「タワマンに住みたいな」
ミキと結婚して3年。俺がそう切り出すと、彼女は驚いた顔をした。
「次のステージに行ってもいいんじゃないかなって。それがタワマンに住むこと」
ミキは社長だ。小さな会社だけど、それでもすごいことだと思っている。彼女は照れくさそうに笑った。
「でも、芸能人でも無理して高い家賃のところに住むって言うじゃん。そうすることで売上が上がったりするかもよ」
「まあな。その分頑張ろうと思えるのは分かる」
「駅前に立ってるタワマン、あるじゃん。あそこ、まだ空きがあるらしいんだよ」
「へえ。でも予約段階で埋まりそうだけどね」
「地方だから売れないのかもな」
ミキと一緒に夜景を見ながらワインを飲んで、子供を育てる生活。想像したらワクワクが止まらなくなった。
「そうだね。子供できたら今の家じゃ狭いし、ちょっと見に行ってみようか」
「実はもう俺、モデルーム見てきたんだ」
「そうなの?じゃあ1人で行ってみよっかな」
「名義はもちろん俺でいいよ。支払いだけ手伝ってくれたら」
「もちろん協力して払うよ」
数分後。俺はリオに電話していた。
「タワマン買えそうだよ」
「え、本当?」
「あいつアホだからさ。ちょっとおだてたら買おうか。だってちょろすぎて笑い止まらんわ」
「ひどい」
「契約したら即離婚してやるんな」
「あの女がごねたら無理じゃない?」
「大丈夫だって。ああいう女はプライドが高いから、泣きついたりすがったりしないもんなんだよ」
リオは俺の愛人だ。ミキには内緒で付き合っている。
「大事なのはここからだ。LINEの履歴は必ず消す。写真もだ。タワマンの鍵をもらうまでは会社以外では合わない」
「分かった」
「ここでバレて探偵でもつけられたら、全部終わるぞ」
「だよね」
俺はミキの貯金が3億くらいあるのを知っている。1億のタワマンを買っても彼女の懐は痛まないだろう。
「本当、銭逃げ場だよね。し君にあげないで貯め込んでるんでしょ」
「将来のためとか言ってるけど、お前との将来なんか考えてねえってことだよ」
「マジそれな」
「俺らの計画は完璧だ。俺についてくれば大丈夫だから」
「一生ついてく」
数日後、ミキがマンションギャラリーに行ってきたと言った。
「どうだった?」
「結構良くない?地方のタワマンって8000万くらいなんだね。1億ちょいじゃなかった」
「それなら買えるだろう。最上階しかないだろう」
「でも、忘れ物したら30回まで戻るのだるくない?3階が空いてたから、そこにしようかと思うんだけど」
「はあ?そんなのタワマンでも何でもないだろう」
「2階は駐車場だし、将来子供が走り回っても気を使わなくていいし。良くない?」
「いやいやいや。なんで勝手に決めるんだよ」
「ごめん。でも1億超えたらさすがにあなたの名義でローン通らないでしょ。8000万でギリギリだって言われたよ」
「マジか。私の名義にしとく」
「言うなよ。そんなの男のプライドが許さない」
「意外と古風なんだね。ちょっと考えるわ。また連絡する」
電話を切った後、俺はリオに愚痴った。
「どうしよう。あのアホ女がタワマンの3階とか言い出した」
「はあ?そんなのそこら辺のアパートと変わんないじゃん」
「だろ?マジでけちりやがってさ。最上階がいいよ。じゃないとタワマンの意味ないもん」
「でもぶっちゃけ俺の年収だと8000万くらいが限度なのは本当っぽいんだ」
「そうなの?年収1000万もあるのに」
「そうなんだよ。8000万のローンを組んだら月々の支払いが25万を超えるんだよね。俺の手取りが色々引かれて50万ちょいだから、半分も払うことになる」
「そんなんじゃ生活できないじゃん」
「だからあいつにマンション代を全部払わせるってわけ」
「そんなにうまくいくかな?」
「任せろ。俺には完璧な計画があるんだから」
リオは優しく言った。
「し君と一緒ならどこでもいい。地下でも水中でもついていくよ」
「リオ、可愛すぎんだろ」
「見え張るために結婚するんじゃないもん。最上階の憧れはあったけど、私が欲しいのはし君との生活だから」
「やばい。好きすぎる。マジで一生大事にする」
3週間後、ローンの本審査が通った。ミキが保証人になってくれたからだ。
「よかった。ありがとう」
