「かず彦、これはどういうこと?」
「はあ?いきなり何だよ」
「先週、出張じゃなかったのね」
「何があったんだよ」
「知らばっくれないで。浮気してたくせに」
「浮気?」
「先週、出張だって言って家を開けてたでしょ。でもあれは出張でも何でもなかったって分かってるの」
「どうしてだよ」
「あなたの会社のお友達とばったり会ったのよ。それで出張の話をしたら、そんなわけないって言ってたの。詳しく聞いたら、あなたはその日は有給を使ってたってね」
「それで浮気って思い込んだのか?」
「違うわよ。それで探偵に依頼をして浮気調査をしてもらったの。そうしたら、あんたが浮気している証拠がボロボロ出てきたのよ」
「そんなこと勝手にしてやがったのか?」
「何よ。そんなやつとはもうやってられない。離婚だ」
「はあ?何それ?逆切れ?」
「お前みたいな裏でこそこそするようなやつとは一緒にいられないんだよ」
「あんたは裏でこそこそ浮気してたくせに」
「黙れ。お前みたいな仕事しかできねえ、愛嬌ゼロのバートはもう終わりなんだよ」
「そこまで言うのなら離婚してやるわ。こっちもあんたみたいなやつは願い下げよ」
「せっかく家も買ったってのに、こんなタイミングで離婚とはな」
「それはこっちのセリフよ。念願のマイホームを買って、これからもっと幸せな生活が待ってるって思ってたのに、残念だったな」
「じゃあさっさと終わりにしようぜ。お前の顔を見なくていいだけで、精神衛生上もかなりいいからな」
全く反省の色はないみたいね。
「あるわけないだろ。俺は男としていい女と一緒にいたいという、死国当然の感情に身を任せただけだ」
「じゃあなんで私と結婚したのよ」
「お前も昔はいい女だったよ。昔はな」
「とりあえず離婚するから。もうこっちの家には帰ってこないで。離婚の話し合いには弁護士を雇いましょう」
「家の件はどうするつもりだ?立派な偽体住宅の契約はどうなるんだよ」
「そういうのも後で話すことになるから、今はまず私たちの結婚生活に肩をつけましょう」
「そうかよ。じゃあ俺は愛人の家にでも行ってこようかな」
10分後。
「お母さん、ごめんなさい」
「え、どうしたの?急に」
「私、かず彦と離婚することになったわ」
「え?離婚?」
「うん」
「どうして?だってあんなに仲良かったじゃない?しかも家を買って引っ越しの準備とかもしてる最中だったんじゃないの?」
「そうでも、かず彦の浮気が発覚してさ」
「かず彦さんが浮気?」
「探偵に浮気調査をしてもらったら証拠が出てきて、あいつが女とホテルに入るところの写真を見せられたのよ」
「それで離婚するってことになったのね」
「そうなの。本当にごめんね」
「なんで私に謝るの?あなたは何も悪くないじゃない」
「でも、離婚するってなったら、家のことも偽体住宅のこと…」
「そんなのは気にしなくていいのよ。お母さんたちやかず彦と一緒に幸せな家庭を築けるかなって思ってたのに、本当に残念だと思うわ。でも私は何も気にしてない。お父さんもそうだと思う。あなたがどうして家を買おうとしてくれたかも、私たちは知ってるわ。私たちとしてはその気持ちだけで十分よ。これから色々と大変だと思うけど、あなたはあなたが幸せになるための選択をしてほしい。美和の幸せが私たちの幸せだからね」
「うん。ありがとう。何が一番いいかを考えながら決めるね。それじゃ、ことが決まったらまた連絡するから」
1時間後。
「美和さん、聞きましたよ。離婚するんですって」
「そうですね。あなたの息子が浮気をしたから離婚します」
「随分と嫌みったらしいことを言ってくるけど、あなたにそんな怒る権利はあるのかしら?」
「どういうことでしょうか?」
「浮気されるってのは、女にも原因があるってこと。少なくともあんなに真面目なかず彦が浮気をするなんて、よっぽどのことよ」
「私は何も日があるようなことはしてません」
「そうかしら。自分が大手企業で働いていることを鼻にかけて生活をしてたように、私には見えましたよ」
「そんなわけないでしょう。言いがかりです」
「こういうのって、受けた側の意見が尊重されるべきだと思いますけどね」
