夫がスマホを置いて、私と再婚してたった3年で「お前の300万、不倫相手との店の資金に使ったわ。後はよろしく」と告げた日、私は娘の合格祝いのレストラン予約をキャンセルした。その夜、いつもふざけた娘が土下座して言ったの。「ママ、時間を1年ください。300万は取り返します。それ以上のものも差し上げますから。」私は「騙されてあげる」と笑って頷いた。でも、まさかこの1年が、夫を破滅に追い込む完璧な計画…

夫がスマホを置いて、私と再婚してたった3年で「お前の300万、不倫相手との店の資金に使ったわ。後はよろしく」と告げた日、私は娘の合格祝いのレストラン予約をキャンセルした。その夜、いつもふざけた娘が土下座して言ったの。「ママ、時間を1年ください。300万は取り返します。それ以上のものも差し上げますから。」私は「騙されてあげる」と笑って頷いた。でも、まさかこの1年が、夫を破滅に追い込む完璧な計画...

「大地、今どこ?」
「どこって会社だけど、今日は残業で帰りが遅くなるって言っておいただろう。」
「嘘だよね。」
「はあ? 嘘ってなんだよ。」
「私の友達が偶然見たって言ってたの。大地が知らない女とホテルに入っていくのを。」

ああ、あれか。飲み会で酔ってたから、後輩の女を介抱してただけだ。
「飲み会? 残業じゃなかったの?」
「飲み会も残業みたいなもんだろう。」
「じゃあ聞くけど、介抱ってラブホで?」
「なんだよ、そこまで分かってたのかよ。もったいぶった言い方しやがって。」
「何その言い方? 開き直ろうって言うの?」
「逆に聞くわ。男女でラブホに入って、何もないと思ってるのか?」
「大地、あなたね、私と再婚してまだ3年よ。」
「だから?」
「だからたった3年で不倫って。しかもみゆちゃんが大学に合格してすぐなのに。」
「いや、みゆは関係ないだろ。」
「ついこの間、家族でお祝いしたばかりじゃない。みゆちゃんに何て説明する気よ?」
「みゆだってもう18だろ。この程度のことでガタガタ言わないって。」
「そんなはずないでしょ。年頃の女の子が父親の不倫なんて知ったら…」
「あーはいはい。お前には分かんないか。まあ、所詮は血のつながってない母親だもんな。」
「どういう意味?」
「みゆはこれくらい慣れっこだってことだよ。」
「何それ?」
「俺がみゆの母親と離婚したのも不倫が原因だしな。」
「何それ? 私には教育方針の違いだって…」
「そんなの嘘に決まってんだろ。不倫して離婚しましたとか正直に言って、お前が俺と結婚するわけないだろ。」
「そういうことなのね…」

「てか、みゆで思い出したわ。」
「今度は何?」
「みゆの学費。」
「は?」
「不倫相手と店をやるための資金に使ったから。」
「は? 店? 使ったって、300万円全部?」
「学費の支払いはすぐなんだよ。俺とあいつの夢の店だから、理解してくれよ。」
「ああ、みゆにはお前から謝っといて。」

「ふざけないで。あのお金は私が独身の頃から貯めてたお金で、夫婦共有の通帳に入れてたんだから共有財産でしょ?」
「そんなバカな話が通るわけないでしょ。店だって、私とやるって言ってたじゃない。」
「あー、俺は最初からお前とする気なかったけど。」
「え?」
「あ、そうそう。お前が一生懸命作ってたレシピももらってくから。」
「そんな……」
「じゃあ俺は今日からそっちには帰らないから。後のことは全部任せたぞ。」

