産後3日目、病室のベッドで赤ちゃんを抱いたまま、夫から届いたLINEの嵐を見つめていた。「さっさと産んでください」「母親になった女に興味ないから離婚で頼む」。陣痛の合間に届いたその言葉に、私は泣くことすらできなかった。周りには看護師さんがいる。でも、もっと辛かったのは、自分を可愛がってくれていた義母までが「息子の味方をする」と笑ったこと。私は完全に見捨てられたと思った。だけど、その数週間後、…

産後3日目、病室のベッドで赤ちゃんを抱いたまま、夫から届いたLINEの嵐を見つめていた。「さっさと産んでください」「母親になった女に興味ないから離婚で頼む」。陣痛の合間に届いたその言葉に、私は泣くことすらできなかった。周りには看護師さんがいる。でも、もっと辛かったのは、自分を可愛がってくれていた義母までが「息子の味方をする」と笑ったこと。私は完全に見捨てられたと思った。だけど、その数週間後、...

「まだですか?さっさと産んでください。産婦人科に行ってからもう10時間も経ってるぞ。やじやねえの?産んだらすぐ連絡しろよ」

陣痛の合間にスマホを見たら、夫・神兵からそんなLINEの嵐が届いていた。私は必死に命をかけて子供を産んでいる最中だ。なのに、彼の言葉はどれもこれも怒りと苛立ちで塗り固められていた。

それから2時間後、ようやく産み終えてスマホを手に取った。赤ちゃんを抱えたまま、私は震える指で返信した。

「さっきのLINE、何なの?私が何をしてたか分かってて言ってるの?出産は病気じゃないけど、命がけなんだよ」

「生きてるじゃん。10時間以上かかって何やってたのよ。でも生まれたんだろう」

「立ち合いどころか病院にも来ないなんて。それでも父親なの?自覚がなさすぎるでしょ」

「ああ、やっぱりなあ。女は子供を産んだ瞬間に別の人格になるんだって。会社の先輩が言ってた通りだわ」

「あのさ、こっちは小さな命を守らないといけないのよ。今までと同じでいいわけがないじゃない。あなたも少しは父親としての自覚を持ってよ」

「無理だわ。きつい。何言ってんの?子供産んだところで悪いけど、離婚で頼む」

私は一瞬、何を言われたのか分からなかった。まだ病室で、周りには看護師さんたちもいる。泣くこともできず、ただスマホの画面を呆然と見つめるだけだった。

「離婚って何?本気で言ってるの?」

「母親になった女に興味ないんだよ」

「待ってよ。自分が子供欲しいって言ったんでしょ」

「悪いんだけど、途中からなんか気持ち悪くなっちゃって。腹が膨れ上がっていくことに恐怖を覚えたっていうかさ」

「何言ってんのよ。自分だってそうやって生まれてきたんじゃないの?子供が欲しかったんじゃないの?」

「やっぱいいわ。買い物をキャンセルするみたいに言わないで。一人の人間としてこの世に生まれてきたんだよ。お前が幸せにしてやってくれ。養育費は払わないから」

「無責任すぎる。許せない。弁護士に相談して、必ず支払わせるから」

「無駄だって。俺の知り合いでも結構養育費から逃げてるやつ多いぜ」

「クズの友達はみんなクズなのね」

「お互い分与する財産もないし、俺が浮気したわけでもないし。綺麗さっぱり終わりってことで。後悔しないわね」

「しねえよ」

「わかった。じゃあこの子は私が大事に育てます。二度と関わらないでください」

「言われなくてももう家は出たから。良い息子だね。それだけ限界だったってこと。じゃ、頑張れよ」

それが、生まれたばかりの我が子の父親からの最後の言葉だった。

3日後、そろそろ落ち着いた頃かしら?赤ちゃんに会いに病院に伺ってもいい?

