「離婚だぞ。慰謝料も養育費も絶対に払わねえからな。子供5人はお前が全員連れて行けよ。勝手にポコポコ産んだんだろ」…

「離婚だぞ。慰謝料も養育費も絶対に払わねえからな。子供5人はお前が全員連れて行けよ。勝手にポコポコ産んだんだろ」...

「離婚だぞ。上等だ。慰謝料も養育費も絶対に払わねえからな。子供5人はお前が全員連れて行けよ。勝手にポコポコ産んだんだろ」

夫・翔太は大笑いしながらそう言い放った。私は36歳、5人の子供を育てる専業主婦。1番上が12歳、1番下はまだ0歳だ。子供たちに囲まれた生活は確かに幸せだった。けれど、その幸せの影で、私は長年夫の裏切りに苦しめられてきた。

夫とは小学校からの幼馴染で、高校生の頃に付き合い始め、そのまま結婚した。義母とは本当の親子のように仲が良く、義母は女手一つで夫を育てながら自分の会社を立ち上げたスーパーウーマンだ。セール品を一緒に探しに行くような、決して鼻にかけない素敵な人。そんな義母にも、実の両親にも、私は言えないことがあった。

夫は2人目の子供が生まれた頃から浮気をしていた。最初に気づいたのは、残業や出張が急に増え、家に帰ってこなくなったこと。ホワイトな会社が急にブラックになったのかと思うくらいだ。子供が増えたから稼ぐ必要があるのだろうと納得していた矢先、帰宅した夫から見知らぬシャンプーの匂いが漂い、問い詰めると白状した。しかも複数人の相手と、会う日のローテーションを組んで楽しんでいたという。出産直後で疲れきっていた私は、攻め立てる気力も、2人の子供を一人で育てていく自信もなかった。夫が泣きながら「別れたくない」と謝る姿に、「長い付き合いだし、これから変わってくれるだろう」と自分を納得させた。

夫は「お互いの両親を心配させないよう、今回のことは伏せておかないか」と提案してきた。私が我慢すれば誰も悲しまない。そう思って飲み込んだ。その後、夫は本当に優しい、見本のような夫に変わった。しかし、それは半年だけだった。

ある日から夫は「夫婦の義務を果たせ」と行為を強要するようになった。育児に疲れている私が断ると、「毎日家にいるだけのくせに何様のつもりだ。家のことをして子供と遊んでるだけだろう」と大激怒。人が変わったような夫に恐怖を感じ、子供たちを守るためにも逆らえず、また我慢を強いられた。

そんな日々の中、5人目を授かった頃から、夫はまた「仕事が忙しい」と言い始め、帰宅時間がどんどん遅くなった。最悪な時は、新聞配達のお兄さんが先に我が家のポストに新聞を入れていることもある。前回の浮気の記憶がフラッシュバックして苦しかったが、「今はシャンプーの匂いはしない。必ず家でシャワーを浴びているじゃないか」と自分に言い聞かせた。

ある日、義母と買い物に行く約束をしていて、準備に追われていた時のこと。スマホに見知らぬ番号から電話がかかってきた。勧誘だろうと無視していたが、何度も繰り返しかかってくる。うんざりしながら出ると、明るい女性の声がした。

「あ、やっと出た。田中翔太さんの奥様ですか?」

「はあ、そうですけど、どちら様ですか?」

「私、松本ミキって言います」

その女性はペラペラと、自分が夫の彼女であり、どこで出会い、どんな付き合いをしているのかを話し始めた。そして最後にこう言い添えた。

「一刻も早く夫と別れるように。ちなみに今夜も翔太さん借りちゃいますね」

一方的に電話を切られた。あまりの突然の出来事に、頭がついていかない。何も言い返せず、黒くなったスマホを握りしめていた。1回大きく息を吸って吐き出し、冷静になると、夫がまた私を裏切ったのだと理解できた。信じてたのに、信じようとしてたのに。溢れる涙は止まらなかった。2歳の4番目の子供が何かを察したのか、立ち尽くす私の足に手を回し、心配そうにぴったりとくっついてくる。私は腰を落として、泣きながら子供を抱きしめることしかできなかった。

気がつけば義母との約束の時間になっていた。泣きはらした目のまま義母を出迎えると、驚いた義母は「一体何があったのか」と聞いてくれる。もう限界だった。義母の顔を見た瞬間、張り詰めていたものが緩んでしまい、ワンワン大泣きしながら今までのことを全て打ち明けた。

「覚悟はできてるってことでいいのよね」

その夜、子供たちは全員私の実家で面倒を見てもらい、夫と話し合うことにした。浮気相手が言っていた通り、夫は午前様で帰宅するとすぐにシャワーを浴びに浴室へ直行した。私は背後から夫を呼び止めた。

「聞きたいことがあるから、ちょっといいかな」

夫はめんどくさそうに振り向く。私は夫の腕を掴み、リビングまで引っ張ってソファーに座らせた。

「また浮気をしているのか」

問い詰めると、夫はニヤニヤと薄笑いをするだけ。「あなたの彼女だと名乗る女性から電話が来た」と告げても涼しい顔。まるで小馬鹿にするような態度に、悔しくてたまらない。私ばかり苛立ちが高まっていく。

