キャバクラと不倫で借金を抱えた元夫から、2ヶ月前に離婚した元妻の私に「親父の手術代400万を払え」と電話が来た。もちろん断った。そしたら彼は「お前は親父に可愛がってもらっただろ!」とヒステリックに叫んだ。でも私は知っている。彼の親父は今、私の隣でベンチプレス80キロを上げている。LINEで送られてきた写真の隣には、なんと彼の上司の姿もあった。彼は知らない。私がこの筋肉で何をしてきたのかを。そ…

キャバクラと不倫で借金を抱えた元夫から、2ヶ月前に離婚した元妻の私に「親父の手術代400万を払え」と電話が来た。もちろん断った。そしたら彼は「お前は親父に可愛がってもらっただろ!」とヒステリックに叫んだ。でも私は知っている。彼の親父は今、私の隣でベンチプレス80キロを上げている。LINEで送られてきた写真の隣には、なんと彼の上司の姿もあった。彼は知らない。私がこの筋肉で何をしてきたのかを。そ...

携帯が震えた。見覚えのある名前を見て、ため息が出た。直樹、元夫だ。通話ボタンを押すと、第一声がこれだった。「おい、香おり。親父の手術台400万、早く振り込めよ」

私は二ヶ月前に離婚している。もう他人だ。

「直樹、それはもう断ったわよね」

「だから納得ができないって言ってんだ」

「あなたの納得なんて必要ないから。バカか」

「お前は親父が手遅れになってもいいのかよ。家族だろ、俺たち」

「いや、違うけど。私とあなたは二ヶ月前に離婚済みでしょ?もう他人よ」

「たったの二ヶ月前じゃん。そんなのほとんど家族だろう」

「どんな理屈?離婚した時点で他人よ」

「なんてひどいやつだ」

彼は食い下がる。「お前は親父と仲良かったよな」

「うん。まあ、悪でもなかったし、普通に仲良かったと思うよ」

「だよな。だったら、その親父の命が危ないってなったら、離婚とか関係なく助けるだろう。じゃあなんでお前が払わないの?」

私は冷静に切り返す。「じゃあなんであなたが払わないの?」

「あ?」

「私とあなたの結婚生活、何年?五年くらいでしょ?」

「それが何だよ」

「お父さんと私の関係も、長くて五年ってこと。あなたは?お父さんの息子やって何年目?」

「そりゃ生まれてからだから三十三年」

「じゃあ払いなさいよ。たった五年しか関わりがない私に四百万払えっていうよりも、自分がやった方が早いでしょ。三十三年も息子やってるんでしょ?」

「年数なんて関係ないだろう。家族ってそういうもんじゃないからな」

「じゃあ、二ヶ月前に離婚したら他人っていう私の意見も、期間は関係ないんじゃない?」

「ふざけんな。そんなの屁理屈だ」

「屁理屈をこねてるのはどっちよ?本当にお父さんが大事なら、自力で払うでしょ」

「金があったらそうしてる」

「借金してでも払うんじゃないの?」

「借金のためにか?」

「私は自分の親が病気になってお金がいるなら、いくらでも借金して払うわよ」

「それはお前の話だろ。俺には関係ないから」

「じゃあ、お父さんの治療費の話もそういうことでしょう?あなたの話であって、私には関係ない。以上、終了」

「ちょっと待てよ。お前が払ってくれないと親父が」

「だから自分で払いなさいって」

直樹は舌打ちし、捨て台詞を吐いた。「この筋肉女が、女としての魅力もなけりゃ、人の情もないってか。そりゃ俺に捨てられて当然だよな」

「親への情けもなけりゃ、お金もない人に言われてもね」

「なんだと?」

「怒りすぎ。プロテイン足りてないんじゃない?」

「プロテインじゃなくてカルシウムだ」

「入ってるわよ、カルシウム」

「そういうことじゃない」

「たまには筋トレしたら気分転換になるわよ。スクワットがおすすめ」

「黙れ。それよりも親父の治療費を」

「じゃあ黙るから、連絡してこないでね。さようなら」

通話を切った。何度同じことを言われても無駄だ。彼は私の言葉を聞く気がない。それなら、もう関わらない方がいい。

翌日、仕事が終わると、上司の上島部長から電話がかかってきた。「直樹君、仕事終わった後にすまんな」

「上島部長、どうしました?こんな時間に」

「いや、直接話ができればと思ってたんだが、今日は君は外回りだったろ。ちょっと話があってな」

会社に戻ると、部長の机の向かい側に座らされた。「直樹君、最近の君の勤務態度について苦情が出てる」