義母からのLINEだった。私はどう返事をすればいいのか分からなかったが、正直に伝えることにした。

「お母さん、来ていただくのは構わないんですが、ちょっとメンタルが不安定で……」

「そうなるわよね。でも大丈夫よ。ご実家が遠くて不安でしょうけど、私が全力でサポートするから」

「ありがとうございます。でも、もうお母さんに助けていただくことはできません」

「なんでそんな悲しいこと言うの?私が何か気に触ることを言ったならごめんなさい」

「いえ、お母さんのせいじゃないんです。私たち、離婚することになって」

「え、なんで急に?」

「出産直後にスマホを見たら、夫からすごい数のLINEの通知があったんです。母親になった女に興味がないから離婚しようって」

「あの子がそんなことを……」

「看護師さんもいる中、泣くこともできず、この数日頭が回らなくて。そのせいで面会をお断りしてしまってすみません」

「早く行ってくれたらよかったのに。悲しい、情けない、不安。いろんな感情が頭の中でぐるぐるして、整理がつかなかったんです」

「そうよね。ごめんなさい。早く行ってほしいなんて、私のわがままだったわ」

義母はただ謝るだけだった。でも、私は彼女に真実を知ってもらいたかった。

「妊娠5ヶ月くらいまでは優しかったんです。戌の日には一緒に神社にも行ってくれましたし、お腹も撫でてくれてました」

「いつから変わったの?」

「お腹が目立ち始めた頃でしょうか。家に帰るのが遅くなって、その時は子供のために残業頑張ってるって言ってたから信じてたんですけど、なんか変でした」

「大きくなっていくお腹を見て気持ち悪くなったって言われました」

「ありえないでしょ。妊娠したらそうなることなんて、世界中の誰だって知ってる話なんだから」

「そうですよね。でもそれで女として見れなくなったと言われたら、もう返す言葉もなくて。出産している間に家も出ていったみたいだし、実家には戻ってきてないけど」

「私があの子と話してみる」

「でも今更、心が戻ってくることはない気がします。本当に大きなお腹に嫌悪感を抱いたのか、他に原因があってそんな言い訳をしたのか。母親として知っておきたいんです」

「あの子が言ってることが事実なら、私は子育てを大失敗したことになるわ」

「そんなことはありません。お母さんはいつも私に優しくしてくださいました」

その日は、義母は帰っていった。

数分後、義母は神兵に電話をかけていた。

「神兵、あんた離婚するんだって?」

「え、誰に聞いたの?」

「ルイさんに決まってるじゃない。口の軽い女だな」

「こんなこと隠してたっていつか分かることよ」

「そうだよ。あいつとは別れる」

「あそ、いいんじゃない?」

「え?てっきり怒られるかと思ったからびっくりした」

「だって母さんはルイのこと可愛がってただろう」

「そりゃその方が色々と得だもの。最近じゃ嫁の仲が悪いと孫の顔も見せない嫁が多いって聞くし」

「あれ演技だったのかよ。我が親ながら最低だな」

「ご機嫌取りも疲れちゃったわ」

「なんだ、そうだったのか。じゃあ安心だ。私は母親よ。息子の味方に決まってるじゃない」

「で、本当の離婚原因は何なの?」

「あ、あいつに言った通りだよ。妊娠してまるまると太っていくのに恐怖を覚えた」

「あんたの姉ちゃんだって、臨月で出産した時太りすぎて誰か分からないって言ってたじゃない」

「姉貴は別だよ。身内に対しては気持ち悪いとは思わなかったんだよな。不思議だね」

「本当は他にも理由があるんじゃないの?母さんには話してよ」

「え、別にないけど」

「じゃあ、この間一緒に歩いてた女性は誰?」

「何の話かな?」

「偶然見かけたのよ。腕組んでたし、仲良さそうだったけど。あれは元カノ?」

「あら、リエちゃん。うん。懐かしいわ。会いたい。リエちゃんいい子だったじゃない?私はてっきりあの子と結婚すると思ってたのに」

「あ、そうなの?」

「いいと思うわ。お似合いだもの」

「だよな。母さんもそう思うよな。よかった。まさか応援してくれるとは思わなかったよ。でもルイさんのことはどうするの?離婚するって言うけど、そんな簡単な話じゃないわよ」

