「ねえ、今日の夕飯またカレー? この前もカレーだったよね。最近手抜きすぎじゃない?」
「ごめん…。じゃあ、何がいい? 食べたいもの、作るから」
「ああ、そんなの自分で考えろよ。結婚して何年目だと思ってるんだ?」
「でも、食べたいものってその日によって変わるし…。」
「そこを察するのが妻の務めだろ。つうか、俺の意見を聞いて自分で考えるのをサボるつもりか?」
「え、そんなつもりは…。」
「なら自分で考えろよ。俺が毎日働いてる間、お前は家で何してるんだ? 専業主婦なんて楽でいいよな。家にずっといるんだし。それなのに、献立ひとつ自分で考えられないとか、ちょっと甘えてるっていうか…。なめてんの?」
「ごめんなさい。ちゃんと作るね。」
数時間後。
「ヤッホー! みさ、来週暇? ランチ行かない?」
「ありがとう。行きたい! …ちょっと夫に確認するね。」
「え、ランチの予定も許可取るの?」
「専業主婦だからさ。」
「まあ、そっか…。」
「でもさ、最近ちょっと悩んでるんだよね。夫が仕事が忙しいのは分かるんだけど。」
「おお、何? 何があったの?」
「まあ、そんなとこかな。」
「いいじゃん、教えてよ。そういう話、大好きだし。」
「…ならちょっと愚痴ってもいい? 夫が最近家事にうるさくてさ。手抜きするな、もっとちゃんとしろって。」
「うわ、何それ? 何様だっての?」
「今日なんて、家にいるのに同じメニューを作るな、って言われたのよ。献立を考える努力を怠ってる、ってさ。」
「そんなの、はいはい、って言ってやり過ごせばいいじゃん。」
「そうしたいんだけど、話が長いんだよね。もう2時間くらいその話をされてるのよ。」
「あ、ちょっと待って。2時間?」
「うん。」
「ああ、でも今日はまだましかな。この前、掃除ができなかった時は、『家にいたお前が一番汚してるのに、後始末もできないのか』って、しばらく怒られちゃって。」
「まあ、さすがにそれは後で謝ってくれたけど。」
「みさ、それ、普通じゃないよ。」
「え?」
「掃除ができなかったのって、その日だけでしょ? ちなみに、なんで掃除できなかったの?」
「体調が悪くて寝込んでて…。」
「それ、夫に話したの?」
「話したけど、『言い訳するな』って言われちゃったわ。」
「どう考えてもおかしいわよ、それ。普通、できなかった理由は聞くものだし、それが体調不良なら心配するものでしょ。」
「まあ…、暴力とかないし、まだマシだと思うんだけど。」
「みさ、おかしいこと言ってる自覚ある? DVがないのは当たり前だよ。あんた、洗脳されてない?」
「洗脳?」
「みさの実家ってDV家庭だったじゃん。だから基準がおかしくなってるんだよ。」
「そうなのかな…。洗脳とかは、ちょっと大げさだって。」
「それに、嫌なこと言ったらちゃんと謝ってくれるし、反省もしてくれるのよ。心配性だから、どこにいたかとかそういうのも聞いてくるけど…。無関心で無視されるよりは、愛されてるって感じじゃない?」
「まあ、その話はまた後でしよう。今言っても信じられないだろうし。」
「でもみさ、もし離婚するなら経済力が必要だよ。」
「離婚までは考えてないけど…。」
「今は考えてなくても、いつ必要になるかもよ。あと、選択肢の一つとしてさ。まずは自分で稼げるようになろうよ。」
「みさ、ウェブデザインできるよね? 学校通ってたんでしょ?」
「うん…。昔、少しやってたけど。」
「じゃあ、在宅でフリーランスやってみたら? 家にいたら、夫にも文句言われにくいでしょ。家事もやって、できることをしてみようよ。」