「夫婦だもん。当然だよ」
「確かにミキの言う通りだった。会社にタワマン暮らしの先輩がいて、朝忘れ物したらそれだけで10分くらいロスするって」
「そりゃそうだよね」
「でも3階なら階段も使えるし、結果的に良かったかも」
「よかった。分かってくれて」
「俺は見えを張るためにミキと結婚したんじゃない。最上階の憧れはあったけど、俺が欲しいのはミキとの生活だから」
「嬉しいこと言ってくれるじゃん。これからもっともっと幸せになるぞ」
「うん。楽しみにしてるね」
翌日、俺はリオに笑いながら話した。
「リオが言ってくれた言葉、そっくりそのままミキに送ったらすげえ喜んでんの」
「ちょっとやめてよ。私が送った言葉をよそで使うなんてひどい」
「中身が入ってない空箱だからいいだろう」
「入居はいつになりそうなの?」
「1ヶ月後には入れるはず」
「引っ越し業者とかどうしようか。離婚で揉めて延期になったりしないかな」
「まあ大丈夫だと思うけど。確実に離婚してから動こう。それからでも遅くないし」
「だね。タワマンは逃げないもんね」
「浮気がバレる奴らは本当に短絡的で頭が悪い。俺らは賢く行くぞ」
「かっこよすぎ」
1ヶ月後、タワマンの鍵を受け取った。そしてミキに告げた。
「悪いんだけど、離婚してくれないかな」
「へ?何言ってるの?家買ったばかりだよ」
「分かってる。でもミキとの未来が思い描けなくなったんだ」
「何それ?」
「本当に悪いと思ってる。謝って済むとは思わないけど。タワマンは俺が住むよ」
「払えるの?」
「その前に大事な話がある。財産分与を要求する」
「は?」
「お前が起業してこの3年、俺は支えてきたよな。最初の1年はうまくいかなくて赤字だっただろう」
「そうだったね。あなたのおかげで生活はできてたし感謝してる」
「だったら2年目以降の会社の資産は俺の功績と言っても過言ではないよな。だから半分を要求する」
「ちょっと待ってよ」
「争うならそれでも構わないけど。基本は折半だし、お前に勝ち目はないぞ」
「だったらそっちの預金も半分だよね」
「俺の口座はすっからかんだ。男には色々と付き合いがあるんだよ」
「それにしてもどうしてこのタイミングなの?」
「家を買うってことは将来をじっくり考えるよな。だから購入に踏み切ったんだけど、俺も真剣に考えたよ。その時にゾッとしたんだ。なんでミキとこの先ずっと一緒にいるのは無理だと気づいた」
「もっと早く気づいてくれない?」
「悪いな。愛してくれない男と一緒にいるのはお前も嫌だろ」
「そうね。だったら潔く離婚した方がいい。ごねるなら調停とか裁判になるけどどうする?」
「離婚でいいわよ。嫌われてる人と一緒には暮らせないでしょ」
「助かるよ。財産分与の件も問題ないの?」
「分かった。手続きしておく。財産を隠しても無駄だからな。弁護士照会という方法を使えば、お前の資産を調べることができるんだ」
「よく知ってるのね」
「友達に弁護士がいるから相談した」
「面倒なことにしたくないから、ちゃんと半分振り込むわよ」
「それが賢明だな。じゃあ、元気で」
「待って。色々と現金化しないといけないものもあるから、3ヶ月くらい時間が欲しいの」
「何?売却株とかそういうやつ?」
「うん。そんな感じ。いらないなら私は助かるけど」
「いや、綺麗に折半すべきだ。3ヶ月か。まあ仕方ないな」
「ローンの支払い始まるけど大丈夫なの?」
「そのくらいはどうにかするよ」
「分かった。こっちも弁護士通して連絡する。今の家はそのまま住んでくれていい?俺はタワマンに引っ越すから」
数分後、俺はリオに報告した。
「やっと終わった。あいつと縁が切れたよ。財産分与ゲット」
「すごい。すぐに引っ越そう」
「うん。鍵は俺しか持ってないし、あいつに妨害することはできない」
「何から何まで完璧じゃん。2人の生活楽しみだな」
「私、お料理頑張るね」
「俺もいっぱい食べる」
「楽しみすぎて眠れない」
「ただ、振り込まれるのは3ヶ月くらいかかりそうだ。あいつ株とか持ってるらしくて、それを現金化するのに時間がかかるんだって」
「なんで遅くない?」
「少しでも取り分が多い方がいいだろう」
「うん。でもその間のローンは大丈夫なの?」