「苦情?そんなバカな。俺はいつも通り真面目に勤務してますよ」

「では聞くが、今日、藤原さんを怒鳴りつけたのはどうしてだ?」

「いや、それは藤原のやつが何回も同じことを聞いてきてて」

「中村君の作った資料をゴミ箱に捨てたと聞いたが」

「それも、その、あいつの資料の出来が悪くてですね」

「なら、私も君を毎日怒鳴りつけて、ゴミ箱に捨てることになるな」

「いや、それは違うじゃないですか」

「君がしているのはそういうことだろ」

「すみません。ついカッとして」

「ちょうど二ヶ月前だったか。奥さんと離婚して辛いのは分かる。そのくらいから目に見えて荒れ始めたからな」

「いや、離婚は関係ないっていうか」

「では、君が抱えている借金が原因か?」

直樹の顔色が変わった。「え?なんで上島部長がそのことを」

「誰がとは言わないが、当たり散らしがあってな。プライベートなことだ。借金の理由も正確な金額も聞いたりはしない。だが、それを職場に持ち込むなら話は別だぞ」

「安心してください。実は借金の返済の目処は立ってるんです」

「そうなのか。結構長いと聞いてるが」

「職場での態度もすぐに直します。ですから上島部長、次の評価会議ではどうか?」

「もちろん私は君の出世を応援している。ただ、今のままではそれも難しい。私は君の誠実な仕事ぶりを評価しているんだ」

「大丈夫です。すぐにご期待に添えるようにします」

「そうなるといいな」

直樹は頭を下げてその場を去った。家に帰ると、また携帯が鳴る。直樹からだ。出る気はなかったが、何度もコールが続くので、仕方なく出た。

「かおり、大変だ」

「どうしたの?」

「親父が、親父が倒れた。治療費、早く入金してくれ。今から緊急手術になるけど、金がないと」

「あのさ、いい加減にしてくれる?」

「お前、この後に及んで、なんだその態度は?」

「いや、この後に及んでって言われても」

「お前、親父には可愛がってもらってたよな」

確かに、彼の父親とは仲が良かった。健康志向で、筋トレが趣味の人だ。私がジムに通い始めたのもきっかけは彼だった。初孫をすごく可愛がってくれた。

「まあ父さんって健康志向だったし、筋トレもしてたから、話はあったからね。コミのことだって相当可愛がってた」

「そうね。父親のあなた以上に可愛がってくれてたわね」

「初孫だからってすごい喜んでて。そんな親父が命の危機にさらされてるんだぞ」

「ああ、そうですか」

「そうですか、じゃない。俺は知ってるんだぞ。お前がコミを引き取ったよな。俺が真剣にいらないって言ったから。親父が気を使って、今も食料品とか送ってんだろ?」

「先週も来たわよ。お母さんにありがとうございますって言っておいて」

「そうじゃないだろ。そこまでよくしてもらっておいて、なんだお前は?いざ親父が命の危機に瀕したら無視か。人として最低だぞ」

「お父さんなら、私の隣でベンチプレスあげてるけど、百キロ」

「は?」

「あ、最近前よりもパンプアップしててね。前は九十キロだったのが百キロにアップ。もう六十歳過ぎてるのにすごいわ」

「いやいやいや。え、お前、何言ってんの?」

「何って?合同トレーニングしてるって報告だけど」

「う、嘘つくな。お前は親父の連絡先とか知らないはずだろ」

「お父さんと個人的に連絡取る機会とかなかったしね」

「だろうが。なのに離婚した後に義理の父親と合同トレーニング?」

「離婚した後に偶然ジムで会ってね。筋肉に効かせるトレーニング方法が知りたいって。今はLINEも交換して、週一で一緒にやってるわよ」

「は?はあ?親父と香おりが?」

「どこの誰が病気だって?今まさに百キロ上げてる人が、ジムで手術するの?冗談を言ってるのはどっち?」

「違う。お前が嘘を言ってるだけだ。本当は親父と一緒にいるなんて」

「あ、お父さんからLINE来た。私との写真、届いたかな?」

直樹は叫んだ。「いや、え?」

「見事なサイドチェストでしょ。お父さん、仕上がってるわ」

「親父じゃない。このお前の隣の人」

「あ、上島さん」

「そうだよ。なんで部長がお前と一緒に?」

「ああ、上島さんも私のゴートレ仲間だから」