「どういうつもりですか?どうしてお母さんはそんなに私のことを責めるんですか?昔は仲良くやれていたのに、どんどん冷たくなっていきましたよね。どうしてそんな風になったんですか?私が何か気に触るようなことでもしましたか?」
「仕事ばかりで家族のことを思いやれない人間には、冷たくなって当然でしょ」
「家族を思いやれないって、私のことを言ってるんですか?」
「あなた以外にいないでしょ」
「私は常に家族のことを第一に考えていますよ。だから偽体住宅を買おうとしてたわけですし」
「そんなの自分の親のためでしょ。私たちやかず彦の気持ちは何にも考えてくれてないわ」
「かず彦にはきちんと説明をしてました。だから家のお金は全額私が払うと言ったんです。それでかず彦は納得してくれてました。それに私はそちらの実家の修繕にも協力してます」
「そんなの大した額じゃないでしょ」
「だとしても、私は家族のためにやれることはやりました」
「じゃあ、それだけやってもあんたのことをかず彦は嫌ったってことでしょ。それだけあんたの存在は疎ましかったのよ」
「だとしても浮気していい理由にはなりません。悪いのはかず彦ですから」
「ですって。自分の日を全く認めないってわけね」
「私に日なんて何一つないですから」
「ふざけるな。よくそこまで開き直れるわね。本当に空気嫁め。あんたみたいなのは浮気されて当然よ。ゴミが結婚を認めたのが間違いだったわ」
「申し訳ありませんが、こちらも忙しいので、お母さんとLINEをしてる暇はありません。それで失礼させてもらいます」
翌日。
「おい、離婚の手続きはどうなってるんだよ。早く片付けてしまおうぜ」
「あんたの方からそんなことを言われるなんてね」
「お前が未練がましく時間稼ぎしてるように思えてな。俺は無駄な時間を過ごすのはこの世で一番嫌いなんだよ」
「そんなことするわけないでしょ。こっちは色々と大変なのよ。仕事もあるし、それに加えて家の手続きのことだってあるんだから」
「例の偽体住宅、一括返済してくれたんだろ。この間は不動産屋に行くって言ってたもんな」
「一括返済?何を言ってるのよ。購入するんだから代金を支払うってことでしょ。返済とかじゃないから」
「別にそんな細かいことはどうでもいいんだよ。それよりも、あそこは俺がもらってやるよ。縦売りだから金を支払ったらすぐにでも住めるようになるんだよな」
「何を言ってるの?どうしてあんたがもらえるのよ」
「財産分与であの家の対処が大変だろ。だから俺があの家をもらってやるって言ってるんだ。貯金とかそっち系はお前が持っていっていいよ」
「わけが分からないわ」
「離婚したらあの家をどうするか困るだろう。もちろん俺が貯金をもらってもいいんだぜ。どっちにしろ財産分与はしないといけないしな。ただ、お前よりも俺たちがあの家を使う方が有意義だと思うぜ」
「もしかして、あんた最初からそのつもりだった?」
「何が?」
「最初からあの家を私から奪おうとしてた」
「財産分与のこととか、そんなすぐに出てくるとは、意外と勘がいいんだな。俺の浮気に全然気づかないから、もっとバカだと思ってたぜ」
「やっぱり」
「浮気がばれたのは正直計算違いだったよ。でも、いずれお前のことを捨てて、あそこの家は俺のものにするつもりだったんだ」
「だから偽体住宅にしようとか言い出したのね。私は普通の家でいいって言ってたのに」
「そうすれば、うちの両親も一緒に住めると思ったんだ。お前は俺の思った通り、金を全額出すとも言ったし、実際に払ってくれた。何もかも俺の思う通りに動いてくれたぜ」
「さあ、どうする?家はこっちに渡した方がいいと思うぜ」
「私がお金を出したのに」
「お前が金を出したとしても、あの家は俺たち夫婦の共有財産だ。つまり、どちらの持ち物でもあるってこと。そんな当たり前のこともお前は分からないのかよ」
「最低ね。そんなに家が欲しいのなら、自分で買えばよかったでしょ」
「お前が仕事をして稼いでるんだから、それを利用して何が悪い?」
「情けないと思わないの?」
「黙れ。とにかくあの家は俺のものにするよ」
