「みきさん、マリ子の結婚式の件だけど」
「はい、何でしょうか」
「あなたたち家族は来なくていいから」
「え?どういう意味ですか?」
「言葉通りよ。マリ子の結婚式に、あなたたち家族は招待しないってこと。勝手に来ないでちょうだいね」
「ちょっと待ってください。それはどういう判断で?私たち、何かしましたか?」
「判断も何もないでしょ。最初から決めてたのよ。娘の結婚式に、貧乏人一家なんて呼ぶわけないじゃない」
義母は電話口で、平然とそう言い放った。
「貧乏人…私たちがですか?」
「そうよ。他に誰がいるっていうの?」
「でも、私たちは何も…」
「いい?あんたたちみたいな家庭が来たら、式の格が下がるの。来ないでちょうだい」
「格って…そんなことを言われても」
「貧乏人は格がわからないから教えてあげるけど、結婚式っていうのはね、誰を呼ぶかで価値が決まるの。変な人間が混ざると台無しになるのよ」
私は必死に言葉を選んだ。
「私たち、お母さんの前で非常識なことはしていないはずです。むしろ、突然『貧乏人は来るな』と言われる方が非常識だと思いますが。どこを見て、貧乏人だと判断されたんですか?」
「は?何?今さらそんなこと言ったらキリがないわ。結婚式も挙げられなかったくせに、何言ってるのよ。普通は結婚する時に、ちゃんと式を挙げるの。それができなかった時点で、わかるでしょ」
「私たちは挙げなかっただけで、それも夫婦で話し合って決めたことです」
「強がらなくていいのよ。お金がないからできなかった。それだけでしょ」
義母はさらに続けた。
「それに、まだあるわよ。ご祝儀だってそうじゃない」
「ご祝儀?きちんと相場通り、渡したはずですが」
「あの金額で、よく平気でいられるわね。相場?長男の嫁なら、もっと包むのが常識でしょ。妹の結婚式なのよ。それをあんな少ない額で済ませるなんて、恥ずかしいと思わないの?」
「失礼ですが、事前にご祝儀を『くれ』と催促してきたこと自体、あまり一般的ではないと思いますが」
「何それ?言い訳?だから貧乏人は嫌なのよ。常識がないんだから」
私は、もう何から突っ込んでいいのかわからなくなっていた。
義母は、とどめの一言を刺した。
「それなら、決定的なことを言うわ。健太の態度が、何よりの証拠よ」
「健太さんが、何か言いましたか?」
「あの子、あなたの実家の話を、ほとんどしないでしょ。普通は嫁の実家が立派なら、少しくらい自慢するものなのよ。それが一切ないってことは、どういうことかわかる?」
「わかりません」
「自慢できる要素がないってことよ。つまり、お金がない貧乏だから話せない。それだけの話でしょ」
私は、義母が本気でそう思っていたことに、ただ呆然とした。
「周りを見なさい。結婚式に呼ぶ人間っていうのはね、それなりの家の人たちなの。ちゃんとした仕事をして、ちゃんとした暮らしをしている人たち。そういう人たちの中に、あんたたちみたいなのが混ざったらどうなると思う?」
「浮く、と言いたいわけですね」
「そうよ。浮くだけならまだいいわ。恥をかくのはこっちなのよ。『ああいう人たちを呼んでるのか』って笑われるのは、こちらの身なの。わかる?だから来るなって言ってるの。当日は家で大人しくしてなさい。式場に近づくこともやめて。見かけたら本当に困るから」
そこまで言われる理由が、私にはどうしても理解できなかった。
「理解する必要はないわよ。従えばいいの。それだけ。何か問題でもあるの?」
「問題かどうかは別として、かなり一方的なお話だと思いますが」
「結婚式はこっちのものよ。誰を呼ぶか決めるのもこっち。口出しする権利なんて、あんたにはないわ」
「それに、あんたたちみたいな人間が来ると、他のゲストに迷惑なのよ」
「迷惑?なぜですか?」
「だって、マナーもわからないでしょ。ちゃんとした場に出たことないでしょうから。失礼なことをするに決まってるのよ」
「そんなことをすると思われるような振る舞いは、していないはずですが」
