結婚式の朝、私はドレスサロンに駆け込んだ。義母が私の母の形見のドレスを、サイズが合わないからと勝手に切らせていた。挙式まであと1時間。義母は笑いながら言った。「あなたが太ってるのが悪いのに、私のせいにするの?」私はその場で何も言い返せなかった。でも、あの時はまだ知らなかった。義母が私の人生をどれだけ壊そうとしているのかを。そして、私が最後に彼女に放つ一言が、彼女のすべてを崩すことになるなんて…

結婚式の朝、私はドレスサロンに駆け込んだ。義母が私の母の形見のドレスを、サイズが合わないからと勝手に切らせていた。挙式まであと1時間。義母は笑いながら言った。「あなたが太ってるのが悪いのに、私のせいにするの?」私はその場で何も言い返せなかった。でも、あの時はまだ知らなかった。義母が私の人生をどれだけ壊そうとしているのかを。そして、私が最後に彼女に放つ一言が、彼女のすべてを崩すことになるなんて...

「明日は娘の結婚式よ。変な格好できたら許さないから」

義母の言葉は、最初から私を試すような響きだった。ドレスサロンには母が予約してくれたドレスが預けてあると言うと、義母は鼻で笑った。

「あなたはいつもユニクロの服を着てくるから心配だわ」

「さすがに結婚式には清掃で行きますので」

私は平静を装った。義母は大輔の婚約者である私を、仕方なく参列させるという態度を隠さない。

「マナーは湧きまえているつもりです」

「湧きまえている?何なの、その古臭いドレスは?」

義母はサロンに来て、私のドレスを確認すると、古臭いと切り捨てた。

「それは母の片なんです。亡き母がロンドンで苦労して手に入れたドレスで、私にとっての宝物なんですよ」

「ふん。でも見た感じサイズが合わなそうだけど」

「サロンの方がお直ししてくださるそうです」

義母は「私の紹介だもの。いい仕事をしてくれるはずよ」とだけ言って、去っていった。

翌日、式の数時間前。私はドレスサロンに駆け込んだ。

「お母さん、私のドレスに何をしたんですか?」

「別に何もしてないけど。サイズが合わなくて切れません」

スタッフに聞くと、義母の指示だと言う。ウエストが細すぎて入らない。

「あなたが太ってるのが悪いのに、私のせいにするの?」

「どうしよう。挙式まであと1時間しかないのに」

息を吸ってお腹をへこませても、そんなのは何時間も持たない。ドレスは総レースという繊細な作りだ。

「あら、困ったわね」

義母は他人事のように言う。このままでは今日着てきたカジュアルワンピースで参加するしかない。

「別にいいんじゃない?それで」

「色が白なんです。これはさすがにマナー違反ですよ」

「よく考えたらまだ嫁じゃないから、うちの恥じゃないわ。気にしないで」

「マナーっていうのは他者への思いやりです。私のせいで新郎新婦や列席者の皆さんに不快な思いをさせるわけにはいきません」

「大丈夫大丈夫。料理にはちゃんとお金をかけてるし。誰もあなたのことなんか気にしてないわよ」

「そういう問題じゃないです」

「どうしてこんなことを?うちの嫁にふさわしいか試したの。デブは失格ってこと」

「試すって…それ今やることですか?」

ドレスサロンでレンタルを頼んでも、今日は全て予約済みで無理だと言われた。これも義母の差し金かと疑うと、義母は「また私を疑うの?」と逆ギレした。

「さすがお母さんのお友達ですね」

「はあ。どういう意味よ?」

「何でもありません」

挙式まであと1時間。義母は「遅くとも披露宴までにはなんとかしなさいよ」とだけ言い残した。

5分後、大輔から電話がかかってきた。

「母さん、もう披露宴会場のロビーでお客様に挨拶をしてたところよ。どうしたの?」

「さっきあんなから連絡があった。ドレスのサイズ直しを邪魔したって本当か?」

「そんなわけないでしょ。あの人が自分で伝え間違えたのを私のせいにしてるの」

「本当かよ。どっちにしろ、母さんのせいであんなは嫌な思いをしたんだ。そのことはちゃんとあんなに謝ってほしい」

「なんで私が?」

「本当に頼むよ。俺の大切な婚約者なんだから」

「あれよりもっと他にいい女なかったの?」

「母さん、結構ひどいこと言ってるって気づいてる?」

「そう。息子が選んだ女性なのになんでそんなに否定的なの?」

「あなたには釣り合わないんじゃないかと思って。価値観が合わないと結婚って大変なのよ」

「それは俺たちの問題だろ。口出しないでくれ。とにかく母さんのミスなんだから、母さんがあんなのドレスをどうにかしてやれよ」