十分後、私はみゆちゃんに連絡した。
「みゆちゃん、バイト終わった?」
「優香さん、どんぴしゃー。マジで今さっき終わったところ。」
「みゆちゃん、本当にごめんなさい。」
「何なに? 急にどうしたの?」
「みゆちゃんの大学の学費が…なくなったの。」
「え、それやば。」
「実は大地が全額使っちゃったみたいで、さっきネットバンクを確認したら残ってなくて…」
「うわ、パパ終わってんね。」
「ごめんね、せっかく合格したのに。」
「いやいや、別になんとかなるっしょ。バイト代も貯めてるし。」
「でも、300万円よ?」
「まあ、なんとかするわ。」
「なんとかって…私の両親に借金してでも払うから安心して。」
「いや、いいって。それよりもパパは300万も何に使ったの?」
「えっと、すごく言いづらいんだけど…不倫相手と店を始めるんだって。」
「え? それガチ?」
「うん。しかも、店ってゆ香さんとやるって言ってなかった? レストランだっけ?」
「そう。独身の頃からの夢だったの。結婚した後は老後に一緒にやろうって言ってたんだけど、それも反故にして不倫相手と…娘の学費を使って。」
「そうだったんだ…」
「私がコツコツ書いてたレシピも、持っていかれちゃった。」
「ああ…」

「みゆちゃん、ちょっと聞きたいんだけど、その300万円って誰のお金?」
「私が独身時代に貯めてたお金だけど。」
「なるほどね。」
「なんか、さっきから軽くない?」
「別に軽くないって、普通に草も生えないレベル。」
「草も生えない?」
「笑えないくらいやばいってこと。それでも明るく振る舞ってて、私なんて本当にショックで…離婚しかないなって思ってる。」
「あ、ちょっと待って。」
「どうしたの?」
「ゆ香さん、1年でいいから時間をもらっていい?」
「え? どういうこと?」
「いや、マジで腹立つのは分かってるとは思うよ。けどマジでお願い。1年だけ。」
「…なんで1年? その1年でどうするの?」
「まあまあ、そこは私にお任せってことで。悪いようにはしないよ。」
「なんでそんな怪しい感じを出してくるの?」
「奥さん、お任せくださいよ。」
「…はいはい。じゃあ騙されてあげるわ。1年でいいのね? あ、離婚も禁止でよろしく。」
「え?」

一週間後。
「おっす、みゆ。元気か?」
「いや、元気かじゃなくない? 人の学費を何で勝手に使ってんの?」
「あれな、マジで助かったわ。サンキュー。」
「サンキューじゃないんだが。ガチでありえない。パパ、節操なさすぎ。」
「あーはいはい。すまんすまん。」
「はぁ、謝る気もないし…てか、お前SNSやってたよな?」
「無視とかマジうざ。やってるけど。」
「フォロワー多かったろ?」
「一応1万人だけど。」
「それが、でかした。さすが下品なダンス動画を上げてるだけあるわ。」
「あのさ、マジで言葉に気をつけなよ。実の娘相手に下品とか、父親としてありえないから。」
「いや、実際そうだろ。父親としては、娘があんなのやってるのとか恥ずかしいわ。」
「あっそ。」
「どうせおっさんとかに媚売ってんだろう。若い女はいいよな。適当に露出して踊るだけで人気になれるんだから。」
「クソリプかよ。」
「で、その恥ずかしい娘に何の用?」
「今度さ、店をやるんだよ。レストラン。」
「ゆ香さんから聞いてる。私の金を使って不倫相手とやるんでしょ?」
「そうそう。聞いてんなら話は早いな。」
「その前に、やってることがやばいって自覚ある? 父親としてというか、人として終わってるからね。」
「そういうのいいから。その店の宣伝をしてくれよ。」
「は? 宣伝?」
「実は結構前から準備しててさ、来月にはオープンするんだよ。だからインフルエンサー様から宣伝頼むわ。」
「この状況でそんなこと普通頼む? 心臓が鉄でできてんの?」
「大学も経営学部を選んだんだったよな。ならSNS戦略的なことも分かってるんだろう?」
「いや、まだ大学に行って何も学んでないし。」
「大丈夫、できるって。」
「どっから来た自信なわけ? その大学だって、ゆ香さんのおかげで行けるんだけど。」
「ああ、やっぱりちゃんと300万用意したんだな。ゆ香さんのパパママに借りてくれたのか。マジで助かったわ。」
「申し訳なさすぎて、マジで鳥肌立つんだけど…」

