お母さん、素材ゴミはご自分で処理してくださいよ。はあ、素ゴミって何言ってるの、り子さん。いや、この錆びた自転車のことですよ。ああ、それね。ちょっと前に出産祝を送るって言ったでしょう。これが出産祝ですか。不法投棄じゃないですか。失礼ねえ。あなたのために近所のゴミ捨て場からもらってきたのよ。ガチのゴミじゃないですか。しかもこれ着払いでしたよ。ゴミを受け取ってお金を払うとか勘弁してください。チェーンも錆びてるし、フレームも曲がってて、詫び錆を感じるわよね。錆しか感じてないんですよ。詫びは実家に置いてきました。わがままな嫁ねえ。健一は文句なんて言わなかったのに。お兄さんたちにも送ったんですか。あんたと健一のところ、出産日が一週間違いだったでしょ。だからまとめてお祝いしたのよ。ちなみにお兄さんたちには何を送ったんですか。建一のところには六百万のベビーカーよ。まあ頭金の百万だけだけどね。いつもよくしてくれてるから当然よね。私たちも相当よくしてませんか。冗談やめて。やっぱり血のつながらない次男は頼りにならないわ。直樹はお父さんの連れ子でしたっけ。自分の息子の建一と比べて役立たずなのも当然よね。だから役立たずでケチなあんたらにはその自転車よ。それで十分でしょ、ケチ。今ケチって言いましたよね。事実でしょ。毎月二十万の仕送りをしてますよね。それでケチってどこのセレブですか。はいはい、知ってるわよ。何を知ってるんですか。健一が言ってたわ。あの仕送り、実際は直樹と健一が共同で送ってるって。はい、共同ですか。そもそも中卒のり子さんと高校中退の直樹、あんたたちが毎月二十万も払えるわけないものね。いや、あの、それ本気で言ってますか。建一が言うには、仕送りの半分以上は自分が出してるって。それでよくもまあ、そんな仕送りしてやってるって態度ができるわね。そのお兄さん、先月うちに三万借りに来ましたよ。私が追い返してやりましたけど。負け惜しみを言うんじゃありません。負けてないので死んでないです。ドケチな低学歴夫婦はすぐに嘘をつくわね。そんなにお金に困ってるなら、Uberでも始めたらどう?私のあげた自転車を使っていいわよ。あんなの走り出した瞬間、地面とランデブーですよ。ああ、もういいです。あら、認めるのね。自分たちがドケチの低学歴嘘つき夫婦だって。この件は一度、直樹と話し合わせていただきます。お好きにどうぞ。
三十分後。お兄さん、いい加減にしてください。おや、り子さんじゃん。何怒ってんの?お母さんから聞きました。うちからの仕送りを共同ってことにしてるって。あっちゃあ、聞いちゃった。悪い悪い。長男なのに仕送りしてないって母さんが怒るだろう。半分以上自分が出してるって嘘をつく必要ありますか。そこはほら、長男の威厳ってやつ。次男よりも金額が低いとかダサいじゃん。低いっていうか、払ってないですからね。あと先月、うちに三万借りに来た時点でダサいですよ。たまたま手持ちがなかっただけだから。お母さんが変な勘違いしてるんで、訂正してください。嫌だよ、めんどくさい。あのですね、人の善意に便乗するとか最低ですよ。はいはい、悪い悪い。てか母さんから出産祝、届いた?錆びたボロボロの自転車が届きました。うわあ、マジで送ったんだ。あれ、俺が選んだんだよ。ゴミ捨て場で見つけたから、これ良くねって。良くないですよね、どう考えても。でもほら、産後とか自転車漕いで痩せないとじゃん。太ってません。てかあれが自転車なら、私の靴はフェラーリですよ。まあまあ、そう怒んなって。俺たち家族だろ。困った時は助け合い。母親に仕送りしてるんですけど、もっと助けてもらっていいですか?去年の母さんの誕生日を思い出せよ。ああ、私と直樹が買ったブランドバッグ。あれも共同でのプレゼントにしてましたね。うちが全額出したのに。お前からもらうより、俺からの方が母さん喜ぶから。自分たちの分とまとめて渡しとくよ、なんて言って勝手に預かって。結局一円も出してないプレゼントを共同扱いですか?直樹は文句言ってなかっただろ。直樹は文句が言えないの、分かってますよね。さあ、何のことやら。今年の母さんの誕生日もそろそろだろう。今回も共同で頼むな。一から十までダサい人ですね。中卒嫁が大卒の俺に偉そうに。学歴と性格の良さは比例しないんですね。お兄さんを見てたらそれがよくわかります。はいはい、好きに言ってろ。どうせお前らが何言っても母さんは信じないしな。
