義母が玄関に立ちはだかり、私の顔を見るなり言った。「まず部屋の荷物をまとめてちょうだい」。仕事から帰ったばかりで、夕食の支度もまだだった。「え、何かありましたか」と聞き返すと、義母は「あんたと一緒に暮らすなんて、私はうんざりなの」と吐き捨てた。夫の弘樹は海外出張中。その不在を狙って、離婚して今すぐ出て行けと言うのだ。「あの子はまだ何も分かってないから」と。私は震える手で弘樹に電話した。弘樹は…

義母が玄関に立ちはだかり、私の顔を見るなり言った。「まず部屋の荷物をまとめてちょうだい」。仕事から帰ったばかりで、夕食の支度もまだだった。「え、何かありましたか」と聞き返すと、義母は「あんたと一緒に暮らすなんて、私はうんざりなの」と吐き捨てた。夫の弘樹は海外出張中。その不在を狙って、離婚して今すぐ出て行けと言うのだ。「あの子はまだ何も分かってないから」と。私は震える手で弘樹に電話した。弘樹は...

仕事から帰ってきたばかりの千景の前に、義母が立ちはだかった。夕食の話など一切出さずに、義母は言い放った。

「まず部屋の荷物をまとめてちょうだい」

「え、何かありましたか」

「もういい加減にしてもらいたいのよ。あんたと一緒に暮らすなんて、私はうんざりなの」

「どういうことですか。いきなりそんなことを言われても」

「あんた、自分の立場ってものを全く理解してないわね。あんたは弘樹のおかげでご飯が食べられてるんでしょ」

義母の口調はますます鋭くなる。弘樹は超有名大学を卒業し、大手企業で働いている。給料も高く、これからもっと出世することは間違いない。千景がその一部始終を理解していると言っても、義母は鼻で笑うばかりだった。

「感謝してるって言えば言うほど、あんたは口先だけなのよ。私の言うことを一つだって聞いたことがないじゃない」

「一つもというのは大げさですよ。この前みたいに、いきなりバラ寿司を作れって言われても、もう夕飯を作り終えた後だったら難しいですから。お断りしたこともありますけど」

「私が食べたいと言ったものすら作れないなら、あんたはこの家に必要ないわ」

「お母さんがわがまま過ぎるんです。私だって仕事をしながら家事をやっているんです。何でもかんでもできるわけないでしょう」

「そうやってすぐ口答えをする。エリートの息子の妻のくせに、図々しいのよ」

「お母さんが弘樹を誇りに思っているのは分かります。でも私だって仕事をして頑張っています。なのに、よくそんなひどい言葉を平気で言えますね」

「私は事実を言っただけよ。実際、あんたの稼ぎなんて弘樹の半分以下なんだから」

「だとしても、お母さんのわがままに全部付き合うつもりはありません。それに、弘樹からも何度も注意されてるでしょう。私の意見が聞けないなら、せめて息子の言葉には耳を貸してください」

「あの子はあんたにたぶらかされて言ってるだけよ」

「そう思っていただいて結構です」

「じゃあ、さっさとこの家から出て行きなさい。今がいい機会よ。弘樹は海外出張中なんだから、その間に離婚しなさい。今すぐ出て行きなさい」

「その話、弘樹は知らないんでしょう」

「当たり前よ。あの子はまだ何も分かってないから。でも海外で距離を取れば、あんたがいかに不必要な存在か分かるわ。あの子はもうすぐ帰ってくる。それまでにあんたの存在を消しておかないとね。だから、今のうちに離婚だけでもしておきなさい。親子だから分かるのよ。あの子の考えなんて、手に取るように分かるわ」

「申し訳ないですけど、そんなことはできません」

「また口答え」

「当たり前じゃないですか。離婚は夫婦が決めることです。あなたに指図されて決めることじゃない」

千景はその場を離れ、すぐに弘樹へ電話をかけた。弘樹は海外出張の真っ最中で、時差もあるはずなのに、すぐに出た。

「もしもし。ちょっと大変なの」

「何かあったのか。もしかして、また母さんか」

「ええ。しかも、今までとはちょっと違うの」

「何があったんだ」

「いきなり、あなたと離婚して家を出て行けって言われたの」

「はあ。マジで?」

「本当よ。ついさっき、そんなことを言われて」

「母さんが千景に対してきついのは知ってたけど、そこまでのことを言ってくるなんて、今までなかったよな」

「うん。さすがにこんなことは初めて」

「本当にごめんな。あの人は、俺に対して思い入れが強すぎるんだ」

「理解はできるのよ。弘樹は自慢の息子だもの。しかも性格だって優しいし、私だって自慢の旦那だと思ってるわ。でも、私に対してどうしてあそこまできついのか、分からないわ」

