妊娠したと告げた瞬間、夫は言った。「それはあの子の子だから、責任を取って再婚するわ」。私は半年間、不妊治療の痛みに耐えてきた。なのに彼は、私の留守中に実の兄の妻を我が家の寝室に招き入れていた。証拠の映像を見せても「AIだろう」と笑った夫。義姉は「奥さんに原因があるのよ」と開き直った。全てを失った二人は、それでも幸せそうに式場の下見に来た。そこへ親族、友人、会社の人間が続々と集まってきた。私た…

妊娠したと告げた瞬間、夫は言った。「それはあの子の子だから、責任を取って再婚するわ」。私は半年間、不妊治療の痛みに耐えてきた。なのに彼は、私の留守中に実の兄の妻を我が家の寝室に招き入れていた。証拠の映像を見せても「AIだろう」と笑った夫。義姉は「奥さんに原因があるのよ」と開き直った。全てを失った二人は、それでも幸せそうに式場の下見に来た。そこへ親族、友人、会社の人間が続々と集まってきた。私た...

「お兄さん、突然何の冗談ですか?」
「本気だ。行動がおかしいんだよ。例えば、運動嫌いのエリカが突然ウォーキングを始めたんだ。」
「健康のためじゃないんですか?」
「としても、夜の二十三時頃に出ていくのはおかしいだろ。」
「確かに、それはちょっと遅いですね。」
「女性の一人歩きは危険だって言ったんだが、深夜の方が静かだからって聞かなくてさ。」
「それはいつからですか?」
「半年くらい前だよ。」
「実は……浩さんもランニングと言って、同じ時間帯に外に出るようになったんです。」
「いつからだ?」
「半年くらい前ですね。」
「同じ頃だな。こっちは男だし、大して気にしてなかったんだが。」
「何時頃に帰ってくるんですか?」
「一時少し過ぎたくらいだ。」
「エリカもそのくらいだよ。」

最初は運動ならいいことだと思って応援していた。しかしある日、エリカのウォーキングに行く姿が気になった。夜中だというのに化粧が濃いのだ。
「確かに変ですね。夜中だし、私ならメイクはしません。」
「だろ?胸騒ぎがしてな。三日前の晩、後をつけたんだ。」
「浩さまとお姉さんが会ってたってことですか?」
「うん。俺らの家の中間地点に公園があるんだが、そこで二人が会ってたんだ。」
「ホテルとかじゃないなら、相談事とかじゃないんですか?」
「信じたい気持ちは分かるよ。でもな、二人で多目的トイレに入るのはおかしくないか?二十分も出てこなかったんだぞ。」
「信じられません……私たち、仲良くしてますし、夫婦仲が悪いとかもありません。」
「うちもそうだった。だから驚いてるんだ。」
「夫に聞いてみます。」
「待ってくれ。」
「どうしてですか?」
「お姉さんの具合が悪くなって、付き添いで一緒にトイレに入っただけかもしれないだろ。」
「三日連続で具合が悪くなってトイレに入ると思うか?あの日から毎日定期行してたんだ。本当に具合が悪いなら、ウォーキングなんて休むはずだ。」
「確かに、おっしゃる通りです。」

さとみに話すべきか迷った。だが、妊活もしていると聞いていた。真実を知るなら早い方がいいと思ったのだ。
「辛い思いをさせてごめんな。」
「いえ、辛いのはお兄さんも同じですから。」
「俺も一応スマホで動画は撮ったんだが、暗いせいかあまり顔が映ってなくてな。弁護士の友人に相談したら、これじゃ言い逃れされるかもしれないって言われた。」
「はっきり顔が映った証拠が必要ってことですか?」
「そうなんだ。だから、俺は直近でいくつか出張を入れることにした。さとみちゃんもどこか行くことできないかな?」
「私たちが同時にいなくなれば、相手が動き出すってことですか?」
「そう。その日に探偵をつけようと思ってる。」
「分かりました。ちょうど良かったんです。母の体調が悪いみたいで、近々実家に帰ろうと思ってたところだったんです。」
「出張は来週の火曜日なんだが、その日でいいか?」
「はい。浩さんにもそれとなく言っておきます。」
「じゃあよろしく。」