「絶対客への挨拶もあるし無理よ」

5分後、今度はあ子から電話がかかってきた。

「母さん、あんなさんを助けてあげてよ」

「何よ?今度はあ子、あなた父でしょ?連絡してる場合なの?」

「緊急事態だから連絡してるんだよ。あんなさんになんてことをしたの?」

「あ子までその話をしないでくれる?お兄ちゃんだと頼りないから私が連絡してるんでしょ?」

「何よ?赤の他人にそこまでする必要ある?」

「あんなさんはこれから義理の姉になる人だよ。他人じゃない」

「あら、私は認めてないわよ」

「私とお父さんは歓迎してるし、仲もいいの。この結婚式だって私からあんなさんを誘ったんだよ」

「ああ、コミ力が高い勘違い女ってこうやって人を取り込んで利用するから厄介だわ」

「今一番厄介なのは、自分がしでかしたことなのに反省も助けもしないお母さんの方だからね。人として恥ずかしいよ」

「なんでそんなこと言われなきゃいけないの?あの女がどうなろうと、あ子が気にすることじゃないわ」

「信じらんない。どういう神経してるの?そんなに怒ること?式の前なのに雰囲気が悪くなるわよ」

「もういい。私が友達に頼んでなんとかする」

披露宴開始前。

「挙式は間に合わなかったわね。もうすぐで披露宴だけど来るの?」

「あ子ちゃんのおかげでなんとかなりました」

「ちゃんと人様に見せられる格好でしょうね」

「あ子ちゃんの友達からコスメを借りて自分でメイクして、服は近くにあったショッピングモールで購入しました」

「お化粧は自前で衣装はその辺の安物。格式高い結婚式でそんな格好するの、あなただけよ」

「でもこれしかなかったので」

「ダメ嫁ポイント3点あげる」

「ポイントって集めたら何かもらえるんですか?」

「そうそう。箱入り5個セットがね。…て、冗談よ」

「笑えませんよ」

「そんなことより準備できたんなら早くいらっしゃいよ。スピーチの時間が迫ってるわよ」

「じゃあ頑張って」

結婚式後。

「ちょっと、あれどういうことなの?」

「素晴らしい披露宴でしたね」

「本当にね。…て、違う違う。そうじゃない」

「何か至らぬ点でも?」

「安物のドレスと下手くそなお化粧で登場したかと思えば、あのスピーチは何なの?」

「内容をお気にめしませんでしたか?」

「内容がどうとかじゃないのよ。列席者みんなが全員立って拍手してたのはなんでなの?」

「そう言われましても、皆さんが感動してくれたとしか」

「あなた、何かしたんじゃないでしょうね」

「あの状況で何をどうするんですか?」

「あんな適当な英語でよくも…」

「私は適当なこと言ったつもりないですけど」

「退屈なスピーチだったじゃない」

「内容分かっていってます。具体的にどう面白くなかったのでしょう?」

「それは言うまでもないことでしょ?そんなことより、あなた中卒だったわよね。なんで英語喋れるのよ」

「あの、お母さん勘違いしてます。私、一言も中卒なんて言ってません」

「中学までって言ってたじゃない」

「中学まで日本にいたって言ったんですよ」

「え、何、つまりどういうことなの?」

「ですから、中学卒業後は父の仕事の都合でイギリスの高校に進学したんです。大学卒業後に帰国したので、学歴は大卒と変わらないかと」

「帰国子女だったの?聞いてないわよ」

「ご挨拶に伺った時にちゃんとお話しました。同席していた大輔さんとあ子ちゃん、それからお父さんに確認してみてはどうでしょう?」

「はっきり言わない方が悪いんでしょ?」

「聞いてない方が悪いと思いますけど」

「東大卒の私が聞き間違えるわけないじゃない」

「すごいいい自信ですね」

「あなたの父親や普通の地味な公務員のくせに、海外とか嘘つくんじゃないわよ」

「地味ですか?父は相当頑張って仕事をしてますけど」

「海外に移動って完全に左遷じゃない?やっぱり底辺一家ね」

「国際公務員に左遷なんかないですけど」

「国際?そもそも高い語学力を買われて海外赴任が前提なので」

「なるほどね。父親の影響でちょっと英語ができただけか。そのくらいで偉そうにしないで欲しいわね」

「そう見えるならそれで結構です」

「そうそう。ドレスサロンの件なんですけど、今からお風呂に入らなきゃいけないから、その話はまた今度ね」

翌日。

「お母さん、私のドレスをどこにやったんですか?サロンの方がお母さんに預けたと言ってるんですが」

「私が取りに行ってあげたけど」

「じゃあ今からそちらまで取りに行きます」

「いいけど、ちょっと破けてるわよ」