それでも、みゆちゃんは宣伝を引き受けた。
「分かった。それで今SNSで宣伝してバズらせたらいいんでしょ?」
「おお、それそれ。バズバズ。」
「じゃあ、店のアカウントは共有して。後で送るから。」
「いやあ、やっぱ持つべきものはできた娘だわ。」
「せいぜいバズり散らかせますよ。」
「マジで頼りにしてる。じゃあ店の宣伝は全部任せるから、繁盛させてくれよ。」

一年後。
「大地、300万円返して。」
「ああ、しつこすぎる。1年前のことをいつまで言ってんだよ。」
「1年前とか関係ないから。毎月のように連絡してくるのも何とかして。」
「返してくれないあなたが悪いんでしょ。てか、こっちは忙しいんだよ。分かるだろ? 店が繁盛してんの。」
「繁盛してるなら、300万も返せるんじゃないの?」
「そもそも返す返さないの問題じゃないだろう。あれは夫婦の共有財産だ。俺がどう使おうと、問題ありません。」
「違います。あの300万は私が独身時代に貯めた貯金なの。だから私個人の資産であって、共有財産じゃありません。」
「夫婦の共有口座に入ってたんだから、共有財産だろ?」
「どこに入れてても私個人の財産よ。それを無断で、しかも不倫相手との店の運転資金に…論外です。」
「耳にタコができるわ。何回もその説明は聞いた。」
「だったら早く払ってください。」
「払わない。以上、終わり。これも何度も言ってるだろう。」
「あのね、返還するのは当たり前なの。日本の法律で決まってることよ。」
「はいはい、そうですか。」
「法的手段に訴えてもいいんだけど…」
「どうせしないじゃん。」
「どうしてそう言えるの?」
「じゃあ逆に聞くけどさ、なんで俺とお前がまだ離婚してないわけ? それはお前が俺にお願いしたからだよな。離婚したくないって泣きついてきたのはどっちだよ?」
「泣きついてはいません。ただ、もう少し待って欲しいって言っただけ。」
「もう1年ですけど。離婚はまだ? 俺はいつでもいいぞ。」
「…もうちょっと待って。」
「出た出た。結局俺に未練たらたらなんだろ? モテる男は辛いね。」
「そんなんじゃないわよ。」
「いいっていいって、強がって。」
「強がってません…」
「まあ、俺も今は店が忙しいし、それが落ち着くまでは夫婦関係を続けてやるよ。ありがとうと思え。」
「…随分と偉そうね。」
「お前のレシピのおかげで大繁盛してるからな。バイトでも作れる簡単レシピで味は最高。俺の目は間違ってなかったわ。」
「そうですか。」
「あとみゆにも礼を言わないとな。あいつのおかげでバズってるし。ああ、忙しい忙しい。」
「私は300万も、不倫の事実も、認める気はないからね。」
「言ってろ言ってろ。お前には何もできないんだよ。俺の勝ち組人生を見て、負け犬人生を送ってな。」

数日後、みゆちゃんが言った。
「パパ、レストラン開店1周年おめでとう。」
「おお、みゆ、サンキュー。お前の宣伝のおかげだわ。」
「まあ、相当バズってるからね。」
「お前、思った以上にやるじゃん。なんだったら、このままうちで雇ってやろうか?」
「うん、ノーサンキュー。」
「せっかく俺が誘ってやってんのに。水希もかわいがってくれると思うぞ。」
「水希? それって不倫相手?」
「不倫相手じゃなくて、将来のお前の母親だ。」
「うわ、マジでいらない。」
「そう言うなって。てか俺って経営センスあったんだな。こう、トントン拍子ってやつ。ま、才能だわ。」
「パパ、やば。才能あるわ。」
「だろ?」
「うん、マジでお笑いの才能あるよ。」
「は? お笑い? 経営センスの話だぞ。」
「マジで言ってんの? 経営センス? ただゆ香さんのレシピを盗んで、私のフォロワーにタダ乗りしただけじゃん。バカでもできるから。」
「はあ? お前な、父親に対してバカってなんだ。」
「ガチだから仕方ないじゃん。経営センスとかマジで皆無。」
「実際に、こうして成功してるだろうが。」
「成功? 勘違いも甚だしい。」
「なんだと?」
「レビューはサクラを入れて操作してるんでしょ?」
「は? そんなのしてねえし。」
「実際SNSだとひどいよ。『SNSは料理がうまいけど、女店員の接客態度が最悪。2度と行かない』って。女店員って水希? 口コミが広がって、すぐに客が来なくなってるね。」
「なんだよそれ。」
「今の時代、店舗経営するのにSNSを見ないとか、やば。次からは気をつけた方がいいよ。まあ、次があるとは思えないけど。」
「お前が何とかしろよ。SNSはお前の担当だろ?」
「別に雇われてないんですけど。」
「それでもやるんだよ。早くしろ。」
「まあ安心して。すぐに対応するから。来月にはこの評価も逆転するって。」
「なんだよ、それを先に言えよ。焦って損したわ。」
「その時は、パパはもうオーナーじゃないけどね。」