「3ヶ月だけちょっと節約することになるけど、その後は手取りまるまる生活費にできるんだし我慢しよう」
「し君と一緒なら頑張れる」
3ヶ月後、ミキから連絡があった。
「遅くなってごめん。振り込みが完了したわ。離婚届も提出しておいたから」
「マジ?ありがとう」
「私も来週にはこの家を出ることにしたの。思い出がありすぎて辛いから」
「ごめん。でも、いい思い出になると思う」
「どうかな?元気でな。会社の成功も影ながら祈ってるよ」
「ありがとう。あなたも元気でね」
数日後、俺はリオに言った。
「1億5000万ゲットしたよ」
「本当、長かったね」
「もう頑張ってもやし料理作らなくてもいいよ。リオが退職して1馬力だったから少し大変だったけど、もう大丈夫」
「こんな素敵なタワマンに住んでるのに食べ物も生活も質素すぎて泣きそうだった。でもやっと憧れのタワマンキラキラライフがスタートするんだね」
「8000万を一括返済してもまだ7000万も残る。旅行でも行く?」
「新婚旅行でハワイ行きたい」
「行こう。結婚式もしたい」
「それはもうちょっと落ち着いてからかな。3年しか経ってないとさすがに親や友達も引くし」
「そうだね」
「来週、午前中休みとって銀行に行って一括返済の手続きしてくるよ」
翌日、俺はミキに電話をかけた。
「ミキ、元気か?一応礼言っとこうと思ってさ。タワマンのローン一括返済ありがとうな」
「え、何それ?私、1円も払ってないけど」
「そうじゃなくて、結果的にお前のおかげってこと。財産分与してくれたから一括で返済できるからさ」
「あ、そう」
「で、実はちょっと言えてなかったんだけど、最近運命的な出会いがあって再婚したんだよ」
「そうなんだ」
「お前と離婚して大正解。はい。もう全部終わったから言うけど、財産分与目当てで離婚したんだよな」
「何それ?」
「そのおかげでタワマンも買えたし、リオもすげえ喜んでる。良かったね」
「本当にそう思ってるのか?」
「もちろん」
「余裕ぶって惨めにならないように演技してんだろう」
「違うけど」
「社長だかなんだか知らないけどさ、女のくせに起業して俺の年収追い抜いた辺りからずっとむかついてたんだよ」
「言ってくれたらよかったのに」
「情けなくて言えるわけないだろう。1年目にお前が赤字を垂れ流して落ち込んでる頃はまだ可愛げがあったし、俺が優位だと思えた。でもそこからがマジで気に入らなかったわ」
「そっか」
「ああ、スッキリした。新しい妻はお前と違って控えめだし、従順な専業主婦として俺を支えてくれる。家事を分担しようとかけち臭いことも言わないし、最高に幸せだわ」
「おめでとう」
「最後までそうやって強がるのか。泣いて悔しがればよかった。そういうお前も見てみたかったよ」
「泣いても戻らないんでしょ?」
「そうだな」
「だったら諦める。幸せになってね」
「かわいそうな女だな。哀れで泣けてくるよ」
「同情するなら、保証人を外す手続きをさせて欲しいの」
「ああ、そっか。お前のままだったな。私単独ではできない手続きなのよ」
「でも新しい嫁は収入ないしな」
「ご両親に頼んだら?そんなに金持ってないと思うけど、ご自宅の土地があるでしょ。開発も進んでるし、値段も上がってるはずよ」
「マジか。ありだな」
「別れた夫が新妻と住むマンションの保証人でいるのは、さすがに精神的負担が大きすぎるの」
「だよな。分かった。親に頼んでみる」
「お願いします。一括返済はその後がいいわ。信頼できる保証人があなたには2人もいることになる。その方が銀行の印象がいいそうなの」
翌日、俺は父親に電話した。
「父さん、久しぶり。実はタワマン買ったんだけど、保証人として名前だけ貸してくんないかな?」
「いいぞ。迷惑はかけないからさ」
「大丈夫だし、困った時はお互い様だろ」
「父さん、ありがとう」
「そういえば、ちょっと前にミキさんが挨拶に来てくれたぞ」
「え、なんで?」
「離婚したんだってな」
「あ、いや、言おうと思ってたんだけど。まあ、男女のことだ。色々あるだろう」
「まあね。意外と傲慢な女でさ、心が広い俺も我慢の限界を迎えたって感じなんだよ」
「そうか、そうか。後で新しい住所を教えてくれ。色々送りたいものもあるし」