「義母の前では気を遣うでしょ。自分で言う?それに結婚式なんて浮かれちゃうし、本性が出やすいものよ」
「…そうですか」
「何よ、その反応」
「別に。ただ、疲れました」
「強がらなくていいのよ。悔しいなら、悔しいって言えば」
「いえ、事実と違うので。お母さんって、こんなに人の話を聞かないんだな、と思っただけです」
「話を聞かないのは、あんたの方でしょ。全く、親が親なら子も子だわ」
「…なんですって?」
「だって、あんたの子供たち、可愛くないもの」
私は凍りついた。
「あの子たちが、何かしましたか?」
「まだしてないけど、今後するに決まってるでしょ?育ちが違うんだから」
「私たちは、一般常識をきちんと持ち合わせています」
「そうかしら。ちゃんとした家庭で育った子はね、場の空気が読めるの。でも、あんたのところは違うでしょ。だから不安なのよ。それに、結婚式って写真が残るの。そんなところに猿みたいな子がいてもね…写真は一生残るの。その中にあんたたちが映るのよ。ゲストだって見るわけだし、『誰この人達?』って思われるとね。説明するこっちの身にもなりなさいよ」
「…随分ですね」
「何が?正直なだけよ。むしろ感謝してほしいくらいだわ。はっきり言ってあげてるんだから。遠回しに避けるより、優しいでしょう?」
そう言って、義母は一方的に電話を切った。
あれだけのことを言われて、私はしばらくその場に立ち尽くしていた。
一時間後、今度はマリ子から電話がかかってきた。
「お姉さん、ごめんなさい。なんか母さんが色々言っちゃったみたいで」
「ええ、さんざん言われましたよ」
「…でも、私も同じ気持ちなんです」
「え?」
「お姉さんには、来てほしくなくて」
私は耳を疑った。
「あなたも、そういう意見なんですか?お母さんが勝手に言ってるとばかり思ってました」
「それなら、ちゃんと言いますね。私もお母さんとは同じ意見です。お姉さんたちがいると、ちょっと雰囲気が崩れるというか、浮くと思うんですよね」
「それが、本音ですか?」
「だから、母さんの言う通り、今回は遠慮していただけると助かります」
「…わかりました。最初からそう言ってくれればよかったのに」
「すみません。建前で呼んじゃったんですけど、貧乏人は空気が読めないから、そのまま参加しちゃうんですね。私がもっと配慮しておけばよかったです」
そして、マリ子はこう付け加えた。
「あ、でも、お兄ちゃんには結婚式の費用を援助してもらうんで、そこはよろしくお願いしますね」
「は?こんなことを言われて、支援するんですか?ふざけてるんですか?」
「ああ、お姉さんは貧乏人で格がないから、そういう常識ないですよね。長男なんだから、妹の結婚式費用を出すのは当然ですよ。それくらいの分別はあるよね?」
「意味がわかりません。来るなと言いつつ、お金は出せと?」
「何か文句あります?長男の嫁のくせに。嫌ならいいですけど、お兄ちゃんに直接言いますからね。お兄ちゃんだって、可愛い妹の結婚式くらい、喜んで援助してくれますよ」
「随分と都合のいい話ですね」
「いや、お姉さんは自分の立場をわかった方がいいですよ。お姉さんは長男の嫁。嫁が実家の家族に偉そうな口を叩いてはいけない。これ、常識ですよ。私より早く結婚してるくせに、そんなこともわからないなんて」
マリ子にも電話を切られた。
さらに一時間後、今度は夫の健太が、青い顔をして帰ってきた。
「どうしたの?何かあった?」
「……母さんとマリ子から連絡があって、結婚式に来るなって言われた」
「やっぱり、そっちにも言ってたのか」
「『やっぱり』って…知ってたの?」
「私のところにも、同じ内容の電話があった。でも、『金は出せ』ってさ」
健太は深くため息をついた。
「そうだったんだ。俺にだけじゃなくて…実の息子にまで、そんなことを。ごめん、気を悪くさせたよな。本当に申し訳ない」
「謝らないで。私はいいの。正直、慣れてるし」
「慣れてるって…」
「あなたが毎回守ってくれたし、そこまで頻繁に会うわけじゃなかったから、我慢できたの。でも…子供たちのことまで言われたのは、さすがに」
