結婚して3ヶ月。夫のカズナリは「生活費は全部出す」と言っていたのに、毎月1万円しか入れてくれない。足りないと伝えると、彼は「専業主婦のくせに偉そうなんだよ。俺が働いてるから生活できてるんだぞ」と怒鳴った。そして、離婚届を置いて家を出て行った。
私は日野アユ、30歳。在宅ワーカーとして働いている。カズナリとは5歳年上で、結婚して3ヶ月になる。彼との結婚が私にとって初めての結婚だった。
以前、24歳の頃から長く付き合っていた男性がいた。順調に交際していたし、このまま結婚すると思っていた。しかし2年前、とんでもない事実が発覚した。彼にはすでに家庭があったのだ。彼の妻と名乗る女性と一緒に私の前に現れた彼は、こう言い放った。「この女がしつこく言い寄ってきて困ってたんだ。俺は家族を裏切るつもりはないって言ってるのに」。私は「ずっと独身だって言ってたじゃない」と訴えたが、泥棒猫扱いされ、慰謝料まで請求された。
この一件で恋愛にトラウマを抱えた私は、30歳になるまでまともに恋愛ができずにいた。周りの友人が家庭を築いていくのを見て焦りを感じ、半ばやけくそで婚活アプリに登録した。そこでカズナリと出会った。
彼の第一印象は「いい人」だった。いつも穏やかな笑顔で、私の愚痴やつまらない話もよく聞いてくれた。「なんかごめんね。いつも私ばかり喋っちゃって」と言うと、「なんで?俺は楽しいよ。アユのことをたくさん知れるし」と優しく返してくれた。
彼の優しさで少しずつ傷が癒え、将来を夢見るようになった。そんなある日、彼が先に告白してくれた。「アユと一緒に人生を歩んでいきたい。俺と結婚を前提に付き合ってください」。嬉しさのあまり泣き崩れた。
こうして交際が始まり、彼は「大手企業に勤めている」「結婚したら楽をさせてやる」とよく言っていた。交際から2ヶ月という短期間で結婚を決めた。周りからは「早すぎる」と反対されたが、彼との出会いで救われた私は、これも何かの縁だと信じていた。
結婚式の費用がなかったので、入籍だけ先に済ませた。「無駄遣いしないように節約しながら貯めていこう」と意見が一致し、私が住んでいたマンションで一緒に暮らすことになった。
2人暮らしになれば光熱費も上がる。生活費のことで話をしようと彼に切り出すと、彼は笑顔で「生活費全般は俺が出すよ。だからアユは気にせず仕事して」と言った。頼もしく感じた。
しかし、最初の給料日、彼から渡されたのは1万円だけだった。「えっと、これだけだと足りないかな」と言うと、「なんで?」と彼は不機嫌になった。「家賃や光熱費を考えたら1万円で足りるわけないよね」と説明しても、「1万円で足りないなんて贅沢言わないでくれ」と言う。
「まさかアユは金目当てで結婚したの?俺が大手企業勤務だから?」と言われ、私は「違うよ」と否定したが、彼は納得しない。これ以上言っても無駄だと思い、価値観の違いだと諦めることにした。
それから3ヶ月、彼から受け取った生活費は合計3万円だけ。残りはすべて自分のために使い、生活費には一切出さない。さすがに限界を感じ、改めて話し合うことにした。
「カズナリ、こんなこと言いたくないけど、やっぱり生活費1万円は無理があるよ」と言うと、「またその話?何がそんなに不満なの?」と嫌な顔をされた。請求額を見せながら説明しても、「家にいるのはアユの方が長いんだから、お前がもっと節約すればいい話だろう」と言う。
さらに「そもそも専業主婦のくせに偉そうなんだよ。俺が働いているから生活できてること分かってる?」と言われた。「専業主婦じゃない。在宅だけど私だって働いてるよ」と反論すると、「そんなの高々趣味の延長だろ。それで働いてるとかお気楽でいいね」と鼻で笑われた。
ショックで体が震えた。この人となら幸せになれると信じて結婚したのに、理想の幸せなんてどこにもなかった。「何も言い返せないだろう。悔しかったら俺みたいに月8万稼いでみろよ」と言われ、「8万ってどういうこと?」と聞いても、彼は鼻で笑って部屋を出ていった。
月8万の給料。大手企業に勤めているという言葉を信じていた自分にも非はあるだろう。しかし、月8万では学生バイトと大差ない。そういえば、彼は結婚する前はずっと実家暮らしだったと言っていた。嫌な予感がした。
頭をリセットしようと仮眠を取った。1時間ほど寝て目が覚め、話をするためにリビングへ向かうと、彼の姿はない。代わりにテーブルの上に封筒が置かれていた。中を確認すると、一通の手紙と、カズナリの名前が記入された離婚届があった。手紙には「俺を馬鹿にしたバツだ」とだけ書かれていた。
「何よこれ?わけわかんない」と混乱した。何度連絡しても彼からは返事が来ない。あの短時間で用意された離婚届は、おそらく以前から隠し持っていたのだろう。つまり彼はもっと前から離婚を考えていたことになる。