直樹は絶句した。翌日、彼は上島部長に詰め寄った。「上島部長、今日のあれ、何ですか?全く納得できません」

「会社で説明しただろう。次の評価会議で君を押すことはできない。以上だ」

「言ってることが変じゃないですか。俺を推薦してくれるって言ってたのに」

「それは、何も問題がないなら、とも言ってきたはずだ」

「昨日、俺の親父が送ってきた写真、あれ、上島部長も映ってましたよね?」

「ああ、君のお父様とは筋トレ仲間なんだ。昨日は師匠と写真を撮るとのことだったので、一緒にな」

「師匠?直樹君の元妻、香おりさんだよ。はあ?香おりが師匠?一体どういうことですか?」

「いや、彼女はすごいね。筋肉に効かせるトレーニングがとてもうまい。おかげで私も腕回りが太くなったんだよ」

「そんなことはどうでもいいです。つまりあれですか、香おりから何か言われたってことですか?」

「まあ、確かに色々と聞いてはいるな。君が家で毎日のように怒鳴り、物を投げ、師匠の作った弁当を捨てることもあったとか。妻の弁当を捨てる、か」

「上島部長、あんたには失望しました」

「何がだ?」

「仕事とプライベートは切り離せって言ったのは、そっちだろ。それが、なのに、あんたは自分の師匠である香おりを優先したわけだ。個人的な感情で俺の出世を邪魔して」

「ああ、呆れ果てたな。本当のことだろうが」

「前に君の態度は目に余ると言った。それは改善すると言ったが、できていないだろう。それは師匠の話を聞いて確信した。直樹君、君が今まで会社で猫を被れていたのは、家庭内で香おりさん相手にストレス発散してたからだろう。離婚後から君の態度が悪くなっているが、それは借金があるからであって、その借金の返済の目処というのが、なくなったんだろう。自分の父親が病気だと嘘をついて金をせびる。やってることは詐欺と一緒だな」

「プライベートなことです。ほっといてください」

「ほっとける内容じゃないだろう。これから人の上に立とうという人間が、プライベートで詐欺まがいのことをする人間だぞ。そんな人間を安心して出世させる会社はない」

「こんなの、おかしい。上島部長、あんたの個人的な感情でしかない。俺が上に報告すれば」

「しても意味はない。これは私だけではなく、上層部全体の判断だ」

「上層部全体?嘘だろ?」

「俺の出世は、この会社にいる限りないと思っていいだろう。ああ、首にならないだけましじゃないか。首だったのが幸いしたしな。一円でも金が動いていれば刑事事件だ」

「いくらなんでも大げさだ」

「大げさじゃないから、こうなっている。今後はもっと誠実に生きることだ。筋トレ同様、失った信頼は地道に積み上げるしかないぞ」

一週間後、直樹からLINEが来た。「直樹、ちょっといいか」

「なんだよ。こっちはお前の相手してる暇ねえんだ」

「ああ、出世なくなったんだって」

「上島部長か。何でもかんでも喋りやがって」

「あなた、出世したいってずっと言ってたのにね」

「煽ってんのか。お前のせいでこうなってんだぞ」

「はい?なんで私?」

「お前が上島部長に余計なこと言うから。いや、上島部長とお前が知り合わなかったら」

「呆れるわ。なんだと?きっかけはどうあれ、自分のやってきたことの結果でしょ?他人のせいにしないで」

「ふざけんな。こっちはお前のせいで、出世もなくなって、借金の返済もできなくなった」

「そうだよ。出世も借金の返済も。なんでお前が借金のこと知ってるんだ?上島さん、全部抜けかよ」

「そう言わないで。おかげで慰謝料請求できて、助かってるんだから」

「は?慰謝料?何の話だ?」

「あなた、不倫してたんでしょ?」

「はあ?急に何言ってんだ。適当なこと言うのはやめろよ」

「じゃあ聞きますけど、その借金、何が原因でできたの?」

「それはお前には関係ないだろ」

「そうもいかないのよね。キャバクラで使い込んだんだって。しかも私と結婚してる頃からだって言うじゃない」

「いや、ちょっと待て。上島部長だって、そこまでは知らないはず」

「最近会社での態度が悪いんでしょ?それとこれとは関係ないだろ」

「関係あるから言ってるのよ。あなた、自分の後輩に自慢してたそうね。キャバクラでお金を使ってキャバ嬢を落としたって。しかも肉体関係も持ったって。あら、不倫ですわ、これは」