「ほら、家にずっといて暇って言い分なんでしょ? 暇な時間を減らすって意味でさ。」
「…それなら、やってみようかな。」
翌日。
「あのね、少し相談があるんだけど…。在宅でウェブデザインの仕事を始めたいんだけど、いい?」
「何それ?」
「少しだけお小遣い稼ぎをしようと思って。ほら、私、家にいるし、時間あるから。」
「まあ、家事がおろそかにならないならいいけど。どうせ大した金額じゃないんだろ?」
「そうだね…。ありがとう。」
1ヶ月後。
「そういえば、在宅の仕事、始めたんだっけ? いくら稼げたんだ?」
「今月は…、2万円くらいかな。」
「やっぱりなあ。そんなもんか。まあ、お小遣いになってるしいいか。」
「小遣い…。」
「数万でも、光熱費の足しになるしさ。」
「うん。始めたばかりだから、これから頑張るね。」
「家事もちゃんとしろよ。」
半年後。
「ねえ、聞いて! 今月、50万円稼げたよ!」
「マジで?」
「うん! すごいでしょ!」
「いや、まあすごいけどさ…。たまたまじゃないの? フリーランスなんて不安定だろう。」
「そうかもしれないけど…。でも嬉しいよ。」
翌月。
「今月はいくら稼げたんだ?」
「ごめん…。風邪ひいちゃって、今月はあんまり仕事できなかったの。」
「ほらな、やっぱり。」
「え…。」
「だから言っただろ、不安定だって。俺は熱があっても満員電車で通勤してるのに。お前は家で寝込んでサボれていいよな。」
「ごめんなさい。」
「調子乗るからこうなるんだよ。やっぱり女は、男の扶養に入ってるだけの能力しかねえよな。ああ、羨ましいぜ。だって、頑張って働かなくていいんだからさ。」
「…。」
「おい、聞いてるのか? 今月はどうなんだ?」
「今月は20万円だったけど…。来月からまた頑張る。顧客も増えたし、安定して稼げそうなの。」
「そう、それならいいけど。無理するなよ。」
数ヶ月後。
。
「ねえ、今月、100万円くらい稼げるようになったの。」
「ああ、すっご! 100万!」
「大手企業がクライアントになってくれたの。大学の時に成績が良かったんだけど、ウェブデザインを始めたって言ったら、その時お世話になった人とかの繋がりから、実は声をかけられたんだ。」
「そういえば、学生時代は成績トップだったもんね。」
「あと、いろんな企業や個人からもお仕事もらえて、すっごいの!」
「夫には言ったの?」
「言ってない…。前に『不安定だ』って言われたから。」
「それでいいよ。」
「え?」
「自分より稼いでる女だって知ったら、何されるか分からないもの。」
「…そうだね。」
「みさが在宅を始めて、もうすぐ1年でしょ? そろそろ離婚、考えたら?」
「まだそこまでは…。もしかしたら、夫が変わってくれるかも。」
「さっきも言ったけど、みさの優しさが足を引っ張ってるのよ。」
「だって…、やっぱりさ、家族だから信じたいんだよね。それに、普段は機嫌が悪いわけじゃないし、優しいところもあるのよ。」
「機嫌が悪い時は、仕事で忙しかったり、なんかタイミングが悪かったりするだけだし。」
「タイミングが合わないと機嫌が悪いって、それおかしいよ。」
「え?」
「うん…、なんでもない。とにかく、無理しないでね。」
1週間後。
。
「今日の掃除、ちゃんとやった? リビングに埃が溜まってたけど。」
「ごめん…。仕事が立て込んでて。」
「仕事? お前の小遣い稼ぎのせいで、家事がおろそかになってるじゃん。在宅ワークなんて楽なくせに。」
「…ちゃんとやるね。」
「あとさ、今日の夕飯、品数少なくない? 俺が毎日満員電車で通勤してるのに、お前は家でパソコン触ってるだけだろ。」
