結婚式の最中、義父になるはずの男が私の顔めがけてビールをぶっかけ、「お前みたいな中卒の底辺がエリート一家の式に来るんじゃねえ。消えろ」と怒鳴りました。私はただ妹の晴れ姿を見たかっただけなのに。両親を亡くしてから、私は進学を諦めて働き、妹を大学に行かせてきました。なのに、その妹の結婚相手の父親は、私をゴミ同然に扱い、式場から追い出そうとしている。そして「妹の幸せのためだ」と脅してきたのです。私…

結婚式の最中、義父になるはずの男が私の顔めがけてビールをぶっかけ、「お前みたいな中卒の底辺がエリート一家の式に来るんじゃねえ。消えろ」と怒鳴りました。私はただ妹の晴れ姿を見たかっただけなのに。両親を亡くしてから、私は進学を諦めて働き、妹を大学に行かせてきました。なのに、その妹の結婚相手の父親は、私をゴミ同然に扱い、式場から追い出そうとしている。そして「妹の幸せのためだ」と脅してきたのです。私...

「太田さん、どうしてこんなことをしたんですか?」

「おい、どうして俺の連絡先を知ってるんだ?」

「波から聞いたんです。どうしても確認したいことがあったので」

「確認することなんて何もないだろう」

「あるに決まってるでしょ。いきなりビールをぶっかけられたんですから。どうしてこんなことをしたのか説明してください」

「お前みたいなもんが式に来てるのが我慢ならなかったんだよ」

「何ですって?」

「エリート一家の結婚式に底辺が来るんじゃねえ。ビールぶっかけられて目が覚めたのなら消えろ」

私は妹・波の結婚式に出席していた。なのに、波の夫になる達也の父親、太田さんにいきなりビールをかけられたのだ。私はトイレの個室に避難しながら、電話で抗議していた。

「お前みたいな奴が来られると迷惑なんだよ。中卒の底辺がどんな面下げてきてるんだ?」

「散列するのにエリートも何もないと思います。私も波の姉です。出席する資格はあるはずです」

「我々が恥をかくんだよ。今回の式には親戚だけじゃなくて私や達也の勤務先の人間も来てるんだ。彼らにお前のことがバレたらどんな目で見られるか」

「別に私のことを白い目で見る人なんていませんよ。確かに私は中卒ですが、しっかりと仕事をしています」

「どうしようもない中小企業だろう」

「だとしても私は後ろめたいことは何一つありませんから」

「嘘をつくな。お前の本質はこっちはもう聞いてるんだぞ」

「本質? 何の話ですか?」

「こんな場でそんな話をさせるんじゃない。とにかくお前のような人間はこの場にふさわしくない。まさかまだ場内にいるのか?」

「当たり前でしょう。ビールでびしょびしょなのに外に出られるわけないです。今はトイレの個室にいるんですよ」

「そうか。じゃあ、いいところで帰ってくれ。二度と式場内に戻ってくるんじゃないぞ」

「まだ式は終わってないですよ」

「お前が式に来たこと自体が間違いだったんだよ。妹のことを思うのなら欠席するべきだったんだ」

「どうしても私を排除するつもりなんですね」

「当たり前だ。これは我が家にとっても大事な式だからな」

私は言い返した。「そんなに品格を大事にされるのでしたら、こんな式なんかよりも仕事を頑張った方がいいんじゃないですか。そっちで名を上げた方がよっぽど品格は上がりますよ」

「黙れ。そんなこと言われなくてもやってる。現に今は大事な取引の最中なんだ。それがまとまれば俺はさらに出世をすることになる。そんな大事な時だからこそ、お前のような底辺にうろつかれると困るんだよ」