同日。り子、さっき送られてきた自転車の写真。あれ何?お母さんがくれた出産祝。え?出産祝がこれ?だってさ、中卒嫁にはお似合いだって言ってたよ。なんだよそれ。お兄さんがゴミ捨て場で拾ったんだって。兄貴までかよ。ねえ、直樹、もういいんじゃない?り子の複雑な家庭環境は知ってるよ。お父さんが亡くなってから大変だったんでしょ?俺は親父の連れ子で、母さんたちとは血が繋がってないから。だから高校を退学させられても仕方ないの。バイトを強制させられて、お兄さんの大学費を払って、家を出ても仕送りを続けないといけないっていうの?り子はずっと言ってるよな。そんなのおかしいって。直樹がお母さんたちに対して遠慮してるのは分かる。自分だけ血が繋がってないんだもん。しょうがないよ。そうだな。けどさ、一生直樹が我慢して言うことを聞くのは違うと思う。直樹は誰のために生きてるの?お母さん、お兄さん?それは違うでしょ。自分の、直樹の人生なんだから。自分のために生きなよ。けど親父が亡くなる前に約束したんだ。家族を大事にするって。今の直樹の家族って、あの二人だけなの?違う。り子と、娘のノアもだ。答えが出たじゃん。ああ、私と結婚する前は確かにあの二人だけが家族だったよね。けど今の直樹には私もノアもいる。そうだよな。本当にその通りだ。私はノアと違って直樹とは血が繋がってないけど、あなたの家族だし、奥さん。あんな人たちがいなくても、直樹は一人じゃないよ。ありがとう、り子。俺ようやく分かったよ。俺の家族はあいつらじゃなかったんだな。よし。そうと決まれば、やることは決まってるね。だな。あいつらと家族をやめよう。
一週間後。り子さん、あんた一体何考えてるの?はい、何のことでしょう?着払いでうちにゴミを送り付けてきたじゃない。ゴミ?あ、いえ、それ、今年の誕生日プレゼントですよ。は?ハッピーバースデー。お母さん、おめでとうございます。こんな薄汚れた軍手がプレゼント?しかも片方しかないじゃない。詫び錆を感じますよね。詫びと錆はどこよ?いやあ、見つけた時は興奮しました。ゴミ捨て場でこれ良くねってなりまして。ゴミ捨て場?これ、ゴミ捨て場から拾ってきたの?管理してるおじさんに頼んで譲ってもらいました。お母さんにぴったりなプレゼントでしょ。どこがよ?あんたね。私、知ってるのよ。何をでしょう?先月誕生日だったうちの姑にブランドの服を送ったんですってね。ええ、すごく喜んでいただけました。なんで年に数回しか会わない、義理の母親である私がゴミなのよ。ノアが生まれてから色々と送ってくれるんですよ。お下がりの服とか粉ミルクとか、とっても助かってます。だから何だって言うのよ。いつもよくしてくれてるんですよ。あれくらいのプレゼントは当然です。だったら私にももっとあるでしょ。お母さんはいつもよくしてくれてないんで、その軍手がお似合いかなって。お似合いって、あんた、穴の開いた軍手がお似合いの人間性だとでも言う気?自覚あったんですか?ふざけるのも大概にしなさいよ。真剣に選びましたけど。軍手の他に、割れた茶碗も候補に上がったんですが、吟味した結果、差で軍手に軍配が上がりました。なんてひどい嫁なのかしら。直樹に言って離婚させてやるわ。だったらお兄さんのところも離婚ですね。は?なんでそうなるの?だってお兄さん言ってましたよ。今年もお母さんへのプレゼントは共同だって。え、つまりこれは私たち全員での共同プレゼントってことですね。家族愛がこもったいいプレゼントだ。いや、ちょっと待って。本当にこれ、去年と同じで共同なの?はい。お兄さんが自分で言ってたんで。嘘だったら承知しないわよ。本当なんで、承知しといてください。そもそも軍手を送ってきたのはあんたじゃない。嘘であれ、本当であれ、絶対に許さないからね。ええ、怖いので、今後の支援はなしにさせていただきますね。やってみなさいよ。半分以下の小金なんてなくても困らないから。
