結婚の挨拶でビビッと来て、結婚式のタキシード姿で完全に心を奪われた。昔から私のものを欲しがる子だったけど、さすがに夫は想定してなかった。
「お姉ちゃん、私に旦那さんをちょうだい」
「何言ってるの?」
「いいよね。お姉ちゃんはまた誰か探せばいいじゃん」
「そうやって甘えておねだりしたところで、あげられるもんじゃないの」
「ええ、お姉ちゃんばっかずるい。そもそもエタがOKするわけないでしょ」
「それなら大丈夫。体の相性は確認済みだから」
「は?」
「A君も私のこと好きなんだって」
「浮気してたの?まだ結婚して3ヶ月よ」
「ごめんね」
「いつから?」
「2ヶ月前かな」
「嘘でしょ?」
「一応礼儀として許可をもらってからいただこうかなと思ったけど、ダメなら普通に抱くわ」
「何その態度?悪いと思ってないの?」
「うん。人を好きになっただけだもん」
「姉妹だからって許さないよ。慰謝料も請求するから」
「払うわけないじゃん。お金ないの知ってるでしょう」
「逃がさないから」
「逃げるもんね」
「どういう意味?」
「A君と遠くに行くの?まあ駆け落ちってやつ?」
「遠くってどこよ?」
「教えたら駆け落ちにならないじゃん。まあ最初から許してもらおうなんて思ってないけどね」
「じゃあなんで私にわざわざ教えたのよ」
「最後にどん底に落としてやりたくて」
「最低ね」
「頭も良くていい大学、いい会社に入ったのに旦那の浮気も見抜けないポンコだったね」
「うるさい」
「パパがいつも酔ったら自慢の娘だってお姉ちゃんの話ばっかりするのも嫌だし、学歴も収入も結婚も何もかも持ってるあんたが妬ましいの」
「日神かよ。はに勉強もせず愛嬌だけで生きてたくせに」
「悲願んじゃないわよ。こっちはあんたと比べ物にならない努力をしてきたの」
「私だってメイクとかおしゃれとか頑張ったもん。男を横取りするための努力」
「お疲れ様。良かったね。努力の買い合って叶ったじゃん」
「負け惜しみですか?本当は悔しくて悔しくてたまらないくせに」
「別に」
「嘘つけ。やっとお姉ちゃんに勝った。うわあ。最高の気分」
「悪いけど、妻の妹に手を出すような別のない男なんてこちらから願い下げよう。そんなガラクタでよかったらくれてやるわ」
「ひどい」
「加害者のくせに被害妄想。本当に自分の立場が分かってないのね」
「慰謝料なんか絶対に払わないから」
「好きにすればいいわ。私には分かるの。あなたたちが絶対に幸せになれないって」
「そんなわけないじゃん」
「楽しみね。半年後泣きついてこないでよ」
「ありえないし」
数分後、夫から連絡があった。
「今日少し遅くなるわ」
「妹とデートか。あ、さっき連絡あったわよ。2人で駆け落ちするんだって」
「いやいや、何の話だよ」
「なるほど。あなたはこっそり動くつもりだったのね。でもごめんなさい。うちのアホな妹が私にマウント取りたくて我慢できずに全部話したわ」
「マジか」
「私だけじゃなく妹で可愛がってくれて、姉としてなんと礼を言えばいいか」
「やめろよ。そういう嫌み」
「私がこういうことを言わなければならない状況を作ったのは誰?」
「ごめん」
「私言ったよね。昔婚約までした人に浮気されて破談になって、人を信じられなくなったって」
「うん」
「だから一度あなたからのプロポーズも断ったでしょう」
「そうだな。俺がしつこく頼んで結婚してもらったのは確かだよ」
「なのにこの裏切りは何?」
「それは悪かったと思ってるけど」
「けど何よ?」
「ひろかちゃんは愛嬌がある。安い居酒屋で唐揚げ1つ食べても美味しいって満面の笑みで喜んでくれる」
「最初だけよ」
「俺の話だって一生懸命聞いてくれるんだ」
「それも今だけ」
「そんなことない。あんなピュアな子今手放したら一生出会えない気がしてるんだ」
「よかった」
「何が?」
「あんたみたいな見る目のない男と早々に別れることができて。あ、浮気してくれてありがとう」
「なんだよそれ。強がりか。本当に可愛げのない女だな」