翌週、ミキから電話があった。
「ああ、お前ふざけてんの?」
「ふざけてるのそっちね。着信300件って何なのよ」
「ゼロがいくつか数えろよ。150万しか入ってないじゃんか」
「そうだよ。お前の預金は3億あったはずだぞ」
「あったね」
「どっかに隠しやがったな」
「うーん。正確にはもう使ったと言った方が正しいかも」
「勝手なことすんなよ。夫婦で築いた財産ってのは折半するのが基本なんだよ。それを隠すのは悪質だと見なされるんだぞ」
「そこまで言うなら折半する」
「当然だろ。本当にいいの?」
「当たり前だ。さっさとよせ」
「いや、だとしたらよすのはそっちだから。あれは銀行や投資家から借りたお金なの。要するにマイナスの資産ってこと」
「は?」
「助かった。半分も背負ってくれるの?」
「いや、ちょっと待て。嘘だよな」
「本当だし証拠もあるよ」
「あれは株の売却に時間がかかるって話だっただろう」
「私、株なんて一切言ってないんだけど」
「でも売るとか言ってたよな」
「なあ、あれはトレカ、トレーディングカードね。価値が出るかなと思って集めてたんだけど、査定に出したら8万くらいだったから売るのやめたの」
「3ヶ月もかからないよな」
「まあ余裕を持って3ヶ月にしておいただけだよ。そんなに怒らなくてもいいじゃん」
「じゃあお前の貯金って300万しかなかったってこと?」
「うん。創業1年目の時に結構借金抱えたから、役員報酬はなるべく減らして事業資金としてプールしてるの。私、貧乏社長なのよ」
「どうしよう」
「何を困ってるの?」
「タワマンのローンに決まってんだろう。一括返済がどうとか言ってたけど、やっぱりそういうことだったんだね」
「お前、絶対に途中で気づいてたよな」
「なんか変だなとは思ってた」
「嘘つけ。保証人を外せって言ったのも、全部分かってたからだろ」
「そもそも夫婦でもない私が保証人なのもおかしいでしょ。でも良かったじゃない?ご両親が力になってくれたんだし」
「そっか。俺が払えなくても実家の土地を売ればいいのか」
「それは無理じゃないかな。抵当権はついたまま誰かに貸すって言ってたし」
「意味わかんないことを言うなよ。人に貸したら親父たちが住めなくなるだろう」
「だってタワマンに一緒に住むんでしょ。だったら家なんてもういらないじゃない。お2人ともその気だったわよ」
「ちょっとどういうこと?」
「離婚のご挨拶に行った時に、私が保証人を外れたら多分頼んでくると思うって伝えておいたの。それで保証人になるんだから一緒に住む権利くらいあるんじゃないですかねって言ったら、すっかりお喜びになられて」
「ふざけんな。お前が余計なことを吹き込んだのか?」
「違うわよ。お父さんの土地を守るためにちょっとしたアドバイスをしただけ」
「人に貸してようが土地は売れるだろう」
「売れるけど、借りてる人があなたの先輩の剛志って方らしいわ。高校の時にヤンキーに絡まれた時に命がけで助けてくださった方なんだって」
「ああ、そのおかげで剛志さんは義足になったって聞いた」
「そうだよ。その方がご実家を回収して子供食堂を開く予定なんですって。そんな素敵な計画を奪うほどあなたはクズじゃないと、みんな信じてると思う」
「くそ。まさかお前、最初から知ってたのか?」
「何を?」
「俺がリオと一緒になろうとしてた計画だよ」
「知らなかった」
「じゃあなんで?」
「途中まではウキウキでタワマン買う予定だったよ。でも私が1人でモデルームを見に行ったことがあったでしょ?あの時に担当の方に言われたの。『旦那さんといらしてたのは妹さんだったんですね』って。仲の良い兄弟で羨ましいですって。リオ、ペラペラの様子を教えてくれてさ。いや、念のためお母さんにも聞いたわよ。生き分かれた妹さんとかいますかって」
「マジかよ」
「その時に思った。この人は私以外の人とこのマンションに住もうとしてるんだって。3億の口座を見られたのは分からなかったけど、途中でもしかしたらそうかなって思った」
「完璧だと思ったのに」
「LINEこっそり見たこともあったけど、全部消されてたし」
「そうだよ。完璧にやり遂げる計画だったんだ」