一時間後。健一、誕生日プレゼント届いたよ。ああ、もう結構早かったな。今回のプレゼントも直樹たちと健一たちの共同だって。そうそう、そうなんだよ。なんか直樹たちが金がないって言っててさ。しょうがないからうちと共同にしちゃったんだ。金がない?このプレゼントのどこに金がかかってるって言うのよ。はあ、何そんな怒ってんだよ。今年のプレゼントも高かったんだぞ。ふざけんじゃないわよ。り子さんに続いて、あんたまで私をバカにして。いや、マジで?何なんだよ。一体どうしたんだ?どうしたもこうしたもありません。ゴミ捨て場から拾ってきた軍手のどこが高いのよ?軍手?そうよ。指に穴の開いた汚い軍手よ。しかも片方だけ。いや、それ何の冗談だよ。り子さんは確かにブランドの服を買ったって、メーカー名すら書いてないけど。え、マジで?冗談じゃなくて、マジでゴミを送られたんだから。そう言ってるでしょうが。うわ、マジか。母さん、それ、やられてるわ。どういうこと?り子さんが勝手に送ったんだろう。俺はその軍手のことなんて知らないから。あんた、さっき共同って言ってなかった?いや、それは…さっき高かったって言ってたわよね。つまりもう払ってるってことでしょ?現物のブランドの服はどこよ?それはもちろんうちに置いてあるよ。さっきもう届いたのかって言ってたのに、発送したんじゃないの?いや、よくよく考えたらまだだったみたいで。り子さんが買うって言ったみたいなことも言ってたわね。それが何だよ。共同のプレゼントなのに、別々で買う気だったの?あんたの手元に現物があるのよね。細かいことはいいだろう。共同にしたのは直樹が金がないから。なのにり子さんが別でブランドものの服を買うの?いや、だからさ、あんたさっきから言ってることがめちゃくちゃじゃない?ごめんて。俺もちょっと混乱してて。てかさ、来月から同居しようって話してたろ。俺らも引っ越し準備進めてるから。いやよ。え?誰がゴミを送ってくるような息子夫婦と同居しますか?いやいやいや、ちょっと待ってくれよ。言ってることもめちゃくちゃだし。本当は私のプレゼントなんて買う気ないんでしょ?そんなわけないだろう。もうちゃんと買ってやるって言ったろ。じゃあ今すぐ持ってきて。いや、それはほら、俺、仕事中だし。持ってこれないなら同居はなしです。ちょちょ、落ち着けって。落ち着いていられますか?あんたには失望しましたよ。頼むよ、お母さん。同居してくれないと、車のローンが…やっぱりそういうことじゃない。あ、いや、これは…さっさとプレゼントを持ってきなさい。じゃないと同居は白紙ですからね。
十分後。直樹、今すぐブランドの服を買って母さんのところに行け。はあ?なんでもクソもあるか。お前んとこのクソ嫁のせいでこっちは大変なんだよ。クソ嫁様だよ、お前が。あ、なんか文句でもあんのか?血も繋がってねえ他人が。その他人にいつまで頼る気なんだ?頼ってねえよ。使ってやってるだけ。ご利用ありがとうございました。当サービスは本日限りで終了いたします。ふざけてねえで、さっさと買ってこい。このままじゃ母さんとの同居が…ああ、それで焦ってるのか。車のローン払えなくなるもんな。な、なんでお前がそれを…ちょっと考えたら分かるよ。何にでも便乗してくる兄貴のことだ。母さんと同居して、うちからの仕送りを使う気だろ。いいだろ、別に。お前には関係ない。うちが払ってるんだから、関係あるだろう。わざわざ俺を高校中退させてまで大学に行ったのに。