「でも誤解しないで。許したわけじゃないから。金なら払わないぞ」
「そんなもので済めばいいけど。じゃあお幸せに」
翌日、私はマイクに連絡をした。
「マイク、久しぶり。元気にしてる?」
「ぼちぼちでな。今は大阪にいるのね」
「なぜわかる?」
「毎回方言が違うから」
「あ、こそ何してる?たまには連絡してよ。どんどん日本語上手になってんじゃん。まだ日本に来て3年目とかだよね」
「めっちゃ勉強してんねん。誰に習ったの?何のスナックのママに。師匠と呼んでる」
「すごいところに潜り込んだな。ご要件はなんやねん」
「妹に旦那を取られた」
「ハズバンド最低でしょ」
「ってことは僕の出番じゃん」
「そうなの。幸せにならないようにじわじわと人生の邪魔をする追い詰め屋のマイクに頼むしかない」
「任せんかい。しかし日致な商売だよね。法に触れないギリギリのラインで人の邪魔するってさ」
「商売じゃないよ。お金もらってない」
「そうだったね。ごめん、ごめん。謎の財力でやってるボランティアだった」
「人間ってのは嫌なこと続くと己を振り返る。なんでこんなに悪いことが続くん?私がこんな目に会うのはなぜやねんってね」
「確かに。そうやって気づきを与えてあげるのが僕の役目さ。あいつらが気づけばいいけど」
「どっちに転ぶか超かハか」
「マイクまで来て何やってんのよ」
「日本大好き。ひずる国に最高」
「それは嬉しいけどね。2年前あのバーでマイクに出会わなかったら、今頃あのクソ上司のパワハで病んでたと思う」
「あいつ最低。気持ちいいことしてやろうか」
「気がついたら退職してたけど、あの上司には何をしたの?」
「それは主費義ームや」
「ごめん。そういう約束だったね。今回はハズバンドとシスターがターゲットね。よろしく地味にストレスを与えてあげて」
「OK」
10年後、妹が突然訪ねてきた。
「10年前に奪って駆け落ちしたのは許して」
「あら、随分ご無沙汰だね」
「私たちも実家に住むね。家族だし当然権利あるよね」
「突然どうしたの?幸せにやってるもんだとばかり思ってたけど」
「それがさ、この10年、いいことなくて」
「あえ、何があったの?すごく気になる」
「転勤願いまで出して駆け落ちしたのはいいんだけど、A君がすぐに会社を首になったの」
「なんで?」
「なぜか起きれない日が続いてさ」
「あんたが起こしてあげればいいじゃん」
「私もなぜか起きれなかったんだよね。毎日気づいたら10時過ぎてて、どんな仕事もつけないってことで、2人で夜の仕事をすることになったんだ」
「へえ」
「結局飲み屋とかしかないじゃん。来る客全部とトラブルになってさ」
「何があったの?」
「私は普通に接客してるのにすごく怒られたりとか、ヘルプで座ってるだけなのに私がいるだけで帰るとか言ってガチ切れされてさ」
「へえ」
「そんな感じでどの店も続かなかったの」
「それは大変だったね」
「そこからはいろんな仕事をしてみたんだけど、基本単発のバイトとかばっかりで生活も苦しくてさ」
「へえ。かわいそうねえ」
「なんか喜んでるよね」
「全然昔の話だし恨んでもないよ。むしろよく10年もったなって関心してるところ」
「それは愛があったからに決まってるでしょ」
「素晴らしいわ。感動しちゃう」
「ごめん。嘘。お姉ちゃんへの意地だけで離婚しなかった」
「そうなんだ」
「奪って駆け落ちまでしたんだもん。簡単に別れたりしたら、ほら見たことかって笑うでしょ」
「さすがの私もそこまで性格悪くないよ」
「嘘つけ。今だって楽しそうじゃん」
「そう見えてたらごめん」
「とにかく不運の連続だったの。なぜか毎日同じ道で転ぶし、行きつけの店の店員が全員漏れなく愛想悪いとか、本当に地味だけどストレスがたまる毎日でさ」
「わかる。辛いよね」
「他にもたくさんあるの。バイトのシフトに入れないとか、入居した物件は必ず隣人がうるさいか変人だし、半額シールのお惣菜を取り合いの末奪われたりとか、本当に毎日毎日嫌なことしかなかった」
「そんなの別に日常的にあると思うけど、最悪なのは私の友達がどんどんお金持ちと結婚したり、仕事で成功してること」