数日後。
「おい、みゆ。なんだよこれ。」
「ああ、SNS見た。パパ、やっぱり炎上してんね。受ける。」
「受けるねえよ。店を乗っ取ったとか、心当たりのないことで色々と言われてるんだけど。」
「SNSでバズるのって、ストーリー性も大事なんだよね。」
「ストーリー性? どういうことだ?」
「パパと私のLINEでしょ? それと、パパとゆ香さんのLINE、全部SNSに上げたった。」
「は? お前、何やってんだよ!」
「娘の学費300万を盗んで、不倫相手とお店開店。ゆ香さんは元プロの料理人で、そのレシピまで奪って…もうマジ無理。父親がこんなことしてるとか、無理。」
「バカじゃねえのお前! そんなのしたら、こうなるのは分かりきってただろ!」
「自覚あるの逆にやば。」
「笑い事じゃねえんだよ! どうするんだよこれ! お前、すぐに何とかしろ!」
「は? 無理。」
「無理じゃないだろ! お前のせいでこうなってんだぞ!」
「いやいや、パパのせいでしょ。私、一言も嘘は投稿してないけど。」
「そんなの知るか! こっちは迷惑してんだよ!」
「それな。」
「は?」
「私は、パパの娘に生まれてからずっと迷惑してんの。」
「なんだと?」
「パパさ、私が経営学部を受験した理由、知らないっしょ?」
「あ? 知らねえよ。興味もない。」
「私の実のママ、今も入院を繰り返してんの。」
「実のママって…あいつが? てかなんでお前がそんなこと知ってるんだ?」
「今も連絡取ってるもん。当然っしょ。」
「俺はそんなの聞いてないぞ。」
「そりゃそうでしょ。誰のせいでママが入院してると思ってんの?」
「あれはあいつが勝手に倒れたんだろ。」
「倒れるまで追い込んだのが誰か、分かって言ってんの? 元々体が弱かったのに、パパが何回も不倫して精神不安定になって、挙げ句の果てに病気で入院したら離婚。ざけんな。」
「…じゃあなんでお前は俺についてきたんだよ。あいつのそばに行ってやればよかっただろうが。」
「そばにいれる状態じゃなかったじゃん。治療費もかかって働けない状態で、おじいちゃんたちもママの治療費でカツカツだし。」
「それはそうだけど…」
「そんなママを助けたくて、経営学部に入ったの。お金があれば、一緒に暮らせるから。パパの言う『下品な踊り』だって、そのため。」
「だからって、これは関係ないだろう。稼ぎたいなら勝手に稼いで、あいつのとこへ行けよ。俺を巻き込むな。」
「は? ママを追い込んだ奴を、私が許すと思ってんの?」
「じゃ、まさかお前…ママの分も、やってやろうと思ってたのか?」
「ゆ香さんには悪いけど、利用させてもらった。あんたが再婚して何もしないとは思えなかったから。」
「このクソガキ! 父親に対してこんなことして、許されると思ってんのか!」
「クソガキに親の金を盗まれて、娘に抱っこしてもらってたのはどこの誰だよ。」
「あ? 俺はお前なんていなくても、自力でこれくらいはできたんだよ。」
「無理だから。そんな頭があったら、こんなバカなこと最初からしてない。ゆ香さんを利用して、私を利用して。全部他人の力じゃん。どうするの、みゆう?」
「お前な…」
「下品な踊りを踊ってる恥ずかしい娘に、頼ってたんでしょ? 恥ずかしいのはどっちだよって話。やってることが清いんだよ。二度とその汚い面を見せんな。」