翌日、さとみが夫に言った。
「来週の火曜日なんだけど、実家に帰っていいかな?」
「何かあったのか?」
「母さんの具合があまり良くないって言ってたでしょ。少し悪化しちゃったみたいで。父さんも疲れてるみたいだし、手伝ってあげたくて。」
「それは心配だね。帰ってあげた方がいいよ。」
「ありがとう。排卵日なのにチャンス逃しちゃうけど、ごめんね。」
「また来月頑張ればいいじゃん。」
「うん。そうだね。ご飯はどうする?」
「適当に外で食うから大丈夫だよ。俺のことは心配しなくていいから、何日かゆっくりしてきなよ。」
「いい旦那さんでよかった。」
「だろ?じゃあ遠慮なく行かせてもらうね。」
「お母さんとお父さんによろしくな。」

数分後、さとみは兄に電話した。
「お兄さん、来週の火曜日、実家に帰ることになりました。」
「俺の方も出張のことを伝えたよ。土曜に戻るってことにしてあるけど、向こうはゆっくりしておいでって言ってたから、私もそのくらいまでは大丈夫です。」
「俺が考えるに、普段はトイレでこそこそしてるから、家を空けたら羽を伸ばすと思うんだ。」
「はい。」
「ホテルか、あるいは俺らどっちかの家とかに行くはずだ。小さいカメラを用意した。見つかりにくいところに設置してもらえないかな。」
「そこまでするんですか?」
「家に入っただけだと、挨拶に寄っただけと言い逃れされるかもしれないだろ。頼む。俺もこんなモヤモヤした毎日を終わらせたいんだ。あいつらに思い知らせてやりたい。」
「分かりました。私も真実を知りたいです。」
「ありがとう。リビングと寝室に一つずつ頼むよ。」
「はい。」
「映像の確認はこっちでやるから、見なくていい。」
「お願いします。」

一週間後、さとみが浩に連絡をした。
「母の体調も良くなったし、今から帰るね。」
「え、明日って言ってなかったっけ?」
「主婦がいつまでも家を開けるのは駄目って言われちゃったの。」
「本当に昭和な考え方だよね。」
「今どこ?」
「駅。あと五分くらいで着くわ。」
「ああ、そうだ。卵とティッシュが切れてる。」
「今日は卵使わないし、ティッシュならパントリーに大量にあるわ。」
「じゃあ、アイス、冷たいのが食べたい。」
「冷凍庫に買ってあるけど。」
「明日のパン、駅の裏のパン屋のメロンパンがいいな。買って帰るね。」
「よろしく。」

さとみが帰宅すると、浩は少し落ち着かない様子だった。
「何か、急に帰ってきて迷惑だった?」
「いや、全然。」
「家に近づいて欲しくなさそうだから。」
「そんなことないよ。ただ、部屋が汚くてさ。急いで片付けようと思ったのがバレちゃったな。」
「別にいいよ。私がやるから。」
「疲れてるんだし、俺がやっとく。パンだけよろしくな。」

数分後、さとみは兄に電話をした。
「お兄さん、本当にお姉さんがうちにいるんですか?」
「探偵の報告だと、一時間前に家に入ってるらしい。」
「浩さん、私に帰ってきて欲しくなさそうでした。エリカさんが出ていくために時間を稼いだんでしょうね。」
「そうだろうな。」
「私、無理です。あの二人が使ったベッドで寝られません。」
「だよな。まさかそっちの家ばかり使うとは思ってなかった。」
「お姉さんが自分たちの家に呼ばないのには、理由があるんでしょうか?」
「うちは近所付き合いが結構あるからな。人の目を気にしてるんだろう。」
「なるほど。」
「どうする?実家に戻るなら送るよ。」
「いえ、心配かけたくないので、ホテルに泊まります。」
「お金は俺が出すから。」
「あ、いえ、大丈夫です。明日、カメラを回収したら連絡しますね。」

翌日、浩はさとみを問い詰めた。
「さとみ、何してたんだよ。昨日、なんで帰ってこなかったんだ?何度電話しても出ないし、心配したんだぞ。」
「ごめん。メロンパン買ってたら、母の容体が急変したって連絡があって。」
「そうだったのか。だったら連絡の一つでもくれたら良かったのに。」
「ごめん。」
「急いで戻らないといけないんだよな。お母さん、心配だね。ゆっくり付き添ってあげな。」
「うん。ありがとう。」
「次からは帰ってくる前に連絡してほしい。」
「なんで?」
「ちゃんと片付いた部屋で出迎えたいからさ。」
「分かった。」