「あなたの思う通りには絶対にしませんから」

五分钟后。

式場の片隅で、私は波と話していた。波はお色直しの合間に私を呼び出してくれたのだ。

「お父さんとは連絡ついた?」

「ええ、教えてくれてありがとうね」

「でもなんでわざわざ連絡をしようと思ったの? 同じ式場にいるんだから直接話せばよくない?」

「いや、ちょっとそれはできないようなことで」

「何なの?」

「いや、まあ、仕事に関することというか」

「へえ。そんな話をするんだ。結婚式なのにごめんね」

「いいよ」

波は優しく微笑んだ。「お姉ちゃんのわがままなら私は聞くから。ていうか私にそれを否定する資格ないしね」

「資格なんて言わないでよ。二人しかいない姉妹なんだから、何でも正直に言って」

「これが私の正直な気持ちだよ。私にとってはお姉ちゃんが親代わりだったし。ちゃんと代わりが勤まったかは疑問だけどね」

「そんなことないでしょ。だって私はこうしてお姉ちゃんのおかげで幸せな結婚をすることができたんだから」

「そうよね。達也君と一緒にいられてよかった」

「もちろん。達也といる時間はかけがえのないものだと思ってる。それがこの先ずっと続くと思ったら本当に幸せよ」

「あなたがそう思えてることが私も幸せよ」

「お姉ちゃんも早く結婚してね」

「私はまだちょっと難しいかな。仕事が色々と立て込んでて」

「私を大学に行かせるために頑張ってくれてたんでしょ。だったらもういいんじゃない? 好きなことをしてみたら」

「最初はそういう気持ちだったんだけど、意外と今の仕事が楽しいって思えてるのよ。ちゃんと周りから評価もしてもらってるし、こんなに幸せな職場はないって思ってるわ」

「お姉ちゃんがそう思ってるならいいけど」

私は波に、太田さんからビールをかけられたことを話せなかった。話せば彼女を悲しませるだけだと思ったからだ。それどころか、太田さんは私に「帰れ」と言っている。このままだと波の晴れ姿を最後まで見られないかもしれない。

私は達也に直接話をつけようと決めた。

「達也君、お父さんのことを説得してほしいの。私に式場から帰れって言ってて、話を聞いてくれないのよ」

「やっぱりそうなりましたか」

「お父さんって昔からああいう人なの?」

「父は肩書きを大事にしてますからね。中卒なんて単なるどうしようもない生き物だって思ってるんですよ。実際、俺もいい大学行けと厳しく言われてましたから。だからお姉さんみたいな人が許せないんでしょうね」

「うちの事情は知ってくれてるでしょ? そのことをお父さんに説明してくれないかしら?」

「それはちゃんと説明してますよ。これなりにやれるだけのことはやりました。父が中卒のお姉さんにどんな対応をするかは想像できましたからね。でも残念ながら、結果は変わらなかったみたいです」

「このままだと私、式に出席できないの」

「願いすごく残念だと思います。波はお姉さんと仲良しですから悲しみますね。ただ私としては何よりも式を問題なく終わらせたいんです。変な揉め事は勘弁してほしいというのが正直な気持ちです」

「帰れって言ってるように聞こえるわ。私にとってこの式はとても大事なものです。それをぶち壊すようなことはやめてください」

「壊してるのはあなたの父親よ」

「私は父を心の底から尊敬しています。そんな風に言うのはやめてもらってもいいですか?」

「学歴で人を判断してビールをぶっかける人間を尊敬するのはやめた方がいいわよ」

「厳しいところはありますが、父の言ってることは間違いなんてありません。ですので、どうかここは引き下がってもらえませんか?」

「私は波の晴れ姿を見たいの。たった一人の家族なの」

「そうやって自分のことばかり考えないで、波の幸せを考えてくださいよ。一生に一度の式がめちゃくちゃにされたら波がどう思うとか考えられないんですか?」

「あなたがお父さんを説得してくれれば済む話よ」

「父が間違ってると思えないのに、どうやって説得しろと言うんですか?」

「あなたもそういう考えってことね」

「そうです。中卒なんてろくでもないと思ってます。そんな人間が波の姉でいてほしくないです」

「そう。そういうことなら仕方ないわね」

五分钟后、私は太田さんに最後の通告をした。

「太田さん、もうすぐ妹がお色直しを終える時間なので戻りたいと思います。どうかおかしなことはしないようにお願いします」

「俺の言い分が守れないっていうのか」

「私の気持ちは変わりません」

「そんなことをする姉と親族になるのは無理だよ」

「どうぞ。ご勝手に」

「今回の結婚ごとなかったことにするしかないと言ってるんだ」

「は? 妹たちは関係ないでしょ」

「結婚ってのは親族同士の繋がりを作るものでもあるんだ。そういうところまで考えて相手は選ばないといけない。お前のようなろくでもない奴が家族にいるとなれば、結婚をなしにするのもありだと思ってるよ。そんな中卒の姉と、まともに子供も育てられなかった親なんて、ゴミ以下の存在だからな」

