「お母さん、ずっと何言ってるのか分からないんですけど。2歳って何ですか?私はまだ子供を産んでいません」
電話の向こうで義母が叫んでいた。
日頃は穏やかな人なのに、その声は怒りで震えていた。「毎日預けるなんて非常識すぎるわよ。私だって60歳超えてるんだからね」
私は呆然とした。「お母さんが見てる子は、誰の子なんですか?」
「近所の若奥さんの子よ。しょっちゅう預けられて困ってるの」
意味が分からなかった。私はまだ妊娠中で、夫の健人と結婚して2年が経ったばかりだ。れなのに2歳の子どもを私が預けていると義母は思い込んでいる?夫に電話をすると、彼は京都で探偵の真似事をしている幼なじみのマイクのもとへ行けと言った。
マイクは親の遺産で日本全国を旅しながら探偵業を営むアメリカ人だ。バーで私がトラブルに巻き込まれた時、彼が助けてくれて以来の付き合いだった。彼の情熱と人懐っこさは相変わらずで、「お義母さんはフェシなのか?」と聞いてきた。要は、義母を精神的に追い詰めている誰かを調べ上げればいい、という話になった。
「その子が誰の子か調べればいいわけね」とマイクは涼しい顔で言った。
「義母から5発ラインが来たの。2歳児を預かってるんだって」私がそう言うと、マイクはすぐにエージェントを手配してくれた。彼は全国に仲間がいるらしい。
翌日には調査結果が届いた。
不倫相手の名前は歩み。23歳。都内在住の売れないキャバ嬢。健人と歩みは私が妊娠する前に付き合っていて、彼女は出産後も夜遊びをやめなかった。子供の面倒を義母に見させて、自分はホストに夢中になっていたのだ。
私は怒りで体が震えたけど、マイクは落ち着いていた。「じわじわい行って、やっつけよう」彼はそう言って、まずは“内偵”を始めた。
義母への嫌がらせを始める前に、健人の様子を探ることにしたのだ。
数日後、健人が突然実家に帰ると言い出した。「母さんが体調崩したみたいでさ。2歳の子の面倒を見てるから」私は知らないふりをして、「私がお世話しましょうか?」と提案したが、彼は断った。「自分の親のことだし、はるかには迷惑かけられない」
彼は優しい。私の方がずっと優しい、そう思った。
だがマイクはその間に歩みの調査を進め、彼女が今もホストに通い続けていること、そして義母が息子の不倫を隠していることを掴んでいた。「義母も息子可愛さに隠蔽してたのさ」「共犯の加害者だ」
私は怒りを抑えきれなかった。「どうしたらいい?夫に隠しがいるなんて耐えられない」マイクは軽く言った。「徹底抗戦だよ。勝って幸せを力づくでゲッツするのさ」
私は彼の言葉に少しだけ心が軽くなった。
そして数日後、健人から電話があった、「母さんがお前に言ったんだって?2歳の子を預けてるって」私は笑った、「ええ、聞いたわよ」彼は慌てた様子で「あれは間違いなんだ。近所の子を預かってるだけで…」と説明しようとしたが、私はすでに真実を知っている。
「あなたの子でしょう?歩みって女の子を」沈黙が続いた。
やがて彼は認めた、「…そうだよ。でも産むなって言ったんだ。俺ははるかと結婚するって決まってたんだから」
私は怒りで声が震えた、「出来心?あなたは自分のしたことを何だと思ってるの?」「誘惑されて仕方なかったんだ」私は冷たく言い放った、「じゃあ私も出来心で離婚するわ」彼は慌てたが、もう遅い。「あなたの不倫相手の子供を、同じ家で育てるなんて私にはできない」
「じゃあ、歩みを見つけ出して引き取らせるよ」「あの女はホストに夢中でそんな気はないわよ。あんたが責任を取るべきよ」私は電話を一方的に切り、マイクに話した。
「私、離婚するわ」マイクは「最高じゃないか。はるかは強いよ」と笑った。
元気が出たところで、彼は言った、「ここからが俺の本領だよ。地獄の始まりだ」
翌日、彼はエージェント2人を歩みが通うホストクラブに送り込んだ。隣の席で大声で話をさせたんだという。「あゆみって売れないキャバ嬢が自分の子を預けてホスト遊びしてるんだって。不倫相手の親に面倒見させてるらしい」その会話を聞いた歩みの担当ホストは、幼少期に母親に捨てられた過去を持つ男だった。自分のことと重なり、歩みを責め始めたのだ。店内は騒然となり、歩みは店から追い出された。
「次は夫ね」マイクは翌日、健人の会社近くの定食屋にエージェントを送り込んだ。「あの店は社員がよく集まるんだよ」彼らは大声で話した、「妊娠中の奥さんを裏切ってるクズがいるんだってよ」「不倫相手に隠し子を生ませて、実家に預けてるらしい」そこへ健人が現れ、マヨネーズ嫌いな彼がタル抜きのカツフライ定食を注文した。同僚たちの視線が一斉に彼の皿に向いた。
彼は固まった。
笑ったわ。
噂は瞬く間に広がり、健人は会社中から“タル不倫男”と呼ばれるようになった。
とうとう彼は会社をやめると言い出した。
次は義母だ。
マイクは義母が通う美容院にエージェントを送り込んだ。「知り合いが、不倫相手に子供を生ませて、その面倒を母親に見させてるらしいんですよ」美容師はもちろん、その客が義母だとは気づかない。「見る親も親ですね。最低だわ」義母はパーマをかけたままの濡れた頭で、逃げ出したらしい。
これで全て終わったと思った。
しかし、それは始まりに過ぎなかった。
数日後、実家に弁護士が来た。健人は「本当に離婚するのか?慰謝料は払わないぞ」と脅したが、私はきっぱりと言った、「あなたに払えるのは慰謝料と養育費だけよ」彼は会社での噂話を私のせいにしようとしたが、マイクはその間ずっと京都にいた。「マイクは日本語が苦手なのよ」私は嘘をついた。
その後、健人は「もっと苦しめたい」と言い出し、私は歩みの実家の住所を教えてほしいと頼んだ。「大事なお手紙を送りたいのよ」私はそう言って、彼に養育費の請求書と慰謝料の請求書を送った。
彼は「自分の不倫の代償を支払うがいいわ」と呟いた。
マイクは言った、「まだまだこれからだよ」「占い師が言ってたんだ。不幸の連鎖はまだ続くってね」
結局、歩みはSNSでキャバ嬢時代の仲間たちに炎上させられ、裏アカウントでアンチコメントを大量に書き込んだ結果、民事で訴えられたそうだ。健人と義母は慰謝料と養育費の支払いに追われ、破産寸前だという風の便りが聞こえてきた。「カラスが実家に大量に押し寄せて、カラス屋敷として有名になった」とか、どこかの噂話だが、私は笑ってしまった。
マイクはカラスまで操れるのか、不思議だ。
私は鹿児島の実家に戻り、元気な女の子を出産した。マイクは約束通り、鹿児島在住の仲間を連れて遊びに来てくれた。「娘の最強のボディガードになってやるよ」彼らは娘に可愛がられ、私の心強い味方になってくれた。
今は海と大きな桜島を眺めながら、娘と一緒に最高に幸せな毎日を過ごしている。あの時マイクがいなければ、私は泣き寝入りして、後ろ向きなまま離婚していただろう組み。
彼のおかげで、私は前を向いて歩き出せた。
マイク、本当にありがとう。いつかずっと先になるかもしれないけど、幸せだったと娘が言えるよう頑張るわ。