「そんなうまくいくかしらね」
「財産分与で揉めてめんどくさくなるのは嫌だろ。それ以外の財産は持っていっていいからな。お前ならまたバリバリ稼いで家を買うことも可能だろ」
「そんな簡単に言わないでよ。私がどんな思いであの家を買おうとしてたか、あなたには話したよね。その私から家を奪い取るなんて許さないわよ」
「ルールだから仕方ないだろう」
「じゃあ、好きにしたらいいわ」
「離婚したのに悪いな。あそこに愛人と両親と住むよ」
「それじゃあ、さっさと家を出て行ってもらえる?私もこのマンションを解約して別のところに住むから」
「え、そうなのか」
「あんたと住んでた家なんて、さっさと出たいのよ」
「お前が勝手に契約なんてできたっけ?」
「私たちは連盟で契約してるから、私にも解約はできるのよ。だから荷物を早めに取りに来てよね」
「あっそ。勝手にしろよ。俺もすぐに新居での生活を始めたいしな」
「そう、それは別にいいけど、浮気相手のさおりさんの連絡先を教えてもらえる?」
「名前まで掴んでたのか?」
「プロが調べてくれたからね。離婚の手続き上、話をしないといけないから、LINEを教えて」
「変なことを言うんじゃないぞ」
「あんたと一緒にしないで。こっちは常識あるから大丈夫よ」
3日後。
「ねえ、早く荷物取りに来てよ。私もう引っ越しちゃったから、早めにオーナーさんに鍵を渡したいんだけど」
「もう引っ越したのかよ」
「とりあえずマンスリーマンションだけどね」
「約も済ませたんだな」
「ええ、今月一杯ってことになってるから、早く荷物を取りに来て」
「新しい家にはどうやったら引っ越せる?鍵とかそういうのは不動産屋でもらえるのか?」
「え?そんなの私が知るわけないでしょ」
「何を言ってるんだよ」
「あんたの新しい家がどうかなんて、私は知ったこっちゃないって言ってるのよ」
「おい、お前、わけの分からないことを言うな。俺たちが住もうとしてる偽体住宅の話だよ」
「もしかして、あそこに住もうとしてるの?」
「当たり前だろ。あそこが俺たちの新居なんだからな。あそこで俺とさおりと両親で生活をするんだ」
「別に好きにしたらいいけど、まだ住める状態じゃないわ。きちんと契約をして、払うものを払わないと。そうしたら住めるようになるわよ」
「払うって、何を?」
「家の購入費用よ」
「そんなの当たり前でしょ。お前が払ったんじゃないのか」
「一銭も払ってないよ」
「え?何をそんなに驚いてるの?」
「だって、お前、不動産屋に支払いをしてくるって言ってたじゃないか」
「何をどう勘違いしたのか分からないけど、私はまだ1円も払ってないわよ。契約について話し合いをするために不動産屋さんに行ってたのよ。それに、いきなり一括で払うんじゃなくて、最初は着手金とかを経て払うようになってるの。いきなり全部を払うわけじゃないのよ」
「そうなのか」
「あなたは家のことを基本的にノータッチで全部私に任せてたから、何も知らなかったみたいね」
「じゃあ、家には俺たちは住めないのか?」
「そうよ。不動産屋さんには事情を説明して、購入しないって伝えておいたから」
「そんな…」
「本当にお金を支払う前にあんたの本性が知れてよかったわ。もし購入した後だったら、大変なことになってたでしょうね」
「なんでそのことを言わなかったんだよ」
「あんたが勝手に誤解をしてただけでしょ。私が訂正する必要なんてないわ。ただ、すんなりとマンションの契約解除にも応じてくれたし、そういう意味では良かったなって思ってる」
「待てよ。それじゃあ、俺は家がなくなるのか」
「とりあえずマンションからは出ていかないといけないわね」
「ふざけるなよ。こんなことしていいわけないだろ。なんで俺から家を奪うんだよ」
「そんなことしてないから、あんたが勘違いしてただけよ。でも、あの家はまだ誰も手をつけてないと思うから。住みたいなら、今から契約してくればいいんじゃない?」
「ふざけるな。そんな金払えるわけないだろ」
「じゃあ、さおりさんの家に転がり込んだら、そこで2人のこれからを話し合いなさい」
3日後。