「え、どうしてですか?」

「来てもないんですよ。古いからじゃないの?私が捨てといてあげるわ」

「やめてください」

「なんでよ、ゴミ同然じゃない」

「どういう状態か教えてください」

「あちこち破れて、もう着られそうにはないわね」

「どうしてそんなことに?」

「さあ、店側の過失じゃない?」

「普通に扱えば破れるものじゃありません」

「私に言われても知らないわよ」

「お店の過失だと言うなら、店側に請求します」

「何を?」

「損害賠償ですよ」

「やめなさい。私の知り合いだと言ったでしょ。あんなボロ雑巾みたいなドレスで大騒ぎするんじゃない」

「ひどい。あれは母の形見なのに」

「そんなことより昨日の英語スピーチのことだけど、親戚がみんなあなたの拙い英語を笑ってたわよ」

「素晴らしかったと褒めていただきましたが」

「お世辞に決まってんでしょう。私があの子は頭が悪いからってフォローしておいたから、感謝しなさい」

「何のフォローにもなってない気がしますけど」

「失礼な英語を披露した慰謝料として、親戚に配る香典袋10万円。あなたが負担しなさい」

「何も謝るようなことはしていません。スピーチを聞き取れていたら分かるはずです」

「まあ、生意気な。東大の英語力を持ってしても理解できないって言ってんのよ。とりあえず破れていても構わないのでドレスを返してください。今から取りに伺います」

「そう、掃除用の雑巾にしようと思ったのに」

2時間後。

「ドレス確認しましたけど、これ明らかにハサミで切られてますよね」

「試着した時に切れちゃったんじゃないの?」

「私、試着してません」

「じゃあやっぱり店側の過失に違いないわ」

「スタッフに電話して聞きました。返却時は破れていなかったそうです。またサイズの件について謝罪をもらいました」

「あっそ」

「お母さんが切ったんですよね」

「そうよ。私がやったけど。だから何?」

「なぜですか?大事なものだって言いましたよね」

「だからよ。私はあんたの泣き顔が見たかっただけ」

「話になりません。嫁いびりの域を超えています。このことは弁護士に相談しますね」

「弁護士ですって。大げさね」

「お母さんには雑巾に見えたとしても、私にとっては大事な大事なドレスなんです。そのことをよく考えてください。では」

3日後。

「あんなさん、先日の結婚式はありがとう。最高のスピーチだって夫も喜んでた。緊張してちょっと噛んだけどね」

「今ちょっと時間いいかな。年末年始でお休みだから大丈夫だよ。どうしたの?」

「実は今日親戚の集まりがあって、規制してるんだけど」

「ああ。大輔がいるから行かないって言ってたけど、何があったの?」

「あのね、義母が親戚のみんなにこう言ってたの。あんなさんのスピーチの原稿は自分が書いたって」

「え、自分で考えたんだけど。私はもちろん分かってるよ。だったらいいよ。私は別に気にしないから」

「でもあんなに素晴らしいスピーチをしたんだもの。あんなさんの名誉を奪われるのが耐えられなくて」

「あ子ちゃん、そう思ってくれてありがとう」

「だからね、私が違うって言おうとしたんだけど、お母さんに止められて何も言えなかった。ごめん」

「そこまでしなくても大丈夫だよ。私のせいであ子ちゃんの立場が悪くなったら嫌だからさ」

「でも必ず親戚のみんなに説明するから」

「無理することないよ。そのうちみんな分かると思うから」

「どういうこと?」

「自分の名誉は自分で取り戻すってこと」

翌朝。

「母さん。あ子から聞いたよ。親戚にあんなの英語のスピーチは自分が原稿を書いたって嘘を言ったらしいな」

「本当のことでしょ?」

「どこが?何をどう助けたの?具体的に教えてくれる?」

「それはほら、全体的によ」

「全体的にって何?もっとさ、要所要所詳しく教えてよ」

「だから要は、断り技に絡めた自分語りのスピーチよ。そういう内容になってたでしょ」

「ああ、母さんさ、英語分かってないよね」

「何ですって?私だって留学経験もあるし、TOEICも持ってるのよ」

「いや、母さんの言う留学って1週間程度のガイドツアーでしょ。TOEICだって3級じゃん」

「バカにしてるの?」

「それくらいで大きい顔しないでって言ってんの」

「してないわよ」

「母さんはあんなの話の価値を理解できてない。だからあれは私が考えたスピーチだって。じゃあなんであんなに喝采を受けたか分かる?私が外国人受けする話題を教えてあげたからよ」