「やっぱりそうかな」

「そりゃそうよ。子供が生まれたんだもの。戸籍上はあんたの子なんだから、責任は取ることになるでしょうね」

「マジかよ」

「養育費なんて2万ちょっとじゃない?そのくらい黙って払いなさい」

「まあ、そのくらいなら」

「そんなことより、町内のイベントで温泉のペアチケットもらったのよ。よかったら行かない?」

「え、いいの?ありがとう。リエも喜ぶよ」

「私と行くんじゃないの?」

「いや、母さんと言って何が楽しいんだよ」

「あそ、まあいいわ。チケットあげるわよ」

「ありがとう。今はリエちゃんの家に住んでるの?住所教えてくれない?」

「なんで?」

「宮崎の親戚がお肉を送ってくれるって言うんだけど、この年になるとあんまり食べられないから。あなたたちで食べたらいいと思って」

「マジ嬉しいわ。リエも喜ぶ。じゃあ送り先変更しておくわね」

「ありがとう」

翌日、義母が病院に来た。

「お母さん、神兵さんと話すとおっしゃってましたが、何か分かりましたか?」

「いいえ、大したことは分からなかったわ。本当に妊娠したあなたが嫌になったみたい」

「そうですか」

「どうしようもない息子でごめんなさいね。私からも怒鳴りつけてやったわ」

「私のためにありがとうございます」

「シングルマザーは大変だと思うけど、あんな父親ならいない方がマシだわ」

「はい。私もそう思うようになってきました」

「体調は大丈夫?」

「だいぶ頭も整理できて、落ち着いてきました」

「よかった。ちょっと色々バタバタしてるから、退院したら赤ちゃんに会いに行くわね。それまでに手伝いが必要な時があれば遠慮なく言って」

「ありがとうございます。退院後は母が手伝ってくれることになったんです」

「あら、そうなの?仕事の都合がついたみたいで急遽ですけど、良かったじゃない」

「どうせまたお土産を嫌がらせのように持ってくると思うので、その時はお裾分けさせてください」

「嬉しいわ」

「離婚に向けて話を進めていきます。色々とありがとうございました」

「謝ることしかできないけど、頑張りましょう」

「はい」

2週間後、神兵は義母に電話をかけていた。

「温泉楽しかった。最高だったよ。リエも大喜びでさ、あんな高級旅館譲ってもらって悪かったな」

「言ったのは先週でしょ。感想くらい言いなさいよ。プレゼントのない子ね」

「ごめん、色々忙しくてさ。母さんは俺がいつか連れてってやるからな。今はリエの家。うん。休みだもののんびりしてた」

「封筒が届いてないかしら?」

「ああ、なんかテーブルの上に置いてあるな。リエは中身も見ずに昼寝しちゃったよ」

「あなた宛てだから開けていいわよ」

「何?俺たちの結婚祝いとか?まあそんな感じ。えっと……なんだよこれ」

「見て通りよ。探偵の報告書。めちゃくちゃ隠し撮りされてんじゃん」

「2週間分だからたんまりあるわね」

「まさか、これを送るために住所を聞いたのか」

「その通り。肉も届かないし、おかしいと思ったんだよ」

「だったらあっさり教えるんじゃないわよ」

「親が裏切るなんて思わないだろう」

「残念でした。親ガチャ失敗したみたいね」

「ちょっと温泉の写真まで撮ってんのかよ。まさかあんなところまでついてきてたのか。探偵さんって本当に大変なお仕事よね」

「なんで母さんがこんなことするんだよ」

「ルイさんがあまりにもかわいそうだからに決まってるでしょ」

「俺の味方じゃなかったのか」

「そう思わせたら、本当のことを話すと思ったのよ。ちなみに、街中であんたとリエさんを見かけたって話も嘘よ。罠をかけただけ」

「ふざけんな」

「出産直後の妻にいきなり離婚を突きつけるんだもの。浮気してるに違いないと思ったら、案の定だったわ」

「でも俺とルイはもう終わってる。だからこれは不倫にはならない」

「まだ離婚は成立してないじゃない」

「でも実質夫婦関係は破綻してた」

「それはあんたの理屈でしょ。法的にはルイさんはまだ妻なのよ。つまり、あんたとリエさんに慰謝料請求できるわ」

「息子を騙すなんて、それでも親かよ」

「まあびっくり。あなたが親の同義語を語るなんて。それは、『母親になった女に興味がない』とか取ってつけたような理由並べて、それで自分だけ幸せになれると思った。俺にだって色々あるんだよ。リエさんも妊娠してるんだもの」