「私のことを何と言われてもいいですよ。ですけど、親のことを悪く言うのはやめてください」

「でも事実じゃないか。事故ですよ。しかも飲酒運転の車が突っ込んできて亡くなったんです。あの二人は何一つ悪くありません」

「それも実力のうちだ。つまりろくでもない親だよ。お前のような奴らが家族でいる女と結婚なんて許したくないというのは、これもこう持つ親の心情だ。ただ、お前がこのまま黙って去るというのなら、結婚を受け入れてやっても構わない。達也は私の命令なら何でも聞いてくれる素直な子だからな」

「そうかもしれませんね」

「それでどうするんだ? お前はわがままを通して妹の人生をぶち壊しにするのか? 我々エリート一家と一緒になれれば、お前の妹は仕事なんてしなくても一生食いっぱくれることはないんだぞ」

「私がここから帰ればいいんですね」

「ああ、そうだ」

「じゃあ帰ります」

「二度とつらを見せるな」

三時間後。

「お父さん、どういうつもりですか?」

「なんだ、どうかしたのか」

「お姉ちゃんを式場から追い出したんですって」

「姉から聞いたのか?」

「違いますよ。姉は答えてくれませんでした。ただ私の友人が見ていたんですよ。あなたが私の姉にビールをかけるところをね。そのまま姉は式場を出て戻ってこなかったと言ってました」

「そうか」

「どうしてこんなことをしたんですか? 私は晴れ姿を姉に見せたかったんです。それがこの式の目的でもあったんですよ」

「家族を大切にする君の気持ちは素晴らしいと思う。ただ、これから先のことを考えると、姉とは縁を切るべきだよ。君はエリート一家に嫁いだんだ。そうなると周りから見られる目も変わってくる。そんな時に中卒の姉という存在は必ず君を苦しめることになるよ。だから私はそうなる前に彼女を排除したんだ。私は君のことを家族だと思ってる。だからやったんだよ」

「ふざけないで。姉だって私の大事な家族よ。誰よりも大切な家族だわ」

「あんな中卒のどこが?」

「お姉ちゃんは私のために進学を諦めて働いてくれたの。両親が亡くなって誰かが働かないと私たちは生活ができなかった。だからお姉ちゃんが就職をして私を養ってくれたの」

「だとしても中卒だということには変わりない」

「だから何? 中卒だとしても、私にとっては大切な家族であることに変わりはないわ。もう私に食ってかかるのはやめなさい。今は気が動転してるから許すけど、こちらも限界だよ」

「どういうことでしょうか?」

「まだ式だろう。だったら破棄してもいいんだ」

「あなたの意思でそれができますか?」

「できるよ。私が言えば達也はそう動く」

「なるほど」

「お姉さんの気持ちも考えてあげてほしい。彼女は君の幸せのために身を引いたんだ」

「もしかして姉にも同じ脅し文句を?」

「そういうことだ。彼女は素直に引き下がったよ。だったら君もお姉さんの気持ちを大事にするべきだ」

「よくもそんなことをしてくれましたね」

「全ては君たちのためだよ。あんな女は今すぐ縁を切った方がいいんだ」

「もういいです。あなたとは話になりません」

「なんだと?」

「これから先のことは私たちで話し合って決めます。私はあなたと家族にはなりたくないと言ってるんですよ」

「本気で言ってるのか?」

「当たり前です。私はあなたとは関わりたくありません。それをどう思うか、とりあえず達也に確認してみます」

「惜しいことをするな。私たちの家族になれるチャンスを棒に振るのか?」

「そうですね。私にとってはそんなのはチャンスでも何でもないですから」

「とんでもない女だな。さすがはあいつの妹なだけはある」

「ありがとうございます。それは最高の褒め言葉ですよ」

翌日。

「太田さん、みっともないことをしないでください。いきなり泣いてるあなたの留守電が入ってて、びっくりしましたよ。私たちはもう何の関係もない赤の他人のはずです。変な真似をしてくるのはやめてください」