「かず彦さん、ちょっといいかしら?」
「もう俺たちの関係は終わってます。だからあなたと話すことなんて何もないですよ」
「私もあなたたちのことに口出しするのは良くないと思って我慢していたわ。でも、やっぱりどうしても一言言いたくてね」
「手短にお願いしますね。こっちはあなたの娘のせいで大変なんです。新しい家を見つけないといけないので」
「そもそも、あなたが浮気なんてするのが良くないのよ」
「夫婦のことなんで、口出しは無しでお願いしますよ。別に俺だって浮気をしたかったわけじゃない。ただ、俺は幸せになりたかっただけなんで」
「あの子だってそうよ」
「あいつは別に俺のことなんて何とも思ってなかったですよ。自分が仕事ができて稼げるからって、常に偉そうな態度でこっちに接してきてましたから」
「美和がそんなことをするわけないわ」
「あなたは美和の本性を知らないんですよ」
「あなたこそ、美和の何を知ってるの?」
「そりゃあ、あんたは良かったでしょう。娘が金を稼いで家まで買ってくれるんだから、自慢の娘って感じでしょうよ。でも、俺からしたら決していい嫁ではなかった。あいつのせいで俺は…」
「美和はとても家族思いの優しい子よ。それにマイホームだって、最初に言い出したのはあなただったはずよ」
「それは確かにそうですけどね」
「あなたが庭付きの広い家に住んで幸せな家庭を築くのが夢だって言ったってね」
「だから何ですか?」
「あの子が家を買ったのは、あなたを支えたいという気持ちがあったからよ」
「俺を支えたい?」
「美和は1度失敗してるの。それは聞いたことありますよ」
「それから浪人をして、無事に第一志望の大学に合格をしたんだけど、単に浪人をするってだけでも、やっぱりお金はかかるのよ。予備校のお金もそうだし、受験もかかるしね。うちは共働きだったけど、経済的に豊かじゃなかった。あの子はそんな私たちに負担をかけてしまったことをずっと心苦しく思ってたのよ。特に、私が昔から大事にしていたネックレスを売って生活費を捻出してたのを知った時は、涙を流して謝罪をされたわ」
「そんなことがあったんですか?」
「だから、あの子はどんなことがあっても家族を支えていこうと思ってるの。あなたが仕事のことで悩んでたのも知ってた。だから、もしどんなことがあっても家さえあればどうにかなると思って、家を買うことを決めたの」
「それなのに、あなたはそれで新しい家に住めなくなって、お母さんは怒ってらっしゃるんですね」
「そんなことはどうでもいいの。そもそも偽体住宅を提案したのはそっちでしょ。私たちの家がどうこうなんて、別に気にしてないわ。私はそんな家族思いの美和を裏切ったから、あなたに怒ってるのよ。あなたのことをどうにかして幸せにしようと、美和は仕事を頑張ってたの。それなのに、あなたはそんな美和の気持ちを踏みにじった。私はそれが許せないのよ」
「あなたがどれだけ怒っても、俺には関係ないです。これで気が済んだのなら、もう連絡してこないでもらえますか?」
「そうさせてもらうわ。お願いだから、2度と私たちの前に現れないでね」
3日後。
「お母さん、さおりさんと話をしました」
「はあ?何よ、急に」
「さおりさんですよ。かず彦の浮気相手の女性です」
「それが何よ?」
「浮気をしてたということで、慰謝料を請求すると伝えさせてもらいました」
「それが何なのよ」
「さおりさんがその時に逆切れなのか何なのか分からないんですけど、私の方がかず彦に愛されてたとか言い出したんです」
「それは事実じゃない?」
「そうかもしれませんね。それ自体は別にどうでも良かったんですけど、1つ信じられないことを言ってたんですよ。さおりさん、お母さんとの面識があったと言ってたんです」
「うん。そうね」
「認めるんですね」
「それが何よ」
「話を聞いたら、実家でお父さんも含めて4人でよく会ってたらしいですね。かず彦、たまにお父さんが病気でお見舞いに行くとかそう言って帰ってましたけど、あれは全部浮気相手と会うための嘘だったんですね」
「そうそう」
「あなたもその嘘に加担してましたよね。電話でお父さんが体調を崩したとか連絡してきたりしてましたもんね」
