義妹の内定祝いの高級寿司店で、私の前に出されたのはガリの小皿だけだった。義母は「部外者には寿司はなしよ」と笑った。喧嘩を売られたと思ったが、私は義妹が会社でやらかしている秘密を握っていた。最後の手段を取る前に、義母が私に浴びせた一言が、全部を決定的に変えた。あの瞬間、私はもう誰も守らないと決めた。返す言葉はひとつだけだった。今、家族は崩れ始めている。…

義妹の内定祝いの高級寿司店で、私の前に出されたのはガリの小皿だけだった。義母は「部外者には寿司はなしよ」と笑った。喧嘩を売られたと思ったが、私は義妹が会社でやらかしている秘密を握っていた。最後の手段を取る前に、義母が私に浴びせた一言が、全部を決定的に変えた。あの瞬間、私はもう誰も守らないと決めた。返す言葉はひとつだけだった。今、家族は崩れ始めている。...

「お母さん、なんでこんな嫌がらせをするんですか?」

私はLINEを送った。面と向かって言えばよかったのかもしれない。でも、あの場で言い返せば、せっかくの三重の内定祝いの席が壊れてしまう。それだけは避けたかった。

返事はすぐに来た。

「何よ。言いたいことがあるなら面と向かって言いなさい」

「どうして私だけガリしか食べさせてくれないんですか?」

「何? 寿司が食べたいの? せっかく高級なお寿司屋さんに来たんだから食べたいですよ。でも、それよりも、この扱いのほうが気になります」

今日は義妹の三重が有名企業から内定をもらったお祝いの席だ。私も心からお祝いしたいと思って来た。私も来年の春から、同じ会社で働くことになっている。新しい家族として、三重に先輩として色々教えられたらと思っていた。

それなのに、義母は私にだけ、寿司を一切出さず、ガリだけを皿に置いた。

「今日は三重の内定祝いよ。この会に来たのは鉄郎じゃなく、あんただった。鉄郎は仕事で少し遅れるって言ってたけど、部外者にいられるのはすごく嫌なのよ」

「部外者って……私は鉄郎の妻ですよ」

「鉄郎の妻でも、私にとっては部外者よ。どうせ、お祝いにかこつけて、高級なお寿司を食べようなんて、いじ汚いにも程があるわ」

「そんな気持ちはありません。私はみえちゃんのお祝いがしたかっただけです」

「随分と自慢げに言ってるけど、あんたは転職組でしょ。新卒入社の三重と一緒にしないで」

「どちらが偉いとか、そんなのはないと思います」

「どんな手を使って転職したか知らないけど、これ以上うちででかい顔はさせないからね。とにかく、部外者のあんたには寿司は食べさせない。私の中であんたは部外者なのよ。それを受け入れなさい」

「どうしてですか? 結婚した最初の頃は、仲良くやれてたじゃないですか」

「うるさい。最初からあんたのことなんて、好きでも何でもなかったのよ」

私は言葉を失った。あの頃は、家族になれて本当に嬉しかった。それが、今ではこんなにも拒絶されるなんて。

「いいから約束しなさい。三重には絶対に近づかないこと。あんたが親族だってバレたら、三重のキャリアに傷がつきかねないわ」

「私のこと、何だと思ってるんですか?」

「転職組なんて、そういう立場なのよ」

その時、夫の鉄郎からLINEが来た。

「ごめん、もう少し仕事で遅れそうなんだ。ミスが発覚して、みんなで対応してる。終わったらすぐ行くから、母さんたちに言っておいてくれるか」

「私じゃなくて、お母さんに直接LINEしたほうがいいと思うよ」

「いや、なんかうるさく言ってきそうじゃん。あの人、三重が採用されたことにめちゃくちゃ浮かれてて、遅れたら許さないとまで俺に言ってきたんだぜ。かなが言っておいてくれよ」

「分かるけど、私の話は聞いてもらえないと思う」

「なんで? 何かあったのか?」

私は打ち明けた。お母さんが私のことを部外者と呼ぶこと。私にはガリしか食べさせてくれないこと。

「なんでそんな嫌がらせを母さんがするんだ? 喧嘩でもしたのか?」

「してないよ。別々に暮らしてるから、そんなに接する機会もないし……でも、この間正月に会った時、確かに冷たくなったなとは思ってた。理由は全然分からないわ」

「カナと三重は同じ会社で務めるんだから、仲良くしておいたほうがいいに決まってるだろう。会社でも絶対に口聞くなって言われたの」

「あの人は本当によく分からないな。……見えに聞いてみたらどうだ? 何か知ってるかもしれない」

「そうね。聞いてみようと思う」

私は三重に話しかけた。

「えちゃん、お母さんが私に対してすごく怒ってるみたいなの。ずっと私だけガリしか食べさせてもらってないの」

「確かにそうですね。でも、どうして怒ってるのか、さすがに私には分かりませんよ。お姉さんが何か嫌なことをしたんじゃないんですか?」

「何の覚えもないわ。いきなり部外者だって言われて驚いてるの」

「でも、部外者は部外者じゃないですか? 別に何も変なことは言ってませんよね。兄と結婚したからって家族に入れるなんて、意味が分からないですよ。いくらお姉さんに家族がいないからって、そんな甘えられても困ります」