数日後、兄がエリカを問い詰めた。
「俺の弟と浮気するなんて、大した根性してるな。」
「はあ?」
「浩司としょっちゅう会ってるだろう。」
「そりゃ身内だから、たまに会うこともあるわよ。」
「俺やさとみちゃん抜きで会うのはおかしいだろ。なんで浩司の家に行ったんだ?」
「どうしてそんなことまで知ってるのよ?」
「いいから理由を言え。」
「さとみちゃんがご実家に帰ってるでしょ。あなたも出張でいなかったし。料理や掃除とか助けになればと思っただけよ。」
「ああ、優しい義姉で浩司も喜んでただろう。」
「あなたの弟だから優しくしてるだけ。変な勘違いしないでほしいな。」
「俺の家に泊まる必要があったのか?しかも夫婦の寝室で一緒に寝てただろう。」
「ちょっと待って。何なの?さっきからまるで見てたみたいな言い方ばかりして。」
「見たんだよ。仕掛けておいたカメラでな。」
「はあ?盗撮。最低すぎるんだけど、本当に気持ち悪い女。」
「どの立場でキレてんだよ。仕方ないじゃない。浩さんが誘ってきたんだから。」
「お前は誘われたら誰にでもホイホイ付いていくのか?」
「身内だし、今後も会うのよ。空気が悪くならないように気を使ったの。」
「そんな気を使う前に俺に相談しろよ。分かった。私が間違ってました。ごめんなさい。これでいいでしょ?」
「いいわけないだろ。ウォーキングも浩司に会うためだな。」
「あの子が我慢できないって言うから、仕方なくよ。」
「トイレに二十分以上こもって、何を話すことがあるんだ?」
「ちょっと引くわ。そこまで束縛がひどい人だとは思わなかった。」
「これで怒らない旦那がいると思うか?」
「別にいいじゃない。」
「何がいいんだよ。」
「今までだって兄弟でいろんなものをシェアしてきたでしょ。今回もそれと同じだと思えばいいのよ。」
「ふざけるな。さとみちゃんの気持ちはどうなるんだ?」
「あんな女、知ったこっちゃないわよ。男が浮気する時は大抵、奥さんに原因があるのよ。」
「何を開き直ってんだ。ちゃんとさとみちゃんに謝罪しろ。そして責任を取れ。」
「あら、それはお互い様でしょ。ダブル不倫だから、プラマイゼロでしょ?払う必要なくない?」
「今後も夫婦でいられると思ってんのか?」
「はは。やっぱり無理だよね。分かった。じゃあ離婚で。」
「その態度はなんだ?」
「あなたが許してくれそうにないから、自分から引き下がったんでしょ。」
「反省してないだろ。」
「悪いとは思ってるわよ。」
「もういい。吐きそうだ。」
「病院行ったら?」

数時間後、さとみが兄に言った。
「お兄さん、連絡ありがとうございます。お姉さんがこんなにひどい人だったなんて。」
「真面目に配偶者だけを愛してた俺らが、なんでこんな辛い目に遭わなくちゃならないんだ。」
「本当ですよね。開き直りようがありえません。」
「さとみちゃんは直接会って話すのか?」
「いえ、私も会いたくないです。何をするか自分でも分からないので。」
「そっか。でも向き合わないとね。」
「はい。今から連絡してみます。」

さとみは浩を問い詰めた。
「お姉さんと浮気してたのね。」
「いきなり何言ってんだよ。看病疲れでおかしくなったのか?」
「お姉さんは認めたわ。連絡来てるんじゃないの?」
「いや、別に。」
「早く認めたら?」
「何を根拠にそんなこと言ってるのか意味が分からない。」
「根拠があれば認める?」
「認めるっていうか、知りたいな。何か誤解があるかもしれないからさ。」
「そう思ってメールで送ってるわ。大量の画像や動画データだから、LINEじゃ送れないの。」
「メールね。見てみるけど、誤解だと思うけどな。」
「言い逃れできないレベルの証拠だと思うよ。さすがプロの探偵さんだよね。二人の顔がはっきり分かるように、きれいに撮れてる。」
「見た。認めるのね。」
「これ、AIだろう。最近のAIはマジですごいな。本当に俺とお姉さんが怪しい関係に見えるわ。」
「何言ってんの?まだ認めないつもり?」
「そっちこそ捏造したこと認めてよ。」
「こんなことして誰が喜ぶんだよ。やるわけないでしょ。」
「うーん、そう言われてもなあ。」
「じゃあ裁判ね。プロにこれが捏造かどうか判定してもらいましょう。」
「ちょっと待てよ。身内同士で揉めるのは良くないだろ。」
「その原因を作ったのは自分たちでしょ。」
「とにかく落ち着いて、一度帰ってこいよ。」
「私のベッドであんなことしておいて、そこで寝ろって言うの?すごい神経してるわね。」
「映像はそういうことをしてるように見えるけど、これは本当に俺らか?記憶にないんだよな。」
「ひどい。お姉さんは認めたのに、あなたは最後まで嘘をつくのね。」
「記憶にないんだから仕方ないだろ。」
「もういい。ゆっくりその証拠を見て。それで考えが変わったら連絡して。」