健太の顔色が変わった。
「子供たちに、何て言ったんだ?」
「…貧乏人の子供だって。マナーも知らない猿だって」
「はあ?何だよ、それ」
「あかりと翔太は、何も悪くないのに。あの子たち、結婚式を楽しみにしてたのよ」
「そうか…あかりは女の子だし、結婚式に憧れがあるもんな」
「あかり、この前ドレスを見て、『おばあちゃんに見せるんだ』って、すごく嬉しそうにしてたのよ。それなのに、来るなって…存在ごと否定されるみたいで。もう、いいよ」
「…え?」
「俺も限界だ」
健太は、静かに、しかし力強く言った。
「今まで、母さんのプライドを傷つけないように、余計なことを言わないようにしてきた。でも、子供たちまで侮辱するなら、話は別だ。正直、お金さえ出せば黙ってくれると思って、我慢してた」
「そうよね。私も同じ考えだったわ」
「でも、もう頭に来た。結婚式の費用も、出さない」
「…いいの?」
「いい。出す理由がない。俺の家族を侮辱しておいて、金だけ出せば通用すると思ったら大間違いだ」
「ありがとう。むしろ、遅いくらいだよ」
「守るべきものを間違えてたよ。それに、お金を使うなら、家族のために使いたい」
健太は、少しだけ口調を柔らかくして言った。
「せっかくだし、どこか行こうか」
「え?突然ね」
「子供たちに、楽しい思い出を作ってあげたいんだよ。それに、ほら、ちょうど休みだしさ。俺たちも、せっかくの休みを無駄にしたくないし」
「…そうね。それもそうだわ。でも、旅行なんてどこに行くの?」
「イタリアなんてどうだ?」
「イタリア?」
「あかりが前に行ってたろ。ローマに行きたいって」
「そういえば、特集番組を見て言ってたわね」
「あの子たちがあの家で嫌な思いをするくらいなら、楽しい思い出で上書きした方がいい」
「そうだね。もう、これ以上傷つけさせない」
「うん。じゃあ決まりだな。イタリア、ローマ。子供たちが回りたいところを回ろう。俺たちだけの旅行にするんだ」
「…うん、そうね。わかった。じゃあ、私からも返事をするね。きちんと文字に残しておかないと。後でトラブルになりかねないから」
「ああ、わかった。俺も伝えておくよ」
同じ頃、私たちは二人で返事を送った。
私は義母に。
「お母さん、結婚式の件です。お二人の気持ちはよくわかりました。私たちも、あれだけのことを言われて、気持ちよくお祝いすることはできませんので、結婚式は欠席します」
すると、義母からはすぐに返信が来た。
「やっとわかったのね。最初から来る資格なんてないんだから」
「はい。助かります」
「はあ。何が『助かる』って言うのよ」
「別に、お母さんには関係のないことですので」
「強がっちゃって。強がっていられるのは今のうちよ」
「それは、お母さんの方ですよ」
健太は、義母に電話をかけた。
「母さん。マリ子の結婚式費用の援助の件だけど、俺たち夫婦で話し合って、なしにすることにした」
「え?何言ってるの?あなた、長男でしょ?それくらい出しなさい。それに、マリコが困るじゃない」
「俺の家族を『貧乏人一家』と侮辱したじゃないか」
「貧乏人扱いしたのは、みきさんのことを言っただけよ」
「みきは俺の家族だ。つまり、俺の侮辱にもなる。それに、子供たちのことまで『恥ずかしい』とか『マナーがない』と言っておいて、それで金だけ出せ?ふざけてるのか?」
「そういうわけじゃ…」
「じゃあ、どういうわけなんだ?母さんだって、子供を二人育てたのに、どうして他人の子供にそんなことが言えるんだよ」
「だって、それとこれとは話が別よ」
「いや、同じだろ。母さんが自分で言ったんだよ。『貧乏家族は不要』って。不要なら、金も不要でしょう。筋が通ってると思うけど」
「何言ってるの?結婚式まであと一ヶ月もないのよ。今さらそんなこと言われても、困るわ」
