「あの貧乏なゴミ、まだ生きてるの?」—交通事故で入院した私の耳に、病院の廊下から聞こえてきたのは、40年間必死に育てた息子と嫁の声だった。「さっさと家を売って安い施設に放り込もうよ」と。大学まで出すために1日16時間働いてきた母を「素代ゴミ」と呼ぶ息子。翌日、満面の笑みで「心配したよ」と見舞いに来た息子は、私の家の売却委任状と、認知症の診断書を偽造する計画を進めていた。だが私はもう、震える手…

「あの貧乏なゴミ、まだ生きてるの?」—交通事故で入院した私の耳に、病院の廊下から聞こえてきたのは、40年間必死に育てた息子と嫁の声だった。「さっさと家を売って安い施設に放り込もうよ」と。大学まで出すために1日16時間働いてきた母を「素代ゴミ」と呼ぶ息子。翌日、満面の笑みで「心配したよ」と見舞いに来た息子は、私の家の売却委任状と、認知症の診断書を偽造する計画を進めていた。だが私はもう、震える手...

病院の廊下から、息子の声が聞こえたのは事故から3日後のことだった。「あの貧乏なゴミ、まだ生きてるの?」

全身の痛みに耐えながら意識を取り戻したばかりの私の耳に、息子と嫁の会話が鮮明に飛び込んできた。「さっさと家を売って安い施設に放り込もうよ」と。

40年前、夫を失ってから私はこの息子を必死に育てた。大学まで出すために朝から晩まで働いた。1日16時間、昼は工場、夜はスーパーのレジ、早朝は新聞配達。それなのに息子は私を「素代ゴミ」と呼んでいる。

「お母さん、意識が戻られたんですね。息子さんが見舞いに来てますよ」

若い看護師の言葉に私は震えながら小さく頷いた。

廊下の足音が近づき、ドアが開く。満面の笑みを浮かべた息子が入ってきた。「母さん、大丈夫? 心配したよ」

その優しげな顔の裏に、どんな計算が隠れているのか。私は初めて息子の本当の顔を見た気がした。

38年前のことだ。2歳の工事を抱きしめながら「お母さん大好き」と小さな腕を回してくれたあの日々。大学受験の時は「ばあさん、必ず恩返しするから」と真っ直ぐな瞳で言ってくれた。あの頃の純粋さはもうその目にはない。

「母さん、聞いてる?」と工事が話しかける。「実は相談があって」

隣に座る嫁のみさも心配そうな表情を浮かべている。でも2人はまるで練習してきたかのような完璧な演技だった。

「母さんも1人暮らしは大変でしょう。それに今回みたいに事故にあったら誰も気づかないかもしれない」

そう言って工事が取り出したのは書類だった。不動産売却の委任状。私に家の売却を一任させる内容だった。

「これにサインしてくれれば面倒なことは全部僕がやるから」

私はトイレに行くと言って廊下に出た。すると少し離れた場所で工事が電話をしているのが聞こえた。

「うん、今渡したところ。バカな素材ゴミだから簡単に騙せるよ」

足が止まった。続けて嫁の声も聞こえてくる。「売却益は3000万くらいかな。ローンの頭金には十分よ」「あの貧乏臭い家、さっさと処分して私たちは新築マンションよ」「認知症の診断書も知り合いの医者に頼めばなんとかなる」