「私も驚いたのよ。探偵の報告書の中に、産婦人科に行ってる写真を見た時はまさかと思った」

「いや、あれは検診に付き添っただけで。普通の女が検診に彼氏は連れて行かないわ」

「そういう人もいるかもしれないだろう」

「リエさんはこれ以上ないほど気が強くて礼儀がなってなくて、ズブだと呼んだよ。検査怖いなんて言う勇気はないわね」

「失礼だぞ。人様の旦那に手を出す方が失礼だわ」

「なんだよ。母さんは味方だと思ったのに」

「一つだけ教えて。どうしてリエさんを選んだの?私の目から見ても、絶対ルイさんの方が素敵な女性だと思うけど」

「脅されたんだよ」

「え?」

「久しぶりに再会して、酔った勢いでそういう関係になっちゃって。そしたら、それ動画で撮られてたっぽくてさ」

「本当なの?」

「離婚して私のところに戻ってこなければ、この動画をばらまくって言われたんだ」

「うーん、嘘」

「本当だって。信じてくれよ」

「私はあんたの母親よ。報告書の写真に映ってるあんたの顔を見れば、脅されてるのか心から楽しんでるのかくらい分かるわ」

「そういう演技をしないといけないんだ。リエを怒らせたら俺の人生が終わるんだよ。だから仕方なくルイを切り捨てるしかなかった」

「全然辻褄が合わないわね」

「信じてくれよ」

「嘘に嘘を重ねると必ずボロが出る。お父さんが生きてた頃、よくそんなことを言ってたわ。とにかく、このことはルイには黙っててほしい。リエを怒らせたらルイと子供がどうなるか分からない」