「ふざけるな。お前のせいでこっちは大変なんだぞ」

「何が大変なんですか? 立派に息子さんが式をあげて、順風満帆でしょ」

「そっちも色々と大変だが、それ以上にこっちは追い込まれてるんだぞ」

「どういうことですか?」

「お前のせいで取引が白紙に戻されたんだ」

「取引?」

「お前、篠塚社長と知り合いらしいな」

「はい。二十歳くらいからずっとお世話になってる人です。社長がどうかしたんですか?」

「俺が相談をしていたのは篠塚社長の会社なんだよ」

「え、それは知りませんでした」

「なんでこんなことをしたんだ?」

「社長は私のこと目をかけてくれてました。式にも来てくれると言ってくれたくらいですよ。でも仕事で出席できなかったこともあって、式はどうだったかと連絡をくれたんです。そこで私は正直にあったことを話しました。妹には黙ってましたけど、社長に話しても影響はないだろうと思って、全てを正直にお伝えしました。でも影響あったみたいですね」

「あったどころの話じゃない。大変なことになったんだ。こっちは今回の取引に人生を賭けてたんだ。しかも失敗の理由が完全に俺にあるってことが、上の人間にも伝わってしまった。篠塚社長が直接うちの社長に連絡をしてきたんだ。おかげで俺は社長から大目玉を食らって、それで号泣してたんですね」

「そうなんですか」

「こうなったのも全部お前のせいだ。こんなことをして、ただで済むと思ってるのか?」

「何がですか?」

「お前の妹と達也の婚約を破棄すると言ってるんだ。それが嫌なら今すぐ私に謝りに来い。そして篠塚社長に考え直すよう説得をしろ」

「そんなことするつもりはないですよ」

「お前、妹がどうなってもいいのか」

「その波から結婚は考え直すと言われてるんでしょ。昨日波から連絡がありましたよ。波からすごく怒られました。黙って帰ったことが許せなかったみたいです。そして波の今の気持ちも教えてもらいました。だからそんな脅しは私に通用しませんよ」

「お前な」

「そうやって子供の結婚をコントロールしようとするから、こんなことになるんですよ」

「黙れ。お前のような奴が偉そうに説教するな」

「どうしてそんなに私を目の敵にするんですか?」

「俺が何も知らないと思ってるのか?」

「は?」

「お前は篠塚社長の会社で働いてるんだろ?」

「今は系列企業に出向してますけどね」

「中卒がそんなところで働けると思ってるのか?」

「事実、働いてますよ。何が言いたいんですか?」

「お前のやり口はもう知ってるんだ」

「ちょっと詳しく教えてください」

三十分後、私は太田さんの言っていることの意味を理解した。彼は誰かに吹き込まれた嘘を信じていたのだ。私は思い当たる人物に電話をかけた。

「あなたは本当に最低な人間ですね」

「お姉さん、波に何か吹き込みましたか? あいつが急に結婚は考え直すとか言い出したんですよ」

「そうなっても仕方ないわよ。だってあんたはクソみたいな人間だからね」

「どういうことですか? 口が悪すぎますよ」

「あなた、父親に嘘教えたでしょう。私が今の会社に就職したのは体を使ったからだとか言ったみたいね。あなたのお父さんが言ってましたよ。低学歴もだけど、そんなふしだらな奴が親族にいてほしくないってね」

「よくそんなことを言うな」

「それはこっちのセリフよ。なんでそんな嘘を言ったりしたの? 何が目的なの?」

「あんたが邪魔だったんだよ」

「どういうこと?」

「俺と波が二人でいるのに、あんたの存在は邪魔で仕方なかった」

「私は別にあなたたちの関係に口を出したりしてないわよ」

「そういうことじゃない。波は常にあんたのことを考えていた。口を開けばあんたとの思い出話とか、あんたに結婚してほしいとか、そんなことばかりを言っていた。波にとっては俺が一番であるべきだった。俺が波を思ってるのと同じくらい、俺のことを思い続けてほしかったんだ。そうなるには、あんたが波の前から消えてもらうしかなかった。だから父親を騙すみたいな真似を。あんたの肩書きだけでも父さんは怒ってたぜ。でもそれだけじゃ足りなそうだから、ちょっとスパイスを足してあげただけだ。そうしたら思ったように動いてくれてさ」