「なのに、夫に満足な食事も作らねえって、何考えてんだ。」
「ごめんなさい。」
「主婦の遊びのくせに、フリーランスとか格好つけるな。たく、誰に養われてると思ってんだよ。」
数日後。
。
「あのさ、今日着たシャツにシワがあったぞ。アイロン掛け、サボりやがったな。お前のせいで、恥かいたじゃねえか。」
「ごめんなさい。」
「最近たるんでるぞ。お前の小遣い稼ぎ、いい加減やめたら、家事に専念しろよ。」
「え、でも…、少しは稼ぎたいし。」
「少し? どうせ大した金額じゃないだろう。俺の給料で十分やっていけてるんだから、主婦の遊びで家のことをサボるな。お前は家のことだけしてればいいんだよ。」
「…。」
当日夜。
「あのさ、ちょっと聞いてもいい?」
「どうしたの?」
「実は…、夫が仕事をやめて、家事に専念しろって言ってきたんだよね。」
「はあ? マジで言ってんの?」
「うん…。もう限界かも。」
「家でやってるだけで、私も仕事をしてるわ。でも夫は理解してくれない。それどころか、『私は家事だけしてればいい』って。」
「私、妻として必要とされてないのよ。都合のいい女房って思われてるんだよね。」
「みさ、やっと目が覚めたね。」
「うん…。悲しいよね。」
「大丈夫?」
「わかんない…。まだ受け入れきれてなくて。」
「そっか…。でもね、みさ、今は混乱してるだろうけど、これはチャンスじゃない?」
「チャンス?」
「夫の言う通りにしてみたら? 『はい、わかりました』って、仕事やめちゃえば。」
「え、でも…、クライアントもいるし。」
「なんとかスケジュール、組めない?」
「多分大丈夫…。納期に余裕のあるものしか、今はないし。」
「オッケー。ならさ、みさの稼ぎがなくなったら、夫がどうなるか見てみようよ。」
「あんたの稼ぎ、100万円でしょ? 夫の給料だけじゃ、絶対生活できないよ。」
「それに、証拠も全部揃ってるでしょ? 夫のモラハラのライン、全部スクショしてあるよね。」
「うん…。全部残してある。」
「正直、気が引けたけど、証拠は集めなさい。」
「うん…。」
「よし、じゃあ、いよいよ動きますか。絶対勝つよ。みさ、私がいるんだから、任せなさい。」
翌日。
「あのね、考えたんだけど…。あなたの言う通り、仕事をやめることにした。」
「マジで?」
「うん…。私も至らなかったわ。家事に専念するね。」
「よし、それでいい。やっと分かってくれたか。」
「これからちゃんと家事やれよ。」
「はい。」
「サボるんじゃねえぞ。」
翌月。
「なあ、なんか最近もやし多くね? なんで前は肉も魚もあったし、品切れになることもなかっただろう。買い出し、さぼってんの?」
「いいえ、毎日買い出しに行ってるわ。でも、生活が厳しいの…。生活費が足りなくて。」
「今月の生活費が足りない?」「なんで?」
「あなたの給料だけだと、毎月赤字なのよ。今まで私の稼ぎで補填してたから。」
「は? 補填? 何言ってんの? お前の稼ぎって、小遣い程度だろ? それくらいの補填なら、節約とかでなんとかなんじゃん。」
「えっと、小遣い稼ぎにも種類があるからね。あなたにとっては小遣いくらいの収入だったのかもしれないけど。」
「ちょっと待て。具体的に、いくら足りないんだ?」
「毎月、20万円くらい赤字だよ。」
「20万? 嘘だろ? なんでそんなに足りないんだ?」
「家のローンもあるし、車もローン組んでるでしょ。固定費や光熱費もあるし、食費だって結構してるのよ。いい食材を使ってたから。」
「安いものを使ったら、あなたは文句を言うもの。」
「ちょっと待てよ。話が合わねえぞ。20万を補填してたって、お前の稼ぎって、多くて月10万とかじゃなかったのか。」