「それは悔しいね」
「地味でブスな子が社長と結婚したり、微妙な顔なのにインスタグラマーとして成功してんだよ。その子たちに一体何があったんだろうね」
「周りと差がつくと惨めになる一方なの」
「分かるわ」
「もう10年も経ったし反省もしてるから、許してほしいの」
「いいよ」
「へ、本当?」
「怒りなんかとっくに覚めたわ」
「お姉ちゃん、ごめん。あの時は本当に調子に乗ってた」
「いいのよ。ところで今どこに住んでるの?」
「熊本」
「ええ、随分遠くにいたのね」
「色々点々としたけど、なんとなく九州に落ち着いたの。今は家賃2万5000円のアパートに住んでる」
「安いわね」
「畳は腐ってるし。最悪よ。もうこんな暮らしやだ」
「そっか。よく頑張ったね」
「お姉ちゃん、ありがとう。実家帰ってもいいよね」
「ただね、問題はお母さんなんだよね」
「どうして未だに怒ってるのよ。確かに電話しても1度も出てくれたことない」
「私はいいけど、母さんがなんて言うか」
「どうしたらいいかな」
「慰謝料を払うまではまたがせないって言ってた。ほら、あなたたちに請求したけど結局逃げたでしょ」
「お金がないって相談してるのに、慰謝料無理に決まってんじゃん。分割っていう手段もあるらしいけど」
「でもさ、特に自行だよ」
「そういうことはちゃんと調べてるんだ」
「3年経ったら払わなくていいもん」
「私は別にいらないのよ。でもお母さんがね、お父さんも母さんに任せるって言ってたし」
「分かった。払えばいいんでしょ?」
「それがいいと思う」
「これで誠意があるって認めてくれるよね」
「多分ね」
「それじゃあ困るの。帰ってきていいかちゃんとママに確認してほしい」
「分かった。じゃあ弁護士から連絡がいくから、しっかり構成少々成したらお母さんに話す」
「いいよ」
「それで10年間よく頑張ったわね」
「お姉ちゃんありがとう」
「気をつけて帰ってきなさい」
数分後、私はマイクに電話をした。
「マイク、妹たちに何したのよ」
「主費義務。本人から連絡があって色々聞いた」
「あそ。まず朝起きれないって何?どうすればそんなことが可能なわけ?」
「知らない。ストレスで自律神経乱れたんでしょ」
「え、小さなストレスが積み重なるとそうなる」
「ええ、そういうもんなんだ」
「じゃあキャバクラの客が全員切れるのはなんで?」
「周費義務。それ言われると何も聞けなくなるじゃん」
「知らぬが仏」
「うん。分かったよ。ありがとう」
「ただ仕掛けたのは最初の半年だけ。あとは2人が勝手に地滅してった」
「へえ、そうなんだ」
「負のループに入るとなかなか抜け出せない。運が悪いと思い込むと、日常のどんなこともそう思えてくるねん」
「でもそれで10年も耐えられるかな」
「幸せと不幸のバランスが絶妙に取れていたのかもしれないね。好きな人と一緒にいられる幸せが、振りかかる不幸をほんのちょこっと上回ってた。このバランスが10年保たれたんだよ」
「たまに流長になるわね。あと妙な説得力よ」
「ただお金だけはどうしようもできないね。今になって2人とも限界を迎えたと思うよ」
「分かってる。だからって助ける気はない」
「ま、それでいい。慰謝料の分割支払いの競技にサインさせたら、実家に戻ってもいいって連絡するつもり」
「わお。あか性格悪すぎ」
「実家なんてもうないのに」
「マイクに言われたくない」
「なんで子供の頃から友達に嫌なことばかりされてたんだよね。クラスメイト全員クズ。大人になって全員にどうやって仕返しするか考えた結果、法に触れない方法でちょっとずつストレスだけを与える方法を思いついたんでしょ?」
「そうだよ」
「マイクの方がよっぽど執念深いタイプだし性格悪いと思うけど」
「そっか。じゃあ僕らは似た物同士じゃん」
「あ、似たもの同士ね」
「うん。やっぱりやられたことは腹が立つし、仕返ししないと気が済まない」
「そうそう。許せる人は許せばいいけど、私は無理。この10年あの怒りを忘れたことはないよ」