「確かに、それはひどすぎるよな。俺も何度も母さんを注意したんだけど、さすがに離婚まで要求されるのは許せないよ。しかも、俺が海外出張中ってのが、やり方として汚い。止められる人間がいない時にやろうなんて」

「どうする?」

「本気で出て行ってもいいんじゃないか。さすがにもう俺は限界だよ」

「そうね。でも、もう少しだけ様子を見るわ。ちょっとイライラしてて、八つ当たりをしてきただけかもしれないし」

「だとしても、許されることじゃないよ。俺の気持ちも無視して」

「でも、とりあえず帰って話をしてみるわ。それでも改善しなかったり、同じようなことを言ってきたりしたら、もうやっちゃっていいかもしれない」

「そうだな。そっちは千景に任せてもいいか」

「ええ。もちろんよ」

「ごめんな。俺が海外にいる時にこんなことになって」

「あなたが謝ることじゃないわ。あなたは仕事に集中していればいいの。帰ってきた時には、全部丸く収まってるからね」

「どういう形になってるかは分からないけど。ありがとう。何かあったらまた連絡してくれ」

「うん」

それから三日後。千景が家に帰ると、義母の姿がなかった。義母は友人と久しぶりに外食していると言う。呼び出して問い詰めることにした。

「お母さん、私の部屋にあったものはどうしたんですか。全部なくなってるんですけど」

「ああ、あれね。あんなゴミは全部処分したわよ」

「は? 処分?」

「そりゃそうでしょ。私は言ったはずよ。荷物をまとめてさっさと出ていきなさいってね。それなのに口答えして、いつまでも居座ったんでしょ。だから、そんなやつのものは我が家にとってはゴミなので、全部処分させてもらいました」

「ふざけないでください。あそこには私の大切な宝物もあったのに」

「あんたにとっての宝物なんて、こっちからしたらゴミ以下の価値しかないから。それで全部捨てたってわけよ。あの部屋は、なお子が住むことになったわ」

「なお子さんが?」

「あんたを追い出そうって話をなお子としてたのよ。そしたら、荷物の処分を手伝うから、あの部屋に住ませてって言われてね。了承しておいたわ」

「勝手にそんなことを」

「あんたの家でも何でもないんだから、別にいいでしょ。これであんたの居場所がもうこの家にないって、分かった?」

千景は怒りを鎮めて、静かに言った。

「お母さんがそこまでして私を追い出したいのなら、残念ですね。これからはあなた、一人で惨めな生活をすることになるわよ」

「あら、まだ言い返す余裕があるの? そんなことをしてる暇があったら、新しい家でも探した方がいいんじゃない?」

「そうですね。そうさせてもらいます。では、さようなら」

「二度と顔を見せるんじゃないわよ」

千景はその足で、なお子の職場へ向かった。なお子は千景の姿を見ると、いやらしい笑みを浮かべた。

「なお子さん、私の荷物をどうしたか教えてください」

「荷物? ああ、あのゴミですか。あれなら全部捨てちゃいましたよ」

「よくもそんなことができますね」

「だって、そもそもあそこは私の部屋だったんですよ。それを取り返しただけです。勝手に人の部屋を使っておいて、よく偉そうなことが言えますね。おばさんがあなたのこと、わがままな人だって言ってたけど、やっぱりそうだったみたいですね」