「じゃあ、今から謝りに行くわよ」

「え、なんで。LINEで離婚を要求しただけらしいじゃない?」

「そうだけど、ルイさんが心配してくれてるから、わざわざ行かなくても大丈夫だって」

「ちょうどご実家からお母様もいらしてるみたいなの」

「え?お母さん来てるのか?」

「あなたに対してすごく怒ってるみたいだから、一緒に謝りに行くわよ」

「やだよ」

「あ、そう。じゃあいいわ。私ね、最近おっちょこちょいなの。冷蔵庫に卵があるのに2日連続で買っちゃって。今3パックもあるのよ」

「何の話?」

「あなたの会社の近くで、探偵の報告書とか落としちゃったらごめんなさいね」

「いや、やめてくれよ」

「わざとじゃないの。ただこの間もお財布落としちゃって、つくづく街中って怖いなと思ってるところなのよ」

「まだ60歳手前だろ。ボケたふりすんな。今すぐ準備しなさい」

「分かったよ。行けばいいんだろ」

数時間後、義母と神兵は私と私の母がいる病室に来た。

「お母さん、ありがとうございます。神兵はともかく、お母さんにまで土下座なんかさせてしまってすみません」

「こちらこそごめんなさい。あいつらの尻尾を掴むために、本当のことをしばらく言えなかった」

「私のことを思ってしてくれたことですよね」

「母が本当に素晴らしいお姑さんねって感謝していました」

「大事な娘さんを傷つけたのに、そんなことを言ってもらう資格はないわ」

「それにしても驚きました。まさか元カノと浮気して、妊娠までさせてたなんて」

「本当に情けないったらありゃしないわ」

「なんか、一生懸命脅されてたって言ってましたけど、あれは本当なんですか?」

「そんなわけないでしょう。神兵が自分を守るためについた嘘よ」

「やっぱり。ということは、純粋に元カノの方を選んだんですね」

「でもきっとすぐ別れるわ」

「なぜですか?」

「あの2人が破局した原因はリエの浮気よ。そして今回は神兵が浮気した。どちらも互いに対して誠実さのないクズってこと。そんな2人が一緒になってうまくいくわけがない」

「確かに。神兵は2人分の養育費を抱えることになりそうね」

「払ってくれるでしょうか?」

「当然よ。2人分の命の重みをとことん理解させてやる」

「本当にお母さんがいなかったら、私は泣き寝入りどころか、何も知らずに離婚していたと思います」

「知らない方が幸せだったかもしれないし、余計なことをしたかもしれない。けど、2人から慰謝料取れた方がいくらか子育ての足しにはなるでしょ」

「そこまで考えてくれたんですか?」

「過ぎたことは過ぎたこと。頭を切り替えて進むしかないの。子育てをしてると、そんなことの連続よ」

「はい、頑張ります」

「でもね、子供って可愛いわよ。今の辛さなんて忘れちゃうくらいたくさん幸せな気分にしてくれるからね」

「はい、楽しみです」

数日後、私は弁護士を通じて神兵に離婚条件を伝えた。

「時効にも応じるし、離婚届けも書いて渡したから」

「分かった。養育費も払います」

「当然です」

「ただ一つお願いがある」

「何?」

「1万5000円で勘弁してほしい」

「は?」

「だってしょうがないだろ。リエも妊娠してて働けないし。これからの生活費でお金が飛ぶんだよ。俺の年収で2つの家庭を養うなんて無理に決まってるだろう」

「つまり、私と子供への責任を放棄して、1万5000円で手打ちにしろってこと?お前は実家に帰れば、親も手伝ってくれるんだろう。だったら金なんてかからないじゃん」

「誰が実家に帰ると言った?」

「慰謝料だって払うんだから、毎月の負担くらい減らしてくれたっていいだろう」

「あのね、養育費と慰謝料は全く別の話よ。私の子供の養育費が減額される理由にはならないの。弁護士さんにもしっかり確認済みよ」

「でも、ない袖は触れないだろう」

「だったら袖を増やすなりなんなりしてもらうわ。俺にも新しい生活があるんだよ」

「知るか。勝手に浮気して外で子供作って。うちの子だけが割を食うなんて絶対に許さないから」

「じゃあ2万。これ以上は無理だ」

「年収500万で子供1人なら、安くても月4万円」

「はあ。高すぎるだろ」

「払わないなら給料を差し押さえることもできる」

「お前らより新しい家族が大事なんだよ」

「今ので気が変わった。最高額の6万を取りに行くわ」

「やめてくれ。浮気して悪かった。嘘ついてごめんなさい」

「今更謝りなんていらない。全部お金に変えてくれたらいい」

「そんなこと言うなって」

「ああ、そうだ。お母さんが言い忘れてたらしいんだけど」

「何?」

「リエさん、他にも男の人がいたっぽいよ」

「え?本当にあなたの子なのかしらね」

「嘘だろ?俺、新しい家族のためにマンションまで買ったんだぞ」

「私たちにはしてくれなかったこと。リエさんには全部やるんだね。彼女の何がそんなに良かったの?」

「なんていうか、すごく褒めてくれるんだ。かっこいいとか仕事できるとか」

「それだけで良かったの?」

「自己肯定感が上がるっていうかさ。一緒にいて気分が良かったんだよ」

「まあ、お腹の子を育てるための財布目当てなら、そのくらいの嘘は平気でつくよね」

「嘘じゃない」

「だったら彼女を信じて幸せに暮らせばいいわ。DNA鑑定なんてする必要もないわね」

「あ、なるほど。その手があったか。ありがとう。生まれたらやってみるわ」

「ちなみに、私が産んだ子はあなたそっくりよ。何の因果かしらってほど似てる」

「そうなんだ」

「一生合わせないけど、血を分けた存在がこの世にいる。その子には未来があるの。そのために養育費だけは頑張って払ってほしい」

「わかった」

「では、養育費6万で請求します」

その後、7ヶ月後。リエが産んだ子は、どう見ても欧米の血が入っていた。リエは「覚醒遺伝よ」と言い訳していたそうだが、リエの母に確認したところ、何代遡ってもそのような血筋はないとのこと。やはり、父親の分からない子を産むために、再び神兵に近づいたというのが真相だった。

さすがに騙されたと気づいた神兵だが、マンションのローンや私への慰謝料と養育費で全く首が回らない状態で、弁護士に相談したり訴訟する余裕もないらしい。実の母親からも縁を切られ、途方に暮れた神兵は、驚きの行動に出た。

「実の我が子と暮らしたい。復縁して欲しい」と、毎日LINEを送ってくるようになったのだ。

鬱陶しいので、すぐにブロックした。

家からは「逃げたら地獄の果てまで追いかける」と圧力をかけられているようで、今は仕方なく、全く似ていない子供を育てるために休む暇もなく働いているらしい。

私も少し小さなマンションに引っ越し、子供を保育園に預けて働いている。義母だった知恵さんもよく遊びに来てくれて、神兵そっくりの孫にメロメロのようだ。会えなくなった息子に何かを重ねているのだろうか。時折、うっすらと目が潤んでいることがある。

いくら我が子でも、間違いを指摘し正しい道に導くというのは簡単なことではない。それをやり遂げた知恵さんを心から尊敬しているし、私もこんな素敵な母になりたいと思っている。

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