「アカ辛そうだった」
「え?私マイクの前で泣いたりとかしてないよね」
「離婚した後一緒にラーメン食べた時、替え玉しなかった」
「アスカは必ずお代わりするから」
「本当人のことよく見てるよね」
「アカは心で泣く。僕には見える。だからラーメン奢ったよ」
「マイクやっぱいいやつだな」
「アメリカ人ならなぜ泣いてるのって言うけど、日本人は見てみぬふりする。これぞ日本の心」
「日本人より日本人らしくて笑えてくるわ」
「アメリカは好きだけど、僕にとっては嫌な思い出が多すぎる。パパもママも天国だし寂しい。でも日本人はあったかい。今は寂しくない」
「でもマイクの間まで秋田にいたよね。あ、その全国を旅するだけの財力ってどうなってるの?」
「主費義務」
「うっざ。たこ焼き教室行ってくる。またね」
「何それ?」
「師匠がスナックの営業前に教えてくれる」
「いいなあ。私にもいつか食べさせてね」
「へえ」
2週間後、妹は弁護士と一緒に交渉役場とこに行ってきた。
「お疲れ様」
「2人で慰謝料300万って取りすぎない?」
「相場はそんなもんらしいわよ」
「分割で月々5万で60回払いか」
「金利手数料はなしにしてあげたけど、1度でも支払いが滞ったら強制執行になるから気をつけるのよ」
「は?何それ?」
「期限の利益損失条項が盛り込まれてたでしょ?」
「知らない。そんなの見ても分からないし」
「弁護士さんはちゃんと説明したはずよ」
「適当にしか聞いてなかった」
「真面目に払えば済む話だから心配しなくていいわ」
「これで約束は守ったからね。ママは何て言ってた?」
「好きにすればだって」
「本当?それって許してくれたってことだよね」
「どうだろう?」
「そりゃそうだよ。実の娘と10年も会わずに耐えられるわけないよね。これからはいっぱい親孝行しなきゃ」
「そんな余裕あるの?」
「だって実家に住めば家賃ないし。それだけでもだいぶ楽になるよ」
「ええ。あそこに2人で住むんだ」
「いや、エ太とは離婚するかも」
「そうなの?」
「なんか飽きちゃった。すっかりおじさんになっちゃってさ、東京に来てみたら一緒にいるのが恥ずかしいんだよね」
「ああ、そうですか」
「月5万のうちエ太が3万で私が2万で切犯しようかな」
「それは切犯とは言わないよね」
「まあいいじゃ」
「私は住む家さえあればあいつのことなんて知らないもん」
「エ太は行くところあるの?」
「まず実家は無理だろうね。あっちの親うちよりガチ切れしてるから」
「ご両親は私にも何度も頭下げてくださったのよ」
「へえ。そうなんだ。私に捨てられたらエ太は詰むね」
「ま、もう2度と関わらないしどうでもいいけど」
「その程度の思いだったんだ」
「そりゃ最初はいいと思ったけど、こんなに甲斐性がない男はいくら顔が良くても無理。男はやっぱり甲斐性だよね。こんな数でゴミ以下の男をマジでいらないわ」
「確かにそうかもね。で、今どこ?」
「新宿。久しぶりの東京だから遊んで帰る。晩御飯はいらないってママに伝えて」
「分かった」
数分後、マイクに電話をした。
「マイク、全部終わったよ。交渉役場も行ってくれたみたいだし、10年越しに慰謝料も払わせることができた」
「お疲れライス」
「何それ?」
「師匠時伝のダジャレ」
「その師匠っておいくつなの?」
「68歳。ママは75歳だよ」
「ある意味行きたいわ、そのスナック」
「でもさ、10年かかったけど慰謝料ゲットできて良かったじゃん」
「飽たが残ってるとにも過去にもマイクのおかげだよ。日本のどこかであいつら2人が地味にストレス抱えながら生きてるんだって思うだけで心が晴れたのは事実だからさ」
「アカ、安心するのはまだ早い」
「え?」
「アホの行動は読めない。確かに更地になった実家を見て黙ってるような子じゃないわ」
「実家がないと知ったら発狂するよ」
「発狂ね。気をつけて。実家を間の当たりにすれば反撃する気力もなくなるでしょう」
「だね。まあ、妹の反応を楽しみながら酒でも飲むわ」
