第2部

無実が明らかになった直後、探偵に連れられた健太郎が帰宅した。
「今日はどこに行ってたの? 仕事だって言ったでしょう」
「仕事だって言っただろう」
「嘘。今日は休みのはずよ」
私は探偵に目配せし、撮影した動画を流してもらった。映像には、健太郎が義母の不在中に部屋に侵入し、タンスから封筒を取り出す様子がはっきりと映っていた。さらに、消費者金融の窓口でそのお金を渡している場面まで記録されていた。
義母は青ざめた。
「嘘よ。健太郎がこんなことするはずがないわ」
「健太郎には多額の借金があるの。これまで生活費も入れてもらえなかった。だから私が家計を支えていたんです」
健太郎は観念したようにうなだれた。愛人に貢ぐためにオンラインカジノを始め、負けが込んで借金が膨らんだのだ。義母の三百万円も返済に充てたという。
総一郎が厳しい声を上げた。
「これは立派な犯罪だ。きちんと警察で罪を告白しろ」
義母は慌てて口を挟む。
「待ってちょうだい。あの三百万円は健太郎に私があげたものよ。だから盗みなんかじゃない」

盗まれたと大騒ぎしていたことを、まるでなかったかのように主張を変えたのだ。
私は静かに言った。
「散々私を疑っておいて、息子が犯人と分かった途端に手のひらを返すんですね。そんな人とこれ以上一緒には暮らせません」
健太郎は慌てて私にすり寄ってきた。
「今後は俺たち夫婦二人で暮らそう。お前は俺を愛しているんだろう。だからこれまで何があっても離婚しなかった。そうだろ」
その本心は見えていた。借金の返済を私に押し付けようとしているだけだ。義母も猫撫で声で同調する。
「勘違いしないで。私は健太郎のことなんかとっくの昔にあきらめています」
私はすでに記入済みの離婚届を突きつけた。
「本気で離婚するつもりなのか?」
「ええ、本気よ。これまでよく耐えてきたって自分を褒めてやりたいわ。準備は全て整っている」
私は慰謝料と財産分与を要求した。そして義母に対しても、これまでの嫁いびりと暴力、根拠のない名誉毀損で訴えると宣言した。
二人は慰謝料の支払いを拒んだ。そこで私は条件を提示した。
「一つは不貞行為の慰謝料。そして財産分与として、健太郎が持つこの家の権利を全て私に譲渡すること。もう一つは、お母さんが持つこの家の権利も全て私に譲ること」
「そんなの聞けるわけないわ」

「そうですか。では訴訟にするしかないですね。この家の監視カメラの映像、私の記録、音声データ、証拠なら山ほどあります。裁判になれば過去の詐欺事件もまた注目されるでしょうね。SNSも大炎上だな」
私たちは義母と健太郎に、自宅の喪失か太田一族の完全な破滅かの二択を迫った。
最終的に二人は折れ、譲渡契約書にサインした。家と土地の登記変更を行い、私のものとなった。
「因果応報だな」
家を失った二人は総一郎に助けを求めたが、総一郎は「社会に仇なす人間を養うつもりはない」と突き放した。格安のアパートに移り住んだ二人は、健太郎の借金返済のために義母が亡き義父の遺産を使い果たした。それでも足りず、健太郎は昼夜を問わず働き詰めの生活になったという。
一ヶ月後、健太郎のもとに警察官が訪れた。オンラインカジノで逮捕状が出たのだ。取り調べで継続的に賭博を行っていたことが立証され、懲役刑が言い渡された。一人残された義母はわずかな年金を頼りに暮らしていたが、持病の腰痛と痛風が悪化し、動けなくなった。親戚に助けを求めても、誰も手を差し伸べなかった。
私は家を売却し、そのお金を詐欺事件の被害者団体に全額寄付した。被害総額の一割にも満たない金額だったが、かつての加害者に一矢報いることができたと、被害者たちは喜んでくれた。
実は探偵として動いていたのは、私の弟・助きと妹・絆だった。三人で連絡を取り合い、この日を待っていたのだ。
「それじゃお前は俺が太田幹事の息子だと知って近づいたのか?」

健太郎の問いに、私は静かに答えた。
「いいえ、知らなかったわ。知ったのは結婚した後よ。最初はすぐに離婚しようと思った。だけどあの詐欺の被害者は他にも大勢いる。その人たちのためにも、一矢報いたかった」
あれから私は司法試験に合格し、弁護士としての第一歩を踏み出した。弱者の味方であり続けるために、今日も私は法廷に立つ。
両親が守れなかった正義を、今度は私が守る番だ。