「うん。あんなは話題なんか言ってないし、自分語りしてない。婚約者をかばいたい気持ちは分かるけど、その嘘はあんなさんのためにならなかったわよ」

「じゃあ、どんなスピーチだったか、一言一句間違いなく教えてよ。教えたなら言えるよね」

「えっと、まずは自己紹介でしょ」

「そんなの中学1年生でも分かるでしょう。俺が聞きたいのはスピーチの中身だから」

「さっき言ったでしょう。分からないなら分からないって素直に言ったら」

「何よ。じゃああなたは分かるの?」

「尊敬は与えられるものではなく積み重ねるもの。よくある言い回しよね。ああいうの外人は好きだから」

「そんな簡単にまとめていい言葉じゃないんだよ。尊敬は生まれや立場でもらえるものじゃない。行動や姿勢によって後から積み重ねて得るもの」

「普通のことしか言ってないじゃない」

「これは苦労がある人が口にする言葉だよ。この言葉であんなの性格と生き方を理解したみんなは感動を受けて褒め称えてくれたんだ」

「あの人たちも騙されたのよ」

「母さん、いい加減にしろ。母さんは日本の恥だ」

「なんでそこまで言われなきゃいけないのよ」

「言われるようなことをしたからだろう。母さんがすべきことは2つ。親戚へついた嘘を明かす。あんなに謝罪する」

「よ、なんで私がそんなこと」

「そうしないと俺は母さんの息子をやめる」

「なんであの女の味方をするわけ?」

「結婚を決めた人だからに決まってんだろう。もういいわ。あんたなんて私の息子じゃない」

「よかったよ。これで終わりだな」

「はい。さようなら」

「結婚式にも呼ばなくていいわ」

「安心して呼ぶつもりないから。じゃあね」

「え、嘘?本気なの?ねえ、待って。冗談よ。あの女ばっかり構うから寂しかっただけなの。謝るから絶縁するなんて言わないで」

大輔は電話を切った。

その後、あ子にも電話がかかってきた。

「ねえ、聞いて。あ子」

「何?私今、夫とデート中なんだけど」

「それどころじゃないのよ。大輔が私と絶縁するって言うの」

「お兄ちゃん、ナイス」

「何言ってるの?あ子は私の味方でしょ?」

「うん。お兄ちゃんとあんなの味方だよ。私、子供の頃からどうしてうちのお母さんは嘘ばっかりつくんだろうって不思議だった」

「嘘なんてついてないわよ」

「子供の頃の疑問は、大人になって軽蔑に変わったの」

「私はあなたたちの生みの親であり、育ての親よ。感謝こそされど、言われる覚えはないわ」

「だからって子供に押し付けすぎだよ。私たち大変だったんだよ。毎日習い事ばっかりで、子供にいい教育を受けさせたいと思うのは当然でしょ」

「月曜から土曜まで全てピアノやプール、塾などの習い事。唯一の日曜日でさえ、お父さんと家を大掃除させられた」

「家族ってのは助け合いなんだから、やって当たり前」

「お母さんは何もしてなかったよね」

「私は日曜日以外毎日やってるからいいの」

「毎日やってる割に汚れてたけど」

「結局何が言いたいのよ」

「お母さんはさ、親戚や周りのみんなに自慢とアピールをしたかっただけでしょ。これだけ習い事させることができる余裕。いかにもすごい子育てをしてますみたいな立派な母親ぶって」