「俺が困ってたのは、ずっと前からだよ。みきが何年も我慢してきたのも知ってる。それでも黙ってたのは、母さんを刺激すると、もっとひどくなるって知ってたからだ。小さい頃、母さんに口答えして、何時間も説教されたからな。『母さんを刺激しない方がいい』って学んだんだ。もう、いいだろ。過去のことはいい。今の話をしよう。母さんは、子供たちまで侮辱した。そんな人と、これから先、仲良くしたいとは思えない。これが、俺の気持ちだよ」
「あんた、親に何てことを言うの?絶対に嫁に寝込まされたんでしょ!みきさんに、何か言わされてるのよ!きっとそうだわ!」
「これは、俺が自分で考えた結論だよ」
義母は、今度は私に電話をかけてきた。
「みきさん!健太に、何を吹き込んだの?あの子が、そんな生意気な態度を取るなんて、ありえないわ!」
「自立した大人なんですから、もう親の言うことを何でも聞きませんよ。それに、私は何も吹き込んでいません。普通に考えてください。『来るな』と言った結婚式の費用を、こちらが出す義理はありませんよね」
「それは、あなたのことだけを言ったのよ」
「ふふ。そう言ってましたけど、スクショありますけど?」
義母は言葉に詰まったが、すぐに畳み掛けてきた。
「でも、仕方ないじゃない。だって、あんたたちは貧乏で…」
「何を根拠に、そう思ってるんですか?ああ、確か『結婚式を挙げなかったから』って理由でしたっけ?あれは旅行にお金を使いたかっただけです。あまり結婚式にこだわりもなかったですし」
「でも、健太が実家のことを話さなかったでしょ!」
「健太が実家のことを話さなかったのは、お母さんが嫉妬すると思ったからですよ。わかりましたか?つまり、全部お母さんの思い込みです。大体、貧乏なら服装や持ち物に出ているはずです。私たち、そんなに見すぼらしい身なりでしたか?」
「う…それは…」
「お母さん、本音を言いますね。私が『貧乏』と言われるのは、耐えられます。実際、裕福に見えるような見た目はしていませんし、お母さんはご実家が地主で、恵まれた生活をされてきたと思いますから。でも…子供たちを侮辱したことだけは、絶対に許しません」
「あかりは、結婚式でおばあちゃんにドレスを見せたいと言っていたんですよ。それを知ってて、『来るな』と言えたんですか?」
「それは…言い過ぎたというか…」
「言い過ぎなんてものじゃありません。あかりは、おばあちゃんに傷つけられたんです。私は、子供たちを守ります。あなたに、近づけさせません。結婚式の日は、家族で旅行に行きますので、これ以上のやり取りは、健太さんが家にいるお手伝いさんに伝えてください」
私は、電話を切った。
結婚式当日。
私たちはローマにいた。子供たちは、目の前のコロッセオに目を輝かせていた。
その時、私のスマホが震え続けていた。義母からの着信が、三十件以上も来ていた。
私は、一度だけ電話に出た。
「みきさん!助けて!結婚式の費用が足りなくって、会場のグレードを下げたら、ご両親から『話が違う』って言われてもう大変なの!親族も軽減…そうだし、お願い!返事をしてちょうだい!」
「お母さん、そんなに電話をかけないでください。今、イタリアにいるので、電話されても何もできませんよ」
「イタリア?!呑気に旅行してる場合じゃないでしょ!」
「『呑気に』って、最初に言ったじゃないですか。旅行に行くって。大きなお金を使うなら、子供たちのために使いたいですし」
「国内旅行だと思ってた!」
「そんなこと、一言も言ってませんよ。あと、電話には出ません。今、子供たちと楽しい時間を過ごしていますし、水を差されたくないんです」
「この笑顔を守れて、本当に良かった。結婚式に出ていたら、きっと馬鹿にされていたでしょうからね」
「そんな!お願い!なんとかしてちょうだい!」
「私には、何もできません。では、子供たちとの食事に戻りますね」
「待って!みきさん!」
私は電話を切り、子供たちの元へ戻った。
一時間後、マリ子からLINEが届いた。
「お姉さん!婚約者が、あんたたちの家族を結婚式から追い出したこと、全部知ってたの!ばらしたわね!」