「本当性格悪い。あんたに言われたくない」
数時間後、妹から電話がかかってきた。
「ねえ、実家がないんだけど」
「うん」
「なんでアパートが立ってんの?」
「途中って引っ越したからね」
「どこに?」
「全員アメリカ済みだけど」
「意味がわかんない。冗談やめてよ」
「本当だよ。帰ってきていいって言ったじゃん」
「うん。あんたが生まれた土地に帰るのは自由だからね」
「アメリカって本当なの?いつから?」
「3年くらい前かな」
「いつ帰ってくるの?」
「私の収労ビザが最長7年まででしょ。お父さんはマイクの親の事業を引き継いで日本食レストランを経営している」
「ガチで働いてるじゃん」
「今はビザを更新しながらだけど、永住権を取得したいなと思ってるんだ」
「なんでそんな遠くに行く必要があんのよ」
「あんたのせいよ」
「へ?」
「結婚してすぐに出戻った私を近所の人が噂の的にした。妹さんに取られたんだってひそひそ言われたわ」
「そうだったの?私は平気だったけど、お母さんが病んじゃったのよ」
「なんでママが?」
「なんだかんだで昔の人なのよね。世間とか人の目とかすごく気にするタイプでしょ」
「確かに昔からそうだった」
「だんだん外に出ることもできなくなってね。精神科にも通ったし薬も飲んだけどダメだった。あんなに元気だったお母さんが起き上がれないほどに衰弱しちゃったのよ」
「そんな」
「それでお父さんと話して引っ越そうってことになった」
「それがなんでアメリカになるのよ」
「私の友達にマイクってやつがいて」
「誰だよ」
「日本が大好きで日本に移住した変な男よ。で、マイクの両親が他界してアメリカの家が空き家になってさ。だから私に住めばって言ってくれた」
「意味が分からないんだけど」
「マイクは日本に住みたかった。私はお母さんのために日本を出て環境を変えたかった。それが一致したってだけ」
「別に北海道でも沖縄でも良かったじゃん」
「そう思って短期で滞在したりもしたよ。やれることは全部やった上での海外移住なの」
「ママがアメリカなんかで生きていけるわけないじゃん」
「それがさ、もう前世アメリカ人なんじゃねってくらい適合しちゃって超元気になったのよ」
「ありえない」
「ビーチでテイラ飲んでるなんて信じられないでしょ。あのママが今も仲良しのケイトと遊びに行ってるわ」
「お姉ちゃんも転職したの?」
「私は照者勤務だし転勤願い出したら余裕で行けた。お父さんは早期退職したのよ」
「じゃあ私はアメリカに行けばいいってこと?」
「いや、来られても困る。お母さんが悪化するからやめて」
「なんでよ。実家に帰っていいって言ったじゃん」
「家はとっくに売り払ったことを言ってなかったっけ?ごめん。うっかりしてたわ」
「わざとでしょ」
「10年前の仕返しのつもり」
「仕返しして何が悪い?」
「大人げないことすんなって言ってんの?」
「私はあんたに人生を壊された。1度目の婚約者に何をされたかを知ってて私の夫を奪ったのよ」
「悪気はなかったんだってば」
「だったら私も同じ悪気なくアメリカへ行った」
「2度も心に深い傷を追ったのよ。あれから誰のことも好きになれないの」
「それはお姉ちゃんの問題でしょ。私のせいじゃない」
「結局を奪われた腹いに嫌がらせしてるだけじゃん」
「そうかもしれない」
「だったらあんたが1番嫌がることしてやる。私は今後もA太と幸せに生きてくもんね」
「あれ離婚するとか言ってなかったっけ?」
「あんたからせっかく奪ったんだもん。手放すのやめた」
「お金もない甲斐性なしはいらないんじゃなかった?」
「愛があればどうにかなるし」
「この10年苦労したのにまた同じことを繰り返すの?」
「そんなに不幸は続かないでしょう。ここから2人であんたら見返そうと幸せになってやるわよ」
「あ、ごめん」
「何?」
「あんたがこの間言ってたAの文句して送っちゃったわ」
「はあ」
「姉として妹の離婚を円満に進めてあげようと思ったの。余計なお世話だったかな。ごめん」
「ふざけんな。そんな軽い謝罪で済むと思ってんのかよ」