「あなたたちのためを思ってのことでしょ」

「そうだとしても、私たちのことは全然見てくれなかったね」

「何が言いたいの?」

「私はさ、お母さんのことが好きだったんだよ。だからお母さんが喜ぶならどんなことも頑張った。でも一度も私の目を見て褒めてくれなかったね」

「そうだったかしら」

「私もお母さんと絶縁します」

「ちょっと待ってよ。褒められなかっただけでなんでそうなるの?」

「他にも色々あるよ。積み重なった結果だから」

「あ子までそんなこと言わないでよ」

「今までだって何度も言ったよ。でも何も変わらなかった」

「本当に本当に変わるから」

「あんなさんにしたこと、私もお兄ちゃんも全部知ってるの」

「え?人の大事なものをよく台無しにできたね」

「あれは事故なのよ」

「私も何かを壊されるかと思うと怖いよ。だから離れる。あ子」

「あ子ってば」

5分後。

「いきなり何ですか?」

「あなたのせいで、大輔からもあ子からも絶縁宣言されたんだけど。2人に何か言ったでしょう?」

「むしろ何か言ったのはお母さんの方ですよね」

「私が何をしたって言うのよ」

「あ子ちゃんから聞いてますよ。親戚にあの英語スピーチは自分が助けたって」

「本当のことじゃない」

「英語のスピーチを教えてもらったLINEなんかどこにもありませんけど」

「そういう意味の助けたじゃないわよ」

「じゃあ何を助けたんですか?」

「あの場でスピーチをさせてやるっていうチャンスをあげたでしょ」

「頼んでないし、むしろ邪魔しかしてませんよね」

「大した学歴でもないくせに偉そうに。どうせ聞いたこともない大学でしょ」

「行ってみなさいよ。どこの大学か」

「オックスフォード大卒ですが」

「嘘でしょ?」

「卒業証書もありますけど」

「あ、そう」

「この際正直に言いますね。もうこれ以上恥を晒すのはやめましょう」

「何のことよ」

「東大卒っておっしゃいますけど、東京芸術女子大学のことを略してたんですよね」

「なんで知ってんのよ」

「あ子ちゃんが押入れの中から卒業証書を探したんです。あの頃から、子供や親戚にまで東大卒と言ってたそうですね」

「別に嘘はついてないわ。略してそう呼んでたんだから」

「大輔さんもあ子ちゃんも、親戚に説明するって言ってました」

「何ですって?」

「学歴やスピーチのこと、そして私のドレスのことも全部です」

「私を悪者に仕立て上げようとしてるの。名誉毀損だ、訴えてやる」

「お母さんが私から訴えられるんです」

「なんで私が?」

「器物損壊で被害届を出して、民事で損害賠償請求しますので」

「ちょっと大事にしないでくれる?」

「私にとっては大変大きな出来事ですし、到底許せる問題ではありません。なので法の裁きを受けていただきます」

「そんなに私を悪者にしたいのね」

「どうしてそんなに被害者みたいな態度なんですか?」

「私が切ったなんて証拠ないでしょ」

「あのドレスは私が袋に入れてサロンに預けました。返却の際もビニールに入れて返したそうです」

「それが何なのよ」

「なので中身を触ったのは私とサロンの方だけなんです。もしドレスにお母さんの指紋があったらどうします?」

