夫が突然、リビングに立ったまま「兄嫁が俺の子供を妊娠したから、離婚してくれ」と言った。
意味がわからなくて、何度も聞き返した。でも夫は「そのまんまの意味だ」と涼しい顔で言う。
「お兄さんの奥さんと、できてたってこと?」
「詳しく言うと生々しいだろ。運命だから仕方ない。俺は責任を取る男だし、放っておけない」
私は頭が真っ白になった。3人の子供がいる。この家を、家族を、何だと思っているんだろう。
「お兄さんは知ってるの?」
「今から話しに行くところだ」
笑い事じゃない。なのに夫は「覚悟があるってことだ」と格好をつける。私は子供たちのことを聞いた。
「うちの子供たちはどうなるの?」
「それはお前に任せた」
「3人もいるのよ。責任はないの?」
「だからそれはお前がやってくれ」
頭がおかしいのかと思った。養育費の話をすると、夫は「1. 5人分でいいだろ」と言い放った。私は絶対に逃がさないと決めた。
その2時間後、私は夫の兄の家を訪ねた。
「お兄さん、ご無沙汰してます。夫が伺ったようですね」
すると兄はきょとんとした顔で「弟なら楽しそうに飲んで、さっき帰ったよ」と言う。そして、こう続けた。
「うちの妻が妊娠してな、そのお祝いに来てくれたんだよ。俺もやっと父親になれるんだ」
私は混乱した。兄の妻は、不妊治療の末に妊娠したらしい。夫が「自分の子だ」と言っていたのに、兄は自分の子だと信じて疑わない。
後で夫に問い詰めると、夫は「兄貴が喜んでいたから、合わせるしかなかった」と言った。本当のことを言うつもりで行ったのに、タイミングを逃したのだと。
「じゃあ、お姉さんは何を考えてるの?」
「分からない。お前から聞いてくれないか」
「何で私が、私を裏切った相手と話さなきゃいけないの?」
「頼む。慰謝料も払う覚悟はある。兄貴との離婚が成立しないと話にならないんだ」
私は嫌々ながら、翌日、義姉に会いに行った。妊娠のお祝いを伝えると、義姉は「やっと授かれたわ」と嬉しそうに言う。
「誰の子なんですか?」
「夫に決まってるじゃない」
「夫は、自分の子だと言ってましたよ」
義姉は笑った。「正君の思い込みよ。前から私に気がある素振りはあったけど、私が応じるはずがないでしょ」
二人の言い分はまるで食い違う。私はDNA鑑定を提案した。義姉は夫に心配をかけたくないからと、夫との鑑定のみで納得してほしいと言った。夫との父子関係が否定されれば、必然的に兄の子になるのだから、と。
数週間後、結果が出た。夫と義姉の間に、血の繋がりはなかった。
夫は信じられないと言った。「何度もホテルに行ったんだ。絶対に俺の子だと思ってた」
でも、鑑定は科学的な事実だ。義姉は「やっぱり夫の子で間違いないわね」と涼しい顔をしていた。
私は夫に言った。「お姉さんは何かを隠している気がする」
「俺は嘘はついてない」
「でも、本当のことをお兄さんに話したら、お兄さんを傷つけることになるわ」
「だから俺が直接話してくる」
翌日、夫は兄に全てを打ち明けた。「俺は洋子さんが好きだ。順番を間違えたことは謝る。でも愛してしまったんだ。譲ってくれ」
すると夫は、義姉の背中にある火傷の跡を口にした。子供の頃に祖母の家のストーブでできた跡だ。兄しか知らないはずの身体の特徴を、夫は知っていた。
「お前、本当に手を出したのか」
「そうだ。殴られる覚悟はできてる」
兄は怒りに震えながらも、最終的にはDNA鑑定に応じると決めた。そして夫には「お前だけは許さない」と言い放った。
1ヶ月後、兄から連絡が来た。鑑定結果が出たのだ。
「俺の子でもなかった」
「え?夫の子でもなく、お兄さんの子でもないなら、一体誰の子なんですか?」
「それが、ありえない結果が出たんだ。お腹の子のY染色体が、俺と一致したんだ」
Y染色体は男性から男性へ受け継がれる。兄と夫は兄弟だから同じだが、お腹の子のそれが兄と一致するということは、夫も兄も父ではない。父親は、同じY染色体を持つ誰か。つまり、義父か叔父だ。
叔父は北海道に住んでいて、義姉と会ったのは結婚式の1回きり。となれば、可能性は一つ。
「俺たちの父親だ」
「義父が、自分の嫁に手を出したってこと?」
私たちは震撼した。義姉は、夫との不倫を隠れ蓑にして、実は義父との関係を隠していたのだ。
数時間後、兄が義姉を問い詰めた。義姉は「ごめん」と認めた。「強く言い寄られて断れなかったの。不妊治療の効果もなくて、もうダメだと思ってた。でも妊娠して驚いたわ」
さらに話を聞くと、義姉は夫とも義父とも関係があった。目的はただ一つ、子供を産むこと。誰の子でもよかった。三人の男の顔が似ていて血液型も同じだから、鑑定しなければ一生分からないと思っていたのだ。
「あなたたち兄弟から種をもらえれば、どれか一人は当たると思ったのよ」
「恐ろしい女だ。お前のせいで家族が崩壊する」
「どうして?今まで通りでいいじゃない。夜の相手を断ったお母さんにも責任はあるし、あみちゃんも、当然私の誘惑にまんまと引っかかった」
義姉は笑いながら「あの女の泣き顔が見られたら最高ね」と言った。その「あの女」とは、私のことだった。
私は義姉に無言でLINEのスクリーンショットを送った。義父の子だと知った上で、義姉へ伝えたのだ。
「お父さんの子なんて、正気ですか?」
「あのおじいちゃん、意外と元気なのよ。試してみたら?」
「やめてください。気持ち悪い」
義姉は私に言った。「私の目的は2つ。子供を作ることと、あなたの泣き顔を拝むことよ。あなたが私への嫌がらせのように、3人も産んだから」
「あなたのことは最初から眼中にありませんでした。勝手な被害妄想ですね。病院に行った方がいいですよ」
義姉は激怒したが、私は一歩も引かなかった。「旦那を寝取られたのに強がるんじゃないわよ」と義姉が言っても、私は「私には3人の宝物がいるので、どうぞ遠慮なく」と切り返した。
その後、夫と義父、義姉それぞれに慰謝料請求の話が持ち上がった。夫は義両親に全てを打ち明け、義実家からの支援は断たれた。義父も妻に離婚され、義姉も実の親と絶縁状態になった。
そして、みんながそれぞれの代償を払った。洋子は総額500万円、夫と義父は300万円の慰謝料を支払うことになった。
私は子供を連れて実家へ戻った。夫から「戻りたい」と懇願されたけど、「好きな女ができた途端、家族を捨てて養育費の責任も放棄するような父親はいらない」と言い放った。
夫は今、出産直前まで水商売で働きながら、慰謝料の支払いと育児に追われているそうだ。孤独な育児の日々を送っているらしい。
私は4人の子供と一緒に実家で暮らしている。笑っているママの姿を子供たちに覚えてもらえるよう、毎日を明るく生きていきたい。
家族を壊された怒りはまだ消えないけど、それでも私は、前を向いて歩いていく。