「親を早くになくしてることを、そんな風に言うのはやめて。今でも辛い気持ちがあるのよ」

「私は事実を言ってるだけですって。家族みたいにすり寄られても、こっちは困ります。それって、結局自分の利益のためにやってるんでしょ?」

「利益? どういうこと?」

「私が新卒入社でエリートコースを突っ走るから、そのおこぼれにあずかって、いい思いをしたいってことでしょ? 転職組のあなたには、出世が確定してるみたいに言うのは間違ってるわよ。新卒入社の私はエリートって決まってるの」

「お母さんに、変なことを吹き込んだのはあなたね?」

「変なことじゃないの。ネットに実際そう書いてあったんだから」

私は驚いた。まさか、そんなことを信じているとは。

「だったら私が偉くなったら、転職組は全員首にするわ」

「やれるもんならやってみればいいわ」

「適当に言ってるって思ってる? 残念だけど、実際にもう動いてるんだから」

「どういうこと?」

「同じ大学の仲間や、同学年の知り合いをたくさん採用してもらうようにするの。そしたら私たちは大きな派閥を作って、会社を動かすことができるわ。後期試験がまだ残ってるから、まだ就活してる子たちには、私が受けた採用試験の内容をこまかく伝えてあるの。傾向と対策を狙えるでしょ? 他の奴らより有利に試験を進められるわ」

「あなた、なんてことを……」

「そうなったら、真っ先にあんたのことを首にしてやる。他人のくせに家族ぶられて、うざかったのよね」

その時、義母が割って入った。

「ちょっと、あんた、いつまでここにいるつもり? ガリも十分食べ終えたでしょう。さっさと帰りなさいよ。面と向かって切られる前に、私の忠告を聞きなさい」

「お母さん、今はそれどころじゃありません。みえちゃんがとんでもないことをやってました。今すぐ手を打たないとまずいです」

「はあ? わけの分からないことを言うんじゃない。そうやって私たちに取り入ろうとしても無理よ。あんたの話なんて聞くだけ時間の無駄。もう少ししたら鉄郎も来るんでしょ。だったらあんたは出ていきなさい。これからは大事な家族の時間になるんだから」