「だからなんでそこまでお前が知ってんだよ」

「それなりによくしてる先輩の、うざい自慢話。うざいけど良くしてくれてるし、不倫っぽいけど、まあ黙っとくか、ってなるわよね。その先輩が、急に人が変わったように不満を言うようになったら、もう黙っとく理由がないと思わない?」

「まさか」

「上島さんに垂れ込みが来たそうよ。そういうわけだから、慰謝料、二百万請求しますね」

「はあ?二百万?」

「借金があって大変だろうけど、よろしくね。出世もできないし、立場もないでしょうけど、そんなの私には関係ないから」

通話を切った直後、直樹は上島部長に電話をかけた。怒りを込めて。「おい、どうしてくれんだよ」

「口調が荒いな。どうした?」

「荒くもなるだろう。あんた、香おりに余計なことを伝えたよな?」

「余計なこと?不倫のことか?」

「そうだよ。何やってくれてんだ?出世の目もなくなって、借金もあって、その上で慰謝料だぞ」

「あれは余計なことじゃないだろう。冷静に考えてみろ。自分が親しくしている相手、ましてや師と仰いでる相手が、不倫されてたんだぞ」

「だからなんだよ」

「その不倫の証拠になる話を聞いたんだ。人としてそれを伝えるのは当然じゃないか」

「それが余計なお世話だって言ってんだ。あの筋肉女、二百万も請求するとか言ってんだぞ」

「身から出た錆だ」

「職場のことをベラベラ喋りやがって。あんた、部長だろ?会社でのことを外に持ち出してんじゃねえよ」

「これはあくまでプライベートな話だ。会社の話ではない」

「はあ?仕事だ、プライベートだ、都合よく使いやがって。何が切り分けろだ。嘘つき野郎が」

「ああ、都合よく使っているのはそっちだろう。何がだよ。仕事とプライベートを切り離せず感情で不満な態度。かと思ったら、相手には切り離せと要求する。しかも、自分に都合が悪いから、バカバカしい」

「なんだと?」

「私はね、直樹君のことを本気で評価していたんだ。誠実に仕事に向き合い、部下や後輩を思いやり、そんな君の姿勢を評価し、出世を助けてやりたいと思った」

「何が助けてやりたいだ。言ってることとやってることが違うだろう」

「そうだな。私には人を見る目がなかったということだ。実際、こうして本性が見えてみれば、なんてことはない。君は社会人として評価に値する人間ではない。そういうことだ」

「ふざけんな。俺には色々と事情があって、だから職場での態度も仕方なくて」

「事情があるのが君だけだと思ってるのか?」

「どういうことだよ」

「朝、家を出る前に奥さんと喧嘩した。仕事から帰ったら、娘に臭いと遠巻きにされた。付き合っていた彼氏と別れた。生きていれば、誰だって不幸に襲われることもあるだろう。むしゃくしゃして、仕事が手につかないことだってある。君以外の人だって、みんな何かを抱えてきているんだ。離婚は辛いことだろう。借金があって、気持ちの余裕がないのかもしれない。だが、それが自分だけだと思うなよ。それでも、社会人は働くんだ。大人の顔をして、人を思いやって働いている。そうやって大人を演じることすらできない。そんな奴が、人様に文句を言う資格などない」

「だからって、こんなの」

「ましてや、一時の感情で後輩に暴力を振るうなど」

「暴力?昨日、中村君と飲みに行ったそうだな。その際、中村君が君に暴力を振るわれたそうだ。怪我をしていたから問い詰めたら、先ほどそう言っていた」

「は?そんなの覚えてない」

「君は相当酔っていたらしいからな。だが、複数の人間がそれを見ている。一緒に飲みに行っていた他の社員から証言があった。中村君の行為で警察沙汰にはならないが、直樹君は首だ」