十分後、私は大地に電話した。
「ゆ香、お前これ知ってたんだろ?」
「SNSの炎上? そりゃあそうよ。私とのLINEもさらされてるんだから。」
「何勝手に言ってくれてんだ! このままじゃ俺は破滅だぞ!」
「ねえ、大地。なんだと思う?」
「何がだよ。」
「あなたに学費を使われた日、みゆちゃんが私に何て言ったか分かる?」
「知るか、そんなこと。」
「あの子、私に『時間を1年ください』って言ってきたの。」
「は? 1年?」
「LINEではふざけた感じだったけどね。でも家に帰ってきてすぐに、土下座して頼んできたの。」
「土下座? あのみゆが? 何の冗談だよ。」
「ね、そう思うでしょう? いつも笑ってて表向きは軽いみゆちゃんが、真剣な顔で言ったの。『取られた300万は取り返します。それ以上のものも差し上げますから、力を貸してください』って。」
「ちょっと待てよ。300万を取り返す以上のもの? どっから出てくるんだ、そんなもん?」
「もちろん、あなたからよ。」
「俺から?」
「まず先に言ってきたけど、あの300万は私のもの。それを返還請求します、と。」
「それは言ってたけど…」
「1年間、私は繰り返し返還を求めたわね。知っててあなたは拒否してきた。悪意のある占有と判断して、遅延金も請求しますね。」
「はあ? 遅延金?」
「加えて、慰謝料300万。」
「ふざけんな! そんなの相場以上だろ! 不当請求だ!」
「何のために、1年間婚姻関係を続けたままにしてたと思ってるの?」
「それは…お前が俺に未練があったからじゃ…」
「あらやだ、気持ち悪い。1年間、私は一度も不倫を認めてないわよね?」
「なんか言ってたな、認めてないって。」
「それを知っていながら、1年間不倫を続けたでしょう? 相場以上の金額になる理由はそれ。」
「じゃあ、なんで離婚しなかったんだ?」
「パパならどうせ払わないし、不倫もやめないなら、そっちの方がお得だってみゆちゃんが言ったのよ。」
「みゆ…あのガキ…」
「あと、婚姻関係を続けた理由がもう1つ。」
「まだあるのかよ。勘弁してくれ。」
「別居中も、収入の多い方が婚姻費用を払う義務があります。」
「収入の多い方って…俺か。」
「お店、随分と繁盛してたみたいね。あなたの収入なら、1年分で150万円だそうよ。」
「何…」
「全て合わせて、770万円の請求になります。」
「770万…そんなの無理だ! 水希が食い散らかしてたし、店を売ってやっとだ!」
「お店、くれない?」
「え?」
「お店の権利を770万で売るか、お店を維持して払うか。あなたの選べる道は、二つに一つです。」
「なんだよこれ。どうなってんだよ、これは…」
「お店の評価、かなり落ちてるんでしょ? 炎上したばかりだものね。」
「あの炎上も…これを狙ってたのか?」
「ストーリー性が重要らしいわね。『盗まれたお金とレシピを取り返して、お店を手に入れる。オーナーが正しい人になれば、評価は逆転する』って、みゆちゃんが言ってたわ。」
「1年前から、こうなることが決まってたのか…俺がお前を裏切ったから?」
「違うわよ。みゆちゃんの実のお母さん、前の奥さんを捨てた。5年前から決まってたの。その時に、娘に捨てられたのよ、あなたは。」