大学まで出て、そんなことも分からないのか。お前なあ、バカにすんなよ。バカにするほど兄貴のことは気にしてない。子どもが生まれた途端、偉そうになりやがって。そっちも生まれたばかりだろ。父親がガキのままでどうすんだ?いいのか?親父から言われてんだろ。家族を大事にしろって。親父の最後の言葉を無視して、機会を大事にしようと思ったから、この態度なんだよ。俺にとってお前らはもう家族じゃない。り子とノアだけが俺の家族だ。その家族を大事にするためにお前らとは家族をやめる。やめるって、お前?その証拠に、今月から母さんへの仕送りもやめるしな。は?嘘だろ。だから安心しろよ。母さんと同居できても、ローンは払えないから。ふざけんな。どうすんだよ。ローンは月に十五万だぞ。母さんへの仕送りの半分以上払ってるんだろ。そっちをやめれば余裕で払えるじゃん。俺が仕送りしてないことは知ってるだろう。俺たちに便乗してただけだもんな。だったら分かるだろう。子どもが生まれたばかりで余裕がないんだよ。分かるよ。子どもってお金がかかるよな。だろ?なら助けてくれよ。俺ら家族じゃん。家族は助け合いだろ。そうだな。じゃあ先に助けてもらっていいか?は?高校中退してお前の学費を払うためにバイトして、大人になってからも散々助けてやったろ。それはそうかも。だけど助け合いって言うくらいなんだから、今度はそっちの番だ。いや、でも今まで助けてきた分を返してくれないと、助けられないな。分かった。俺にできることなら何でもする。だからその後にちゃんと俺を助けろよ。そうか。助かる。じゃあ二度と俺たちに関わらないでくれ。は?お前らが俺たちに関わらないでくれるのが一番助かる。何でもするんだろ。頼んだぞ、兄貴。
数日後。ちょっとり子さん、今月分の仕送りはまだ?お母さん、仕送りだったらお兄さんに言ってください。なんでよ。ああ、いや、うちからの支援はやめるって伝えましたよね。それはそうだけど。そもそも半分以上はお兄さんが出してたんでしょ?なら、そちらにご連絡した方がいいかと思いますが。その健一と連絡が取れないんだから、あんたに連絡したんじゃない?うん。まあ余裕がないんじゃないですかね。余裕?お母さんが同居を断ったんでしょ?そりゃそうよ。あの子ったら私をバカにして。それで車のローンを払う目途が立たなくなったんです。生まれたばかりの子どもと奥さんを抱えて、きっと今頃奥さんのご両親に頭でも下げてますよ。いや、それよ、それ。どれよ、どれ。健一も言ってたけど、そもそもローンくらい払えるでしょ。ああ、それですか。だって私のところに毎月二十万の半分以上、まあざっくりと十五万は入れてるんでしょ。ならローンくらい自力で払えるわよね。いや、無理ですよ。ああ、どうしてだって、最初から仕送りなんて払ってないんですから。は?今回のプレゼントと一緒ですよ。お兄さんと話して感じたはあったでしょ?確かに。言ってることはめちゃくちゃだったけど。去年のプレゼントもお兄さんは何もしてません。え、共同って言ってなかった?うちが買ったものを勝手に共同って言ってただけです。直樹が何も言えないからって、本当に吐き気がします。じゃあ仕送りも、うちからしか出てませんね。二十万全額、私と直樹が節約しながら捻出したお金ですよ。そんな…あの子、ずっと私に嘘をついてたのね。血のつながった母親を何だと思ってるのよ。お兄さんを責められる立場ですか?まあ、そういうことなので、これで失礼します。それに引き換え、直樹たちはいい子ね。はあ?前々から思ってたのよ。血のつながりだけが家族じゃない。相手を思いやる心が一番大事なんだって。お母さんって、本当に私を怒らせるのがお上手なんですね。あ、家族、家族ですか?直樹の気持ちも知らないで、よくそんなこと。ちょっと何をそんなに怒ってるのよ。直樹が高校を中退させられて、バイト代も全部奪われて、あなたたちにどれだけ搾取されてきたか。それを分かってて、よく家族なんて言えましたね。