「最初はそうだったけどね。始めたばかりの時は。でも、ここ1年くらいは軌道に乗って、多い時は月100万円くらい稼いでたよ。」
「100万? あ、いやいやいや。そんなに稼いでるなら、なんで言わなかったんだよ。」
「言ったよ。50万くらい稼げるようになった時に。でも、『たまたまだろ、不安定だ』って言われたよね。」
「それから、言わなくなっただけ。何言っても、結局信じてくれないんだって。」
「それなのに、不調で稼げない時の数字だけは信じてたから。」
「私が稼いでるって事実を、信じたくなかったんでしょ。」
「…。」
「そんなだから、生活はこれから厳しくなるよ。」
「分かった…。悪かった。」
「こんなに貢献してくれてたんだな。」
「それなら、また働いてくれ。」
「え、でも、小遣い稼ぎやめろって言ったよね。」
「あれは…。”
「やっぱり、働いてくれた方がいい。」
「嫌だよ。」
「嫌って…、え、なんで?」
「いや、むしろ、なんで働くと思ったの? あなたが『主婦の遊び』ってバカにしたんでしょ? だからもう働かない。」
「それに、あなたのモラハラには、もううんざりなの。」
「ちょっと待てよ。モラハラって、いきなり何の話してるんだよ。」
「私の実家がDV家庭だったの、知ってるよね。」
「ああ…、なんかそんな話してたな。」
「だから、暴力がないあなたは、いい夫だと思ってた。」
「これくらい普通、って感覚が麻痺してたわ。」
「でも友達に言われたの。『あんた、洗脳されてるよ』って。」
「それで、やっと目が覚めたわ。」
「洗脳? お前、それドラマの見すぎだって。」
「それに俺、モラハラって言うほどひどいこと言ってないじゃん。」
「そりゃ暴言はダメだし、手を出すのは論外だけど、俺は当たり前のことしか言ってなかったし。それでモラハラって言われてもな。」
「あなたに自覚がないのは知ってるわ。」
「でも私、ずっと我慢してたんだよ。」
「『手抜きするな』『ちゃんとしろ』って言われて。」
「私も仕事してるのに、家事は全部私。あなたは何もしないくせに、文句ばっかり。」
「それは…、けど、家にいるんだから、家にいる人間が家事をするのは当たり前だろ。」
「俺が仕事に行ってる間は、どう頑張ったって家のことできないんだし。」
「そうね…。でも、それなら、家に帰った後のことは、あなたもするべきじゃない?」
「は? 俺は働いてるんだぞ。」
「私も働いてるよ。お互い様だよね。」
「でも自分は家事をしたくなくて、私はやって当たり前って…。つまり、家事は自分の仕事じゃないって思ってるでしょ。」
「家でできるくらいの仕事で、えらそうにするなよ。どうせ、片手間でやってるんだろ。」
「在宅ワークを舐めないで。」
「あ…、あなた、私がどれだけ頑張ってたか、知らないでしょ。」
「出勤してるから偉いとか、在宅だから楽だとか、そんなのないわ。」
「私、今、あなたの給料の3倍以上稼いでるのよ。それを『小遣い稼ぎ』ってバカにされて、どれだけ悔しかったか分かる?」
「もう、あなたとは一緒にいられない。離婚するわ。」
「離婚?」
「待った。」
「もう決めた。」
「お願いだから、考え直してくれ。」
「俺が悪かった。これから変わるから。」
「変わる? 今まで何度、そう言ったの? 喧嘩する度に『もう言わない』って言っても、次の日には忘れてる。」
「私を傷つけたり、不快にさせることを言っても、あなたは都合のいいように解釈して、いつも自分を被害者扱い。」
「もう信じられない。」
「あなたなんて、大嫌い。」