「何が悪いのよ。息子のためだから当然でしょ」
「悪いに決まってますよ」
「あんたに説教されたくなんてないわ」
「説教なんてしませんよ。その代わりに、慰謝料を請求させてもらいます」
「はあ?慰謝料?」
「あなたはかず彦の浮気を積極的に手助けしたでしょう。つまり、共同不正行為の当事者ということです。だから、あなたにも慰謝料を請求させてもらいます」
「なんで私があんたに金を払わないといけないの?」
「それだけのことをしたからですよ」
「私は親として当たり前のことをしたまでよ」
「当たり前のこと?」
「そうよ。あの子はずっとあんたの夫として苦しんでいたの。私に電話で辛いと話していたわ。あんたはかず彦を全く愛さず、自分の親ばかりを大切にしてたからね。そんなかず彦が好きな人ができて、その人といる瞬間だけが幸せなんだって言ってたの。だったら、その手助けをするのは親として当たり前でしょ。私がお腹を痛めて生んで、人生をかけて育てた子供なの。その子が不幸なんて、あってはいけないことよ」
「だから、あなたは手助けをしてたんですね」
「そうよ。何も悪くないわ」
「そんな言い訳は通用しません。それに、私は親と同じくらいかず彦を大切に思ってました」
「勝手に偽体住宅を買おうとしたくせに」
「言い出したのはかず彦です。まあ、それは私を騙すつもりだったみたいですけどね」
「そうなの?あなたもかず彦の口車に乗せられてたんでしょうね」
「だとしても、あなたのやったことは悪いことです。だから、慰謝料をしっかりと払ってください」
「なんで?」
「それと、息子が悪いことをしようとしてるのなら、叱って止めてください。それが親としてやるべき当たり前のことですよ」
10分後。
「かず彦、離婚届は実家に送ればいい?それともさおりさんの家がいい?」
「実家でいいよ。さおりの家をお前に知られたくない。何されるか分かったもんじゃないからな」
「別に何もしないわよ。慰謝料はもう請求するし。それを払ってくれたら問題ないわ」
「あいつと連絡を取ったんだろ」
「ええ、色々と話をしてくれたわ。謝罪の言葉は1つもなかったけどね」
「当たり前だろ。謝罪なんてする必要はない」
「でも、あの子は気をつけた方がいいわよ。感情的になると、余計なことを話しちゃうから」
「余計なこと?」
「お母さんにもさっきその話をしてたんだけどね。面白いことを言ってたのよ」
「なんだよ」
「あなたよりも私の方が愛されてる。プレゼントだってたくさんもらったって言っててね。50万もするブランドものの鞄を買ってもらったって言ってたわ。あなたの稼ぎでよくそんなものをプレゼントできたよね」
「貯めてたんだよ。悪いかよ」
「貯金ってこと?あなたと私は口座を同じにしてたのよ。どうやって貯金なんてしてたの?別口座を作ってたってこと?でも、私ちゃんと管理してたけど、変に給料が減ったりとか、引き落としされてたとか、そんなのはなかったよ」
「そんなのはどうでもいいだろう」
「50万って、確か私があんたに渡したお金と一緒よね。実家に白ありが出て、駆除とか回収とかしないといけなくてお金がかかるから援助してくれって言ってたの、覚えてる?」
「それが何だよ」
「あなたはそのお金を不倫相手のために使ったんでしょ?だって、そうじゃないとプレゼントできないもんね。額だって同じなんだから、言い逃れはできないわよ」
「してないんだよ」
「2人の金だろ。俺が何に使おうが自由のはずだ」
「ふざけないで。騙してお金を取っていいわけないでしょ。このことは警察に被害届を出させてもらうから」
「はあ?お前、そんな大事にするなよ」
「詐欺なんだから大事なのよ」
「俺はずっとお前のせいで嫌な思いをしてたんだ。それの慰謝料だと思って受け入れてくれよ」
「何が嫌な思いよ。私は何もしてないわ」
「お前じゃない。周りの連中だよ」
「何それ?」
「お前がエリートですごい稼いでることを会社の連中とかは知ってたから、それで馬鹿にしてきたんだよ。逆玉とか、紐とか、ずっと言われてたんだ」