「残念ながら離婚してる時に浮気してたという証拠はない。でも1かバチかで訴えてみるわ。離婚して暇だし」
「お前アホなの?俺の状況分かってる?給料の半分がローンに消えてる状態なの。これ以上どうしろって言うんだよ。その上、親と同居だぞ。お前だって知ってるだろ、うちの母親の癖の悪さを」
「うん。リオさんって人とは気が合うといいね。私とは会わなかったから」
「あのババアは誰とも会わねえんだよ」
「後のことは知らないのでご自由に。私も引っ越しの準備で忙しいの」
「遠くにでも逃げる気か」
「おたくのマンションの最上階よ、と言いたいところだけど、そんな定番の落ちじゃないわ」
「じゃあどこだ?」
「言う必要がないから言いません。じゃあさようなら」
数日後、リオから電話があった。
「し君、ごめん。私、出てく」
「え?どうしたんだよ」
「なんかお父さんとお母さんが来て、家を見に来ただけかなと思ったら荷物もどんどん運ばれてきてさ。同居するなんて聞いてないんだけど」
「いや、それは……」
「しかもお母さんがこんな人だなんて思わなかった。『前の嫁もひどかったけど、今回もポンコツね』とか『顔も頭も容量も悪い女に息子は任せられない』とか、初対面でそんなこと言う人いる?」
「いるんだ。前の嫁もそれで実家には寄りつかなかった」
「お父さんはまだマシだけど、お母さんの言いなりだし何の役にも立たない」
「でもさ、部屋は4つあるわけだし、1部屋くらい貸しても良くない?」
「は?リオのことは俺が守るから」
「何言ってんの?結局一括返済もできなかったんでしょ」
「なんで知ってんの?」
「あんたの元嫁がポストに何か手紙入れてて、支払い苦しいと思うけど裁判もするし慰謝料払えとか、むかつくことばっか書いてあったの」
「あいつ……」
「カツカツの生活なんてしたくない。でもさ、リオもパートとかして、親父もまだ元気だし働いてもらえばローンの足しになるじゃん」
「なんで私が働かないといけないの?タワマン3階とか逆に恥ずかしいし、マジで出ていくわ」
「え、ちょっと待ってよ」
「籍入れる前でよかった。『リオを張るために結婚するんじゃない』って言ってくれたじゃないか」
「あれ?適当に言っただけだから」
「1人じゃ払えない。助けてくれ」
「知らねえよ」
数分後、ミキの元に俺からの電話があった。
「お前のせいで何もかも失った」
「家族は残ったでしょ?」
「じじいとババアだけじゃねえか」
「あなたの育った家では、地域の子供たちが集まって楽しくご飯を食べてるわ」
「それが何だ?」
「誰かの笑顔が残った。私も裏切りから解放された。浮気は許せないけど、アホな男と結婚せずに済んだ。それぞれが何かをちゃんと得たと思うよ」
「俺の話をしてんだよ」
「自分が自分に残すものは、自分で見つけてください」
「頼む。一緒に住んでローン払ってくれないか?」
「やだ。眺めは微妙だけど、ジムもあるし結構住みやすいよ。全力でお断りします」
その後、証拠がないため一度は慰謝料請求を諦めかけましたが、言及することを条件にリオちゃんが協力してくれました。消したと言っていたはずのLINEは全て保存されており、スクショをくれたので1円割り引いてあげました。
2人で私を欺こうとしたようなやり取りに怒りが収まりそうにありませんでしたが、冷静に怒りを金額に変え、199万円を請求しました。ちょっと安くしすぎたかもしれません。
弁護士にかなり切れてきたようですが、親に借りて払ったそうで、今は返済に追われているとか。浅はかな知識で「俺天才」みたいなムーブをかまして、本当になんであんな男と結婚したのか謎ですし、とても後悔しています。
シンは両親に家賃10万を要求したそうですが、「お前が先に実家に住んだ20年分を払え」と言われ、大人しく引き下がったようです。食費や光熱費を差し引いて手元に残るのは15万。そこから慰謝料300万円の分割支払いと、タワマンの引っ越し費用や家具・家電などの分割払いが重くのしかかり、しばらくは苦しい生活を送ることになりそうですね。
私は昔ながらの個人向けの家賃8万円のマンションに引っ越し、ひたすら仕事に打ち込んでいます。裏切られるのは辛いですが、せめて私だけは今後の人生を誠実にまっすぐに生きていくつもりです。