それは健一を大学へ進学させるために仕方なく…直樹も家族なんですよね。家族って言っても、それぞれ役割があるでしょ。役割?直樹の役割は、黙って搾取されることなんですか?それが家族だって言えるんですか?だからちょっと落ち着いて。直樹はお酒を飲むと、たまにぽろっとこぼすんですよ。俺も大学に行ってみたかったって。高校も最後まで通いたかったって。それは直樹を利用して、一方的に家族を押し付けて。私は直樹の妻として、あなたたちを許す気なんてありません。もう二度と、直樹の家族をしないでください。ちょっと待ちなさいよ。あんたたちの仕送りがなくなったら、どうしたらいいの?パートなりなんなりすればいいじゃないですか。今月の家賃だって払えるお金が残ってないのよ。パートしたとしても、給料が出るまではどうするの?知りませんよ、そんなこと。せめて今月だけ。今月だけでも仕送りしてちょうだい。いいでしょ。なら、お母さんからいただいた自転車を…自転車?あれをお返しします。ああ、確か着払いもできたはずですよ。Uberでも初めてみてはいかがでしょうか。
一ヶ月後。り子、これから帰るけど、ノアはもう寝ちゃったよ。でも夜中になったらまた起きるんじゃないかな。昨日はり子が夜対応してくれたろ。明日は俺が休みだし、今日は俺がやるよ。本当にありがとう。これくらいはな。そういえば今日のお昼にね、親戚のおばさんから連絡があったよ。また粉ミルクを送ってくれるのか?それもだけど、お母さんのこと。母さん、家賃を払えなかったのは知ってたけど、もしかして…おばさんのところに転がり込んだみたい。けど全然働く様子も見せなかったらしくてね。さすがに迷惑だって、追い出したんだって。それで今はボロアパートを借りて、パートしてるんだってさ。あのボロ自転車が今じゃ愛車になってるみたいよ。なんだそりゃ。てか、兄貴の方は離婚したんだと。ああ、やっぱり。子どもが生まれたばかりなのに、身の丈に合わない車のローン。それで激怒されたんだって。まあ、そうでしょうねって感じだね。今まで直樹に搾取してた分を払っただけでしょ。そうなのかもな。なあ、明日さ、親父の墓参りに行かないか?お父さんの?もちろんいいけど。お盆とかじゃないけど、ノアが生まれたろ。その報告をしたいんだ。そっか。そういえば忙しくていけてなかったね。親父に改めて紹介したいんだよ。俺が本当の意味で大事にしたい家族ができたぞって。お父さんとの約束は守ってくれるんでしょ。当然だろ。俺はり子とノアを、これから先もずっと一生大事にするよ。じゃあ私も、直樹とノアを一生大事にするからね。
その後、お母さんは今もあのボロ自転車に乗って、ボロアパートとパート先を往復する日々を送っています。中卒の嫁にはこれがお似合い、そう笑っていましたが、きっと私以上にあの自転車が似合っていることでしょう。今後も地面とランデブーしない範囲で乗り回してほしいものです。地面の方がお母さんとのランデブーは嫌でしょうからね。お兄さんはというと、離婚後は借金返済の日々なんだとか。月十五万のローンに加え、子供の養育費を月五万。合計で毎月二十万の支払いに頭を抱えているそうです。車の売却も、売却禁止の契約があってできないとか。結局、支えてくれる家族を失い、残ったのは返済と車だけ。今となっては、その支払いを共同で払ってくれる相手もいなくなったようです。私が今回の件で痛感したのは、家族とどう向き合うか。それがその家族の形や行方を決めるということです。血がつながっているかどうか、そんなことは些細な問題です。夫婦なんて、元から血のつながりのない他人同士なんですから。だからこそ、相手を思いやり、尊重し合うこと。都合よく利用するだけの関係は、必ず破綻します。お父さんの墓前に、これが俺の大事な家族だよ。そう誇らしげに紹介してくれた直樹を見て、私も直樹とノアを心の底から大事に、そして愛していこうと思います。