「あなただって稼いでるんだから、紐じゃないでしょ」
「そんなの分かってるよ。でも、お前の方が俺の何倍も稼いでるし、俺の稼ぎなんかなくても生活はできてた。それを知ってるから、見返せなかったんだよ」
「そんなの私は知らないわ。見返すなりなんなり、あなたがやればいいだけよ」
「そんなチャンスすら俺にはないんだよ。ただ目の前の仕事をこなすしかできないんだ。会社自体も小さくて、ここで成功して出世しても、お前の足元にも及ばない。それを知りながら仕事をしてた俺の気持ちが分かるか?お前と言っても、俺は惨めなだけだった。だから、さおりが俺には必要だったんだ。あいつといる時間だけが俺の生きた時間だった。さおりしか俺には頼れるところがなかったんだ」
「だから、どうしてもあいつの気を引きたくて。それで私を騙して金を取ったってわけね」
「それの何が悪い?」
「悪いに決まってるでしょ。お金を稼ぐ方法なら世の中にいくらでもある。今の会社が無理そうなら、転職という選択肢だってある。なのに、あなたは何もせずにただ私を逆恨みしてた。しかも、不倫を正当化するようなことを言って。そんなにさおりさんが好きなら、さっさと私と離婚して一緒になればよかったでしょ。それもせずに、私から家を奪おうとするなんて。あなたはプライドが高いくせに、何一つ行動に起こさない愚か者よ」
「こんなに惨めだと思ってるのなら、見返すために何か一つでもやればよかったの。でも、そんなことして成功できるかどうか分からないし」
「私だって受験で失敗して悔しい思いをしたし、家族にたくさん迷惑をかけた。でも、そんな時に両親は私を支えてくれた。だから、私も何があっても家族を支えるつもりだった。そんな夫婦でありたいと、私は思ってたわ」
「そんな風に思ってたのか」
「でも、あんたはそんな私を裏切った。そして、お金を騙し取っていた。そんなことをする人間を許すことはできない。だから、あなたを訴えさせてもらうから。もちろん、お母さんもね。お母さんからも白ありが大変だって電話もらってたし。これは2人でやった詐欺よ」
「悪かった。警察だけは勘弁してくれよ。一度話し合いをしよう。そこで直接謝罪をする。母さんも一緒だ。だから、警察だけはやめてくれ」
「いやよ。そんな未練がましく時間稼ぎしないで。私もあんたと一緒で、無駄な時間を過ごすのは嫌いだから」
その後。
それから2人とも詐欺で警察に調書されました。ただ、逮捕までには至らず、その代わりに私は民事で2人を訴えて、不当利得返還請求をしました。結果、2人とも慰謝料と合わせて払わないといけなくなり、金銭的にかなり追い込まれることになったそうです。特に大変だったのはかず彦で、転がり込む形でさおりさんと一緒に暮らしていたそうですが、稼ぎのほとんどを私への支払いに当てないといけなかったので、お金に困って、さおりさんの鞄を勝手に売っちゃったみたいです。それだけお金に困ってたのかもしれませんが、当然さおりさんは激怒して、家から追い出したそうですね。住むところをなくしてお金もないので、今はネットカフェで寝泊まりしながら、ギリギリの状態で日雇いの仕事をしているそうです。いつまで経っても自力でどうにかしようとせずに、人のものに手をつける癖は治りそうにありませんね。そんなんじゃ幸せにはなれないと学んでほしいです。
ちなみに、お母さんたちですが、あれから本当に白ありが家に出て、多額の修繕費用を払わないといけなくなったそうです。貯金を切り崩して何とか支払ったようですが、そのせいで貯金は0に。結果、将来に不安を抱えながら生活を送っているそうです。
一方の私は、両親と3人で生活をしています。引っ越し先を考えた時に、どうせならと3人で住めるマンションを選んで借りました。離婚したので偽体住宅は広すぎるなと思い、購入は断念しましたが、マンションならちょうどいい感じで生活ができています。長年連れ添ったかず彦に騙されてとても辛かったのですが、やはりそんな私を支えてくれたのは両親でした。だからこそ、私にとって掛け替えのない存在の両親のために、これからは仕事を頑張って支えていくのが今の私の目標です。