「そんなに私が邪魔ですか?」

「そうね。本当にうっとうしい存在だわ。鉄郎もどうしてこんな人がいいのかしら。性格最悪のどうしようもない女なのにね」

「どうしてそんな風に思ったのか、説明してください。悪いところがあったら謝りますから」

「そんなことしても意味ないわ。あんたの存在自体が私のストレスなんだから。なんなら鉄郎とも別れてほしいくらいよ」

「私たちの関係まで口出しされるんですか?」

「私は鉄郎の親よ。そんなの当たり前じゃない」

「分かりました。もういいです」

「それじゃあ、さっさと私たちの目の前から消えて。あんたがいなくなってからが、内定祝いの本番だから」

私は静かに立ち上がった。

「じゃあ、えちゃんの内定は取り消しということで」

義母は笑った。

「お前にできるか?」

「確かに私にはできませんよ」

「何を言ってるの? もう気持ち悪いわ。いいからさっさと出ていって。それと三重には絶対に関わらないようにしてね」

「分かりましたよ」

私はその場を離れた。胸は痛んだが、もう決めていた。やっていいことと、悪いことの区別くらい、私はつけられる。

一週間後、私のところに、悔しさに満ちた電話がかかってきた。

「ちょっと、これはどういうことよ? なんで私が内定取り消しなんてされないといけないの?」

「どうしてそんなことを私に聞くの? 私は企画部の人間よ。人事に聞くのが普通じゃない?」

「聞いたけど、詳しい内容は言えないとしか帰ってこないの」

「あら、そう。それなら、自分の胸に聞いてみたら?」

「内定取り消しになるような覚えはないわ。そんなのあるわけないでしょ」

「やっぱり、何の罪悪感もなかったんだね」

「どういうこと?」

「あなたが内定を取り消されたのは、試験情報を流出したからよ」

「え? あれってダメなことだったの?」

「ダメに決まってるでしょう。試験情報は公開しないってのが基本ルールよ。採用試験を受ける前に、その説明はされてるって、人事の人は話してたわ」

「てことは、これを告げ口したのはあんたね」

「そうね」

「なんでこんなことをするのよ。私のことを貶めるような真似していいと思ってるの?」

「だって不正は見逃せないわ。黙れ。家族だったらかばうものよ」

「私たちは家族じゃないでしょ。赤の他人でしょ」

「それなら、私は会社の利益を守るほうを選ぶわ。だって会社の人たちは仲間だもの。赤の他人と仲間なら、どっちを守るかは聞かなくても分かるわよね」

「守るって、そんな大げさな」

「あなたのやったことで、試験が平等に行われない可能性があるの。その結果、本来合格するはずだった優秀な人材を、うちの会社が取れないかもしれない。これは会社にとって大きな損失よ。それを防ぐために、人事部の人に全てを伝えたわ。そのおかげで、採用試験の内容を大きく変えることになったの。本当に多くの人に迷惑をかけたのよ。不正な方法で採用を勝ち取ろうなんて人間は、うちの会社には不要よ」

「どの口が言ってるのよ。何であんたみたいな、しょうもない中小企業の人間が、どうして大手に転職できるのよ。あんたこそ不正なやり方をしたんでしょう?」

「そんなことするわけないでしょう」

「どうだかね。確実に言えるのは、あなたのやったことは許されることじゃないってこと。だから、あなたは内定が取り消されたのよ。これ以上のクレームは受け付けられないから、さっさと諦めて次の就職先を探したら?」

「今募集してるところなんて、全部しょうもない企業よ。大手はどこも採用は終わってるんだから」

「だとしても、うちは諦めるしかないからね」

「本当に、あんたは最低なことしかしてくれないわね」

「それ、自分に向けた発言よね」

30分後、鉄郎が義母に電話をかけられた。

「鉄郎、あんたの嫁がとんでもないことをしてくれたわ。美重が泣いて、内定取り消しにされたのよ。それもこれも、全てあんたの嫁がやったことなの」

「俺だって詳しい話は聞いてるよ。悪いのは全部みえだから。カナを攻めるのは、的外れもいいところだよ」

「あんた、まさか嫁の味方をするつもりなの?」

「今回の件はどう考えてもそうだろ。みえのことを擁護できないって。社会人としてあるまじきことをやったんだからな。母さんも親なら、俺たちに文句を言うんじゃなくて、みえのことを怒るべきだよ」

「どうしてそんな冷たいことを言うのよ。あの女は自分の立場を守るために美重を排除したのよ」

「どういうことだよ」

「みえが会社に入ったら、家族内で言いづらくなるでしょ。大手に入って、いい思いをすることができなくなるのよ。だからあの女はみえを追い出すようなことをしたのよ」

「くだらない。そんなわけないだろ。カナはそんなことを考えるような女じゃない」

「あんたは恥ずかしくないの? 自分よりも嫁が偉い立場になってるのよ。屈辱だと思ってないの?」

「俺はカナのことを誇らしく思ってるよ。仕事ぶりが認められて、今の会社にヘッドハンティングされたんだ。それだけ優秀な人が自分の妻だってことが、何よりの自慢だよ」

「ヘッドハンティングされたの?」

「そうだよ。だから今の会社で働けてるんだ。仕事でも、今は責任あるポジションを任されるようになったみたいだ」

「え? 新卒入社でもないのに?」

「それはみえの思い違いだよ。どんな入り方をしても、社内では実力のある人が出世していくんだ。そしてカナにはその実力があるんだよ」

「そうだったの?」

「それじゃあ、これで話は終わりだ。悪いけど、もう俺たちに関わらないでくれるか? この連絡先もブロックさせてもらうからな」

「はあ? なんでそんなことをするのよ」

「あんたはカナのことを他人呼ばわりしただろう。それで内定祝いでガリだけしか食わせなかった。俺はカナの夫だから。カナの他人ってことは、俺にとっても他人ってことだよ」

「ちょっと待ちなさいよ。どうしてそんなことを言うの? 私たちは家族のはずよ」

「俺にとっては、カナだけが大事な家族だよ。その家族をないがしろにするようなやつは、家族だなんて思わない。俺はもうあんたたちと絶縁する」

「考え直してよ! 私がカナさんに厳しくしてたのは、あんたのメンツが潰されてたからよ。私はあくまで、あんたのためを思って厳しくしてたのよ」

「そんなものが嬉しいわけあるか? もし本当にそう思ってるなら、『カナに負けないように仕事を頑張れ』って俺に言えよ。なんでカナの足を引っ張るような真似をするんだ。その時点で、あんたは間違ってるんだよ」

