゃないのよ」
「何よ、きれいごと言わないでよ」
「真実よ。それに、私は別に金目当てが汚いとも思わないわ」
「……ちなみに、このままゆうとと結婚しない可能性はあるの?」
「そんなわけないでしょ。こっちは長い間待っていたのに。今更結婚しないなんて選択肢はないわ」
「そう。その気持ちが変わらないといいわね」
「何よ、それ」
「いいえ、こちらの話よ。それと、あなたにも慰謝料を請求するから」
「は? 慰謝料? 私にも?」
「そうよ。あなたのせいで私の夫婦生活は壊れたの。当然、支払ってもらうわよ」
「待ってよ。私にそんなお金を払えるわけないでしょう」
「看護師として働いているんだから、払えるでしょ。どうしても無理なら、ゆうとにまとめて払ってもらっても構わないけど」
「またゆうとから金を取るの?」
「もう一度説明するけど、これは法律のルールに従った正当な請求よ。変な言い方をしないでくれる? それに、あなたこそ自分の稼ぎを持ってるんだから、その程度は何とかなるでしょ」
「うっ……」
「ようやくあの人と別れて幸せになれると思ったのに……」
「そんなにお金が欲しいなら、自分で稼ぐといいわ。ただ、一つ忠告しておくわね。あの人は自分の稼ぎに頼る人間を『寄生している』って呼ぶ人よ。あなたも同じように言われるかもしれないわね」
二週間後、夫が怒鳴り込んできた。
「お前! 何てことをしてくれたんだ!」
「何よ。みささんのことを、どうやって知ったの?」
「ああ、あんたの不倫相手よね。私たちが離婚したことを知った病院の人が、心配して連絡をしてくれたのよ。その時にいろいろ話していたら、レイ子さん以外にも女がいるって分かったの」
「なに……」
「あなたはうまく隠しているつもりだったみたいだけど、病院関係者はみんな知っていたわ。気を遣って、黙っていただけよ。それで、さらに他の女がいるって分かったから、私から調べてその人にも慰謝料を請求したの。何が問題なの?」
「そのせいで……みさが俺の今勤めている病院に来たんだぞ! 仕事帰りの時間を狙ってきて、しかも運悪くその場にはレイ子もいた。そのせいで俺はレイ子からも嫌われてしまったんだ!」
「それは、ちょっと変な話ね」
「何がだよ!」
「そもそも、あなたは自分が人の旦那を奪ったくせに、自分が同じことをされたら怒るの? 不倫をするような男なんだから、他に女がいることも想定しておかないとね」
「そういう話をしているんじゃない! 俺の幸せの邪魔をするなと言っているんだ!」
「私はただ、自分の権利を行使しただけよ。あなたに裏切られた妻として、きちんと制裁を加えたの」
「金は俺からもらっているだろう! それで十分だろうが!」
「お金の問題じゃないわ。私はあなたに仕返しをしたかったの。ちなみに、みささんの分の慰謝料も肩代わりしてくれるの?」
「そんな余裕があるか!」
「あら、そう。じゃあ、みささんにしっかり払ってもらわないとね」
「お前のせいでレイ子と別れたら、どうしてくれるんだ!」
「私のせい? それは違うでしょう。あなたのせいよ。レイ子さんのことを大事だと言っていたくせに、他の女を作っていたのはあなたじゃない。それを私のせいにしないで」
「俺は……俺は来る女を拒まなかっただけだ。本当に心から愛していたのは、レイ子だけだ」
「あっそ。そんなことを言っている男は、どうせまた不倫をするわね。レイ子さんには、一刻も早くあなたと別れることをおすすめするわ。その旨を伝えてあげようかしら?」
「やめろ! これ以上何もするな!」
「安心して。あなたたちがどうなろうと、私はもう関知しないわ」
「……お前のせいで、俺の幸せが壊れた」
「私もよ。あなたのせいで、私は幸せをぶち壊されたの。私はあなたと一緒にいるつもりだった。そのために一生懸命家庭を守ってきた。仕事ばかりで二人の時間が取れなくても、定年したらゆっくり過ごせると思って、それを楽しみに生きてきたの。それなのに、あなたはすべてを壊した」
「でかい家に住んで、金をもらっているくせに何を言っているんだ」
「私が欲しかったのは、愛する人との幸せな時間よ。豪邸も、お金も、欲しいとは思わなかった」
「……そうかよ」
「そうよ。あなたは本当に最低な人間だった。きっと、そんな最低なあなたにぴったりの生活が待っていると思うわ。それじゃあ、お互いに素敵な第2の人生を過ごしましょうね」
その後のこと。夫は、働いていた病院を辞めざるを得なくなったらしい。みささんとの揉め事を病院関係者や患者に見られ、噂が広がって、医者としての信用を失ってしまったのだとか。
転職先を探したそうだが、悪い噂のせいでどこも拾ってくれなかった。無収入になった夫を見て、レイ子は夫を捨てて出て行ったという。
最愛のレイ子にまで見捨てられた夫は、今は質素な生活を送っているそうだ。
一方、レイ子は。夫と再婚するつもりで病院を辞めていたが、再び別の病院で看護師として働き始めたようだ。さらに、婚活パーティーで知り合った金持ち風の男と再婚を考えていたらしい。だが、その男は詐欺師で、彼女の貯金を奪って姿を消してしまったという。人から幸せを奪った報いだと思う。
私は、夫と住んでいた家を解体して売りに出した。手元にはそこまでの金額は残らなかったが、夫に住む場所を奪ったという目的は果たせた。それでよかった。
今は田舎に引っ越して、新しい生活を始めている。慰謝料や財産分与のおかげで、経済的な心配もない。家の近くの小さな畑を借りて、野菜を作るのが日課になった。近所の人たちも親切で、独身の寂しさを感じることはない。
もし離婚していなければ、この暮らしはなかったかもしれない。そう思うと、あの離婚も悪くはなかったのかもしれない。