「私がわがままじゃないとは言わないわ。でも、あなたたちに比べたら、私なんて全然よ。あなたはお母さんと長く暮らしてて、変だとは思わなかったの?」

「そういうのはもういいですから、今後あそこには家族で住みます。ですので、ごちゃごちゃ言わずに出て行ってもらえますか」

「嬉しいわ。正直助かる。もちろん、こんなことをされて許せるわけじゃないから。言っておくけど、変なことをしたらすぐに警察に突き出してやるからね」

「お好きにどうぞ。そっちが泣きを見ることになるので」

「そんなわけあるか」

一週間後、弘樹が帰国した。千景は自宅で待っていたが、義母は弘樹に直接電話をかけていた。

「弘樹。今日が帰国日だったわよね。家で美味しいものを用意してるから、早く帰ってきなさいよ」

「なんで俺がそっちに行かないといけないんだよ」

「だって、帰ってくるんじゃないの?」

「帰るよ。海外出張が終わってクタクタだから、早く家に帰ってゆっくりしたいと思ってるよ」

「だったら、うちに来ないとダメじゃない。あんたの家はここでしょ」

「なんでそっちに行くんだよ。俺の家は別のところにあるから」

「え? 俺は千景と一緒に住むから、帰るなら千景のところだよ。千景のいないところなんて、俺にとっては家でも何でもない。単なる建物でしかないよ」

「弘樹、あんた何を言ってるの。あの女とはもう離婚したはずよ」

「どうしてそんな風に思い込んでるのか分からないよ。俺たちがいつ、あんたの要求に応じたんだ。そんなこと、俺がするわけがないだろう」

「どうしてよ」

「愛し合ってるからに決まってるだろう。俺にとって千景は、なくてはならない人だ。今の会社に就職できたのは良かったけど、競争だらけの部署で、いつまでも気が休まらなかった。正直、かなり追い込まれてたんだよ。そんな時に知り合ったのが千景だった。千景は俺の肩書きや経歴なんて無視して、俺自身のことを好きになってくれて、俺の体や心の健康を常に心配してくれた。俺は千景にずっと支えられていたんだ。だからこそ、結婚したいと思ったし、もっと頑張ろうと思えたんだよ。そんな俺から千景を引き離そうとするなんて、どういう了見だ」

「何を言ってるの。あの女は寄生中よ。あなたはそれを分かってないのよ」

「寄生中だとしたら、仕事なんて辞めるだろう。千景は俺の稼ぎに頼りたくないから、今も仕事を続けてるんだ。貯金だってちゃんとやってるし、千景が贅沢をするのはいつも自分の稼いだお金の範囲内だけだ。これのどこが寄生中なんだ。そんな千景をないしろにする人間を、俺は許せないよ。ましてや親だなんて、全く思えないね」

「でも、あの女は私の家で生活してたのよ。家賃も払わずに住んで、それで」

「そもそも、それが目当てで一緒に住むようになったんでしょ」

「確かに同居のお願いをしたのは俺たちだよ。父さんが亡くなって、母さんが一人になるのが心配だからって言ってな。でも、その申し出を最初にしてくれたのは千景からだったんだ。お母さんが一人ぼっちはきっと寂しいって」

「千景さんだったの?」

「そうだ。千景のお父さんが自ら命を落とされたのは、知ってるだろう」

「知ってるわよ。最愛の奥さんを病気で亡くして、そのショックから認知症を患い、最終的には自らあの世に行ってしまった」

「だから千景は、お父さんが一番苦しんでる時にそばにいてあげられなかったことを後悔してた。同じようなことが起こらないようにって、同居を提案してくれたんだ」

「そうだ。それなのに、あんたはずっと千景に対して厳しいことを言い続けてた。千景は我慢してたけど、俺はもう我慢の限界をとっくに超えてたよ。だから、今回別居することができて本当に良かった。こっちから言い出してたらまた揉めてたかもしれないけど、あんたから言い出してくれて、ラッキーだったよ」

「私のことを見捨てるの? 私はあなたのことを思ってやったのよ。あの女に騙されてるのが、どうしても許せなかったの」

「それはあんたの思い込みだ。俺は千景と一緒にいたから幸せだったんだよ。そしてこれからは、二人きりで生活できるようになるから、もっと幸せになるだろうな。そういう意味ではいい機会になったよ。それじゃあもうさようならだ。二度と俺がそっちに行くことはないと思うから、なお子と二人で何とかやってくれよな」

電話は一方的に切られた。義母は呆然とした。

十分後、なお子から千景に電話がかかってきた。

「あんた、どうなってるのよ。どうして弘樹がそっちに行くことになったのよ」

「いきなり突っかかってくるのはやめてください。連絡なんて来ないと思ったから、ブロックしてなかったのに」

「いいから答えなさい。私の言いつけを、どうして守らなかったの?」

「守ったじゃないですか。ちゃんと家を出て生活してるんですから」

「弘樹と離婚をしろって言ったはずよ」

「離婚ってのは、お互いの意思で合意しないと無理なんですよ。お母さんがいくら命令してもできません。私たちはお互いに愛し合ってます。ですので、離婚なんてできません。ですが、そちらの家から出たので、いいじゃないですか」