「でも絶縁なんて……」

「悪いが、これはもう決めたことだから。あんたたちとは、もう親子でも何でもない。二度と俺たちの前に現れないでくれよ」

2週間後、私は三重に会いに行った。

「えちゃん、久しぶりね」

「何よ。ブロックしてたんじゃないの?」

「どうしても話しておきたいことがあって、解除したの。手短に話してくれる?」

「こっちも色々と忙しいのよ。就活はうまくいってるかしら?」

「うるさい。あんたには関係ないでしょ」

「そうね。それじゃあ本題に入りましょう」

「何よ?」

「あなたのことを、名誉毀損で訴えることにしたから」

「はあ? 何それ?」

「あなた、私に関しての嘘をSNSで拡散したでしょう。私の知り合いから教えてもらったんだけど、私のことを言ってるアカウントがあったのよ。そこには、私が中途採用試験に関して、体を使って採用を勝ち取ったって書いてあったわ。それで今、大手で働けてるってね。すぐにこのことを会社に報告したら、会社が動いてくれて、開示請求をしてくれたのよ。それであなたのアカウントだってことが分かったの」

「だから私を訴えるっていうのね」

「そうよ。当たり前でしょ」

「でも私は間違ったことは言ってないわ。だって、あんたみたいな奴が大手に中途採用されるなんて変だもの。大した大学も出てないくせに」

「私はヘッドハンティングされたの」

「それが体を使ったってことでしょ?」

「違うわよ。私はとある会社とのコンペで企画を提出したの。それを今の会社の人が高く評価してくれて、うちで働かないかって言ってくれたのよ」

「そんなの私は知らないわ」

「知らないからって、嘘をついていいわけないでしょ。あなたって、本当に子供みたいな性格をしてるわね。そうやって言われると、私が今までやってきたことを全て否定されたようで、本当に気分が悪いの。自分がやれることをやった結果、今があるのよ。ずるいことしか思いつかないようなあなたには、この気持ちは分からないかもしれないけどね」

「水分と言ってくれるじゃない」

「これが私の正直な気持ちよ」

「あっそ。別に好きにしたらいい。名誉毀損でも何でも、訴えたらいいわ」

「慰謝料も請求させてもらうからね」

「どうぞ」

「それと、うちの会社もあなたのことを訴えるって言ってるから」

「え? 会社が?」

「そうよ。だって、あなたのSNSのせいで、うちの会社の信用が損なわれたわ。その分の損害賠償請求をするって言ってるから。言っておくけど、こっちの額は私の請求とは桁が違うからね。大手企業として被った損害は、すごく大きいものだから」

「ちょっと待ってよ。そんなの無理に決まってるわ」

「無理かどうかなんて関係ない。大人なんだから、やったことの責任は取らないとだめよ」

「ちょっと、そこはお姉さんがなんとか言って止めてよ。私が反省してるからって伝えて」

「いやよ。そんなこと、私がするわけないでしょ」

「お願いよ。妹の私を助けて」

「家族ぶるのはやめてよね。これからはあなたなりのエリート道を突っ走りなさい。険しく荒れた道だと思うけど、頑張ってね」

その後、三重は高額の損害賠償請求と慰謝料請求をされた。訴えられたことへの心労から満足に就活もできず、新卒時期を逃してしまい、就職先が見つからず、今はアルバイトを掛け持ちしているらしい。今はなんとか就職先を見つけようと、大学時代の仲間たちのコネを利用しようとしているそうだが、誰からも相手にされてないという。派閥を組んで会社で幅を利かせようとか言ってたけど、結局は大した絆もない関係性だったみたいだ。

ちなみに義母たちも、彼女の支払いを支えないといけない状況で、生活がとても苦しくなってしまったそうだ。今ではスーパーのお寿司すら手が届かなくなってしまったと聞いてる。高級寿司屋で食べた時の味を一生忘れないようにしないとダメね。

一方の私は、鉄郎と幸せな生活を送っている。会社では順調に成果を上げて、周りからも頼られるような存在になれている。みえちゃんの件でも、会社の上の人たちが心のケアに気を使ってくれたので、本当にこの会社に来て良かったなと再認識した。これからもこの会社に貢献できるように頑張っていく。

あと、今度結婚5周年を迎えるので、この間行った高級寿司屋に行こうかなと鉄郎と計画している。ガリだけでもすごく美味しかったので、お寿司はどれだけ美味しいのか、今から楽しみだ。

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