数分後、エリカと浩は連絡を取り合っていた。
「やばいね。全部バレちゃったみたい。」
「なんでそんな余裕なの?親とか親戚にバレたら笑われるよ。」
「でもさ、私と新しく家族作れば寂しくないでしょ。私、妊娠したの。」
「誰の子だ?」
「あなたしかいないわよ。旦那とは半年以上そういうことしてないんだから。」
「本当に俺の子なのか?俺とさとみは長年子供ができなかったのに、お前とはできるなんて、できすぎてるな。」
「それはあの女の子宮が不良品だからよ。やっぱりそうだったんだね。俺の子ができた。本当に嬉しい。」
「不妊治療だって、自分が頑張ってますって顔してたけど、男だって辛いのよね。」
「辛かった。本当によく耐えたよ、浩さん。偉い、偉い。」
「エリカさんはやっぱり包容力があるよ。一生一緒にいたい。」
「私もよ。だからさっさと認めて、払うもん払って、別れて一緒になろう。」
「ああ、俺もそれがいいような気がしてきた。なんであんなに必死に否定しちゃったんだろう。」
「不倫がバレてすぐに認める人なんて、いないわよ。一度は誰だって否定するものよ。」
「確かに、無意識で否定してたわ。絶対に幸せになろうね。」
「ああ、一生エリカさんについてくよ。」

翌日、浩は兄の家に押しかけた。
「兄嫁を妊娠させたから、責任を取って再婚するわ。」
「はあ?子供まで作ってたのか。信じられない。」
「天から授かっただけだよ。」
「私がどんな思いで不妊治療を頑張ったと思ってるんだ。辛かったのはお前だけじゃないだろう。」
「そういうところがうんざりなんだよ。排卵とか注射の痛みに耐えたのは私よ。」
「もうそんな思いをせずに済むじゃん。お前と兄貴には悪いけど、ダブル離婚でよろしく。」
「昨日とはテンションも態度も随分違うのね。開き直りすぎじゃない?」
「だって事実だもん。今更隠してもしょうがないし。」
「なるほどね。妊娠したお姉さんと一緒に、新しい家庭を築こうってこと。」
「まあ、そうなるかな。」
「そんな簡単な話じゃないでしょ。お兄さんはどうなるのよ。奥さんだけじゃなく、実の弟にまで裏切られたのよ。」
「俺からすれば、ざまあみろって感じだけど。」
「なんてことを言うの?」
「昔から出来が良くて、比較されてばかりだったんだ。やっと兄貴に勝てたって感じがするんだよ。」
「こんな卑怯な勝ち方をして嬉しいの?」
「ああ。だって人生で一番大事なものを奪えたんだぜ。そして俺にとっては、人生で一番愛する人と一緒になれる。こんな最高なことがあるか?」
「あなたの最高が、誰かの最低になるのよ。」
「世界ってそういうもんだろう。持つものと持たざるものがいるんだよ。」
「自分が持つものだと言いたいわけ?」
「そりゃそうだろう。最高の嫁さんと可愛い子供を手に入れるんだから。お前や兄貴は、そのどちらも持ってないだろ。」
「気持ちはよく分かった。なら良かったよ。」
「私も相当キレてるけど、お兄さんが苦しんでる姿も見てきたから、怒りは二倍なの。」
「だから何だ?」
「こんなに怒ったことがないほど怒ってる。あなたたち、地獄を見るよ。」
「ああ、そんな言葉で俺がビビると思ってるのか?」
「それはまだ分からないでしょ。だって、まだ何もしてないんだから。」
「普段おっとりしてるお前が怒っても、ちわわが吠えてるのと同じレベルなんだよ。」
「小型犬の逆襲を楽しみにしてて。」