「最低ね。それだけ波を思う気持ちがあったなら、まっすぐその気持ちを波に伝えて愛を育んでいったらよかったのに。あんたのような人間と波の結婚を許すことはできないわ」

「はあ。波はあなたとの関係を考え直してるんでしょ。それならこのことも伝えてあげましょう。そうしたらきっと答えが固まるはずよ」

「ふざけるな。余計なことをするんじゃねえよ」

「自分のために波を不幸にするような人間との結婚を、私は認めるわけにはいかないの。だからさっさと別れてもらうから」

「おい、ちょっと待てよ」

一ヶ月後。

「いつまでそうやってるつもりなの?」

「なんだよ。あんたから連絡来るなんて珍しいな」

「婚約解消された時に一応ブロックはしておいたのよ。でもあなたが変なことをしてるから連絡をしてるの」

「変なことだと?」

「波の職場の前とか、前に住んでた家の前で待ち伏せをしてるでしょ?」

「俺はまだ諦めたわけじゃない。婚約解消だってあいつがいきなり言ってきただけで、俺は認めたつもりはないからな」

「最初は達也君のお父さんに怒ってたわ。でも最終的にはあなたに愛想を尽かして、婚約解消になったの。だからこれ以上何をしても関係が戻ることはない」

「そんなの話してみないと分からないだろう。俺たちは結婚を約束するくらい愛し合った仲だ。だったらまた元通りになれる可能性はある」

「その可能性すら潰してるのが分からないの。あんたの行動に波は迷惑してるのよ」

「お前が俺たちの復縁を邪魔してるんだ。いいからさっさと波と合わせろ」

「言っておくけど、あんたは無意味なことをしてるわ。波はもうそこの会社を退職してる。そしてマンションも解約をして、今は私のマンションで一緒に生活をしているの」

「そうなのか」

「別に会社をやめたのはあんたのせいじゃないわよ。元々やめるつもりだったみたい。それで今は転職活動を頑張っている。だからこそあんたのことが邪魔なのよ。これ以上波に付きまとうのはやめなさい」

「俺には波しかいないんだ。あんたこそ邪魔をするな」

「これ以上何かしたら、暴力的な手段でも取るつもり?」

「そうなる可能性もある」

「どうやら私は波を守り続けるわ。あんたの脅しに屈するつもりはない」

「本気か?」

「当たり前でしょ? 波は私のたった一人の家族なの。波は私に支えてもらったと思ってたけど、私だってそれは同じよ。親を一気に失って、絶望の淵にいたわ。そんな時でも私の手を握って話さないでくれたのが波だった。私は波のために働くことで辛い気持ちを忘れることができた。波が笑ってくれるだけで悲しみを掻き消すことができた。私にとって波が全てだったの。そんな波を傷つけるようなことは絶対に許さない。波には絶対幸せになってもらいたいの」

「そうかよ。そこまでの覚悟があるんだな」

「もちろん。波を守るためなら何でもするつもり。どんな力にも頼るからね」

「どういうことだ?」

「あんた、波にしつこくLINEしてたでしょう。その中で危害を加えるようなやり取りもあった。これは立派な脅迫罪よ。だから警察に被害届を出すわ」

「それくらい別に」

「そして警察にお願いをして接近禁止命令を出してもらうことにするから」

「接近禁止命令」

「もしこれを破るようなことがあったら、あんたは速攻逮捕されるからね」

「そんな、もう近づくことすらできないのか」

「そういうこと。二度と私たちにその面を見せないで」

「俺は波を心から幸せにしようと思ってたのに」

「あんたはろくでもない人間よ。そんな人間が波の夫であってほしくないわ」

その後、達也君は私たちの前に現れることはなかった。ただ、波と結婚できなかったことへの怒りの矛先を自分の父親に向けてしまったみたいだ。家で太田さんに責任を取れと殴りかかってしまい、怪我を負わせてしまったとのこと。それから警察沙汰に発展し、太田さんとは絶縁。家族を全て失い、仕事にも行かなくなって、今は無職者のように街中を徘徊しているようだ。波の名前を呼んでいるようだが、近づいたらすぐにでも逮捕してもらいたいと思う。

ちなみに太田さんはあの取引で失敗の原因を作ったことで、完全に出世レースからは外されてしまったそうだ。そして太田さんの代わりに出世レースを勝ち取ったのは、高卒の後輩社員だったらしい。肩書きなんて出世や仕事の出来には全く関係ないことを、これで分かってほしいものだ。まあ、時すでに遅しではあるけど。

私は波と二人で生活している。波は色々と辛い状況に置かれていたが、無事に新しい仕事場も見つかり頑張っている。どんな時でも前を向いている波と一緒にいると、本当に力をもらえる。もちろん私は私で、波のことをできる限り支えていこうと思っている。家族を失った時もこうして二人で支え合ってやってきたので、私たちならどんな困難でも乗り越えていけるだろう。そして再び波が幸せをつかめる日が来ることを、心から願っている。

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