「健太さんが、全部話しましたから。その時に、こう言われたそうですよ。『お姉さんたちみたいな家族を追い出せる人と、俺は家族にはなれない。婚約は破棄する』って。キャンセル料は、後日請求するそうですよ」
「そんな!そんなのおかしい!なんでみんな、私の話を聞いてくれないの?私は、婚約者なのよ!」
「婚約者でも、常識のない人の話は、誰も聞きませんよ。それに、マリ子さんからもらったLINEは、全部スクショしてました。証拠があれば、誰だって信じますよ」
「そんな…」
「自分の言うことなら何でも聞いてくれる実家で甘やかされたから、そう思ったんでしょ。その考え自体が、甘いんですよ」
その後、義母が直接私の家に来た。
「みきさん、どういうことなの?何よ、この豪邸は!」
「豪邸?何の話ですか?」
「直接話をしようと思って、家に行ったら、すごく大きな家じゃない!」
「ああ…。お母さん、いつも私を見下して、今の今まで一度も家に来てくれませんでしたよね。『嫁なんだから実家に来い』って言って。どうでした?大きな家でしょう」
「なんで、こんな豪邸に住んでるの?!」
「私の父の会社は、今年で創立三十周年なんですよ。まだまだこれからですけど、従業員二百名ほどの企業で。私は、次期社長です」
「次期…社長?!」
「あなたが『恥ずかしい』と馬鹿にしていた家庭は、あなたよりも裕福な家庭だったんですよ。だから、今回のことがなかったら、お母さんの老後の面倒も見ましたし、定期的に旅行や援助をするつもりでした。でも、もうしません。『貧乏家族に面倒を見られるのは嫌でしょう』」
義母は、青ざめて言葉を失った。
「それは…その…今さら、何言っても遅いですよ。そもそも、お母さんは、なぜそこまで貧乏を下げるんですか?」
「…貧乏人は、何をされても仕方ないのよ」
義母は、ぽつりと呟いた。
「昔、友人の結婚式に、夫だけ招待されたの。私は呼ばれなかったわ。『お金を稼いでいない専業主婦に来る資格はない』そう言われてね…とても惨めだったわ。でも、文句は言えないの。だって、貧乏人には人権はないんだから」
「だから、私たちに同じことを?自分がされて嫌だったことを、人にするなんて。自分が恨まれるって、思わなかったんですか?」
義母は黙り込んだ。
「でも、はっきり言いますね。お母さんは最初に言いました。『貧乏家族は不要』って。でも、実際に不要だったのは、何ですか?私たち家族ですか?それとも、お母さんの偏見とプライドですか?」
「お母さんが本当に失ったのは、私たちとの関係だけじゃありません。一緒に旅行に行けた未来、孫と過ごせた時間、老後を安心して過ごせた生活。全部、お母さんが自分で捨てたんです」
「そんな…ちょっと待って!お願いよ、みきさん!」
「さようなら、お母さん。私にとっても、お母さんは不要ですので」
私は、義母を家から追い出した。
その後、結婚式は結局中止となった。
ゲストや親族に、義母が『お金だけ巻き上げようとした』ということがバレたのだ。義母は親戚から『恥知らず』と知られ、『貧乏人』と後ろ指を刺されているそうだ。一番言われたくないことを、親族から言われ、悔しい思いをしているのだろう。
マリ子は、婚約破棄の慰謝料と結婚式のキャンセル料が発生したことで、貯金を使い果たし、生活のために借金をした。文字通り、貧乏人になった。散々甘やかされて育ったマリ子には、これからお金のない生活は、とても苦労することだろう。
一方、私たち夫婦は、子供たちと向き合いながら、贅沢をすることなく暮らしている。お金はあるに越したことはないが、お金があることを自慢しても、いいことは何もない。
お金自体に執着せず、家族の幸せを大切にしたい。
今回、子供たちは結婚式には参加できなかったが、家族との旅行で、素敵な思い出を作ることができた。
「また来年も行きたい」
そう言ってくれた子供たちの笑顔を見て、私は心から思った。
あんな結婚式に参加しなくて、本当に良かった。
これからは、家族のためにお金も時間も使おう。今回の出来事で、改めてそう感じた。