その後、3ヶ月が経ったある日、彼から電話がかかってきた。「おい、一体どういうつもりだよ」と怒鳴っている。「いきなり大声出さないで。ずっと連絡してこなかったくせに今更何?」と言うと、「どうでもいい。それよりなんで家に知らない男がいるんだ」と言う。
話を聞くと、彼はマンションに戻ってきたらしい。3ヶ月も家を開ければ私も反省しただろうと思ったようだ。しかし鍵が合わず、インターホンを押すと見覚えのない男性が出てきた。「お前、俺がいないのをいいことに浮気してたんだろう。俺はあくまで金ずるで、他に男を連れ込みやがって」と彼は喚いた。
「1度冷静になって。言ってる意味が分からないんだけど」と説明しようとしたが、彼は耳を貸さず「クソ女」などと罵った。これが彼の本性かと思うと切なくなった。
「私、もうそのマンション引っ越したから。誰か新しい人が入ったんじゃない?」と伝えると、彼は「はあ?どういうことだよ」と混乱した。実はこの3ヶ月の間にマンションを解約し、引っ越していたのだ。連絡しようと思っていたが、ずっと連絡がつかなかった。
「夫の俺に相談もなしに勝手なことしやがって」と言うので、「別にもう相談する必要もないじゃない。私たち離婚してるんだから」と答えた。そう、私は彼が置いていった離婚届をすでに提出していたのだ。
しかし彼は「離婚に同意していない」と言い出す。「離婚届を置いて失踪したのはあなたでしょ?誰だって離婚の意思を示してるって思うわよ」と言うと、彼は口ごもった。
すると彼は一転して私を嘲笑いながら言った。「お前みたいな専業主婦1人じゃ生きていけないだろう。俺がいなきゃ路頭に迷うことになるぞ」。
彼に現実を教えてやることにした。「あなたの給料を馬鹿にする気はないけど、たった8万の給料じゃ家賃も払えないから。私たちが住んでいた都内のマンションの家賃は、あなたの給料の2倍はする。光熱費や食費を合わせれば25万は必要になる。あなたの給料じゃ到底やっていけない」。
「そんなの嘘に決まってるだろう。だったら今までどうやって生活してきたんだよ」と彼は言う。「そんなの自分の給料で払ってたに決まってるでしょ」と答えた。実は私は在宅でライターの仕事をしており、クライアントからも高く評価されていた。手取りは彼の5倍は稼いでいたのだ。
真実を知った彼は驚きのあまり言葉が出ない様子だった。さらに、もう1つの事実を伝えた。「カズナリ、自分が社員だと思ってるみたいだけど、あなたの雇用形態ってアルバイトだからね」。彼は大手チェーン店で勤務しているが、それは社員としてではなく、フルタイムのバイトだった。この事実は、3ヶ月前に彼の実家から連絡が来た際、義母から教えられたものだ。
家出した彼は案の定、実家に戻っていた。なぜ急に戻ってきたのか不思議に思った義母が問いただすと、彼は「自分が8万も稼いでいるのに不満を言うアユが贅沢だから家出した」と話したらしい。義母は私に謝罪の連絡を入れ、経緯を詳しく聞かれたので、私は彼に言われたことをすべて話した。義母は「カズナリは遅くにできた子で、私も甘やかしすぎた」と後悔していると言い、「これ以上世間知らずの息子に振り回されず、好きなように生きてほしい」と言ってくれた。
「お母さん驚いてたよ。カズナリがアルバイトだって知らなかったそうじゃない?」と私が言うと、彼は「そ、それはそうか。だからおふくろに追い出されたのか」と呟いた。どうやら彼が戻ってきたのは、実家を追い出されたことが一番の理由らしい。
「頼む。俺が間違っていたから許してくれ。ここがなかったらもう行くところがないんだ」と彼は泣きながら助けを求めてきた。しかし、今更謝られても許す気はない。「自分が気に入らないからって離婚届を置いていく人とは、この先一緒にやっていける気がしないから」と伝えた。
「そんな、待ってくれ。アユ、この通りだから」と彼は懇願したが、「っていうか、すでに離婚届は出してるし、赤の他人であるあなたのことなんて私には関係ないよ。これからは頑張って世間を知っていくことだね」と言い残し、電話を切った。
その後、35歳で現実を知った彼は、常識のなさが祟って苦労しているらしい。義母から慰謝料を払いたいと言われたが、3ヶ月の結婚生活のために払わせるのは申し訳ない。それに今回の件は彼が悪いのであって、義母が悪いわけではない。気持ちだけ受け取ることを伝えて、お断りした。
私はと言うと、「結婚を焦るからこういうことになる」と両親に小言を言われ続けた。これに関しては両親の言う通りで、何も返す言葉がない。周りの意見も聞かず盲目になっていたことを反省し、2度とこんなことは繰り返さないようにしようと思った。
次に恋愛することがあったら、ちゃんと理解し合える人と関係を作っていこう。たった3ヶ月の夫婦生活は、確実に私にとって良い教訓となった。これからは人を見る目を養い、焦らずにゆっくり人生を歩んでいこうと思う。