数分後、さとみは兄に連絡をした。
「お兄さん、LINEを見ていただけましたか?」
「ああ、あいつはそんな風に思ってたんだな。」
「お見せするか迷ったんですが、情を一切排除するためにあえて送りました。」
「構わないよ。俺もこれで覚悟が決まった。」
「でも、怒りに任せて偉そうに言いましたけど、何をどうするか、何も考えてないんです。慰謝料を取るくらいしか思い浮かばなくて。」
「そうだね。実際にできることはそれくらいだと思う。でも、プライドの高いエリカと甘えん坊の浩司にとって、一番辛いことをしてあげようと思うんだ。」
「何をするんですか?」
「お腹が大きくなる前に式を上げる予定らしい。あいつのLINEにはロックがかかってないんだ。寝た後にこっそり見て、証拠を取った。開き直って式の相談をしてる。」
「すごい神経ですね。まだ家には住んでるんですよね?」
「来週には出ていくと言ってた。そして、その式場なんだが、偶然俺の友人が経営してるんだよ。」
「そうなんですか?」
「そこで下見に来たあいつらに、とあるサプライズを見舞ってやりたいんだ。」
「何ですか?」
「二人に関係する人物を全て呼び出すんだ。同級生、ご近所さん。あいつらを信じてる人たちに、本当の姿を見てもらう。」
「すごい……あの人が全てを失う瞬間が見れるんですね。」
「浩司も無傷じゃ済まない。あいつは昔から母さんにべったりで、親戚連中にも可愛がってもらってきた。特に従姉の美雪さんとは仲が良くて、二人で今でも飲みに行く仲だ。」
「私も美雪さんは大好きです。あの人が何て言うかな?」
「あの人はきっとブチギレるよ。地獄を見せてやろう。」
「はい。」

一週間後、全てが決着した。エリカと浩は、式場の下見に来たところを、呼び寄せられた親族、友人、ご近所さん、会社の関係者たちの前で晒された。

「あんた、マジで性格腐ってんね。」
「お前に言われたくないな。」
「なんで今日が式場の下見の日だって知ってたのよ?」
「LINEを見た。さとみがそう言ってたぞ。」
「あの女……!」
「そして、なんで式場が俺たちを入れてくれたんだ?」
「たまたま俺の知り合いの会社だったからな。」
「親族やご近所さんまで呼ぶ必要があった?」
「あっただろ。おかげでお前の本性を皆さんに知ってもらうことができたからな。」
「晒し者にして、楽しかったでしょうね。」
「ああ、楽しかったよ。お前らの絶望に満ちた顔と、全てを失った瞬間を見届けることができた。これで俺もさとみちゃんも、前を向いて歩いていける。」
「あんた、さとみとできてるんでしょ。とことんゲスだな。」
「お前らと同じだと思われたことが、侵害だよ。」
「同じ境遇の二人が慰め合ってるうちに恋に落ちるなんて、少女漫画の王道でしょ?」
「残念ながら、お前らみたいなクズが登場する以上、漫画としては成立しないぞ。どちらかといえば、成人向けのコミックだな。」
「笑い事じゃないのよ。」
「俺としては、今日で全てが終わって、晴れやかな気分だよ。パーッと飲みに行きたいくらいだ。」
「あんたがうちの両親まで呼ぶから、里帰り出産すらできなくなったじゃない。」
「知るか。」
「あと、あれ何なの?綿棒で口の中をぐるぐるやつ。」
「あれをやったら帰っていいって言うから、二人でやったけど、DNA鑑定だよ。俺の子だと証明して、戸籍上は一応俺の子になってしまうからな。認知の手続きをするんだ。」
「養育費払わないの?」
「なんで俺が払うんだ?笑わせるな。」
「二人で孤独なスタートか。」
「誰と誰のことを言ってるんだ?」
「私と浩司に決まってるでしょ?」
「それは無理だろうな。」
「はあ?どういう意味?」
「あとは弁護士と話してくれ。じゃあな。」
「ちょっと待って。気になるじゃない?教えてよ。」