「あなたも私から夫を奪って10年後に軽よりも軽い謝罪してくれたじゃない」
「私はちゃんと謝った」
「いいや。10年経ったし忘れてるでしょってのがスケスケだったけどね」
「ちゃんと謝る。ごめんなさい。反省してます。これでいい?」
「うーん。だめね。全然響かない」
「ふざけないで」
「あ、A太からLINE来た。言い訳頑張って」
数分後、夫が帰ってきた。
「俺と離婚するんだって」
「違うの。あれはお姉ちゃんが捏造したLINE」
「うちらが幸せなのが気に入らなくて嫌がらせしたの」
「交渉役出てからどこに行った?」
「別に昔の友達と飲んでただけよ」
「嘘つけ。友達には姉の旦那を奪ったクズ扱いされて絶縁されたって言ってたじゃねえか」
「数人は残ってるわよ」
「俺は親や友達にも絶縁されて会うこともできないんだぞ。なのに東京帰った途端飲みに行くって言うからついて行ってみたらホストかよ」
「へ、俺らのどこにそんな金があると思ってんだ?」
「えっと、それは昔お世話になった人が出したお店だから挨拶がてら寄っただけだよ」
「嘘つけ。お前明日かになんて言った?おじさん甲斐性なし。ふざけんな」
「あれは嘘。お姉ちゃんがうちらの中を引き裂こうと嫌がらせしてるだけだって」
「言い訳すんな。お前の本性はこの10年で嫌ってほど理解してんなよ」
「は?じゃあなんでずっと一緒にいたわけ?」
「駆け落ちまでしてんだぞ。破局しましたなんて簡単に言えるわけねえだろ」
「何それ?」
「最初の頃は何食っても喜んでたくせに、今じゃカメつらでまずそうに食うし、俺の話だって全く聞いてくれなくなったよな」
「だったら面白い話くらいしてみなさいよ」
「それにうちの親だって孫の顔さえ見せれば少しは和解できるかもしれないって思ったのに、1つも妊娠しねえじゃん」
「子供なんかいらないよねって言ったらうんって言ったのは自分でしょ」
「あの時はな。でも後から欲しいって言っただろ」
「いらないからピル飲んでたもん」
「はあ。俺を騙してたのか」
「体型崩れるし。友達も子供産んだ途端におばさんになっちゃってるし。ありたくない」
「10年前は確かに若くて可愛かったよ。でも今はどうだ?ただのババーじゃねえか」
「はい」
「どんどん劣化していく。お前を見てずっと思ってた。こんなことならしっかり者のアカの方がよっぽどマシだったってな」
「最ってクズアホボケ」
「こっちは家族も何もかも捨ててめと一緒になってやったんだよ」
「姉から妹に乗り換えたクズの分際で何言ってんの?」
「そうだな。クズ同士が言い争いしても惨めなだけだ。これで終わりにしよう」
「え、ちょっと待ってよ」
「これからはホストでも何でも好きなだけ行け」
「やだ。これでうちらが別れたらお姉ちゃんの思う壺だってば」
「知るか。今更アカがどう思うと関係ない。俺は真面目に慰謝料払ってあいつに償いたい」
「何よ。かっこつけちゃってさ」
「いかに自分が愚かなことをしたか気づくのに10年もかかったよ。一生1人で反省してれば」
数時間後、妹から電話がかかってきた。
「姉貴。あんたのせいでエ太とは終わりよ。これで満足?」
「うん。大満足」
「性格ゴミだね」
「そうだね。不名誉だけど姉妹そっくりなのかも」
「もう失うものなんか何もない。あとはお姉ちゃんを道連れにするだけ」
「何をする気?」
「別に姉がお世話になってますって。お姉ちゃんの会社に挨拶に行こうと思って」
「やめなさい」
「偉そうな人に取り入って愛人にでもなるわ。そしてあんたの海外赴任を取り消してやる」
「それだけはお願い。全部許してあげるからやめて」
「なんて言うとでも思ったかな?」
「何よ」
「あんたもしかして韓国ドラマとか見てた?」
「見てたけどそれが何よ?」
「発想がドラマの悪役と同じだから」
「別にいいでしょ。うまくいけば私の勝ちだし」
「悪いけどうちは大手よ。あんたみたいな意味の分からない女に引っかかるような脇の甘い重役なんかいないっつうの」