「は?」

「世の中、結局は地道な努力をした人間が報われるんだ。筋肉と一緒でな。だが君は間違えた。もう戻れないことを自覚しなさい」

数日後、直樹からLINEが来た。「香おり、助けてくれ。会社は首になったんだって」

「後輩に暴力を振るうなんて、最低ね」

「香おり、俺たち家族だよな」

「違いますよね。離婚してるんだから」

「ほんの数ヶ月前じゃないか」

「もう数ヶ月前よ」

「そんなこと言わないでくれ。お前だって俺に未練があるんだろ」

「はい?なんでそうなるの?今こうしてLINEで連絡してるじゃないか。普通、離婚したら即消すだろ。そうしなかったってことは、未練があるってことだ」

「ああ、勘違いさせたんならごめんね。私が消してなかったのは、不倫してると思ってたからよ。連絡取ってたら、ボロでも出さないかなってね」

「あ、ちょっと考えれば分かるでしょう。あなた、私が生まれてから帰りが遅くなったでしょ?その頃、私のことを何て言ってたか覚えてる?」

「えっと、確か、妊娠してブスになったとか」

「ブスになった妻、帰りが遅くなった夫。これ、不倫以外に何があるの?」

「いや、違くて」

「違くなかったじゃない?キャバクラについても何度も言ったわよね。コミがいるんだから、余計な出費はやめてって。そしたらあなた、何て言った?会社の付き合いがあるから仕方ないんだって。で、その付き合いって何?単純にキャバクラのお姉ちゃんにはまってただけ。お金使って、肉体関係まで持って、挙げ句の果てに借金ですか?」

「うるさいな。こっちだって色々あったんだよ」

「色々って?会社でのストレスが溜まってたんだ。職場で下げたくもない頭下げて、家帰ったら、ブクブク太ったブスがいるんだぞ」

「だから筋トレして痩せましたけどね。一応、あなたのために頑張ったんだけど」

「やっぱり俺のことを愛してるんじゃ」

「そしたら今度は、筋トレする女ってキモいだっけ?」

「あ、それは、その時に思ったわ。ああ、こいつ、ぶっ飛ばそうって。私が単純に筋トレ好きでやってるだけだと思ったの。はまったのは否定しないけどね。ちなみに、あなた今、体重何キロ?」

「え、七十くらいじゃないか」

「私、ベンチプレス八十キロ上げれるの。つまり、あなたくらいなら余裕」

「いやいやいや、ちょっと待てよ。さっきから何、物騒なこと言ってんだ。さらに言ったら、私の握力、六十キロよ。適当に握っても、りんごは潰せないけど、握り方を工夫すれば潰せるわよ」

「ちょ、ちょっと、ちょっとマジで待ってくれよ。本気?本気じゃないよな」

「あなたに家庭内で暴言吐かれて、物を投げつけられて、作ったお弁当まで捨てられて、どうして我慢できてたと思う?それはね、あなたなんて、その気になればいつでも排除できるからよ。勇気じゃなくて、物理的にね」

「うえ、怖いこと言うなよ」

「もちろん、コミがいたってのも大きいけど、私の筋肉があれば、あなたなんて相手にもならないもの。ま、その前に離婚したわけだけど、分かるわよね。これ以上、私とコミに関わろうとしたら、りんごみたいに潰れるのは、一体誰だと思う?」

そのLINEを最後に、直樹から連絡が来ることはなかった。

いくらりんごを潰せようが、それは工夫をすればの話だ。ベンチプレス八十キロ上げられても、人間を簡単に潰すことはできない。そんなことを知らない直樹からすると、相当怖かったようだ。おかげで、コミとの生活を邪魔されることなく、穏やかな日々を過ごせている。

直樹は、会社を首になり、慰謝料と借金を抱え込み、養育費もある。仕事をせずに怠けている時間はなく、日雇い仕事を掛け持ちしているんだとか。この前、ゴルフをした時、お父さんが教えてくれた。出世欲が強く、それだけを目指していたこともあってか、ただ返済のためだけに働く今は、正気のない生活を送っているそうです。

そんなに精神的に辛いなら、筋トレがおすすめなんですけどね。精神的に余裕が生まれて、人生が豊かになりますよ。直樹に筋トレをする根性があるとは思いませんが、私はこの鍛え上げた肉体と、ゴートレ仲間たち、そしてコミに囲まれて、これからも精神的に余裕のある日々を送っていこうと思います。

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