数分後、浩がさとみに電話してきた。
「お前、何してくれてんだよ。」
「こっちのセリフなんだけど。」
「親族、友達、会社の人まで式場に集めるなんて、正気か?」
「義姉と浮気して子供を作るのは正気なんですか?」
「しかもエリカさんの友達やご近所さんまで。総勢何人いたんだよ?」
「五十人くらい。お祝いするには少なかったかな?」
「俺らは普通に式の下見に行っただけなんだぞ!」
「まだ離婚も成立してないのに、随分と気が早いのね。」
「お腹が大きくなる前に、早く式を上げたいんだよ。」
「その式に、誰が来てくれると思うの?今日来てくれた人たちは全員怒ってたし、ドン引きしてたから来ないわね。その人たちがきっと話を広めてくれるはずだから、その他の人たちも来ない。」
「一体誰に祝福してもらうつもりなのかな?」
「じゃあ海外で二人で式を上げる。」
「それは構わないけど、慰謝料請求地獄に陥るあなたとエリカさんに、その余裕があるの?」
「は?」
「あなたには二百万請求する。貯金もないから、借金するはめになるわね。」
「俺には新しい生活があるんだぞ。」
「私も生きていかないといけないの。お兄さんたちはエリカさんの浪費で残金はほぼゼロ。あちらも慰謝料でマイナスよ。残金マイナスの二人が、海外式を挙げられると思う?」
「今後俺が働いて稼げば問題ない。慰謝料を払ってでも、俺らは一緒になることを選ぶ。」
「それは勝手だけど、決して楽な結婚生活じゃないわね。」
「なんでそう言い切れるんだよ?」
「浪費家のエリカさんと、お金の管理を私に任せっきりにしてきたあなた。どうなるか、火を見るよりも明らかでしょ。」
「どういう意味だ?ちゃんと説明しろ。」
「まずエリカさんは、全く料理ができないの。ほぼ外食か、Uberか、デパ地下だったわ。」
「え?」
「お兄さんが料理を担当してたのよ。デパ地下の食材を鍋にぶち込んだだけ。お兄さんはそれを知った上で結婚したの。あなたにその覚悟がある?」
「嘘だろ?」
「私の料理については、あなたが一番知ってるわね。」
「ちょっと待て。エリカさんは本当に何もできないのか?」
「洗濯機のボタンを押すことしかできないらしいわ。お兄さんはそれでも、明るくて前向きなエリカさんが好きだったんだって。」
「それはちょっと話が違うかも。」
「子供が生まれてみなさいよ。ミルク作れ、離乳食作れって命令されるようになるわ。お米一つ炊けないあなたに、できるかしら?」
「できないな。」
「あなたはエリカさんの何が好きだったの?」
「なんか引っ張ってってくれるところとか、頼りがいがあるところとか。」
「見間違えてたみたいね。エリカさんはお兄さんに引っ張ってもらって、頼りまくって生きてきただけの人。それを自分の力だと勘違いして、あなたにいい格好してみせただけなのよ。」
「マジかよ。」
「でも祝福するわ。幸せになってね。」
「え?それはちょっと待って。責任とって再婚するわって偉そうに言ったのは誰だっけ?」
「あれは実際に子供はできてるわけだし、責任を取るべきでしょ。」
「本当に俺の子かな?」
「今更何言ってるの?」
「だって、お前とも何年も妊活しててできなかったし。他の女性ならできるって話、できすぎてるよな。」
「DNA鑑定の結果を楽しみに待ちなさいよ。もし俺の子じゃなかったら、より戻してくれる?」
「ふざけないで。私は二人分の怒りを抱えてるの。」
「誰だよ?」
「お兄さんに決まってるでしょ。」
「なんでそこまで兄貴に入れ込むんだ?あ、もしかして、お前らもそういう関係なんじゃねえの?」
「あなたたちクズと一緒にしないで。お兄さんは私にすごく気遣いしながら、真相を究明しようと励ましてくれたわ。」
「ほら、それが下心あるって言ってんだよ。」
「人の浮気を疑う前に、自分の始末をつけなさいよ。親や親戚からも絶縁宣言されたし、美雪姉ちゃんからもブロックされたんだぞ。」
「でしょうね。友達や会社の人も、ゴミを見るような目で言葉もかけてくれなかったし。」
「良かったじゃない。ゴミだって、使い方によっては肥料にもなるわ。」
「ひどいこと言うね。」
「あなたが浮気してると知って、ショックだった。何のために辛い不妊治療に耐えてきたか、分かってる?」
「子供が欲しかったからだろう。」
「違う。あなたと一緒に温かい家庭が作りたかったのよ。」
「だから、悪いと思ってるって。」
「苦しくて辛くて、人間不信になりながらも戦ってきて良かったと思えたのは、あなたとエリカさんの絶望的な顔を見れたからよ。」
「何もかも失った人間に言う言葉か?」
「それだけのものを失うことをしたのは、自分でしょ。お前とよりを戻したら、回復できないかな?」
「できないし、協力する義理もないわ。さようなら。」
「待ってくれ。」
「何?」
「なんかさ、何もかも失ってまでエリカさんと一緒になりたいかって言うと、微妙だなって。」
「は?」
「俺の勘なんだけど、多分俺の子じゃない気がするんだ。」
「何言ってるの?」
「旦那の弟に手を出すような人だぜ。多分、他の男とも遊んでたと思うんだよな。」
「じゃあ本人にそう言えば?」
「やだよ、怖い。」
「今更何なの?俺と一緒に家族を作りたいんだよね。」
「え、さっきそう言ってたじゃん。」
「過去よ。今は、最近、詰まれたら無理。」
「さとみさえ許せば、親も親戚も許すと思うんだよね。」
「じゃあ一生許さない。」
「待ってよ。美雪姉ちゃんだけでも仲直りしたいんだ。」
「美雪さん、言ってたわよ。身内に手を出すキモい甥を可愛がってた自分が許せないって。」
「そんな……お正月もお盆も、あなたは里帰りすらできない。お祝い事もお悔み事も、参加は許されない。親の葬式もだ。」
「当然よ。そこにはお兄さんがいるんだから。」
「そう考えたら、ちょっとマジで嫌になってきた。土下座するし、何でもするから許してほしい。マジでもう二度としない。」
「本当に懲りるなら、勝手に懲りなさいよ。あなたが悪人でもゴミでも、私には関係ないんで。」
「そんなことを言わないで。やっぱりさとみが好きだ。」
「気持ち悪いから、二度と話しかけないで。」