「こいつマジでむかつく。手に職もないスキルもない。売れるのは性別だけですか?哀れですね」
「うるさい」
「言っとくけど、慰謝料の支払いが滞ったら一生親には会えないと思いなさい」
「は?払うって約束したでしょ?」
「払い終えるまでが条件よ。お父さんとお母さんは今年68になる。長生きしてほしいけど、急ぐに越したことないわ」
「ねえ、私ここまで追い詰められるほど悪いことした?家族なんだからもう良くない?」
「あのね、相手が妹だから苦しかったのよ。家族だから許せないの」
「なんで?」
「いくらあなたがわがままでも、私たち家族にとっては大事な存在だったのよ。でも自分のしたことの何が悪いかわからないほど人の道を外れてしまってるなら、心を鬼にしてでも突き離すしかないでしょう」
「どういう意味なのよ」
「娘を1人見放すということがどれだけのことか想像もつかないでしょうね。お母さんが自分の子育てを責めて毎日泣いてたなんて想像もつかないでしょ」
「悪いと思ってるって」
「あなたの言葉なんか誰も信じない。行動で示しなさい」
「ええ、やだ」
「今日からあなたには毎日小さな小さなストレスが振りかかることになる」
「何?急に占いでも始まった」
「でも負けないで乗り越えてね。マイクは手を抜かないわ」
「何の話?主費義務よ」
「意味がわかんない」
「お母さんに心から謝罪できる人間になったら、アメリカ行きのチケットを取りなさい」
「へ、待って。本当に呼んでくれないつもり?」
「当然でしょ」
「厳しすぎるって。マジで悪いと思ってるからごめんなさい。土下座もする」
「安い謝罪はいらない。本気を見せて」
「さようなら」
1ヶ月後、マイクに電話をした。
「マイク今どこ?」
「ナバ」
「福岡かよ。日本全国言葉が違う。方言面白い」
「今度の師匠は誰?」
「豚骨ラーメン屋の大将」
「妹は今どんな目に合ってるのかは聞かない。だって主費義務なんでしょ」
「おお。でも10円ハゲできても真面目に働いとるけん」
「何の仕事してるの?」
「チームの報告によるとスナックでチーママ、敵イラで売上あげまくり」
「そんなにすぐ慣れるもんなの?」
「ナンバー2みたいなことでしょ?ママ1人の店だからね。自動的にチーママ」
「なるほど」
「間違えても妹に弟入りしないでよ」
「ない」
「舞は今日もいい天気だよ。たまにはこっち来ない」
「帰りたくない。マイクの実家大切に使わせてもらってる」
「うん。それでね、この間マイクの同級生だったっていうケイトって人が尋ねてきたの」
「あ、マイクには本当に悪いことをした。自分に子供が生まれて自分の愚かさをはるってよ」
「遅か」
「でも謝れるって素敵だね。私には本当の謝罪に見えたよ」
「ケイトにあったら伝えて。ナッスンってさ」
「気にするなね」
「オッケー。今から豚骨の仕入れに行ってくるわ」
「あそ、頑張って」
「私も止まってた時計動かしてみよっかな」
その後、飲食店の座席に上がるたび靴の中に小石が入っている。疲れて電車に乗ると必ず隣には汗だくの大男が座る。そんな地味なストレスが続く中、ママとして働きながら私に毎月5万円を振り込んでいる妹。
そう。エ太が払うはずだった3万円をなぜ妹が負担しているかと言うと、いかばバチか実家を尋ねたエ太は案の定親から塩一袋を投げつけられて追い返されたことで完全に心が挫けてしまい、悪い道へ行ってしまったのです。持ち前の甘いマスクで女性に結婚を匂わせてお金を騙し取ってたそうです。総額3000万という体金だったこともあり、服役することになったとか。熊本時代からあった借金も妹が保証人になっており、その返済にも追われているようです。慰謝料と合わせて700万。Aが出所したら鬼のような取り立てが始まるでしょう。
私と両親は永住権を取得し、会社を退職しました。父のお店を手伝いながらこっちで出会った彼と楽しくやっています。裏切りは怖いけど、それを恐れていたら前には進めない。いろんな場所でたくさんの出会いを重ねるマイクにそんなことを教えてもらったような気がします。