「良くないわよ。弘樹はそっちに行くって言ってるんだから。もう弘樹とは連絡を取ったんですね。久しぶりに弘樹と会えるので、とても楽しみですよ。今日は弘樹のために、弘樹の好物をたくさん作って出迎える予定なんです」

「ふざけないで。これ以上弘樹をたぶらかすのはやめなさい。弘樹がおかしくなったのは、あんたのせいよ」

「別に弘樹はおかしくなんてなってないですよ。だって、今まで弘樹がこんなに反抗的になるなんてなかったのよ」

「何度か、あなたに注意をしたことがあったでしょう?」

「それはあんたが言わせてただけでしょ。弘樹はずっと家を出ようと言ってたんです。最初は私たちの仲を取り持つつもりだったんですけど、あまりにもお母さんがひどいので、また別々に暮らそうかって言ってたんですよ。そのために物件とかも色々と探してたし、今住んでるところも、実は弘樹が見つけてくれたところなんです」

「弘樹がそんなわけない。あんたが見つけたに決まってるわ」

「私もお母さんの態度にはむかついてましたけど、私から同居を提案した手前、言い出すことはできなかったんです。話を進めてたのは弘樹です。そして、私は物を勝手に捨てられたので、完全に心の糸が切れてしまいました。だから家を出たってわけです」

「それだけのことで」

「それだけ本気で言ってるんですか。だったら買い換えてあげるわよ」

「他のものは別にいいんです。ですが、私が大切にしていたネックレスは、買い換えるなんてことはできないんですよ。あれは母の形見です。父が母に贈ってくれたものを私が引き継いで、大切に保管してたんです。私にとっては、両親の思い出が詰まったものでした。それをあなたは勝手に捨ててしまった。そんなことをされて、許せるわけがないでしょう」

「そうだったの」

「弘樹もそれに賛同したのね」

「そういうことになりますね」

「私はどれだけあの子に愛情を注いだか」

「それは感じてたと思いますよ。だとしても、度が過ぎたということです。ですので、弘樹はそちらにはもう戻りません」

その一時間後、なお子の元に千景から連絡があった。

「なお子さん、ちょっと話があるんだけど、いい?」

「何よ。それよりもこっちは、おばさんが怒っちゃって大変なの。どうにかしなさいよ」

「それは家族であるあなたがやってください。でも、しばらくはそれどころじゃないと思いますけどね」

「どういうことよ」

「あなたとお母さんは、勝手に私の荷物を処分しましたよね」

「ええ。私は住むのに邪魔だったからね」

「それ、犯罪ですよ」

「犯罪?」

「そりゃそうでしょう。勝手に私の部屋に入って、ものを捨てたんですから。立派な器物損壊です。それで、引っ越しの手続きなどが終わってからすぐに、警察と弁護士にこのことを相談したんです」

「警察? ちょっと待ちなさいよ。何を言ってるのか分かってるの?」

「もちろん分かってますよ。あなたたちがやったことは最低なことですから、これはしっかりと罰しないといけないと思いまして。そのために話し合いをしていて、無事に被害届も受理されました。警察が動いてくれるということなので、近いうちに任意同行を求められると思います」

「そんな。私はやりたくてやったわけじゃないの。おばさんに無理やりお願いされて」

「そんな言い訳が通用するわけないでしょう。それに、あなたはもっと悪質なことをしてましたから」

「何が?」

「知らばっくれないでください。私が宝物だと思って大切にしていたネックレス。あなたは処分したと嘘をついて、取っていたでしょう」

「あれは母の形見です。それが何だって言うのよ」

「それを盗むなんて許せません。どうしてそんな風に言い切れるの?」

「あなたは自分のSNSで、そのネックレスをつけた写真を上げてたじゃないですか」

「いや、あれは私が前から持ってたもので」

「ちなみに、そのネックレスの裏には、母の名前が刻印されていますよ。父がそうするようにお願いしてたみたいです。だから調べたら、私のものだとすぐに分かります」

「嘘」

「それが証明されたら、あなたは窃盗犯となります」

「ちょっと待ってよ。どうしても欲しかったから、私が持ってようと思って」

「そもそも、勝手に人のものを捨てるというのが間違ってるんですよ。どうしてそんなことができるんですか」

「しょうがないでしょ。こっちは仕事を首になって、生活に困ってたんだから」

「だからって言い訳にならないでしょ。人のものを取るなんて、許されないですよ」

「取らなきゃ、何も得られないのよ。うちは経済的に裕福だったわけでもないのに。お兄ちゃんを塾に行かせたりとか、そっちにばかりお金を使って、全然私は好きなことをさせてもらえなかったの。だから、欲しいものは自力で奪うしかなかった。私はそうしただけよ。それの何が悪いの?」