翌日、さとみと兄は、ようやく会って話をした。
「お疲れさま。やっと終わったね。」
「はい。お疲れさまでした。」
「しかし、父さんのキレっぷりはすごかったね。」
「お父さんがあんなに怒ってるの、初めて見ました。美雪姉さんも泣いてたし。」
「可愛がってた甥だからこそ、悔しかったんでしょうね。」
「俺と弟の共通の知り合いも結構多かったから、意外と集めやすかったけど、さとみちゃんも大変だったんじゃない?」
「浩さんの会社の上司の方には、動いてもらったんで、交流があったんです。」
「そっか。そうだよね。結婚式も新婚旅行も思い出も、全部無駄だったか。」
「お兄さん、私はそうは思ってません。確かに腹が立ったし、今も恨んでますけど、楽しかったのと好きだったのは事実なんで、そこを否定したくないんです。じゃないと、数年分の自分を否定するのと同じだから。」
「うん。そうだね。好きだった人を嫌いになった。それでいいか。」
「はい。」
「さとみちゃん、どうか幸せになってほしい。」
「お兄さんも。あ、いや、健一さんも。ありがとう。」
「さあ、これから頑張りますか。」

その後、あの日から半年。要望通りダブル離婚は成立し、浩司とエリカは再婚したが、そこにあったのは真実の愛ではなく、地獄の押し付け合いだった。料理も洗濯も一切できないエリカに、浩司は早々に愛想を尽かしたが、親族から絶縁され、会社でも兄嫁を寝取った男として居場所を失ったせいで、逃げ場はなかった。さらに追い打ちをかけたのはDNA鑑定の結果。お腹の子は浩司の子ではなかったら、喜んだかもしれないが、紛れもなく浩司の子供だった。責任から逃れることもできず、さとみと健一への慰謝料四百万の支払いに追われる毎日。二人とも実家や親戚から見放されており、一切頼ることもできないようだ。慣れない育児と極貧生活で、かつての威勢は見る影もなかった。

健一は転勤して九州で暮らしている。たまに連絡をするが、再婚はまだまだ先だね、と笑っていた。さとみも傷が癒えるには、もう少し時間がかかりそうだ。それでも、人生も幸せも子供も諦めてはいない。いつかあいつらと道で通りすがった時、眩しいくらいの笑顔でいられたらと思っている。

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