「頼むって、機嫌直してくれよ。」
「無理よ。」
「とりあえず、家を出るね。」
「離婚届けは、そのうち送るから。」
別居1日目。
「本当に出て行きやがった…。くそ。」
「どこに何があるか、教えてから行けよ…。引き継ぎもしないなんて。」
別居3日目。「冷蔵庫に何もねえし…。買い物行っても、スーパー広すぎるし。」
「洗濯機も、うまく回らないし…。」
「頼むよ…。みさ、戻ってきてくれよ。」
「お前がいないと、俺、やっぱりダメなんだ。」
1週間後。「みさ、もう無理だ。」
「毎日総菜ばかりで、体調が悪い。」
「洗濯物も、どうすればいいか分からない。」
「頼むから、帰ってきてくれ。」
「それにさ、会社で上司に怒られたんだ。」
「身だしなみが乱れてるって。」
「Yシャツもシワだらけ、髪もボサボサだって。『社会人としてどうなんだ』って叱られた。」
「同僚にも、『奥さんに逃げられたんだろう』ってバカにされてさ。」
「『みっともないぞ』『奥さんに全部やってもらってたんだろう』『情けねえな』って笑われたんだ。」
「『自分のことくらい、自分でやれよ』ってさ。」
「みさ、助けてくれ。」
1時間後。「おい、お前だな。」
「あいつに変なこと吹き込んだの。」
「お前が変なこと言うから、みさがおかしくなったんだ。」
「今までこんなことなかったのに、勝手に出ていった挙げ句、連絡も返さなくなったじゃねえか。」
「人の家のことに口出ししてんじゃねえぞ。クソが。」
「いや、なんで連絡先知ってるんですか? 怖。」
「あいつの携帯を監視してたからな。」
「知り合いの連絡先も控えてたんだよ。」
「出ていく直前、あんたとやり取りしてたし。」
「うわ、マジ引くんだけど…。奥さんの携帯、普通に見るとかありえなくね? 浮気されたら困るから、見るのは当たり前だろ。」
「当たり前と思ってるとか、受ける。」
「てか、自覚ないみたいだけど、あんたがやってることは、立派なモラハラだからね。」
「あの子の家庭事情、知ってるでしょ?」
「俺はモラハラなんてやってない。」
「あいつも言ってたんだぞ、自分が悪いって。」
「被害者は、自分を責めがちですからね。」
「分かったようなこと言ってんじゃねえよ。」
「あんたよりは、分かってますけどね。」
「あの子の実家、結構大変でさ、ようやく親が離婚して自由になれても、寂しい時間も多かったし、苦労もたくさんあった。」
「あの子は、それを人のせいじゃなくて、自分のせいって考える癖があるのよ。」
「普通、パートナーがそんな考えなら、『そんなことないよ』って言うのが支え合いでしょうが。」
「なんだと? 俺は妻を支えてたぞ。」
「何が支えてるよ? 頭おかしいんじゃない?」
「そんな弱みに付け込んで、あんたは自分の支配欲を満たしたいだけのくせに。」
「私の大切な友達を、これ以上苦しめるな。」
「私は絶対許さないよ、あんたのこと。」
「お前に何ができるんだよ。」
「私、元探偵なのよね。」
「は?」
「だから、モラハラの証拠は全部揃ってるわけ。」
「まあ、集めたのはみさだけど。」
「変なこと吹き込んだって? それは半分当たり。」
「証拠集めのテク、全部教えちゃったから。」
「あ? なんだと?」
「あんたに勝ち目なんてないから、せいぜい諦めなさいよ。」
「ボコボコにしてやるから。」
2週間後。「みさ、助けてくれ。」
「お願いだ。もう限界なんだ。」
「俺が悪かった。全部、俺が悪かった。」
「だから、帰ってきてくれ。」
「洗濯物が分からないって言ってたよね。」
「私が毎日やってたのに、『あなた、家で楽してる』って言ってたのよ。」