一ヶ月後。
「ゆ香さん、お店の準備は順調?」
「みゆちゃんのおかげでね。SNSでも随分と応援されてるのよ。」
「知ってる。悪い評価は全部パパが持ってっちゃったから。」
「みゆちゃん、これは聞きたくないと思うんだけど…大地のこと。」
「うん。パパ、どうしたの?」
「お店を私に渡した後、貯金もなかったみたいだね。不倫相手の水希さんと一緒に、借金生活らしいわ。」
「ざまあ。」
「そう言うと思った。そっちはどう? お母様とは?」
「ママ、最近になってようやく退院できてさ、一緒に暮らすことになったみたい。」
「そうなの? 良かったじゃない?」
「うん。おじいちゃん…ママのお父さんね、にもすごい謝られちゃった。」
「どうして?」
「『孫が苦しんでるのに助けられなかった』って。」
「そう…ママの治療費があって、それどころじゃなかったのにね。」
「私が迷惑かけたくなくて頼らなかったのも悪いし。1番悪いのはパパじゃん。」
「おじいちゃんも、力になりたかったのよ。それが複雑な大人心ってやつね。」
「でもまあ、ママと一緒に暮らせるようになって、本当によかった。」
「良かったわね。」

「…ゆ香さん。」
「どうしたの?」
「ゆ香さんさ、マジでごめんね。」
「え? 何が?」
「利用しちゃったし、迷惑かけちゃったし。なんか私の都合で振り回してさ。マジごめん。私、3年だけだったけど、あなたの母親だったわよね?」
「あ、うん。あなたも3年だけは、私の娘だったでしょ?」
「それはそうっしょ。」
「なら、迷惑をかけたとか巻き込んだとか、全部どうでもいいよ。」
「え、でも…」
「みゆちゃんはお母さんと暮らせるようになって、幸せ?」
「それは…うん、幸せ。パパとのこともけりがついて、すっきりしたし。」
「それで十分よ。こんなのでも母親だったんだから、娘が幸せならそれでいいの。」
「ゆ香さんって、そういう性格してるよね。」
「え、本当? どこが?」
「そういうとこ。」
「どういうとこ?」
「うん、なんでもない。」
「あ、そうそう。私って、1年の時間をみゆちゃんにあげたでしょ? 急に。」
「うん、そうだけど。」
「じゃあ、次はみゆちゃんの1年をもらっていい?」
「へ? マジで?」
「あと1年だけでいいから、仲良くなる時間が欲しいの。母親として、なんてわがままは言わない。だからお願い。」
「ずるいって。それはぶっちゃけ、ゆ香さんって私のこと苦手っしょ?」
「うっ、ぶっちゃけるじゃん。たまに何言ってるか分からないし、グイグイ来る感じもちょっと苦手よ。私、こう見えて打ち気な性格してるから。」
「なのに、仲良くなりたいわけ?」
「私は料理人ですから、食わず嫌いはしないようにしてるの。」
「何それ?」
「今度さ、うちに遊びに来てよ。ママに紹介したい。『私を、もう1人のお母さんだよ』って。」
「ずるいのはそっちでしょう。」
「は? 何が?」
「行く。絶対行く。」
「そっか。ありがとう。これからもよろしくね、みゆちゃん。」

その後、大地と水希さんは、お店を失った後は絵に描いたような転落人生へ。
お店が繁盛していることに有頂天になり、豪快にお金を使っていたようで、裏では借金まで作っていたんだとか。
300万円の返還に一切応じなかったのも、そういう事情があったようです。
SNSで盛大に炎上したこともあって、知らない人から後ろ指を差される日々。
しかも多額の借金まで背負い、喧嘩の絶えない生活なんだとか。
それでも離れないのは、離れたら余計に生活が苦しくなるからでしょう。
最後まで尊厳も感情だけで動いて、寂しい人たちだなと感じます。

私はといえば、無事にレストランを開店し、売上も順調です。
両親に借りたみゆちゃんの学費300万も、すでに返済済み。
元々資産価値で770万以上のお店だったので、私は大きく得をした形です。
SNSでみゆちゃんが宣伝してくれ、バイトとしても働いてくれています。
今ではうちの看板娘として大人気。フォロワーの方が会いに来たり、みゆちゃん目当ての常連さんができたり。
みゆちゃんの店なんて言われないよう、私も日々一生懸命です。
みゆちゃんのお母様は、最近は体調が上向いてるんだとか。
娘と一緒に暮らせること、それが何よりも力になっているのかもしれません。

私はもう、みゆちゃんの母親ではありません。
血のつながりもなく、大地とも離婚して他人になりました。
それでも、みゆちゃんが「お母さん」と呼んでくれるなら、私はいつまでもあの子の母親の一人として生きていきたいと思っています。

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