「浮気相手が堂々と自分の名前を名乗ってくるのもおかしいけど、嫁である私の番号まで知ってるなんてどういうこと?」

すると夫は悪びれる様子もなく、「あいつ、人のスマホ覗いたな。してやられたな」と言って笑うだけだった。

「ちょっとは真剣になりなさいよ。突然旦那の彼女から電話もらって別れろって、どんな気持ちか考えてみて!」

怒鳴りつけても、夫には何も届かない。

「そこまで女に好かれるなんて、俺も隅に置けないだろう」

得意げな顔でモテ自慢まで始める始末。2度と浮気はしないと誓ったくせに、またこれだ。私の怒りと悔しさは限界を超えていた。

「もう限界。頼むから今すぐ離婚して」

私が離婚を突きつけると、夫は笑いながら言い放った。

「そんな強がっていいのか? ああ、上等だ。慰謝料も養育費も絶対に払わねえからな。子供5人はお前が全員連れて行けよ。勝手にポコポコ産んだんだろ」

その時だった。隣の部屋のドアがバーンと勢いよく開き、鬼の形相をした義母が登場した。夫は顔を真っ青にして、両目を見開いた。実はあの後、義母はずっと私のそばに寄り添ってくれていたのだ。義母自らが夫にしっぺ返ししてやると言ってくれた。そして「私がいれば夫は正直に本心を話さないだろうから」と、すでに真夜中だというのに隣の部屋でじっと待っていてくれたのだ。

義母の怒りはすごかった。怒涛のごとく夫に詰め寄ると、「このバカ息子が!」と、先ほどの私の何倍もの勢いで怒鳴った。夫は小さな声で返事をするだけで、何も言い返せない。

「父親にそっくりなクズ男に育てた覚えはない!」

義母は涙ながらに、夫の父親が女を作って逃げたことを口にした。そして夫の胸ぐらを掴み、ソファーから引きずり下ろして床に跪かせた。女手一つで不便な思いはさせまいと会社を立ち上げ、必死に働いて育て上げた。その姿を一番近くで見てきておいて、それでもなお父親と全く同じことをするなんて。どれだけ苦労して育てても何の意味もなかったと、義母は悔しそうにボロボロと涙を流しながら怒鳴った。

夫は、そんな義母の姿に何か心に響くものがあったのだろう。義母から「私へ謝罪しろ」と言われた夫は、素直に土下座をして「心を入れ替えるから許してくれ」と懇願してきた。

しかし、以前同じセリフを聞いていた私には、そんな言葉を信じられるわけもない。夫を思う気持ちも未練も、今ではこれっぽっちも残っていない。あるのは大嫌いという気持ちと憎しみだけだ。

「残念だけど、もう遅い」

私は離婚の2文字を突きつけてやった。もちろん、5人の子供は連れて行くから安心していいと付け加えた。「そんなこと言わずに、もう一度やり直すチャンスをくれ」と夫は何度も床に頭を打ちつけていたが、無視を決め込んだ。

その後、私は義母の協力で子供たちとすぐに家を出て引っ越した。数日後、新居での生活が落ち着きを見せ始めた頃、スマホが朝からずっと鳴り響いていた。夫からの着信だ。もう声も聞きたくないと無視していたが、あまりのしつこさに出てみると、いきなり必死な様子の声が聞こえてきた。

「頼むから戻ってきてくれ」

何を寝ぼけているのやら。あんな修羅場を演じておいて、よくそんなことが言えたものだ。返事はせずにスピーカーにして家事をしながら黙って聞いていると、「会社でも居場所がなくなりそうなのだ」と泣き言までつぶやき出した。どこからか今回の浮気の話が会社に伝わってしまい、社内のどこにいても白い目で見られているらしい。

しかも、松本ミキと名乗って私に電話をかけてきた浮気相手は、取引先の会社の社長の娘だというではないか。夫の働く会社で「社会勉強のため」という名目で働いていたらしい。ある意味、よくぞそんなとんでもない相手に手を出したものだと感心してしまった。バレたらどうなるかなんて一目瞭然だっただろうに。噂を耳にした上層部がそんな事態を見逃すわけがない。取引先を失うかもしれないし、社内の風紀も乱しまくっている。会社は激怒し、夫は懲戒処分になってしまったらしい。

私は黙って聞いていたが、思わず吹き出して大笑いしてしまった。夫が自分で言っていた通り、「お嬢様に気に入られるなんて、本当に隅に置けないわね」と嘲りながら笑い続けた。電話の向こうで「何笑ってるんだ!」と切れ気味の夫は、「冗談言わず助けてくれ」と声を大にして喚く。私は「もうすぐ他人になるので無理です」と突き放してやった。

「私じゃなくて義母に助けてもらえばいい」と助言すると、すでに助けを求めたが断られた後らしい。

「どうしたらいいんだよ。このままじゃ1人ぼっちになるじゃないか」

夫は1人になるのが嫌だ、見捨てないでくれと復縁を迫ってきた。今更何を言っているのだろう。ここで下手に出れば私が折れるとでも思っているのか。仮に復縁したとしても、1度ならず2度までも私をコケにしてきた人間を心底信頼できるわけがない。信頼できない人間と、この先一生疑う心を持ったまま過ごしていくなんてごめんだ。

「復縁? そんなの延々とお断りよ。自分で撒いてきた種なんだから、自分で始末しなさい」

私は鼻で笑って電話を切った。

その後、私は晴れて夫との離婚を成立させた。義母が味方になってくれたおかげで、一切揉めることはなかった。夫は会社を首になり、義母の知り合いの建設会社で働くことになったそうだ。慰謝料と養育費は給料天引きでしっかりもらえるように手配してもらった。義母の話によると、夫は今までのキャリアが通用しない現場仕事で、年の近い上司に怒鳴り飛ばされながら酷使されているらしい。浮気相手だった松本ミキも、親に連れられて謝罪に来て、相場より多めの慰謝料を置いて帰っていった。まあ、他言無用といった意味もあるのだろう。

義母とは夫と別れてからも本当の親子のような良い関係が続いている。子供たちの好きなものを手土産に、よく会いに来てくれる。私は今、5人兄弟の母として、幸せな毎日を満喫している。

Thumbnail