「なら、自分でその楽なことをやってたら?」
「ごめん…。」
「料理だって、毎日手料理が食べられる幸せを、今になって感じた。」
「いつも頑張って作ってたのに、『手抜きだ』『品数が少ない』って文句言ってたよね。」
「本当にごめん。」
「あなた、私がやってたこと、全部『楽』って決めつけてた。」
「今、どんな気持ち? 私だって、仕事をしながら、そういうのをしてたんだよ。」
「分かった。お前のすごさが分かった。」
「だから、帰ってきてくれ。」
「今更、私がどれだけ大変だったか、やっと分かったの?」
「本当にごめん。これから変わる。」
「あなた、反省してないよね。」
「してる。本当に反省してる。」
「嘘。」
「あなたはただ困ってるだけ。」
「私がいないと生活できないから、必要としてるだけ。」
「私を愛してるわけじゃない。」
「そんなことない。」
「じゃあ聞くけど、私がいなくても生活できるなら、私は必要ない?」
「それは…。」
「ほら、答えられない。」
「あなたは私を、都合のいい女房としか見てなかったんだよ。」
「でも、それがあなたの首を締めてたの。」
「だって、あなたは私がいないと何もできない。でも私は、あなたがいなくても全然困らない。」
「だから、あなたを捨てることができるの。」
「みさ…。」
「離婚届け、送るね。」
「サインして、返して。」
「それと、連絡しないで。」
「慰謝料も請求するし、財産分与はなしね。だって、私の方が稼いでるもの。」
1ヶ月後。「ねえ、ありがとう。」
「おかげで、離婚できたし、慰謝料も取れたわ。」
「まさか、家を出て2週間で、完全に音を上げるとは思わなかったけど。」
「やっぱりね、あんな男、1人じゃ何にもできないよ。」
「本当にそうだったわ。」
「会社でもバカにされてるみたい。」
「身だしなみがボロボロで、注意されたって。」
「ざまあみろだね。」
「…違うわ。」
「ざまあみろ、じゃない。」
「身の回りの世話を誰かにさせるっていうのは、自分でやる機会を潰すのと同じだからね。」
「私がいないと何もできないくせに、私をバカにしてた。」
「矛盾したことしてるって、自覚はなかったんだね…。」
「ないよ。」
「モラハラしてる方は、自分が被害者だって思い込んで、何があっても認めようとしないから。」
「だからさ、みさ、よく頑張ったね。」
「これからは、自由に行きなよ。」
「うん…。」
「ありがとう。」
「愛、地獄から目を覚まさせてくれて。」
その後、夫は離婚が成立し、モラハラの慰謝料として300万円を請求されました。分割払いでも、毎月の返済は10万円。1人では生活できず、毎日コンビニ弁当と総菜で済ませる日々を送っていると聞きます。食費と返済だけで給料の大半が消え、少なかった貯金もみるみる減っていき、洗濯もままならず、シワだらけのシャツを着て出勤。髪はボサボサ、無精髭も生え、身だしなみは日に日にひどくなったそうです。
会社では、奥さんに逃げられた男として噂になり、その結果、上司からは叱責され、評価は最低ランクに。仕事のパフォーマンスも落ち、ミスが続き、周囲の信頼も失い。
部屋は洗濯物とゴミで溢れ、ゴミ屋敷と化し、文字通り転落人生を歩んでいるとか。
一方、私は新しいアパートに引っ越しました。月100万円を安定して稼ぐフリーランスとして、今は自分のやりたいように生きています。
夫の顔色を窺いながら過ごしていた日々とは大違いです。
こうして目が覚めたのも、愛のおかげ。
愛はそんな大層なことしてないよ、なんて言ってますが、いつか恩返しができればいいな。
そんなことを考えながら、今日も仕事に励みます