私は壁に寄りかかった。心臓が早鐘のように打っている。認知症の診断書を偽造するつもりなのか。そして財産管理まで奪おうとしているのか。

病室に戻ると、2人は何事もなかったかのように顔を待っていた。「じゃあ書類のこと、ゆっくり考えてね」

翌日、工事がまた病室にやってきた。「母さん、昨日の件考えてくれた?」優しい笑顔だが目は笑っていない。

「まだよくわからなくて」私は困ったような顔を作った。弱々しい老人を演じるのは意外と簡単だった。

「最近もの忘れが多いんじゃない? 認知症の検査を受けたほうがいいかもしれない」工事が偽の心配を込めた声で言う。知り合いの医者で診断書を偽造する共犯者のことだ。

そして工事はペンまで用意して書類を差し出した。「難しいことは考えなくていい。ここにサインするだけ」

私は聞いた。「私のことどう思ってる?」「何言ってるの? 大切な母親だと思ってるよ」「じゃあなぜ私を施設に入れようとするの? 家を売ったお金が欲しいから?」

工事の表情が固まった。「何を言ってるんだ? 被害妄想も認知症の症状の1つだよ」

巧妙だ。私の正常な判断力まで病気のせいにしようとしている。

私は観念したふりをして「もう少し時間をちょうだい」と言った。「明日には返事するわ」

工事が帰った後、私はスマートフォンを取り出した。高齢者向け通信講座で使い方を覚えたものだ。そして翌日、工事が病室に来る前に私はある手続きを終わらせた。

「母さん、決めてくれたんだな」工事は満面の笑顔で書類を広げた。すると私は言った。「その書類にはサインしないわ」

「は? どういうこと?」

私は静かに微笑んだ。「私、2億円持ってるの」

工事とみさの顔が凍りついた。「昔、お父さんの実家が地主だったの。相続した土地を売ってコツコツ貯めてきたわ」

「なんで言わなかったんだよ!」「あなたのためよ。お金があると知ったら努力しない人間になると思ったから」

「でも俺は息子だよ!」「私をゴミと呼ぶ人を息子とは思えないわ」

私は録音した音声を再生した。「バカなゴミだから簡単に騙せるよ」工事とみさの会話がロビーに響いた。2人の顔が真っ青になっている。

「これを弁護士に渡してある。もし私に何かあったらすぐに警察に届けることになってる」

そして私は高級有料老人施設への入居手続きを進めた。工事は呆然と見ているだけだった。

「あ、それと。家も売らなくていいわよ。軽井沢に別荘があるからそっちに移るわ。30年前に買ったものよ。これもあなたにはあげなかったけどね」

私はタクシーに乗り込んだ。窓の外で工事が膝をついて泣き崩れている。嫁は呆然と立ち尽くしていた。

グランドヒルズでの生活は想像以上に快適だった。朝は庭園を散歩し、午後は図書室で読書。誰も私をゴミとは呼ばない。1人の人間として敬意を持って接してくれる。

隣の部屋の佐藤さち子さんも同じように子供との関係に悩んで入居したという。「子供って不思議ね。小さい頃はあんなにお母さん大好きって言ってたのに、大人になると平気で親を傷つける」

一方、工事とみさの生活は急速に悪化していった。私の財産を当てにしていた人生設計が完全に狂ってしまったのだ。新築マンションの購入は諦めざるを得ず、みさの不満が爆発して夫婦喧嘩が絶えなくなった。ついにみさは実家に帰ってしまった。

工事からの手紙が弁護士を通じて届いたのは半年後のことだった。「お金のことじゃありません。ただ謝りたいんです。あの時の自分がどれだけ愚かだったか」私は返事をしなかった。必要ありません。縁は切れたままで結構です。

1度壊れた信頼は簡単には戻らない。私は新しい生活を楽しんでいた。軽井沢の別荘で過ごす週末。それらはすべて自分のために生きる当然の権利だ。

結局のところ、お金がない親はゴミで、お金がある親は大事な親なのだろうか。でも私は自分の価値は自分で決める。誰かに決めてもらう必要なんてない。

夜、1人でワインを飲みながら遠い昔を思い出すことがある。幼い工事を抱きしめたぬくもり。「お母さん大好き」という言葉。あの頃の純粋な愛情は確かに存在した。でもそれは過去のこと。人は変わる。悲しいけれどそれが現実だ。

工事を息子に認めなかったのは復讐ではない。自分の尊厳を守るためだった。もしあなたも理不尽な扱いを受けているなら、声を上げてください。我慢する必要はありません。あなたには幸せに生きる権利があるのですから。

私は今、本当に幸せだ。毎朝目が覚めると感謝の気持ちでいっぱいになる。誰にも縛られず自分のペースで生きられること。友人たちと笑い合えること。美しい景色を楽しめること。すべてがかけがえのない宝物だ。

人生は1度きりです。誰かのために我慢し続ける必要はありません。自分を大切にしてください。私のように68歳からでも新しい人生は始められます。大切なのは自分の価値を信じること。あなたは決してゴミなんかじゃありません。

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