「袋は開けて中身は触ったけど、切ったりしてない」

「ハサミで切ったって認めましたよね。LINEも残っています」

「あんな切れないドレス持っててもしょうがないでしょ」

「何度も言いましたよね。何者にも変えられない大切なものなんです」

「そんなに大事ならそもそも持ってくるんじゃないわよ」

「大切なものを壊された私の気持ちがお母さんに分かりますか?」

「分かるわけないじゃない」

「分からないようでしたら、精神的苦痛の慰謝料として40万円請求しますね」

「はあ。こんなことでメンタル弱すぎじゃない?」

「ちなみにドレスの鑑定書も出しました。祖母がイギリス王室御用達の職人に特注したもので、現在の評価額は300万円を下りません」

「はあ、あのボロ雑巾が?」

「補修費用も含め500万円を請求します」

「ふざけんじゃないわよ」

「こっちのセリフです」

「お金がないからこうやって取ろうとしてるんでしょ。なんて欲深い女」

「謝罪も反省の様子もないみたいですね」

「無理。高すぎ。払う気持ちもないわ」

「ではお父さんにご相談せざるを得ません」

「え、払う気がないんですよね」

「それだけはやめて。離婚されるわ。ねえ、どうにかならないの。370万円なんて払えないわ」

「お父さんに頭を下げて肩代わりしてもらうなり、少しずつでもいいのでご自分で働いて払うなり。いくらでも方法はありますよ」

「私ずっと専業主婦だったから、働き方なんて知らないの」

「職場の先輩が教えてくれますよ。全員年下でしょうけど」

「そうだ。大輔の結婚を許すわ。それでチャラにして」

「許すも何も絶縁されてるんですよね。それにお母さんの許可いりません」

「お願いよ。何でもするから免除にしてください」

「これ以上あなたに伝える言葉はありません。I wish you well」

「ああ、どういう意味?きっと丁寧な挨拶よね」

「さあ、どうでしょう?では失礼します」

その後、義母はお父さんに頭を下げて肩代わりする方法を選んだようですが、「支払いは自分でしなさい。俺は一切関与しない」と却下され、自分で払うしかなくなりました。同時に離婚も切り出され、家まで追い出されました。夫に理不尽に捨てられたと親戚に助けを求めるも、大輔とあ子ちゃんによって真実が広まり、一人ぼっちです。学歴自慢も嘘だったと分かり、地元の人も離れていき、強がり得意のマウントが通じなくなりました。今は安いパートで一人寂しく暮らしているそうです。

ある日コンビニに行ったら、自分より年下の高校生バイトに「なんで分かんないんですか?もう5回目ですよ」と呆れ顔で注意されていて、頭を下げているところを見かけました。なんか視線があった気もしましたが、当然スルーです。

ちなみに最後に伝えた英語の挨拶は、もう頻繁には会えなくなる相手に対して最後に送る餞の言葉としてネイティブが使う挨拶でした。義母は理解してなかったようですが。

私は先日、大輔と結婚しました。あのドレスをウェディングドレスにリメイクし、海外で身内だけの式をあげました。天国の祖母も母も、きっと喜んでくれていると思います。

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