大人三人全員が固まって、耳を疑った。信じたくないという顔で、一人は声を荒げた。しかし娘は立ち上がると、ユマのほうにスマホを向けて、通話中の相手にこう尋ねた。
「ねえ、この人と仲良しなんでしょ?」
本人は自信満々に「そうだよ」と答えて電話を切った。でも、二人の顔は真っ青だった。俺を裏切って、もっといい条件の相手を見つけたと思ったんだろう。でも、現実は違った。それに耐えられなかったのか、妻は大声で叫んだ。
俺の名前は高橋ケト。幼い頃に両親を亡くし、祖父母もいなかったから、施設で育った。環境は良くて、優しい先生も多かった。それでも、寂しさを感じなかったわけじゃない。学校行事で仲の良い家族を見るたび、憧れと切なさで胸が締め付けられた。
そんな俺も成長していくうちに、下の子たちが施設に入ってくるようになって、変わった。兄貴ぶるつもりはなかったけど、施設育ちというだけで嫌な思いをすることも多かったから、その子たちを守るのが日課になっていた。自分で言うのもなんだけど、慕われているほうだった。
彼らと離れるのは寂しかったけど、高校を卒業して、工場で働き始めた。悪い人ばかりじゃなかったけど、どうしても立場的に嫌な思いをすることもあった。見返してやりたいと思って、夜間学校に通い始めた。すると、その姿勢を評価してくれた当時の会社の社長が、いろいろ教えてくれるようになった。
結果的に会社経営に興味を持って、そっちの資格を取った。社長の元を離れるのは名残惜しかったけど、経営コンサルタントとして経験を積むために、イベントをやる会社に転職した。そこで、後に妻になる前と出会った。
それは、後継者不足の中小企業と、起業を目指す若者を結びつけるイベントだった。形としてはパーティーに近くて、前はその会社の社長の秘書として同行していた。綺麗な顔立ちだけど、どこか影があるように見えた。
イベントで忘れ物をしていった前と、連絡を取ったことがきっかけで、少しずつ距離が近くなった。交際中に、前と俺は似ているところが多いとわかった。同じように家族に憧れを抱いていることも知った。そして、自然と結婚した。
結婚してすぐは、怖いくらい順調だった。会社での忙しい毎日に疲れながらも、家に帰れば愛する妻がいて、充実した毎日だった。そして、すぐに家族が増えたことも、本当に嬉しかった。
「家族が増えるわ」
前のその言葉に、俺は感激した。でも、前は浮かない顔をしていた。
「どうした? 嬉しくないのか?」
そう尋ねても、前ははっきりした答えをくれなかった。家族に何かあったのかと心配になって、俺は友人に調査を頼むことにした。
「どうだった?」
友人の報告を聞いて、俺は言葉を失った。信じたくなかった。前が俺に隠していることがあるんだと、そのとき初めて気づいた。そして、今、娘の前で、前の秘密が明らかになろうとしている。