「なんて自分勝手な考え方なの。もういいです。その言い訳は警察でやってください。誰もあなたに同情なんてしないと思いますけどね」

三日後、今度は千景が義母の家を訪れた。

「お母さん、弘樹の周りをうろつくのはやめてください」

「はあ? 何がよ」

「会社で待ち伏せみたいなことをしたら、弘樹に迷惑がかかるでしょう。親なら、それくらい分かってください」

「弘樹がいなくなって、こっちは生活が苦しいのよ。だから戻ってきてくれってお願いをしただけ。それの何が悪いのよ」

「もう弘樹はそっちに戻ることはありません。どうか、これ以上関わらないようにしてください。それに、警察はどうしたんですか。なんか電話が来たけど、突っぱねてやったわ。私は何も悪いことなんてないからね」

「それは状況を悪くするだけですよ」

「あんたにとやかく言われる筋合いはないわ」

「では、警告だけさせてもらいます。これ以上弘樹に近づくようなら、手続きをして接近禁止命令を裁判所から出してもらいますよ」

「何よそれ」

「言葉の通り、近づくことを禁止するってことです。これが出された後、弘樹に近づくことがあったら、その際は現行犯で逮捕されます。もう突っぱねることもできないですからね」

「嘘でしょ。そこまでして、私を弘樹から引き離すの。親子なのよ」

「あなただって、私に同じことをしようとしたでしょう。でも、私は弘樹を守るために全部やってるんです。それは、あなたの一人よがりです。そんなものを、弘樹は望んでなかった。だから、こうなってるんですよ」

「せめて仕送りだけは、やるように言ってよ」

「その話はしましたが、弘樹が拒否しました。これ以上関わりたくないということです」

「なんでよ。どうしてそんなことをするの? 私が弘樹のためにどれだけ尽くしたと思ってるの? あの子を大学に行かせるために、どれだけお金を使ったか。私は何一つ贅沢をせずに、あの子のためにやってきたのよ。ちょっとくらい恩返しをしてくれてもいいじゃない」

「弘樹は恩返しをするつもりでしたよ。あなたのことは好きじゃなかったですけど、感謝はしてましたから。でも、そんな弘樹が去ったのは、全てあなたの行いが原因です。弘樹から見捨てられたのは、全てあなたのせいです。だから責めるのなら、自分を責めてください」

「お願いよ。もう一度だけ、弘樹に仕送りだけはしてくれってお願いしてよ。こっちがとても困ってるって言ったら」

「弘樹の考えてることは、手に取るように分かるんでしょう?」

「だったら、そんなことをしても無駄だと分かるんじゃないですか」

その後、なお子は器物損壊と窃盗の容疑で警察に連行された。損害賠償も支払わなければならなくなり、生活はかなり追い込まれた。頼りの義母にも無視され、今はいくつものアルバイトを掛け持ちして、なんとか生活しているらしい。それでもSNSでは昔と変わらない豊かな暮らしをしているかのように画像を加工して、高評価を得ていたが、先日その画像が加工であることがばれて炎上し、アカウントも削除したという。

義母も器物損壊で損害賠償請求を受け、高額の支払いを強いられた。一人ぼっちで頼る相手もなく、今は貯金を切り崩して生活しているそうだ。それでも弘樹から拒絶されたショックは大きく、今は家でアルバムをずっと見続けているという。

一方、千景は弘樹と二人で暮らし始めた。義母がいなくなったことで精神的にかなり楽になり、とても幸せだった。そして、さらに嬉しい知らせが舞い込んだ。千景のお腹に、弘樹との子供ができたのだ。生まれてくる子が苦しんでいる時には、誰よりもそばにいてあげたい。そう思いながら、未来を眺めていた。もちろん、誰かさんみたいに見返りなんて求めやしない。

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